ハンドラー・ウォルター先生概念。   作:ヤマ

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 冷酷非情。
 その事実は、いつまでも消えることはない。


1-8

 015

 

 二日後の早朝。

 俺はメニに依頼していた幾つかの調査結果を、通信機を介して彼女から報告を受けていた。

 内容の大部分を占めているのは、ヘルメット団が使用していた兵器についてである。

 

『回収した、散らばった戦車の部品。あれ、キヴォトスでは使用が禁止されている違法機種でした。もう少し調べる必要はありそうですけど……ヘルメット団は、自分たちでは入手できない武器まで保有してます』

「元は……ヘルメット団の依頼主だろうな」

『でしょうねえ。ロイさんは直に聞いたみたいだし、間違いなく裏に何かいますよ』

「…………」

 

 気を付けてくださいね、と言うメニの面倒そうな声に、解決は程遠そうだなと嘆息する。

 ヘルメット団が──いや、裏にいる依頼主が何故ここまで執拗にアビドスを狙うのか目的が見えない以上、対策も碌に打つことができん。

 潰れかけの学校に何を求めている?

 それが何だったら、俺は納得できる?

 

『あ、そうそう。ロイさんたちの経過は良好です。一週間程度で完治するんじゃないですかね』

「……重畳だな」

 

 ひとまずこの話題は終わりと言わんばかりにメニは話題を変え、ロイたちが無事に入院したこと、それぞれ四人ともが命に関わるような怪我や病を持っていなかったことを報告した。

 ……まあ、これ以上兵器について議論しても結論は出ないだろう。泥沼に嵌る前に切り上げておくのが賢明かもしれない。

 それにしても、ロイも一週間程度で退院するとのことだが……あの怪我にしては早過ぎる。ヘイローを持っている人間はやはり治癒力も尋常ではないようだ。

 

『って感じですね。元ヘルメット団なんて肩書きの割には大人しくしてますよ、彼女たち』

「……そうか」

『あ、いや、別にそういう意図はないんです。すみません。やっぱ今までのイメージが先行しちゃって』

「謝る必要はない。あいつらはそれだけのことをしている」

 

 メニは仕事上ヘルメット団に所属していた人間を多く見ているためか、自身の発言が偏見の入り混じったものになったことを謝罪した。

 しかし、ロイたちが元ヘルメット団だったことは事実であり、そこで働いた行為も褒められたものではないことを本人から聞いている。

 全ては、これからだ。

 偏見という逆境を乗り越えて、彼女たちは進まなくてはならない。

 

『……そうですか。では、ひとまずこれで。この後、問題なく退院したらシャーレで待機させればいいんですね?』

「ああ。ご苦労だった、メニ。報酬は振り込んでおく」

『どうも。…………ああ、それと』

「……?」

 

 付け加えるように言って──それでいてどこか躊躇うような空気を通信機越しに感じる。

 メニは何かを言おうとして、やめて、それからもう一度何かを言おうとしてから、これは独り言ですけど、と念を押すように付け加えて言葉を続けた。

 

『彼女たちは、()()()()()()()()()

「…………」

『それだけです。……それでは、先生。また』

 

 俺の返事を待たないまま、ぶつり、と通信が切断された。独り言の体を保つために、わざと切ったのだろうと察せられる切り方だった。

 ……たった一言だったが、彼女の言葉の意味は理解できる。

 ロイたちは決して特別ではない。それは実力とか、頭の出来とか、そういうことではなく──彼女たちの境遇の話だろう。

 キヴォトスには、ロイのような子供が沢山いる。

 

 ──誰彼構わず助けるのは、お勧めしません。

 

 そういうことだと思った。

 メニからすれば、俺の行為は善性によるものであると想像してしまうだけの材料はあっただろうし、彼女は彼女なりの忠告を俺にしたのかもしれない。

 実態は真逆なのが、なんとも皮肉である。

 

「……随分と気の利いた独り言だ」

 

