ハンドラー・ウォルター先生概念。   作:ヤマ

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 罠は作動する。


2-8

 048

 

 アビドス対策委員会のみんなへ

 

 まずは、こうやって手紙でお別れの挨拶をすることになったこと、許してほしい。おじさんにはこういう、古いやり方が性に合っててさ。

 みんなには、ずっと話してなかったことがあって。

 実は私、昔からずっとスカウトを受けてたんだ。

 カイザーPMCの傭兵として働く、その代わりにアビドスが背負っている借金の大半を肩代わりする、そういう話でね。

 中々良い条件だと思わない? おじさんこう見えて、実は結構能力を買われててさ。

 借金のことは、私がどうにかする。すぐに全部を解決はできないけど、まずはこれでそれなりに負担が減ると思う。

 対策委員会も、少しは楽になるはず。

 アビドス高校からも、キヴォトスからも離れることになったけど、私のことは気にしないで。

 勝手なことをしてごめんね。

 でもこれは全部、私が責任を取るべきこと。

 私は、アビドスの最後の生徒会だから。

 だから、ここでお別れ。

 シロコちゃん、ノノミちゃん、セリカちゃん、アヤネちゃん。

 最後にお願い、私たちの学校を守ってほしい。

 砂だらけのこんな場所だけど……私に残された、唯一意味のある場所だから。

 それから、もしこの先どこかで万が一、敵として相対することになったら。

 その時は、私のヘイローを「壊して」。

 よろしく。

 じゃあね。

 

 先生へ

 

 実は私、大人が嫌いだった。あんまり信じてなかった。

 ヘリに乗って先生が来た時だって、「怖い悪そうな大人が来た」って思ったくらいだし?

 でも、先生みたいな大人と最後に出会えて、私は……いや、照れ臭い言葉はもういいよね。

 先生。

 最後に我がままを言って悪いんだけど、お願い。シロコちゃんは良い子だけど、横で誰かが支えてないと、どうなっちゃうか分からない子で。

 悪い道に逸れちゃったりしないように、支えてあげてほしい。

 ロイちゃんを助けた先生なら、きっと大丈夫だと思うから。

 約束だよ、先生。

 

 049

 

 そういう内容だった。

 独白だった。

 端的で、それでいて何を考えて、何をしたのかが分かる文章だ。

 何をしてほしいのか──分かる文章だった。

 

「何なの!? あれだけ偉そうに話しておいて! 切羽詰まったら何でもしちゃうって、自分で分かってたくせにっ! こんなの、受け入れられるわけないじゃない!」

「……助けないと。私が行く。対策委員会に迷惑がかかるし、私一人で──」

「落ち着いてください、今はまず足並みをそろえないと──きゃあっ!?」

 

 ホシノの行方を案じる暇もなく、事態は進む。

 子供の感情を無視して、大人の都合と悪意で進行する。

 侵略が、進む。

 

「爆発……!?」

「近いです、場所は……っ!? ……そ、そんな、市内……!?」

 

 アビドス市街地が──襲われているのだ。

 ホシノがいなくなったことを察知したカイザーPMCが動き出したのだろう。自治区内の監視カメラの映像を確認すれば、カイザーPMCの兵士が今まさに、アビドスが僅かに所有している最後の土地へと侵略をしている最中だった。

 

『行け、行け!』

『進め!』

『うわあぁぁぁっ!?』

 

 数少ない民間人の悲鳴も聞こえる──土地や建物、そして住民であろうと無差別に、そして容赦なく攻撃をしているようだ。

 蜘蛛の子を散らすように、市民が逃げ惑っている。

 

『……この自治区にはもう、退去命令が下った』

『ふふふっ、ふふふふふふふ…………! ついに、条件は全てクリアした。最後の生徒会がアビドスを退学……これで実質的に、アビドス高等学校は消えた!』

 

 高笑いしているカイザーPMC理事を、アロナがハッキングしたカメラ越しに確認する。

 ……手の早いことだ。

 流石大企業の理事、チャンスへの鼻は利くらしい。

 勝ちに来た、ということだろう。

 

「お、応戦しないとです! 何はともあれ、アビドスが攻撃されているのを見過ごすわけには……!」

「考えてる時間が惜しい、すぐに行こう!」

「で、ですが、私たちで撃退するにはあまりにも数が……いえ、とにかくまずは、市民の皆さんを避難させましょう! こんな大規模な攻撃……一体どうして、急に……」

 

