終末街の迷宮   作:高橋五鹿

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第98話 ごろつき共の剣

「クソトカゲ野郎を落としたのってお前らの仲間だろ? 礼を言っといてくれよ」

 

「あのふざけた力の(むすめ)か。一度顔合わせはしたが、ほとんど面識は無い。言いたければ自分で言え」

 

 こいつら……互いに相手を生かして帰す気もねーくせに。

 殺した後じゃエーコに礼も何もないのでは。

 

「僕はクロノス」

 

 久々に見た気がするクロノスは、相変わらず若かったし性別も判別し難い外見のままだった。

 現代風の普段着だが、豪奢な装飾の剣だけはボスキャラっぽい。

 剣の長さは体格に合わせてか短めだ。

 

「ヒュドラの血族。九つ首。そして時間を統べる者」

 

 対するは――

 

「オレはローグ」

 

 ローグも若いはずなんだが、この並びだとオッサンに見えるな……。

 ややボロっちい西洋ファンタジー冒険者風の服装。

 初期装備のショートソードを抜き放ち、替天刃の構えを取る。

 

「ただの、ごろつきだ」

 

 終末街南――海辺の倉庫街。

 

 いや、こんな場所初めて来るんだが?

 境界線の仕様がよく分からなかった頃は海に近付かなかったし、その後も別に用は無かった。

 食料倉庫とかあるし、むしろ初期の頃に立ち寄るべきだったんだよなここは。

 というか……クロノスだってこんなところに用は無いだろうが。

 魔王城はずっと北だぞ。

 こいつ足速いから勢い余ってこんなところに来ちゃったのか?

 

 ……単に、他の奴らに任せて高みの見物をするつもりが、ローグに見つかって追い付かれてしまった、辺りが正解っぽいな。

 

 得物は両者とも剣。

 そして恐らくはどちらも、速さに軸を置いた戦いを得意とするタイプ。

 互いに斬り結び、また位置を変え、目まぐるしく交差する。

 正直ウィスプ越しだと、細かい剣の軌道とか把握し切れない。

 一概にどちらが有利とは言い切れなかった。

 剣技でローグを上回る者などそうそういないとは思うが、クロノスの速度はその上を行く。

 これが時間魔法の本来の効果か。

 

 ローグのショートソードが標的を捉え、血飛沫が飛ぶ。

 だがその刀傷は瞬く間に塞がっていく。

 高速再生――クロノスの時間魔法と相性のいい能力だ。

 先代ヒュドラの頃から九つ首だっただけはあり、こいつもやはり強敵なのだ。

 

「手こずっているようだね、ローグ殿」

 

 その声と同時に、両者が距離を開ける。

 声の主は――

 倉庫の上に現れ、片手に構えた何らかの道具をクロノスに向けている。

 

 セルベール、参戦するんだ……。

 てっきり最後までサボり通すのかと思ったわ。

 

「《コズミック・クラフト》――転星門」

 

 あっ、こいつひょっとして。

 コズミック・クラフトの実験したくて出て来ただけなのでは……?

 

 クロノスが言う。

 

「その道具がどれほど恐ろしいものか、知らないわけじゃないだろう。そんなものに頼って戦うのか?」

 

「理を捻じ曲げるのではなく、捻じ曲がった理を収束するのに使うのだよ。例えばこのように!」

 

 セルベールの立つ倉庫の下、地面に新たな人影が生じる。

 そいつは怨念のような禍々しい気を撒き散らしながら駆け出した。

 クロノスから見れば余裕で躱せる距離。

 しかし跳び退こうとした方向、その場所に魔力の突風が吹いた。

 気配だけで分かる、凄まじい練度の攻撃魔法。

 

「こいつは……!」

 

 突風に驚き叫んだ瞬間の隙を付いて、人影はクロノスの喉笛に喰らい付く。

 それは見すぼらしい老人のような男。

 擦り切れた衣装は、元は豪華であったことを思わせる――

 いや、俺はこの男のことを知っている!

 

『あいつは――テュポーン!?』

 

「ぐっ……がハッ……!」

 

 クロノスも何かを叫びながら必死に振り切ろうとするが、テュポーンは喉に噛み付いたまま離れない。凄まじい執念だ。

 

 かつて『迷宮の力』を用いられ、宇宙へと飛ばされたテュポーン。

 その理の歪みを無かったことにして、この場所へと召喚したのか。

 

 地面に降り立ったセルベールは、軍刀を抜いてクロノスたちのもとへ駆ける。

 間近まで迫ると、その軍刀を全力で投擲した。

 テュポーンの背中からクロノスごと串刺しにし、彼方へと吹き飛ばす。

 

 な、なんてえげつない……。

 利用するだけ利用して後ろからブスリとか。

 ヒュドラに比べれば俺たちのほうが善玉だと思ってたんだけど、ちょっと自信が無くなってきた……。

 

「処分しきれないゴミを宇宙に捨てるとか、空間神の発想は我々の大将と同レベルらしい」

 

 一緒にすんじゃねえよ!

