終末街の迷宮   作:高橋五鹿

59 / 100
第59話 レギオン

 橋を渡り、西の隣街へ向かう四人と一匹――

 いやもう五人ってことでいいか。

 

「先輩とブレードは、敵の大将を頼めますか?」

「吾輩は? 雑魚の騎士たちはセレネ殿だけで充分だろう」

 

 半目だかジト目だから分からない目つきでセレネは答える。

 

「あなたがいると先輩の気が散ります。行くのなら先陣を切ってください」

「吾輩とて、無意味に背中から刺したりはせぬよ。しかし心得た」

 

 意味があるなら刺すのかよ……。

 

「あ、敵の中にブラックライダーとペイルライダーが居るみたいです。でも方針はこのままで」

「ワイバーンはどうなったんだ?」

「ゼファーならまだその辺を飛んでますね。四騎士は途中で捨てたんでしょう」

 

 ゼファーってあのワイバーンの名前か?

 指揮下といっても割と放任主義なんだな……。

 

 駅に近付いてきた。

 鑑定の射程範囲外だが、駅前から不穏な気配は感じる。

 そして、後方から続々と集まってくる気配も。

 

 セレネが立ち止まって杖を掲げた。

 

「コボルド軍団(レギオン)

 

 振り返って後ろを見る。

 その辺の建物の陰という陰から、続々とコボルドの群れが現れた。

 鎧、ローブ、祭服に軽装備。様々な装備に身を包んでいる。

 えー……。何十体いるのこれ。

 

「そいつら普通のコボルドじゃないみたいだけど、敵の中には四騎士もいるんだよな? 大丈夫なのか?」

「ご心配なく。弱いモンスターほど私の強化魔法による伸びしろが高いです。つまり――」

 

 セレネは三日月の杖をトンと地面に降ろして言う。

 

「この街で最強のモンスターは彼ら(レギオン)です」

「まじか」

 

 重装備のコボルドナイト。

 魔法使いのコボルドメイジ。

 俺にはお馴染みの治癒師、コボルドヒーラー。

 そして数が最も多いのが短剣や各種道具の扱いに長け、連携攻撃を得意とするコボルドマーセナリー。

 

 スペックを鑑定した感じ、兵種によるコスト差は感じられない。

 ならば集団戦が得意な傭兵(マーセナリー)の比率を増やすのが、セレネの考える理想編成なのだろう。

 

 俺たちに付いて来ていたコボルドも彼らの許に合流し、コボルドヒーラーの隊列に加わった。

 

 …………。

 

 すまん、どれが俺の恩人だか分からなくなった。

 公平に感謝するから許せ。

 

 駅に近付くと、遠くからでも騎士の一団が視認できた。

 お互いこの人数では不意討ちもへったくれもないだろう。

 俺には珍しいパターンというか、なんか合戦みたいである。

 いや合戦なのかな?

 

 駅前の車道を挟んで対峙する両陣営。

 左右にブラックライダーとペイルライダーを従えた黄金騎士エリクトニオスが、兜の奥から声を発した。

 

「これもヒュドラ様の思し召しか。だが――」

 

 よく通る声だなー。と思ってたが念話だなこれ。

 意識しないと気付かない。普通に日本語で話しているように聞こえる。

 

「最後に勝つのは我らケクロプスの眷属だ」

 

 そして、黒と青の騎士を先頭に車道へと踏み込んできた。

 こちらもコボルドナイトを先頭に車道へとなだれ込む。

 両陣営の大将たるエリクトニオスとセレネは一歩も動かない。

 

 セルベールが飛び出した。

 コボルドを追い越し跳躍し、騎士の頭を足蹴にしてあっという間に敵大将に迫る。

 俺にあんな動きは無理だぞ。

 ブレードが両軍を迂回するような方向に走り出したので、俺は反対側に向かった。

 

 先頭同士がぶつかる。

 何体かのナイトが吹っ飛ばされたが、向こうの騎士で転がった奴もいる。

 先頭集団は互角か?

