ハンドラー・ウォルター先生概念。   作:ヤマ

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 それは呪いだ。
 ありもしない幻覚を、まるで無関係な少女に重ねてしまうような。


2-1

 033

 

『ふふっ、なるほど。……ああ、便利屋にカヨコさんがいることをすっかり忘れてました。のんきに雑談なんてしている場合ではありませんでしたか……』

 

 アコは思いの外余裕を持って、そう言った。言動から察するに、カヨコの推理はあながち間違っていなかったようだが、しかし目的を看破された割にはアコに慌てる様子はない。

 どころか、アコは『まあ、構いません』と言って、再び部隊を動かし始め、俺たちを包囲する陣形を作り上げている。どうやら俺たちが無力化した風紀委員はほんの一部だったようで、イオリやチナツが率いていた部隊とは別に、伏兵を備えていたようだ。

 ……まあ、当然か。どうも俺はアコを過小評価してしまっているが、参謀としてやれるだけのことはしっかりとやっているらしい。

 それにしても……この数は少々骨が折れるな。便利屋であれば十分撃退できる見込みがあるとは言え、体力は無限ではない。戦えば疲労は溜まり、いずれ倒されてしまうだろう。

 基本的に戦いは数で決まる。

 圧倒的な有利や実力差がなければ、数が多い方が強い。

 それを一人で覆せるのは──最強(621)だけだ。

 

「……随分と大部隊だな」

『うーん……少々やりすぎかとも思いましたが……シャーレを相手にするのですから、これくらいあっても困らないでしょうし……。まあ、大は小を兼ねると言いますからね☆』

 

 俺の言葉に、何故かおちゃらけたようにアコは答えた。

 あまりこういった感情に動かされるべきではないが……気持ちがささくれ立つ。

 

「包囲ごと片付けたつもりだったけど……二重だったか……」

『はい、そうです。それにしても、流石カヨコさんですね。先ほどのお話は正解です。……いえ、得点としては半分くらいでしょうか? 確かに私は、シャーレと衝突するという最悪のシチュエーションも想定していました』

 

 余裕綽々といった様子で、アコはカヨコを誉めている。口振りから、やはり知り合いのような空気を感じないでもないのだが、仲が良いわけではなさそうだった。

 

『しかし、この状況を意図的に作り出したわけではありません。それだけは信じていただきたいのですが……どうやら、難しそうですね』

「……信じたところで状況が変わるわけではない。風紀委員会が民間の建物を破壊した事実は揺るがない」

『ですが、()()退()()()()()()()なお、無人地帯に居座っているのは個人の責任とも言えます。事実として、書類上は間違いなく無人と記録されていましたし、況してや、テロリストである便利屋68がいた廃虚を破壊しても、土地と建物の所有者であるカイザーに訴えられることはないでしょう』

「…………」

 

 面倒だな、と思う。

 アコは書類に関して嘘は吐いていない──先程の動揺からして、住民がいたことを知らなかったのは確かだろうが、しかしそれでも未だに余裕を持てているのは、無実を証明できる書類が存在しているからなのだろう。

 本来であれば風紀委員会に責任を問えたはずなのだが、ここで問題となるのは、カイザーが書類上で既にこの土地一帯は無人だと『改竄』している点だ。

 柴大将は立ち退きを要求されたとは言え、正当性を持ってこの場所に住み続けていた。店を畳むこと自体は考えていたようだったが、しかし立ち退きに応じたわけではない以上、無人ではない……どころか、まだ他にも少ないとは言え住民がいるにも関わらず、カイザーは書類上で立ち退きが完了していることに書き換えている。

 つまりアコが主張する書類内容は、明確なカイザーの不正だ。ただ、改竄された内容であることを、恐らくアコは知らないのだろう。

 そして一番の問題は、書類改竄を指摘するアビドスの自治がほとんど機能していない以上、カイザーの不正の証拠とはなり得ない点である。立ち退き後に居座ったのか、立ち退きをしていないのか、それらを立証する術がない。

 風紀委員会としては当然カイザーの書類上の記録を支持するだろうし、アビドスにはそれを虚偽と指摘できる材料がない──そもそもホシノたちは、アビドス自治区内の土地がカイザーのものになっていることを把握していない可能性すらある。

 風紀委員会にとって今回の迫撃砲による攻撃は、あくまで『カイザーの土地で放棄されていた価値のない建物を、便利屋が不法占拠していたため爆撃した』と主張できてしまう。

 この場合、建造物の破壊による罪を問えるのはカイザーだけだ。

 そして厄介な事に、カイザーは絶対にアビドスには味方しないだろう。

 ……業腹だが、話題を変えるしかない。

 別視点で攻める必要がある。

 

