終末街の迷宮   作:高橋五鹿

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第43話 名前の意味

 問題の部屋に着いた。

 俺が剣の街に飛ばされることになった、例の転移トラップがある部屋だ。

 

「ずいぶん広い部屋だねー。それに、奥に見える石造りの壁ってドゥームダンジョンと同じ造りだよね」

「……ブレードが居ない」

 

 そう、門番モンスターであったブレードが居なかった。

 別に居ないから残念ってこともないが。

 妖刀マムシの予備が欲しいとか思わないこともなかったが。

 

「ブレードってレアモンスターだからその辺も再現されてるんじゃないかな。あの門が転移トラップ? 近付いても大丈夫?」

 

 そういや剣の迷宮の門番ともいうべきワーウルフも、結局復活はしなかったな。

 あんなのにぽんぽん復活されてはたまったものではないが。

 

「くぐらなきゃ大丈夫」

 

 先行して門の手前まで移動した。周囲に敵の気配はない。

 なるほど。剣の迷宮の転移門を見た後だと、ここにも同種類の魔法があるのが知覚できるな。

 

「ねえアヤセくん。この転移トラップ、ダンジョンの柱に直接仕掛けられてる。ダンジョンそのものは多分破壊できないし、試しに《(つるぎ)》で斬ってみる?」

 

 魔力剣なら、壁を貫通するから内部のものも斬れるかもしれないってわけか。しかし魔力剣で魔法は斬れるのだろうか?

 

「その前に、ちょっと試してみたいことがある」

 

 転移門……すなわち人工の石壁で構成された『現実世界のドゥームダンジョン』の入り口。その前に立って片手をかざす。

 この動作に意味はない。強いて言うなら精神集中のためのそれっぽいポーズだ。エーコが装備してる魔術士の杖とローブもそんな役割だったはず。

 

 この新魔法の名は《トラップ解除》。

 ゲームのほうのドゥームダンジョンで、プレイヤーキャラのローグが使う能力だ。作中では魔法扱いではないのだが、現実の俺は罠外しのスキルなど持ち合わせてはいない。なので魔法の力を使う。

 罠そのものの知識もない。だから実現を願う内容は至ってシンプル。

 

 行く手を阻む障害を、丸ごと取り除く……!

 

 石の門に仕掛けられたトラップ魔法を、根こそぎ引っこ抜いて《情報収納》へと放り込む。

 バジリスクの力を借りたときを除けば、最大規模の魔力を持って行かれた。

 恐らくトラップ解除魔法そのものというよりも、解除する転移魔法のほうに問題があったのだろう。もっとショボい罠であれば、魔力消費もそこまで多くなかったと思う。

 

 残された門は、ダンジョンを構成するただのパーツに成り下がっていた。

 

「おおー! すごい! 設置された魔法そのものを奪うなんて……。え? もしかして今奪った魔法を使えたりするの!?」

 

「…………!? その発想は無かったわ……どうだろ?」

 

 バジリスクの魔法すらコピーできたことを考えれば、転移魔法もイケるのか?

 いや、いや待て。

 遠く離れた封鎖地域まで転移する魔法なんて、どう考えても俺のキャパシティを超えてる。そもそも転移ってヒュドラ本体の魔法じゃなかったか?

 多分これ、持ち腐れだ。

 

「残念、MPが足りないみたいだ」

「MP……」

 

 先に気付くとは運が良かったな。

 下手に実験していたら石壁の中とかに転移しかねない。

 

 人工的な石の床が敷き詰められたエリアに一歩を踏み出す。

 

「ようやくこの先に進めるのか。長かったなあ……」

「この先はなんて呼べばいいんだろ。ドゥームダンジョン? でもドゥームダンジョンの敵自体は今までも出てたしなー」

「ああ、呼び名を決めたほうが便利か。ドゥームダンジョンでいいんじゃない?」

 

 今まではダンジョン内のエリア分けについて直接相談する相手がいなかったからな。エーコと会話するときに暫定的な名前くらい決めておいたほうがいいか。

 

 というわけで、《終わりの迷宮》の『地下洞窟エリア』、『ドゥームダンジョンエリア』みたいに呼ぶことにする。

 そう決めたはいいものの、ゲームに似せて作られた部分が凄く狭くてすぐ終わっちゃう可能性だってあるんだよな。だから仮の名前だ。

 

 ドゥームダンジョンエリアを慎重に進む。

 いかにもゲーム的な分岐した通路、玄室の扉などが視界に入る。

 

「今までの流れでいくと、次辺りに潜んでいそうな敵は――」

 

 なんだっけ……?

