終末街の迷宮   作:高橋五鹿

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第24話 ドゥームダンジョン

 ショッピングモールの食堂に戻ると、本体の箱を開ける。

 まずは充電しなければ始まらない。非常用コンセントから引っ張ってきてある電源と接続し、バッテリーの充電を開始した。

 その間にゲームの説明書を読んでおこう。

 

 コーヒーカップを調理場のカウンターから持ってきてパイプ椅子に座ると、食堂メニューのコーヒーを召喚する。落ち着く香りだ。俺は説明書のページをめくった。

 

 このゲーム、『ドゥームダンジョン』は三人称視点、つまりプレイヤーキャラの背中を見ながら操作するアクションRPGであるらしい。

 

 アクションなのか……。RPGなら時間をかければクリアできるが、アクション要素があると難しいかもな。別にクリアするのが目的ではないが、俺の欲しい情報が揃わない可能性がある。

 

 いわゆる剣と魔法の世界で、ダンジョンを潜って敵と戦い強くなっていくわけか。

 操作するプレイヤーキャラの説明がある。

 

 一人目のキャラは正統派イケメン、剣を持ち弓を背負った冒険者。名前はレンジャー。

 近接広範囲攻撃のロングソードと遠距離攻撃の弓矢で戦う、初心者にも扱いやすいキャラだそうだ。

 ページをめくる。

 

「ブフォッ!?」

 

 そこにはハイドラがいた。

 

 リアルでコーヒーを噴いてしまった。リアルでコーヒーを噴く人なんておらんと思ってたのに。

 飛び散ったコーヒーを慌てて《魔力化》で消す。

 便利だなこの魔法! リアルでコーヒーを噴いたときに便利な魔法。

 

 んなことより説明書に載ってるハイドラだよ。

 これか~。あいつのツラの元ネタは……。

 

 なになに?

 名前はパラディン。

 剣による近接攻撃と、金属鎧による高い防御力。更には回復魔法を使いこなす高潔な聖騎士。

 

 あいつが聖騎士ってガラか。

 顔は確かに女騎士っぽいが。強気そうな吊り目の辺りとか。

 回復魔法とかあいつ使えんの?

 いやその前に鎧着てないし剣も持ってないから無理だろうな……。

 

 あ、そろそろ一割くらいは充電できたか?

 コードつないだまま本体のセッティングを済ませてしまおう。

 

 携帯型ゲーム機本体の設定を済ませると、さっさとゲームを起動させた。

 説明書はおまけみたいなもので、読まなくても問題はない。ダウンロード版を買った人はそもそも読まないわけだし。

 ダウンロードコンテンツとかがなかった、昔の時代はまた違ったのかもしれないけどな。

 

 液晶画面にメーカーロゴが映り、オープニングデモが始まる。

 冒険者たちが戦い会話する華やかなデモシーン。含むハイドラ。全然キャラ違うやんけ。

 画面にパラディンが映るたびに現実に引き戻されてしまう。

 こいつ……人気はあるんだろうなあ。ツラはいいから……。

 

 続いてプレイヤーセレクト画面。

 パラディンを選ぶのだけは止めておこう。気が散ってしょうがない。

 

 俺はこのおっさんの盗賊を選ぶぜ。

 名前はローグ。

 素早いけど軽装で攻撃力も防御力も低め、おまけにリーチも短い。

 その代わり罠外しとかの特技があるみたいだな。

 戦闘スタイルが俺に近いので、なにかの参考になるかもしれない。

 

 拠点となる街を適当にうろつく。

 最初は買い物もほとんど出来ないみたいだな。ダンジョンへ行くか。

 

 ダンジョン内は石壁で出来ていた。

 今朝入った本物のほうの地下迷宮とは雰囲気が違うな。あっちは自然洞窟みたいなゴツゴツした造りだが、ゲーム内のそれは人工的な宮殿のようである。

 柱とかパルテノン神殿に似てるな。パルテノンに石壁をくっつけたらこんな感じになるんじゃないだろうか。

 

 画面端には周辺のミニマップと、敵と思しき赤い光点が表示されている。

 これは俺の《鑑定》に似ているな。

 

 ダンジョンゲームは地図無しでの攻略は厳しい。現実でも複雑な地下洞窟で迷ったりしようものなら、生きて帰るのは極めて難しいだろう。

 だから鑑定による疑似マッピングが重要なのだ。地上の封鎖地域と同じ広さだと思うと気が遠くなりそうだが、別に隅から隅まで踏破する必要はない。

 

 敵の発見に於いても、不意討ちを未然に防ぐ鑑定の重要性は高い。ハイドラやモニクのような、俺との実力差があり過ぎる相手には通用しないが、互角の相手に先制攻撃される可能性はほぼ無いと言ってもいい。

 

 このゲームにおいてもその重要性は同じことだろう。

 扉の向こうや曲がり角の先に居る敵が事前に分かる。油断しているところに奇襲を受けることは、原則として無いわけだな。

 敵の居る部屋の扉を開けてみる。

 

 そこには三体の犬人間が居た。

 

 またお前らか!

