終末街の迷宮   作:高橋五鹿

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最終話 『メガ・サーペント vs. ギガント・トード』

 心の奥底の風景。

 これを見るのも三度目だったかな?

 

 ここはカオスの心の中か。

 

『歪みの収束を押し止め、抗う道を選んだのか。それは滅びよりも辛い、苦難の道であるかもしれぬのに』

 

 ふむ。これはコズミック・ディザスターとしての意思かな?

 

『かもな。でも、何も知らずに死ぬよりも、本人たちに選ばせてやりたいじゃないか』

 

『そうだな。お前を迷宮の果てに招いたのは……やはり間違いではなかったぞ、オロチ――』

 

 最期のそれは、ヒュドラとしての言葉だったようだ。

 

 あばよ、ヒュドラ――

 

 

*

 

 

 気付けばボロボロになったドラッグストアの前に立っていた。

 冷凍食品やチープな惣菜で飲むのも、たまには悪くないよなあ。

 薬局見て思い出すのがそれなのは、我ながらどうかとも思うが。

 ウィスプに連絡は……別にいいか。

 セレネなら状況を把握しているだろう。

 

 東へ向けて歩く。

 コンビニを通り過ぎて、しばらく行ったところでモニクと合流した。

 

「終わったのかい? アヤセ」

「ああ……」

 

 そして、魔王城とか呼ばれているショッピングモールへと帰ってきた。

 西側入口には、コボルドたちと大勢のネメア人が詰めかけている。

 先頭には、エーコ、ブレード、セレネ、ハイドラ、セルベール、ローグの姿があった。

 オロチオクテットの八人は全て生還し、ここに再び集結した。

 ざわつく皆を見渡すと、示し合わせたようにしんと静まり返る。

 

 そして俺は……皆に向けて言う。

 

「じゃ、《剣の超越者》はこれで解散ってことで」

 

「早(はや)っ!」

「短(みじか)っ!」

 

 ハイドラとエーコが同時に反応した。

 単なる間に合わせの急造パーティだからな。

 音楽性の違いで解散です。

 

 超越者なんて俺には過ぎた力だ。もっと地道に生きていきたい。

 チェーン店のメシとかに、幸福を見いだせる人間でありたい。

 分不相応に舌が肥え過ぎても家計を圧迫して…………話が逸れたな。

 

「皆お疲れ様、そしてありがとう。固い挨拶なんて別にいらないだろ?」

 

 魔王軍から歓声が上がる。

 いやお前らも解散しろよ。

 

 

*

 

 

 ――しばらくの日が過ぎた。

 

 セルベールは神殿と協力して東の森の開拓計画を進めているらしい。

 コセンも舌を巻く有能さなのだとか。

 治世の能臣という言葉が脳裏をよぎる。

 

 ブレードはいつも通りだ。

 あいつはそこに居るだけで治安が安定するからな。

 始まりの街にとって、得難い人材だろう。

 

「なあ~、スネーク~。領地を治めるとか、お前が替わってくれよ~」

 

「みんなお前に期待してんだよ。あと皇帝陛下が自治を認めてんのもお前に対してだからな」

 

 オロチ信仰はさておき、俺という個人に民衆からの人気はない。

 別に泣いてないし。

 ハイドラのカリスマがちょっとおかしいだけだ。

 ネメア帝国における美女の基準が、こいつみたいなタイプだからってのもあるんだろう。

 

「でもあたしは……。超越の力に至って不老長寿で事を成すとか、それは違う気がするんだよな。それってヒュドラとか、今までの超越者と同じじゃないか」

 

「俺は別に、お前が超越者になんかならなくてもいいと思うけど」

 

「だ、だよな!」

 

 なんとなくハイドラは、人として一生を終えるんじゃないかという予感がある。

 不老長寿の超越者とか、こいつには似合わない。

 シュウダとコセンがそうであったように、その心意気は誰かに引き継がれていくのだろう。

 はっきりとした言葉や目的として伝えられずとも。

 

