これは105期の蓮ノ空の秋頃。瑞河が別の法人の運営に変わった体制で復活することが告げられ、その祝いとして第2回の瑞蓮祭が行われた後日の話。
蓮ノ空の部室では、吟子と泉が話していた。
泉「ライブ出場の招待? それはまた、難しいタイミングに来たものだね」
吟子「うん。ちょうど三年生も居ないし」
泉「その日はセラスも不在のはずだね」
吟子「でも、メンバーが揃わないから出られませんでした、なんていうのは避けたいんだ」
泉「ふむ。良いだろう。私はもちろん出るよ。小鈴さんと姫芽ちゃんは?」
吟子「参加してくれるって。だから確認は泉で最後。これでなんとか、小四辺形は揃った」
泉「小四辺形………。披露する曲はもう決まっているのかな?」
吟子「そうなんだよね、次はそれを考えなきゃいけない」
すると、
泉「では、いったん私にまかせてくれないかな」
吟子「泉に? もちろん構わないけど……時間はあまりないからね?」
泉「ああ。分かっているとも」
そして吟子は部室の扉に向かいドアノブに手をかけると、
泉「ところで吟子……」
吟子「戻ってきた」
泉「私たち4人ということに、意味があるべきだね?」
吟子「え? いや、そこまでは」
泉「せっかくなんだから、意味があるべきだね?」
吟子「ええ?」
戸惑う吟子。「どうしたん?」という顔をしている。
泉「あるべきだね?」
吟子「これ、はいって言うまで終わらないやつ……!? まあ、そうだね。いっそその方が、会場に集まった人たちは喜んでくれるかも」
泉「ああ。その言葉が聞きたかった。では」
そして今度こそ、泉は部屋を出た。
吟子「なんなん……」
―――部室前廊下。
泉「そう、私たちは蓮ノ小四辺形。私もその一角を担うことができている。だったらやりたいことがある」
泉「この前先輩たちが来た時に、淳平先輩は私も自分を出していいとは言ってくれたけど、新参の私の意見を通すためには、まず根回しが必要だ。いやいっそ、向こうから私の望みを提案してもらえるようにするか………?」
考える泉。
泉「となると吟子にはいったんあれでいいとして……小鈴さんと姫芽ちゃんか。ふふふ。頑張るぞ。ちぇすとちぇすと」
そして、泉は小鈴の教室へと向かった。
―――2年生、小鈴の教室。
教室では、小鈴と泉が対面していた。
小鈴「吟子ちゃんから話は聞いてるよ! 4人でライブ、頑張ろうね!」
泉「ああ。期せずして蓮ノ小四辺形で行う、力の入るライブだね」
小鈴「泉ちゃんがそんなにやる気になってくれてるなら、絶対大成功だよーー!」
泉「そう言ってくれると助かるよ。ところで小鈴さん」
「ところで……」と、きり出す泉。
小鈴「ほ?」
泉「小鈴さんは私のことを、高く買ってくれているよね」
小鈴「もちろんだよ!」
泉「そして小鈴さんは人の長所を見抜くのがとても上手な人でもある」
小鈴「そう言ってもらえると嬉しいなぁ」
泉にそう言ってもらえて照れる小鈴。
泉「では蓮ノ小四辺形でライブを行うとして。蓮ノ小三角から、私が加わることでパワーアップするような、そんな曲があったら良いと思わないか?」
小鈴「ええ!? そんなのがあるの!?」
泉「あるかもしれない。そこをね、小鈴さんに考えてほしいんだ。ほかでもない、みんなの長所を考えられるあなたにね」
小鈴「なるほど、何が良いかなー、アレもいいし、コレもいいなー。どれでもいいなー」
考えるが、どれも良く感じる小鈴。
泉「いや、自ずと一択に絞られるはずだ。しっかりしてくれ小鈴さん」
小鈴「え! そうなの!?」
泉「ああ。考え抜いてほしい」
小鈴「い、泉ちゃんの中にはもう答えがある的な……?」
泉「そういうわけではないが。小鈴さんの自主性に任せたい」
小鈴「激しく不安なんだけど! ありそうじゃん答えが!」
泉「ないったらない。小鈴さん、あなたを信じているよ」
小鈴「怖いよ! 外したらどうするのさ!!」
泉「その時は………」
泉が「期待外れだ」とか、「ガッカリした」と言う様なポーズをジェスチャーする。
小鈴「怖いよ!!!! 徒町の評価ガタ落ちしそう!!」
