迷子になるか、仮面を着けるか   作:なかムー

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祝!バンドリ! ガールズバンドパーティ!7th Anniversary!!!


 ……はい、皆さまお待たせしました。まず挨拶の前に、投稿日の今日はガルパ7周年を祝いまして、まずはおめでとうのメッセージから提供させてもらいました。おめでとう、ガルパ。

 さて、今回のお話はAve Mujicaの1stライブ回をお送りします。

 あと、今回は『咲野 皐月』様のオリキャラも話の終盤に登場しますので、楽しんで貰えると幸いです。

 それでは、本編をどうぞ。


Ave Mujica編 第4話

 睦さんが加入してからは、僕たちは更に綿密に1stライブまで狂いは無いか計画を確認したり、全体練習をしたり、その間にバンド名が決まるなど、特に支障なくライブ当日を望む事が出来た。

 

 そして……

 

 「此処が会場か……」

 

 1stライブ当日、僕はライブが行われる会場の前に訪れていた。場所も『G-WAVE』という、それなりの規模の大きさの会場で行われる事となった。

 

 聞けばこの『G-WAVE』…最近ではあるがプロの世界に入った、『Roselia』というガールズバンドがF(フューチャー)W(ワールド)F(フェス).でパフォーマンスを行ったステージと同じ場所であるとの事だ。この場所を僕たちのデビューの舞台にしたのは、祥子ちゃんが験担ぎを込めて此処にしたそうだ。

 

 デビュー公演という事もあって、僕はまだ緊張感を隠しきれていなかったのでただただ立ち尽くすばかりであった。しかし17:00に開場して18:00から開演するため、時間を無駄にするわけには行かなかったので、スタッフさんに予め渡された関係者パスを見せ、関係者入口から入るのであった。

 

 その後は途中スタッフさんとすれ違う際に挨拶しながら、控え室まで向かうのであった。その際、廊下の壁に貼られている、仮面舞踏会に出る際に着けられていそうな仮面と『Ave Mujica Debut Masquerade』と書かれている印象的なポスターに目が行く。

 

 【Ave(アヴェ) Mujica(ムジカ)】──それが僕たちのバンドの名前だ。祥子ちゃんが言うにはAve Mujica(僕たちのバンド)(もっと)も重視しているのは世界観のようで、メンバー全員は祥子ちゃんに与えられたステージネームと仮面を着けて正体を秘匿にしている。

 

 ちなみにバンド名とステージネームも祥子ちゃんから与えられたもので、どちらもラテン語が使われているのだ。バンド名の『Ave Mujica』も意訳で『ようこそ、私達の音楽へ』となるそうだ。ステージネームに関しては…そこは追々説明しましょう。

 

 そして入口で教えられた控室前のドアの前──ドアには『Ave Mujica 控室』と書かれた貼紙があった──に到着すると、3回ノックをして、中に居るであろうスタッフや関係者の返事を受けて中に入った。

 

 「失礼します」

 「おはようございます、獅音さん」

 

 ノックして控室に入ると、そこにはAve Mujicaの…黒と赤を基調とした衣装を身に纏った海鈴さんと睦さんがいた。海鈴さんは僕を見るなり挨拶をしてきたが、睦さんは控室のソファで自分のギターをチューニングしている最中であった。

 

 「そういえば祥子ちゃんとにゃむさんは?2人とも先に来ているって連絡はあったけど……」

 「あの2人は今ステージにいます。祐天寺さんはドラムの調子を確認したいそうで行ったようですが……豊川さんはつい先程到着して、獅音さんとほぼ同じ事を言ってきたので、祐天寺さんはステージにいると答えたらすぐに戻ると言ってステージに行きました」

 

 にゃむさんがドラムの調子を?彼女、そんな率先して動くタイプだっけ……?何か少し怪しいなぁ……

 

 「……分かりました。すぐに戻ります」

 

 僕はそう言って控室を出てそのままステージに向かった。

 

 「獅音、祥と同じ事言ってたね」

 「仲がよろしいようで」

 

 しかし僕が控室を出た後、睦さんと海鈴さんがそんな会話していたのはその時まだ知らなかったのは、別の話である────。

 

 

