ハンドラー・ウォルター先生概念。 作:ヤマ
彼にとって、世界は赤いものだった。
001
小鳥遊ホシノ。
趣味、昼寝。
彼女の好きなものを、俺はそれ以外知らなかった。
昼寝が好きな理由があったことを──原因があったことを知らなかった。
いや、より正確に言えば、俺はホシノのことを何も知らない。
勿論それは、彼女が自分のことを語りたがらないという一面もあったが、どちらかと言えば、俺が知ろうとしていなかった部分が大きいのだろう。
言わないし、訊かない。
不干渉の不文律。
お互いに似たような、触れられたくない過去の傷があることを察しているからこそ、地雷を避けながら、探りを入れながらの歪な関わり方である。
距離感がいまひとつ掴めていないというのが現状だ。
俺とホシノは、そういった点でも似ていると言えるのかもしれない。
傷。
一生向き合っていかなくてはならない──傷。
とは言え、そんな探り合いは、何かの切掛であっさりと無為に帰すこともあるということを、俺は教訓として覚えておく必要があるだろう。
それが分かったのは、アビドスの一件が解決し、事後処理に追われていた頃の話である。
所用あって深夜にアビドス自治区内を出歩いたことがあったのだが、その時、ホシノとばったり遭遇したのだ。
出会ったこと自体は偶然ではあったものの、俺たちが丁度その日だけ深夜に出掛けていた訳ではない。
当初ホシノは「偶然だね〜」といつもの調子で言っていたが、その嘘を看破したのは、俺ではなく、その後ろから走って来たアビドスの住民だった。
事情を聞いたところ、不良に襲われているところをホシノが助けてくれたが、急に立ち去ったので追いかけて来た、とのこと。
「…………」
「……うへ」
俺の疑惑の視線から、気まずそうに目を逸らすホシノだった。
要するに、ホシノは毎晩夜警をしていたのだろう。
それも、住民が把握しているほどに。
となれば、昼寝が好きな理由も納得がいく──昼寝が好きと言うよりも、昼に寝ないと持たないが正しい表現だった訳だ。
ひとしきり礼を言った住民が去ってから、俺は訊いた。
「……眠れないのか」
「……まあ、先生なら分かるよね〜」
同じだし、と。
笑えない感想を言うホシノだった。否定はしないが。
「あまり、褒められたものではないな。多少昼に寝ているとは言え、健康的ではない」
「…………そうだね」
思いのほか素直に俺の言葉を肯定して、しかしホシノは、でもさ、と。
目を伏せながら、呟くように続けた。
「夜に一人だと、眠れないんだよね」
寒くて、暗くて、独りだから。
「お昼は暖かいし、明るいし、誰かがいるから、安心して眠れるんだ」
「…………」
ホシノの諦観したような言葉に、俺は何も言えなかった。
掛ける言葉が見つからない上に、持ち合わせてもいない。
かつてホシノに助けられた身である俺は、不眠症状が見受けられる彼女に対して、これといった打開策を提案できなかった。
大人として情けないことこの上ないが……人に助言できるほど、俺の精神は健全とは言い難いのである。
「そういう先生はどうなのかな〜? 夜、眠れてるの?」
あれから、夢は見てない?
