ハンドラー・ウォルター先生概念。   作:ヤマ

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 受け継がれ、生まれるは、猟犬の意志。


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 055

 

 いくつか条件はあったものの、どうにか無事にヒナへ仕事を依頼することに成功した。今後考えなくてはならないことが増えたため、先が思い遣られる気持ちがないでもないが、しかしそれは、思い遣る先があればこその悩みである。

 未来のことは未来の俺に任せるとしよう──ヒナの要求であれば、そう酷いことにもなるまい。

 ともあれ、その後は各所に連絡をし、全ての準備を終わらせて──俺は今、アビドス砂漠上空にいた。

 より正確に言えば、メニの操縦するヘリに乗り、カイザーPMC基地よりも数㎞離れた上空だ。対空砲がある以上、流石にこのまま基地に乗り付けることはできないが、教室からのサポートより通信は安定している。

 最終目的の関係上、後方支援だけして教室で待機しておくわけにもいくまい。

 アヤネも同様にヘリに乗りながらのサポートになるが、さして動揺もしていないようだ。緊張こそしているものの、それは今回の作戦そのものにであって、環境によるものではない。

 適度な緊張である──問題なし。

 

「──総員、準備はいいか」

『ん、準備完了』

『補給も十分、おやつもたっぷり入れておきました!』

『こっちも準備できたわ! 睡眠もしっかり取ったし、お腹もいっぱい! どっからでもかかってきなさい!』

 

 既に地上に降り立っている三人に呼び掛ければ、彼女たちは気鋭に満ちた声を返す。

 無理をしている様子もない。準備は万全のようだ。

 戦闘前とは思えぬ雰囲気、というか独特の緊張感の無さは、アビドスにとってはいつものことなので、これがベストコンディションなのだろう。

 むしろ不安要素があるとすれば俺の方だった。

 俺の作戦に、不安要素が残っている。

 無論、やれることは全てに手を打ち、あるものを全て使いはしたが、それでもやはり懸念は残り、そして使()()()()()()()()()()という疑念が拭えない。

 ならばこれは、不安と言うよりは──心配、か。

 

「私の方も、アビドスの古い地図を全て最新化しておきました。案内と戦闘中の補給は私が担当します。みなさん、いつでも言ってくださいね」

 

 俺の心中とは反対に、アヤネは冷静にそう告げた。

 ……どんなに指揮の経験があろうと、どんなに長生きをしていようと、子供に精神状態が劣るようでは世話がない。

 誰かを戦場に送り出す感覚に慣れるつもりはないが、ここまで来た以上、悩んでいても仕方がないのは事実である。

 と、言い聞かせて、思い込もう。

 それに不安とは言っても、ルビコンよりはまだ安心して見ることはできるはずだ──いや、流石に気休めだな。

 比べるものでもない。

 俺は一つ息を吐いて、思考を切り替える。

 全員の配置と準備は既に完了している──各機器の調整と確認を終えてから、俺は全ての部隊に通信を繋いだ。

 

「これより最終確認を行う。今回の作戦は三つの部隊が同時に行動するが、互いに干渉することはほとんどない。特にヒナ──風紀委員会はカイザーPMCの兵力を一手に担うため、動くことはできない。便利屋は風紀委員会が対応できない兵力や、基地内の浮いた戦力を叩くために動く。つまり、実質ホシノ救出の実働部隊は対策委員会だけだ。便利屋は多少は動かせるが、あまり期待するな。連戦を覚悟しておけ」

『ん、了解』

『任せて、先生! アウトローな仕事ぶりを見せてあげるんだから!』

 

 シロコの端的な返事と、アルのハイテンションな声だった。

 風紀委員会からの返事はなかったが、無理もないだろう。対策委員会はともかく、風紀委員会と便利屋は間違いなく食い合わせが悪い上に、仲良くするという間柄でもない。

 一時の協力関係だ──こうして書くと、些か懐かしさを覚える傭兵らしい関係だと、少し思った。

 

『……先生』

 

 と、そんなことを考えていると、ヒナから通信が入った。

 カイザーPMCの増援が見えた時点で連絡をしろと伝えていたので、恐らく彼女たちの視界に入ったのだろうと推測したのだが、しかしヒナは多くを語らず、端的に言う。

 

