迷子になるか、仮面を着けるか   作:なかムー

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 皆さまお待たせしました。

 今日も今日とて、本編の更新をして行こうと思います。今回は前回の続きから始まります。

 それでは、本編をどうぞ。


Ave Mujica編 第8話

 対バンライブが終わって早数十分、今武道館は観客全員退館していて、この中にいるのは出演者と対バンライブのスタッフしかいない状態であった。当然内部はスタッフ達がライブ後の片付けに追われてバタバタしている最中であるが……

 

 「そ、そんな……」

 「こんな結果なんて……」

 

 否、舞台袖では彩と千聖がショックでその場から立ち崩れていた。それもそのはず、つい先程結果発表が流れたのだが……観客30000人の中で、Ave Mujicaが28500票に対してPastel*Palettesが1500票というかたちで、Ave Mujicaの圧勝で対バンライブは終わったのだ。

 

 そのような結果に、彩はともかく千聖もショックを隠しきれなかったようだ。

 

 「この結果はあり得ませんっ!もしかするとお客さんに対して色々工作したに違いませんっ!」

 「イヴさん落ち着いてください。あり得ない点はジブンも同意見ですけど、証拠もありませんよ……」

 

 この結果に異議を唱えたイヴはAve Mujicaが八百長を仕掛けたと主張するが、それを見兼ねた麻弥は落ち着くよう諭した。

 

 「でもイヴちゃんの言い分もなんか正しいと思うんだよねー。流石にこの差は無いじゃん」

 

 此処で先程から黙っていた日菜も口を挟んでくると同時にイヴの言う事に賛同してきた。ただ喚いているイヴとは違い冷静に分析したようで、票数の差がどうも怪しいと踏んだようだ。

 

 日菜の指摘に同意した彩と千聖も立ち直って相手の何処が怪しかったか議論を始めたりしかしそこに、コツコツと規則正しい2つの靴の音─1つはヒールの音だが─が響き渡った。そこにはオブリビオニスと、その傍らにはソリトゥスが控えていた。

 

 「おやおや、負け惜しみとは情けなくてよ?」

 「オブリビオニス……っ!」

 「ご機嫌ようPastel*Palettesの皆様。負けても尚現実を受け入れられないのはみっともなくてよ?仮にも先輩だというのなら、そのくらいは受け入れないとは恥ずかしいと思いますわよ?」

 

 先程まで騒いでいた彩達はオブリビオニスの一言で黙ってしまった。彼女の一言は正論なのか、全員が何も言い返せず沈黙が続いた。

 

 「そして何というか無様で醜態を晒したのでしょう」

 「く……っ!」

 「颯樹さんの才能も、貴女方にとってはただの宝の持ち腐れ。それがこの対バンライブで証明されましてよ?」

 

 更にオブリビオニスが痛いところを突いてくるように追い討ちをかけてきた。

 

 本来の彩達なら此方で反論をしているが、オブリビオニスの言った事は事実なので何も言い返せずただただ黙って悔しさを顕にするのであった。

 

 「おやおや、余程悔しいのが伝わってきましてよ?特に彩さんは顔に出るほどですわ。もしかして彩さんはポーカーフェイスをご存知ではなくて?」

 「ごめんねー。彩ちゃん、そう言ったのは苦手なんだよ」

 「日菜ちゃん!此処は本来擁護するところでしょ!」

 「あははっ、やっぱり彩ちゃんはおもしろーい!」

 

 此処でオブリビオニスは彩の表情が顔に出るところを指摘するが、日菜が茶化すように割り込んできた。これには思わず彩も大声で怒鳴ってしまった。

 

 「でも祥子ちゃん、流石にそこまで追い討ちする必要あるのかなー?」

 「オブリビオニス、ですわ「あーあー、きこえなーい!」この……っ!」

 「あははっ、怒った怒った!仮面を着けているから分かんないけど、多分怒ってるね!」

 

 しかし日菜もオブリビオニスに対して先程のお返しと言わんばかりに挑発をして彼女に煽りかけてきた。

 

 「(落ち着きなさい、私……っ!此処でこれ以上怒れば彼女らと同類になりますわ……っ!)」

 

 オブリビオニスも日菜のしている事が挑発と理解すると、これ以上乗せられるわけにはいかないので、必死に自分に言い聞かせて怒りを堪えた。そしてその時、ソリトゥスがオブリビオニスの肩に手を置いた。

 

 「落ち着いてオブリビオニス、あんな負け犬の遠吠えにしか聞こえない安い挑発に乗るほど君も愚かじゃないでしょ?」

 「そうですわねソリトゥス……ありがとうございますわ」

 