 やれやれ、にゃむさんの事だ。どうせこの際に動画撮影をしてまた視聴率を上げるつもりだな……。全く、そういうのは禁止だってアレほど言ったのに……

 

 「配信じゃなくって、動画!」

 「個人的な撮影は、禁止とお伝えしたはずですが」

 

 ……案の定、にゃむさん何かでかしたようだ。僕はため息を一つついて、足早にステージに向かった。そしてステージに着くと、そこにはにゃむさんのスマホを取り上げている祥子ちゃんと、自分の取り上げられたスマホを取り返そうとしているにゃむさんがいた。

 

 「遅れてごめんね、祥子ちゃん」

 「あら獅音。そんなに待たせていませ「れおこー!さきこがイジワルするんだよー!」…祐天寺さん、口を挟まないで下さいまし」

 

 ……ひとまず先に声を掛けるか。そう思い、僕はまず祥子ちゃんに話し掛けたが、途中でにゃむさんが割り込んで来て、僕に抱きつきながら泣きついてきた。

 

 祥子ちゃんは此方…というよりにゃむさんを睨んできた。僕は戸惑いながらも、祥子ちゃんに先程まで何が起きたかアイコンタクトで事情を求めた。そして祥子ちゃんも僕の考えを読み取ったのか、先程まで何が起こったか耳打ちで説明してくれた。

 

 なるほど、にゃむさんが舞台裏動画を撮影していたところに祥子ちゃんがスマホを取り上げて止めたと……。

 

 「……貴女の自業自得でしょう」

 「れおこもさきこもケチーッ!」

 

 これは完全ににゃむさんが悪い。僕は未だに抱きついているにゃむさんを押し退けながらため息をついた。

 

 「僕たちのバンド…Ave Mujicaが最も重視してるのは世界観。下手に素顔をさらせば、Ave Mujicaの世界観が壊れますよ」

 

 僕はAve Mujicaが最も重視している事を指摘しながらにゃむさんを咎めた。

 

 確かに彼女は動画配信者の一面もある。だけど、不用意に自由にさせたらリーク動画まで投稿する可能性もあるから中々目を離せないんだよなぁ……。

 

 「それに…舞台の上では貴女は祐天寺 にゃむではなくて()()()()()よ」

 

 そこに加わるように祥子ちゃんも、()()()()()()()()ではなく、A()v()e() ()M()u()j()i()c()a()()()()()()()()()()ステージに立つのだと教えを説いた。

 

 「アモーリスねえ……ねえ()()()()()()()。なんで好きな人には『孤独』って意味の名前を付けたの?」

 

 そこで仕返しをするようににゃむさんは太々しく笑いながらバンドネームの由来を尋ねてきた。

 

 ……先程も言ったように、僕たちはAve Mujicaとしてステージに立つ際は各々につけられたステージネームを名乗ってライブに望むのだ。例えば、にゃむさんのステージネームのアモーリスは『愛』、祥子ちゃんはオブリビオニス、これは『忘却』……というように、祥子ちゃんが付けたステージネームを名乗らなければならないのだ。

 

 しかしそんな事を尋ねたにゃむさんは祥子ちゃんから自分のスマホを取り返そうとするが、冷たくあしらわれてしまった。

 

 「ちょっと~」

 「先ほどの動画を消していただけますか?そうでなければお返しできません」

 「……分かったよ」

 

 そして祥子ちゃんの忠告を聞いたにゃむさんは先程撮ったであろう動画を渋々消去して、僕たちが本当に消したか確認し終えた後、全員で控室に戻るのであった。

 


 

 「何かむず痒いな……」

 

 控室に戻った直後、にゃむさんの一件の間に到着した初華さんと合流した。その後は衣装合わせをしてからリハーサルの予定であったが、初華さんの到着が少し遅かったからか、まずは睦さんと海鈴さん以外の女性陣(というより僕以外)の衣装合わせを終わらせてからリハーサルを開始する事となった。

 

 リハーサルを終えた後は、スムーズに終えることが出来たからか当初の予定より少し前倒しして開演まで休憩する事となった。

 

 そしてその間に祥子ちゃん立ち会いの元、僕の衣装合わせをする事となった。それが終わったらスタッフさんとの打ち合わせをするのであった。

 