「……俺を狙った理由はなんだ」

『ふむ……キリがないですし、仕方ありません。事の次第をお話ししましょう。……きっかけは、ティーパーティーでした』

 

 かなり露骨な話題変更ではあったが、アコも平行線の話を続けるつもりはなかったらしい、思いの外素直に、俺の質問に答えた。

 

『もちろんご存知ですよね、ゲヘナ学園と長きにわたって敵対関係にある、トリニティ総合学園の生徒会のことです』

 

 『敵対関係』という表現に、随分と過激なものだと俺は思う。

 三大学園である、ゲヘナ、トリニティ、あとは……ユウカの所属するミレニアムだったか。俺はそれらの大まかな規模や立地、勢力状況をざっくりとは聞いているが、しかし完全に理解しているとは言い難い。

 トリニティとゲヘナの仲が悪いとは聞いていたが……敵対関係と言い切るほどだとはな。

 

『そのティーパーティーが、シャーレに関する報告書を手にしている……と。そんな話が、うちの情報部から上がってきまして』

 

 ──戻ったら、この事実をティーパーティーに報告します!

 

 ヒフミの言葉を思い出す。

 どうやら彼女は、既にティーパーティーが知っているであろう情報だったとしても、伝えずにはいられなかったらしい。

 ペロロさえなければ、やはり善良な少女である。

 

『当初は私も「シャーレ」とは一体何なのか、全く知りませんでしたが……ティーパーティーが知っている情報となれば、私たちも知る必要があります。それで、チナツさんが書いた報告書を確認しました』

「確認するのが遅くないです……?」

 

 風紀委員会であるチナツからの、まさかの言葉だった。

 ただ、彼女からすれば、一ヶ月も前に書いたであろう報告書を、つい最近になって確認されたとなれば小声とは言え愚痴を漏らさずにはいられなかったのだろう。

 現場の苦労が見えた。

 

『連邦生徒会長が残した正体不明の組織……大人の先生が担当している、超法規的な部活。どう考えても怪しい匂いがしませんか?』

 

 アコはチナツの言葉が聞こえなかったのか、あるいは聞こえないふりをしたのか、とにかく反応することなく話を続けた。

 彼女の語る『連邦捜査部シャーレ』のイメージは、正体不明の怪しい組織で固定されているらしい。もっとも、俺はそれを否定するつもりもないが。

 そもそもの話として、俺自身がシャーレという組織の曖昧さや、その経緯について疑問を持っている──連邦生徒会長とやらの実態も、情報規制が敷かれているのか、まともに情報を得ることすらできないのが現状だ。

 当の本人である俺がそうなのだから、他学園から見れば過剰権力を持った謎の組織にしか見えないのだろう。

 

『シャーレという組織は、とても危険な不確定要素に見えます。これからのトリニティとの条約にも、どんな影響を及ぼすのか分かったものではありません』

 

 ……条約?

 アコの台詞に、どうも聞いてはならないような、というかそもそも行政官である彼女が言ってはならない機密なのではないかと思ってしまう言葉が出てきた。

 情報漏洩でなければいいのだが……。

 

『ですからせめて条約が無事締結されるまでは、私たち風紀委員会の庇護下に先生をお迎えさせていただきたいのです。ついでに、居合わせた不良生徒たちも処理した上で……といった形で』

「…………」

 

 条約──と表現されるものが具体的にどういったものなのかは分からないが、少なくとも政治的な話であることが分かる。

 そしてシャーレの存在によって、条約が締結される前にパワーバランスが崩れて自分たちの想定外が起きる可能性を極力減らすために、俺を確保しておこう、と。

 …………俺としては、そんなことをすればそれこそパワーバランスが崩れて余計な事が起きる気がするのだが、勢力状況を完全に理解しているわけではないので、口を挟むことはやめた。

 と言うより、今はどうでもいい。

 今の状況には、まるで関係のないことだ。

 

「つまり──お前は、ただ俺を確保するためだけに、便利屋の捕縛を口実として風紀委員会の兵を動かし、アビドス自治区内で戦闘を行い、いけしゃあしゃあと無実を主張しているというわけか」

 

 言葉に棘を含めて、俺は言った。

 もう少し皮肉を込めたいところだったが、それはルビコンでの悪癖のようなものだったので──子供相手にするには流石に大人げなかったので、自重した。

 