 不安を抱えたまま、行く末も見えないまま、道標も無いまま──ホシノがいない中、四人は動き出す。

 アビドスを守るために、対策委員会は足を止めない。

 それはきっと、今までアビドスを守ってきたホシノの意志だ。

 受け継がれた──意志()だ。

 

「対策委員会を発見! こっ──ぐあっ!?」

 

 どうやら学校に入り込んできたらしいPMC兵士が、そちらを見もせずに銃を引き抜いたシロコに昏倒させられていた。

 PMCの兵士一人一人は目立った強さではないらしい。

 

「斥候が、もうこんなところにまで……」

「アビドス高校周辺に、カイザーPMCの兵を多数確認! すでに校内にもかなり侵入されています!」

「とりあえず、学校に侵入したやつからやっつけよう! アヤネちゃん、先生、お願い!」

「はい! 先生の安全を確保しつつ、学校に侵入した敵を撃退します! 校内の安全を確保した後は、市民の皆さんの避難を──!」

 

 それから対策委員会は、学校内の敵を排除して、ひたすらに街へと進む。

 銃を撃つ。

 殴り飛ばす。

 蹴り飛ばす。

 吹き飛ばす。

 その繰り返し。

 そうして何とか市街に辿り着けば、出迎えたのはやはり、数多の兵士を控えさせているカイザーPMC理事だ。

 羽虫でも見るかのように、俺たちを見下している。

 

「ふむ。学校まで出向こうと思ったのだが、お出迎えとは感心だ」

 

 悠然と。

 悠々と。

 悠長に。

 理事は、ゆっくりと俺たちに近づき、話しかけてきた。

 まるで、己がこの場所の主人であるかのように。

 詫びにでも来たのか、と言おうか迷ったが、しかしあまりにも無意味なので止めておいた。

 上機嫌のままに喋らせた方が効率は良い。

 

「……これは何の真似ですか? 企業が街を攻撃するなんて……いくらあなたたちが土地の所有者だったとしても、そんな権利は無いはずです!」

『それに、学校はまだ私たちアビドスのものです! 進攻は明白な不法行為! 連邦生徒会に通報しますよ!』

「スカウトなんて、最初から嘘だったってこと? ……いや、それよりもホシノ先輩はどこ?」

「この悪党め……ホシノ先輩を返して!」

 

 真っ当な主張をノノミとアヤネが。

 ホシノの行方をシロコとセリカが。

 四人が口々にカイザーを責め立てるが、しかし理事はどこ吹く風で。

 

「……くくくっ、何を言ってるのやら」

 

 と、笑った。

 とぼけた風だったが、嘘を吐いているのではなく、単純に対策委員会の言葉がおかしくて笑った、といった様子だった。

 恐らく、奴はホシノの行き先を知らないのだろう──十中八九、ホシノの身柄とは無関係だ。

 それは既に確認済みである。

 ホシノが取引に向かったのは、黒服だ。

 カイザーはあくまでも、ホシノが退学したという事実さえあれば良いのだろう。

 ホシノが何処にいようが、消えていれば、良い。

 理事は、当然のように対策委員会の詰問を無視して、

 

「連邦生徒会に通報だと? 面白いことを言うじゃないか、今すぐにでもやってみたらどうだ?」

 

 と、大仰に、無防備に両手を広げながら、言い放った。

 自分が害されることなどあり得ないと言わんばかりに。

 

「だが、君たちはこの状況について、今まで何度も連邦生徒会に嘆願してきたのだろう? それで、一度でも動いてくれたことがあったか?」

「…………」

 

 誰からの返事もないことを満足そうに頷きながら、理事は続ける。

 

「無かったはずだ。何せ連邦生徒会は今、動けないからな。いや、連邦生徒会でなくても良い。今までどこか他の学園が、君たちのことを助けてくれたことはあったか?」

 

 無かった。

 そう聞いている。

 誰にも救われず。

 誰にも見られないまま、アビドスは見捨てられている。

 自治区の生徒たちにさえも──見限られてきた。

 

「……そろそろ分かっただろう? 誰一人、君たちに手を差し伸べる者はいない。そして、アビドスの最後の生徒会メンバー、小鳥遊ホシノが退学した。アビドスの生徒会は、もう存在しないも同然。君たちはもう、何者でもない」

