ハンドラー・ウォルター先生概念。   作:ヤマ

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 ハンドラー・ウォルターは聖人ではない。


2-7

 046

 

 俺は一人、アビドス廃校対策委員会の部室で、椅子に座って天井を眺めていた。

 学校の備品であるパイプ椅子なので背もたれが足りず、若干背中が痛いが、構わず俺は天井を見上げて思考に浸る。

 いつもであれば──ルビコンであれば、俺は視線を伏せて考えていた事が多いように思うが、しかし、今の俺は上を見ていた。

 空を見たかった。

 ならば窓を見ろという話だが、まあ、気分的なものである。

 上を。

 空を。

 見ながら、俺は考える。

 今回の作戦は、結果としてはやはり失敗だった。

 大失敗だった。

 借金の解消どころか、むしろ倍加したようなものである。

 全ての責任をシャーレに委託すれば背負う事ができるという甘い考えが招いた俺の失態とさえ言えた。

 当然、カイザーの要求は不当なものだ。どこからどう見ても悪徳金融の所業であり、違法行為で横暴極まりないものだ──が、だからと言って拒否できるものでもない。

 言ってしまえば、そもそもアビドスの借金や金利自体が横暴で不誠実なものだが、しかし今までそれが罷り通っている以上、今更不当だと主張したところで意味は無い。

 仮に要求を何とか跳ね除けても、カイザーが再び別の利率変更理由を適当に吹っ掛けて押し通すだけだろう。

 そして異議を唱えたとして、連邦生徒会は連邦生徒会長を探し続けているため、たかが一つの学園に労力を割ける余裕は今のリンたちには無い。

 余程の事があるならばともかく、現状アビドスには材料が足りないため、訴えたとしても十分には動けまい。

 連邦生徒会を巻き込むためには、より決定的な、致命的なものが必要だ。

 誤魔化すことのできないような──徹底的なものが。

 それらを考慮すると……理事のあの驕り高ぶった態度は、訴えられても全く問題ないと思っているからこその余裕だと捉えた方が自然かもしれない。

 以前俺は、カイザーの力が連邦生徒会にまで及んでいるかもしれないという予想を立てたが、案外それは、妄言と切り捨てられるものではないのかもしれん。

 存外、連邦生徒会の幹部級が一人や二人、取り込まれていたりしてな。

 笑えない話だが。

 なんにせよ、過去にアビドスが金を借りたのは事実なのだ。

 どんな形であれ。

 どんな罠であれ。

 そう考えると、やはり今回の失敗の原因は俺にある。

 シャーレの力を過信した、俺の失態だ。

 カイザーの言う通り、シャーレのそれは()()()()()というだけであって、生徒を守ることには繋がらない。

 もしかするとシャーレは生徒を守る組織ではなく、生徒を雇って、使うだけの組織なのかもしれない──だとすれば、ハウンズと何も変わらない。

 それでは──駄目だ。

 考える。

 俺は、与えられた権力と、それによって起きる影響を考慮した上で、連邦捜査部シャーレという組織を運営していかなくてはならない。

 分かっていたつもりだが……真の意味で分かってはいなかったのだろうな。

 俺が今まで運営していた組織はハウンズくらいのもので、オーバーシアーは所属していただけに過ぎん。

 所詮それらの組織だってアングラなものであり、シャーレのような権力を持った、陽の当たる場所を歩く、言わば善の組織を運用した事がないのだから──などと言い訳もできるが、したところで、やはり意味はない。

 結果は結果である。

 無力を痛感せざるを得なかった。

 それが、今回の反省点である。

 

「……とは言え」

 

 しかし──だ。

 今回の作戦は、俺の目的だけを考えれば成功だった。

 カイザーの動向──砂漠で具体的にどういった行動をしているか、一応は、その目的までもを把握することはできた。

 宝探し。

 そのための、土地の買収。

 結論としては単純明快なものだ。無論、宝物なんて言葉は何重にもオブラートに包んだ表現ではあるのだろうが、しかし、嘘ではないだろう。

 カイザーが真実を言ったところで、奴らにとっては痛くもない──俺たちにできることは何もないのだから。

 何もできないと──思っているはずだ。

 そして今日の理事との会話で、奴の思考パターンをある程度把握できたのは成果と見て良いだろう。

 やはり、奴は勝利を好み、敗北を嫌う。それは企業のリーダーだから当然だとして──どころか人間誰しもそうではあるのだが、しかし奴の場合はそれが顕著だ。

 ()()()()()()()()()()()()