 ちなみに僕の衣装はバンドのイメージカラーなのか、禍々しいゴシックホラーな雰囲気をよく表した赤と黒を基調とした燕尾服であった。

 

 「よく似合いましてよ、獅音♪」

 

 僕と似たような色合いのドレスを身に纏った祥子ちゃんはニッコリと笑いながらライブ衣装を着た僕を褒めてくれた。

 

 でもあまりこういう服は袖に通した事すらないからあまり慣れないし、なんか実感無いな……。

 

 「……でも一つ物足りませんわね」

 

 そういうと祥子ちゃんは一度指パッチンした。するとその直後にスタッフの1人が衣装を着せているトルソーを載せた台車を押しながら此方に来た。しかし、僕はそれ…というよりトルソーの衣装に絶句したのだ。

 

 「やはりこうでないと♪」

 

 そのトルソーには、祥子ちゃんが今現在着ているような衣装が着けられていた。しかし細部までは違っているようで、ドレスのスカートの裾も祥子ちゃんのより短く、スタッフさんの手には僕に着せるであろうガーターベルトやストッキングが握られていた。マジですか……

 

 「さぁ、獅音!」

 「イヤ、絶対着ないから…ていうかよく用意できたね⁉︎」

 

 よくスタッフさん許可出してくれたね……しかも祥子ちゃんの手にはスタッフさんから渡されたガーターベルトとストッキングが握られていて、僕に着るよう訴えかけてきた。勿論全力で断るよ⁉︎

 

 その後、僕と祥子ちゃんは数分間に及ぶ攻防を繰り広げたけど、別のスタッフさんが来て早く終わるよう注意されたので、この話は保留になって(このまま一緒保留で構いません……)、衣装合わせを終えて打ち合わせに取り組むのであった。

 

 

 「ええ…では本番、よろしくお願いいたします」

 

 スタッフさんとの打ち合わせも無事終わって、あとはライブ本番に望むだけとなった。時間を確認すると本番まであと数分、そろそろ他のメンバーも来るはずなんだけど……

 

 「さきちゃん!獅音くん!お疲れ様」

 「大人に任せちゃえばいいのに」

 「豊川さんが総指揮を執って獅音さんが補佐している以上、そういうわけにもいかないでしょう」

 

 そこに、ライブ衣装を身に纏った集団…そのうちの1人である初華さんが僕たちに労いの言葉を送りながら手を振って僕たちの方にやってきた。

 

 途中にゃむさんが愚痴ったり、それを聞いた海鈴さんから(たしな)められたりしていたが、それは聞き流すとしよう……。というか睦さんはギターを掲げながらなんだ……控室でも練習していたのがよく伝わってくる。

 

 「皆さん、こちらをお忘れなく」

 

 全員が集まると、祥子ちゃんが手を差した方に全員が其方に視線を向ける。そこには仮面を着けているマネキンヘッドが6つ置いてあった。しかもその仮面は、顔の上半分や目元、顔の下半分が覆われていたり…仮面の柄も花であしらっていたり…と一つ一つデザインが違っていたのだ。

 

 「焦りや後悔は、全てここへ置いていって…舞台に上がれば、信じられるのは…我が身ひとつ」

 

 祥子ちゃんがそう言うと、僕たち全員は仮面を手に取り、慣れた手つきで着け始めた。かく言う僕も、口と顔の目以外の左半分が隠れている仮面を着けたのであった。

 

 そして仮面を着け終わった僕たちは一度円陣を組んだ。

 

 「楽しみましょう…などと、綺麗事は申しません。私たちは所詮、同じ穴の(むじな)ですから」

 「狢……」

 

 『同じ穴の狢』、か……確かにそう捉えられても仕方ないな。だって僕と初華さんと睦さんは祥子ちゃんと個人的な繋がりはあるけど、海鈴さんとにゃむさんはビジネスライクな関係だからな……。

 

 「つまり共犯者といったところでしょうか」

 

 海鈴さん、もう少し言葉を選ぼう…と言いたいけど、Ave Mujicaの世界観や雰囲気の都合上そう表現しても可笑しくはないんだよね。

 

 「アハハッ…ヤバ~」

 「ンン…」

 