顔を上げてから、慮るようにホシノは言った。
話のすり替え、という訳でもないだろう。彼女から見れば、俺も
「……お陰様でな。影を見ない訳ではないが」
ヒナと617はどうしても似ている部分が多く、連想してしまうことは否定できないが、それでも。
少なくとも、入れ替わることは──なくなった。
「良かった。……おじさんも、これでも良くなったんだよ? 先生のおかげでね」
「……そうか」
良くなった、か。
事実ではあるのだろうが、それが俺によるものかと問われると、懐疑的ではある。
どころか、作戦のためにホシノの犠牲を許容したことを思うと、むしろ俺の行動は彼女の精神状態を悪化させてしまった疑いすらあり、俺としては後ろめたくさえあるのだ。
しかしホシノはそんな俺の態度を意にも介さず、悪戯っぽい笑みでこう続けた。
「……うへ。先生が、寝る時におじさんの手を握ってくれるなら、夜でも眠れるのかもね」
……随分と脈絡の無い台詞ではあったが。
とは言え、もしもそれでホシノが眠れると言うのなら──たったそれだけで彼女が健康的な生活を送れるのであれば、償いとしては釣り合うかもしれないと、俺は思った。
故に俺は言う。
「それでお前が眠れると言うのなら是非も無い」
「……うへ!?」
「昔……何度か、頼まれてな。その時の様子からするに、効果がまるで無いということはないだろう」
そう、それは感情が希薄だったハウンズが、稀に要求した行為である。
手を握る。
頭を撫でる。
側にいること。
子供にとって、それが安心に繋がることは既に実証済みだった──かつての俺も、恐らくは例外でなく。
「あ、ああ〜……そっか。そうだね。そりゃそうだ」
俺の言葉を聞いて、ホシノは繰り返すように、あるいは言い聞かせるように捲し立ててから、
「もしかしたら先生の手には、快眠効果があったのかもね〜」
と、続けた。
……どうやら気を遣わせてしまったらしい。確かに、俺が誰かを喪ったであろうことを知っている彼女からすれば、唐突に昔話を振られた場合、それが喪った誰かの話である事は想像に難くないだろう。
しかし……快眠効果、か。
俺は自らの掌を見る。
本当にそんな効果があったのなら。
あいつらに、何かを、俺から渡せていたのなら。
少しは──罪滅ぼしになったのだろうか。
「先生」
「……なんだ」
俺が掌をじっと見つめていたことを受けてなのか、ホシノは、
「試しに、おじさんの頭、撫でてみてよ」
と、言った。
…………また、随分と唐突な提案だ。
いや、一応繋がりはあるのか──どういう感情なのかは分からないが、俺のことを考えて、なのか。
感傷から引き戻そうとしている、のか?
「まあまあ、練習だと思って〜。きっとこれから、風紀委員長ちゃんの頭を撫でることもあると思うからさ」
「…………」
俺の心理的抵抗を察してだろうか、よく分からない理屈の説得を行うホシノだった。
練習、とホシノは軽い調子で言うが、ヒナの頭を撫でるような本番があっても困る──仮にそんなことをしてしまえば、アコから何を言われるかわかったものではない。
「それにもう一回、おじさんのこと撫でてるから気にしないでもいいと思うよ?」
「…………そうだったな」
色々と言いたいことはあったが、俺が否定すれば否定するほど、ホシノの説得が謎の方向に進んでいく気がしたので、ひとまずは飲み込んでおくことにした。
撫でてくれと言うのであれば、俺が遠慮しても仕方がない。
要するに誰かに甘えたい気分なのだろうと、俺はそう納得した。
そして俺は、かつてハウンズにねだられたときのように、ホシノの頭を撫でる。
ぐしぐしと撫でる。
正直、男の手である俺の撫で方は、優しいとは言えないだろう。
雑、というか、大雑把な撫で方である──それこそ犬を撫でるような、荒っぽいものであることは否定できない。
だが、ホシノは。
うへへ、と、子供っぽく笑った。
一度目に撫でた時のような不機嫌さは一切感じない。
酷く珍しいものを見たような気がした──ともすればホシノらしくないとさえ言えるのかもしれないが、それはつまり、彼女はあまり子供らしさを表に出さないという証左でもある。
