「名前ですか? 先輩」
「そ。名前が重要って話」
俺はなんで
ここはコンビニのバックヤードだ。
今はなんだ? 休憩中か?
コンビニでふたり同時休憩とか普通はない。
俺がなんかのタイミングで店来たときに、たまたま休憩中の最上さんが居た。
そんなシチュだろうか?
「俺たちは生まれながらにして先祖代々の苗字を持ってるけど、苗字って元々はご先祖が自分で勝手に名乗った名前なわけだよな」
「はあ、それで先輩のご先祖様は厨二病だったって話ですか?」
ミもフタもねえな。
世の中には天と書いてアメノと読む苗字もあるんだぞ。
……別にそんなに変な名前ではないな?
神剣アメノムラクモから取ってるんだろうし、発想としてはヤマタノオロチから名前を取るのと大差ない気もするんだが?
出来上がった苗字の印象に差がありすぎてズルい。
最上さんに視線を戻すと、無言でなんかボリボリ食ってる。
駄菓子?
乾麺を砕いたような、あの駄菓子だな。
「普通のメシは食わんの?」
「美味しいですよこれ」
答になってない。
相変わらずの無表情かつ感情のこもってない声で言う。
「変な名前で困るのはお察しします。私も似たようなものですし」
「最上は別に普通では?」
「――――――――」
そして目が覚めた。
たまに見るコンビニの夢。
なにげない日常の風景も、今となっては決して手の届かない
なお最近の記憶が混ざってイミフな内容になりつつある。
……食堂に行くか。
*
「アヤセくん、おはよー」
「おはよう、アヤセ」
「ああ、おはよう。ふたりにちょっと相談があるんだけど」
昨夜はモニクもエーコも留守だった。
エーコは朝こちらに顔を出しただけで、またすぐ外に戻るのだという。
今のうちにドゥームフィーンドの存在と、その提案について話しておかないとな。
俺はホワイトライダーとセルベールから聞いた話の一部始終を伝えた。
「ふうん。ドゥームダンジョンのキャラに似ているヒュドラ生物は、ドゥームフィーンドっていうんだ」
「ドゥームフィーンドがどこまでの範囲を指すのか、よく分からんけどね」
「で、そのドゥームフィーンドが地上に出てもモニクさんには見逃してほしいと。どうするんですか?」
エーコはモニクに話を振った。
「別にボクのやり方は今までと変わりない。そのドゥームフィーンドとやらが、ボクやキミたちに危害を加えないのであればなにもしない。街の外へ行くのも好きにしたらいい」
ま、そうだよな。
今までだってモニクはヒュドラ生物なんか相手にしていない。
……ちょっとでも邪魔すると真っ二つにされるけどな!
セルべールはなまじ実力があるから、自分が地上に出るとモニクに警戒されるとでも思っているのだろう。
自意識過剰ではあるのだが、こればかりは実際に対峙しないと分からないかもしれない。
モニクにとっては俺もお前も、その辺のヒュドラカラスやヒュドラネズミと実力的には大差ないのだということを。
真っ二つにされるまでにかかる所要時間はどっちでも同じだからな……。
「セルベールが街の外で人間に悪さをすることはないの? あるいは人間側が攻撃して反撃される可能性もあるけど」
「なんともいえない。でもそれをいうなら各地には既に百頭竜が居るし、俺の知らない超越者やその眷属も人間にとって安全とは言い切れない。キリがない気がするな」
「それもそっかあ」
なんとなくモニクの意見も聞いてみたくて、ちらりとそちらを見る。
意図を察してモニクが口をひらいた。
「人間がヒュドラ生物を狩ろうとしたり、ヒュドラ生物が自分を守るために反撃する。逆も含めてそれ自体は自然なことだから、ボクが口出しをするつもりはないよ」
なるほど弱肉強食。
こういうところは、モニクも人類の味方というわけではないことを伺わせる。
エーコなら人が死にそうになったら助けに入るだろう。
俺? 俺はまあ……助けには入るけど、心情的にはなんともいえんな。
ドゥームフィーンドは野生動物みたいなもので、善悪は無いというのがセルベールの言い分なのだろう。
確かに世界大災害以降に誕生したヒュドラ生物は、能動的な侵略者とは言い難い。ただの超越者の眷属だ。
でも放っといたら危険だから狩るというなら、もちろんそれは理解する。俺もそうしてるし。
あとヒュドラ本体と古参の眷属は人類の敵。駆除対象なのは変わらない。
ホワイトライダーはなんとなく古参の眷属っぽいな。
より地下深く、よりヒュドラに近い場所に居る奴だからか?