 それは裏を返せば、勝てる時は絶対に出てくるという意味でもある。

 今日でさえ、奴がわざわざ現場に出てくる必要はなかったはずだ。危険であるにも関わらず、対策委員会の前に出てきた──タイミングとしては間髪入れずに、と表現できるほど早くだ。

 ……ならば勝算はある。

 いつまでも悲観してもいられない。

 残念ながら、皮肉なことに、愚かしいことに、俺はあの程度で諦められるような精神構造はしていなかった。

 そもそも多少の障害で諦められる人間であったなら、ルビコンでコーラルの根絶など目指していない。

 諦めが悪く、諦められない、損切りのできない人間である。

 ずっと昔から。

 最初から。

 そうでなかったのなら、あるいはもう少し幸せになれたのかもしれないが……しかし幸福なんてものは捉え方次第だ。

 俺が幸福でなかったなどと、どの口で言えようか。

 どうして──言えようか。

 

「…………そろそろだな」

 

 壁にかけられた時計を見れば、時刻は既に二十二時を回ろうとしていた。

 彼女たち──理不尽な要求を課せられた対策委員会は、帰投したのち、溜まったストレスによりトラブルに発展しかけ、瓦解の危機に陥った。

 ……無理もない。

 九千万の要求、そして三億の準備など、いくらアビドスの生徒たちとは言え動揺せずにはいられなかったのだろう。

 それでもバラバラにならず、再びまとまって冷静になれたのは──やはり、ホシノがいたからだった。

 長として、このアビドスを守ってきた彼女がいたからだった。

 

 ──ほらほら、みんな落ち着いて〜。

 

 ──頭から湯気が出てるよ〜?

 

 彼女の声が、全員を冷静にした。

 それはきっと、俺にはできない事であり。

 彼女にしか──できない事だった。

 

「────来たか、ホシノ」

「……うへ。先生、良い夜……じゃ、なさそうだね」

 

 そうして、あの夜と同じ台詞を言った彼女と俺は再び対面する。

 夜が更ける教室で、向かい合う。

 何かを隠し、何かに追いつかれ、何かを背負い続けている、小鳥遊ホシノに。

 

 047

 

「シロコちゃんといい、先生といい……うへ〜、おじさんとお話したいことがあるの? モテモテだー」

 

 どこかおどけたように、ホシノは言った。

 聞く限り、どうやらシロコが既に例の退部届について訊こうとしたようだったが、ホシノははぐらかして帰したらしい。

 明日になったら話す、とでも言っただろうな。

 

「それにしても……うへ、先生やるねえ? 私の可愛いシロコちゃんと、いつの間に仲良くなったの? いやいや、やっぱり先生は侮れない大人だな~。おじさんは流れに付いていけなくて何だか寂しいよ」

 

 いつもより饒舌なホシノは、その時点で異様だった。

 露骨に煙に巻こうとしているのが、俺にも分かる。ならばシロコにも分かったはずだ──分かった上で、俺に託したのだ。

 俺ならば、真意を聞き出してくれるだろうと。

 

「ホシノ」

「ん〜? どうしたの、改まって」

 

 ならば、と。

 俺はシロコの期待に応えるために、そして自身の疑問を解消するために、預かっていた退部届をホシノへ差し出した。

 するとホシノは、

 

「それって……」

 

 と、少しだけ目を開いてから。

 あからさまに、わざとらしく驚くようなリアクションを取る。

 

「うへ~、いつの間に……! これ、盗ったのはきっとシロコちゃんだよね? 全くシロコちゃんったら、いくら何でも先輩のかばんを漁るのはダメでしょ~。先生、きちんとシロコちゃんを叱っといてよ~? あのままじゃとんでもない大悪党になっちゃってもおかしくないってー」

 

 ころころと表情を変えながら。

 すらすらと言葉を並べながら。

 ホシノは捲し立てて笑ったが、しかし、俺は逃すつもりはなかった。

 託された以上、真意を聞き出すまでは帰すつもりもない。

 

「今は、この退部届について訊いている」

「…………そっかー」

 

 今までに無い圧を感じたらしい。

 ホシノは肩を下ろして、そんな風に答えた。

 

「……聞かせてくれるか」

「うーん。逃がしてくれそうには……ないよね?」

 

 俺はその質問には応えるまでもないと思い、じっとホシノを見据えた。

 これで察せない人間ではないのだ、ホシノは。

 事実、俺の視線を受けて諦めたように、

 

