ようこそ橋本正義の教室へ 作:ふわふわプリン
6話
翌朝、目を覚ますと隣では西が髪を整えていた。
西は特に前髪を入念に梳かしており、かなり気合を入れているようだ。
「…ふわあ、おはよう、春ちゃん。寝坊しちゃったみたいだよ。」
私がそう声を掛けると、私が起きた事に気付いた西が花が咲いたように笑い挨拶を返した。
「あ、おはよう!光ちゃん。凄いぐっすり眠ってたね!私なんて、背中が痛くて全然眠れなかったよ。」
西はそう言って苦笑するが、私は知っている。
彼女は昨晩、むにゃむにゃと寝言を言いながら私に抱きついて幸せそうな顔で眠っていたということを。
おかげで、何度も目を覚ましちゃったんだよね。
「そういえば、もうすぐ朝ごはんになるみたいだよ。光ちゃんも早く着替えた方が良いよ。」
「もうご飯なのね。急いで支度しなくちゃ。」
私はそう言ってテントの中で大きく伸びをする。
すると西も私の真似をして、腕を伸ばした。
そんな私達が朝の支度をして洞窟の外に出ようとした時、橋本君が洞窟の外を歩いていたので彼に声を掛けた。
「おはよう、橋本君!」
「おはよ!橋本君。」
「お、おう…おはよう…」
橋本もいつも通りの挨拶を返してきたが、その声にはどことなく元気が無いように感じた。
そして彼の目の下には小さな隈が出来ており、顔色も昨日に比べて少し悪い気がする。
「あれ?橋本君、なんか顔色が悪くない?」
「もしかして具合悪いの?」
私と西は心配そうに尋ねると、彼は苦笑いを浮かべて答えた。
「ああ…ちょっとな。少し寝不足でさ…「橋本!少し来てくれ!」…呼ばれたみたいだから俺は行くぜ。もうすぐ朝飯だからな、あんまり遠くには行くなよ。」
彼はそう言い、私達に別れを告げて橋本を呼んだ男子生徒の方へと歩い行てった。
そんな彼の背中を見送りながら、私はある事に気付く。
橋本のジャージのポケットから、黒いコードのような物がはみ出ていたのである。
あれ?
あのコードみたいな物は何だろう?
…まあ、なんでも良いか♪
気になった私はその事について考え始めたのだが、その答えが出る前に朝食の支度が出来たと知らせが来たので、私は思考を中断する事にした。
「今日の朝ごはんは……おにぎりと魚の塩焼きかぁ。お味噌汁とお漬物が欲しくなるけど贅沢は言えないね。」
そして私達は朝食を済ませた後、食器や廃棄物の処理等、を片付けを行って探索に向かう準備を始める。
「それじゃあ光ちゃん!今日も頑張っていこうね!」
「うん!頑張ろうね!」
西と2人で気合いを入れ直し、洞窟の外へと出る。
この日の探索で私と西は様々な食材を獲得した。
川では鮎を数匹、海ではタコを釣ることができ、森では派手で美味しそうな見た目のキノコと赤い木の実を手に入れ、微力ではあるがクラスに貢献することができた。
「…本当にこのキノコ持ってくの?光ちゃん。」
「もちのろんだよ!こんなに可愛くて派手な見た目をしてるんだから、きっと味もド派手でインパクトに残るものに違いないよ!」
さすがの西も福智院の言葉に苦笑を浮かべ、何度も説得を試みたが結局キノコは持ち帰ることになってしまった。
「たっだいまー!可愛くてド派手なキノコを持ってきたよ!さあ、私を称えたまえ!あははっ!」
困惑気味のクラスメイトを他所に、2人は洞窟へ向かって進んでいく。
「な、何それ?!キノコ?」
「うん!ド派手で可愛いでしょ?きっと味もエキサイティングで刺激的に違いないよ!」
私がそう言うと、洞窟にいた生徒たち顔をは青ざめさせ、町田は引き攣った顔で私に近づき、キノコの入ったバケツを強引に奪った。
「な、何するのよ!」
「いや、こんな明らかに怪しい色をしたキノコを食べようとするなんてどうかしているよ!せめて、このキノコの安全性が確認されるまでは触らないようにしよう!」
「そ、そ、そうだ!派閥は違うが、死者を出すくらいなら町田の意見に賛成だ。」
「ええ、絶対美味しいと思うんだけどなあ。」
まさか派閥の違う戸塚が、橋本派の町田の意見に何度も首を縦に振るほど賛成するとは思わなかった。
そこまで私の行動は引かれるような、非難されるようなものだったのだろうか。