『──()()()()?』

 

 主語のない、短い言葉。

 それは一見、カイザーPMCの増援がそちらから見えているか、という報告にも聞こえるが──恐らく、実際はそうではない。

 ()()()()()()()()、という確認だ。

 

「……ああ」

『そう』

 

 満足そうだ。何故か。

 やはり617と重ねられたという事実は、ヒナからすればあまり気分の良いものでないのだろう──ならば、俺がようやくヒナという一個人を見ていることに、彼女は安堵しているのかもしれない。

 

『カイザーPMCの増援を発見。一個大隊の規模です、委員長』

『分かった、準備して』

『どうして私もここにいるんだ……』

『イオリはともかく何故私まで……』

 

 ちなみに、今回の作戦──カイザーPMCの兵力を受け持つ風紀委員会のメンバーは、オペレーターであるアコを含めても四人しかいない。

 イオリやチナツも引っ張り出されたようだが、実際に戦うのは三人だと考えると、かなりの過少人数だと言わざるを得ない──それでも彼女たちに軽口が叩ける余裕が見えるあたり、ヒナの実力は折り紙付きなのだろう。

 最強。

 その名に恥じぬ実力が、彼女にはある。

 

『まだ風紀委員の仕事も残ってるし、手早く片付けよう』

『せっかく委員長が反省文の代わりに、ということにしてくれたんですから、愚痴はそこまでにしましょうね?』

『ここで全軍止める、誰一人として近づけさせない』

 

 がこん、と。

 ヒナが自らの愛銃であるマシンガンを手足のように操り構えるその姿は、かつての617のそれを想起させたが──しかし、617が愛用していたガトリングではない。

 『DF-GA-08 HU-BEN』と、『終幕』。

 機関銃であっても、同じではない。

 これもまた、俺の見えていなかった彼女たちの違いか。

 

『────行こう』

 

 戦闘が始まる。

 ヒナたちはこれからカイザーPMCの兵力のほとんどを相手取るため、身動きが取れない──その間に、俺たちは全てを終わらせる必要がある。

 時間との勝負だ。

 

「こちらも前方に敵を発見しました! 距離は2km、もうすぐ接敵します! みなさん、対応の準備を──」

「いや、待機しろ」

『え……?』

 

 俺たちの方でも敵を確認し、いざ戦闘開始だというところで、俺はアヤネたちを制止した。

 対策委員会の出鼻を挫くような台詞だったが、勿論これには意味がある──想定外が起きたのだ。

 俺たちにとって都合の良い、想定外が。

 

「大量の熱源反応──巻き込まれるぞ」

 

 これはあくまでも記録映像での認識になるが……かつて621が戦ったらしい惑星封鎖機構の無人機体、バルテウスを彷彿とさせるような爆撃の雨が、前触れなくカイザーPMC基地周辺へと降り注いだ。

 ただしAC目線での物言いのため、実際のバルテウスの絨毯爆撃とは比較にならない規模だろうが……少なくとも密度に関して言えばそれに劣らない火力が──人間に対しては過剰火力とも言える爆撃が、敵地を襲っている。

 これでもキヴォトスの人間は死なないと言うのだから恐れ入るが、しかし──これは一体、誰の仕業だ?

 

『支援砲撃……?』

「あれは……L118、トリニティの牽引式榴弾砲です! 一体どうして……」

『あ、あう……わ、私です……』

 

 と、俺の疑念をすぐさま解消するかの如く、俺たちの通信回線に割り込んできた者がいた。

 ご丁寧にホログラム付きである。

 トリニティの制服を身に纏い、おずおずと申し出てきたのは──いつかのたい焼きの紙袋を被った、自称普通の少女、ヒフミである。

 

『あっ! ヒフ──』

『ち、違います! 私はヒフミではなく、ファウストです!』

 

 ……そう言えばそうだったな。

 顔を隠しているあたり、この支援の身元を隠したいということなのだろうと推測できるが、しかし制服を着ている時点で公表しているようなものではないだろうか。

 いや、この回線を敵には繋げていない以上、あくまでも形式上、か。

 