むしろこういった、自ら甘えると言う行動を彼女は今まで気軽にできなかったのだ。
一人。
独り。
ならば俺は、受け止めるべきだろう。
彼女が勇気を出して甘えているのであれば、俺はそれを受け止めて、返してやるべきだ。
俺にはナガイ教授がいた──その慈愛を、優しさを、厳しさを、頼もしさを、俺は覚えている。
ならば俺は、彼を見本としてその役目を全うしなければならない。
「……もう大丈夫。ありがとう、先生」
大人しく撫でられていたホシノは、どこか満足そうに言った。
少しだけハウンズのことを思い出したが……重なりはしない。
懐かしい気持ちになっただけだった。
「……うへ。このことは内緒にしておいてね、先生」
と。
そんな口約束だけを交わし、その後は特に何を言うでもなく何をするでもなく解散の流れとなったが、しかしそれからというもの、ホシノとの距離感が変化した。
傷を触らないように、という点はあまり変わりないが、地雷を探りながらのコミュニケーションではなくなったと言うべきか。
そう、敢えて言葉を探すならば──友人、のような感覚だ。
遠慮が減り、彼女のことを少しずつ把握し始めた──例えば、彼女が興味を示す物は昼寝以外にもあることを知った。
どうやらホシノは魚が好き、らしい。
それだけでは食の興味にも聞こえてしまうので、より正確に言えば、海の生き物全般が好きらしいと言い換えておこう。
夜警の一件の後も交流を続けた末、ようやく見えて来たホシノの趣味の一つがそれだった。
魚について物凄く詳しいというわけではないようだが、興味があるのは間違いない。
魚への好奇心の割に、あまり詳しくないという実情は、ホシノがそういった趣味に没頭できない環境下だったことの裏返しでもある──彼女はようやく、趣味を趣味として楽しめるようになったのだ。
だからこそ、今回のように彼女が好きなものを、状況を気にすることなく、素直に楽しめるようになる傾向が見えたことが、俺の仕事の成功を証明してくれたような気がした。
喜ばしいことである。
校舎で眠っていた魚型の蛍光ステッカーを自室の天井に貼り付けて楽しんだり、遠出をして熱帯魚の図鑑を買って、それの付録だった『アクアリウム開場記念無料入場券30名抽選チケット』で一喜一憂したり(内容は外れだった)と、ここに来てやっと見え始めたホシノの子供らしさは、安心させてくれるような気分になる。
俺の仕事が、報われたような気分になる。
だからこそホシノには、その子供らしさを抑えることなく楽しんでもらいたいと、俺は心底願うのだ。
「──と、いう訳だ、ホシノ。お前はもっと休め。今回の仕事の労いとして、アクアリウムのチケットを贈る。楽しんでくると良い」
『いやいや、何が「という訳」なのか、おじさんついていけてないよ、先生』
電話越しに、困惑した様子のホシノだった。
あまりにも唐突過ぎたらしい。
ただ、こうでもしないとホシノは報酬を受け取らない傾向にある──彼女には押し付けるくらいの気概で渡さないと、遠慮してしまうだろうという判断だ。
事実、ホシノは俺が購入したチケットであるという言葉を聞き、申し訳なさそうな態度を取った。
そして。
『違う子に渡してあげなよ、先生』
と、一切の躊躇なく言ったのだ。
アクアリウムの抽選券を外した時、あれほど落胆していたというのに──自分の感情を押し殺して、我慢してしまう。
子供らしからぬ、大人らしさ。
美徳と言えば美徳だが、あまり好ましいとは言えない。
しかし、ホシノのその答えは、俺の予想通りではあった──何故なら、
似ているが故に、思考回路が似通っているが故に、ホシノの答えを想像するのは容易だった。
「残念ながら、これはお前専用だ。受け取らないなら、俺が処分しておこう」
『む……』
いかに慎ましいホシノであろうとも、流石にチケットをただで捨てるとなれば、それはあまりにも勿体無い無視できない損失であり、受け取らざるを得ないだろう。
およそ子供に対する圧の掛け方ではないが。
