もしもMyGoのそよが百合営業カフェでバイトを始めたら 作:りょーへい
「待ってましたよ。全部話してもらいますから——夏八木さん」
急に呼び出したことに何の詫びもなく要求してくる非常識女。
そんなやつと顔を合わせて早々、私たちは視線をぶつけ合った。
階段を上って近づく私は冷ややかな笑みで、待ち構えるあいつは愛想のない真顔で。
お互い話し合いが穏便に済まないだろうと察するに十分すぎる敵意を交換し合った。
裏口前の踊り場まで上り、ようやく見下ろされなくなった私は、まず会話の主導権を掌握しにかかる。
「というか話をするにしても、雨降ってるしどこか室内の方がいいんじゃない? あ、近くのワックに行く? 最近純加さんとよく——」
「あなたが全部仕組んだんですよね?」
いきなり本題をぶちこむ向こうが無粋なのか。
この期に及んで、なるべく穏便になるよう図る私が温いのか。
もうどっちでもいい。向こうがその気なら乗ってやるまで。
「全部って?」
「……ひめちゃんと矢野さんが仲違いするよう仕組んだことに決まって——」
「それだけ?」
とぼけても無駄なことは捨て置く。
私がここに来た目的は、誤魔化すことなんかじゃない。
「陽芽ちゃんたちのことだけで『全部』って言っちゃうの? それ以外については気にもしてない感じかな?」
「……私とひめちゃんをくっつけることで、純加さんとの仲を壊そうとしましたよね?」
純加さんと特別な関係
でも目つきだけは、さっきよりも力んでるように見える。
「それって、私のせいなの?」
「…………」
「まぁいいよ、
身勝手に恋愛してきた女の急所をまず1つ突いて反撃すると、引っ込み思案で内気そうなヤツにしては珍しく、本気の怒り顔で声を張り上げてくる。
「リーベの人間関係めちゃくちゃにしてまで、ひめちゃんと結ばれようなんて望んでません!」
「よく言うね。陽芽ちゃんと美月ちゃんを離すために姉妹制度潰そうとしたくせに」
「……!」
それを知られてるとは思わなかったのか、自分のことを棚上げして威張る厚顔無恥女は顔を強張せた。
いざというときのために弱みを握れないかと、さりげなく純加さんから探ってたら聞き出したとっておきの情報だった。
この話は正確に言うと少し違う。
ブルーメ選挙という人気投票イベントで純加さんが勝ったら、特権を使って姉妹制度を廃止するようお願いした程度の話だった。
その目的までは聞き出せなかったけど、どうせ自分の恋のために陽芽ちゃんと美月ちゃんを引き離そうとしたに決まってる。
やったかやれなかったかの差があるだけで、人間関係を壊す意思のあったこいつは私に何か言えた立場じゃない。
「そもそもあなたは陽芽ちゃんが好きなんでしょ? なのにそれを純加さんにずっと受け入れさせてきたんだよね? あなたを好きでいてくれてる今も、前に恋人関係を結んでた頃さえも。ねぇ、どれだけ勝手なの? 純加さんのことなんだと思ってるの?」
「……」
どうしようもなく漏れ出る怒りが声にこもる。
その衝動に身を任せ、苦々しい顔で沈黙した敵の隙へ、さらに踏み込んでいく。
「これからもそんな扱いするくらいなら純加さん譲ってよ。あなたは陽芽ちゃんと結ばれたらそれで満足なんでしょ?」
「……違いま——」
「違わないよ。だってあなたにとっての純加さんは、陽芽ちゃんへの想いを聞いてもらうだけの存在でしょ? そのためだけに姉妹になったんでしょ? そんなの……純加さん自身のことなんてっ、どうでもいいって思ってる証拠じゃない!」
「違う……」
「何も違わないじゃないっ!!」
溜め込んでいた怒りがついに爆発して、普段の私じゃ考えられないほど強い口調になる。
「姉妹なんて、サロンだけの嘘偽りでしかない! アンタは純加さんを都合よく利用してるだけで、アンタを好きな純加さんは我慢して付き合っても何にも見返りは無い! アンタと純加さんの関係は歪で間違いだらけの紛い物で! そのしわ寄せを食ってるのは、全部純加さんでしょ!?」
「違う!」
「違うっていうなら今すぐ純加さんから離れて陽芽ちゃんに告白してよ! ——あぁ、美月ちゃんに勝てないからできないんだ。だから純加さんを保険みたいに使って自分を慰めてるんだよね! いい身分だね、よかったね、そんな自分専用のキープみたいな人がいて! その人がいくら裏で辛かろうが泣こうが、アンタにはどうでもいいもんね!」
パァン! 乾いた音と一緒に、左頬に痛みが走った。
急に詰め寄ってきたそいつが腕を横に振りかぶったと思ったら、なんと叩いてきたらしい。
大人しい風を装って、とんだ暴力女だこと。
「違うっ! 私は純加さんのこと、そんな風に思ってない! 私にとって純加さんは……」