『わあ、ファウストさん! お久しぶりです! ご自分で名前を言っちゃってましたが、そこはご愛嬌ということで☆』

『あ、あれ!? あう……! いえ、その、このL118は、トリニティの牽引式榴弾砲ですが……と、トリニティ総合学園とは一切関係ありません! 射撃を担当している皆さんにも、そう伝えておきましたので!』

 

 想像通り、彼女の支援は個人的なもの、あくまでも公的な支援ではない、という主張らしい。

 ただし、気になるのは()()()()()()()()()()()という点である。

 あれだけの支援射撃を命令できる人間は相当な上層部でないと難しいはずだ──ヒフミの善性からして、仮にティーパーティーに直談判したのだとしても、それを聞き入れた誰かがいるはずだ。

 ヒフミの自称平凡な生徒という言葉を信じるのであれば、だが──彼女自身がティーパーティーでなければだが。

 

『……す、すみません、これくらいしかお役に立てず……』

 

 少し考えて、それは無いな、と思う。

 仮に生徒会に位置する人間が、ファンシーグッズのために闇市に入り浸り、銀行強盗まで加担するような人間がトップだったとすれば、その学園はおしまいだろう。

 逆にトリニティの評価を下げなくてはならない。

 ならばこれは、純粋な『貸し』というメッセージか。

 知らない人間に、それも三大学園に貸しを作ってしまったことは考えたくもないが(既にヒナにも作っているので二人目になる)、これも俺の罰なのかもしれん。

 ホシノを助けるためだと受け入れておこう。

 

「十分だ、ファウスト。援護感謝する」

『うん、すごく助かった』

『はい! ありがとうございます、ファウストちゃん!』

『あはは……えっと、みなさん、が、頑張ってください!』

 

 ヒフミの激励を最後に、通信が遮断される。

 痕跡も残っていない──いや、これはアロナが気を利かせて消したのだろう。

 今にして思えば、回線に割り込まれたのではなく、アロナが割り込ませたのかもしれない。

 この作戦が終わったら、アロナにも何かしらの褒美を用意しておかなくては。

 

『火力支援の直後に突撃、定石通りだね』

「はい! 敵は砲撃により混乱状態です、今のうちに突破しましょう!」

 

 そして。

 ()()()()()()()()()()()

 アロナと()()が上手くやったらしい──俺の心配をよそに、彼女たちはメニの言う通り成長しているようだった。

 

「基地内の隔壁を作動させて応援の時間を稼ぐ。正面に集中し撃破しろ」

『せ、先生!? いつの間に基地の掌握を……!?』

「……やったのは俺ではない。今は気にするな──総員、構えろ」

 

 そう──気にしている場合では無い。

 俺も、対策委員会も、彼女たちも。

 ここからが本番なのだから。

 

「──作戦(ミッション)開始だ」

 

 056

 

 地面を大きく揺らすような爆発音で、私は目を開けた。

 久し振りに着けたヘルメットが少しズレる感覚がある。

 どうやら作戦が始まったらしい──こんな爆発は作戦になかったと思うんだけれど、まあ作戦なんて大抵上手くいかないってウォルターも言ってたしな。

 多少の計算違いや手違いに対応できるよう作戦を組んでこそ──だっけ。

 私には難しそうな話だ。

 ともあれ私たちとヘルメット団は暫くの間、カイザーPMC基地の武器倉庫部屋のような場所で固めて待機させられていた。

 武器が大量に保管されているが、これでもほんの一部だと言うのだから圧巻だ。

 流石大企業と言うべきなのかもしれない。

 今持ってる武器より当然良いものがずらりと並んでいるけれど、同じ武器種だからと言って取り変えない方が良いだろうな。

 使い慣れている──ようやく使い慣れた武器を手放すのは得策じゃない。

 いやまあ、そもそも勝手に触るなって言われてたから、そんなことできないんだけど。

 

「おい、そろそろ準備をしろ。俺たちの前に立て」

「……分かりました」

 