 そういえばローグの姿は見ない。

 なんでも新大陸を探し求め、封鎖世界の外に旅立ったとか。

 ドゥームフィーンド・オリジンの肉体とはいえ、無茶苦茶するなあ……。

 名前を変えても、また新たな英雄伝説を後世に残しそうである。

 

 

*

 

 

 魔王城から西にしばらく歩き……。

 始まりの街のコンビニエンスストアに立ち寄った。

 コボルドレギオンが周囲をうろつくこの店は、街で最も安全な場所かもしれない。

 

 聞き覚えのある入店チャイムが鳴り響く。

 レジでは魔王軍総司令官が椅子に座り、店内放送の音楽を聴きながら駄菓子を食いつつ、のんびりと読書をしている。

 

「らっしゃーせー」

「こんなとこで何してんすかセレネさん……」

「見て分かりませんか? 接客ですけど」

 

 分かんねーよ!

 ヘビースター食いながら接客するコンビニ店員がいてたまるか!

 

「ハイドラが探してたぜ……」

「私にとってこの店の運営は、領地経営よりも大事なことです」

 

 とんだ魔王の右腕もいたもんだ。

 

「運営、してるの……?」

「そうですよ。なにか飲みます?」

「ジューシーホットチキン」

「先輩にとってそれは飲み物なんですか?」

 

 などと言いつつフライヤーに肉を放り込むセレネ。

 本当に作んのかよ!

 というかそのフライヤー本物なのかよ!

 

「だいたい魔王城に顔を出せとか、地球に帰る先輩に言われたくないです」

「いや、こっちにも普通に来るつもりだけど……」

「そうですか。ここには最低でも週二回、六時間ずつは顔を出してくださいね」

「エラく具体的な提案だな……」

 

 揚げたてのホットチキンを俺に差し出しつつ――

 

「先輩と……シフトが被っていた時間です」

 

 相変わらずの無表情で、最上さんはそう言った。

 

 

*

 

 

 あれから地球はどうなったかというと――

 

 世界各地の封鎖地域では、たまにダンマスの侵攻もあるらしい。

 だが、人間も弱くはない。

 一進一退を繰り返し、やがてはその日常に慣れていく程に、人類は強(したた)かだった。

 

 終蛇はアネモネに預けてある。

 ショッピングモールのオペレーションセンターにて、ハトホルと三人で近況を話す。

 

『理の歪みは確かにあるが、もう終末化現象が起こるほどではない。時間をかけて収束させていけば、ヒュドラは完全消滅するだろう』

 

「封じられた魂って、後で復活したりすんの?」

 

「魂とは故人の記憶に過ぎないんじゃよ。ヒュドラが力を失えば九つ首の魂もまた、ただの記憶に戻るじゃろう。いや……、カオスとクロノスだけは、実体の無い神になってたんじゃったかの?」

 

 あいつらか……。

 別に惑星ネメアに害のある存在ってわけじゃないからな。

 いつかその力が世界に還元され、人々の信仰の対象になるくらいは、別にいいんじゃねえの。

 

『惑星ネメアはこの先、知的生命体の発展が停滞する可能性がある。理の収束の影響によって、文明の発展、大きな力の発生が抑制され続けていくのだろう。何百年、あるいは千年でも、今のような時代が続くのかもしれない』

 

 しばらくの間、ずっとあの中世ファンタジーみたいな時代が続くのか。

 

「のどかでいいんじゃない?」

 

「それはどうだかのう……。いや、汝は分かってて言っておるのじゃな」

 

 人間どんな状態だろうが、それぞれに悩みや争い事は尽きないからな。

 現代地球とはまた違った問題や苦難が、あの星を待ち受けているのだろう。

 

 でもそれはその時代に、そこに住んでる奴らが解決すればいいさ。

 

 地球の超越者や眷属たちも、多くが新世界に旅立ったらしい。

 やはり、連中からすると向こうのほうが魅力的なのだろうか。

 アネモネとハトホルも『向こうのほうがむしろ心配になった』と言い残し、旅立っていった。

 地球も依然として混沌なままだが、百頭竜程度の脅威で超越者は動かない。

 確かに向こうのほうが不安要素は多いのだろう。

 