するとそこには困り顔の橋本が頭を抱えて蹲っていた。
先程顔色が悪かったこともあり純粋に体調が心配だ。
「え、大丈夫?橋本君。一体どうしたの?」
「大丈夫なの?橋本君。」
西と共に彼の元へ駆け寄り、軽く背中をさすってやる。
「…っあ、ああ、大丈夫だ。心配、させて悪いな福智院さん、西。」
彼の顔は真っ青で肌は夏だというのに栗立っている。
明らかな不調が顕著に顕れている。
「…大丈夫って、そんなわけないでしょ?!明らかに顔色は悪いし、鳥肌が立ってるし、体も少し震えてる?かしら…と、とにかく!一旦洞窟に入って!話はそれから。」
「だ、だが今から俺は本部のテントに「問答無用よ!君に決めた!鬼頭君!手伝って!」…いや、話聞けよ。」
何かブツブツ呟いているが、駄々を捏ねても無駄だ。
鬼頭隼の身体能力に適う者はこのクラスにいない。
諦めて大人しく運ばれてくれ。
「どうした?福智院、西。」
鬼頭は私達の元に駆け寄りすぐに橋本に起きている異変を感知したのか、彼の膝裏と背に手を回し勢いよく持ち上げた。
「うおっ?!いや、姫抱きは辞めろって!」
橋本は羞恥に僅かに顔を赤らめ、鬼頭に抗議するが鬼頭はお構い無しに彼をお姫様抱っこで洞窟の中にある長椅子まで連れて行く。
「え、橋本君どうしたの?」
「橋本姫抱きされてやんのw」
戸惑う生徒、揶揄う生徒、心配そうに見つめる生徒達の視線を一新に浴び、橋本は洞窟の長椅子の上に寝かされる。
橋本はギロリと鋭い視線を私と鬼頭に向けるが、反論する元気は無さそうだ。
「春ちゃん、予備のペットボトル持ってきて。後奥にある救急セットの中から体温計とアルコールティッシュもお願い。鬼頭君は水で濡らしたハンドタオルを持って来て。そこに突っ立っている戸塚君は真嶋先生を呼んできて。」
私は共に駆け寄った西、橋本を運んだ鬼頭、騒ぎを聞いてこちらをこっそり見ている戸塚の名を呼びテキパキと指示を出していく。
「分かった。少し待っててね。」
「了解した。」
「…仕方ないな、良いだろう。貸しだからな、福智院!」
戸塚も面倒臭そうながらもすぐに橋本の為に真嶋を呼びに向かった。
彼は意外と常識がないように思えるが、それでもAクラスに選ばれるだけはある。
彼の真面目さだけは確かにAクラスに相応しい。
「…福智院、さん。」
恨めしそうな顔で私を睨む橋本に申し訳なさを感じつつも、私は橋本に向かって強い口調で話す。
「橋本君、体調管理を怠るなんて君らしくないね。健康の為に食堂の無料の山菜定食を食べたり、普段から体を鍛えててプロ意識の高い君が、不調にも関わらず無理してどこかに行こうとしてさ。…今日の君はちょっと変だよ。」
橋本は別に健康の為に山菜定食を食べていたわけではないし、普段から体を鍛えてもいないし、プロ意識だって持ち合わせていない。
何事もそこそこに出来れば良いと考えている人間で、無料定食を食べたのも福智院に勝手に食券ボタンを押された時だけなのである。
ちなみに福智院は橋本に無料定食を食べさせる癖に、本人は一度も無料定食を食べていない。
毎回高カロリーな人気メニューを選択している鈍感迷惑人間だ。
「…仕方ないか。」
橋本の目をじっと見つめると、彼は観念したように肩の力を抜いて苦笑した。
「福智院さんには話しておこう。実は俺は「分かってる!分かってるよ!」は?…いや、な、何が?」
呆れ、乾いた笑いを零してる橋本には申し訳ないが流石にブチギレそうだ。
「橋本君がリタイアすれば試験ポイントが惹かれてしまう!だからみんなの為に黙っていたんだよね?橋本君は優しいから、みんなの為を思って行動してくれていたんだよね。」
「え、いや何言って「自己犠牲は確かに美しいよ。それが聖人のような君なら尚更、ね。でも今回ばかりは我慢の限界だよ!誰かの為を思うのは素晴らしいことだけど、まずは自分と向き直ってよ!」……」
橋本正義は呆然としていた。
何故なら、福智院が見当外れな勘違いをしていたからだ。
彼女は相変わらず橋本を心優しい青年だと思っているようだが、橋本は優しくもなければ当然聖人でも無い。
ただのズル賢い男子高校生なのだ。
性格はどちらかと言えば悪いし、善人なんて口が裂けても言えない。
