ハンドラー・ウォルター先生概念。   作:ヤマ

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 男の本質は変わらない。
 今はまだ、抜け殻であるだけだ。


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 031

 

『ウォルター先生! 大丈夫ですか!?』

 

 迫撃砲の直撃を防いだであろうアロナの声が俺の耳に届く。

 直撃どころか、それに伴う瓦礫の飛散さえ弾く防壁の性能は目を見張るものがあるが、巻き上がった土埃までは防げなかったようで、周囲の状況を把握することができない。

 いや、それよりも──。

 

「──……っ、大将……無事か」

「あ、あぁ……先生が庇ってくれたおかげで、なんとか……先生も大丈夫か?」

「……特殊な防壁があってな。俺に怪我はない」

 

 服に付いた砂埃を払いながら俺は言う。

 咄嗟に俺の側へ引っ張ったのが功を奏したらしい。アロナが気を利かせて通常より大きく防壁を張ったのだろう、俺たちの足元だけが刳り抜かれたかのように店内の床を残していた。

 それ以外は……瓦礫と化している。

 テーブルも椅子もラーメンも全て、見る影もなく。

 

「……アロナ。迫撃砲の種類から相手の所属を割り出せるか」

『はい、ウォルター先生! 武装は50mm迫撃砲。所属はゲヘナ学園の風紀委員会。3kmの距離に多数の擲弾兵を確認。兵力は一個中隊の規模です』

「……ゲヘナだと?」

 

 欲しい情報をすぐさま割り出したアロナは、続け様に兵力の規模まで観測して俺に伝えた。

 だが、しかし……ゲヘナ学園?

 ゲヘナ学園と言えば、トリニティ総合学園と並ぶ三大学園の一つではなかったか。

 便利屋全員が所属している、治安の悪い学園であることは把握しているが……いくら治安が悪いとは言え、別区域にまで出張ってきて民間の建物を砲撃するなど越権行為を通り越して宣戦布告と捉えられてもおかしくはない。

 紛争を引き起こすつもりか──いや、風紀委員会はゲヘナで唯一の治安維持組織だったはずだ。流石にそんな無茶は通さないだろう。

 別の理由があるはずだ。

 侵略紛いの行為をしてまで、迫撃砲を打ち込んだ理由。

 

「アロナ、アビドスへ連絡を。それと風紀委員会の通信傍受を頼む。傍受だけでいい。だが、いつでも操作できるよう掌握はしておけ」

『了解です、ウォルター先生!』

 

 ひとまず俺は、アロナにアビドスへの連絡を頼んだ。迫撃砲で気付いているかもしれないが、念の為だ。

 ここに呼び寄せてしまうと、最悪は風紀委員会とアビドスを戦闘をさせてしまうことになるが……背に腹はかえられない。

 それまでに俺がしなければならないことは──。

 

「大将、近くに避難できる場所はあるか」

「ああ、シェルターがあるが……先生は?」

「俺にはまだやることがある。……すまない、一人で行けるか」

「先生が謝ることじゃねえさ。大丈夫だ、守ってくれてありがとうな」

 

 俺が守ったわけではないというのに、柴大将は礼を言ってから、シェルターへと向かって行った。シェルターの場所を把握し、恐怖に囚われず一人で向かう姿は流石キヴォトスの住人と言うべきか、逞しいものである。

 本当に安全を期すならば、俺が最後までアロナの防壁を頼りに柴大将を守ることも選択肢に入ったのだろうが、アロナの防壁は分かっていないことも多い。当てにし過ぎるのは危険だ。

 とりあえず、柴大将はシェルターに篭ってもらうとして……後は便利屋か。

 

「アル、ムツキ、ハルカ、カヨコ。お前たちは無事か」

 

 砂を吸い込まないよう口を腕で押さえつつ、少しだけ声を張って俺は彼女たちへ声を掛けると、瓦礫を押し除けながらアルたちが這い出てきた。

 苦い顔をしているが、煤で汚れているだけで怪我らしい怪我は見当たらない。

 