今度セルベールに確認でも……いや、あいつの言うことは信用できるかどうか分からん。話半分で聞いとこう。
「セルベールかあ……見てみたかったなあ」
のんきにそうのたまうエーコさん大物っすね……。
ま、美形キャラではあるしなあいつ。
俺には悪人顔にしか見えなくてアレだが、女子には人気あるのだろう。
「あ、そうそう。ホワイトライダーって人」
うん? セルベールに存在感を喰われてカゲが薄くなった人がどうしたって?
「ゲームに出てくる白騎士とは違ったの?」
「ああ、俺もちょっと気になったけど外見が別物だし、ドゥームフィーンドではないって話だったなあ。白騎士ってNPCだしそれで別扱いとか?」
「アヤセくんはクリア後までは遊んでないんだっけ? 白騎士もボスキャラだよ」
そうなん?
一応攻略サイトで敵キャラはざっくり確認しているが……あー、言われてみれば同じ名前の敵がいたわ。隠しボスでNPCと戦えるのかって、そんなことを思った気がする。
「クリア後はシナリオが分岐するんだよ。公国ルートと亡国ルート。どっちの味方をするかでボスが変わるの。なんか今のアヤセくんの状況、それに似てるんだよね」
あのゲームそんな話だったの。
公国ってプレイヤーキャラが住んでる国じゃん。そこと手を切るからNPCの白騎士が敵になるのか。
ホワイトライダーが白騎士の
手を切るも何も、ホワイトライダーは最初から敵なんだが……。
それでもう片方は亡国か。
ゲームのラスボスの名前が『亡国の王女』だから、公国サイドでモンスターを狩るのが通常のルートだろう。
ダンジョンのモンスターと手を組むのが亡国ルートってわけね。
なるほどドゥームフィーンドと手を組むなら、いかにも亡国ルートだ。
「セルベールかホワイトライダーの味方をすると、もう片方が敵になる……か。別にどっちの味方のつもりもないんだけどな」
人間の俺からすると、どっちもヒュドラ生物だしな。
ゲームのプレイヤーキャラの立場とは違う。
ただ、どっちにしてもホワイトライダーとはいずれ闘うことになりそうだ。セルベールはよく分からん。あいつの目的が『ヒュドラ対他の超越者たち』の戦争から抜けることであれば、それっきり二度と会わないということもあるか。
ふーむ、しかしあいつ……。「自分を見逃せ」ではなく「ドゥームフィーンドを見逃せ」って言ってるんだよな。
モニクがヒュドラを倒せば、終わりの街のヒュドラ毒は消える可能性がある。セルベールはともかく他のドゥームフィーンドは全滅するのでは?
あいつ以外にもヒュドラ毒の呪縛を打ち破るほどの、強力な個体がいるのだろうか。
一応ハイドラもその候補かな?
でもハイドラってそもそもドゥームフィーンドなんだろうか。外見が似ているというならそうだけど、あいつだけプレイヤーキャラなんだよな。
「そうすると今ドゥームダンジョンエリアは、三つ巴の戦いの最中なんだね。上手くふたつの勢力同士で潰し合ってくれれば、私たちが楽を出来るんじゃない?」
「是非そうであってほしい」
だが現実にはきっと、俺もその潰し合いの駒として利用されるのだ。
俺、交渉が下手だからなあ……。
*
ゲーム、『ドゥームダンジョン』とは。
地下迷宮に逃げ込んで再起を目論む敵国の残党を討伐する、公国の冒険者たちの物語――というのは表向きの話。
実際には、故郷を滅ぼされた《亡国の王女》セレーネの復讐の物語である。
というのが、ネタバレレビューを書いた人の見解であるらしい。
なにしろ俺が見ていた攻略サイトではそういったシナリオやフレーバーテキストの内容にはほとんど触れていない。
そのためクリア後シナリオは全然知らなかったのだ。
まあ正直、クリア前のシナリオもあんま把握してないのだが。
セリフも少なく淡々と進む、戦闘中心のゲームだからな。
亡国の王女ってラスボスだから、当然俺はそいつを倒してしまっている。公国の冒険者としてしっかり仕事をしたわけだな。白騎士にも褒められた。
って、そんなこたいいんだよ。
亡国の王女は実は生きていたのか、それともアンデッドかなんかとして復活するのかよく分からんけど、クリア後も登場するらしい。
流石にレビューとかじゃゲームの細かい内容までは書いてないが、話の流れとしてはこうだ。
公国から悪の魔術師みたいに言われて討伐対象になっている王女は、実際には悲劇のヒロインじみたキャラクターなのだそうだ。
戦争だからどちらが善悪とかではないのだが、セレーネちゃんのファンになった多くのプレイヤーは、亡国ルートこそが真エンドだと主張しているのだな。
うん……………………どうでもいい。
俺が知りたいのは、これからどんな敵が出てくるのかのヒントだよ。
まずは亡国側。
亡国の王女はモンスターを操ることができる。
じゃあ迷宮内のモンスターは全部亡国側なのかというとそうではない。設定上は一部の敵だけ。
セルベールなんて、どこにも所属してない謎の敵扱いだ。
……あんまり参考にならないなこれ。
実際のドゥームダンジョンエリアに居るヒュドラ生物たちは、そこまで
細かい元ネタ設定とかは無視で、ドゥームフィーンドは全部まとめて一勢力、と考えたほうが良さそうだ。
次に公国側。
こっちはシンプルだ。明確に公国のキャラとして用意された敵は五人のボスのみ。
騎士団長である黄金騎士。そして配下の四騎士。そのうちのひとりが白騎士。
……名前を考えるのが面倒臭かったのかな?