「——何が違うの? 暴力まで振るって、図星の証拠じゃないっ!」
私は暴力女の横っ面へ平手をお返しする。
あまりにも慣れない行為だから、無意識にだいぶ手加減してしまったけど、負けない姿勢は示せたはず。
対してそいつは叩かれた痛みに顔を歪めながら、尚も喚いてくる。
「違う、違う! 私は純加さんが一番好きなわけじゃないし、もう付き合ってもいない! 姉妹になった経緯から歪だった! でも、私と純加さんの関係が紛い物っていうのは、違う!」
「そこまで認めて何が違うって言うの!?」
殴ったことで更に攻撃性が増しているんだろう。
私は同じ言葉を馬鹿みたいに繰り返す幼稚女の胸倉をつかんで詰め寄る。
往生際悪く認めようとしないそいつに、苛立ちが募るばっかりだ。
「私たちはそれでも姉妹だから! 仲睦ましくなくても、お互い恋愛として想いあってなくても、それでも姉妹として一緒に仕事して、ぶつかりあって、その度に話し合って乗り越えてきた! 理屈じゃない、歪だらけ。それでもお互いを大切に想って繋がっている、特別なんだ!」
「…………」
聞こえは良いように思う。分かりやすく仲良しじゃなくても、本当は信じ合ってる関係。
でも散々好き勝手しといてのソレはもはや綺麗事でしかなく、この場を切り抜けるための虚言にしか聞こえない。
そんなので納得すると、まさか本気で思ったんだろうか。
怒りの火にガソリンをぶちまけられて、憤怒の炎と燃え上がる。
「……理屈じゃない? お互いが大切な、特別? ……だったらなんで純加さんを選ばないの!? おかしいでしょ!!」
そこまで言っておいて私と同じ土俵に立ち恋敵にもならない怨敵を突き飛ばす。
そいつが尻餅ついたところに、すかさず馬乗りする。
自分に都合良く道理を捻じ曲げ戯言を吐く顔へ、両手交互に平手打ちし続けた。
「イ゛ッ……やめっ……!」
苦悶の表情を見せられても、止めるどころか更なる燃料にしかならない。
思い知らせないと気が済まなかった。
いかに自分だけ卑怯なことをして、周りの人間がどれだけ犠牲になってるかを。
「そうやって耳障りの良い言葉に逃げてるけど、アンタは純加さんにもらった分何か返せてるの!? 裏で自分の恋が報われずに辛い思いをしてる純加さんを、救えるだけのお返しができてるの!?」
「ヴッ……それ、はっ……」
「返せるわけないよね! だってあんたは最後には陽芽ちゃんを選ぶ、ただの卑怯者なんだから! 実際ちょっと陽芽ちゃんと上手くいきそうになったら、純加さんにクロイツ投げ返そうとしたクセに! どの面下げてそんな綺麗事吐くの!?」
「グッ!?……あのときの、ことまでっ……」
「ふざけるのもいい加減にしてよっ!! ……なんでこんな自分勝手なやつに……純加さんは……」
「……ッ!」
「譲ってよ! 純加さんを大切に思うならなおさら! 自分に都合良く縛ってないで! 私なら純加さんをそんな悲しい目にあわせない! アンタと違って純加さんだけを愛する! 私が純加さんの支えになって、笑顔を守る! 絶対に……アンタみたいには傷つけないっ!!」
「…………」
何発はたいたか分からない。いつ眼鏡をはたき飛ばしていたかも覚えてない。
そのうち私は相手が何も言い返さなくなったことに、そして顔から強気が失われてきてることに気付き、絶好の好機を確信する。
馬乗りの状態から体を倒して覆い被り、口を耳元に近づける。
そして声色を思いっきり優しいものに変えてささやく。
「陽芽ちゃんと美月ちゃんを離すお手伝いだって、私ならしてあげれるよ? 果乃子ちゃんが協力してくれればもっと上手く。そうすれば今度こそ陽芽ちゃんは果乃子ちゃんだけの特別になる。ね、いい話でしょ? 下手に2人のよりを戻したら、いつか本当に奪られる可能性だってあるんだよ?」
「……ひめちゃん……」
本人も考えなかったわけじゃないんだろう。
切なげに思い人を呼ぶ悲劇のヒロイン気どりに、口元を完全に歪ませ畳みかける。
「そうだ! 私が果乃子ちゃんの完全な味方になるよ。あなたを好きな純加さんじゃ、嫉妬して味方に徹してくれないでしょ? だから、ひめちゃんとの関係を守るために私を利用して? そうしたらお互いの望みが叶うの。ね、私たちは協力し合うべきなんだよ」
「……」
今言ったことを本当に守るつもりなんてさらさらなかった。
せいぜい利用するだけ利用して、できれば手酷く裏切って可能な限り痛い目を味合わせてやる。
そんな闇より昏い企みを胸に秘めながら立ちあがり、これから私に都合よく動いてくれる人形へ手を差し伸べ、優しく微笑む。
「さぁ、果乃子ちゃん。まずは仲直りしよ? それから陽芽ちゃんを取り戻すための、作戦会議だよ~♪」