泉「ふふ。ガタ落ちする余地があるほど、小鈴さんの評価はすでに天を衝くほどだと自覚していてくれて嬉しいよ。では」
そうして、泉は行ってしまった。
小鈴「スカイダイビングくらいの勢いで落ちるってこと!? か、徒町地面を這いつくばってた頃のが生きやすかった!? 待ってよ泉ちゃん! 泉ちゃーん!!」
小鈴は絶望するような叫びをあげた。
放課後―――、職員室前廊下。
姫芽「いや〜、助かったよいずみ〜ん。日直なのは良いんだけど、今日だけでみんなのノート集めて職員室に行くの3度目でさ、流石にくたくただったんだ〜」
泉「ふふ、構わないさ。私に手伝えることがあったということを、嬉しく思うよ」
姫芽「でもさ〜。いくらなんでも変だよね〜。このタイミングで3つの教科からノートの抜き打ちチェックなんて〜」
泉「ああ、こうでもしないと姫芽ちゃんから感謝されるのは難しそうだったからね」
姫芽「感謝してる感謝してる〜……ん?」
泉の発言が引っかかり、訝しむ姫芽。
泉「ん?」
姫芽「なんか今、いずみんが仕組んだみたいに聞こえたんだけど」
泉「いやまさか。……ところで感謝してもらえているところ、ひとつ提案があるんだが」
姫芽「ふ〜〜〜〜ん………?」
完全に怪しむ姫芽。
泉「おや、どうかしたかな?」
姫芽「いやべつに? いいよ、何提案って」
泉「今度、小四辺形のメンバーで出ることになったライブがあるだろう。そこを、最高に盛り上げたいんだよ」
姫芽「そりゃあもちろん〜。ま〜なにやっても盛り上がると思うけどね〜」
泉「………。……瑠璃乃先輩にも胸を張れる成果を出したくはないか」
姫芽「!!」
姫芽(わざわざアタシにるりちゃん名指しで引き合いに出してきたか……。まじでなんかあるな……)
考え込むも完全に「何かある」と、確信した姫芽。
泉「姫芽ちゃん?」
姫芽「ん〜ん。なんでも?」
泉(……裏を疑われているな。ならば)
表情には出さず、頭の中で方程式を組み立てる泉。次なる一手は、
泉「想像してほしい、姫芽ちゃん」
姫芽「ん?」
泉「今回のライブが大成功し、その映像を瑠璃乃先輩が見るんだ」
姫芽「………!」
泉「蓮ノ小四辺形だけでしかできないライブが大成功。瑠璃乃先輩は心から喜んでくれるだろう。姫芽ちゃんも大絶賛を浴びるに違いない」
姫芽「いや……そんな、うぇへへ」
自分の推しから大いに褒められるところを想像し、オタク特有のニヤケ顔になる姫芽。
泉「しかしうっすらと瑠璃乃先輩も思ってしまうんだ。自分のいないところでこんなにも輝く姫芽ちゃんを見て、自分とだったらもっと凄いことをできるのに、させてあげられるのに、と」
姫芽「うお」
泉「その後の2人のユニットは、さらに高みへと―――」
姫芽「おお………いや、でもるりちゃんはそんな事……思って、くれる……? あんまり想像つかないけど、それはそれで……解釈不一致とまでは……うへへ………」
泉「よし、頑張ろう姫芽ちゃん!」
ここでトドメに移行する泉。
姫芽「分かったよ、やってやりましょう!!」
そして張り切って部室に向かう姫芽。泉は立ち止まり、そこから姫芽の遠くなる背中を見て、
泉「姫芽ちゃんのマインドセットも、まあこれで良いだろう」
たが―――、
姫芽(……………)
やはり姫芽は騙されておらず、大きな違和感を泉に感じていた。
― スクールアイドルクラブ・部室前 ―
泉「よし、根回しはこれで十分だ。3人とも、私の意見に頷いてくれるはずだ。たとえ――、渋々であっても」
そして部室にはいる泉。すると、
泉「もう揃っていたのか」
吟子「……………」
泉を疑う目で見る吟子。同じ目で小鈴と姫芽も泉を見ていた
泉「おや、なんだか空気が重たくないか?」
小鈴「泉ちゃん………」
泉「ん?」
姫芽「いずみんさあ。な〜んか、企んでるでしょ〜?」
泉「………さて、なんのことこな」
内心冷や汗ダラダラの泉だった。
小鈴「ごめん、結局2人に相談しちゃって……。そしたら、泉ちゃんにはやっぱり何か裏があるんじゃないかって………」