 

「オーガかサージャン辺りじゃないかな?」

 

 即答するエーコ。ドゥーム博士か。

 

 オーガ。パワー特化の筋肉鬼。

 サージャンはなんだっけ……。あー、メスとかハサミとか使う、血まみれの白衣を着たホラーっぽい奴か。こっちはスピード&テクニックって感じの敵だな。

 鬼が出るかホラーが出るか。

 

「じゃ、開けてみるか」

 

 ゲーム中のローグのアクションよろしく扉を蹴破り、先手必勝とばかりに内部の様子を伺う。

 誰も居ない。

 ……ま、鑑定索敵があるから何も居ないのは分かってたけどな。

 壁越しには気配を察知できないとかそういう仕掛けが無いとも限らない。あとそもそも格上の敵が気配を消していると察知できないことがある。

 それらを踏まえた上で部屋の中を見回すが、やはり異常は無いようだ。

 

「やっぱなんも居ないな」

「うん、この先の部屋の中も全然気配がしないね」

「実装まだだったのかな」

「実装……」

 

 いや別にジョークではない。

 実際初期の頃は数が少なかったってハイドラも言ってたからな。

 

「敵が手強かったらその場で引き返すけど、もし行けそうならもうひとつの出入り口を目指そう」

 

「終わりの迷宮の最初の入り口。西の隣町の駅周辺って話だったよね?」

 

「そ。駅の位置は地上の川から西に約1キロ。ここまででも結構歩いたから、かなり近いと思う。直線距離ならね……」

 

 体感的に今の方角を察知することは出来ない。だが《鑑定》を応用したオートマッピングにより、俺はいつでも正確な地図と現在地を脳内で参照できる。エーコも似たようなものだろう。

 ここまで来たなら地上に戻るには西の出入り口のほうが早い。

 この先の通路がやたら複雑だった、とかではない限り。

 

 残念ながら迷宮通路の形状はゲームのドゥームダンジョンとは全く似ていなかった。なのでこの先の構造は分からない。

 

 そもそも現実の迷宮のほうがずっと広いから忠実に再現されるはずもない。

 逆にゲームでここまで広くされたら、遊ぶときにかったるいだけだろうな……。

 

 あと敵の出現位置も適当だ。

 北の出入り口から入るとご丁寧にゲームと同じ順番で出てくるが、あの場所は地下洞窟エリアであって、ドゥームダンジョンエリアですらない。

 

 そうしてしばらく進むと、それを発見した。

 

「階段……」

「階段だねえ……。ね、この場所。多分だけど駅の真下なんじゃないかな」

 

 石造りの豪奢な階段。その先には岩の天井が見える。

 ゲームのドゥームダンジョンだと地上への階段。ただ、現在地は地上から結構深いはずだ。地下洞窟エリアで川の下をくぐって来ているのだから、だいたいそのくらいの深さ。

 だから空は見えないんだな。

 エーコの言う通り駅の下辺りだとは思う。上がってみるしかないか。

 

 階段をのぼりながら、鑑定の精度を上げていく。

 階段の上は恐らく地下洞窟エリア。

 エリア境にまたもトラップが仕掛けられている可能性は高い。

 

 地下洞窟エリアは《終わりの街》全域に広がっているはずだ。どこかで来た道とつながっているのかもしれない。

 しかし怪しいのは断然ドゥームダンジョンエリアだ。侵入時の門番やトラップの存在がそれを物語っている。

 

 結論から言えば、階段の先にトラップは仕掛けられていなかった。

 階段をのぼり切ってドゥームダンジョンエリアから出た地下洞窟エリア。

 そこは広大な空間だった。

 ブレードが居た部屋に似ている。

 ここから別の場所に行くには、奥に見える通路を抜けるしかないのだろう。

 そしてその前には――

 

 この場所の門番であろう新たなる敵、『オーガ』が立ち塞がっていた。

 

 筋骨隆々の赤みがかった肌。

 露出多めの部分的な衣装と防具。

 右手にはカトラスをデカくしたような片刃の剣。

 牙のはみ出た口に頭には二本の角。そして凶悪な目つき。

 推定身長二メートル半、物理アタッカーの見本の如きモンスター。

 

 オーガ。オーガねえ……。

 

