終末街の迷宮   作:高橋五鹿

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第55話 復讐の騎士

 こいつは騎士なんて名前だが、公国騎士ではなく亡国の騎士なのだ。

 まぎらわしい。

 ゲーム中の設定で、王女セレーネの故郷が滅ぶ前……その王国に仕えていたという人物である。正確にはそのアンデッドか。

 

 最初から死んでいたのか、迷宮に来てから死んだのか、その辺の細かい設定までは知らん。俺はゲーム中ではこいつを見たことがない。だから忘れていたともいえる……。

 

 西側の出入り口は開け放たれている。

 外に出れば戦闘が始まるだろう。

 逃げるという手もあるが、また追手が増えることになる。

 公国騎士にワイバーン、更には復讐の騎士ウィリアム。

 あとコボルド……は別にどうでもいいか。

 行動範囲に限りがある場所で、これ以上リスクを増やすのも考えものだ。

 ウィリアムの足の速さにもよるが、ウィスプの広範囲索敵は放置するには危険すぎる。

 難しいな。成り行きに任せるしかないか。

 

 そして、俺は外へと出た。

 

 ウィリアムが刺突剣を抜く。

 確か、周囲を漂うウィスプも攻撃に加わってくるのだったか。

 亡国の王女もそうだったが、亡国側のボスだからモンスターを引き連れているわけだな。

 

 セルベールだけでなくブレードも実のところ、ゲーム設定上では亡国とは無関係だ。なのであいつらは他のモンスターと徒党を組んだりはしていない。

 現実では、そこまで設定に忠実な役割(ロール)じゃないけどな。

 ざっくりケクロプスの騎士が公国側、ドゥームフィーンドが亡国側という構図になっている。創造主別にチーム分けした感じか。

 

 ウィリアムは立場上、説得の余地が一応なくもない……気もする。

 

「あー、なんでそんなに殺気だってるんだ? 出来れば戦いたくはないんだが」

 

 身に覚え……はあり過ぎる。

 そもそも人類とヒュドラ生物は敵同士。

 俺はダンジョンを荒らし回っているし、ドゥームフィーンドに限定しても大勢殺した。

 あと亡国の王女も()ってたわ。

 ()ったのはブレードだけどな!

 これで仲良くなれると思うほうがおかしいだろう……。

 

『…………』

 

 無言で返された。

 こいつは言ってみればゾンビとかあの辺のボスなので、会話機能は搭載されてないかもしれん。

 意思だって無いのかもしれない。

 なら殺気に凄い憎悪が混ざってる気がするのもそういう演出。

 ……そう思っておこう。

 

 ウィスプの中から三体ほど、急激にこちらに向かってきた。

 水魔法で水球を三つ生成してブチ当てる。

 消滅させるには至らなかったが、水を嫌がったのか離れていった。

 が、その間を潜って更に一体。

 落ち着いて手斧の一撃を食らわせる。

 今までも不定形生物への物理攻撃は効果があった。

 ウィスプも例外ではなく、光の粒子となって俺に継承される。

 

 復讐の騎士ウィリアムが動いた。

 ようやく本命か。

 奴の持つ刺突剣はゲーム内じゃ鎧へのクリティカル効果があるらしいが、布の服しか着てない俺には関係ない。当たったら全部クリティカルです。

 

 そんな点の攻撃、俺には当たらないけどな!

 

 引き付けた攻撃を躱し、魔力剣を展開する。出し惜しみは無しだ。すれ違いざまに一気に振り抜いた。

 魔力剣は鎧を通過して直接ウィリアムの本体に届く。

 が……。

 肝心の中身まで通過してしまった。

 全く手応えがないまま、交差して仕切り直しとなった。

 

 鎧の中身が無い? いや……違うな。

 魔力剣は斬れないものは基本的に素通りする。

 ……つまり俺の力量では、魔力剣でこいつを斬ることが出来ない?

 厄介なことになった。どうやってダメージを通したものか。

 

 一応起動準備だけはしているが、石化毒を使うのはリスクが高い。

 バジリスクの力を制御するためには他の行動が制限される。

 ウィスプは性質上石化が通じない気がする。石になりそうな部位が無い。

 こうもウィスプの数が多くては……ウィリアムを倒している間に、俺も攻撃されてやられてしまう可能性が高い。

 

 と、気付いたら周囲を大量のウィスプに囲まれていた。

 弾幕攻めかよ!