「…………!」

「公的な部活も、委員会も、生徒会も、自治区すらも無いアビドスは、学園都市の学校として自立・存続が不可能だと判断するしかあるまい──やれやれ、仕方ないな、この自治区の主人である我がカイザーコーポレーションが、あの学校を引き受けるとしよう。そうだな、新しい学校の名前は『カイザー職業訓練学校』にでもしようか」

 

 アビドスの現状は愉快極まりないと言うように、楽しそうにカイザーは捲し立てた。

 機械の顔なので表情が読みにくいが、声の調子からするに、恍惚と悦に入っているような上機嫌な物言いだ。

 世界を我が物にしたかのような、そんな声だった。

 俺たちを──もう、見てもいない。

 

「え……? な、何を言ってるの……!? 生徒会が無くても、アビドスには対策委員会がある! 私たちがまだいるのに、そんな言い分が通じるはずないでしょ!」

『…………それは』

 

 セリカの主張は正しい。

 これらのカイザーの侵略行為は不当極まりなく、仮に連邦生徒会を一人二人懐柔していたとしても、いくら賄賂を渡そうとも揉み消すことのできないであろう違法行為である。

 もしもアビドス廃校対策委員会が、本当に存在しているのなら。

 本当に──認められているのなら。

 

「…………アヤネちゃん?」

『対策委員会は、公式に許可を受けている委員会じゃない……』

「…………えっ?」

『対策委員会が出来た時には、もうアビドスには生徒会が無かったから……』

「え、えっ……!?」

 

 つまり、正式に認可されたアビドス生徒会が──最後の生徒会である小鳥遊ホシノが消えたことにより自動的に消滅し、連鎖的に対策委員会の存在は抹消された。

 公的な生徒会メンバーが残っていなければ、学校は成り立たない。

 人がいなければ、国が成り立たない。

 存在を証明する正規の組織が消えたことにより、対策委員会所属の生徒たちは戸籍が存在しないような状態に陥ってしまった。

 

「そうだ。所詮非公認の委員会、正式な書類の承認も下りていない。つまり、君たちの存在を示すものは何も無い」

 

 生徒会が消えた今、管理する者がいない、空白の土地だった。

 誰もいない国だった。

 

「だが喜べ。アビドス高等学校が無くなれば、君たちはもうあの借金地獄からは解放されるのだからな」

 

 国が消えれば、借金は消える。

 それは至極当然の話だったが──そしてあるいは、それは一種の救いかもしれなかったが、それは問題の放棄であって解決ではない。

 学校が消える事を、ホシノは望んでいない。

 借金があろうとも、アビドスを守るためにホシノは身を捧げたのだ。

 アビドスを、受け継いでいくために。

 己を犠牲にしたのだ。

 ならば──俺はその選択を尊重しよう。

 託されたその使命を全うしよう。

 奴の主張も十分に把握できた──ホシノが退学し、生徒会が消え、アビドス高等学校が無くなれば、浮いた土地は合法的にカイザーの物となる。

 それが、カイザーに勝利を()()()()()条件だった。

 俺は彼女たちに合図を送る。

 仕事の合図だ。

 もしも、カイザーがその理由で──()()()()()()()()()()で攻めてきたのだとすれば、俺たちの勝ちである。

 

「そんな、そんなことになったら、今までの私たちの努力が……」

「…………ほう、まさか本気だったのか? 本気で何百年もかけて、借金を返済するつもりだったと?」

 

 設置されている爆弾の位置。

 埋められている爆弾の位置。

 戦車やヘリ等の兵器の位置。

 敵の指揮官の位置。

 増援の数と位置。

 

「これは驚きだ。てっきり、最後に諦める時『でも頑張ったから』と自分を慰める言い訳をするために、ほどほどに頑張っているのだと思っていたが……いったい君たちは、どうしてあんなに努力していたんだ? 何のために?」

「──っ! あんた、それ以上言ったら……!」

「撃つよ」

 

 カイザーの使用している暗号回線の解読。

 通信網の把握及び傍受の準備。

 パターンの模倣、ダミー通信による指揮系統の麻痺を狙う。

 

「で、ですが……」

『──今ここで戦って、何かが変わるんでしょうか?』

「アヤネちゃん!?」

『今も、すごい数の兵力がこちらに向かって来ています……。たとえ、戦って勝てたとしても……その後はどうすれば……? 学校が無くなったら、もう戦う意味がありません。学校をどうにか取り戻せたとしても、私たちにはまだ、大きな借金が残ったまま……』

 

 作戦伝達。

 北北東から起爆して敵の増援を遮断。

 その間に敵の指揮官を無力化、指揮体系を崩壊させ、相手集団を一気に瓦解させる。

 