 それを受けてか、にゃむさんは他人事のように笑い飛ばしていたが、睦さんは無言で頷いていた。この2人、温度差がありすぎでしょ……。

 

 「ではまいりましょう。Ave Mujica」

 

 祥子ちゃんはそう言うと目を瞑って右手を差し出した。僕たちもそれに倣うように目を瞑り、右手を差し出す。

 

 そしてその直後に、ライブ開始のブザーが鳴り響いたのだった────。

 


 

 ライブ開始と同時に会場は真っ暗となった。そしてステージの幕が上がり終えると同時に1つのスポットライトがある一点を差した。

 

 スポットライトに照らされているのは、座りながら『グリーンスリーブス』を歌っている初華であった。流石現役のアイドルバンドのメンバーであるからか、その歌唱力は素晴らしいもので、観客達も初華の歌に魅了されていた。

 

 そして暫くすると、初華は歌い終えた。

 

 「貴女、お歌が上手ね」

 「うん?」

 

 歌い終えたと同時に、誰かが初華に声を掛けてきた。その人物は祥子であり、彼女の隣には睦がいた。しかも2人は仲良く手を握っていた。

 

 「僕の友達が好きな歌なんだ」

 

 最初に声を掛けられた一言が歌を褒めてくれた事だからか、初華は少し照れながら受け答えしたが、その表情からして満更でもなかった。ちなみに初華の普段の一人称は『私』であるが、この時に限っては『僕』と使用している。

 

 「そう…あなたもマスカレードに行くのね」

 「お姉様」

 

 睦の言った事から祥子とは姉妹…という設定のようだ。2人がそう言うと、ステージには三日月が現れた。

 

 「いけない…月がもう…」

 「あっ…待って!」

 

 三日月を見た祥子は睦を引き連れて駆け足で走り出した。それを追うように初華も2人の後を追いかけた。その直後、会場全体はまた暗くなった。

 

 此処まで見た観客達は、『ライブに来たのに何故演劇を見せられなければならないんだ……?』と疑念を抱いていた。

 

 そう思った直後、会場に明かりが照らされた。観客達も当初はライブを始めるのかと期待したが、予想だにしなかった事であった。それは……

 

 『…………』

 

 場面が変わったのか、1つの長テーブルと椅子が鎮座されていた。その周辺には……懐中時計で時間を確認しながら左右行き来する海鈴、椅子に座りながら鏡で身だしなみを整えているにゃむ、同じくにゃむの隣の椅子に座って無言で読書をしている獅音、椅子に座っている睦の髪を静かに梳いている祥子であった。

 

 「ここは?」

 

 そこに祥子に連れられた…もしくは迷い込んだのか、初華も舞台に姿を出した。しかも此処がどんな場所か理解していないのか困惑していた。

 

 「おや?新入りがまた1人。まだかすかに、人間のにおいがついていますね」

 「えっ?」

 「昨日まで抱きしめて眠ったのに、今日は別の誰かを抱きしめてる。人間って残酷」

 

 にゃむは初華の頬に両手を添えながら言い寄ってきた。

 

 「ねえ、私が抱きしめてあげよっか?」

 「おやめなさい」

 

 言い寄った直後、にゃむが抱きしめる事を提案したが、祥子に(たしな)められてしまった。

 

 「だって~」

 「人間のにおいがついたら、もらい手がつきませんよ」

 「ヤダ、困る~」

 「もらい手?」

 「あら?そのためにいらしたのではなくて?」

 

 此処で漸く話が進むと思ったらまた聞き慣れない単語が出て来たので初華は戸惑いを隠しきれなかった。

 

 「えっ?」

 「ここは捨てられた人形たちが集められた…言わば最終地点」

 

 先程まで黙って本を読んでいた獅音は、初華にそう伝えると同時に、読み終えたのか本を閉じると、立ち上がると同時に本を椅子の上にソッと置いてステージの中央にいる初華に近づいた。

 

 「捨てられた…人形?」

 「おや。自覚がないタイプで?」

 

 獅音が言い放った言葉に更に戸惑いを感じる初華は頭を抱え始めた。

 

 「いるよね~!人間に話しかけられて、自分もそうだって思っちゃうのが」

 