『……じゃあ、まあ……貰おうかな』
大人げない俺の作戦はさて置き、これで当初の目的通り、ホシノに対してチケットを(半ば無理矢理とは言え)贈ることに成功した。
抽選券を見た時の目の輝かせようから察するに、アクアリウムにかなりの期待を抱いているようにも見えたホシノである──是非楽しんできてもらいたいと、俺は思った。
ロイたちも世話になっているしな。
『……先生。もう一つ、お願いがあるんだけど』
目的を果たし、最後に今回の仕事に対し労いの言葉をかけてから通話を切ろうとした時、そこでホシノはおずおずと、相当に遠慮しながら俺に訊いてきた。
お願い。
それはホシノの口からは滅多に発されることのないものである。
彼女の珍しい自主的な要望に、俺は一も二もなく頷いた。
「遠慮をするな。俺に叶えられるものであれば聞こう」
『えっと……その、もう一枚、買える?』
「それは構わんが……連れて行きたい奴がいるのか」
『うん。それで……どう? 大丈夫……かな』
これは私の我儘だから、無理なら気にしなくても良いよ、と。
遠慮気味に、ともすれば卑屈気味に言うものだから、俺は半分意地になって、なんとしても彼女の願いを叶えようと心に誓った。
実際、チケット代は高いとは言っても、それは贅沢としては一般的な額である──アビドス全校生徒(九人)を連れて行ったとしても、俺の懐が寂しくなることはないだろう。
今回の仕事も成功したことで、アビドスで浪費した額は回復しているしな。
そんな事を考えてから、俺は言う。
「構わない。お前への褒美だ。お前の行きたい者と行くと良い」
『わかった。じゃあ一緒に行こっか、先生』
「…………」
今回の教訓として。
俺が、精神構造の似ているホシノの言動を読めるように、ホシノもまた俺の言動を読めるということを覚えておかなくてはならない。
ともあれ、俺は次の休日、ホシノへの褒美として、アクアリウムへ行くことになったのだった。
002
そして休日。
アビドスから離れた場所にあるアクアリウムに、俺たちは訪れていた。
このアクアリウム自体が開場したばかりの施設であるため、人の出入りはそれなりである。
「うへー、ここがアクアリウムかあ。おじさんは田舎者だから、こういうところは見慣れないなあ」
いつも通りの調子を装いながら、しかし隠し切れない弾んだ声で言うホシノだった。
やはり相当に楽しみにしていたらしい、いつも眠そうにしている彼女の動きと比べて、明らかに素早いものがある。
「これ見て、パンフレットも貰ったよ。熱帯魚館に深海魚館、エサやりの体験館もあるみたい! へえ、イルカショーもあるし……ペンギン館もある。ここはきっと寒いんだよね?」
いつの間にか貰ってきたというパンフレットを広げて、地図を指差しながら矢継ぎ早に言葉を繰り出すホシノは、目を輝かせながら楽しそうに笑う。
「これ見て、先生! 海のトンネルだって! ジンベイザメもいるんだって! 鯨みたいなものかな……?」
「……まあ、似たような生態ではある」
俺は曖昧に答えた。
ここで正確に違うと否定するのも野暮だろうという判断である──ここまではしゃいでいる、いや、はしゃげているホシノに水を差すような真似はしたくない。
どうやら彼女は鯨が特にお気に入りのようだし──今までに何度か、鯨の豆知識のようなものを披露された覚えがある。
眠っている鯨は呼吸をしない、だったか。
「今日一日で全部見れるのかな……うーん、頑張らないと」
「……あまり時間を気にするな。時間に追われて楽しめなくては本末転倒だ」
「……それもそうだね。よーし、楽しもう〜!」
微笑ましい決意と共に、今までにないハイテンションのホシノに連れられて、俺はアクアリウムに入った。
熱帯魚館で色とりどりの魚を観た。
深海魚館でおどろおどろしい独特な魚を観た。
キヴォトスでの海の生態系を把握しつつ、俺たちはそして──このアクアリウムの目玉である、海のトンネルに到着した。
「へえ〜すごい。こんなところ初めて」
トンネル型の水槽。