 溜め息を吐く。

 メニの言うことは正論かつ事実であり、俺としてもキヴォトスにいる全ての子供を救おうなどという高尚な考えを持っているわけではない。

 ならば何故、俺はロイたちを拾ったのだろう。

 見捨てられなかったのか。

 間違っていると思ったのか。

 あるいは──もしかしたら俺は、猟犬の中から再び渡鴉となるような、俺を殺しうる誰かを求めているのか。

 

「……621」

 

 独り、呟く。

 誰にも伝わらない、二度と届くことのない呼称。

 あれほど俺にとって都合の良い終わりをもう一度求めるのは、傲慢極まりないとお前は笑うだろうか。

 お前は、笑えているだろうか。

 笑えるように──なっただろうか。

 今の俺に、それを知る術はない。

 

 016

 

「まったくもうっ、まったくもうっ。いつもふざけてばっかりで。銀行強盗とかマルチ商法とかそんなことばっかり言って……先生がいなかったらどうするつもりだったんですかっ」

 

 メニから連絡を受けた午後、俺たちは機嫌を大幅に損ねたアヤネを引き摺って、柴関ラーメンへと訪れていた。

 珍しいこともあるものだと思いつつ、あのような会議ではアヤネの怒りが爆発するのも無理はないと同情する。

 他の四人にも悪気はないのだろうが、些かこの状況下の冗談にしては苦しかったらしい。

 

「いやあー、悪かったってば、アヤネちゃーん。ラーメン奢ってあげるからさ、怒らないで、ねっ?」

「怒ってません……」

「はい、お口拭いて。はい、よくできましたねー☆」

「赤ちゃんじゃありませんからっ」

 

 ぶつくさと怒りを垂れ流すアヤネを、ホシノたちがにこやかに宥めすかしているあたり、彼女たちは怒っている後輩ですら可愛くて仕方がないようだった。

 

「……なんでもいいんだけどさ。なんでまたウチに来たの?」

「アヤネ、チャーシューもっと食べる?」

「ふぁい」

 

 バイト中のセリカの疑問を特に拾うことなく、シロコはアヤネの口にチャーシューを差し出している。口を膨らませながらも頬張る様子からして、当初よりは怒りが減衰しているらしい。

 ご機嫌取りは成功していると言えよう。

 ちなみに、アヤネの怒りの原因は先程行われた定例会議によるものである。

 会議の内容は、アビドスの借金を具体的にどう返済していくか。

 議題そのものは真面目だったのだが、『バイトや指名手配犯を捕まえるだけでは限界があるから一発逆転が必要』と豪語して詐欺話を持って来たセリカを始め、スクールバスジャック、銀行強盗、スクールアイドルと、採用に至る提案は存在しなかった。

 いくら金がないからと言って犯罪をさせれば本末転倒であることから、詐欺、拉致、強盗は当然却下。

 スクールアイドルというものに馴染みはなかったが、偶像崇拝は碌なことが起きないのは目に見えているため、これも除外。

 結果、俺が仕事を斡旋するということで会議は終わった。

 人生に逆転はない。

 良くも悪くも現実的な結論である。

 

「……そう言えば先生、具体的に仕事って何すればいいの?」

「基本的にはシャーレの仕事だが……大部分は俺にこなせない仕事になる。依頼人の護衛、暴走AIの鎮圧、指名手配犯の確保、廃墟探索等だ」

「なんか最後だけおかしくない?」

 

 セリカからの問いに、俺は現状消化できていない依頼を羅列した。

 ある程度の書類仕事はともかく、今の俺に戦闘が起きうる仕事を受けることはほぼ不可能である。

 もちろん部員は最初に世話になったユウカたち四人が在籍しているが、あれほどの重役を四人同時に集めて依頼をこなすのは現実的ではない。

 

「……ちなみに一番報酬が良いのは?」

「廃墟探索だ」

「うへ」

 

 鳴き声のようなホシノの声を微かに捉えつつ、俺はタブレットを操作して、今席に座っている四人に画面を見せた。セリカにも見せようかと思ったが、そのタイミングで来客があったため、後で見せることにする。