 そこににゃむが話に割り込んで茶々を入れてきた。その時初華に頬擦りしながら寄り添いながらであるが……

 

 「僕が人形だって?だって僕は生きてるじゃないか。君たちも!」

 

 そんな初華はにゃむを無理矢理引き離して、現に自分や今この場にいる全員が生き物のように動いているから自分達が人形である事を大声で否定した。

 

 「それは今宵の月が特別だから」

 

 それを否定するかのように祥子は未だ睦の髪を櫛で梳きながら、初華の訴えを一蹴した。

 

 「ようこそ、ロフトムーンへ。この月の光で、私たちは仮初の命を宿しているのですわ」

 

 自分達が何故動いているのか、祥子は睦の髪を櫛で梳くのを止めて、初華に近づきながら簡潔に説明した。

 

 「そんな…信じられない」

 「貴女…お名前は?」

 

 月の光で自分達が動いている事に未だに戸惑いを感じているようだ。それを見兼ねた獅音は初華に名前を尋ねた。

 

 「僕は…」

 「覚えていないのですか?では貴女の元の持ち主は?嗚呼…お友達だっけ?でも」

 

 初華は名前を思い出さないのか俯いてしまった。それに対し獅音は更に初華に追い討ちをかける。

 

 「おやめなさい。無意味な八つ当たりは大人気(おとなげ)なくてよ?」

 「おっと、これは失礼。私も似た立場なもので……」

 

 そんな獅音の行動を見た祥子は静かに窘めた。それに対し獅音は、冷静さを取り戻したからか、すぐに初華に自分の非礼を詫びた。

 

 「無理に思い出さないほうがよろしくてよ。きっと呪い殺してしまうから」

 「そんなこと…」

 「しないとも限らない」

 

 頭を抱えている初華に祥子は自分なりの慈悲のつもりか、助言を施した。初華は何か言おうとするが、海鈴にすぐに指摘される。

 

 「あんなに好きだった!」

 「でもあんたを捨てた。アハハハッ!」

 

 そして初華は必死に訴えかけるが、にゃむはそんな姿を見て滑稽に思ったのか、腹を抱えて嘲笑った。

 

 「人形にとっての死は何かご存じ?」

 「捨てられること?」

 

 それを見兼ねた祥子は初華に一つの問いを出した。初華は今の自分の現状を省みたのち、おそるおそる答える。その時、初華に茶々を入れるが如く、にゃむが『火炙り』と堂々と答えるが、にゃむに『それは魔女』と一蹴される。

 

 「愛されないこと」

 「ええ、それもひとつ」

 

 今まで黙っていた睦は、それに対して簡潔な答えを提示する。睦の答えに悪くないと感じる祥子は、彼女の髪の一部をサラッと触る。

 

 「独り寂しく置き去りにされること」

 「それも悪くない答えです」

 

 睦が答え終えて間もなくして、獅音も先程の祥子の問いに答える。祥子は人形の悲しき(さが)に理解を示した獅音を褒めるように頭を軽く撫でる。

 

 「でも愛の無い事、孤独になる事、それ以上にいちばん辛い死は…忘却ですわ」

 

 そして祥子は、観客を見渡しながら堂々とその答えを忘却だと答える。

 

 「僕は…死んだの?ここは僕たちの墓場…?」

 

 自分の死を悟ったのか、初華は自分を抱きしめながら静かに震えた。

 

 「そう決めつけるのは早計ですよ。私はあくまで最終地点と言っただけで、墓場とは一言も言ってません」

 

 そんな初華の様子を見兼ねた獅音は、彼女が勘違いしている事を静かに指摘した。

 

 「そう。先程こう言いましたわ…私達は仮初の命を宿したと……つまりは復活!今こそ復権の時!」

 

 祥子はそう高らかに宣言すると、照明の範囲が広くなった。そこにはギターやベース、ドラムとキーボードが置いてあった。それと同時にその場にあった長テーブルと椅子もいつのまに消えてしまった。

 

 そして祥子は何処からか取り出した一つの小冊子を獅音に渡すとキーボードの方に向かった。すると獅音は渡された小冊子をパラパラと捲り始めた。そして冊子を読み終えると、『理解した』と一言残し、それを脇に抱えてステージの片隅に移動した。

