もしもMyGoのそよが百合営業カフェでバイトを始めたら 作:りょーへい
久しぶりに聞いたら良過ぎたのでそよと純加を当て込みました。
純加が大学進学と共にリーベを卒業する設定ですね。
いつかCRYCHICコンカフェシリーズでCRYCHICに演奏させて、観客の純加にそよから大胆な告白させたい……。
さよならメモリーズ(仮)
3月。桜が咲き始めた頃。
それは終わりと始まりの季節でもある。
例えばその年度が終わる頃。
例えば新しい学年が始まる準備の頃。
例えば……進学という始まりに向けて、それまでいた場所に別れを告げる頃。
大好きな人と会えなくなってしまう時期が、やって来てしまったのだ。
だから私は、純加さんの最後のリーベ出勤日、彼女を夜の花見に誘った。
純加さんと一緒にいれる残り僅かしかない砂粒ほどの時間を、無理やり増やしたのだ。
砂が落ち切った砂時計を逆さまにするみたいに、無意味な悪あがき。
1、2時間引き延ばしたところで何も変わらないと頭で分かってるのに、心が全く理解ってないのが我ながら可笑しかった。
川沿いの原っぱに1本だけ咲いた桜の太い樹に辿り着くと、私と純加さんは思わず感嘆の声を上げた。
満月によって照らされた樹はお相撲さんくらい太く、2階建の建物にも届きそうなほど高い。
そんな立派な樹に満開の桜が咲き誇っているのだ。見上げた視界は薄桃色で埋め尽くされるほどだった。
花見といえば桜がたくさん並んでるところでするイメージがあったけど。
こうやって圧倒させられるほどの1本桜を愛でるのも、なかやか乙かもしれない。
「いやー1本だけなのに圧巻だねー! そよちゃん、よくこんな目立たなさそうな花見スポット知ってたねー!」
ここは川沿いでしかもほとんど人が通らない場所だったから、純加さんがそう言うのもおかしくなかった。
「学校の子から聞いたんです。隠れスポットなんですって」
「へぇ、お嬢様学校じゃそういう情報疎いかと思ってたけど、侮れないねー」
「そうですね。おかげで純加さんとこうして2人で花見を楽しめるわけですし♪」
「それだけど、あたしと2人でホントにそよちゃんは楽しいの? 花見なんて大勢の方が盛り上がるでしょ、今からでもひめちゃんたち呼ぼうか」
「もう夜ですし、迷惑ですよ〜。それに私は、純加さんと2人で楽しいです♪」
「まぁそよちゃんがそう言ってくれるならいいけど……。でもそよちゃんは半年前に会った時から可愛げのある後輩ムーブするよねー」
カラカラ笑いながら冗談めかして言ってくる純加さんに、夜桜の下で2人っきりというロマンティックな状況が私を大胆にさせていく。
「私が可愛げある後輩なのは、先輩が凄く頼りになる素敵な人だからですよ? 私だって誰にでも慕うわけじゃないんですから」
「それはウソ。そよちゃん誰にでも優しかったでしょ? ちょーっとだけとっつきにくい果乃子ちゃんにすら」
確かにそれは純加さんの言う通りだった。
でも私は特別純加さんを慕っていた自覚はあったし何なら気づいて欲しいとすら思ってたくらいだったから。
まぁ、結局全然伝わってないみたいだから、内心ガックリしてるのだけど。
ガックリしつつ、この場では上手い返しが思いつかないから純加さんに合わせるしかなかった。
「う、う〜ん……やっぱり純加さんには敵わないですね♪」
「ま、これでも2年長く生きてるし、もうちょっとでJDだし? でもそんなそよちゃんがいるから、リーベを安心して卒業できたのもあるかな? ありがとね、そよちゃん」
「もぅ、お礼を言われるようなことじゃないですよ〜♪」
「確かにちょっとおかしかったかも」
2人で笑い合いながら桜を見上げる。
花見と言っても食べ物も飲み物も何も用意してなかった。だってこれはリーベから退社するとき思いついたまま純加さんを誘ったことだったから。
食事もないなら、その分お開きまでの時間も短くなるだろう。
それが終わってしまったら。あとはもう別れるまでの道しか残ってないのに。
もう、純加さんとの時間は来ないのに。
だから私は、大胆になってきた心に勇気を焼べていく。
「……わ、私も。純加さんに会えて、すごくすごく良かったです。リーベのみんなと仲良くなれたからじゃないです、純加さんのこと大好きになったからです」