「ゲホッゲホッ……なんとか……」

「うわ、アルちゃん砂まみれじゃん」

「…………………………………………」

「痛、ぅ……」

 

 凄まじい表情で何かを呟いているハルカはともかく、身体的には便利屋全員無事のようだ。

 俺は彼女たちであれば風紀委員会がここまで来た理由を知っているかもしれないと思い、それを問うために一歩踏み出した瞬間、カヨコが慌てたように叫ぶ。

 

「……っ、社長、ムツキ、ハルカ! 早く隠れよう、やつらが来た!」

「やつらって?」

「うちの風紀の連中だよ! ここまで追ってくるなんて! なんでこんな時に……!」

「……そう言えばお前たちは、ゲヘナで指名手配を受けているのだったな」

 

 カヨコの焦る様を見て、俺は納得する。

 便利屋の面々がゲヘナで何をしたのかと言えば……まあ色々しているようだったが、しかし彼女たちでさえ、自治区外の民間人を巻き込んだりはしていないだろう。

 指名手配を捕まえるためと言うには、風紀委員会の行為はいささか横暴である。

 

「──ごめん、先生。悪いけど逃げさせて。ヒナが来たらいくら私たちでも勝てない」

「…………」

 

 カヨコの焦燥した声は、切羽詰まったものがあった。

 ヒナ──恐らくは空崎(そらさき)ヒナを指しているのだろう。俺は実際に顔を見たことはないが、風紀委員長であるらしい彼女は、ゲヘナで最強と謳われているのを耳にしたことがある。

 そして相応の実力があるはずのカヨコたちですら『逃げ』をすぐさま選ぶような相手であることを考えると、噂ではなく事実と捉えた方がいい。

 最強。

 文字として見ると簡単だが、このキヴォトスでは意外と聞くことの少ない表現である。

 俺にとっての最強が621であるとするならば──ゲヘナにおいての最強は空崎ヒナなのだろう。

 それ程の重さがある言葉だ。

 

『お待たせしました、ウォルター先生! 風紀委員会の通信回線を繋ぎます!』

 

 アビドスへのメッセージ送信が終わったらしいアロナは、すぐさま風紀委員会の回線をハッキングし、俺の無線で傍受できるよう変更した。

 若干のノイズの後、聞き慣れない声が俺の無線へと届く。

 

『ターゲット、命中しました』

『よし。歩兵、第2小隊まで突入』

『……イオリ、便利屋が反抗してきた場合はどうします?』

『どうするも何も、捕まえるために来てるんだ。公務の執行を妨害する輩は全員敵だ』

『ならば、おとなしくしていてもらいたいものですね……しかしアビドスへこちらの事情を説明するのが先かと……』

『説明? 必要か、それ?』

『…………』

 

 耳に届いた三つの声の内、一つは聞き覚えがあった。

 火宮(ひのみや)チナツ。

 俺がキヴォトスに来た初日に関わった生徒の一人。

 かつてサンクトゥムタワーを復旧させるために、シャーレへ赴いたのが遠い昔のように思える。

 通信を聞く限り、やはりゲヘナの風紀委員会が便利屋を捕まえに来たということで間違いはないのだろう。少なくとも、現場にいる人間はそれを目的にここまで来ているようだ。

 ゲヘナ学園──風紀委員会。

 本来であれば戦争になりかねないアビドス自治区内であろうこの場所での横暴。

 カイザーローンの動き。

 柴大将の『願い』。

 

「…………」

 

 いささか飛躍した推測であることは否めないが、状況証拠としては十分だ。あまり出揃って欲しくはなかった嫌な証拠とはいえ、俺の中での辻褄が合う。

 ならば今、最も穏便に済む方法は──。

 

「社長、早く──とにかく私たちの姿を捉えられる前に!」

「『便利屋68(シックスティーエイト)』」

「な、何、どうしたの先生。改まって」

 