 かなり横柄な態度で、カイザーPMCの兵士は私たちに命令した。

 ようやく彼らも出動するらしい。

 今回招集された何十名ものヘルメット団の役割は、カイザーPMC兵の盾になり、アビドスの攻撃を代わりに受けることであり、それ以上は期待されていない。

 アビドスの生徒に傷一つ付けられたらいいだろう程度の捨て駒扱いだ。

 そもそもこの招集ですらかなり突発的なもので、報酬は額面上は良いけれど、仮に完遂しても払うかどうかも怪しい強制的なものである。

 もしもカイザーが敗北したのなら報酬なんて期待できないし、仮に勝ったとしても払わないだろうなという確信があった。

 タダ働きどころかムダ働きだ。

 とは言え、ヘルメット団は拒否もできないだろう──ヘルメット団はカイザーの援助を受けてアビドスを襲っていたし、余りある金で上の連中は美味しい思いもしているようだし。

 下っ端はそんな恩恵、全然貰えなかったんだけどな。

 まあいいさ。

 やれと言われたらやるだけだし、そんなの今の私には関係ない。

 やりたいことをやるだけだ。

 それに私の仕事は──もう終わってるしな。

 出撃の合図と共に武器庫の扉が開き、兵士が私たちへ号令を掛けているが、私は別の事を考えていた。

 私の仕事は、今回招集されたヘルメット団に潜り込み、一緒に基地内へ潜入して、託されたUSBをサーバーに繋がっているであろう何らかのPC(どのPCでも構わないと言っていた。監視があったから結局挿したのは兵士が持ってたノートパソコンなんだけど、大丈夫なんだろうか)に挿す事であって、その仕事は既に完遂している。

 何のためにって聞いたら「バックドアを作るための布石だ」って教えてくれたけど、私にはやっぱり分からなかったので、私にできることはここまでなんだろう。

 本当はあのノートパソコンを隠しておきたいところだけど、目を盗むのには限界がある。

 私の能力は高くない。

 弁えよう──できることをやろう。

 

「行け! 行け!」

 

 急かされるようにして戦場に送り出される。

 私たちを全員武器庫から押し出して、カイザーPMCは殿を務めるように最後列に立った。

 殿って、確かそれなりに重要な役だった気がするんだけど、多分あれはそういう感じじゃあないよな。

 普通に私たちを盾にしてるだけだ。

 まあ役割っちゃ役割だけど、多分あれ私より年上だよな?

 いい大人が何やってんだよ、と思わなくもないけれど、それ以前に、そういう思考が芽生えたことにちょっと驚く。

 良い大人に会ったからか。

 いや、『いい大人』と『良い大人』じゃ意味が違うんだから──いや、これも皮肉ってやつか。

 ウォルターは……まあ否定するだろうけど。

 

「何見てる、さっさと行け!」

「うぉっと」

 

 ばん、と一発気付けのように私へ銃を撃つ兵士。

 容赦なさ過ぎだろ──いや、余裕なさ過ぎだろって言うべきか。

 結構必死らしい。

 まあ分かるけどな、後がないって言ってたし。

 さて、怒られたし走りながら考えることにしよう。

 考える──考える。

 昔はそんな余裕はなかったけれど、今はメニさんから鍛えられたこともあって(鍛えられたというのはかなり穏便な表現であって、実際はボコボコにされたが正しいんだが)、ある程度は別のことをやりながら思考を回せるようになった。

 もっとも効果的なダメージの与え方を考える。

 USBは既にノートPCに挿してあるが、あれはあくまでも援護であって、このあたりの戦力を削ることにはならないだろう。

 じゃあやっぱり、分かりやすい戦果を上げるにはこいつらを倒さなきゃいけないんだけど、でも私の力だけじゃカイザーPMCの兵士を倒せないことぐらいは分かる。

 ヘルメット団の奴らはともかく、軍隊であるPMCを倒せると思うほど私は思い上がってない。

 じゃあどうするか──次に繋げることを考えるんだ。

 私ができないなら、他の人に任せられるよう動くんだ。

 私の位置。

 四人の位置。

 アビドスの位置。

 ヘルメット団の位置。

 カイザーPMC兵士の位置。

 もしもさっきのUSBが上手く働いているのならば、ウォルターが後はなんとかしてくれるはず。

 私は一応、自分でもざっくりとした作戦を立てながら情報を集める。

 走って、走って、走って。

 私たちが追い立てられるようにして走らされた先は、アビドスのみんなを数多の兵力が取り囲もうとしている最中だった。

 カイザーPMC理事も見える。

 ヘルメット団のことは歯牙にもかけていないようだけど、まあ都合は良い。

 そして──通信が入る。

 