周囲全てをアクリルにすることで、海の中に潜り込んだかのような景色になっている──海の底を歩いている感覚だ。
天井から差し込む陽の光が反射し、悠々と泳ぐ魚を照らすその光景は幻想的と表現しても大袈裟ではないだろう。
青い──青い。
「あれ見て! お魚! あははは、カワイイ!」
側を泳ぐ魚を見て、無邪気に笑うホシノだった──子供らしい、屈託の無い笑みだ。
もしかしたら、こちらの方が素なのかもしれない。
微笑ましい、光景だ。
「あ! あれが、鯨ってやつなの?」
鯨──いや、このアクアリウムには鯨はいないはずなので、(そもそも飼うこと自体が難しいはずだ)厳密に言えばジンベイザメだろう。
ホシノのお気に入りである鯨ではない、が、勿論そんなことは口にしない。
魚類と哺乳類、それぞれ最大の生物であることに違いはない以上、それは些細な問題だった。
そう、気にするべきは最大の生物であるということだ。
俺はホシノの声を受けて、そちらを見る。
巨大な影が、ホシノが指差した先──俺たちよりも高い位置を、悠然と、泰然と泳いでいた。
力強く。
羽ばたくように。
「────」
俺たちよりも上を泳ぐジンベイザメは、まるで空を飛んでいるようだ。
鯨と見紛うほどに巨大な生物が、優雅に泳いでいる。
端的に言えば──俺は、圧倒されていた。
その巨大さは勿論のことだが、しかし巨大というだけでは、ACをはじめとした十メートルを超える兵器と日々接してきた俺にとって、珍しい光景ではない。
ただ、その青に圧倒された。
悠々と、美しい青を泳ぐ、その姿に。
この世界の──青に。
海は青く、空も青い。
それは常識であり、当然と言えば──当然なのだが。
俺からすれば、
青い海を飛び。
青い空を泳ぐ。
それは俺にとって、想像を絶する──絶景だった。
「…………」
「先生がそんなに夢中になるなんて、意外だったな〜。海、好きなの?」
ホシノの問いに、俺は現実に引き戻される感覚を覚えた。
どうやら相当に魅入っていたらしい。俺が呆然としていたことが気になったのか、ホシノが側に近寄って、俺を見上げている。
「いや、海ではなく──青が、珍しくてな」
「青……どうして?」
俺は少し考えて、言うべきか悩み──ホシノには、伝えることにした。
勿論ルビコンの全てではない。
ただ、俺のことを多少は話すべきだろうと、そんな風に思った。
「……俺の世界では、ある物質によって汚染され、海が赤く染まっていた。どこまでも──何もかも赤かった。当然、空もな」
「……海が、赤い、かあ」
あまりイメージがし難いのだろう。
繰り返すようにホシノは呟いたが、いまひとつ理解が及んでいる様子はない。
ただ、俺の吐露をどう受け取ったのか、ホシノは問う。
「先生は、赤が嫌いなの?」
「……嫌い、ではないな。……ただ、苦手でもある」
「…………」
コーラルも、血も、赤い。
色として嫌いではないが……嫌な思い出が多過ぎるのが実情だ。
矛盾した言葉に、ホシノは何を思うのだろう。
何も言わない。
俺は海を見上げてから、言う。
「だからこそ、俺はこの青を──」
言いかけて、一瞬躊躇う。
らしくない事を言おうとしている気がして──ホシノが聞いている中、この歳になって抱く感想としては酷く単純で陳腐なものであるような気がしてしまって、しかし止められず、俺は言った。
「──美しいと、思う」
そう思ったのは──いつぶりだろうか。
こんな純粋な感想を覚えたのは、それこそ子供の頃以来かもしれなかった。
青。
透き通るような、青。
それから俺は、ふと思い出してホシノの方へ視線を向けた。
彼女の瞳の色を想起したのである。
「……ホシノ。お前の目も、青かったな」
「ああ……うん。片方だけね」
「良い色だ」
「……………………ありがとう」
その後、エサやり体験館、クラゲ館、ウミガメ館、グッズショップまで──アクアリウムのほぼ全てを歩き回り、アクアリウムを出た頃には日が沈み始めていた。
なかなか老体には堪えるハードスケジュールだったが、ホシノへの労いとしては十分なものになったのではないだろうか。
俺も──悪くないものを、見れた。