 

 コボルドを蹴散らしながらこちらに向かってくる一騎――ペイルライダーか!

 だが俺に辿り着く前に、マーセナリーたちが投げるロープと(おもり)を組み合わせた投擲武器、『ボーラ』を手足や首に喰らってバランスを崩し、更にナイトの突進(チャージ)で転倒する。

 

 あいつらマジで強いな!

 

 ならばと青の騎士は任せ、敵陣の横に進む。

 何体かの騎士がこちらに意識を向けたが、放物線を描いて飛んできた火の玉の直撃を兜に喰らって()()った。

 ゲームで見た魔法(やつ)だアレ……。

 そうか。派手なエフェクトや見切れる速度の魔法なんてサシの戦いで当たる訳もない。

 あれはこうやって集団戦のサポートで使うのが正しいのか。

 そういやホワイトライダーの弓矢もそうだったな。

 

 そしてエリクトニオスの場所へ。

 セルベールは既に地面に転がされてた。

 あ、やっぱり……。

 流石に相手が悪いよな。

 

 だが驚くべきことに、既に黄金鎧の一部が破壊されている。

 肩、脚、胴体の一部が砕かれヒビが入り、中身が見えていた。

 一体どうやったんだ?

 セルベールの剣がブレードより上とは考えにくい。

 なんらかの魔法を使ったのかもしれない。

 

 エリクトニオスの中身は普通の人型っぽいな。骸骨ではない。

 ということは、やはり石化毒は効果が無いということだ。

 ウィリアムのときとは違う。

 

 反対側から駆けてきたブレードが踏み込む。

 以前も見た超高速の斬り合い。

 だが今度はブレードが優勢だ。

 鎧の破損箇所を守りながらでは、元より攻防一体であるクソボスの攻撃をそうそう(しの)げるものではない。

 

 あー、俺は邪魔しないほうがいいかなこれ?

 

 亀裂の入った脚の鎧がアギトの猛攻で粉砕され鮮血が飛ぶ。

 エリクトニオスは後方へ跳んで距離を離してから衝撃波を放つ。

 ブレードがアギトでそれを打ち消したとき――

 前方から何かが飛んできた。

 突然の想定外の攻撃は、ブレードに直撃しその体躯を吹き飛ばす。

 

 勢い的に後方の戦場まで飛ばされたなアレ。

 一歩引いて全体を俯瞰していた俺には、何が起こったのか見えていた。

 エリクトニオスの脚が消えた。

 それは一瞬で別のものへとすり替わっていた。

 

 蛇だ。

 

 人間の上半身と蛇の下半身。

 それはケクロプスの特徴だったはずだ。

 エーコがそんなことを言っていた気がする。

 こいつも蛇の名を持つヒュドラ生物だったのか。

 

 ブレードを吹っ飛ばした尻尾の一撃は、次の標的を俺に定めた。

 長い胴体が地面を這い、振り上げられた一撃が斜め上より迫る。

 エリクトニオスの位置から俺に向けて、真っ直ぐに伸ばされた尻尾が叩き付けられた。

 

 アスファルトの地面が変形し土煙が上がる。

 偽物の地面とはいえ、たいしたパワーだ。

 だが……不意討ちでもなければ、そんなものは当たらないな。

 

 攻撃を垂直跳びで躱し、尻尾の上に着地する。

 両の手に《アギト》と《マムシ》を携えた片手斧二刀流で、蛇の胴体の上を正面へと真っ直ぐ駆ける。

 エリクトニオスの上半身が剣を振るう。

 こいつはドゥームフィーンドではないので、魔法に妙なエフェクトとかの視覚効果はないのだ。

 ヌルゲーに慣らされていたためか、前回はそのことを失念していた。

 魔法そのものは知覚できる。

 ゲーム内でいうところの『魔法の核』という概念。

 それを実在の魔法に置き換えたものも、その存在を知りブレードの斬撃を見続けることで理解できた。

 