『取引された土地だって戻ってきません。何より、ホシノ先輩もいない、生徒会も無い、こんな状態で……私たちみたいな非公認の委員会なんかに、これ以上、一体何が……』

 

 監視カメラの映像を七神リンとクロノススクール(マスコミ)に転送する。

 

『どうして、どうして私たちだけ、こんな……ホシノ先輩……私たち、どうすれば──』

 

 と、そこまでだった。

 今までの空気全てを吹き飛ばすが如く、今までのカイザーが引き起こしたどの攻撃よりも大規模な爆発が、予定通りの北北東で起きた事を観測する。

 …………いや、まだ、起爆指示は出していないのだが。

 どうやら聞く限り──聞こえる限り、彼女たちの我慢の限界のようだった。

 まあ、問題はないだろう。念の為、カイザー側にこれ以上の切り札(カード)があった時に備えて黙っていたが……それもなさそうだ。

 

「なっ!? き、北の方で大きな爆発を確認!」

「合流予定のブラボー小隊が巻き込まれて──!」

「何!?」

 

 爆発する。

 爆発し、それによりまた爆発し──爆発は連鎖する。

 連結する。

 ……大盤振る舞いだな、と思うと同時、明らかに予定よりも爆発量が多いのが気になった。

 一体いくつ仕掛けたのだろう。

 資金は出したが、まさか全て爆弾に使ったのだろうか。

 要らぬ心配をしてしまう。

 

「東の方でも確認! 合流予定だったマイク小隊も、大量のC4の爆発により壊滅状態です!」

「何が起きている!? アビドスの連中は、ここにいるので全員のはず──ぐぁっ!?」

 

 連鎖を起こし続けた爆発が、どうやらここまで到達し理事に直撃したらしい。

 問答無用の黙らせ方だった。

 いや──アウトローな黙らせ方だった。

 

「全く……大人しく聞いていれば、何を泣き言ばっかり言ってるのかしら」

 

 こつ、こつ、こつ、と。

 そんな、ハイヒールの音を立てながら。

 爆煙の中を歩いている人影がある。

 悠然と。

 悠々と。

 悠長に。

 ゆっくりと──歩く。

 

「目には目を、歯には歯を。無慈悲に、孤高に、我が道の如く魔境を行く……それが、あなたたち覆面水着団のモットーじゃなかったの?」

『な──あ、あなたは!?』

 

 それは便利屋68の社長──陸八魔アルの姿だった。

 今までにない威風堂々とした姿で、その彼女の立ち振る舞いは確かに、クールで、ハードボイルドな、アウトローの姿だった。

 

「何をすればいいのか分からない、どうすればいいのかも分からない。やる事なす事、全部失敗に終わる。ここを潜り抜けたところで、この先にも逆境と苦難しかない……」

 

 そこでアルは、すぅ、と息を吸って──怒りにも似た声で、対策委員会に言い放った。

 

「──()()()()()()()っ!!」

『え、えっ……?』

「仲間が危機に瀕してるんでしょう!? それなのに、くだらないことばっかり考えて、このまま全部奪われて、それで納得できるわけ!?」

 

 あなたたちはそんな情けない集団だったの、と、アルは厳しく叱咤する。

 その言葉には些か私情が──自分の憧れた集団はもっと格好良くあってほしいという私情もないではないのだろうが、しかしそれ以上に、人を鼓舞する力があった。

 人を──奮い立てる力があった。

 ……なるほど、これがアルのカリスマ性か。

 その本質か。

 

「…………」

 

 …………いや、狙撃手の仕事を、頼んでいたはずなのだが……。

 

「いやいや、アルちゃんその辺で勘弁してあげなよ。メガネっ娘ちゃんは繊細なんだから、こういう時もあるって」

 

 アルの背後からひょっこり出てきたムツキは、作戦通り前衛なので問題はない。

 ……俺は息を一つ吐いて切り替えることにした。

 

『ど、どうしてあなたたちが……!?』

「んー? ああ、お爺ちゃん、やっぱり言ってないんだね」

 

 (わーる)いんだー。

 揶揄うように、ムツキは言う。

 否定はしない。

 どころか──最低だからな。

 