 まあこれはゲームだ。慌てることなくボタンを押して、武器のショートソードを抜く。ザシュザシュと効果音を響かせながら斬り付ける。ちょっと硬いが一体目を倒した。

 攻撃しながら室内に踏み込む形になっていたので、残る二体が左右から迫る。走り回って位置を調整しながら二体とも倒す。あっさりしたものだ。

 

 最初の敵にしてはちょっと硬いのが気になるが、多分レンジャーとかを選んでればもっとラクに倒せたんだろうな。ローグの強みは別のところにあるのだろう。

 

 戦闘ログメッセージに、報酬のゴールドや経験値、モンスター図鑑への登録といった情報が流れている。

 メニューボタンはどれだ? これか。

 ステータス情報が出るメニュー画面から図鑑の項目を選ぶと、今しがた倒した犬人間の情報が表示された。

 

 犬人間は『コボルド』というのか。

 なんか他のゲームでも見たことあるから、俺でも知ってる名前だった。

 

 名を知ることにより、俺の中で正体不明の生物に明確な形が与えられる。

 超常のものに立ち向かう人類の知恵。

 俺が知りたかった情報、敵の名前を無事に得ることが出来た。

 

 フレーバーテキストに記されたコボルドの情報にも目を通す。「小柄な種族だが、大きさに対して腕力や体力は高い。とはいえ、人間との体格差を覆せるほどではない。知能は低め」と、記されている。

 実際に戦ったヒュドラ生物のコボルドとほぼ同じ特徴だ。

 

 ハイドラは、迷宮内に配置された敵がこのゲームのモンスターと同じだと言っていた。

 でも地上の生物だって地下から出てくるのだから、それらも混ざっているだろう。また、ハイドラの知らないヒュドラ生物も当然存在すると考えるべきだ。

 

 だが、大部分の敵はこのゲームと同じなのであれば、実戦の前に攻略情報を入手したも同然である。

 思わず口が緩む。

 

 待ってろよ……地下迷宮。

 お前が埋め立てられるのはそう遠くない未来になりそうだぞ。

 

 

 

 

 一晩明けて、再び北の地下迷宮に挑む。

 

 最初の部屋には相変わらずコボルドが居た。律儀に補充したんか……。

 俺の実際の攻撃力はゲーム中のローグよりもかなり高い。

 さっくりと駆除した。

 

 昨日はいきなりハイドラが現れたので部屋の中を吟味しなかったが、部屋の奥には入り口と同じような横穴が開いており、更に何処かへと通じている。

 そこに進んでもいいし、元の通路を奥に行ってみてもいい。

 

 さて、方角的にはどちらに進むべきか。

 西の隣街。巣の主が居るならあちらが本命だとなんとなく思う。最初の出入り口があった場所だしな。俺は出入り口を直接見てはいないが。

 

 ただ、俺はヒュドラや中ボスに直接遭遇したら多分そこで終わる。

 最終目標がヒュドラといっても、今はモニクが地下迷宮に入るための手段を探すほうが優先順位が高い。あと俺自身も、段階的に弱い相手から《継承》を進めるべきだろう。

 

 なら逆方向だな。

 東の方へ進むように探索してみるか。最初の太い通路は真っ直ぐ西へ向かっているから無しで。

 部屋の奥の通路に進んでみよう。

 

 部屋の奥はまた部屋だった。

 そこに居た敵はアメーバのような不定形生命体……『スライム』である。

 

 ゲームだと雑魚だけど、本来はもっと強いモンスターだったなんて話を読んだことがある。でもこいつはゲームに出てくるスライムを模倣したヒュドラ生物なんで弱い。

 あっさりと駆除。

 

 もしドゥームダンジョンをプレイしていなかったら、深読みし過ぎてなかなか戦闘が始まらなかったと思う。俺はそういう性格だ。

 ドロドロのアメーバ状生物が、バールで殴って倒せるとか思わないじゃん……?