 来ることが分かっていれば――

 

「《アギト》!」

 

 ――防ぐのは、容易い。

 

 衝撃波の魔法は、その『核』を絶たれ霧散した。

 水平にアギトを振るった俺は、そのまま前方へと跳躍し身体を捻る。

 そして、後方へと回転させた赤いオーラの斬撃を、黄金騎士へと放つ。

 

「魔力剣――《マムシ》」

 

 伸ばされた紅の刃は構えられた長剣も黄金鎧もすり抜け――

 エリクトニオスの首を一撃で刎ね飛ばす。

 

 黄金の兜は宙に舞い、光の粒子となって砕け散った。

 

 

 

 

 戦いは終わった。

 ブラックライダーはあの後ブレードに倒された。

 ペイルライダーはなんとコボルドたちが討ち取った。

 セルベールは途中からサボって見学していたらしい。

 あいつに手の内を見られたのは不安しかないんだが。

 

 …………。

 

 なんか忘れてる気がする。

 ケクロプスの眷属には、倒す前に聞くことがあったような。

 あっ!

 

「次の階層への入り口が何処にあるのか、聞くの忘れてた!」

「橋を渡って街の外に出るだけですよ?」

 

 ……………………。

 

 そ、それだけ?

 考えてみれば、この街を創った本人なら出入り口を知ってて当然だ。

 

 そっか……。

 いつか夢の中で聞いたこと。

 俺がこの街で会うべき人というのは、セレネのことだったのか。

 

 

 

 

 セルベールから急ぎの話があるとかで、地上に戻る前に駅前で少し休息することになった。

 

「我々が地上に出ても、ヒュドラの眷属として始末される未来しかないであろう。しかし地下では、ヒュドラの勢力におびやかされる」

 

 そうだな。誕生した時点で人生の難易度が高い種族だ。

 ドゥームフィーンドは。

 

「その解決策が、我らが創造主――ドゥームフィーンド・オリジンの存在。その素体は我々眷属よりも遥かに高次の存在。いずれは超越者へと至る可能性すら秘めていよう」

 

 セレネやブレードの言う創造主って、ヒュドラのことじゃなかったのか。

 ドゥームフィーンドを創造した百頭竜みたいなポジションの奴が居たんだな。

 

 矛盾しているように見えたブレードたちの主張は、実は矛盾などしていなかった。

 不自然だと思っていたことも、見方を変えるとそうでもなかった。

 

「そのオリジンならヒュドラにも対抗できるってことか?」

「我々が束になって戦うよりは可能性があるかと」

 

 でもそいつがもし人類にとってヤバい奴だったら、俺にとってはヒュドラと大差ないんだが?

 それともそれは、そうなってから考えるべきだろうか。

 

「ドゥームフィーンドは、オリジンの記憶を介してヒュドラが生み出した存在。言い換えるならヒュドラの力を借りてオリジンが生み出した存在。その過程では、オリジンにはまだ自我が無かったのだ」

 

 古参眷属じゃなくて、生まれたばかりのヒュドラ生物なのか?

 それってつまり、オリジンが自発的にドゥームフィーンドを創造したわけではないってことになるよな。

 

「故にオリジンは、困ったことに創造主としての自覚をお持ちではないのだよ」

 

 やっぱりか。

 

「自力で部下を創造したわけじゃないのか。ずいぶん中途半端な創造主なんだな……」

「生まれたばかりでまだ脆弱な力しか持たぬゆえ、仕方ないのだ。この街の住人たちは、その過程で造られた存在なのだろうね」

 

 なるほど、それで不完全なドゥームフィーンドか。

 それでもそのおかげで、小木(おぎ)さんと最後に話が出来た。

 