『……悪意のある言い回しですね。現状、私たちを罪に問えるのはカイザーコーポレーションだけです。アビドスに風紀委員会の行動を咎める権利はありません』

「ここはアビドスの土地ではないのだから──か。詭弁だな。アビドスの自治区である以上、お前たちの戦闘行為が違反であることに違いはない」

 

 柴大将個人に謝罪させたいのは山々だが、不利要素が多過ぎる現状、自治区での横暴に視点を変えざるを得ない。

 土地の所有者がカイザーであろうとも、自治区内であることに違いはない──建物の損害を問うことはできないが、そこでの戦闘行為を咎めることはできる。

 

『シャーレの先生。理解されていますか? 貴方は今、テロリストを庇い立てているんですよ?』

「ならば尚の事、アビドス自治区で起きた騒動を仕切る権利はアビドスにある。彼女たちを捕縛する権利さえ、お前たち風紀委員会には無い」

『……強情ですね』

 

 苛立った空気を、通信機越しに俺は感じた。

 正当性という点においては、間違いなく俺たちに分があるはずなのだが、どうもアコには──と言うより、風紀委員会に罪の意識があるように思えない。

 全く無いわけではないのだろうが、俺の生きてきた世界とは違い、キヴォトスでの銃撃や破壊行為は、恐らく民間人相手でも、極端に罪が重いわけではないのかもしれない。

 それこそ、ゲヘナにある美食研究会とやらは民間人の店舗を爆破する集団であるらしいことを考えると、ゲヘナにとってそれは日常茶飯事なのだろう。

 だからなんだという話だが。

 俺からしてみれば、まるで関係のない話だが。

 

『これは困りました……うーん……こうなったら仕方ありません』

 

 わざとらしく、しかしどこかすっきりとした笑みを携えて、アコは言う。

 長年の勘、あるいは経験則で、俺は彼女が会話を切り上げようとしているのを感じた。

 会話を切り上げて──戦闘を始める兆候が見える。

 

『本当は穏便に済ませたかったのですが……ふふ、やっぱりこういう展開になりますか。ええ、仕方ありませんね、ウォルター先生?』

 

 彼女の号令とともに、包囲している風紀委員会が一斉に俺たちへ銃を向ける。

 脅しではない、正真正銘の戦闘宣言だろう。

 アビドスに喧嘩を売ってでも、俺を確保してトリニティに対する有利を作りたいらしい。

 

『ゲヘナの風紀委員会は、必要でしたら戦力を行使することもあります。私たちは一度その判断を下せば、一切の遠慮をしません』

 

 迫撃砲を撃ち込んだ時点で遠慮などあったようには思えないが、アコとしては本気ではなかったということなのだろう。

 条約がどういったもので、締結した場合どうなるのかは後で調べることにして、どの道俺はここで捕まるわけにはいかないし、個人的な感情として……アコには少々、灸を据えたいところだ。

 

『いくら便利屋を味方につけているとは言え、この兵力と真っ向から戦うのはオススメしません。仮にアビドス廃校対策委員会がいたとしても、勝ち目はありませんよ?』

 

 暗に降伏しろと伝えてくるアコの言葉を無視して、俺は戦況を確認する。

 便利屋の状態、チナツ、イオリの負傷具合、包囲状況、残存部隊……それらを考慮しても、俺にこの状況で諦める必要性はまるで無い。

 勝ち目はないとアコは言うが、俺は逆に、便利屋がいればこの状況は打破できると確信を得ていた。

 それは妄信ではなく、これまでの彼女たちの戦績を鑑みた上での事実である。

 仮に唯一の懸念点があるとすれば、それは──

 

「──……そう言えば、ヒナと呼ばれる風紀委員長はいないようだな。アル、まだいけるか」

「……っ、当たり前よ! この私を誰だと思ってるの? 心配は無用! 信頼には信頼で報いるわ! それが私たち、便利屋68のモットーだもの!」

「はい! 先生には私たちも色々とお世話になりましたので! 絶対に成功させます……!」

 

 唯一の懸念点、最強と呼ばれている空崎ヒナが現状把握できる範囲にいないことを確認した俺は、アルに継戦の可否を問えば、疲労の色こそ見せつつも、不敵な笑みを以て答えた。

 ハルカに至っては、疲労の姿を見せないどころか、妙なハイテンションで受け答えをしている。少しだけ気になったが、ハルカとはあまり接する事ができていないので、ひとまず戦闘中のアドレナリンによるものだと仮定して俺は作戦を構築する。