泉「……なる、ほど。確かに、仲間を頼るのも小鈴さんの強さ……か………」
小鈴の純粋さの前に、完全に計画が崩壊した泉だった。
吟子「さあ、きりきり白状してもらうよ。なにを企んでたの。せっかくの私たちのライブで」
姫芽「もう隠し通せないぞ〜! ここがいずみんのゲームオーバーだ!」
泉「……そう、か。ここが、果てか」
小鈴「え、なんかちょっとかっこいい……」
元からイケメン女子と言われる泉、さらに天を見上げるような仕草から繰り出されるそのイケボ。
ぶっちゃけ同じ女の子でも人が人なら惚れてしまうほどカッコよかった。
さて、3人の対面に座り、白状した泉。
吟子「どうしてもやりたいことがあった……?」
泉「いや、すまない。それだけと言えば、それだけなんだ」
小鈴「ただ言えば良かったじゃん!?」
小鈴の正論クリティカルパンチ。皆様なら分かるだろうが、この3人は、仲間から素直に「やりたいことがある」と言われて、首を横に振る思考回路は持ち合わせていないのだ。
泉「……ふふ。小鈴さんの直球は、いつだってクリティカルだね。その通りだとも」
小鈴「じゃ、じゃあなんでそんなまどろっこしいことを……」
泉「それは……新参だから、だろうか」
姫芽「違うと思うにゃ〜。はあ。まだまだやりたいことを言うのが下手なんだよ」
泉「……面目ない」
姫芽「いいよ」
吟子「……嬉しそうだね、姫芽」
姫芽「まあね! いずみんに、やりたいことがあったって事だから。これが、欲望とすら言えない小さいことだったとしても」
泉「……………」
吟子「まあ私も、小四辺形としてやりたいことが、他ならない泉にあったって事だから……嬉しいよ」
泉「吟子」
吟子「ちゃんと私たち、仲間なんだって……、泉がそう思ってるって分かったから」
泉「………ああ」
吟子の言葉に泉はやっと笑顔を見せ、頷いた。
小鈴「ごめんね、結局答えは出なかったんだけど……泉ちゃんのやりたいことは? なんだって言ってよ! 泉ちゃんのやりたい事なんだから、なんでもやろうよ!」
泉「ッ! ……ああ、そうだね。ではひとつ、みんなにお願いがあるんだ。いいかな?」
吟子「なに?」
小鈴「徒町、なんでも大歓迎です!」
泉「ああ、実は―――」
そして泉のやりたいことが話され、それから4人で練習を積み重ねライブ当日がやってきた。
― ステージ・舞台裏 ―
吟子「それにしてもまさか、お願いがこれなんて思わなかったよ」
泉「念願叶って、とても嬉しいよ」
小鈴「よーし、みんなで頑張るぞー、ちぇすとー!! でも姫芽ちゃん、ご機嫌だね!」
姫芽「そりゃね! いずみんがやりたいこと……それがアタシたちと一緒のステージなんだもん!」
泉「ああ。……正直羨ましかったんだ。羨ましかったし、最初見た時はおおいに笑わせてもらった。こんなに楽しいだけのステージがあるのかと。だから、混ざりたかったんだ。どうしても」
小鈴「いいじゃん! やろうよ4人で!!」
吟子「あと、泉が淳平先輩にも見てほしいってライブの配信リンク送ったのには驚いたよね」
姫芽「さっき返事来てたよ? 梢先輩と綴理先輩、めぐちゃん先輩もそれぞれ見てるって」
小鈴「余計に気合が入りますね!」
泉「ああ。あれほどにスクールアイドルの熱量を加速させる才能を持つ彼に、私たちのライブを見てほしかったんだ。――さて、そろそろ行こうか。蓮ノ小四辺形で――!!」
そして披露された曲は、4人でやるのは初めての楽曲。『恥は人生のかきすて』。
泉が入ったことでパフォーマンスの力強さが更に際立ち、より洗練されたライブになっていた。
そして、ライブを終えて舞台袖に戻ってくる4人。すると、
ブーッ! ブーッ!
泉のスマホに通知が入った。泉がスマホを見ると、先輩たちからお褒めの言葉が送られてきており、淳平からは、
『大変よくできました』の、花丸スタンプが送られてきた。
吟子「ちゃんと見てくれてたね?」
泉「ああ!」
― つづく? ―
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