もしもMyGoのそよが百合営業カフェでバイトを始めたら   作:りょーへい

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59.  私と純加さん

 

 

 (この人……本当に本気で、純加さんのことが好きなんだ。いついかなるときも猫被ってたくせに、ここまで感情的になるくらい……)

 

 顔面を叩かれ続ける苦痛に気が弱り、怒声でぶつけられた言葉のいくつかは正論という事実に心が弱り、私は精神的に落ちていた。

 彼女がいかに純加さんを想っていて、純加さんを身勝手に振り回す私をどれだけ憎悪してるか。

 肉体的にも精神的にも思い知らされて、抵抗も反論もできないくらい追い詰められる。

 

 (バチがあたったのかな……。何度も純加さんを裏切って傷つけた報いで、今こうなってるのかな? リーベの人間関係がめちゃくちゃになったのも、元を辿ったら私が原因で……私が、夏八木さんをここまで歪ませたから。だとしたら……)

 

 自分の非を認め始めると、重た過ぎる罪悪感に押し潰されそうになって。

 それから目を背けるように、悪魔の誘惑に考えが染まっていく。

 

 (もう、いいのかな。この人の言う通り、矢野さんに勝てるかわからないし。どう言い繕ったって純加さんのことは身勝手だし。純加さんだって……夏八木さん方が、色々良いに決まってるよね……)

 

 私がひめちゃんと結ばれて。

 純加さんが正しい恋愛をして幸せになれるなら。

 

 それでも見慣れた笑顔を張り付かせて手を差し伸べるこの人が、詐欺師にしか見えなくて顔を逸らす。

 逸らした先には、2階と3階を繋ぐ階段が見えた。

 今ここにいる裏口前の踊り場も含めて。

 純加さんと何度も話してきた、私たち2人のお決まりの場所だった。

 

 

 

 純加さんに会うまで、私の世界にはひめちゃんしかいなかった。

 ひめちゃんしか視界に映らなくて。ひめちゃん以外はみんな知らない人だった。

 ひめちゃんを追ってリーベに入ったときもそれは変わらない。

 実際リーベに入ってから半月近く経っても、純加さんだって私にとっては『知らない人』でしかなかった。

 

 でも、その『橘さん』が私に絡んでくるようになって。

 この階段で、姉妹について聞いたり、初めて頼み事をしたときから。

 ひめちゃんしかいなかった世界が変わり始めた。

 

 私達の関係が大きく変わったのはあのとき。

 私の恋愛を知った橘さんがそれを止めようとしてきて、喧嘩みたいになったときだった。

 もともと私はひめちゃんに告白も何もせず、この恋を秘めたまま友達として寄り添うだけでもよかったのに。

 過去に恋愛でリーベを壊されたあの人は、私にその恋心まで捨てさせようとしてきて、敵としか見れなくなった。

 今思えば。ひめちゃんへの恋心だけは捨てられない私と、サロンに恋愛を持ち込むのだけは認められないあの人とで、ぶつかるのは当然だった。

 

 でも後日なぜかあの人が謝ってきて、私の恋愛を止めなくなって。

 何を考えてるか分からなくなった私は階段で待ち伏せした。

 そこで話を聞いて、話をした結果、あの人は私の特別になるって言ってくれた。

 

 ひめちゃんへの恋心を誰にも話せず、表にも出せなくて。

 そのまま無かったことになるんじゃないかと泣き出した私を抱きしめながら。

 

『あたしが知ってれば無かったことにはならない!』

 

 そう言って、あの人はひめちゃんの話を聞いてくれるようになった。

 恋愛が嫌いで、恨んでるだろうに。私の恋を守ろうとしてくれた。

 姉妹という特別な関係になってまで、私に寄り添おうとしてくれた。

 それから私は『純加さん』と呼ぶようになった。

 それが春の頃だった。

 

 夏にはひめちゃんが辞めそうになったとき、純加さんを一番に頼って。

 ひめちゃんを連れ戻す手助けをしてくれた。

 私はひめちゃんがいないと本当に1人だったから。

 辛そうなひめちゃんを助けるために誰かに頼れたことが、本当に嬉しくて。

 その頃から、何かと助けてくれる純加さんを視界に映すことが増えた気がする。

 

