終末街の迷宮   作:高橋五鹿

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第7話 SNS

 五月十日。

 

 武器に関して昨日は結局いいアイデアは出なかった。

 晩飯の生ラーメンは普通でした。特に異常はなかったと思います。

 ジャンクフード好きの貧乏舌だからそんなに違いは分からないけど、普通のお店のラーメンが食べたくなった。生麺はラーメン店に行けばまだ手に入るんじゃないかなあ。

 材料あったら俺に作れるのかと言われれば不可能なんだけど、スープ具材セットをお持ち帰りできる店とかあったはずだ。あれなら簡単に作れる。今度調べてみよう。

 

 隣街の出来事でちょっと混乱していたが、写真を撮っていたことを忘れていた。自治体からのメールの返信は無し。これはSNSで要救助者アピールをすることも視野に入れなければならないかもだ。

 

 川向こうの崩壊した建物群、そして橋を渡って近くで撮影したそれらの建物。にゃんこの写真はない。

 ちょっとインパクトに欠けるな。これを証拠写真とかいっても地元の人にしか分からんよな。近隣地域に分かる人がいたとしても、その人にまで届かなければ意味がない。

 

 そしてこの写真をアップするということは、俺が今までずっと漏洩しないよう気を付けてきた自分の個人情報、ネットの匿名性をかなぐり捨てることでもある。

 どこ住みかなんてバラしたことはない。天気とか電車の時間とか近所で買ったものとか、細かい情報から推理することは可能らしいけど、炎上するようなことでもしでかさない限り、一個人がそこまで根堀り葉掘り調べ尽くされることはほぼない。

 炎上するようなことはこれからするんだけどな。

 

 命に比べれば俺の個人情報とかどうでもいい。それに俺の住所がバレても、押しかけられたり留守中に空き巣に入られることはない。何故ならここは死の街だから……。

 空き巣でもいいから誰か来てくれ、とは思わないな。この状況でここまで空き巣にくる奴がいたら怖すぎる。拳銃の使いどころかもしれん。

 

 俺は四枚の写真を選んで、けっこう緊張しながらそれを投稿した。この写真は崩壊した隣街であること、これはその街の東側から撮影したものであること、自分は封鎖地域の中で生き残ったことをメッセージとして添えた。最後にこう付け加える。

 

『今はまだ危険なので無理かもしれませんが、封鎖地域に入れる方法が見つかったら救助をお願いします』

 

 救助はすぐには無理でも、封鎖地域に関する有益な情報がほしい。巨大化生物の情報とかは特に重要だ。

 

 ほどなくして、先程の投稿にリプライが帰ってきた。

 

『えっ? スネークさん封鎖地域の人なん?』

 

 スネークってのは俺のハンドル。つまりアカウント名だな。動物の名前とかが無難なんだよ。今俺に話しかけてきた人は『ドルフィン』さんだしな。無難だ。

 

『そ。こんなご時世だし、もう個人情報とかひた隠しにしてもあんま意味ないかなって』

 

『へー。今めっちゃ炎上するネタなのにようやるわ。がんばって』

 

 あっ。全然信じてないなこれは。でも嘘だと思ってるのに普通に接してくれるのは有り難いけどな。

 他の人からもリプライがある。

 

『その街に住んでたんだ? その中大丈夫なの? ほんと気を付けてな』

 

 これは『電子ジャー』さん。

 って信じるんかい。あんたさてはいい人だな?

 あっさり信じられてもそれはそれで不安になる。

 

 さて、ちょっと出かけてくるか。

 

 前回の隣街の写真は対岸から見た街並み。それから、橋を渡ってからの様子を写した。今日は建物の上から撮影してみよう。雨まだ降ってるから今日撮ったアピールにも……ならないか別に。

 

 そう、今日も雨天なのである。ショッピングモールでは色々ほしい物があるし、雨の日に持ち帰ってくるのもなあ。俺は傘を差して、西の川岸にある建物を見て回っている。

 

 背の高いビルって、大抵はオートロック付きのマンションなんだよな。

 侵入できないこともないけど、そこまでするのもどうか。

 正面入り口や一階の庭に入ってガラスを壊すとかそういう方法になるわけだが、バールが必要なんじゃないかな。まだ取ってきてません、バールのようなもの。

 

 それに割れたガラスで怪我をしたらバカバカしい。あと、もしかしたら人力では簡単には割れないかもしれない。ガラスも色々だ。

 

 駅近の商業ビルとかは、登るだけなら上まで行けるとこも多いけど、川岸にはそういうのはあんまりない。普通に入り口が開放されている、五階建てのマンションで妥協した。

 

 エレベーターは……停止中。停電か?

