もしもMyGoのそよが百合営業カフェでバイトを始めたら 作:りょーへい
長崎さんが出て行ったあと。
私を抱き止めていた純加さんを振り払って1人でサロンに向かった。
あの流れでバックヤードに居づらかったから。腹立たしい感情のままにここに逃げ込んできた。
まぁ。どうせすぐ1人じゃなくなるんだろうけど。
「果乃子ちゃん」
「……わざわざ追ってこないでください。1人になりたくて来たのに……」
予想通り追ってきた純加さんに悪態をつく。
後半は嘘でもないけど、前半は本心じゃなかった。
「あたしが果乃子ちゃんを1人にするわけないじゃん」
「……そうやって誰にでもいい顔するから、長崎さんみたいな人が出てくるんですよ」
「そーきたか……ていうか、それじゃまるであたしがたらしみたいだねー」
「…………はぁ」
「何その溜息!?」
「言っても無駄そうだから、もういいです」
純加さんはずっとこうなんだろう。
さっきは冗談で言ったけど、本当に同じような人が現れるかもしれない。
まったく、自分から無自覚で厄介事を招き入れるんだから。
これからもそれに付き合っていくと思うと溜息だってつきたくなる。
「純加さん」
「なに?」
口にすべきではないと分かっているけど、聞かずにはいられなかった。
「どうして、長崎さんを選ばなかったんですか?」
「…………」
「認めたくないですけど、昨日あの人が言ったことは……間違ってないと思います。長崎さんの恋の方が、私の身勝手なんか比べ物にならないくらい正しいです。だから私より長崎さんと一緒になった方が……純加さんは、幸せなんじゃないかなって……」
「……なるほどね」
心の底で心配していたことを弱音みたいに零していると、なぜか純加さんが得心したようなことを言う。
「何がですか?」
「いや、本当に仲良くなったんだなって。っていうより、認め合ってる、の方が近いかな」
「だから、何わけ分からないを言ってるんですか」
「まぁいいや。お互い知らない方が良さそうだし」
「???」
私の問いに答えず勝手に話を完結させる純加さん。
本当になんの話か分からなかった。
「で、なんで果乃子ちゃんを選んだかなんて、今更言うまでもないでしょ?」
「……でも、私と違って長崎さんは純加さんだけを一途に……」
「うん。あんなことがあっても、そよちゃんのことは少なからず好きだし、だから素直に嬉しい気持ちもあった」
「……」
「ていうかさ、恋愛における正しさや間違いって何なんだろうね。誠実であれば報われるとは限らないし。一方にだけ都合の良い恋愛がまかり通ることだってザラでしょ? そう考えるとやっぱ恋愛って不公平だなって、嫌になりそうだよ……」
純加さんの口元は若干笑みを保っていたけど、表情全体には隠しきれない辛さが滲み出ていた。
この人のことだから、夏八木さんの好意に応えられなかったことを申し訳なく思ってるのか、その上で自分がその不公平な恋愛をしてることに嫌悪してるのだろう。
そんな風に自分を追い詰めるくせに、この人はそれでも……
「それでも……私を選んでくれるんですか?」
「うん。こんな恋愛にひねくれたあたしには、果乃子ちゃんしかいないって思うんだ」
明るい笑顔を私に向けて、照れひとつなく言い切ってくる純加さんに思わず背を向ける。
まともにその笑顔に向き合っていると、どんな顔になってしまうか分からなくて恥ずかしかったから。
「なんで……そんな簡単に私しかいない、なんて言えちゃうんですか……馬鹿じゃないですか?」
言わなければいいのに、照れ隠しでつい吐いてしまった私の暴言はスルーして。
律儀にも前半のなんでに対する回答として。
純加さんは、優しく芯の強い声で、真面目に想いを伝えてくる。
「果乃子ちゃん。朗読劇の日、私の恋を守ってくれてありがとね。大好きだよ」
「……分かりました。もう分かりましたから」
「ん。伝わったようで何より!」
ここまで誠実に好意を伝えてくれた純加さんに、このまま背を向けてるだけでいいのだろうか。
その日の誓いを思い出す。
今回の騒動でその誓いを違えてしまったのに。
このままで良いわけがなかった。
「私も……」
「ん?」
振り返って、純加さんの顔に視線を必死に固定する。
まっすぐ、お返しするために。
「私も、純加さんが好きです。純加さんの好きと違っても、好きですから」
誰にも譲りたくないくらいに、は秘密でもいいよね。
私って、本当にどこまでもズルいな。
「ありがと! かーのこちゃーん♪」
「す、純加さん!」
いつものように馴れ馴れしく肩を組んで密着してくる純加さんに、私は抗議するように呼ぶけれど。
当然純加さんは私から離れない。
「愛してるよー! 私の可愛い妹、果乃子ー!」
「もう……」
調子の良いことを言って、完全にいつもの純加さんだ。
その証拠に、純加さんらしい快活な笑顔が満開に咲いていた。
そんな仕方のない姉に私は小さく嘆息しつつ、密かに大好きなその顔に魅入って頬を緩ませた。
「陽芽、そろそろオープンに向けて準備するわよ?」
「…………」
「どうしたのよ?」
「矢野は、本当にあいつに残って欲しかった? これからも友達でいたかった?」
「……どう、かしら。もし残ってくれていても、接し方に迷ったかもしれないわ」
「そりゃ流石に矢野でもそうなるよ」
「でもね。そよさんは本当に優しい人だと、思ってしまうのよ。自分でもおかしいのは分かってるのだけど」
「……それは、矢野が本当に優しい人だからだよ」
「陽芽は……どうしても許せないのよね?」
「当たり前だろ」
「その気持ちも分からないでもないから。否定はしないわ」
「……まぁ、それでも考えちゃうんだよね」
「何をよ?」
「もしアイツが……夏八木があんなことしてなければ。あの外面使いと、どういう関係になったのかなって」
「そうね……嘘つき同士、仲良くなったのかもしれないわね。友達っていうより、悪友みたいな感じが近いのかしら? ……隠れて非行にでも走ってそうね……」
「……って、私とあいつを不良仲間みたいにイメージすんなー!」
「ひめちゃーん、美月さーん! 仲良いのはいいですけどそろそろ準備の方、お願いしますねー!」
「はい、店長」
「了解でーす。……今日からまたよろしくお願いしますね、お姉さま♪」
「えぇ。これからも私達の姉妹をやりましょう、陽芽」
ここはコンセプトカフェ、リーベ女学園。
サロンでお給仕をする店員はみな学園の生徒を演じ、まるで少女漫画のようにきらびやかに振る舞う。
例え1ヶ月間一緒に働いていた女の子が突然いなくなっても。
各々思うことはあれど、あの子たちはその前までに戻るだけ。
今日もサロンでは2組の姉妹が仲睦ましくやりとりをしている。
まるで一昨日まで拗れた分を取り戻すかのように。
これからもすれ違い、ぶつかり合うこともあるかもしれないけれど。
その度に乗り越え、それぞれだけの姉妹を築いていくのでしょう。
受付をしながらサロンを見守る舞店長がそんなことを考えていると、店の扉が開く。
新たに来校されたお客様へ、舞は明るく元気に、お馴染みの挨拶で迎えた。
「ごきげんよう。ようこそ、リーベ女学園へ」
*後書き*
まるで最終話のように締めましたが、もう1話だけあります。
そもそもこれはそよの物語として始まりましたので……