 9月には、階段(ここ)で私から付き合おうって言ったんだ。

 前までなら、ひめちゃん以外と恋人関係になるなんて天地がひっくり返ってもありえなかったのに。

 必要だと思ってお願いした。恋愛絡みでおかしくなっていた純加さんに元通りになって欲しかったから。

 でもそれは。またひめちゃんの話を聞いてもらいたい、助けてもらいたい、という自分のためでしかなくて。

 だから間違えた。結果的に純加さんを裏切って、傷つけてしまった。

 

 その報いなのか、純加さんと付き合えと唆してきた悪い女に襲われかけた。

 体を守るために、心の大事な部分を無理矢理引きずり出された。

 でも、それは純加さんの忠告を無視した私の自業自得でしかなかった。

 なのに、純加さんはそんな馬鹿な私を助けるために駆けつけてくれて。

 その夜、私の間違いを叱って、優しく正してくれた。

 

 全てを知った純加さんは、恋人関係を解消してきた。

 そのまま自分の気持ちに蓋をして、心を殺そうとしていた。

 そんな純加さんは間違ってるって私は思ったから。

 今までたくさん助けて貰って、守ってもらった私が、今度は純加さんに返していくために。

 朗読劇の後、階段で純加さんが出てくるのを待って。

 

 階段(ここ)で、宣言したんだった。

 涙声の純加さんを、初めて私から抱きしめながら。

 私が純加さんの恋を守ると、誓ったんだ。

 

 

 

 だって。私の世界にいる大事な人は、もうひめちゃんだけじゃなくなっていたから。

 

 

 

 (……何考えてたんだろう、私)

 

 どこまでも身勝手に逃げようとする自分の心に喝を入れる。

 体を起き上がせながら全身に力を入れて。

 これまであの人と積み重ねてきた大切なものを守るために、覚悟を決めながら相手の方へと手を伸ばした。

 

 

 

 

 

 立ち上がった女の子はゆっくり手を伸ばす。

 俯いてるから、相手にはどんな表情しているか分からない。

 

 だから待ち構えている女の子はそれを従属の意と判断して。

 満足げに微笑みながら、その手を握ろうとした。

 

 

 

 

 

 (勝った! これでこの女はもう——)

 

 バシッ!

 反抗的に私の手が振り払われる。

 油断していた私は虚を突かれて、それが何を意味するのかすぐには分からなかった。

 

「あなたと協力なんて、お断りです。ひめちゃんを取り戻すのにあなたの手は借りない。リーベの人間関係を壊すようなやり方は、絶対しない!」

 

 ここまで言われて、ようやく向こうがまだ折れてないことを察する。

 

 (あんなに叩いて……あそこまで言って……?)

 

 何がそうさせるのか、なぜまだ自分勝手を貫こうとするのか。

 理解できなくて思ったことをそのまま呟く。

 

「……どうして?」

 

 しばらく黙った後その女が吐いたセリフは、私の神経をこれ以上なく逆撫でするものだった。

 

「純加さんの、妹だから」

「……ッ! しょうこりもなく抜け抜けと、どの口で!!」

 

 頭に血が昇る衝動のまま、胸倉をつかみかかった。

 そいつも本当に立ち直ったのか、私をつかみ返して応戦してくる。

 

「言ったでしょ!? 私が純加さんの代わりに味方になるから! そしたら陽芽ちゃんのこともうまくいくって! なのにどうしてまだ純加さんを譲らないの!?」

 

 私の視界いっぱいに映っている女は、目を閉じ一息つく。そして開かれた目は真っすぐ私を射抜いてきた。

 

「ひめちゃんは諦めない。でもあなたの手は借りない。純加さんじゃなくてひめちゃんが好き。でも私から純加さんの隣を譲ったりなんか、()()しない! 私は……純加さんがいてくれないと、ダメになるから。純加さんから離れていくまで、私は純加さんから離れない!」

「……何それ。自己中過ぎるよ、おかしいよ、間違ってるよ!!」

「私は……ただのいい子には、ならない!」

「意味不明なことばっかり……いい加減してよっ!!」

 

 有り余る怒りがついに拳を握らせてしまう。向こうも同じように殴る格好をとった。

 

 (上等だよ……今度こそ絶対に、分からせるまで止めない!)

 

 さっき以上の激しい殴り合いを覚悟しながら、拳を振り上げたときだった。

 

「2人ともやめろ!!」

 

 響いてきた大声に、私たちは同時に手を止めて声の方へ顔を向けた。

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