 怒りに囚われそうになったオブリビオニスを優しく諭すソリトゥスであるが、その時日菜の挑発を軽く一蹴すると同時に、意趣返しの意味も込めてか挑発で返した。

 

 「君、確か獅音って言ったっけ?勝ったからってなんだか調子に乗ってな「残念ながら彼の言っている事は事実ですよ?」…へっ?」

 

 日菜は苛立ちを覚えながらも反論しようとするも、突然誰かによって言おうとした事を遮られた。しかも日菜を遮ったその声は、彼女自身よく知っている者であった。

 

 「ここに来ているのが、颯樹だけだと思いますか?」

 『えぇっ!?』

 「その声……まさか…っ!」

 「やっぱり貴女も来ていたのね……千歌ちゃん!」

 「やはり分かっていましたか。ご明察、私です」

 

 そこに、彩達がよく知る人物…水澄(みすみ) 千歌(ちか)が彼女達の前に姿を現した。その時の千歌は薄らと笑みを浮かべていた。

 

 「なんで私たちとAve Mujicaの対バンライブに貴女が?」

 「颯樹の居る所には私が居る、それは白鷺さん……貴女が一番よく分かって居るはずです。さて、貴女方のライブを直に見せて頂きました……ハッキリ言います。不愉快です」

 『!?』

 

 いきなり千歌が現れた事により千聖は動揺するも、何故此処にいるか尋ねる。しかし千歌は先程とは打って変わって目つきが鋭くなって千聖達を見下すように睨んだ。

 

 「Ave Mujicaにあって、貴女方に無いもの……それは【音楽に対する情熱】です。颯樹から常々言われているのなら、痛いくらいよくわかっているでしょう……だけど、今回の対バンライブではそれが全く感じられない。私からすれば、パスパレの皆さんの音楽は……雑音でしか無い。不快、汚れています」

 

 そして追い討ちをかけるように、パスパレとAve Mujicaの違いを指摘すると同時に酷評した。彩達は千歌の酷評に何も反論出来ずただただ黙って俯いていた。

 

 「素晴らしいですわ、いつ見ても。全ての好機(きぼう)虚無(ぜつぼう)に転じる……その瞬間というのは」

 

 千歌の酷評を聞いて悲しみに囚われ始めた彩達の姿を滑稽と感じたのか、オブリビオニスは彼女達に対して嘲笑しながらトドメの一言を投げかけた。彩達は悔しいと感じながらも、何も言い返せず拳を握りながら黙っていた。

 

 そんな中、千歌は彩達に興が冷めたようで、ソリトゥスに対して何か耳打ちをした。それを聞き終えたソリトゥスは「分かりました」と一言言って

 

 「……オブリビオニス、千歌さん…彼女が君に話がしたいそうだよ」

 「話……分かりました。それでは今から控室でお話する事になりますが、大丈夫ですか?」

 「もちろんです」

 

 千歌の伝言がオブリビオニスに伝わると、それを承諾するように控室に来るよう彼女に促してこの場を後にしようとする。

 

 「待って!」

 「なんでしょう?私達は貴女方にはもう用はなくてよ?」

 

 しかしそこで彩がオブリビオニス達を引き止める。しかしオブリビオニスはこれ以上彩達に何も話す事は無いので、彼女からしたら今の彩達はただのノイズ程度しか思っていないのと、つい先程出来た先約との話し合いを最優先したいので(表には出していないが)若干苛立ちがあった。

 

 「……絶対!次こそは絶対勝ってみせるからっ!勝ったら颯樹くんを此方に引き戻させるから覚悟していてね!

 「()()()()でしたか。残念ながら次はなくてよ?負けた貴女方にはもう用はありません」

 

 彩が堂々と宣戦布告をするも、当のオブリビオニスは興味が無いと言わんばかりに、冷たい目をしながらバッサリと一蹴した。

 

 このオブリビオニスの態度に癪に触ったのか、千聖がオブリビオニスに早足で近づいて……

 

パァァァァンッ!!!!

 

 次の瞬間、頬を叩く音がその場に鳴り響いた。しかし、千聖にとっては思いもよらぬ展開であった。何故なら……

 

 「……っ!」

 「⁉︎」

 「ソリトゥス⁉︎」

 

 頬を叩かれたのがオブリビオニスではなく、ソリトゥスであったからだ。どうやらソリトゥスは千聖の行動を予想して咄嗟に出てオブリビオニスの代わりに叩かれたようだ。

 

 当のソリトゥスは、仮面のタイプが顔の大半を覆いつくす物のため顔から外れる事はなかったが、反動はあったらしく顔から少しズレた程度で、しかも叩かれた左頬を抑えていた。

 

 当選千聖は動揺するも、その様子を見兼ねた千歌が千聖に近づいて……

 

パァァァァンッ!!!!