 

 「そして、新しいお友達に祝福を」

 

 睦もそう言い残しステージの左端に立てかけられているギターまで移動した。それに伴い、海鈴とにゃむも各々の楽器まで移動した。

 

 「あっ…」

 「さあ。仮面舞踏会(マスカレード)の前に、仮初の名を与えましょう」

 

 しかしその時初華は1人遅れたようでそのまま立っていたが、それにお構いなく祥子はこの場(ステージ)にいるメンバー人形達に名を与える事を宣言した。

 

 「ソリトゥス」

 「我、孤独を恐れるなかれ」

 

 獅音ソリトゥスはステージの片隅に立ち……

 

 「モーティス」

 「我、死を恐れるなかれ」

 

 モーティスはギターを構えた……

 

 「ティモリス」

 「我、恐れることを恐れるなかれ」

 

 海鈴ティモリスはベースを構え……

 

 「アモーリス」

 「我、愛を恐れるなかれ」

 

 にゃむアモーリスはドラムスティックを構えた。

 

 そして残るはあと2人、続け様に祥子がまた名前を宣言するのだったが……

 

 「オブリビオニス」

 

 先程まで仮初の名を与えたのは祥子の役割であったが、今回ばかりはソリトゥスが祥子の仮初の名を与える…というよりそう宣言した。

 

 「我、忘却を恐れるなかれ」

 

 祥子オブリビオニスはソリトゥスにそう言われると、キーボードの鍵盤に静かに手を添えた。そして、今度はオブリビオニスとソリトゥスは一度目を合わせた。

 

 「「ドロリス!」」

 「我、悲しみを恐れるなかれ」

 

 2人は初華の仮初だが新しい名前を堂々と宣言した。初華ドロリスはいつのまにか中央に移動していて、そこに立てかけられているギターを構えた。

 

 ちなみにドロリスはこの時、名前を与えられた瞬間、此処に来た当初とは打って変わって表情に変化が現れた。

 

 全員が楽器を構えること数十秒後、ライブで披露する曲のイントロが流れてきた。その後は30秒近く続いて流れてくるのであった。そして……

 

 「…ようこそ。Ave Mujicaの世界へ」

 

 ドロリスがそう言うと同時に、先程と同じようにイントロが流れ始めたが、先程とは違いテンポも高く、Ave Mujicaの世界観に似合うようなBGMが流れるのであった。

 

 その後は、ギターやベースとキーボード腕前やドラムのパフォーマンスなども相まってか、観客をAve Mujicaの虜となったのだ。

 

 そしてライブが終わると…観客席からAve Mujicaを称賛するように拍手が鳴り響くのであった────。

 


 

「……すごいな」

 

 

 ──口から漏れ出たのは、紛う事無き感服の念だった。

 

 

 先日自宅の郵便受けに届いた、一つの白い封筒。そこに書かれていた流麗な文字と共に、そっと同封されていた今回のライブの観覧チケット。それを受け取った僕は、事務所の方に有給休暇を申請してライブ会場に足を運んでいた。

 

 最初は何故これがと疑問を覚えたが、ライブを観覧し終えた後に渦巻いた感情は……ただただ感心と畏敬の念しか無かった。

 

 

「結成してからそこまで期間は経ってないだろうに、よくぞここまで……」

 

 

 同じ音楽の業界に携わる者として、今さっきまでライブを行なっていたAve Mujica(バンド)の成長ぶりは、目を見張る物があった。聞けば結成からライブを行なうまでの期間はそこまで万端では無かったとの事らしいが、実際にその演奏を聴けばそんな偏見は何処へやら。

 

 仮面を着けてステージに立ち、各々が与えられた役割の元に音を奏でる……僕の興味を掻き立てるには、これ以上無いほどの逸材だ。

 

 

「余韻に浸っている所申し訳ありません」

「誰だ、名を名乗って貰おう」

「それは構いませんが、ここは少し目立ちます。私に付いて来て貰えないでしょうか。身分はその時にでも」

 

 