『──ああ。ここは、本来のアビドス高等学校本館だ』

『あんたは……!』

 

 カイザーPMC理事と──セリカの声だ。

 大切な、声だ。

 

『よくぞここまで来たものだ、アビドス対策委員会』

『敵の増援多数……! この数字、おそらく敵側の動ける全兵力が……! カイザーPMCはきっと、ここで総力戦に持ち込むつもりです!』

 

 気を回してくれたらしいウォルターが回線を繋いでくれたのだろう、ありがたい。

 状況が把握できるのなら、彼女たちと合わせることも可能だ。

 

『砂漠化が進行し、捨て去られたアビドスの廃墟……ここが、元々はアビドスの中心だった。かつてキヴォトスで一番大きく、そして強大だった学校の残骸が、この砂の下に埋もれている』

 

 ウォルターが位置情報を共有する。

 便利屋68と爆弾の位置が私たちに伝わり、逆に私たちが集めた情報をウォルターが回収する。

 

『ゲマトリアは、ここに実験室を立てることを要求した』

『実験室……!?』

 

 作戦が共有される。

 その作戦内容を聞いて、私は驚く──というか、不安が先に立った。

 私がやっていいのか、それは本当に大丈夫なのだろうか──そういった、自信のなさから出てきた一通りの言い訳が私を襲う。

 でも。

 だけど。

 それらを一口に飲み込んで、私は返事をした。

 やりたいことを──やる。

 だからやらせてくれ、ウォルター。

 

『そんなことよりも、ホシノ先輩はどこですか!』

『あの副生徒会長なら、向こうの建物にいる。もしかしたら、すでに実験が始まっているかもしれないが……』

『──っ!』

 

 あとはタイミング。

 理事の意識がアビドスに集中するその瞬間。

 

『彼女の元に行きたいのであれば、私たちのことを振り切って行けば良い。君たちにそれができるなら、の話だが』

『この兵力、容易に通してくれそうにはありませんね……』

『……ん、じゃあここは私に──』

 

 今だ。

 シロコ先輩が銃を構え、理事の視線がそちらに引かれた瞬間、私は懐から爆弾を取り出して後方に──PMC兵士の集団に放り投げた。

 それなりの質量であるその爆弾を投げた後、私たちは即座に伏せて爆発に備える。

 回避を許さない空中起爆。

 私の起爆が、作戦開始の合図。

 轟音。

 

「────っ」

 

 そして爆発は連鎖する。

 私の爆発を起点に、設置してあった爆弾が次々に起爆する。

 連鎖して、連結する。

 

「ぐああああっ!?」

『ま、また爆発!? 今度は一体……!?』

 

 あらかじめ知っていた私と、ヘルメット団に紛れていた四人は伏せてなんとか無事だったけれど、結構近距離だったから、私たちと同じ隊列だったPMCを含むヘルメット団の集団は爆発に見事に巻き込まれて、ほとんど壊滅状態だった。

 って言っても、ヘルメット団はともかく、PMC兵士はここ以外にもまだまだ全然いるんだけどな。

 

「……いってー。けどまあ、ひとまず作戦通りって感じか?」

「へ、ヘルメット団が……!? なんで……!?」

「ん?」

 

 ぱっぱっ、と砂を払いながら立ち上がると、私たちの周りだけぽっかりと、集団に穴が開いたような状態になったらしく(多分ヘルメット団が全員倒れたせいだ。他の隊列はPMC兵士ばっかりだからそこまでじゃない)私たち五人が悪目立ちしていた。

 ……ウォルター、まさかこれを狙ったのか?

 けど、ヘルメット団って。

 ひでえなあ。

 

「もう忘れちゃったのかよ、セリカ。私は寂しいよ」

「…………え、嘘。いや、だって、病院にいるはずじゃ」

「とっくに退院したっての。それに、仮に治ってなくてもここに来たよ、私は」

 

 急にこのヘルメットを着けているのが恥ずかしくなってきたので、私は雑にヘルメットを外す。

 外す時に、前に比べて多少は枝毛が減った黒髪が目に入りそうになった。

 開けた視界で、私はセリカを見る。

 私の人生を始めてくれた友達を見る。

 

「友達は、絶対に見捨てないんだろ?」

「ロイ!!」

 

 私が笑って言えば、セリカはどこか泣きそうな顔で私を見た。

 喜色満面って言うのは、あーいうのを言うのかね。

 いや、ちょっと違うかな?