 カヨコの声を遮るように、俺はアルへ声をかけた。

 子供の純情な思いを利用することを重々理解していながら、それでも大将の想いを汲むために、アビドスの状況をより良くするために、俺はアルへはっきりと言う。

 

「仕事の依頼だ」

「────」

 

 俺の言葉を聞いた瞬間、アルが驚いたように固まった。恐らく、彼女は俺に仕事を依頼されるというシチュエーションが唐突に来たことに驚いているのだろう。

 …………分かっている。

 アルが好む『ハードボイルドなアウトロー像』というものを把握した上でのこの発言は、卑怯と言う他ないのは自覚している。

 だが、それでも必要だった。

 風紀委員会がルールを破ったのだと主張するには──アビドスに非がないと後で主張するためには絶対に必要なことだ。

 

「内容は風紀委員会の無力化。最善はアビドス廃校対策委員会が到着する前に無力化することだが、これは絶対ではない。もしできたのなら追加報酬を支払おう」

「せ、先生! そんな事言ったら社長は……」

「……ふふっ。ふふっ、ふふふふっ」

「……社長?」

 

 俺の言葉を聞いて、アルは笑った。

 固まっていたはずのアルは、表情に影をつくり、いつにも増してミステリアスな笑みを浮かべて──カヨコを見る。

 

「……ねえカヨコ、あなたはもうとっくに私の性格、分かってるんじゃなくて?」

「…………」

 

 カヨコは返事をしない。

 ただ、溜息を吐きながら──やれやれと、指を額に当てていた。

 

「こんな状況で、こんな扱いをされて、お気に入りのお店を壊されて、先生の依頼を蹴って……背中を向けて逃げる? そんな三流の悪党みたいなこと、私たち便利屋がするわけないじゃない!」

「……あはー」

 

 アルの高らかな宣言に同意するように、ムツキは凶悪な笑みを携えて笑う。

 今までに見たこともないような、嗜虐的な笑みだ。

 

「あの生意気な風紀委員会に一発食らわせてやらないと気が済まないわ!」

「アル様……っ」

「依頼を受けるわ、ウォルター先生。この便利屋68が!」

「……感謝しよう」

 

 我ながら何とも腹黒く、そして白々しい感謝だと俺は思った。

 これ以上ない、子供たちの利用。結局どこまで行こうと俺の本質は変わらないのだと己を罵倒したい気持ちに駆られたが、それは今するべきことではない。

 

「では各自、俺が指示する位置へ。必要な情報はお前たちの無線を通じて伝える」

「ええ!」

 

 アルの返事を皮切りに、便利屋全員が移動を始める──それと同時に巻き上がっていた土埃が動いたことで、風紀委員会へ俺たちの動きが伝わった。

 

『便利屋68、臨戦態勢に突入しました』

『はあ、面倒だな、たかが四人で。こっちは一個中隊級の兵力なのに。だけど、売られた喧嘩を買わないなんてことは、風紀委員会としてできない──総員、戦闘準備!』

『……ちょ、ちょっと待ってください。イオリ』

『ん?』

『便利屋68側に民間人が映りました。確認中ですので、お待ちください』

 

 半ば乗せるような形でアルを言いくるめたことを反省しつつ、俺は瓦礫と化した柴関ラーメンの敷地から歩みを進めて、進軍する風紀委員会から見える位置に立った。

 そして通信を聞く限り、チナツは無事に俺の姿を捉えたらしい。

 チナツの焦るような声を確認した後、俺はわざとらしく彼女の通信に繋げた。

 

「……気付いたようだな、チナツ。約一ヶ月ぶりか」

『え……!? ……まさか、シャーレのウォルター先生!?』

『ん? シャーレ? なんだそれ?』

 

 チナツの驚いた声と反対に、イオリと呼ばれていた少女の疑問も俺の耳に届く。

 どうやら連邦捜査部シャーレという組織の知名度は、この広いキヴォトスの地では未だ低いようだ。

 超法規的機関としては問題だが、今の状況では幸いと言う他ない。

 

