謎の少女(キリッ)が御三家を渡す

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ポケモンがいない現代でチュートリアルする

 その世界はポケモンが存在しなかった。あらゆる創作物にポケの字すら存在しなかった。

 そこに一人の転生者が生まれ落ちた。

 彼女は前世でポケモンのゲームを愛好していた。転生して真っ先にポケモンを探したほどだ。その奇行ぶりに両親から「わんぱくだね〜」と評されるほどだった。

 だが、ポケモンは見つからなかった。

 絶望した。

 ショックのあまりに部屋に引きこもったが、少女は立ち止まることはなかった。

 数日が過ぎて、少女は閃いたのだ。

 この世界にポケモンを布教すればいいと。

 そして。

 一ヶ月後、少女は知恵熱で倒れた。

 病院の先生から「創作活動はほどほどにね〜」と言われた。

 少女はポケモンの全て、1000体以上を超える絵を再現しようとした。途方もない作業の多さに体を壊してしまったのだ。

 当然、今世の両親に心配された。

 少女は反省して、地道に151匹だけを目標に頑張った。数年の時を費やす。

 少女の情熱もあって出来上がった。

 そして。

 出来上がった渾身の絵は同年代の子どもに「ボクのほうがうまいわwww」で笑われた。

 少女は傷ついて絶望した。

 悲しみが心に満ちて筆を折った。

 月日が流れて数年後。

 小学4年生になった頃。

 全世界に少女が望まない形でポケモンが現れた。人の領域を犯す侵略者のごとく。

 凶暴なポケモンが街一つを地図から消した。

 未知の力で土地から追い出される人々。高速道路で踊るルンパッパの群れ。ミステリーサークルを人の子どもと一緒に作るオーベム。

 各国はポケモンに恐怖を抱いた。

 人間が築き上げた科学で説明できない超常生命……炎と雷、氷を自在に操るポケモンは既存の生物から離れ過ぎた存在だったからだ。

 未知を忌み嫌う人類にとってポケモンが理解を超えた存在であった。

 少女は思った。

 このままではポケモンが——ただの害獣として扱われてしまう。

 世界が混迷している最中、少女は決断した。

 

 

 真昼、太陽の光が降り注ぐとき。

 不気味な緑の帳が街を包み込んでいた。一昔前なら非科学的だと叫ばれたが、今では珍しくない世界中で多発する災厄である。

 災厄たる緑の帳は『KUSAMURA』と呼ばれ、現代の人々が抱く恐怖の象徴だった。

 それは平均的な中学生の腰ほどの草むらから2mを超える巨体が現れる魔の領域。

 物理的な収納が不可能な草むらに2mの巨体を隠すのか、今現在も日本でシュウゾウ博士を中心に議論が行われている。

 このKUSAMURAは除草剤が効かず、限られた達人の『いあいぎり』でしか刈ることができなかった。そのため日本政府は国を挙げて剣道の推進を行っている。

 

「くそっ!」

「KUSAMURAに入るのは危険だよ。武器を持たない無力な男の子なんだから。助けを大人しく待つべきだ」

 

 KUSAMURAに踏み込もうとする必死の形相を浮かべた少年に、腕を掴んで全力で阻止しようとする少女がいた。

 

「この中に妹がいるんだ! 兄である俺が助けにいかないと!!」

「無謀だよ」

 

 少年が目の前にある草むらはモンスターが蠢き、電子音じみた鳴き声が複雑に響いている。

 

「ここには普通の人じゃ対処できないポケモンが有象無象にいる。場合によっては君も怪我する可能性があるんだから」

「それはつまり、デジモンか妖怪か知らねえけど妹が襲われる危険があるんだろ!!」

「……ポケモンだよ」

 

 少女は無念そうに息を吐く。

 意を決したように少年を見つめる。

 

「どうしても行くの?」

「俺は行く、長男だからな」

「では、妹のために戦える君に困難を打ち勝つ力を貸してくれる友だちを紹介してあげるよ」

 

 少女の抱えていた木製のボールが開く。

 赤、青、緑の三匹のモンスターが現れる。

 

「コイツらは!」

「コイツらじゃない、ポケモンだよ」

 

 少年は額から汗が流れ、後ろに足が半歩下がる。

 

「怯えなくていいよ。この子たちは人を襲うことがないから」

 

 諭すような優しい声で少女は言葉を紡ぐ。

 

「順番に紹介していくね。ほのおタイプのヒトカゲ、みずタイプのポッチャマ、くさタイプの……」

 

 二足歩行の赤いトカゲ、青と水色のペンギンを淀みなく説明していく。

 そして、最後の一体。

 他の二匹より一回り大きい緑色の木を、少女は見て固まった。

 そして数秒の時を費やして口を開いた。

 

「……くさタイプのウソッキー」

 

 木のようなモンスターを紹介するとき、少女はわずかに動揺していた。

 少年は一瞬疑問に思ったが余裕はなかったので気にしなかった。目の前のどれかを選ぶのに考えを巡らしていたからだ。

 火を吐く赤いトカゲが強そうだと少年は考えた。「コイツがいい」と口にする。

 

「そう……ヒトカゲを選ぶんだね」

 

 ヒトカゲは喜びの顔を浮かべて、少年に近づいていった。どこか愛嬌のあるヒトカゲの顔に少年は思わず笑う。

 