 

 千歌は千聖の左頬を思いっきり引っ叩いた。そしてその当人は、叩かれた衝撃からかその場から倒れて、左頬が真っ赤に腫れ上がっていた。

 

 「見損ないましたよ千聖さん。まさか貴女が舌戦でなく手を上げるなんて愚策を思いつくとは……ハッキリ言って失望しました」

 

 千歌がそう言い放つと同時に先程より冷酷な目で千聖を睨みつけた。千聖も叩かれた頬を抑えながらただ黙って俯いた。

 

 そして彩達にもう用は無いと判断したオブリビオニスは、ソリトゥスと千歌を連れてこの場をあとにするのだった。一方の彩達はそれをただ黙って見ている事しかできなかった────。

 


 

 パスパレメンバーとの話が終わって控室に戻った僕たちは、祥子ちゃんと話があると言った千歌さんと対面になるようにソファに座っていた。ちなみにこの時、控室には僕たちAve Mujicaと千歌さん、先程呼び出して合流した颯樹さんしかいないためか僕と祥子ちゃん(と他のメンバーは勿論の事だけど…)は仮面を外している。

 

 でも僕の左頬は先程千聖さんに叩かれた事もあって腫れ上がっていたけど、仮面が盾代わりになったおかげか、千聖さんのようには真っ赤にはなっていなかった。まあその時祥子ちゃんが慌てて僕の手当てをしてくれたけど。

 

 「しかし貴方も意外に無茶な事をするんですね……」

 

 僕の先程の行動を見ていた千歌さんは呆れながらため息をついていた。当然ですよ、祥子ちゃんをお守りするのが最優先だから。

 

 「……獅音、千聖の事はすまない。僕の方で後日時間を見つけて言い聞かせておくから」

 

 先程の一件を聞かされた颯樹さんは僕に深々と頭を下げていた。ちなみに颯樹さんには千歌さんが控室に移動中に何が起きたかイチから説明してくれたようで、話が行き届いていた。

 

 「さて、千歌さん。私に話があるようですが、どのようなご用件でしょうか?」

 

 しかし祥子ちゃんは咳払いをして先程千歌さんが言ってた話をするよう促した。それが話の本題だから仕方ないね。

 

 「それでは単刀直入に言います……私を、Ave Mujicaの末席に加えて貰えませんでしょうか?」

 

 千歌さんの口から出たのは、Ave Mujicaに加入希望のよう……って、マジですか⁉︎僕だけでなく他のメンバーも目を見開いているし、颯樹さんに至ってはソファから転げ落ちそうになってるし!

 

 「……千歌さん、訳をお聞きしてもよろしいでしょうか?」

 

 千歌さんの突然の加入希望に対して、祥子ちゃんは若干動揺しつつもその真意を尋ねた。

 

 「……颯樹には恩があります」

 「ほう?」

 「私は音楽の家系に産まれました。そのため、学校以外は音楽のお稽古にその大半を費やして遊ぶ暇などありませんでした。当時の私はその時、それらをする事を諦めかけていました。しかし、そんな私に光をくれたのが颯樹なのです」

 

 なるほど……千歌さんの幼少期は普通の年相応の女の子のように過ごせなかったんだ。普通に友達と遊んだり、趣味を共有したり、バカをやって大人に怒られたり……そんな当たり前の事が出来なかった、という事か。

 

 ……なんだか、それを聞くと昔の僕を思い出す。普通のように外に出して貰えなかったり、学校にも行けなかったり、友達と遊んだり出来なかったあの頃を。

 

 千歌さんの理由を聞いた祥子ちゃんは一瞬だけ僕を見て考え込んだ。

 

 「……つまり、貴女は狭い窮屈な世界から解き放ってくれた颯樹さんに恩を返すためだけに加入を志願したと?」

 「はい。それだけではありません。彼には秘密が「待て千歌」しかし颯樹……」

 「それ以上は言うな。それを言うのは()()()()()()

 「……分かりました」

 

 どうやら颯樹さんには何か抱えてる事があるようだ。でも、今の僕たちがそれを知っても、僕たちは何も出来ない。それしか出来ないのが辛く感じるよ……。

 