『ちょ、ちょっと待ってください。この回線は風紀委員会の暗号通信です! 一体どうやって……!』

「どうやって、は重要ではない。チナツ、お前が今気にするべきは、風紀委員会の通信が俺に掌握されているという事実だ」

『──っ! イオリ、この戦闘は行ってはいけません!』

 

 通信を掌握されている。

 この事実をすぐさま正しく理解したチナツは、叫ぶような声でイオリという少女に警告したが、しかし。

 

『……あいつらを目の前にして止まれだって? シャーレだかなんだか知らないが……もし邪魔するなら、部外者とはいえ問答無用でまとめて叩きのめす』

『あっ、待ってくださ──ああ……』

「……交渉決裂のようだな。残念だ」

 

 チナツの警告も空しく、イオリはその言葉を振り切って、俺たちへ攻撃することを選んだようだった。

 ただ、俺にとっては想定内である。

 もちろん、この警告によって話し合いが通じるようになればという淡い期待がないでもなかったが、俺の狙いはオペレーターを機能不全にすることであり、交渉の成否は些事だった。

 残念だ、とは言ったものの、混乱を起こせさえすれば良かったことを考えると、この台詞は我ながらやはり白々しい。

 

『…………できれば、また、後でお話を…………』

「穏便に済めばな」

 

 チナツの懇願するような呟きに俺は端的に返して、通信を切った。

 切った、と言っても向こうの傍受は続いているので、彼女たちの作戦や動きは俺に筒抜けである。

 通信の傍受はどんな戦争であれ行われてきた──それはつまり、通信や暗号というものは勝敗に直結すると言っても過言ではない。

 俺はその事実を一際重く捉えているからこそ、ハウンズや621の作戦時は相手の情報を出来る限り準備し、相手の通信は妨害してきた。

 そしてそれは、このキヴォトスでも変わることはない。

 

「始めるぞ、便利屋68。仕事の時間だ」

 

 032

 

「改めて──久しぶりだな、チナツ」

「ウォルター先生……こんな形でお目にかかるとは……」

 

 結局。

 と言うよりは案の定、便利屋68のみで、イオリ及びチナツ率いる風紀委員会の無力化に成功した。

 元々便利屋の実力が高い上に、通信を掌握した上での戦闘は、いくら数の差があるとは言え限界があったようだ。

 何より、今までのヘルメット団のようなチンピラと違い、相手が統率された『軍』であることも俺には有利に働いた──上の指示を聞く軍であるからこそ、通信を介した指示を別部隊に繋ぎ、混乱を引き起こすのは容易だった。

 奥の手としてアロナにイオリの声を解析させておいたが……使うまでもなく戦闘を終えられたのは僥倖といえよう。

 

「先生がそこにいらっしゃることを知った瞬間、勝ち目はないと判断して後退するべきでした……私たちの失策です」

 

 チナツの言葉に対して、『お前の判断は間違っていない』とフォローを入れるかどうか迷ったが(事実、その判断そのものは下せていた)、これは逆説的に彼女の声に耳を貸さなかったイオリのミスだと責めるような形になることに気付き、俺は何も言わなかった。

 何にせよ、アビドスが到着する前に片がついたことに安堵しつつ、俺は形式的に二人へ問う。

 

「連邦捜査部シャーレの顧問、ウォルターだ。お前たちの所属を──」

『それは私から答えさせていただきます』

 

 俺の言葉を遮るように。

 風紀委員会の端末から、ホログラムで見知らぬ子供が投影された。

 水色の髪で、キヴォトスの生徒にしては珍しく目に見えるところに銃を構えておらず、代わりに左手にバインダーを持っている少女だ。

 

「アコちゃん……」

「アコ行政官……?」

「……天雨(あまう)アコ」

 

 三者三様の答えが、風紀委員会の二人から、そしてカヨコから聞こえた。

 

「……知り合いか、カヨコ」

「行政官。風紀委員会のNo.2」

 

 答えたくない質問だったのだろうか、俺の問いには答えず、彼女は天雨アコの素性だけを説明する。

 