 地面を這ってたので、手斧は使わずに収納からバールを出して倒した。

 

 その部屋から更に別の横穴を進む。

 最初の通路よりは少し狭い、別の通路へと出た。

 

 他の室内に、少し大きめの生物反応がある。多分アレだな。

 室内に踏み込むと豚の頭部に太った身体、粗末な衣類を身に纏い槍を装備した生物。すなわち『オーク』が居た。

 登場する物語によって、強さにだいぶブレがある種族という印象だな。でもドゥームダンジョンでは雑魚だ。

 

 オークの身長は人間程度。力は人間より強い。先月までの俺では勝てなかっただろう。だが、数々のヒュドラ生物の命を継承した今の俺の敵ではなかった。

 それに、パワータイプや長い武器を使う相手は、俺にしてみれば比較的与し易い。

 

 その後も通路や部屋を進み、コボルド、スライム、オークを駆除して回った。

 そして問題の敵に遭遇する。

 

 その部屋に居たのは一体の人型ヒュドラ生物だった。

 冒険者のような服装に身を包み、小剣と盾を装備している。

 ドゥームダンジョンにおける名前は『シーフ』。プレイヤーキャラであるローグと同等の能力を有し、序盤の強敵ともいえる存在である。

 

 ただ、鑑定により読み取れる脅威度はさほど高くない。元々俺はドゥームダンジョンのローグよりも強いのだ。問題なく倒せる相手ではある。

 あとは俺の覚悟次第か……。

 

 部屋に踏み込んで声を上げる。

 

「おい、俺の言葉は分かるか?」

 

 部屋に入った瞬間にこちらに気付いたシーフは、声をかけられて少し動きを止めたが、すぐに右手でショートソードを引き抜いた。左手には小型の円盾、バックラーを構えている。

 

 やはり言葉は通じないのか……。

 ハイドラは、俺以外の人型ヒュドラ生物が言葉を喋れないと言っていた。俺は人間であるからして、ハイドラ以外の人型は言葉を喋れないということになる。

 例外はいるかもしれないが、こんな出入り口付近であっさり見つけられるヤツがそうだとはとても思えない。

 

 明確な敵意。倒すしかない。

 

 シーフは間合いを詰めてくると左手のバックラーで殴りかかってきた。無意味は承知で右手の手斧で迎え撃つ。

 甲高い金属音と共に火花が散った。

 右手のショートソードが迫る。俺にはロクな防御手段が無い。バックステップで間合いの外に逃げた。

 

 今まで獣もどきの相手に力任せの戦いをしてきたツケか。

 身体能力では勝っているのに、どうやって倒せばいいのかイメージが湧かない。

 水魔法を使えば簡単だが、自分と同じような短い得物の相手に慣れておくいい機会かもしれない。

 そして、人型に止めを刺すことにも慣れなければならない。

 俺はこのシーフを手斧で倒すことにこだわった。

 

 時間にして数分。随分長くかかったように感じたが、ついにシーフを倒した。

 相手の右腕を斬り裂き、こちらの攻撃を防ぎ切れなくなったところで首を三分の一ほど刈ったのだ。

 

 俺もショートソードの攻撃を何回か腕に受けてしまった。

 シーフだった光の粒子が俺に吸い込まれるなか、袖をまくって傷口を確認する。

 血は既に止まっていた。これも継承の力だろうか。

 

 これではどちらが怪物か分からないな……。

 でも感傷に浸るほどのことではない。そんな段階はもう過ぎてる。

 むしろ傷の治りの早さに感謝していた。包帯くらいは収納の中に用意しているが、怪我をしたときの回復手段は持ち合わせていない。

 

 頃合いか。

 この先の様子だけ確認して、もう戦わずに帰還しよう。

 

 すこし通路を奥に進んだ先の部屋で、未知の敵を発見した。

 またも人型。ただし外見は腐乱死体。どう見てもゾンビである。

 

 見た目は酷いが、なんだか非現実的な腐りっぷりでそんなに怖くない。

 手斧の攻撃が効くのかどうかという意味では強敵かもしれないが、動きは遅い。

 映画やゲームのゾンビとかも半ば記号化してるので、見た瞬間怖いというものでもないからな。

 

 思えば大災害直後は、いつこの街にゾンビが出てくるのかと妄想を繰り返していたものだが、とうとう現物が出てきた。

 ただ先月考えてたのとはちょっと違う。

 特殊ウイルスで大発生とかそういった経緯を経たものではなく、恐らくは単なるゲームの敵キャラと思われる。

 

 しかし俺は、ドゥームダンジョン内でこの敵に会ったことがない。

 ゲームとは関係ない敵の可能性もあるが、多分攻略がまだそこまで進んでいないだけだ。

 

 そこまで考察すると、ゾンビに見つかる前にそっと引き返した。

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