「ようこそ、ポケットモンスターの世界へ」

 

 少女は祝福の言葉を口にした。

 

 

 

チュートリアルしてくれる謎の少女について語るスレ

 

005:

このスレも伸びたな

 

006:

結局謎の少女って何者なんだ

 

007:

謎の少女は謎の少女以外の何者でないだろ

 

008:

謎の少女とは(哲学)

 

009:

誰も知らない

唯一分かることは、

ポケモンなる異世界のモンスターが

全世界で出現し始めた頃から

チュートリアルしてくれる金髪美少女

 

010:

謎すぎるわ

 

011:

異世界人だろ

 

012:

その説は誰も否定できないわ

 

013:

チュートリアルのついでに

町の歴史を解説していなかったら

異世界人説を信じてた

 

014:

地元民も知らない町の歴史を語る謎の少女

 

015:

地元民は知っておけよwww

 

016:

歴史の授業を真面目に受けてる人だけが

地元民を笑いなさい

センター試験100点なので自分は笑います

 

017:

嘘つけ

 

018:

「日本人はうどんよね」と力説しながら

食べる動画がネットであげられているのも、

異世界人説を否定する根拠になっているよね

 

019:

金髪で日本人を名乗るんかいと思った

箸の使い方は上手かったけど

 

020:

東京でチュートリアルした十分後に

福岡でチュートリアルしてたの笑った

 

021:

テレポートでも使ったのか

 

022:

知識豊富で神出鬼没な謎の少女

あれ、黒幕じゃね?

 

023:

〈画像〉

この鼻水垂れた泣き顔が黒幕の姿か?

 

024:

かわいい

 

025:

もはやミステリアスさがない

 

026:

なんなら世界初で目撃されたときも

ポケモンに追い回されていたからな

 

027:

ただの一般人じゃん

 

028:

〈動画〉

件のポケモンに追いかけられるヤツ

 

029:

えっなに

 

030:

あの、すごく大きいです

 

031:

美少女に魔の手を伸ばす変態の構図

今にも犯されそうで興奮する

 

032:

やめろや

本当だと思ってしまうだろww

 

033:

変態だなんて……

少女を追ってるのはポケモン屈指の紳士で

穏健派なカイリキーさまであらせるぞ

 

034:

カイリキーの一族って筋肉見せるだけで

まじで人間に無害だよね

 

035:

他が鬼畜すぎる、ゲンガーとか

 

036:

ポケモンばかり話しているが

謎の美少女もおかしいぞ

 

037:

大人の俺よりも速くね?

 

038:

この機敏なフットワークは

日本を支えるビジネスマンなら

見習わないといけないですねえ

 

039:

無理です

どう考えても人間の速さじゃない

 

040:

この娘を標準にされると

わたしたち死にます

 

041:

ちなみに身体能力について尋ねると

「マサラ人だから」と答えられた

 

042:

それ、答えになってるのか?

 

043:

考察班がマサラ人について、

「まっさら」→「真っ新」で

新人類説をとなえていたな

 

044:

なにそれ怖……

 

045:

やはり異世界の侵略者では?

 

046:

侵略者とかないだろ

伝説のアレを知らんのか

 

047:

伝説って?

 

048:

ああ、それってハネッコ?

 

049:

〈動画〉

伝説の「アイム ノット ターク イングランド」

本人は英語を喋れないと言ったつもりらしい

 

050:

イングランドは国の名前じゃねぇかww

 

051:

ところどころ微妙に間違えている

テストで出たら赤点ものですわ

 

052:

外国人っぽい容姿でか

 

053:

金髪美少女なのに

 

054:

これで侵略者は間抜けすぎる

 

055:

こんなポンコツ娘が

チュートリアルして

本当に大丈夫なのか?

 

056:

でも、このポンコツさで

ファンクラブが出来たよね

みんな優しい目で眺めてるよ

 

057:

ファンクラブなんて初めて知ったわ

 

058:

あー、アソコはファンクラブというより

ポケモンWikiと言った方が分かりやすいか

 

059:

そういやWikiの前身はファンクラブだったな

 

060:

件の少女がポケモンの絵を投稿

一般人から絵の解説を求められて

どんどんとWikiっぽくなったんだよな

 

061:

アソコの絵は特徴を捉えていて上手だよな

なかなか、お目にかかる絵じゃないわ

 

062:

なんなら絵の構図が上手すぎて

実際のポケモンと見比べたとき

現実のガッカリ感が凄いからな

 

063:

ヌマクローの悪口はそこまでだ

 

064:

ヌマクローは古いぜ

イイネイヌを見ろよ

絵は悪人フェイスでカッコいいのに、

実物の悲しそうな目をしてる姿をよ

 

 

 

「ヒトカゲと一緒に戦う少年……実に絵になる光景だな」

 

 少女は小さく呟いた。

 手元にはスケッチと筆が握られている。

 実を言うと、今回のKUSAMURAは最序盤で出てくるポケモンしかいなかったので少年を一人で行かせても問題はなかった。救出に失敗しても怪我をする程度だろう。

 とはいえポケモンはポケモンなので、万が一に備えて少年にポケモンを渡した。

 

「しかし……ウソッキーを選んでくれなくて助かった。私のポンコツぶりが露見するところだった」


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