 確かに……消失しきれなかったゴミを迷宮に捨てたりしてたけど。

 

 畳み掛けるように、セルベールは新たな道具を手に取った。

 

「《コズミック・クラフト》影縫(カゲヌイ)!」

 

 地面に転がったクロノスとテュポーンを絡め取るように、真っ黒な何かが両者に纏わり付く。

 

 影縫て……。

 六合器のネーミングってトウテツの中途半端な地球知識から来てるので、なんかズレてるんだよな。

 ネーミングセンスで思い出した。

 あの爺さん、組織のほうのアマテラスに入れる素質があったな……。

 返す返すも惜しい人材を亡くしたもんだ。

 

「ローグ殿!」

「応!」

 

 ローグが手にしている武器。武器……?

 なんだあれ?

 神殿の展示室に置いてあったやつか?

 団扇(うちわ)――夏の暑い日にパタパタやるあのウチワにしか見えんが。

 

「《コズミック・クラフト》――五火(ごか)神焔扇(しんえんせん)!」

 

 それが振るわれた瞬間、目を焼くような光が放たれる。

 終末街の地面を彩るアスファルトは溶けて蒸発し、周囲の森林は炭となった。

 熱波は空気を歪め、辺りの風景は蜃気楼の如く霞んでいく。

 

 そして俺は《嵐の超越者》テュポーンが、この宇宙から完全に消失したことをはっきりと知覚した。

 

 超越者を消し去るとか……。

 なんつうヤバい兵器を使ってんだ。

 こいつら、終末化現象の原因となったコズミック・クラフトを惜しげもなくポンポン使いやがって。

 

 それ一回使うたびに封鎖世界の境界線に穴が開くんだぞ?

 でも使う度に宇宙の歪みが是正されるなら差し引きゼロか?

 よく分からなくなってきた……。

 あと俺が無造作に使いまくってる終蛇もコズミック・クラフトだったわ。

 さっきヴリトラ吸い込んだとき、さぞ境界の壁にダメージ行っただろうな……。

 

 ん? クロノスは何処に行った!?

 

「ローグ殿? 最強のクラフトを預けたというのに、ここ一番で外すとか……」

「やかましい! 責任は取る!」

 

 いつの間にか着弾点から離れていたクロノスをローグが追う。

 

 全身に火傷を負ったクロノスは恐らく、回復力高速化の魔法を自身にかけているが。

 治らない。

 この世の歪みを是正する五火の神焔は、あらゆる魔法の力を拒絶しているようだ。

 足を負傷したクロノスは、ローグから逃れることは出来なかった。

 追い付いたローグの必殺の一撃を、その剣で受け止めようとする。

 

「むうっ!?」

 

 甲高い金属音と共に己の攻撃を防がれたことに、ローグから驚嘆の声が漏れる。

 

 クロノスの奴……虚空掌を初見で止めやがった!

 炎が収まり、再びなんらかの魔法を使えるようになったのか。

 

「剣筋が見え見えなんだよ。いきなりそんな大振りだったら、何か仕掛けてくるだろうってね」

 

 時間魔法を抜きにしても、クロノス自身もなかなかやる。

 しかし。

 力の上限が同じこの結界内では、もはやそのダメージでローグに勝つことは――

 

「猛れ、三十六の星々よ――――替天刃・三十六員天罡閃(てんこうせん)!」

 

 縦横無尽に振るわれるショートソードの連撃が、クロノスの剣を打ち、削り、叩き折る。

 

「世界大災害に加担したあの日から……自分でもロクな死に方は出来ないと思ってたけど……」

 

 人間ならとうに絶命しているような傷が、その身体に次々と刻まれていく。

 

「予想よりはマシ、か」

 

 諦観とも開放感とも、判別の付かないような表情をクロノスは浮かべる。

 そして、ウィスプを――俺のことを見た。

 

「オロチ……同胞のことは……お前かカオス……勝ったほうに任せるわ」

 

 それが最期の言葉となった。

 

 時間の神は、光の粒子となって砕け散った。

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