 後述は主な依頼内容だ。

 とある場所に行きたいから護衛をしてほしい。

 軍需工場のAIが暴走して、警備ロボットが暴れ回っている。

 カイテンジャーと名乗る指名手配犯の確保。

 『スランピア』と呼ばれる廃墟探索──元々はモモグループという企業が建設した『ユートピア』という名のテーマパークらしい。その施設自体は半年程度で廃業したらしいが、どうも電力が絶たれたはずの遊具が夜になるとひとりでに動く、生徒を丸呑みにしてしまう等の噂があるため、実態を探ってほしいとのこと。

 

「明らかに廃墟だけ情報多いね」

「もう行く気満々で調べてませんかこれ?」

「……現状最もクレジット報酬が多いのがこの仕事だ。他とは比較にならない程に高額なのは、詳細が判明していない故の危険手当だろう。仕事を受けるかどうかの判断はお前たちに任せる」

「うーん……」

 

 俺の提示した仕事の内容に、四人は唸るようにして考え込んだ。

 ひとまず彼女たちを思考に没頭させるため視線を四人から外せば、セリカは接客をしている最中だった。

 

「四名様ですか? お席にご案内しますね。」

「んーん、どうせ一杯しか頼まないし大丈夫」

「一杯だけ……? でも……どうせならごゆっくりお席へどうぞ。今は暇な時間なので、空いてる席も多いですし」

「おー、親切な店員さんだね! ありがとう、それじゃあお言葉に甘えて」

 

 見慣れない制服の少女たちが四人。

 いや、それよりも特徴的なのは……頭部に生えている角か。

 四人のうち二人……白髪と黒髪の少女と、紅色の髪をした少女に角が生えているように見える。

 

「あ、わがままのついでに、箸は四膳でよろしく。優しいバイトちゃん」

「えっ? 四膳ですか? ま、まさか一杯を四人で分け合うつもり?」

「ご、ご、ごめんなさいっ。貧乏ですみません!! お金がなくてすみません!!」

「あ、い、いや……! その、別にそう謝らなくても……」

 

 灰色の髪の少女と、黒に近い紫色の髪をした少女は、自らの懐の寂しさをあけすけに話していた。

 

 ──彼女たちは、特別じゃありません。

 

 メニの言葉が脳裏で反芻する。

 程度の差はあるだろうが……珍しいことではない、か。

 

「いいえ! お金がないのは首がないのも同じ! 生きる資格なんてないんです! 虫けらにも劣る存在なのです! 虫けら以下ですみません……!」

「はあ……ちょっと声デカいよ、ハルカ。周りに迷惑……」

 

 ……なんと言うべきか。凄まじいほどのネガティブ思考だな。

 紫髪の少女──ハルカと呼ばれた少女の周りにいる三人には、そういった兆候は見られないため、全員が全員ではないのだろうが……どういった境遇で育ったのか、いらない気を回してしまいそうだ。

 

「そんな! お金がないのは罪じゃないよ! 胸を張って!」

「へ? ……はい!?」

 

 しかし、俺がその思考に陥る前にセリカが励ますように言う。

 一切裏表のない、真摯な声で。

 

「お金は天下の回りもの、ってね。そもそもまだ学生だし! それでも、小銭をかき集めて食べに来てくれたんでしょ? そういうのが大事なんだよ! もう少し待っててね。すぐ持ってくるから」

 

 ……含蓄のある言葉だ。

 激励するセリカの声に四人は呆然としたまま、立ち去るセリカを見つめていた。

 注文を大将に頼むつもりなのだろう、こちらを通りすがったセリカに、俺は声を掛ける──が。

 

「セリカ」

「ううん、先生。大丈夫。今回は任せて」

 

 と。

 特に何も語っていないのだが、どうも彼女は俺のやろうとしていたことを察したらしい。

 セリカは俺を制するように一声だけ掛けて、大将の元へ歩いて行った。

 ……まあ、大丈夫と言うのなら信じるべきだろう。

 あちらはセリカに任せることにして、俺は先ほどの四人の様子を見るために再び視線を戻したところ、四人はテーブル席で話し合っていた。

 

