終末街の迷宮   作:高橋五鹿

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第34話 アマテラス

「その組織……だっけ。どうして俺の地元がラスダンだと?」

 

 あの街に誰も潜入していないなら、何を理由にラストダンジョンと判断したのか。

 

「地中を調べられる異能者がいてね。所属地域が違うから私は会ったことないんだけど、封鎖地域には入れない人なんだって」

 

 境界線の外側からダンジョンを透視できるのか?

 しかもあの街のすぐ外に居たのか。

 

「ダンジョンの構造とか分かるんなら話を聞いてみたいな」

「細かい道とかまでは流石に分からないらしいよ。しかも……」

 

 しかも?

 

「終わりの街のダンジョンだけ、内部がほとんど見えないらしいの。ダンジョンの下にあるはずの地層もはっきりしなくて。規模、性質ともに他とは全く違うんだって。まだ国内の封鎖地域を全て調べたわけじゃないけども」

 

 うーむ。

 この街、剣の街のダンジョンが百頭竜の部屋で行き止まりだというのなら、確かに終わりの街のダンジョンよりも小規模なイメージだ。

 いや、終わりの街のほうがおかしいのか。俺の感覚も麻痺してる。

 

 ダンジョンの広さ自体は、いずれの封鎖地域も複数の市区町村にまたがってるから同じようなものだろう。

 だが終わりの街のダンジョンだけ規模……恐らくは深さが不明と。

 それは俺も同感だ。

 人工構造の妙なエリアまであるし、ドゥームダンジョンの敵はまだその半分も拝んでいない。

 

「各地の封鎖地域をなんとかしないと、天照(アマテラス)も終わりの街攻略には動けなそう」

「アマテラス?」

「封鎖地域対策組織の名前」

 

 アマテラス……。

 またえらくファンタスティックな名前が出てきたな。

 人のことは言えないけども!

 

 封鎖地域から出ると、そいつらに拉致られて強制雇用される可能性があるのか。

 そしたら「アマテラスのオロチです」って名乗らなきゃいかんのか。罰ゲームか。

 

 よし、この剣の街の外には絶対に出ない。終わりの街に帰る方法はなんとか考えよう。

 

「どしたの難しい顔して?」

「大丈夫なんでもない。ラスダンがあるから《終わりの街》なのね納得した」

 

「そうそう。最初は《入り江の街》だったんだけど、ダンジョン調査の後に変更されたんだよね」

 

 入り江の街? 最初は地域の特徴由来で名付けられてたのか。

 そう考えると《剣の街》ってのもけったいなコードネームだよな。

 まあ、アマテラスとか名乗る奴らが考えた名前だからなあ……。

 エーコが口ごもってた辺り、ちょっと恥ずかしい由来なのかもしれん。

 

「やっぱり転移で戻る方法を探すしかないか。俺、今日からダンジョン潜るわ」

「ホントに!? 一緒に行ってもいい!?」

「願ってもない。助かるよ」

 

 モニクが地下迷宮に入れないことを考えれば、これほど頼もしい味方は居ない。

 

「凄い! パーティでダンジョン攻略なんてもしかしたら国内初だよ」

 

「バックアップが付くとはいえ他の人も攻略はワンオペなのか。人員不足だもんな」

 

 アマテラスはやはりブラックだった。ブラックはコーヒーで充分なんだが。

 

「一応ヒュドラ毒は、防護レベルAの化学防護服でも防げるの。ただそれ着てダンジョンで戦うとなると……。海外じゃそういう特殊部隊も編成されてるらしいけどね」

「マジかすげえ」

 

 防護レベルAってのは確か気密服とか着るやつのことだよな。

 濾過式ガスマスクも通用しない危険地帯に潜入して戦うのかよ。

 制限時間は一時間くらいだろうか?

 正攻法でのダンジョン攻略は難しいだろうが、異能者込みのチームなら色々できそうではあるな。

 

 十年後くらいには『午後の映画ショー』で活躍してそう……。

 それまでに人類が滅亡してなければの話だが。

 

「じゃあ探索目標は転移の罠だっけ? それを調べることだね」

「そうだね。俺が飛ばされてきた場所には何もなかったけど、一応また調べる必要があるかなあ」

 

 そうすると、バジリスクをなんとかしないといけない。

 

「私は終わりの街から剣の街に飛ばされるっていう、罠の意図が気になるな」

「迷宮の中心部みたいなところに入ろうとしたら飛ばされた。敵を遠ざける罠っぽい」

 

 ダンマス部屋の奥に飛ばされるところまでがワンセットだ。普通死ぬわな。

 

「物凄く遠くまで飛ばすんだね……。でも直接攻撃にはなってなくない? 落とし穴の上に転移、とかなら分かるんだけど。それよりも、ふたつの街を移動できたら便利だなって思っちゃう」

 

 ……そうか?

