もしもMyGoのそよが百合営業カフェでバイトを始めたら   作:りょーへい

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終章
64ture. 別れ  


 

 

 10月29日 日曜

 

「そうですか……随分、急な話ですね……」

「私も昨日理事長に言われたばかりで……ご迷惑おかけしてすいません」

「いえ……。学校側から禁止されたんじゃ、どうしようもありませんから」

 

 リーベのバックヤードにて、店長へ『理事長に呼び出された』という嘘を話し終える。

 お昼の開業前。みんなリーベの制服に着替え終わってるのに、私だけ私服のままだった。

 もう、私がみんなと同じ制服に袖を通すこともないのだけど。

 

「そよさんは凄く頑張ってましたし、お客さんも好評でしたから。これからも期待していたんですが……辞めてしまうんですね」

「こんな短い期間で、しかも突然辞めてしまい本当にすいません」

「確かに……残念では、ありますね」

 

 基本明るい笑顔の店長も、このときばかりは微笑みに影が差していた。

 当然の話だと思う。

 一昨日までなんの予兆もなかったのに、急にバイトを辞めるなんて言い出したら。

 

 結局、リーベから離れることにした。

 リーベの人間関係をめちゃくちゃにした罪悪感が居づらくさせてるのは多分にある。

 でも一番は、もう心の拠り所を求めることもなくなったから。

 代わりに前から私を必要としてくれてる居場所を大切にしたいと思うようになっていた。

 昨日あれだけ言葉を尽くしてくれて、優しくしてくれた純加さんには本当に申し訳なかったけど。

 もう好意がなくなったから離れるんじゃない。大好きだからこそ、離れなきゃって思ってしまう。

 純加さんの近くにいたら甘えてしまって、変わっていく決心が鈍ってしまいそうだから。

 本当の意味でCRYCHICが解散した、あの頃の自分から進むためにも。

 ここを辞めて元の生活に戻り、今度こそ自分と周りの人たちに向き合いたかった。

 

「今までお世話になりました」

「……ご苦労様でした」

 

 頭を下げて定形文で締めようとする私に、店長は合わせてくれた。

 もちろん思うところはあるんだろう。いくらなんでも不自然過ぎる。

 だから学校を盾にして、店長が食い下がれないようにした。

 一応今の理事長はバイト非推奨の人だから、理事長に許可を取りに行こうものなら本当にアウトになるはず。

 そういう意味では丸っきりデタラメというわけでもない。

 

 とはいえバイト禁止を言い渡された、なんてのは嘘だから。

 変に突っ込まれる前に、店長へ背を向け次にやるべきことへと移った。

 

 

 

 美月ちゃんと陽芽ちゃんは、2人で固まっていた。

 美月ちゃんは戸惑った顔で。

 陽芽ちゃんは——まだ仲良くなる前の、あの完璧な笑顔を張り付かせて。

 

「美月ちゃん、陽芽ちゃん。騙してごめんなさい。2人の関係を壊そうとして、ごめんなさい」

 

 頭を下げて直球で謝罪する。

 店長の前でも憚らずやろうと決めていた。

 だから、先に辞めることを認めてもらっておいた。

 

「そよさん、本当にやめてしまうの?」

 

 顔を下に向けたまま、私は面食らった。

 まさか美月ちゃんにこう言われるとは思ってなかったから。

 この子のことを凄く傷つけたから、口も聞いてもらえないと思っていたのに。

 思わず顔を上げて美月ちゃんを見ると悲しんでるような、納得いかないような、複雑な表情をしていた。

 

 (まさか私に裏切られたことじゃなくて、私がいなくなることに悲しんでくれてるなんて……。嫌われるのは覚悟してたけど、これは流石に……)

 

 ここまで自分の行いを悔やみ、呪ったこともない。

 そんな、私を引き止めたいようにも見える美月ちゃんを、陽芽ちゃんは一瞬本気の目で睨む。

 でもすぐに笑顔に戻って、前みたいに敬語で話してくる。

 

「学校から禁止されたならしょうがないですね。短い間でしたけどありがとうございました! お元気でいてください!」

 

 見た目は愛想よく、友好的だった。

 でも余所いきの挨拶としてお手本のように完璧な外面をされて。

 仲良くなる前のときとは比べ物にならないほど彼女の怒りを買ったんだと実感している。

 1秒でも早く終わらせにかかりたい陽芽ちゃんの意思を尊重することにした。

 

「こちらこそ、今までありがとう。元気でね」

 

 美月ちゃんの言葉にもまともに返さず、別れの言葉で締めて踵を返す。

 

「……お前のしたこと、絶対許さないから」

 

 歩き出す寸前、背中から私と美月ちゃんにだけ聞こえる声量で。

 さっきまで笑顔だった子の、本気の怒りが突き刺さる。

 私はそれを、別れの餞別だと思って甘んじて受け入れた。

 

「うん。私自身、一生許さないで生きていくから」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 最後に純加さんの元に寄る。

 思った通り、果乃子ちゃんもすぐ傍にいた。

 