「ハハハ、ありがと。あたしもそよちゃんのこと好き―」
「違うんです。そういう意味の、好きじゃないんです」
割り込んできた私をきょとんとした顔で見てくる純加さん。
桃色の花びら舞い散るシチュエーション、もうこの時間しか残されてない焦燥感。
それらが後押しとなって、私はついにその一線を越える。後戻りのできない、正真正銘最後の1歩。
「好きです、純加さん。恋愛として、貴女が好きなんです」
本当に心当たりが何もなかったのか、純加さんは目を大きく見開き口を半開きにしていた。
この恋心が今まで気づかれてなかったから純加さんと仲良くいれたのかもしれないけど、やっぱりそういう目で見られてなかったってことだろうからやるせない気持ちがうっすら浮かび上がる。
でもそういう、ちょっとしたことで一喜一憂する気持ちとはもう、さよならだ。私は、純加さんに告白したのだから。
「ご、ごめんそよちゃん。冗談じゃないのは真剣な顔から分かってるだけど、ちょっといきなりで……」
「そうですよね。ごめんなさい、急にこんなこと言い出して」
明らかに狼狽えてる純加さんに私は微笑む。
純加さんが落ち着いて飲み込める時間を作るために、私がどのくらい純加さんのこと本気で好きなのか知ってもらうために。
想いを綴る。この半年で私に本当の優しさを教えて、私を変えてくれた貴女のために。
「初めて会ったときは見るからにギャルで、印象良くなかったけど。橘様モードの純加さんを見たとき、一目惚れして。それから私を何度も助けてくれる優しくて頼りになる純加さんが内面的に好きになっていって。CRYCHICの話を聞いてくれて、あんな重い話をする私ごと受け入れてくれて、好きって言ってくれて。あのとき、どうしようもなく貴女が好きになりました。ずっと貴女の隣にいたい、ずっと貴女と助け合いたい、貴女の誰より快活で素敵な笑顔をずっと見ていたい。ずっと……一緒にいたかった……」
想いと一緒に涙まで零れそうになって、純加さんから顔を逸らした。
桜を見上げる。こうしていれば、きっと零れないだろうから。
「でも……純加さんには、好きな人がいるんですよね?」
「……分かるんだ」
「当たり前ですよ。好きな人のことですよ? 自然と誰をどう見てるかなんて、嫌でも目で追っちゃいます」
「……ごめん」
「……それは、これからもあの子と会う、ってことですか?」
「……うん」
上を向いたまま溜息をつく。
分かっていた。だから今まで告白しなかった。負けが見えてる勝負はしない主義だから。
でも、そんなこと関係なく打ち明けてしまったんだ。
だって……どっちにしろ、これで最後なら。
もう悔いの残る別れは繰り返したくなかったから。
横から真剣な声が耳に語り掛けてくる。
「こんなこと言っても信じてもらえないかもしれないけど。あたしは本当にそよちゃんが好きだよ。もし……あの子がいなかったら、きっと断らなかったぐらい」
「でも……結局あの子に負けたんですね、私……」
「お願い、聞いて! あたしは元々恋愛なんて大っ嫌いだったんだ。昔恋愛絡みでリーベをめちゃくちゃにされてから、あたしは心底毛嫌いするようになった。そんなあたしは事情を全部知った果乃子ちゃんのおかげでちょっとは変われたんだよ」
知らなかった。いつも明るくて元気で、誰とでも良い関係を築いていそうな純加さんが。
恋愛のことをそんなに憎んでいたなんて。
「だからね、そんなあたしが果乃子ちゃん以外でも付き合っていいって思えるのは、そんな軽いことじゃないんだよ? あたしのそういうところにほとんど踏み込んでないのに付き合えるそよちゃんは、それくらい大きな存在なんだ」
両肩を掴まれグイッと体を純加さんの方へ向かされる。
声から分かっていたけど、いつになくその顔は真剣で、どこか悲痛で。
心が決壊しそうなほど痛みを訴えてる私より辛いんじゃないかと思わされた。
「だから……その、あたしは……」
「もう、大丈夫です。純加さんが私を想って、少しでも傷つかないように向き合ってくれてることは、良く分かりましたから……」
この言葉に説得力を持たせようと、純加さんを安心させようと無理に笑う。
顔をくしゃっと歪ませた心のエネルギーが目頭にまで熱く回ってしまった。あぁ、やっぱりだめだったな……。