 いつかは《終わりの迷宮》を塞がなければならないかもしれないが。

 今じゃなくていい。

 それこそ百年くらい先でも構わないだろう。

 そのことはアネモネとハトホルに頼んである。

 これで、俺に何かあっても問題あるまい。

 

 

*

 

 

 モニクはまた小さいモニクに戻っていた。

 超越者化で一時的に昔の姿になってただけだからな。

 冥王様のやり直しはこれからだ。

 モニク先生の今後にご期待ください。

 

 エーコはいつも忙しそうだ。

 他の封鎖地域からの出張依頼が山のように溜まっているらしい。

 あのときのふざけた力は超越者化を解除した今、もちろん使えない。

 だから、封鎖地域の解放は簡単なことではないのだ。

 エーコさんの戦いもこれからであろう。

 今後に以下略。

 

 俺?

 俺は……もういいだろ……。

 スマホに届きまくるメッセージを、うんざりしながら斜め読みする。

 

「仕方ねえな。少し手伝ってやるか……」

「そうだね。じゃあ行こうか、アヤセ」

 

 少しだけ背が伸びたモニクは、食堂の椅子から立ち上がった。

 

 

*

 

 

 俺とモニクは境界線を越えると、アマテラスが用意したヘリに乗り込んだ。

 ヘリの中で鬼塚さんに挨拶をする。

 

「おはようございます、鬼塚さん。今日はよろしくお願いします」

「ご協力ありがとうございます。今回の件は、もう『偉大なる大蛇(メガ・サーペント)』に頼るほかなく……」

 

 メガ……なんだって?

 俺のクソダサ二つ名(ネーム)、より酷い方向に進化してない?

 

 

*

 

 

 出向いた先の街では、既にエーコが待機していた。

 状況の説明……は聞くまでもない。

 目の前に見えるのは、ビル群を飲み込むかのような――

 天を衝くかの如き、巨大な『カエル』だった。

 

「うっわキッモ。やっぱ俺帰ってもいい?」

「あはは……言うと思った」

 

 鬼塚さんの顔が引きつった。

 なんとかして引き止めてくれとエーコにジェスチャーを送っている。

 本当に帰ったりはしないから安心してくれ……。

 まあ、状況は安心とは程遠いことになっているが。

 

「あれは《百頭竜》タニグクだな。……アヤセ、あのカエルは今も巨大化を続けている。迷宮そのものを体内に吸収しているのか。興味深いな」

 

「まさか……あいつの体内の迷宮に潜って倒せ、とか言うんじゃないだろうな?」

 

「他に方法があるかい? あと四十時間ほどでこの街の迷宮を全て飲み込み、七日も放置すれば周辺の地域が壊滅するぞ」

 

 エーコもやや引きつった笑みになってカエルを見上げる。

 

「うわあ……。モニクさん、あれずっと放っとくとどうなるんですか?」

「もしあれが、他の封鎖地域の迷宮すらも吸収できるのだとしたら――」

 

 だとしたら――?

 誰かがゴクリとツバを飲み込んだ。

 

「人類は滅亡する」

 

 なんだってー。

 

 世界は今や、巨大なカエル(ギガント・トード)の前に風前の灯である。

 

 ――『メガ・サーペント対ギガント・トード』。

 

「勝手に戦え……」

 

 空に湧き立つ雨雲を見上げながら、他人事のように俺はつぶやいた。

 

 

 

 

 

  終末街の迷宮 ~完~









最後までお読み頂きありがとうございました。

『ダンジョントレダーズ』のSteamストアページを公開しました。
※ダンジョントレダーズ(Dungeon Treaders)は次作、ダンジョンセトラーズ(Dungeon Settlers)のゲーム版です
コズミック・ディザスターに抗う新たな物語、どうぞよしなに。
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