「そよちゃん。残っては……くれないんだね」

「……あんなに励ましてくれたのに、応えられなくてごめんなさい」

「……ううん。あたしのことは気にしなくていいから」

「——純加さん」

 

 この期に及んで優しい純加さんを窘めるように果乃子ちゃんが呼ぶ。

 認めるところは認めるけど、やっぱり彼女のことは好きにはなれなかった。

 なんだかんだ言っても自分勝手なことばかりでズルイところとか、気に入らないところが多々あるから。

 昨日のぶつかり合いも尾を引いてるのか果乃子ちゃんに快い顔なんて向けれず、しばし睨み合った。

 

「2人とも、もう……」

「分かってますから」

 

 くしくも2人の声が被った。

 果乃子ちゃんとハモったことに複雑な気持ちになりつつ、ついでに彼女にも話しかけてあげた。

 

「一応、果乃子ちゃんもゴメンね」

「思ってもないのに謝らないでいいです」

「思ってなくもないんだけどね。それ以上に果乃子ちゃんには他に思うところがたくさんあるだけだよ」

「私は謝りませんから。あなたのやったことは絶対許されない」

「……昨日は碌に反論できなかった立場のくせに……!」

「ストップ、ストーップ!」

 

 剣呑になりかけたところですかさず間に入る純加さん。

 

「そよちゃん、元気でね。バイト仲間じゃなくったって、昨日言ったことは撤回しないよ。あたしで助けになれることなら、また頼ってくれていいからね」

「純加さん……」

「何だったら、客としてリーベに遊びにきてくれていいから! 歓迎するよ!」

「……ありがとうございます。機会があったら、是非」

 

 流石にその厚意に約束はできないけど、せめて気持ちだけでも精一杯受け取ろう。

 感謝の想いを込めた笑顔を純加さんに送っていたら、横から冷たい声が割り込んでくる。

 

「社交辞令が通じない人じゃないですよね?」

「果乃子ちゃんとは話してなかったよね?」

「だから2人とも……ていうかなんか前より仲良くなってる気がするんだけど……」

 

 また純加さんがおかしなことを言い出す。

 いくら純加さんとはいえ看過できないからしっかり否定しようとして

 

「そんなわけないです」

 

 果乃子ちゃんと2度目のハモりだ。

 もうこれ以上この子と気の合った言動をするなんて御免なので、そろそろお暇しよう。

 

 

「それじゃあ純加さん。お元気で」

「うん、そよちゃんもね」

 

 ……と、その前に。

 せめて、少しでも後悔のないように。

 

「あ、純加さん。顔の横に何かついてますよ?」

「え、ホント? どこどこ?」

「取りますから顔横に向けてください」

「うん、ありが——」

 

 チュッ

 

 純加さんが頬をこっちに向けた瞬間、頬に口づけした。

 果乃子ちゃんの表情を横目で観察しながら。

 その変わりようを見て、一矢報いたことを確信した私は勝ち誇った笑みを向けた。

 私が頬から顔を離すと、純加さんは目を丸くしながらキスされたところに手を当てて頬を赤らめてる。

 こんなに無防備な表情を晒してる純加さんは初めてで、年相応の女の子らしくて愛おしさは倍増だった。

 要約すると超可愛い。

 

「そ、そよちゃん……」

「純加さん、大好きでした! でも少しは私を見習って、自分のことも大切にしないとダメですよ?」

「言いたいことはそれだけですね。とっとと出てってください」

「はいはい。……純加さんのこと、お願いね」

「あなたに言われる筋合いありません早く帰って——」

「果乃子ちゃん、拳握っちゃダメだって!」

 

 私に迫ろうと一歩踏み出す果乃子ちゃんを止める純加さん。

 そこまで見届けて、私は裏口の鉄扉を開けて外に出た。

 

 

 

 扉が閉まったあと、お店の方を振り返る。

 約1ヶ月毎日のように通った、お嬢様学校をコンセプトにしたカフェ。

 思えばリーベでは初日から今日まで退屈な日なんて1日たりともなかった。

 みんなと1人ずつ仲良くなろうと奮闘して。つまずき悩みながらも少しずつ距離を縮めて。

 みんなと一緒に遊びに行って。

 ……結局、自分の手で全部壊して。

 

(みんな、本当にお世話になりました。……ごめんなさい)

 

 私があんなことしなければ、どんな未来が待っていたんだろう。

 どんな思い出をみんなと作れたんだろう。

 自分で壊しておきながら虫のいいことを考えることに嫌気がさす。

 

 昨日ここで純加さんに言われたことを思い出す。

 

『自分を見失って迷ってたあたしを助けてくれる人たちがいたから、そよちゃんのいう強さに繋がったんだと思う』

 

 思い出すのは、夏のあの日。

 無理やり上げられたあのステージで、ベースを渡された時。

 私に向ける4人の、優しくて頼もしい眼差し。

 あれから素直に接することはできなくても、あの光景はどうしてか鮮明に覚えていた。

 

(……スタジオに行かなきゃ)

 

 そのときのメンバーで今日もバンド活動をする予定だった。

 最悪一生続けるであろう活動へ向かうため、今後二度と使うことのない非常階段を降り始めた。

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