『あら、実際はそんな大したものではありません。あくまで風紀委員長を補佐する秘書みたいなものでして……』

「……その割には、幅を利かせているようだ」

 

 目の端で、怯え……とまでは言わないにせよ、縮こまるように緊張しているイオリを見て、俺は呟く。

 俺の言葉が若干癪に触ったようで、イオリが表情を歪めたのが視界の端に映ったが、それ以上のリアクションは起こさなかった。

 

『先ほどまでの愚行は、私の方から謝罪させていただきます』

「なっ、私は命令通りにやったんだけど!? アコちゃん!?」

『命令に「まずは無差別に発砲せよ」なんて言葉が含まれてましたか?』

「い、いや……状況を鑑みて必要な範囲で火力支援、その後に歩兵の投入……戦術の基本通りにって……」

『ましてや他の学園自治区の付近なのだから、きちんとその辺りは注意するのが当然でしょう?』

 

 黙殺とはああいったもののことを言うのだろうな、と漠然と思う。

 実際は恐らく、あのイオリという銀髪の褐色娘の言う通り、アコがそういった命令を下したに違いない。

 ただこの場でそれを明確にしてしまうと、風紀委員会の立場が圧倒的に不利になるため、失態の原因を現場の判断にする──といった方針か。

 

『失礼しました、連邦捜査部シャーレの先生』

 

 まるで部下の失態を真摯に受け止めているかのような態度を保ったまま、アコは続ける。

 

『私たちゲヘナの風紀委員会はあくまで、私たちの学園の校則違反をした方々を逮捕するために来ました』

 

 貴方の背後に控えている、彼女たちを。

 含みを持たせながら、アコは便利屋へと視線を向ける。

 

『あまり望ましくない出来事もありましたが、まだ()()()()()()()()()()()()でしょうし……やむを得なかったということでご理解いただけますと幸いです』

 

 ……政治家を相手にしている気分だ。

 いや、行政官と言うくらいだから、実際政治家なのだろうが、子供があからさまに裏のある言葉を吐いているその姿にかなり思うところはある。

 あるが──まあ、それはいい。

 だが……()()()()()()な。

 

「御託はいい。お前はアビドス区域での戦闘行為の説明責任をまだ果たせていない」

『…………』

 

 子供に対する態度ではないことは重々承知しているが、それでも俺は語気が強くなるのを意図的に止めなかった。

 キヴォトスの治安が良くないことなど理解している──いずれこういった事が起きるかもしれないと予想もしていた。

 だが、それと感情は別だ。

 彼の思いとは別だ。

 知人の宝が壊されて泣き寝入りするほど、俺の人間はできていない。

 

『ウォルター先生……でしたよね? アビドス校生徒会の方はいらっしゃらないのでしょうか? アビドス自治区での戦闘行為を問題だと主張するのであれば、私は生徒会の方と話がしたいのですが』

「アビドスに生徒会は存在しない。アビドス廃校対策委員会が、今の生徒会代理であり、俺はその臨時顧問だ。今彼女たちがここにいない以上、俺はその責任者としてお前たちに質問をする権利と義務がある」

 

 若干のハッタリというか、虚偽も混じっていたが、俺は堂々と主張した。

 堂々とした嘘はバレにくい、というのがカーラの持論である。

 ただこれは単なる虚勢というだけでなく、別の目論見もあったが……アコはさしてその部分を気にすることなく、不機嫌そうに目を細めた。

 

『……随分と高圧的ですね。シャーレと言えど、風紀委員会の公務を妨害した罪は重いことを理解しておられますか?』

「今なお居住していた民間人の住居を破壊することが公務だと言い張るのであれば、そうだな」

 

 不快そうな感情を隠そうともしないアコの言葉に、俺は返す刀でそう言った。

 わざとらしく、強調するように──罪悪感を煽り立てるように。

 

『……は? そんなはずがありません! だってここの土地は()()()()()()()()()()()でしょう! カイザーが保有している、いわば立退済みの無人地帯のはずです! 誰かが住んでいるなんて──!』