 僕は突如として現れた、黒いローブを身に纏った人物に声を掛けられた。それを受けて誰何を問うたのだが、その主はこの質問を受け入れこそしたものの……場所を移さないかと提案をして来た。ただ、ローブのその下から覗くエリカの花を模した仮面が気になっては居たけれど。

 

 

 そうして謎の仮面の人物に連れられて、会場の通用口を進んでいると、同じ様なローブを身に付けているもう一人の人物がそこに立っていた。

 

 ……だが、ここまで案内して来た者と今僕の前に腕を組みながら立っているその者の違いと言えば……着けている仮面に象られている白いヒナゲシの花と、身に纏っている衣装だろうか。そんな事を思いながらも、僕は連れて来た者と一緒にその人物の前で立ち止まった。

 

 

「……ありがとう、ソリトゥス」

「これくらいお易い御用だよ、オブリビオニス」

「……さて。説明して貰おうか」

「ええ、ですが先ずは自己紹介からですわ」

 

 

 そう言って僕の目の前で立っていた者──口調と履き物がスカートな所を見るに、女性だろうか──は、カーテシーをしつつも自らの身分を明かした。……そう言えば、確かさっきのライブでは、名を忘れた人形たちに新しき名を与える役割を演じていたはずだ。

 

 ……となると。この人物が、リーダーか。

 

 

「御機嫌よう、私……オブリビオニスと申します。ガールズバンド【Ave Mujica】のキーボディストとバンドリーダーを兼任していますわ。以後お見知り置きを」

「……それじゃあ、私も」

 

 

 オブリビオニスが挨拶を済ませた直後に、ソリトゥス(最初は真名か分からなかったが、彼女もそう呼んでいる事からそうなのだろう)は先程まで被っていたローブのフードを取り、仮面を着けた姿を僕の前に晒した。

 

 

「私はソリトゥス。Ave Mujicaでは副リーダーを担当しています。よろしくお願いします」

「オブリビオニスに、ソリトゥスか。よろしく頼む」

「……さて、この度は私たちのバンドの門出の舞台にお越し頂き、本当に感謝していますわ。招待状は無事にお手元に届いたみたいで何よりです」

 

 

 ……そうか。通りで綺麗で達筆な字だと思ったが、どうやら招待状の送り主は……目の前にいるオブリビオニスらしい。だけどこれはほんのご挨拶。僕が気になるのは、今回この状況に至った経緯だ。

 

 

「(祥子ちゃん、そろそろ良いんじゃない?)」

「(……ええ、頃合ですし良いでしょう)実は貴方の実力と人望を見込んで、私たちからある申し出をしたいと思い立ち、招待状を使ってお呼びしたのです」

「ある申し出?」

「その前に。これからお世話になる方の前で、仮面を着けたまま本題に入るのは些か失礼に当たります……」

 

 

 そう言ってオブリビオニスは、自らの顔に着けていた仮面をゆっくりと外して素顔を晒した。それに続く様にソリトゥスも仮面を取り、二人並んで僕の前に綺麗に立って見せた。

 

 

「改めて。私は豊川(とがわ) 祥子(さきこ)

「僕は雨宮(あめみや) 獅音(れおん)

「私たちAve Mujicaに……貴方をスカウトしたいのです」




 まずは最新話の読了とお気に入り登録をしてくれた皆様、ありがとうございます。こんな拙作にお付き合いいただいた事に感謝感激です。

 今回のライブシーンは、書いてて楽しかった。特に演奏前の演劇の場面。

 アニメを観ていた事もあって、

 あと今回は『咲野 皐月』様のオリキャラ、『盛谷 颯樹』くんも登場致しました。皐月様、ありがとうございますm(_ _)m

 ちなみにパス病みシリーズが主でありますが、マイゴとムジカをメインとした『仮面と彩りの狂騒曲』の設定での登場となりました。内容が気になる方はURLを記載しておきますので、其方も併せて読んで貰えたら幸いです。

 そして次回は、このお話の続きをお送りしたいと思います。

 それでは、また次回!

 ※ちなみに前回開催したアンケートの結果は、獅音の女装回は確定となりました。此方は構想を練って、執筆が終わり次第投稿させて貰います。




【咲野 皐月様の新作】
『仮面と彩りの狂騒曲』
https://syosetu.org/novel/334571/

獅音の女装回を……

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