 もし西の隣町から直に《終わりの迷宮》へと乗り込んでいた場合、ドゥームダンジョンエリアに侵入するための門番はこいつになっていたわけか。

 俺たちは今、本来の侵入経路を逆走しているわけだ。

 ワーウルフと戦ったときも同じシチュエーションだったな。

 

「初めて遭遇する相手だな。悪いんだけどエーコ、俺ひとりで戦ってもいいかな?」

「えっ?」

 

 何その俺への心配というよりも「私が倒したかったんだけど?」みたいな顔。

 

「あ、うん。いいよいいよ。どうぞ……」

 

 ちょっと未練が見え隠れしている。

 ゲームと違ってレアドロップとか無いから安心してくれ。いやあるか。あるけどエーコさんが倒した場合は装備も普通に消えちゃうじゃん。

 

 明日からはソロで潜るつもりだ。

 ワーカーホリック魔女にはしばらくのんびりしててもらいたいからな。

 探索を休んでもアマテラスのデスクワークがある?

 そこまでは知らん……。

 

 ソロで潜るにあたって、この先の敵とひとりでどの程度戦えるかを知っておくのは大事なことだ。

 エーコを置いてゆっくりと前へ出る。

 

 アックスホルダーからキャンピングアックス改め片手斧《マムシ》を引き抜いた。

 

「さて、初見だし一応聞いとくぜ。見逃してくれる気はあるか?」

 

 グゥゥ、という腹の虫みたいな唸り声で返された。

 念の為聞いてみたものの、もう殺気とかで友好的か否かは丸分かりなんだよね……。

 

 じゃあ、()るか!

 

 間合いに踏み込んだ次の瞬間に振り下ろされる巨大な剣。しかし素直な動きだ。横へのステップで躱し、露出した肌を斧で斬り付けながら交差する。

 俺が先に攻撃を当てられたが、互いにノーダメージみたいなもんだなこれ。振り返って再び睨み合う。

 

 ひたすら躱して斬り刻む、で勝てるのは分かってる。速度なら俺のほうが上だからな。でもこの程度の敵ならば、相手の土俵でも勝てるくらいでなくては駄目だ。

 すなわち真っ向勝負!

 オーガが再び動く。

 水平に繰り出された剣を、斧の刃で迎え撃った。

 甲高い音と共に火花が散る。

 手に痺れが走る。

 割とヤバいか? と一瞬思うが、相手の動きが止まった。

 向こうも手にダメージを受けたのだろう。

 

 三合目は俺が先に動いた。

 リーチの差は圧倒的に不利。

 初めから武器狙いで手斧を振り下ろす。

 武器よへし折れろとばかりに放った気合の一撃。

 オーガは手の痺れも回復していなかったのか、たまらず剣を落とした。

 

 どうする?

 この剣を蹴り飛ばせば、後は素手の敵相手に有利に立ち回れる。

 いや、こいつを最も速く仕留めるなら――

 

 後ろにステップし、敵との位置関係を調整する。

 俺が離れたことで、オーガは剣を拾うことを選択した。

 地面に右手を伸ばし、身長差で届かなかった頭部の位置が下がる。

 

 再び前に踏み込み振り上げられた《マムシ》は、オーガの喉笛に正確に喰らい付いた。

 

 

 

 

 光の粒子を《継承》で吸収していると、エーコが声をかけてきた。

 

「まさか魔法抜きで倒すとは思わなかった……」

「俺の攻撃魔法はコスパが悪すぎて連射できないんだよ。探索中にはあんま使えないから、白兵戦も練習しとく必要があるんだ」

「リアル戦士なの?」

 

 リアル戦士とは一体……。

 現実に戦ってるからまあリアル戦士なんじゃないかな?

 でもそれだとエーコもカテゴライズされるのでは。

 リアル魔女? あーね(ああそうね)

 

 魔術士を名乗るには俺はちょっとな……。

 魔力が無尽蔵にあるからといって、調子に乗って魔法連射するとすぐに疲れ、めまい、吐き気、倦怠感などに襲われます。

 ジャンクフード召喚とか鑑定は割と乱用に耐えられるんだけど。

 戦闘に不向き~。

 

 さて、オーガが塞いでいた道を通って地下洞窟エリアの通路に出る。

 構造はそんなに複雑ではなかった。

 広さこそ見当もつかないが、傾斜のある場所を素直に上に登っていくことで、目的である地上への出口はすぐに発見できたのだ。

 

 地上への出口といっても、これは《終わりの街》に最初に出現した地下迷宮の入り口でもある。

 いわば正面入り口だ。今まで使っていた北の入り口は、どちらかといえば裏口みたいなものだろう。

 地上へと出て視界に入ったのは、西の隣町の駅構内。

 

 ――だったはずの場所だった。

 

 片側だけ駅の建物がねえ!

