もしもMyGoのそよが百合営業カフェでバイトを始めたら   作:りょーへい

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56.  種が割れようとも

 

 

 せっかく純加さんと行きつけのカフェで、お気に入りの紅茶を楽しむところだったのに。

 予期せぬ人たちが現れたことによって穏やかな空気は一変した。

 その緊迫していた空気は私の愚痴みたいな発言で、さらに重くどんよりしたものへと悪化してしまう始末。

 それでも私は純加さんの優しさに縋って、俯いたまま黙って反応を待っていた。

 

(嫌われそうになったら全力でなんとか取り繕おう。本気の私ならどうとでもできるはず——)

 

「……そっか。そよちゃんにも、許せない人っているんだね」

「それって……もしかして、純加さんにもそんな人がいるんですか?」

 

 受け入れるとも、拒絶とも違った。

 共感してくれるとは思ってなくて、驚きで顔を上げる。

 誰とでも仲良さそうなこの人にも、許せない人っているんだ。

 

(……そっか。そういうことがあったから、純加さんはあのときCRYCHICの話を親身に聞いてくれたのかな? 共感できる部分があったから、優しく受け止めてくれたのかな?)

 

 純加さんは苦笑い気味だけどそれでも笑顔で、場を少しでも和ませようとしてくれる。

 

「あんまり人に言えないことなんだけどね。今では結局あたしが悪かったって思ってるし」

「純加さん……」

 

 私に同情するつもりしかなかったのか、それ以上純加さんは話そうとはしてくれなかった。

 怒りが消えないほどの思いをしても、相手より自分を責めてしまう純加さんを美しく思うし、哀しくも思うけど——それ以上に悔しく思うことがある。

 

 私は他の人には絶対言えないことでもこの人になら、って(さら)け出してきた。

 でもこの人は抱えてるものを、私には吐き出そうとはしてくれない。

 そして、おそらくあいつは共有してるんじゃないかと、なんとなく察してしまうから。

 絶交寸前まで追い込んだあいつにまだ負けてるみたいで、煮えたぎるような衝動に襲われる。

 その衝動をそのままぶつけるのはできないけど、全て胸にしまうこともできなかった。

 

「……私は、純加さんにそういう話を聞いてもらって、救われました。だから、今度は純加さんに話してもらえるように。そのときのお返しができるように、私頑張りますね♪」

 

 精一杯の笑顔で、心からの感謝とあなたの助けになりたいという本音を言葉にする。

 そんな私に、純加さんはさっきよりはいくらか明るい笑顔を向けてくれた。

 

「聞いても何にも面白くない話なんだけどね。でもそよちゃんの気持ちも分かったから。——いつかね」

「……はい」

 

 でもその笑顔は私の一番好きなものじゃなかった。

 どこか元気なさそうな、心からの笑顔じゃない純加さんを見るのは、やっぱり辛い。

 なぜなら、その原因を作っているのは他ならぬ私だから。

 

 最近純加さんと一緒にいるようになって、いかに純加さんがリーベを大好きかよく伝わって来た。

 もう2年以上続けてること、店の立ち上げからいて、研修やオープン後の繁忙期を経験してきたこと。

 ……リーベの、仲の良い人間関係がサロンの楽しい雰囲気を作り上げてるんだと話してくれて。

 そういうところが気に入ってること。

 それを、他ならぬ私が壊してる事実に胸がズキッと痛む。

 

(……何を今さら……こんなこと、最初っから覚悟してたでしょ。最後には純加さんの笑顔を私が取り戻せばいい、この程度で揺らいでいれない!)

 

 罪悪感のような、心にまとわりつく嫌な感情から逃げるために無理やり話を変えに行く。

 

「純加さん。次の休みも、もしよかったら……」

 

 諸々振り切るために、勢いで次のデートの約束も取り付けにかかる。

 一応予定がないか確認しようとスマホを開くと、今まで一度もやり取りしたことのない人物からメッセージが届いていた。

 

 その文面を目にして、血が凍るような感覚に陥る。

 さっきまでの感傷も相まって私の指は震えてしまう。

 

(……でも)

 

 思い直して素早く返信を送り、純加さんに断りを入れる。

 

「純加さん、ごめんなさい。急に用事が入ってしまって……帰らなきゃいけないんです。私から誘っといて本当にごめんなさい!」

「そっか……気にしないで! そよちゃんがあたしを元気づけようとしてくれた気持ちだけで十分嬉しかったから!」

「……純加さん。私……」

「ん?」

 

 このまま純加さんと別れたら後悔しそうと思ったら、私の口は勝手に動いていた。

 あいつに取られたくない。私だけを見て欲しい、という気持ちが抑えられない。

 

「さっきも言いましたけど、私は純加さんにたくさん助けてもらって、いつも頼りにさせてもらっていて。そんな純加さんのことが……す、好き、だなって思ってますっ!」

 

 突拍子もなく告白みたいなことを言い出してしまって、また純加さんを唖然とさせてしまった。

 私は顔中が熱くて、たどたどしい口調になるけど、なんとか軌道修正を図る。

 

「……えっと、そういう人もいるから、ちょっとでも元気になってくれればいいなって思って……あはは……」

「そよちゃん……ありがと! あたしもそよちゃんのこと好きだから、両想いだね!」

「りょ、両想い……はい! 嬉しいです♪」

 

