もしもMyGoのそよが百合営業カフェでバイトを始めたら 作:りょーへい
純加さんが黙って私の横に寄り添ってくれてる間に。
いつの間にか2人っきりになってることに気付く。
その状況を喜べるはずもなく、むしろあらゆる意味での敗北が決定した状況に、もう何もかもを諦めた。
というか傍にいてくれるのがおかしい。純加さんの立場なら誰だって、構わず放っておくだろうに。
「……どうしてあの子と一緒に行かなかったんですか?」
「いや、このままそよちゃん1人で放っておけないって」
「今のリーベがめちゃくちゃになったのは私のせいって知ってるのに、ですか?」
自分から切り出すのは流石に心が痛かった。
でも私が犯人だと察した上で傍にいてくれた純加さんに少しでも報いるため、聞きたいであろう本題に話を持っていく。
(……あ、そっか。私から詳しい話を聞き出さないと純加さんも気が済まないから残ってたんだ……)
そんな当たり前のことも気づかないくらい呆けていたらしい。
それともまさか、ここまでしでかした私を受け入れてくれる、なんて期待があったのだろうか。
いや、そこまで夢見がちなつもりはない。
こんな私に優しくしてもリスクばっかりで、何1つメリットが無いことぐらい分かってる。
「……ここに来るまでは、確かに怒ってもいたよ。あんなにひめちゃんたちの仲を心配してる素振りでいときながら、実は裏で何か仕組んでる側だったなんて。何考えてるんだろうって。そよちゃんはあたしがリーベ大好きって知ってるから、裏切られたとも思ったよ」
「……」
憤りを感じさせる硬質な声に喉が詰まって、謝ることも返事することもできない。
ズルいと分かってるのに黙ってしまった。
せめて純加さんの怒りを全部受け止めようと待っていたら、どうしてか声色は柔らかいものになった。
「でも、それよりどうしてこんなことしたんだろうって疑問の方が強くて。それを考えながら走って来たら、そよちゃんが告白してきた」
告白、という単語に今更恥ずかしくなって顔が熱くなってくる。
しかも人生初めてした告白は、非難混じりでロマンの欠片もなかった。
私の初恋は、どうしてこう何から何まで型破りなんだろう。
「あたしのことを想って、本気で怒ってるそよちゃんを見たらね、もう怒るに怒れなくなっちゃった。だからってわけじゃないけどさ、みんなに何したのかは教えて? 流石にそれは知っておきたいんだ」
純加さんの言葉全部を真に受けることは流石にできないけど。
まだ私を気遣って優しい口ぶりの純加さんに応えるためにも。
優しい態度で心を楽にしてもらったことにさえ、後ろめたさを覚えながら。
私は
みんなで遊びに行った日の夜に、純加さんたちがここで話していたのを聞いて純加さんとあいつを引き離すと決めたこと。
美月ちゃんについた意図的な嘘から始まったこと。そこからわざと陽芽ちゃんと美月ちゃんを分断するよう誘導したこと。
陽芽ちゃんをあいつに依存させて、あいつと純加さんの仲違いを狙ったこと。
あいつが純加さんと仲違いしてるうちに、私が姉妹ペアも含めてそのポジションを奪うつもりだったこと。
(いずれあいつを排除することも考えてた、とは……流石に言えないかな……)
それを言うまでもないと思っていた。——この人に幻滅されるためには。
この人に嫌われて、後腐れなく別れる。
純加さんに嫌われることが罰の1つと戒めて白状した。
「……そよちゃんが、本当に、そこまでのことを……?」
「謝って許されるとは思ってません。それでも……ごめんなさい」
「いや……今までのそよちゃんを見てきたからそんなこと言われても……信じられないっていうか……」
純加さんは怒りよりも戸惑いの方がまだ大きいらしい。
私をそんなことしない人間と思ってくれるのは嬉しいけれど、もう甘えてはいられない。
もうこの人の隣にはいることは許されやしないのだから。そんな綺麗な幻想は壊してあげないと。
純加さんが清々できない。
「実はこういうことしたの、初めてじゃないんです」
「え?」
「前にも似たようなことしたんです。バラバラになったCRYCHICを再結集させるために」
人生で唯一大切に思えた場所を復活させるために。
何の犠牲も躊躇わなかった過去の行いも話していく。
偶然会った子がCRYCHICのメンバーと知り合いで使えそうだから、優しく接して利用した。
でもその子が用済みになったあとは、自然にフェードアウトさせようと腹の中で機会を伺っていた。
だから、その子が他のメンバーとぶつかってバンドから去るように上手く焚きつけた。
さも自分たちの意思で動いてるように思わせた上で。
……これについては詰めが甘くて、失敗に終わったのだけど。
CRYCHIC解散の決め手になった子が負い目を感じていたことには気づいていた。
だからそこに付け込んで、半分以上脅しみたいな形で何度も断られていた頼み事を強要した。
結局CRYCHIC復活が無理と分かって今のバンドを無視していたけど、しつこく追い回してくるからバンドごと壊そうとした。
あのときは本気でそのつもりだった。その結果は語るまでもないけど。
今回と同じ。表では善人ぶって、でも裏では自分の目的のために相手を騙し利用し傷つけることを厭わなかった。
墓場まで持っていくつもりだった黒歴史すぎる過去を、一番聞かせたくなかった人に話すことになるなんて皮肉が過ぎる。
まるで今までやってきたことのツケが回ってきたみたい。
「純加さんには私が優しくて気遣い屋みたいに見えていたかもしれません。でも私の裏側なんてこんなものなんです。みんなのためなんて
初めて会った日からずっと助けてもらって、優しくしてもらって。
いつからか、純加さんの優しさにも憧れるようになっていた。
こんな私でも、いつか純加さんみたいな優しい人になりたかった。
でも結局、私の偽善とどう違うのかも碌に理解できなくて。
そのままお別れになっちゃったな。
今もなお納得してないような顔をしている、大好きな人と。
「……そうは言うけど、あたしにはそよちゃんはみんなと誠実に仲良くなろうとしてたように見えたよ? みんなで遊んだときだって楽しそうにしてたし、実際変わったのはあたし達の関係を知ってからでしょ? それまでそよちゃんは本当に優しい子だったよ」
「…………」
まだ私なんかのことを信じようとしてくれているらしい。
怒りでもなく、侮蔑でもなく。
本気で私を理解しようと言葉を交わす純加さんを、私の方こそ理解できなくなってくる。
どうしてこんな化けの皮が剥がれた嘘つきを気に掛けようとしてくれるのか。
でも今更そんなのどうでもいい。私は純加さんから離れるために、嫌われなきゃいけないんだ。
「どうしてそこまでするの? CRYCHICのために動いたときも、今回も。何がそよちゃんをそこまでさせたの?」
なのに、どこまでも私に向き合おうとする人に何を言えば上手く嫌われるのか。
これ以上考えが浮かばなかった私は、聞かれたことに素直に答えるしかできなかった。
私が昔も、今もなお、ここまで必死になってるのは……
「私は……そのときも、今も。CRYCHICにいた頃の私に戻りたかったんです。CRYCHICだけが、私の人生で唯一の、一生の宝物みたいな居場所だったから……」
今さら同情を誘うような女々しいことをするつもりはなかった。
でも、あわよくば純加さんに私のことを知って欲しい、分かって欲しいという身勝手な我儘も心のどこかにあって。
結果的に純加さんに甘える形で、私は今の自分がどういう経緯で作り上げられたかを語ろうとしていた。