 高架線もねえ!

 床と迷宮入り口の大穴しか残ってねえよ!

 うん、モニクが前に試しに壊したって言ってたやつだな。

 今度こそここで合ってるっぽい。

 

「えーと? 駅だったのは間違いないみたいだけど、建物がずいぶん壊されてるね?」

 

「エーコも地元で似たようなことしてたじゃん……。モニクも同じこと考えたらしくてね」

 

 剣の迷宮の入り口にあった建物は、魔力剣で何度も斬り刻まれていた。

 エーコは水攻めかなんかでもするつもりだったのだろう。

 モニクは単に侵入しようとしていただけだが。

 

「これ全部モニクさんが壊したの? その割には継ぎ目が……なんだか一度の攻撃で全部壊されているように見えるんだけど」

 

 ハハハ。

 いくらモニク先生でもそこまでは。

 いやいや、一太刀でこの有様とかあの剣どうなってんの?

 

 多分入り口正面に立って攻撃したのだろう。

 対超越者結界に阻まれた反対側だけ駅の施設が残っている。

 周りが吹っ飛ばされてるのに壁と券売機が残ってるのシュールだよな……。

 

 その奥には元駅だった残骸と瓦礫が積み上がっていた。

 もし終わりの街を解放しても、この駅が営業再開する日は遠そうだ……。

 

「まあずっと気になってた正面入り口も確認できたし。今となってはそんなに目新しいものはなかったというか、どっちから侵入しても同じだなこれ」

 

「んー、ドゥームダンジョンエリアに直行するなら、私はこっちのほうが早いかな。地上なら速く移動できるし」

「そだね。で、俺が提供できる終わりの街の情報はこれで全部。じゃ、明日からアマテラスへの報告頑張ってね」

「ええ~」

 

 ええ~じゃない。

 多分情報提供や意見のすり合わせだけで何日もかかるだろう。

 エーコは明日から強制的に探索休止だ。

 

「『テレビゲームの敵キャラと同じ生物が出現します』とか、幹部のおじさんたちに真顔で説明するの無理だから! アヤセくんも来てよ~」

「お断りします。俺は明日から未踏破エリアの探索に忙しいので」

「ええ~ずるい~」

 

 ダンジョン中毒め。

 少し迷宮断ちしないと真人間に戻れないなこれは。

 

「そろそろ《剣の街》のスタッフも到着し始めるんだけどね。みんなアヤセくんに会いたがってたよ?」

「……なんで?」

 

 別に俺の情報は提供しても構わないと言ったが、何故そうなる?

 

「そりゃあ地元を救って皆の仇を討った英雄だからだよ! ほとんどの人が《終わりの街》対策班へ異動願いを出しててね。今度は自分たちが『終わりの街のオロチ』をサポートするんだって」

 

 勝手にクソダサ二つ名(ネーム)を設定すんなし。

 アマテラスのネーミングセンスはやっぱりクソだわ。

 自分の苗字をオロチとかアメノにしちゃう俺たちのご先祖様がたも大概だけどな。

 アメノってのは有名な神剣の名前から取ってるんだろう。

 

 しかし俺も気付いてはいる。

 

 魔法にとって名前は重要なのだ。

 名前とは呪い。プラスの効果もマイナスの効果もある。

 アメノの名を持つことで魔女の(つるぎ)は鋭さを増す。

 蛇に由来する、あるいはその名を持つヒュドラ生物は強大な力を宿す。

 アオダイショウ然り、バジリスク然りだ。

 その一方で、名前による縛りを受けることもあるだろう。

 

 オロチは水神、あるいは川の化身。

 幾多に分かれた支流を多頭の大蛇になぞらえた怪物だ。

 

 川の支流に命を救われ、水を味方とし操り闘う。

 全ては偶然に過ぎないのかもしれないが、それでも。

 

 でも酒に弱いんだよな、ヤマタノオロチ……。

 破毒が弱毒に弱いのってそのせいじゃんか訴訟。

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