 「……貴女の事情は分かりました。しかし貴女がこれから踏み入れる領域は禁忌……それでも構わないのですか?」

 「構いません。颯樹の行く先が地獄であろうと、それでも()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 祥子ちゃんの忠告も杞憂に終わり、千歌さんはそうなる事を知った上で、堂々と言ってのけた。千歌さんの目は決意に満ちていた……そう感じ取れるのであった。

 

 「……分かりました。それではAve Mujicaのリーダーたる私が告げましょう。貴女のAve Mujicaの加入を認めます

 

 千歌さんの意思を理解した祥子ちゃんの口から出たのは、千歌さんをAve Mujicaのメンバーとして受け入れる事を認める一言であった。そうか、『『普通』だと当たり前に思った事が出来ない』……祥子ちゃんはそれをよく理解してるから千歌さんの加入を認めたのか。

 

 「それでは颯樹さん、貴方は虚無の生まれ変わり…ヴァニタス、Ave Mujicaとして活動する際はそうお名乗り下さい」

 「ヴァニタス……つまり僕には虚無を名乗れというわけか」

 

 虚無……それだけ聞くと何も無いようで虚しく感じる。でもAve Mujicaからしたら褒め言葉や誇りに近いだろう。

 

 「分かった。そう名乗らせてもらうよ、祥子…いや、オブリビオニス

 「ありがとうございます。颯樹さん…いや、ヴァニタス

 

 祥子ちゃんと颯樹さんがお互いのバンドネームで呼び合うと同時に握手をした。

 

 「それで豊川さん。私にもバンドネームは存在するのですか?」

 「もちろんありましてよ。実は先程の貴女との会話で、貴女に授けるバンドネームは決めましたわ」

 

 あの数分しか会話をしてないのにもう閃いたの⁉︎早いね……なるほど……これも一つの才能かもしれないね。

 

 「……オディウミス、と名乗って下さい」

 「オディウミス……私の場合は『憎悪』というわけですね」

 

 憎悪?千歌さんにはそう名付けたのはいいけど、でも何故憎悪って名付けたんだ?

 

 「憎悪に囚われ、悲しみを背負いし哀れな操り人形……それが貴女です。仮初に破滅を齎す歌い手として活動して欲しいのです」

 

 憎悪に囚われて、か……なるほど、先程の千歌さんの話で家系の都合で颯樹さんと会うまでは『普通の女の子』として過ごさなかった自分に対して少なからず憎しみがあったわけか。

 

 でもそれだけでは何かパンチが少ないな……もしかしたら僕たちにも言ってない何かがあるからそう名乗ったのか。おそらく祥子ちゃんはその『何か』を察知してそう名付けたのかもしれないな。

 

 「オディウミス…分かりました、そう名乗らせて貰います。豊川さん…いや、オブリビオニス

 「此方こそよろしくお願いします… オディウミス

 

 千歌さんも先程の颯樹と同じく祥子ちゃんと握手をした。そして祥子ちゃんは一度千歌さんと握手をやめると、今一度真剣な目つきで颯樹さんと千歌さんを見た。

 

 「それでは颯樹さんに千歌さん。Ave Mujicaに入るに当たって一言……あなた達の人生、私に下さいませんか?

 

 祥子ちゃんは前に僕に言った…いや、おそらく睦さん以外のメンバーに言ったであろう一言を颯樹さんと千歌さんに告げた。

 

 「「えぇ、仰せのままに」」

 

 それに対して、颯樹さん達は迷いなく即答で返した。

 

 この瞬間から、Ave Mujicaの世界に新たな人形が2人ほど産声を上げるのであった。しかしそれは僕たちにとって吉と出るか凶と出るか、分からないがきっといい方向に導いてくれるであろう、と感じるのであった────。




 まずは最新話の読了とお気に入り登録をしてくれた皆様、ありがとうございます。こんな拙作にお付き合いいただいた事に感謝感激です。

 次回も本編の続きを予定しております。

 今回、前話に続いて颯樹くんと一緒に登場している水澄(みすみ) 千歌(ちか)さんは今私と常日頃から関わりのある作者様…『咲野 皐月』様の作品に登場するキャラクターでございます。

 皐月さんとは事前に話は済ませており、前回から登場して、今回からAve Mujicaのメンバーの一員として加わりました。ですので、機会がございましたら千歌さんの登場する作品のURLを記載しますので、読んで頂けると嬉しいです。

 それでは、また次回。

***


【水澄 千歌さんの登場する作品】
『仮面と彩りの狂想曲』
https://syosetu.org/novel/334571/

獅音の女装回を……

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