「で? そいつはお前が説得しても協力してくれないと?」

 

 お前の悪人ヅラじゃそうそう信用してはもらえないだろうよ……。

 

「創造主殿は不思議な能力を持っておいでだ。吾輩やケクロプスの眷属たちが接触しようとしても何故か会えない。今はまだ小さな力しか持たぬゆえに、高次の魔力で危険を自動的に回避してしまうのだろう」

 

 な、なんだその能力。むしろ俺が欲しいわ。

 小さな力しかないのか高次の魔力持ちなのかはっきりしろ。

 

「それにああも度々迷宮から出られてはね。地上には冥王殿が居る以上、追うわけにもいかなかった」

 

 地上にも来てたんだそいつ?

 

「そいつが超越者に至るにはどれくらいかかる?」

「千年もあれば」

「長いわ! そんな話俺に振ってどうする!」

「しかし肝心なのは今なのだ。創造主殿を失うわけにはいかない」

 

 知るか、と言いたいが聞いてしまった以上もやもやする……。

 

「あー、なんか手がかりはないのか? 名前がオリジンってだけじゃ」

「オリジンは名前ではないよ。名前はパラディンという」

 

 パラディン……。

 パラディン!?

 

「まあ今では、誰かさんが名付けたハイドラとかいう名前のようだがね」

 

 …………は!? えっ!?

 あ、あー。そうだったのか……。

 

 セルベールはニヤニヤと俺を見て。

 

「名付けの親としては、当然彼女の面倒を見てくれるのだろうね?」

 

 ほんと煽り力の高いツラするなあお前……。

 だいたい名前を付けたとか、なんでそんなこと知ってんだ?

 ああ、こいつはヒュドラ生物の記憶を読めるんだったか。

 街を飛び交っている鳥型や虫型のヒュドラ生物。その辺が情報源か?

 

 いやそんなことよりあいつ……ハイドラ。

 ドゥームフィーンドの創造主だったのか。しかも無自覚かよ。

 以前一瞬だけ、あいつがヒュドラなんじゃないかと疑ったことがあるが、創造主という意味では当たらずとも遠からずだ。

 

 正確にはヒュドラに操られ、その力を借りて創造したってことなんだろうが、それでもハイドラの能力には違いない。

 あいつは人間型の眷属を創造するのはド下手糞だったが、好きなゲームのキャラを造らせたらとんでもない才能を発揮した。

 魔法とは自身の望むものを実現する力だからな……。

 

 ある意味はヒュドラの後継者。

 しかしどちらかというと今はまだ、百頭竜に近いポジションだな。

 今回の戦い、ケクロプスとハイドラが同じ立ち位置だったわけだ。

 

 危険回避能力……。

 あいつが言葉を話すヒュドラ生物に遭遇しなかったのって、自分の能力が原因だったんじゃないか。

 

 エーコがハイドラに会えないのもそれが原因か?

 でもモニクには簡単に捕捉されてたぞ?

 流石に超越者の目までは誤魔化せないのか。

 

 あと俺? 俺は……。

 あいつからすると脅威ではなかったんだろうな。釈然としねえ。

 しかし最近は実力も拮抗してきた気がする。

 

「それって下手すると、そのうち俺も会えなくなるのでは?」

 

 セルベールの顔から急速に笑みが消えた。

 

「オロチ殿のほうが創造主殿よりも成長が早い。これは盲点だった。急いだほうが良いかもしれないな……」

 

 こいつが余裕をなくすところを見るのは実に愉快だが、困ったことに俺の余裕もなくなる話だった。

 

「つまり強い生物だと創造主に会えないんですね? だったら大勢のコボルドたちに手紙でも持たせて、街じゅうに放てばいいのでは?」

 

 俺とセルベールは、揃って間抜けな顔でセレネを見る。

 そんな手段(そういうの)もあるのか……!

 

 ――モニクに頼めばいいというのは、後から気が付いた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。