 俺の当たり判定は見えてるとこ全部だ。こんなの躱せっか!

 周囲に水の膜を張る。即席結界だ。

 一匹強引に割り込まれ、体当たりを喰らってしまう。

 

 ウィスプの攻撃は生命力吸収だったか。

 現実で使われたらやばそうな響き…………あれ?

 身体にめり込んだウィスプは俺の生命を吸収しようと……してるのは分かるんだが一向に効かない。むしろ俺に継承されそうになって慌てて離れていった。そして水の膜に当たってダメージを受けている。

 

 なんだこれ。運営(ヒュドラ)が想定していなかった挙動か?

 ゲーム上のウィスプの能力であった生命力吸収は、俺とは極端に相性が悪い攻撃だったようだ。警戒していたのがアホらしくなるほどに。

 

 だったら敵はウィリアム一体だけだ。

 ウィスプの攻撃が脅威でないのなら、石化毒に賭ける価値はあるか?

 ウィリアムにも通じない可能性はあるが、既に正攻法の攻撃が通じない。

 このままではジリ貧だ。起動準備はもう出来ている。

 やるしかない!

 

「石化毒!」

 

 白煙がウィリアムの周りを白く染める。

 ウィスプにはやはり効かないか。

 肝心のウィリアムには……効いてない!?

 銀色の鎧が疾走し、白煙の中から反撃の剣尖が迫る。

 失敗した!

 バジリスクの力は使用時の隙がデカい。

 同時に他の魔法は使えないし、使っている真っ最中に急に動くことも難しい。

 

 かろうじて正中線への一撃をよける。

 だが刺突剣は俺の腹を貫いていた……。

 

「が……はっ……」

 

 なんてこった。黄金騎士戦に続いて、またもクリーンヒットを貰ってしまった。

 そろそろ俺の実力では限界に近い領域なのだろうか。

 まだ意識はある。こいつの武器が刺突剣だったのが不幸中の幸いか。

 幅広の剣だったら多分即死だった。

 気力を振り絞って、手斧をウィリアムに叩きつけようと――

 

 片手斧(マムシ)から赤い妖光がほとばしった。

 

 赤い(やいば)は兜にめり込み、面頬を弾き飛ばす。

 それを見た俺は、腹に刺さった剣を持つウィリアムの腕を左手で掴んだ。

 

「ようやく起きたのか、マムシ!」

 

 振り抜いた手斧を返すと、今度は首に叩きつける。

 鎧の破片が舞うが、まだ浅い。

 そして、俺はそのとき初めて、面頬の中のウィリアムの素顔を見た。

 

 それは骸骨だった。

 スケルトンと呼ばれるアンデッドモンスター。

 石化毒が通じないわけだ。石化しても動きが変わらない……。

 

 だが。

 

 かつてワーウルフを石化させたときは、金属バットでも容易くその身体を砕くことが出来た。

 こいつもそうだ。

 元々の骨の状態よりも、石化した今のほうが弱体化している!

 

「魔力剣!」

 

 赤い魔力のオーラが伸びる。

 今度は素通りせずに、ウィリアムの鎧にがっしりと食い込んだ。

 焼き切れるかのようなエフェクトと共に、鎧を削り骨に喰らい付く。

 

 そして、ウィリアムの首から左脇までを斬り裂いた。

 頭部と左腕が、ゴトリと地面に転がり落ちる。

 

 クリティカルが一定時間持続していた……。

 マムシの能力、ゲームの仕様より進化しているのか?

 

 ウイリアムの右腕から手を離すと、残された胴体も崩れ落ちた。

 俺の腹は刺突剣に貫かれたままだ。

 回復魔法をかける。

 そのまま左手でゆっくりと剣を引き抜く。右手の斧を落とした。

 全て引き抜くと右手で傷口を抑えながら回復を続ける。

 ヤバい……。

 今気を失ったらそのまま死ぬやつだこれ。

 絶対に回復を途切れさせるわけにはいかない。

 俺のショボい回復魔法でもずっとかけてれば治せるはず……だよな?

 

 くっ……意識が朦朧としてくる。

 回復速度が遅すぎる。

 時間の進みも遅く感じる。一体あとどれだけかかるんだ……。

 

 …………!?

 

 今、急激に回復した感覚が?