 いや……確かにそうだよな。

 

 俺は百頭竜の部屋に飛ばされるのはデストラップだという印象があった。

 でも本来ダンジョンマスターは守られ、隠されるべき存在じゃないのか?

 いきなり玉座の間に飛ぶのが罠といえるだろうか?

 むしろショートカットじゃないか。

 

 そうだ……バジリスクは俺が部屋に入った方法を理解していなかった。

 あれは奴にとっても想定外の出来事だったんだ。

 

「あれは罠じゃなかった……? いや、罠だったかもしれないけど本来の役割を果たせなかったとか?」

「どういうこと?」

 

 ダンジョンで起きる不測の事態は魔法で対処可能。

 目の前のエーコが教えてくれたことだ。

 

「トラップ解除……罠外しの魔法」

「えっ、そんな魔法が使えるの?」

 

 どう説明したものか。まだ可能性の話でしかないが。

 

「いや、使えないし使った覚えがない。でも俺の魔法は元々『封鎖地域で行使されているヒュドラの魔法を、無意識に模倣しているもの』だって聞かされてたから」

 

「ヒュドラの魔法を!? ん……? 聞かされてたって誰に?」

 

 ……モニクの存在を伏せているのは頼まれたわけではなく、俺が自主的にしていることだ。

 だがあまり隠し事をしていても問題解決から遠ざかるし、エーコならば信用は出来そうか。

 

「俺に異能と魔法の存在を教えてくれた師匠みたいな人がいる。どんな人なのかまでは話せないけど。ごめん」

 

「あ、うん。野良異能者だったら正体バラすわけないもんね。それは仕方ないよ」

 

 ちょっと誤解してるみたいだけど、そのほうがいいか。すまんエーコ。

 

「それで、俺の魔法はヒュドラのそれを参考にしたものなんだ。模倣だけでなく、ときには奴の魔法に干渉することもある」

「ジャンクフード召喚が……ヒュドラの魔法???」

 

 そう思いますよね……。

 とりあえずジャンクフードから離れて。

 

「えっと。それは話すと長くなるから置いとくけど、今回俺が干渉したのはヒュドラの転移魔法なんじゃないかな」

「あっ」

「ヒュドラが転移なんて便利な魔法を使えるなら……。そりゃあ罠にも使うし、各地の封鎖地域への移動にも使うんじゃないか?」

 

「他の人の能力を聞くのは、天照(アマテラス)だとタブーなとこがあったので黙ってたけど……。アヤセくんが倒したヤマアラシが死体消失するとき、何かしてたよね。あれが魔法干渉なの?」

 

 おお、それも見抜かれてたんだな。

 やっぱりこの子、魔法使いとして俺よりもずっと格上っぽいなあ。

 

「そう。前にも言ったけど、俺は倒したヒュドラ生物の命を奪って自分の身体能力を上げることが出来る。あとエーコ」

「はいっ」

 

 たまにしか名前を呼んでないせいか、エーコはかしこまった返事をした。

 

「俺の能力を聞くのに遠慮は要らない。アマテラスに話したって構わない。知っておいたほうが連携はしやすいだろう」

 

 SNSの会話を監視されているなら、どうせ俺がこの街に来ていることはバレる。

 エーコも立場上、俺のことは隠しきれまい。

 敵に手の内を知られるのは危険だが、アマテラスは別に敵ではないからな。

 

「俺の異能は《破毒》という」

「はどく? 聞いたことのない異能……」

「師匠に言わせると絶滅危惧種の異能らしい。能力は猛毒耐性。猛毒専門で、普通の毒には弱い。ただそれだけの異能だ」

 

 言ってて気付いてしまったが。

 封鎖地域に入れる異能者はヒュドラ毒に耐えられる上で他の特技があるんだから、全員俺の上位互換ってことじゃなかろうか。

 

「で、でも。そんなに色んな魔法を使えるのに? 回復魔法を使ったときの魔力とか凄かったのに」

「魔法って異能者なら誰でも使えるし、使える種類に制限なんて無いらしいよ」

「初めて聞いた! アヤセくんのお師匠さんに私も弟子入りしたい!」

 

 そうきたかー。

 俺もエーコにモニクの正体を黙ってるのはなんか気が引けるし、そういう未来があってもいいとは思うけどな。

 

 エーコの異能については、別に黙ってても構わないと言ったのだが教えてくれるらしい。

 

「私の異能は《魔女》。魔法を使うのが得意な異能」

 

 魔女。

 エーコがそうだったのか。

 モニクによれば、魔女は代表的な異能って話だったな。

 国の組織っぽいアマテラスに、元から協力的な家系というのもしっくりくる。

 

「身体強化や毒耐性の魔法が身体の一部と言ってもいいくらい常態化してるから、封鎖地域の毒もノーダメージなの。風邪とかも全然ひかない」

 