 そのあたりは、またウォルターに教えてもらわないと。

 

「うーん、ほとんど私たちの爆弾なのに出番を取られちゃったね、アルちゃん」

「か、カッコいい……」

「……あれ、もしかして思わぬ方向に刺さってる?」

 

 どこか気まずそうに、便利屋68の人たちも現れた。

 いや、ごめんって。

 あの人たちにも感謝しないとな。

 

『べ、便利屋の皆さん……!? 作戦は大丈夫なんですか!?』

「もちろん。色々お爺ちゃんに頼まれた仕事が終わって、やーっと追いついたんけど……なんかこれみんな集まってるし、もしかして大事なシーンに割り込んじゃった感じ?」

 

 大事なシーン……まあ、そうだな。

 私的には、結構感動的な再会かもしれない。

 いや、ムツキ……さん?はそういう意味で言ってるわけじゃないのか。

 むしろ私たちが、カイザーと対策委員会の因縁に割り込んだ形になるのかな?

 

「このタイミングに登場、ということは……!」

「……なるほど、そういうことだね」

 

 まあでも、特に気にしないで良いか。

 みんなも()()()()()()を期待しているみたいだし、ならば私たちもその期待に応えなくちゃいけない。

 そしてアルさんはどうやらその期待を受けてテンションが上がったらしい、私に目配せして、入念にタイミングを測ってから前口上を言う。

 

「ふふっ、勘だけは鈍ってないようね、対策委員会。私たちがここに来た理由なんて、決まってるでしょう?」

 

 せーの。

 

「ここは私たちに任せて、先に行きなさい!」

「ここは私たちに任せて、先に行け!」

 

 決まった。

 のかもしれない。

 少なくともアルさんは満足そうだったので、これで良いのだろう。

 

「……もうっ。べ、別に、お礼は言わないからねっ!」

 

 照れ隠しを言うセリカだった。

 そして続けて言った台詞も、やはりセリカらしく、

 

「でも、全部終わったら……その時は一緒に、ラーメン食べに行くわよ、絶対!」

 

 と、赤面したままに言い切ったのだった。

 それから続けてシロコ先輩とノノミ先輩が私たちにお礼を言った後、恐らくホシノ先輩が捕まっているであろう方向に走って行く。

 後は頑張ってもらおう──私も頑張るからさ。

 と、一人決意していると、通信。

 

『──ロイ』

「……どーしたんだよ、ウォルター」

 

 重く、低い声が通信越しに私の名前を呼んだ。

 この感じからして、私たちまで巻き込んで申し訳なく思ってんだろうなあ。

 私としては、こんな弱い私たちを頼ってくれて嬉しい一点張りなんだけど。

 意味があるだけで嬉しいんだけども。

 それでも彼は言う。

 私たちに言う。

 

『無事に戻れ』

「……はは、りょーかい」

 

 まったくまったく。

 ほんっと、嬉しいことを言ってくれるよ、ウォルターは。

 戻る場所があるなんて──大人が私たちを思って待ってくれるなんて、恵まれてるね。

 

「──き、さまら……!」

 

 がらがらと瓦礫と砂の中から理事が這い出てきた。

 そーいや爆発の後見ないと思ったら、結構爆発に巻き込まれてたんだな。

 それでも平然と出てくるあたり流石だ。

 

「飼い犬と野良犬の分際で、よくも……!」

「──っは、もう私たちは野良犬(ヘルメット団)じゃねーよ」

 

 思わずと言った理事の口振りに、私は失笑を返す。

 それは、一種の自負だった。

 変わらず犬だったとしても、私たちは野良犬じゃない。

 意思表明を込めて、私はまだ手に持っていたヘルメットを放るように地面に落として、銃弾を撃ち込み、踏み砕く。

 かつて私が使っていたボロボロのヘルメットは──あっけなく砕け散った。

 

「私たちは、ウォルターの猟犬だ」


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