 なん…………うっ、痛い! 凄く痛い!!

 どうなってる!? あっ……今度は痛みが和らいで……。

 

 最初は戦闘の興奮と死への恐怖のせいか痛覚が麻痺していた。

 回復が進んで精神的な余裕ができたから痛みを感じたのか。

 そして既に痛みの原因も回復しつつ。

 

 今の、明らかに俺の魔法じゃないな?

 とんでもなく強力な治癒魔法だ。

 

 一体誰が?

 身体は動く。

 首を回して謎の回復魔法の発生源を見た。

 そこに居たのは――

 ゲームに出てくる神官のような服を着た、小柄な犬頭のモンスターだった。

 

 コボルド……?

 

 俺を追い回していたヤツ……か?

 

 

 

 

 こいつはコボルドの派生モンスター、『コボルドヒーラー』である。

 コボルドヒーラーは《二つ名持ち》ではないし『強化個体』とか言うほどの大げさなモンスターでもない。有り体に言って雑魚だ。

 治癒魔法を使うことが出来るが、それ以外のステータスは部分的には無印のコボルドより弱かったりもする。

 その治癒魔法だって、こんなに強力ではないと思ったが……。

 

 他にもコボルドメイジやコボルドナイトなどの特化型コボルドが存在する。

 ゲーム中の話であって、この迷宮で見たことはない。

 

「なんで俺を助けた?」

「…………」

 

 コボルドは首を横にこてんと傾けて、黙って突っ立っている。

 こいつ……会話が出来ないのか。

 そりゃそうか。コボルドだしなあ……。

 

 敵意は無さそうなのでこいつのことは後回しにしよう。

 それより。

 骸骨姿の騎士は地面に転がったままだ。消失していない。

 まだ倒し切れていないということだ。

 

 手斧を拾う。赤い妖光はすっかり消え失せていた。

 地面の頭蓋骨に向けて斧を振り上げようとして。

 

『お前…………人間……人間だな?』

 

 うっ……!?

 こいつ、喋れたのか?

 といっても、骨だから声帯無いし念話だが。

 

『そうだ……今……意識が戻ってきた』

 

 勝手に俺の心を読むな!

 あ、正気に戻ったの?

 今更……?

 

『時間がない……我々はもう長くはない』

 

 我々?

 

『我々は復讐の騎士……この魂はひとりの魂に非ず』

 

 お前、群体とか……そういうアレだったの?

 確かにウィスプの群れとか、そんな感じもあったが。

 

『人間……名前を聞かせろ……』

 

「……オロチ」

 

『オロチ……ヒュドラに仇なす同志よ』

『滅ぼされた王国と民の恨みを』

『我らの願いを背負う王女を』

『どうか頼む……我々の代わりに』

 

 それはただの作り話だ。

 滅んだ王国なんて存在しない。

 王女なんて本当は居ないんだ。

 

 お前は――

 

 架空の役割を与えられたに過ぎない。

 

『違う……違うぞオロチ』

『我らの故郷は確かに滅ぼされた』

『我らは王国の最後の騎士』

『そして守るべき王女は実在する』

『我らの役割は、お前が引き継ぐのだ』

 

 話にならない。

 ドゥームダンジョンが史実を元にしているだとか、そんなことは有り得ない。

 それはモニクに確認済なのだ。

 あれは徹頭徹尾、創作のはずだ。

 ウィリアムの妄言になど付き合い切れない。

 

 だが……。

 

 ヒュドラと戦うという意思だけは、俺が引き継いでやる。

 

『それでいい……』

 

 ウィスプが一斉に集まってきた。

 おい何をするやめ――

 

 人魂たちも骸骨の騎士も全て砕け、光の粒子となった。

 

 今まで継承したことがないような量の、力が流れ込んでくる。

 

「うええ……」

 

 急激な継承と、脳内にやたらと流れ込んできた恨み言で少し吐き気がする。

 だが継承は力を受け継ぐだけだ。

 あいつらのネガティブな精神性に影響されることはない。

 

 やっぱりドゥームフィーンドはノリが良過ぎるな。

 ある程度の知性が無いと、自分が役割(ロール)を与えられただけの存在ということにも気付けない。

 ウィリアムの正体は群体モンスターだったので、ひとつひとつの燃えさし(ウィスプ)はそこまで頭が良くないのだろう。

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