普段なら彼女の勘違いに呆れ、踊らされ、大ダメージを負うことになるが、今回ばかりは彼にとって都合が良い。
橋本はこの状況を利用することにした。
「…悪かったな、福智院さん。君の言う通りだ。俺もクラスの奴らに迷惑をかけたくなくてな、言い出せなかったんだ。だけど…… 流石にこれ以上継続するのは無理だな。大人しくリタイアさせてもらうことにするぜ。」
「それが良いよ。あ、真嶋先生がいらしたみたいだね。」
こうして橋本は真嶋と簡単な話をして、リタイアすることが決まった。
リタイアする間際に、橋本はこんなことを言った。
「福智院さん、俺はここで退場だ。後のことは頼んだ。みんなを引っ張って、なんとかこの試験を乗り越えてくれ。」
橋本の発言に福智院は手を震わせ、涙を流す。
そして数秒後、涙を拭い、力強く頷いた。
「うん、分かった。任せて、橋本君。君の想い、受け取ったよ。必ずや、この手に勝利を持ち帰るからね。」
「あ、ああ。まあ、最低でも2位くらいで頼むぜ。無理しない程度に、適度に力抜いて頑張ってくれ。」
こうして橋本正義は離脱していった。
福智院は船に向かう橋本の後ろ姿が消えるまでずっと見送り続け、後ろに立つ西の方へ振り向きこう言った。
◇◇◇
そして時は過ぎ、無人島試験もあと1日というところまでやってきた。
6日目の夜、無人島に大雨が降り始める。
「あ、雨だ!外にいる生徒は直ちに洞窟へ入るんだ!」
葛城がそう言うと、外で談笑していた生徒たちは急いで洞窟の中へと入って行く。
「よし、全員いるな?」
「葛城、それが福智院がいないんだ。」
「な、なんだと?!」
洞窟にはAクラスのリーダー福智院光の姿が無く、その事実に生徒たちは動揺する。
「あ、そういえば!光ちゃんがいつもの散歩コースに行くって行ってたよ!」
西がそう言うと、神室が訝しげな顔で西を見つめる。
「いつもの散歩コース?」
「…コースは分からないけど、散歩だから遠くには行ってないはずだよ!」
葛城も焦り顔で洞窟の外を見る。
外は少しずつ雨脚が強くなり、目の前に流れる川の水位も少しづつ上がっていく。
「…西の言葉が真実ならば…こんな天気の中、彼女に何かあっては大変だ!すぐにでも体力のある運動部の生徒を中心に捜索チームを組む。町田は今すぐ真嶋先生に報告をしてくれ。」
「あ、ああ!分かった!」
町田は急ぎ足で洞窟の外へ出て、本部を目指して走り始める。
葛城の指示により、福智院光の大々的な捜索が始まった。
しかし、待てども待てども福智院は見つからず、7日目の早朝に行われる予定だったスポットの更新もできなかった。
「…福智院、一体お前はどこにいるんだ!」
真嶋にも報告したが、命に別状がないため、彼女の居場所を伝えることはできないと言われてしまい、葛城は八方塞がりだった。
◇◇◇
「…一体なんの用かな?Cクラスの支配者……いや王様、龍園翔君。」
6日目の午後11時過ぎ、私は散歩に出かけていたのだが、急な大雨によりスポット近くの小屋にて雨宿りをしていた。
私は無人島にきてから、スポットをの近くにある川を回って洞窟に戻るコースをよく通っていた。
だから今日もこうしていつもの散歩コースを回ろうとしていたのが、突然の悪天候により洞窟戻れないでいた。
しかし、そこに意外な来客がやって来た。
「よぉ、Aクラスのリーダー。」
「…あはは、まさかバレてるなんてね。びっくりだよ。」
2人は互いをじっと睨み付けながら、雨が止むのを待つ。
「…少し雨が弱まってきたね。私はそろそろ戻ろうかな。」
私は外に出ようとしたが、龍園は私より先に外に出る。
私も外に出ようとドアノブを回すが、ドアノブが回らない。
どうやら彼が私を外に出さないように扉を押さえているようだ。
「…通してくれないかな?」
「それは無理な願いだな。」
「…ふうん?考えたね。」
龍園は私をリーダーだと見抜き、ここから出さない気だ。
きっと、リーダー当てをさせない為だろう。
龍園がここにいれば、彼がリーダーならリーダーを当て行うことはできない。
つまり彼はリーダーでは無い。
せっかくこんな重要な情報が手に入ったのに、ここから出れないだなんて…
一体どうしたら良いの!!