シナリオ進行順に作り込んでいくゲームだと、終盤が妙に寂しい内容だったり……いやこの話はヤメヤメ。
だいたいドゥームダンジョンにそれは当てはまらない。
シナリオクリアまでは石造りの殺風景な迷宮なのに、クリア後はオープンワールドの美麗な屋外エリアでの冒険になるらしいからな。
ちなみに俺はそこまで遊んでない。
普通逆だろ……と、素人の俺は思う。
商品を売りたければ最初に見える部分にこそ力を入れるべきでは。
遊ぶ側としては終盤に盛り上がるのは嬉しいけどな。口コミで後から売れることもあるだろうし、実際ドゥームダンジョンはそのタイプだったのだろう。
まあそんなこた今はいい。
問題は、公国側ってこれだけシンプルなのに全然参考にならないんだよな。
そもそも白騎士がいねーし。いたのはホワイトライダーだし。
ホワイトライダーの立ち位置がいかにも白騎士っぽいんだが、するとなにか? 残り四人の騎士もわざわざ代役を用意してるってのか?
バカバカしい、と一蹴は出来ないんだよなあ……。
ドゥームフィーンドの存在だけで、もう既に充分バカバカしいし。
ヒュドラだったらやりかねん。
それに俺は、この馬鹿げた内ゲバの理由にも察しが付いてきた。
これは要するに『
同系統の生物同士で戦わせて、生き残ったより強い者を用いるというアレ。
もしかしたら儀式魔法的なもので、勝った者は実際に強化されるのかもしれない。
だったら設定や役割にやたらと
魔法には、そういう部分に馬鹿にならない影響力があるからな。
気になるのは、盤上の駒の中にヒュドラへの忠誠心が薄そうな奴や、皆無な奴すら混ざってることだ。
まあセルベールとハイドラのことなんだが。
そいつらが勝ったらヒュドラはどうするつもりなん?
それともそいつらは負けるのが既定路線なんだろうか。
部下を鍛えるためのサンドバッグとしての存在とか?
……この疑問については後回しだな。
今考えるべきは。
もしセルベールに加担したらホワイトライダーの他に四人、同等あるいはそれ以上の力を持った騎士を敵に回す可能性があることについてだ。
いや、何度も言うようだが元から敵なんだけどな!
ただ、いっぺんに相手するのはしんどいってだけで……。
一匹ずつこっそり仕留めていくのが俺に向いてるやり方だ。
持ちキャラもローグだし。
ちなみにエーコの持ちキャラはウィザードであるらしい。
やっぱり本人が魔女だから魔法使いを?
単にイケメンキャラだからのような気もするな?
ハイドラは……まあパラディン使いだろどうせ。
次に、ホワイトライダーに
亡国側の戦力も未知数だ。
ゲームになぞらえているならセルベールよりは弱いとみるべきか。
クリア後の裏ボスだったら、セルベールよりも強い可能性すらある。
亡国側で公国騎士並の強敵っていうと、結局は四、五体に絞られるな。
実際に居るのかどうかはこれまた分からないが。
すなわち《亡国の王女》、《復讐の騎士》、《迷宮剣豪》、《滅亡の支配者》。
これに《
やっぱりこれ、どっちかの勢力に加担しないと厳しいか?
適当に話を合わせて片方を全部仕留めたらもう片方を始末する。
ざっくりそういう作戦でいくしかなさそうだな。
こんなことばかり考えていると、俺もそのうちセルベールみたいな悪人ヅラになっていくのだろうか……。