 純加さんは冗談で言ってるんだろう。

 そうだとしても、自分で思っていた以上に単純らしい私は嬉しかったし。

 これからのことに恐れず臨めるくらいの元気を、私はもらったんだ。

 

 

 

 カフェで精算した後純加さんとライブハウスを出てから別れて。

 スマホを取り出し、もう一度さっきのメッセージを見る。

 

 『ひめちゃんと矢野さんの件、全部分かりました。話があるので今日の18時にリーベの裏口に来てください』

 

 この文面から、本当に全部バレたことを察した。

 スマホの画面を虚な心境で眺めてるとポツ、と雫が落ちてきた感覚を受ける。

 どうやら小降りでもとうとう雨が降ってきたらしい。

 待ち合わせしたときと違い、私の心は薄暗く曇る天気と同調してるみたいだった。

 

(昨日美月ちゃんのこと聞き出そうとしてきたときから雲行き怪しかったけど、まさか昨日の今日でこうなるなんて……)

 

 この段階でバレたら、本来ならもう私の計画は失敗なんだろう。

 そしてリーベ全体に、純加さんに知られたらもう終わりだ。

 今まで私が優しくしてもらえたのは、みんなに優しい良い人だったから。

 リーベの人間関係を大事にする純加さんの味方だったから。

 そんなやつが、実は純加さんの大事なリーベをめちゃくちゃにした犯人と分かれば、当然もう受け入れてはもらえない。

 純加さんにとって敵でしかない私は、リーベから排除されるだろう。

 

(でも……ううん、だからこそ負けられない。譲れない。……許せない)

 

 まだ、可能性はある。それが薄いものだったとしても。

 何もせずに彼女から逃げることだけは、絶対できない。

 昨日純加さんから聞いたとっておきの情報もある。

 ただ一方的に言い負かされる展開にはならない。

 

(……むしろいい機会かも。いかに自分が自分勝手だったか。思い知らせてあげなきゃ……)

 

 

 自分の悪行から目を逸らすため攻撃的に意気込んで、私はここ1か月で随分慣れ親しんだ場所へ赴き始めた。

 

 

 

 

 

 所変わって、果乃子たちがいたカラオケ。

 果乃子が出て行ってから、陽芽は美月が落ち着くまで寄り添い、その後そよとのやりとりについて聞き出した。

 

 

 

「陽芽、ありがとう。傍にいてくれて。私はあんなに酷い態度とってきたのに……」

「それはお互い様だし、もういいじゃん」

「やっぱり、好きになったのがあなたで本当に良かったわ」

「い、いちいちそんなこと言わなくていいから! ……それにしても、まさか夏八木さんに陰でそんなこと言われてたなんてね」

「間宮さんを疑ってるわけじゃないけど、正直まだ飲み込めてないわ。と、いうより……」

「認められない?」

「……認めたくないわ」

「まぁそうだよね。矢野はここんところずぅーっと夏八木さんと仲良しだったしなぁー」

「でも実際は私の一方通行で、向こうは……そよさんは、違ったみたいね……」

「………………」

「でも、分からないのよ」

「何が」

「そよさんはどうしてこんなことしたのかしら。嘘までついて私達の関係を壊そうなんて、普段の彼女から全く想像できないわ」

「……その辺果乃子は心当たりあるみたいだったけど」

「それを話そうとしなかったのも分からないのよ。……やっぱり、私はいつも大事なことが見えてないのね……」

「もういいじゃん。分かってなくったって」

「いえ、あのそよさんがここまでするなんてやっぱりおかしいわ。もしかしたら何か誤解があったかもしれなのに——」

「——いいんだよッ!! 今はっきりしてるのは、夏八木さんが……あいつが! 矢野を騙した! そして私たちの関係を壊そうとした! それだけ分かってればいいんだよ!!」

「…………でも、もし何か事情があったら——」

「本気で言ってるの!? 果乃子が気づかなかったら、私たちずっとあのままだったかもしれないんだぞ! お前はそれでもよかったっていうのかよ!?」

「良いわけないでしょう!」

「……事情も勘違いも無いよ。私と果乃子がキスしてたって言ったり、恋人みたいなんて言ったり。矢野がこうなるのを見越してわざと煽ったようにしか見えないよ。その、矢野が……私のこと、好きっていうの、利用してさ」

「…………」

「矢野があいつのこと信じたいったいうのは分かったよ。でも、私はもう信じられない」

「陽芽……」

 

 (何よりも……矢野の真っ直ぐで不器用なところに付け込んで、そのくせ何食わぬ顔で矢野の信頼を利用して、矢野の気持ちを弄んで……。それだけは、絶対に許さない)

 

「……信じたい、というより。理解できないのよ」

「え?」

「ここまでひどいことを意図してやるには、相応の目的があると思うの」

「……」

「でも、そこから先が全く想像できないの」

 

 

 

「私達の関係を壊してまで、彼女は何を求めてたのかしら……?」

 




※後書き※

次の章は視点がコロコロと入れ替わります。
いつも以上に読みづらいかと思いますが、ご了承頂きたいです……
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