「……楽しかった」
ホシノがしみじみと言う。
心の底から溢したかのような言葉だった。
「記念品もこんなにたくさん買っちゃったし、うへへへ」
手首にグッズが入った袋を下げながら、愛おしそうに、ジンベイザメのぬいぐるみを抱いているホシノ。
子供らしい笑み。
これが──彼女のこの笑顔が。
俺が初めて守れたもの、なのかもしれない。
「ヘトヘトになるまで遊んだから、もう家に帰ったらそのまま倒れて二十四時間は寝れちゃいそう」
「……明日休んでも構わない。いや、むしろお前はもう少し休んだ方が良い」
「……うへへ。ありがとうね、先生。でも、大丈夫だよ」
本当に楽しかったから、と。
ホシノはにっこりと笑った。
「さて、じゃあそろそろ帰る? 一日歩き回ったのにまだ見てないところがあるなんて、なんだか残念だけど……まあ、頑張ってまた次も来たらいいし。ね?」
「……そうだな。それだけの価値がある場所だった」
次、か。
確かに、チケット代を考慮したとしても、あの景色を見ることができるのであれば個人的に来ても良いと思えるほどだ。
ただ──その前に。
「うへ。次はおじさんが招待するから、期待しててもいいよ、先生!」
ホシノが俺を招待してくれると言うのなら、それを待つとしよう。
稀にしか来れないからこそ、その価値は上がるというものだ。
「……楽しみにしておこう」
俺の返事に、嬉しそうに笑うホシノ。
この姿を見れただけでも、今日一日かけた価値があった。
費用対効果としては素晴らしいの一言である。
と、そこでホシノは──改めて俺の方を向いて、微笑んだ。
「……ねえ、先生。覚えててね。これも繋がりだから」
「…………」
ホシノは大人びた声で、言った。
それは、いつかの台詞である。
──先生も、繋がりを捨てないでね。
「約束だよ」
「……俺に約束を破られたばかりだというのに」
「ううん」
俺の言葉に、ホシノは首を振って否定する。
とても──嬉しそうに。
「先生は一度だって、約束を破ったことはないよ」
【挿絵表示】
想像以上の文章量になりました。
おかしい……俺はウォルターのせいで性癖がメコメコになる生徒が見たいだけのはずだったのに……と思いながら書いた絆エピソードですが、いかがだったでしょうか。
こんな感じで、基本的にはメモロビ周辺の話を組み合わせて、それっぽく書いていくつもりですが、キャラによって内容量やシリアス度は変わってしまうことはご了承ください。
それとすみません、もう一度アンケートをお願いします。
キャラアンケートを取ったは良いものの、ホシノとヒナは元々書くつもりではあったので、アンケートに入れるべきじゃありませんでしたね……。
というわけで、ホシノ、ヒナ、アル、アコを除いたアンケートにご協力お願いします。
ちなみに投票数の多いものが優先されるわけではなく、需要を参考とした上で、僕が実際に思いつけた物が形になりますので、そこはご了承ください……。
メニとロイは一応考えてはありますが、時系列的にまだだと思っていただければ……。
これからはTwitterで頑張って更新ツイートをします。あと途中経過とかも。→https://x.com/sousaku_yama49
pixivでも見れるようにしました。内容は一緒です。→https://www.pixiv.net/novel/series/11480308
絆ストーリーの見たいキャラ。
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アヤネ
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セリカ
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ノノミ
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シロコ
-
カヨコ
-
ハルカ
-
ムツキ
-
イオリ
-
チナツ
-
ヒフミ
-
ハスミ
-
スズミ