「はあ、仕方ないなあ。面と向かってっていうのも何だし……先生、ちょっとその辺一緒に歩かない?」

 

 と、廊下を指しながら、俺に提案した。

 特に否定する理由もないので、俺は杖を突いて、ホシノと一緒に廊下に出る。

 

「けほっ、けほっ……うわぁ、ここも砂だらけ……」

 

 ざり、と。

 廊下を歩く度、砂の擦れる音が耳に届く。

 校舎の中にまで砂が入り込んでいるが、掃除の手が回っていないようだ──実際、五人では掃除をする暇はないだろう。

 借金を返すことで手一杯のはずだ。

 

「ま、仕方ないんだけどね。ロイちゃんがちょっと掃除をしてくれたけど、そもそも人数に対して建物が大きすぎて……。砂嵐が減ってくれれば良いんだけど」

 

 これでもマシになったんだけどなあ、とホシノは言った。

 

「うへ~、せっかくの高校生活が全部砂色だなんて、ちょっとやるせないと思わない?」

「それでも、お前にとってはかけがえのない場所なのだろう」

「……今の話の流れで、本当にそう思う?」

「お前の盾が、それを証明している」

「…………」

 

 ホシノは立ち止まって、面食らったような表情をして。

 それから、くしゃり、と。

 少しだけ笑った。

 

「……うへ、やっぱ先生は凄いね」

 

 どういった意図の発言なのか俺には分かりかねたが、ホシノはそれを説明する気もないようで、再び歩き始める。

 

「…………砂漠化が進む前、アビドスはかなり大きくて力のある学校だったって言われてるけど……そんな記憶も実感も、おじさんには全く無いんだよね。最初から全部めちゃくちゃで、ちゃんとしたものなんて何一つない学校だった」

 

 誰に言うでもなく、誰に聞かせるでもなく、ホシノは語る。

 会話というよりは、独白に近い。

 

「おじさんが入学した時のアビドス本館は、今はもう砂漠の中に埋もれちゃったし。当時の先輩たちだって、もうみんないなくなった。今いるここは、砂漠化を避けて何回も引っ越した果てに辿り着いた、ただの別館」

 

 ホシノは壁を撫でるように触って、手についた砂を見ている。

 感慨深そうに、砂を──見ている。

 

「……ま、でもここに来てシロコちゃんやノノミちゃん、アヤネちゃんにセリカちゃんと会えたから……うへ、やっぱり好きなのかもしれないなぁ……」

 

 脆く、儚く、壊れそうな笑みだ。

 弱い──笑みだ。

 

「…………そうか」

「……うへ、降参。正直に話すよ、先生」

 

 観念しました、とでも言うように、よっと、と声を出して、ホシノは廊下に運び出されていた机に座った。

 ホシノの身長が低いこともあって、つま先は地面に付いておらず、脚をぶらぶらと揺らしている。

 机は当然のように砂まみれだが、特に気にする様子はなかった。

 

「私は二年前から、変なやつらから提案を受けてた」

 

 取り敢えず、ホシノはそんな所から語ることにしたらしい。

 曰く彼女は、カイザーコーポレーションから、提案、あるいはスカウトをアビドスに入学した直後から受け続けていたらしい。

 数え切れないほどに。

 そして、あの日。

 風紀委員会が柴関ラーメンを攻撃してしまった日。

 ホシノの到着が遅れたあの日は、その『提案』を受けていた日なのだと言う。

 

 ──あなたに、決して拒めないであろう提案をひとつ。

 

 ──アビドス高校を退学し、私共の企業に所属する。その条件を呑んでいただければ、今アビドスが背負っている借金の半分近くをこちらで負担しましょう。

 

 ──ククッ、ククククッ……さあ、答えを聞きましょう。もしイエスならば、こちらにサインを──。

 

 そんな事を言われたらしい。

 ま、断ったけどね、とホシノは続けた。

 

「それは誰から見たって破格の条件だった。でも、その時は私がいなくなったらアビドス高校が崩壊するって思ってたからこそ、ずっと断ってたけど……」

 

 けど、と。

 その言葉の続きは言わない方が良いと判断したのか、少し考えてから、ホシノは無理矢理切り替えるように、

 

「……あいつら、PMCで使える人材を集めているみたい」

 

 と言った。

 ……なるほどな。

 となれば、カイザーの()()はこれでほぼ確定だろう。

 しかし──。

 