 やっぱり上位互換だった……。

 

 

 

 

 剣の街のダンジョンに向かいふたりで歩く。

 いずれも収納持ちなので手ぶらだ。ただの散歩に見えなくもない。

 

 格好はお互いイカれてるが。

 片や手斧を腰に下げた多機能ジャケット男、片や白魔術士コスの魔女である。

 キャンプ場ホラー映画に出てきそうなコンビだ。どっちも悪役じゃねーか。

 

「む」

 

 少し気になることがあって足を止めた。

 

「どしたの?」

「いや……なんか聞こえない?」

 

 ダンジョンからはやや異なる方角を見る。

 索敵の範囲は半径五十メートル。しかし俺の五感はときに、それより遥かに離れた場所の危険を察知することがある。

 そのおかげで命を拾うこともあった気はするが、あんまり結果が変わらなかったことのほうが多い、ような……。

 

「ふうん? 私には何も聞こえないけど……」

 

 エーコも同じ方向を見ると、何やら魔力の操作を始めた。広範囲索敵のたぐいだろうか。

 

「ウソ……なにこれ」

 

 言うやエーコは近くのビルへ向けて駆け出した。

 跳躍して二階の窓枠に足をかけると、僅かな段差を足場にビルを登っていく。

 音の正体を上から見て確かめるつもりなのだろう。

 

 俺はというと、当然あんな動きは出来ないからおとなしく地上で待っていた。

 ビルの屋上から問題の方角を見たエーコは、身振り手振りで何やら伝えてくる。

 

 うん、分からん。

 

 仕方ないのでその方角を目を凝らして見続けた。

 高い建物が邪魔だ……。少し歩いて移動する。

 奥のほうの隙間、今なんか動いて。

 

 三階建ての集合住宅の向こう側、突然それはワサワサと生えてきた。

 しなった長い木の枝のような、無数の棒状のもの。

 数十……いや、数百本はありそうな勢いのそれらが天を衝く。

 

 ある特徴がなければ、それが何かはきっと分からなかっただろう。

 その特徴とは、無数のそれらを染め上げる白と黒のまだら模様――

 

 まさか……ヤマアラシの巨大化生物か?

 

 どんだけデカいんだよ!

 体高だけで地上三階近くはあるぞ?

 

 エーコが地上へと降りてきた。

 

「どうしようアヤセくん! なんか凄いの出てきちゃったけど」

 

「あんなのが日常的に出るわけじゃないんだな? 少し安心した……」

 

 顎に手を当てて考える。

 まだエーコの戦闘能力を把握し切れていない。

 俺ひとりの場合だったらどう対処する?

 

「奴の居る場所は建物が多い。直撃を食らう心配は少ないから、近くで動きを誘って様子を見る。エーコは建物の上のほうが安全か? なんか攻撃手段ある?」

 

「風魔法。あれくらいの大きさの頭ならぎりぎり包める」

 

「よしそれで行こう。駄目だったら距離を取ってもっかい相談で」

「了解!」

 

 エーコは再びビルを駆け上がった。

 そして俺も急いで地上を走る。ヤツが広い場所に出てしまったら、手が付けられないんじゃないかという予感がする。

 

 背中のトゲのしなり具合から、巨大ヤマアラシが向いている方向は見当がついた。

 頭のほうへと回り込みながら移動する。

 普通は背後を取るものだが、ヤマアラシは背後のほうが危険だからな。

 

 建物の陰から敵の頭部を確認した。どこから見てもヤマアラシである。

 確かヤツの視力はたいしたことないはずだ。

 

 頭部の直径は二メートルくらいか?

 もしあのサイズの相手を俺の水魔法で倒すなら……。

 アオダイショウ戦のときのように頭部に張り付いて、自分自身の周囲に水を展開する必要がある。

 

 問題はヤツのモヒカンヘアーだ。

 オリジナルのヤマアラシは頭が弱点のはずだが、どうも頭の上の毛も硬質化しているように見える。

 あの上に乗っかるのは勇気がいるな……。

 あと齧歯類ゆえに噛む力も侮れない。このサイズ差で正面から戦うのはかなり危険だ。

 

 ま、ものは試し……。

 

 物陰から出ると周囲の退路を確認しつつ、ゆっくりと標的に近付いていく。

 鑑定の射程範囲に入った辺りで、向こうもこちらに気が付いた。

 鑑定結果によれば、予想通り頭部の体毛はかなりの硬度だ。

 乗っかって戦う案は却下!

 攻撃はエーコに任せて、ヤツの動きの出方を観察するほうに集中しよう。

 

「かかってこいモヒカン野郎!」

 

 威勢のいい啖呵と共に、俺は逃げ出した。

 だって他に出来ることないし。

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