「何か妙な勘違いをされてるみたいだけど?」

「まあ、私たちもいつもはそんなに貧乏ってわけじゃないんだけどね。強いて言えば、金遣いの荒いアルちゃんのせいだし」

「『アルちゃん』じゃなくて社長でしょ? ムツキ室長、肩書はちゃんと付けてよ」

「ん? だってもう仕事終わった後じゃん? ところで、社長のクセに社員にラーメン一杯奢れないなんて」

「…………」

「今日の襲撃任務に投入する人員を雇うために、ほぼ全財産使っちゃったし……」

「ふふふ。でもこうして実際ラーメンは口にできるわけでしょ? それぐらい想定内、よ……」

 

 そこまで話が進んだところで、唐突に「アルちゃん」と呼ばれていた少女がこちらへと視線を向けた。少々あからさまに視線を向け過ぎたらしい、俺と少女の視線が真正面からぶつかった。

 これ以上は無礼にあたると思った俺は視線を外そうとしたが──妙なことに、少女の視線が一向に俺から外れない。

 先程よりも呆然としている様子だった。

 

「たったの一杯分じゃん。せめて四杯分のお金は確保しておこうよ……」

「ぶっちゃけ、忘れたんでしょ? ねえ、アルちゃん。夕飯代取っておくの、忘れたんでしょ?」

「……ハ」

「……あれ? どーしたのアルちゃん。おーい」

「はあ。ま、リスクは減らせたほうがいいし。今回のターゲットは、ヘルメット団みたいなザコみたいには扱えないってことには同意する。でも全財産をはたいて人を雇わなきゃいけないほど、アビドスは危険な連中なの?」

「…………ハ」

「……? どうしたの社長?」

 

 そして、次第に周りの三人も異常に気付いたらしい。

 一向に反応を示さなくなったアルと呼ばれた少女の視線を辿って俺の存在に気付くのと、その少女が目を輝かせながら声を出すのはほぼ同時だった。

 

「ハードボイルド……!」

 

 ラーメン屋でその表現を聞くのは、後にも先にも今日だけに違いない。

 

 017

 

「ねえ貴方! その、何をしてらっしゃる人!? 裏で秘密部隊とか持って闇で暗躍してたりとか、それとも信念を持って犠牲を厭わずに何かしてたりとか……!」

「なっ、なんですか貴女! 先生に何か──ちょっ、力強……!」

 

 少女は俺たちが座っている席に向かって歩いてくると、俺に辿り着くやいなやそんなことを言った。

 初対面の人間に対しての距離の詰め方としては尋常ではない。

 ラーメンを食べ終わったアヤネが、俺から少女を引き剥がそうとしているが、どうやら並々ならぬ力で俺の側を維持しているらしく動きそうになかった。

 

「……アヤネ。取り敢えず離してやれ。悪意はないだろう」

「いきなり先生を侮辱する人に悪意がないわけないじゃないですか!」

「……っ! その鋭い眼光にイメージ通りの声! 響くような低さ! まさかこんなにハードボイルドを体現する人がいるなんて!」

 

 収拾がつかない。

 アヤネはアヤネで怒りが再燃したようで、少女に対して今にも噛み付きそうな勢いである。

 そしてアヤネ以外の三人はと言うと、少女の言った内容にどこか納得する部分があったらしく、神妙な顔をしていた。

 

「……先生、確かに渋いね」

「ハードボイルド……情緒や感情を抑えた人を指す言葉でしたっけ」

「どっちかって言うと冷酷とか非情とかの意味じゃなかったかなー。そうするとあんまり先生の表現としては正しくないけどね」

 

 と、ハードボイルドとは何かを談義していた。

 切実に止めてほしかったが、どうやら味方は少ないらしい。

 

「アルちゃんアルちゃん。その辺にしときなって。お爺ちゃん困ってるよ」

「はっ……あっ、その、ごめんなさい! つい興奮しちゃって……」

 