「……その提案をしたのは誰だ」

「……分からない。私も、あいつの正体は知らない。ただ、私は黒服って呼んでる」

「…………」

「何となくぞっとするやつで……キヴォトス広しといえども、ああいうタイプのやつは見たこと無かった。ただ、怪しいやつだけど、別に特段問題を起こしたりもしなかった」 

 

 唐突に出てきた第三者に、俺は図らずも困惑する。

 理事が全ての元凶だと仮定していたが、やはりそう上手く事は運ばないらしい。

 黒服。

 ホシノの口振りから察するに、その黒服という人物は──本当に見たことのない、どのカテゴリーにも当て嵌まらない存在のようだった。

 柴大将のような動物や、カイザーのような機械でもないとのこと。

 黒服という名称も、ホシノがそう呼んでいるだけで、本名は知らないらしい。

 

「何なんだろうね。あのカイザーの理事ですら、黒服のことは恐れてるように見えたけど──」

 

 ──貴様が例のゲマトリアが言っていたシャーレか。

 

 …………ゲマトリア。

 見知らぬ第三者。

 カイザーの関係者。

 いささか恣意的ではあるが、こじつけ……とは言い切れんか。

 考慮はしておこう。

 

「……なるほどな。ならばこの退部届は──」

「……うへ」

 

 ここで、非常に気まずそうに目を逸らすホシノだった。

 心なしか、恥ずかしがっているようにも見える。

 

「まあ、一ミリも悩んでなかったって言ったら嘘だし。ちょっとした気の迷いっていうか。──うん、もう捨てちゃおっか」

 

 そしてホシノは、机から降りて俺から退部届を受け取ると、それを丁寧にびりびりと破き、更に細かく千切ってから、風に乗せるように窓から捨てた。

 風が運び。

 砂と舞う。

 

「うへ〜、スッキリした」

 

 と、肩の荷を下ろしたかのように、緩くホシノは笑った。

 いつものように笑う。

 

「余計な誤解を招いてごめんね。ただ、こんな話をみんなにしたところで、心配させるだけで良いことも何も無さそうだったからさ」

 

 ぱっぱっ、とスカートに付着した砂を払いながら、儚げに笑う。

 

「でもまあ、可愛い後輩たちにいつまでも隠しごとをしたままっていうのも良くないし……明日、みんなにちゃんと話すよ。聞かされたところで困らせちゃうだけだろうけど、隠しごとなんて無いに越したことはないだろうし」

 

 もっともらしいことを言って、弱く、笑う。

 

「実際のところ、今はあの提案を受ける以外、他の方法は思いついてないんだけどね」

「……何とかしよう。最悪、どうにかできなくはない」

 

 俺は言った。

 これはホシノからすれば気休めに聞こえたかもしれないが、しかし、実際俺に方法がないでもない。ただしこれは、彼女たちの意向を無視する形になるため、あまり望ましい解決とは言えなかった。

 簡単に言えば、ルビコンでのやり方だからだ。

 ルビコンでの──ハンドラーとしての、やり方だ。

 勿論、本当に、全ての計画が破綻した最終手段ではあるのだが。

 

「……含みのある言い方だなあ。あんまり怖いこと考えないでね、先生」

 

 妙に鋭いことを苦笑しながら言って、ホシノは、

 

「……そうだなあ。奇跡でも起きてくれれば良いんだけど……」

 

 と、呟いた。

 

「奇跡、かあ」

 

 何を思い出しているのだろう。

 何を考えているのだろう。

 俺には分からない。

 分かるはずもない。

 

「……さ~てと、この話はこれでおしまい。じゃあ、また明日。先生」

 

 ここまでであれば、俺は明日ホシノが学校に来ることを信じて別れる事ができただろう。

 また明日、早朝に会う事ができただろう。

 しかし、続けて言ったホシノの言葉は──明確な別れの言葉だった。

 

「さよなら」

 

 そう言って、彼女は背を向けて歩き出した。

 俺は何も言わない。言える言葉など持ち合わせていない。

 ただ、一つだけ確認しておかなくてはならない事があった。

 ()()()()だ。

 自由意志の──確認。

 

「ホシノ」

「……なに、先生」

 

 主語は必要ない。

 ただ、俺はホシノの意志を訊く。

 

「それが、お前の選択か」

 

 俺の言葉に驚いたように、びくりと身体を震わせてから、ホシノはゆっくりとこちらを振り向いた。

 