洞窟に戻るには、龍園の後ろにある扉からでなければいけない。
しかし、龍園は通してくれる気はなさそうだ。
「…」
小屋には扉が1つしかないため、扉から出ることは不可能だ。
私は考えを巡らせる。
何度も思考を巡らせるが、何度やってもたった一つの答えにしかたどり着けない。
私は小屋の奥にある小さな窓に視線をやる。
この窓は人1人がギリギリ通ることが出来る大きさだが、窓の先には水位が上がった深い川が流れている。
洞窟に戻るには、この窓から抜け出すしかない。
川に落ちれば怪我をするかもしれないし、遠くまで流されてしまう。
高さもあるため、少々勇気がいる。
しかしここで諦めては福智院光の名が廃る。
こんなピンチ、前だって乗り越えてきた。
「…決めた。私は、前に進む。この試験の未来を、私は橋本君に託されたんだ。こんなところで立ち止まってなんていられないよね!」
私は音を立てないように窓を開ける。
すると外から雨と強い風が吹き込んでくる。
夏なのにこんなに寒いのかと体が震えてしまいそうだが、こんなのは所詮序の口だ。
何故なら、今から私は川に飛び込むのだから。
私は意を決して窓から川に飛び込んだ。
バシャンと大きな水飛沫が舞うが、この音は風の音に掻き消され、龍園にバレることはなかった。
「…ゴボッ」
飛び込んだ時に川の水を飲み込んでしまったらしくむせてしまう。
私は数年ぶりの水中に恐怖し、今にでも気を失ってしまいそうだ。
しかし、何とか手足をばたつかせ前へ進もうともがく。
「…ゴッ…グッ」
勝たなきゃ、勝たなきゃいけないんだから。
しかし、どんなに私が強い意志を持っていようと、自然の前では無力だった。
私は川の流れには逆らえず、洞窟とは逆方向の川へと流されていく。
「…ゴベン、みんな」
まともに泳ぐことはもちろん、意識を持つことすらできず、運良くも私は仰向けの状態で流された。
ちなみに、福智院の声が聞こえなくなってから約4時間が経過した頃、龍園は小屋の扉を開けるが、そこはもぬけの殻だった。
「…あ?いねぇぞ…窓が開いてる。まさか、あいつこの雨の中川に飛び込んだのか?!」
「ど、どうしました?龍園さん!」
龍園の元に報告に来ていた石崎が不思議そうな顔で彼の元に駆け寄る。
「…石崎!今すぐ福智院を探せ!Aクラスの洞窟へ行ってこい!」
「は、はい!分かりました!」
◇◇◇
7日目の朝、試験は終了し生徒たちは片付けを済ませ、荷物を持って本部前のビーチへと向かう。
Aクラス、Bクラス、Dクラスの生徒たちは揃ったが、いつまでたってもCクラスの生徒たちはやって来ない。
「…Cクラスは全員リタイアしたのか?」
「…それは無い。そうだろう?鬼頭」
戸塚の疑問を葛城は否定し、鬼頭の方をじっと見つめる。
「…ああ、そのはずだ。」
鬼頭はそう言い、木々が生茂る森を見つめる。
すると森の方から髭を生やし、汚れた服を着た泥まみれの龍園と石崎がやって来た。
「…全員揃ったようだな。では、これより、無人島試験の結果発表を行う。」
早々にリタイアしていた橋本は、船の降板から結果発表を見ていた。
「…まず最下位──Cクラス26ポイント。」
「な、なんだと?」
龍園の目が大きく見開かれ、石崎もあんぐりと口を開けて驚いている。
「…続いて3位──Bクラス130ポイント」
「…3位、か。」