 いや、地震で止まったのか。これ、素人でも再起動できるのか? 少なくとも俺には分からない。十階とか二十階のビルがあっても、階段で上まで行くのは考えものだな。やっぱり無理に侵入しなくてよかった。

 

 屋上に鍵はかかっていなかった。意外と見晴らしがいい。西の方角を見ると、背の高いビルが密集している場所が隣街の駅近辺だとはっきり分かる。地面の隆起はビルを越えるほどの高さではなかったので流石に分からない。

 

 でもぽつぽつとそれらしき物が見える気もするな?

 崩れた建物と混ざり合って、普通はその違いが分からないだろう。だが駅周辺を囲むように地面の隆起が円を描いているという前提で見ると、どこかその光景にも法則性のようなものが感じられる。

 

 五階建ての屋上程度では、真横から見ているのと大差ない。一応写真は撮った。前回の写真よりも隣街であることが分かりやすいと思う。

 生物の気配は全くない。西側からも鳥が飛んでいるのが見えたなら、こちらから見えても不思議はないはずだが。

 空を見上げる。雨が降っている以外、特に変わったことはない。

 

 帰ってきてからSNSをチェックすると、今朝の投稿はそれなりに拡散されていた。旬のネタだからな。リプライがいくつか。知らない人からの罵詈雑言だった。不謹慎とかすぐバレる嘘とかニート乙とか色々書いてある。ニートではない。

 バイト先のコンビニは開店休業状態なのでニートか? ニートなのか?

 

 こういった反応は予想してたので別に効いてない。

 へー、これが炎上か……。

 …………。

 効いてないからね。

 

 ハァ……今日はもう酒飲んで寝よっかな。

 

 とか考えていたらまた知らない人からリプライが来た。

 

『スネークさんお疲れッス。ダンジョンにはもう行ったんスか?』

 

 誰だよ。ダンジョンってなんだよ。今ゲームの話はしてないよ。普段はするけど。

 ん?

 こいつ俺をフォローしてきてるな。間違えて話しかけたとかじゃないのか?

 いや、俺のハンドルを呼んでるんだから間違いのわけがないな。なんだ?

 

 アカウント名は……『エーコ』?

 

 普通の名前だ……。ひょっとして本名か。このSNSでは本名とか名乗る人もそれなりにいる。普通の名前に見えて、有名人とかなんかのキャラ名を借りてるだけのこともあるが。

 エーコのプロフィールを見るにアカウントはそれなりに利用されていて、釣り垢とかではないっぽい。なら俺の話を信じているか、あるいはこの手のネタを肯定するタイプなんだろうか?

 

 それにしてもダンジョンはよく分からんな。

 

『ダンジョンには行ってないです』

 

 律儀にリプライを返してしまった。フォローは別に返さんでもいいよな。

 

『中の敵は地上とは比較にならないッスよ。交番の銃とか使えないから止めた方がいいッス』

 

 え?

 

 なんだと……?

 

 交番の銃? なんでこいつは俺が交番の銃を武器の候補にしていることを知っている? エスパーか。

 いや落ち着け。銃をネコババとかシャレにならないから、俺は図星を指されて焦っているだけだ。

 冷静に考えれば、封鎖地域内では警官の銃が手に入るとか誰でも想像できる。これはそういう内容を想像したロールプレイ、つまりゴッコ遊びなのではないだろうか。

 

 なるほどこれは不謹慎だ……。客観的に見て炎上もやむ無し。

 俺はエーコとの会話をそこで打ち切った。

 

 冷蔵庫からビールを取ってくると、またエーコからリプライが来ていた。

 

『余計なお世話かもしんないスけど、ダンジョンだと長ものや飛び道具は使いづらいッス。でもナイフだと威力が出せなかったり。手斧とか便利ッスよ。気が向いたらフォローください。DMするんで』

 

 なんなんだ一体。新手の詐欺商売か? 手斧の通販でもしてんのか? 『~ッス』とか、わざわざカタカナに変換してるんだろうか。

 それより、長ものって長い武器のことかな。「リーチは全てを解決する」とか言ってた昨日の俺が全否定された。エスパーか。

 今日は特に前進無しだな。むしろ後退したまである。

 

 俺はPCの電源を落とすと、缶ビールのフタを開けた。

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