「そよちゃん……ごめん……あたし、いつも誰にでも優しくするそよちゃんのこと傷つけたくなかったのに……」
「い、いいんです……。分かってたから。こうなるって分かってたから今まで隠してたのに……。でももう、CRYCHICのときみたいな後悔はするわけにいかなかったから……。私をその苦しみから救ってくれて、変えてくれた純加さんのためにも、間違いは犯せなかったから……。こっちこそごめんなさい純加さん、嫌な思いさせてごめんなさい、せっかく純加さんと過ごせる最後の時間なのに……」
そこまで言った私は、背中に手を回されてギュッと抱きしめられた。
今純加さんはどんな思いで抱きしめてくれてるんだろう。振った相手を優しくするような残酷な真似、純加さんは嫌いそうなのに。
それでも私のために抱きしめてくれてるんだ。何を言っても嘘みたいだからもう黙ったまま、私の涙が止まるまで慰めてくれてる。例え偽善と非難されそうなことでも、この人はまっすぐ貫く。私はそういう、人として恰好良いところにも惚れたんだ。
こんな人に出会えて、助けてもらって、救ってもらって、変えてもらって、好きになって。
想いを告げて、やっぱりフラれて、でもどこまでも私に真正面から向き合おうとしてくれて。
今まで純加さんへ募らせた感情を、残さず嗚咽に変えた。
もう2度とこの温もりの中に戻ることはないのだから。純加さんが痛みを堪えてまで寄り添ってくれた優しさに、想いの限り甘えて、応える。
私にできることは、やっぱり悔いを残さないことしかなかったから。
あれから私が泣き止んで、花見もお開きとなって帰り道を辿る。
しばらく無言で歩いていたけど、純加さんが夜空へふいに零した。
「今年はね、例年より桜の開花が早かったらしいよ?」
「そうなんですね」
「だから良かったよ。おかげで今日、そよちゃんと花見することができたんだから」
いつもよりどうしても痛々しくなってしまう微笑みで純加さんは言い切った。
私は……どうにか口角を上げて瞼を閉じながら笑うのが精一杯だった。
私と純加さんの別れ道に来たところで、家まで送ると言ってくれた。
どこまでも他人のことばかり気にして優しい大好きな人の好意に甘える。
甘えついでに最初で最後の我侭をお願いしてみた。
「……寒いので、手を繋いでくれますか?」
その人は何も言わずに叶えてくれた。
それから私は、出来る限り遠回りした。
一分一秒でも長く、手から伝わる温かさを心と記憶に刻んで、一生覚えるために。
でも純加さんも馬鹿じゃないから家に近づいた頃には気づかれて、指摘された。
私はおどけたような笑顔を取り繕ってみせる。
「間違えちゃいました♪」
純加さんの朗らかな笑顔は薄暗い夜の中でも眩しくて、私は直視できなかった。
マンションまで送ってもらった私は純加さんと別れの挨拶を済ませる。
純加さんは私に踵を向けて、離れて行った。
その道は、純加さんが自分で選んだ未来へと続いてる道。
私は一緒に歩めない。隣に並んで進んでいくのは、あの子。
それでも私は純加さんへの想いを胸に抱いて、純加さんへと踵を向けた。
例え報われなくても、忘れなくていい思い出だから。まるでCRYCHICみたい。
「さよなら、純加さん……」
大切な人へもう一度別れの言葉を呟いてから、前へと歩く。
1滴だけ地面に落ちてできた染みは私からどんどん遠ざかり、やがて見えなくなった。
♢ ♢ ♢
「ねぇ。次のライブでカバー曲入れようかって話、してたよね? この曲にしない?」
「これって恋愛ソングでしょ? 燈に合わなくない?」
「ていうかそよりんその曲やりたいってことは、もしかしてしつれ―」
「嫌ならいいよ。私次のライブ出ないから」
「分かった、分かったから。って言っても燈が嫌って言ったらダメだけど」
「燈ちゃん。どうかな?」
「わ、私恋愛分からないのに…‥想い込めれるかな?」
「恋愛じゃなくったっていいと思う。もう会えない大切な人のことを思って歌っても、いいんじゃないかな?」
「もう、会えない……」
「お前、まだCRYCHICのこと引きずって……」
「そういうことじゃない。でも……」
「そよちゃん?」
「言葉にできない想いを、昇華したかっただけだよ……」