「あはっ。それにしても、私の可愛いメガネっ娘ちゃんを泣かした罪は重いよ? だからもうこれは──ぶっ殺すしかないよねっ!」

「ふふっ、ふふふふふ……準備はできています、アル様。仕込んだ爆弾もまだまだたくさんありますので……」

「はあ。ごめん、先生。みんなを止められなかった」

「……気にするな。せいぜい数秒の誤差だ。問題ない」

 

 と、ここまでの一連の流れを終えたところで、爆発に巻き込まれて倒れている理事が正気に戻ったらしく、怒りの声を上げた。

 煤まみれになっているが、どうやら無事だったようだ。

 

「……ふっ、ざけるな! シャーレ! こんなことをしてタダで済むと思っているのか!? 貴様の行為はいくら超法規的機関と言えど越権行為だ!」

 

 どの口が言っているかと言いたくなるような、今までの自らの行為を棚に上げた主張だったが、しかし正論である。

 そう、シャーレと言えど、無くなった学校の土地を守るために企業と争うのは許可されていない。

 あくまでも認められているのは自治区の範囲での自由なのだから、自治区が消滅しているならば例外となり、違法に当たる可能性があった。

 故に、俺は肯定する。

 

「──そうだな。確かにその通りだ。お前の主張は、アビドス生徒会が消え、ここの自治区が宙に浮き、誰も管理する者がいない。だからカイザーが引き受ける。そういったものだったな」

「分かっているなら、尚更重罪だぞ! 正式に連邦生徒会へ抗議を──」

 

 そう、確かに問題行動だ。

 今までのカイザーの主張が、本当に正しかったのなら。

 

「対策委員会が、本当に非公認の部活ならな」

「──は?」

「非常に残念な話だが……アビドス廃校対策委員会は、昨日付で連邦生徒会に認可された」

『…………え、えええっ!?』

「で、デタラメを言うなっ! 私が調べずにこんな事をしたとでも思うのか!? 有り得ない! 私は直前にデータベースの確認を──」

「ああ、余談だが……どうやらサンクトゥムタワーの調子が悪かったらしく、システムの更新が数時間程度遅れてしまったようだ。しかし……いやはや、たかが一つの学園の、たった一つの部活動の表示反映が遅れただけだ、何も問題はないだろう。その数時間の間に侵略をするような奴などいるはずもないのだから」

「き、さま……!」

 

 歯噛みを(機械である身体でするのかは知らんが)する理事に対して、アロナは『私がやりました!』という、いつの間にか用意したらしい襷をかけて、一緒に投影されたホログラムの机の上に立ち、胸を張っていた。

 ……それはどちらかと言うと、反省をする時につけるものじゃなかろうか。

 まあ、良い。今回の作戦はアロナがいなければ成功しないものだったのだから、彼女が満足しているのならさせるべきだろう。

 幸い、誰にも見えていないようだしな。

 

「……ちょ、ちょっと待って! え、申請書は!? そんなの書いた覚えないんだけど!?」

「いいや、間違いなく書いたはずだ──『署名』をな」

 

 ──先にシャーレからの支援物資を受け取ったという受領書にサインをくれ。

 

 ──これはアビドス廃校対策委員会全員の署名が必要だ。

 

「え、いや──嘘、あれのこと!?」

「……内容、間違ってなかったはずですけど……」

「さて、どうだったか」

 

 ノノミの言う通り、あれは正真正銘ただの受領書である。そうでなければホシノの目を誤魔化すことなどできはしない。

 あの書類は偽造ではなく、正式にシャーレとしての書類だ。

 実際に利用したのはその署名であり、しかも後になってからの話だ。どちらかと言えばオーバーシアーとして培った技術、もとい工作であるため、詳細は伏せておくが……まあ、嘘ではない。

 

「バカな……! 私が工作の痕跡を見落としただと……!? 有り得ん、そんな陳腐な作戦の見落としなど、有り得るはずが……!?」

「いや──お前は見落とした。カイザーPMC理事、お前のそれは、何十年にも及ぶ計画がようやく成就するという逸る気持ちを抑えられなかったのだろう」

 

 俺がコーラルを前にして、V IIスネイルの奇襲に気付けなかったときと同じように。

 共感しよう──同情しよう。

 お前の感情は、この場にいる誰よりも俺だけが理解できるものだ。

 だから──利用できた。

 予想も、予測も、容易だった。

 半世紀に及ぶ計画が失敗する経験が、俺にはあった。

 

「さて──大義名分は得た」

 

 作戦通り、反撃を始めよう。

 

「便利屋68、準備はいいか」

「ええ、もちろん! さあ──仕事の時間よ!」

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