 どうやら少女の暴走を見かねたらしい、灰色の髪をした少女が声を掛けると、アルと呼ばれた少女は正気に戻ったらしく気まずそうに頭を下げた。

 すぐさま謝罪ができるあたり、やはり先ほどの言動に悪意はないようだ──むしろ善性があると言えるだろう。

 

「……お爺ちゃんではなく先生です。確かに少し強面ですけど、悪事を働くような悪い大人ではありません!」

「…………」

 

 擁護であるはずのアヤネの言葉が、俺に突き刺さる。

 俺が、非情で、冷酷で、悪事を働いている悪い大人である事実を聞いたとき、彼女たちはどう思うだろうか。

 想像は──容易い。

 

「えっと、改めて先生……で良かったかしら。私はハードボイルドなアウトローを目指しているんだけど」

「……そうか」

 

 それからしばらく。

 彼女たちの席に特大の……一杯の中に多量のラーメンがこれでもかと入った、若人の特権を形にしたかのような一杯が運ばれたり、それがセリカと大将の気遣いによるものだったりと、このキヴォトスにも尊敬できる大人がいるのだなと少しだけ安堵できる出来事があった後。

 ラーメンをある程度食べ終わった少女は、アヤネに改めて謝罪し、こうして俺と会話していた。

 陸八魔(りくはちま)アルと名乗った紅色の髪をした少女は、そんな自己紹介を繰り出したが、俺はまともな返事をすることができない。

 冷酷非情な無法者になりたいと言われて、これ以上何を返せばいいのか、この歳になっても分からなかった。

 

「何事にも恐れず、何事にも縛られない、ハードボイルドなアウトローってどうやったらなれると思う?」

「…………なろうと思ってなるものでもないだろう。自分のやりたいこと、やるべきことをやり続けた結果、そうなることはあるだろうが……」

 

 そうなってしまうことは──あるだろうが。

 望んでなるものは、そうはいまい。

 つまるところあまりお勧めはしない、という意味を含めつつ俺は答えた。

 

「やるべきことを……! なるほど先生、参考になるわ!」

「……俺を参考にするのはやめておけ」

「どうして? 先生は私の理想よ?」

「…………」

 

 褒め言葉……なのだろう。恐らく。彼女にとってハードボイルドとは、人を称賛するときに使用できる語彙のようだった。

 ともあれ、悪の道など進まなくていいなら行く必要はない──と言うのは余計なお世話だろうか。

 この極めて善性に溢れた少女は『ハードボイルドなアウトロー』という()()に憧れている……ように見えた。

 彼女には彼女なりの、そう思うだけの何かがあったのだろうが、しかし、俺は既に見てしまっている。

 生きるために悪に手を染めてまで生きようとした人間を知っている。

 そういう者が、キヴォトスには沢山いることを、俺は知っている。

 皮肉なことに、そうなってしまった者はどうしようもなく普通に憧れるのだ──善の道に焦がれ続けるのだ。

 後戻りのできない道に。

 ならば、俺はどうするべきだろう。

 彼女の想定が仮にここまでのものであったとして、俺はそれを推奨するべきなのだろうか?

 

「……俺はお前の思い描くような人間ではない。仮に見た目がそう見えると言うのなら焦ることはないだろう。年月が解決する」

「で、でもそんな先なんて……」

 

 アルは、俺の姿を見てそう溢した。

 ……まあ、気の遠くなる話かもしれん。俺からすれば瞬くような時間だったのだが、これは老人の感想だろう。

 

「……何事にも動じず、恐れない人間になりたいと言うのなら、二つ、言えることがある」

「──! 何かしら先生!」

 

 結局、色々悩んだ上で俺に言えることは少ない。

 であれば、彼女の選択肢を広げるような助言をするべきだろうと俺は考えた。

 どんな道であれ、選ぶのはアル自身だ。

 俺はその選択肢が見えるように支援すればいい。

 選ぶときに、選べるように──すればいい。

 

「経験を積め。不測の事態を予測しろ」

 

 その助言が、かつて621に語った言葉に類似していることに、俺は何らかの因果を感じざるを得なかった。

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