 何にせよ、便利屋はまだ戦える。彼女たちの立場からして『ヒナが来たら逃げる』ことを前提とした戦闘ではあるが、ここにいない以上それはデメリットになり得ない。

 

『……そう言えば。アビドスの対策委員会は未だ此処に来ないようですね。いくら五人しかいない学校とは言え、有事の際に集まれない人材では臨時顧問も大変でしょう』

 

 無視された上に、便利屋から『ヒナがいないなら平気』と言われたも同然だと気付いたアコは、悔しさからかそんな煽りを俺に言った。

 事実、彼女からすれば俺はアビドスの顧問であるにもかかわらず、便利屋に戦闘を任せきりにしている。それは対策委員会がここに来ていないからなのだとしても、これ程時間が経ってなお、現場に到着しないのは動きが遅いと指摘したのだろう。

 ただ、それは俺にとって当然であり、そして問題にも思っていなかった。

 

「気遣いは不要だ。アビドス廃校対策委員会は、お前たちに比べて遥かに強い」

『────……』

 

 アコは、俺の言葉に不機嫌そうに沈黙してから、

 

『いまだここに来れないような人材を頼るなんて、愚策ではありませんか?』

 

 と言った。

 安い挑発だ。特売なのかもしれん。

 だが──灸を据えるには丁度いい。

 どの道彼女たちもアコに対して我慢の限界だろう。俺を確保しにきたという話の半ばから怪しかったが、未だ耐えているだろう彼女たちへ許可を出すために、俺は無線を介して聞こえてきた声に対して、「……そうだな」と返した。

 瞬間──爆発。

 

『なっ──』

『う、わああ!?』

 

 悲鳴と共に。

 風紀委員会の包囲を穿つように爆発が連鎖して、隊列を乱していく。

 ドローンが空中を縦横無尽に駆け巡り、ミサイルを撒き散らしているのを見る限り、奇襲には成功したようだ。

 

『まさか……アビドス!?』

「気付かれていない伏兵を正面から投入することは、愚策だと思わないか」

『────っ。風紀委員会、攻撃を開始します。対策委員会と便利屋を制圧して、先生を確保してください!』

 

 意趣返しが成功したことで溜飲が下がったのを感じつつ、俺は再び、便利屋68と、俺の指示で既に待機していた対策委員会に向けて言う。

 

「総員構えろ。仕事を続けるぞ」

 

 034

 

『第一中隊、全滅です! 退却し、再整備に入ります!』

『第三中隊、これ以上の続行は不可能! 補給のため、一時撤退します!』

「シロコ、第三中隊が後退する。ドローンで追撃して補給を妨害しろ」

『了解』

 

 軍が必ず行う、行ってしまう報告から戦況を把握し、ドローンによる遠隔攻撃ができるシロコへ指示を出す。

 アコは俺に傍受されている事を前提に、回線を切り替えながら動いているようだったが、いくら回線を切り替えようが暗号を変えようが、アロナのハッキング能力の前では無意味である。

 タイムラグ無しに俺たちに情報が入ってくる以上、相手の動きに応じた作戦を立てることも、追撃も容易だった。

 

『……っなるほど、だいたい把握できました。シャーレの力、必要となるであろう兵力……予想を遥かに上回っています。……悔しいですが、素晴らしいですね』

 

 先ほどまでとは打って変わった殊勝な態度で、アコは称賛の言葉を述べた。

 

『決して甘く見ていたわけではないのですが、もっと慎重に進めるべきだったかもしれませんね。それでも、決して無敵というわけではありません。弱点も見えましたし……おおよその戦況は読めました』

 

 ただ、それでも攻撃を止めるつもりはないらしい。事実、アロナの援護で優位な状況に無理矢理持っていっているだけで、数の優位は風紀委員会が絶対的である。

 むしろ八人だけでよく持ち堪えていると褒め称えたいところだが、このままでは苦しいのが現状だ。

 ホシノさえいればまた変わったのだろうが、何故か彼女には未だ連絡がつかない。

 

『この辺りをもう少し押していけば……折れるのは、時間の問題ですね。第八中隊。後方待機をやめて、突入してください』

『風紀委員会、第三陣を展開してきました!』

『はぁ……はあ……まだいるの!』

 