「…………うへ、止めないんだ?」

「それが、お前の選択ならば」

「……うん……そっか。ありがとう、先生」

 

 止めたところで──無駄だろうしな。

 他人から言われて素直に止まる人間でもない。

 ()()()()()()()()()()

 故に、俺にできることは限られていた。

 

「…………あ、そうだ。先生、約束覚えてる? 何かあったら〜ってやつ」

「……前にも言ったが、俺を信用するな。俺は俗に言う『悪い大人』だ、信用を裏切り、約束を破るかもしれん。お前にしか守れないものもある」

「……どうかな。私じゃ守れないものは、いくらでもあったよ」

 

 それにね。

 ホシノは言う。

 今までで一番、脆く儚い、弱い笑みで、言う。

 

「先生は、悪い大人じゃなくて──悪い人だよ」

 

 いつか、俺を善人と呼んだホシノは、真逆のことを言った。

 そしてホシノは再び俺に背を向けてから、顔を向けず、視線すらこちらを見ないままに、こう続けた。

 

「じゃあね、先生。みんなのこと、アビドスのこと、よろしくね」

 

 俺は返事をしなかった。

 その約束を、その仕事を、俺は元より受ける気はない。

 それでもホシノは。

 

「……やっぱり、悪い人だ」

 

 と、それだけ呟いてから、振り返ることなく去って行く。

 もう二度と会うことはないと──そう思わせるような背中のまま。

 俺から離れていくその姿を、ただ、見送った。

 

「…………最低、だな」

 

 何もかも。

 状況も、作戦も、俺も。

 大人として──先生として。

 俺と言う人間は変わらないらしい──変えられないらしい。

 世界が変わろうと、俺の本質は変わっていないのだ。

 小を殺し、大を救う。

 やっていることは、ルビコンと同じだった。

 俺は溜息を吐いて、心底自己嫌悪してから、とある人物に電話をかけた。

 計画通りだが、計画した自分が嫌になる。

 

「リン」

『……何ですか、こんな夜更けに。これ以上は──』

「例の書類処理を進めてくれ。日付が変わる前にだ」

『…………』

 

 電話に出た瞬間、既に不機嫌であることが分かったが、俺は構わずに言った。

 弱冠十七歳の気迫とは思えないが、全てに気後れしていては何もできない。

 電話越しに一層不機嫌そうな沈黙があったが、しかし、

 

『分かりました』

 

 と、リンは冷静に返して来た。

 凄まじい忍耐力だと思った。実際大したものである。アコだったら即座に通話を切られていたかもしれない。

 それから更に幾つかの頼み事をして、絶対に後で何かしらの礼をするとリンに伝えてから、俺は電話を切った。

 

「……さて、アロナ」

『はい、ウォルター先生!』

「今回の作戦はお前が要だ。頼んだぞ」

『任せてください! うへへ、仕事を始めます!』

 

 ……俺の真似なのだろうか、そんな風にアロナは言った。

 ここからは賭けだ。

 ありとあらゆる面で賭けになる。

 問題は、その賭けるものが俺そのものではなく、ホシノであるという一点だ。

 最低最悪の賭けである。

 言い訳をするつもりはないが……結局、キヴォトスに来たところで、俺のやっていることはハンドラーそのものだった。

 責任。

 しかし、この場合の責任の取り方とは──何が正解なのだろう。

 シャーレとして、大人として、先生として、ウォルターとして。

 これに見合う責任の取り方とは、果たして一体なんだろうか。

 そんな事を考えながら行動していれば、いずれ夜は明ける。

 翌日の早朝。

 アビドス廃校対策委員会の部室の机の上には、やはりホシノが残した退部・退会届、そして全員への手紙が置かれていた。

 俺の予想通りに。

 俺の、作戦通りに。























※ここからは個人的な解釈の説明です。私の作中ウォルターが解釈違いだったら本当に申し訳ない。
 ホシノに対して、ウォルターだったらどうするか? これをずっと考えていました。止めても、止めなくてもどちらも不自然ではないんですが、しかし考えた末、ルビコンにいたウォルターなら止めない。
 選択と、今回の彼の作戦は、ハンドラーとしての思考が強いです。
 アビドス作中ウォルターは先生とハンドラーを揺れ動いている状態で、だから、先生としてはあるまじき行動も起こしてしまうこともある。私にとってこれは、ウォルターが先生になる物語として構築している面もあります……ということで納得していただければ……。
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