一之瀬は3位という中途半端な順位になってしまったからか、元気が無さそうに俯いてしまう。
「…次に2位──Dクラス225ポイント」
真嶋がそう言うと、数秒後橋本は大きな声を上げて驚いた。
「…はあ?!な、なんでだ?!なんでウチが1位なんだよ?!おかしいぞ!おい!」
橋本は龍園に連れて行かれたあの夜、龍園ととある取引をした。
それはAクラスのリーダー情報を売る代わりに、龍園が葛城を失脚させるというものだった。
橋本がリーダー情報を売り、すぐにリタイアすれば橋本は指示を出すことはできなくなり、実質的にAクラスの指揮を執るのは葛城になる。
そこでもし葛城が指揮をしてAクラスが負ければ彼はリーダー候補の地位を失うことになる。
橋本は自分がリーダーをやる気はなかったが、葛城ではAクラスは勝てないと考えていた。
その為、葛城を失脚させ、坂柳に花を持たせ、彼女と同等の有能さを持っていることを示してから、坂柳に下るという目標を持っていた。
彼は最後に自分がAクラスにいれさえすれば、その過程は関係ないという考えを持っており、Aクラスで卒業するために坂柳をリーダーにしようと画策していたのである。
一リーダ候補の分際で。
「……なんで、どうして、Aクラスが1位になったんだよ?!」
ふとビーチに目をやると、彼はたまたま龍園と目が合ってしまった。
龍園の目には深い憎悪と殺気が宿っており、遠く離れた橋本すらも射殺せそうなほどの迫力があった。
「橋本!テメェ、裏切りやがったな!」と叫びそうなほど、龍園は感情が昂っていた。
しかし、その感情を押え冷静に頭を働かせる。
(一体、何がどうなってやがる?何がいけなかった?……橋本にリーダーの名を聞いて、スポットに張り付いて裏も取った。リーダーは福智院光で間違いない。6日目の深夜、俺は福智院が小屋に入って行くのを確認し、閉じ込めた。橋本の話では福智院は泳ぐことができない。なら閉じ込めてしまえばなにも出来ない。だが小屋の窓が開いていたことから福智院は川に飛び込んだ。急いで石崎にAクラスに向かわせたが、Aクラスの奴らは福智院がいないことで大騒ぎしてやがった。そして朝になるまで石崎にAクラスのベースキャンプを監視させたが、福智院は一向に現れなかった。俺は島中を探したが、アイツはどこにもいない。)
「……リタイアしたとして、それならリーダー当ては誰がやったんだ?」
「……もしかして、リタイアした時に傍に誰かいたのかもしれません」
「なんだと?」
だが、石崎の言うようにリタイア時にクラスメイトがいたとしたら、新たなリーダーを指名し、リーダー情報を渡すこともできたのだがかもしれない。
「…Aクラスはずっと福智院を探すことに必死でした。頻繁に捜索班と待機班が入れ替わっていたので、もしかしたらその中の誰かが福智院と会って、リーダー情報を聞き出していたのかもしれませんね。」
龍園は石崎の考えが一理あると思い、船の上で優雅に結果発表を聞く橋本を睨み付けた。
「…橋本正義…ただの日和見主義の優男じゃあなさそうだな。アイツは鷹みたいに狡猾な男だ。よくも、俺をコケにしてくれたな。この借りはぜってぇ何倍にもして返す。行くぞ、石崎」
「は、はい!」
龍園はそう言い、真嶋の講評の途中でありながらさっさと船に向かって歩き出す。
「おい、まだ試験は終わっていないぞ!」
そんな真嶋の声を無視して、彼らはビーチから去って行った。