 レッドガン部隊迎撃作戦を思い出す波状攻撃だが……それでも。

 ミシガンに比べれば、まだ緩い攻撃だ。

 第五波までは想定して作戦を立てている──ただ、問題があるとすれば、彼女たちの疲労具合だ。

 

「この状況でさらに投入……!?」

「た、大したことないわよ! まだまだ戦えるんだから!」

「それはそうだとしても……これはもう、アコの権限で動かせる兵力を超えてる。ということはこの襲撃、アコの独断じゃなくて、まさか……」

「……風紀委員長が?」

「えっ、ヒナが来るの!? 無理無理無理!? 逃げるわよ、早く!」

「いや、そうは言ってない……落ち着いて、社長……」

 

 強がりや冗談を言える元気はまだあるようだが、しかし疲労を隠す余裕は無くなってきている。

 621がレッドガンを一人で撃退したことが如何に規格外であったかを再認識すると共に、最強の称号を持つヒナが来た場合は……逃げに徹するしかないだろうな。

 アルが戦うことを選択肢にすらいれない相手など、現状では相手取ることは不可能だ──と、考えた瞬間である。

 

『さあ、では……三度目の正直と行きましょうか。風紀委員会、攻撃を──』

『アコ』

 

 気怠そうな。

 それでいて、確かな芯を持った声が俺の無線に届く。

 聞いたことのない声……まさか。

 いや、それよりも、この発信源は──!

 

『……え? ひ、ひ、ヒナ委員長!?』

『委員長?』

『今の通話相手が……? 委員長ってことは、風紀委員会のトップ……?』

 

 唐突な大物に、戦場は一旦停戦状態に入った。

 だが、都合が良い。

 俺は便利屋に状況を伝えるためにすぐさま目を配ると、既に撤退準備を始めていた。

 凄まじい危機管理能力である──やはり彼女たちの実力は信用していい。

 俺はアルと頷きだけを交わして、彼女たちが去っていくのを見送った。

 

『い、い、委員長がどうしてこんな時間に……?』

『アコ、今どこ?』

『わ、私ですか? 私は……そ、その……えっと……、ゲヘナ近郊の市内の辺りです! 風紀委員のメンバーとパトロールを……』

「思いっきり嘘じゃん!」

「やっぱり、行政官の独断行動だったみたいですね……」

 

 ……便利屋に報酬を渡す方法は後で考えるとして、今は風紀委員長と思われる通話相手の事を考えなくてはならない。

 ホログラムはなく、未だ姿は見えないが……しかし、会話内容を聞く限り、どうやらこの一連の行動、ノノミの言う通りアコの独断のようだ。

 アコが咄嗟に嘘を吐いて誤魔化そうとするあたり、ヒナはこの作戦に賛同するような人間ではないらしい。

 ……だとすれば、仮に俺の確保に成功したとして、アコはどう説明するつもりだったのだろう。

 その上で嘘を吐くのは、面の皮が厚いと言う他ないが。

 

『そ、それより委員長はどうしてこんな時間に……出張中だったのでは?』

『さっき帰ってきた』

 

 淡々と言うヒナの声。

 無気力そうな声はどこか、俺にとって馴染みのある口調だった。

 

『そ、そうでしたか……! その、私、今すぐ迅速に処理しなくてはいけない用事がありましで……後ほどまたご連絡いたします! い、今はちょっと立て込んでいまして……!』

『立て込んでる……? パトロール中なのに珍しい、何かあったの?』

『え? そ、その……それは……』

 

 未だ言い訳を続けようとしていたアコだったが、ヒナの鋭い追及にしどろもどろになり。

 そしてヒナは、とどめと言わんばかりの言葉を吐いた。

 

「『他の学園の自治区で、委員会のメンバーを独断で運用しないといけないようなことが?』」

 

 無線と、戦場から声が同時に──二重に聞こえた。

 発信源がこの場所だった以上、察してはいたが……やはり現場に到着していたらしい。

 俺は彼女の姿を確認するために、その方向を振り向いて──絶句した。

 言葉を、失った。

 

「い、い、い、委員長!? い、一体いつから!?」

「!!」

『……え、ええええっ!?』

「……アコ。この状況、きちんと説明してもらう」

 

 瓦礫の上で、こちらを──主にアコを見下すように立つ少女がそこにいた。

 状況からして、きっと彼女が空崎ヒナなのだろう。

 小さな体躯でありながら堂々としており、それでいて気怠そうに、色のない真っ白な髪をたなびかせている少女。

 そんな彼女を見て。

 俺は。

 

「6、1────」

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