「……なるほどな」

 

 そうして引き出した言葉に、アコが動転して語ったその内容に、俺は納得する。

 いや──納得というよりは理解か。

 嫌な予想は当たってしまったというわけだ。

 

 ──何年か前、アビドスの生徒会が借金を返せなくて、ここら一帯の建物と土地の所有権が移ったんだ。

 

 ──ちょっと前から退去通知を受け取ってる。

 

 大将の願い。

 俺があの時、彼から託されたのは、アビドスの子供たちを導くことと、彼女たちの土地を取り戻すことだった。

 アビドスは既に、()()()()()()()()()()()()

 大将から聞いてようやく俺はその事実を知り、念の為それが柴大将に対するカイザーの脅しである可能性も考慮しつつ、裏取りも兼ねてアビドスの面々に共有するつもりだったが……こんな形で実証されてしまうとはな。

 この事態は、アビドスの自治区がカイザーのものになっていることを一切把握していなかった俺の失態とも言える──アビドス自治区の範囲が、アビドスの土地であると疑うこともしなかった。

 最悪の循環だ。

 要するに、今回の順序としては。

 アビドスの土地を手に入れたカイザーが、柴関ラーメンに立ち退きを要求した後、カイザーは『この場所は誰も住んでいない』と改竄し、ゲヘナの風紀委員会はその情報を元に便利屋68を確保しに来た──迫撃砲は、柴関ラーメンの店舗を便利屋のアジトだと勘違いして、まとめて攻撃しようとした……表向きの理由はそんなところか。

 無人区域……ましてやカイザーの土地、廃墟となり開発さえ未だ進んでいない場所をどうしようと現状であれば誤魔化せると踏んだのだろう。

 アビドスの土地ではないのなら、学校間の紛争にも発展しない。

 であれば、今回の件はカイザーの書類改竄が原因の大元。風紀委員会は被害者と言えるかもしれない。

 しれない、が。

 やはり……気に入らないな。

 彼女はずっと、嘘をついている。

 便利屋68を捕まえるために──アビドスまでこの兵力を連れて来たという嘘を。

 

「嘘をつかないで、天雨アコ」

 

 俺の気持ちを代弁するかのように、カヨコはアコへと言い放った。

 

『……嘘?』

「とぼけないで。最初からあんたが狙ってたのはこの状況だった」

『……面白い話をしますね、カヨコさん?』

「……最初はどうして風紀委員会がここに現れたのか、理解できなかった。風紀委員会が他の自治区まで追ってくる理由、それも私たちを狙って?」

 

 ありえない、とカヨコは言った。

 そう──どう考えても行き過ぎた対応なのだ。

 民間人が住んでいることを知らなかったのはアコの反応からしてどうやら本当のようだが、しかし、便利屋を追って来たと主張するには無理がある兵力である。過剰戦力である上に、便()()()()()()()()()()()()()()()

 誤解を恐れずに言えば、ゲヘナにおいて便利屋68はテロリストとして優しい方だと、俺は調べた限りで把握している。

 温泉開発部、美食研究会といったあたりの部活動の方が、はっきり言って明確に紛争の火種になることをしているはずだ。

 にもかかわらず、アコは便利屋を口実にした。

 妙……だが、しかしだとすれば、一体なんのために天雨アコはここまで兵を動かしたのだろうか。

 それだけが、俺には分からない。

 アコの本当の狙いが。

 

「こんな非効率的な運用、風紀委員長のいつものやり方じゃない。だからアコ、これはあんたの独断的な行動に違いない」

『…………』

「それに、私たちを相手するにしてはあまりにも多すぎるこの兵力。他の集団との戦闘を想定していたとすれば、説明がつく。とはいえ、このアビドスは全校生徒集めても五人しかいない……なら結論は一つ」

 

 そこで言葉を区切って。

 カヨコは、俺の想像していない結論を出した。

 

「アコ、あんたの目的はシャーレ。最初から、ウォルター先生を狙ってここまで来たんだ」

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