ハンドラー・ウォルター先生概念。   作:ヤマ

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 使命とは救いであり、呪いである。
 少なくとも、この男にとっては。


Vol.1 対策委員会編
1-1


 001

 

 揺れる。

 砂漠化が著しいアビドスの風は、空を飛ぶヘリの機体を激しく揺らす。

 それでもなお機体を維持し続ける生徒──連邦生徒会に用意されたパイロットは優秀なようで、揺れはするが制御を失うことなく、目的地への進みが緩まることは無い。

 この調子であれば、日が昇っている間に着けるだろう。

 

「……アビドス廃校対策委員会」

 

 懐から取り出した封筒に書かれた文字。丁寧で、それでいて整った文字は、当人の生真面目さが顕著に表れているようだった。

 二日前に受け取った手紙。

 シャーレに届く嘆願書類の選別をアロナに協力してもらい、なんとか二人がかりで書類仕事を目処が立つ程度まで片付けたところで、アロナが『不穏な手紙』と評して俺に見せてきたものである。

 俺たちがここ一ヶ月程度行ってきた『仕事』の評判もあり、手紙そのものは最近の書類仕事で珍しいものではなかったが、その内容が問題だった。

 端的にまとめれば、『学校が暴力組織に狙われている。支援をして欲しい』とのこと。そうなった経緯も複雑なようだ。

 手紙には書かれていなかったが、一番の問題は──

 

「……九億の借金か」

 

 アビドス高等学校。昔から砂漠化の一途を辿る地域を自治区とする小さな学校。何十年も前に起きた砂嵐による大規模な砂漠化、それを抑える資金確保のための借金。

 しかし毎年起きる大規模な砂嵐と膨れ上がる借金、そして流出する生徒により利息の返済さえままならないが故に、現在は廃校寸前となっている──と。

 そんな情報を『仕事』ついでに調べたところ把握できた。

 九億、つまり凡そ90000COAM。

 かつてルビコンで受けたテスターAC撃破依頼料が大体それくらいだったな──と物思いに耽ったところでこの世界にACはなく、物価は愕然とした差であり、何よりも俺の手持ちは消失、あるいは焼失している。

 あいつ(621)が使ってくれているなら、いいんだが。

 

「…………」

 

 見渡す限りの砂漠。

 先人から受け継がれた負の遺産。

 十代の少女たちが背負うには、あまりにも重過ぎる使命。

 この砂の中で耐え忍ぶ学校が九億の借金を返す目処などありはしないだろう──もちろん今の俺にそんな貯金はないし、生徒たちもまた同様に違いない。

 だからこそ、九億にまで膨れ上がったとも取れる。

 しかし、それでも。

 それでもきっと、アビドスの子供たちは()()()()()()()()()()

 

「……砂上の楼閣、か」

 

 調べた結果、何度かそう揶揄されていた学校。

 見放された区域。

 実現不可能な夢。

 砂塵の中、微かに見え始めたアビドス高等学校に対して俺が抱いた感情は、同情……いや。

 ()()か。

 ……押し付けがましく、未練がましい感情だという自覚はある。

 使命を果たせなかった男に共感されたところで、事態が好転するわけでもないだろうが──しかし俺は既に、この仕事を通してアビドスに協力してしまうことを半ば予想していた。

 先人の遺産を清算しようとしている子供を見過ごすことは、きっと俺にはできないだろう。

 俺のような大人を、生み出さないためにも。

 

 002

 

 アビドスにヘリポートがないことは確認済みだったため、グラウンドに着陸してヘリから降りると、桃色の髪をした低身長の子供を先頭に生徒四人が待ち構え、俺へ向かって視線を向けていた。

 視線どころか、今にも銃を向けてきそうでもあるが。

 

「どちら様かなー? 来客の予定なんてなかったはずだけど」

「……流石に手紙では間に合わなかったか」

 

 呟く。

 一応、二日前の時点で手紙を返送していたものの、やはり間に合わなかったらしい。本来であればメールや通信で赴く一報を入れてから動いているが、手紙に連絡方法が何一つ記されていなかったため、同じ方法で返すしかなかったとも言える。

 ちなみに通信はアビドス生徒会の番号が連邦生徒会の記録に残っていたものの、繋がらなかった。

 使われていない──わけではなさそうだが、詳細は分からない。

 

「ちょっと、訊いてるんだから答えなさいよ」

「ああ──すまない。挨拶が遅れた。連邦捜査部『シャーレ』の顧問、ウォルターだ。支援要請をしたのはお前たちで合っているか」

 

 俺の返事が遅れたせいだろう、急かすように黒髪の……なんだそれは、耳か? 獣のような耳を頭部に生やしている少女に訊かれ、最近ようやく慣れてきた挨拶を口にした。

 ……この挨拶に慣れる度、ハウンズとの記憶が薄れていく──ことは絶対にないが、いずれ()()なってしまうかもしれないことを俺は恐れている。俺は存外、記憶の蘇るトラウマじみたフラッシュバックを期待しているのかもしれなかった。

 

「……顧問?」

「……えぇっ!? まさか!?」

「連邦捜査部『シャーレ』の先生!?」

「わあ☆ 支援要請が受理されたのですね! 良かったですね、アヤネちゃん!」

「はい! これで……弾薬や補給品の援助を受けられます。あ、早くシロコ先輩にも教えてあげないと……あれ? シロコ先輩は?」

「先輩はまだ来てないよ。そろそろ帰ってくると思うけど……」

 

 俺の身元が発覚したことにより、四人の、いや、先頭にいる小柄な少女以外の警戒が解ける。

 ……毎度思うことだが、この世界において『先生』とは果たしてそこまで信用のおける役職なのだろうか。名前を聞くだけで警戒を解くなど、無防備にも程がある。

 そう言った点で言えば、この小柄な少女は。

 雰囲気こそ先程より緩和したものの、警戒は怠っていない。何より瞳の奥に敵意を感じる──が、それも一瞬の事で、すぐにふにゃりとした雰囲気を纏い、眠そうな、それでいて朗らかな声で俺に言う。

 

「先生だったんだ〜。よろしくー。むにゃ」

 

 演技か、本質か。

 それを見抜けるほど俺は人心に長けているわけではないし、感情の機微に敏いわけでもない。

 ……ただ、睡眠不足なのは間違いなさそうだ。微かにだが隈が見える。そして少女に纏わりついているであろう眠気は恐らく、慢性的な睡眠不足によるマイクロスリープなのだろう。

 ……身長が他の生徒に比べ低いのはそれの影響だろうか。てっきり先頭にいるものだから三年生かと思ったが……もしや一年生なのだろうか。

 

「あ、噂をすれば」

 

 獣耳の少女が口にした瞬間、校門から飛んでくるように白髪の少女(これまた獣耳だ、この地域に多いのか?)がロードバイクでグラウンドに突っ込んできた。

 ぎゃりぎゃりと地面をドリフトしながら砂埃を巻き上げて到着した少女は、きょろきょろと一通り俺たちの様子を見た後、ロードバイクに跨りながら俺の方へと向き直った。器用なものである。

 

「ん、誰?」

 

 俺たちが一触即発の空気ではないことを確認したようで、どこか安堵した様子で訊いてきた。

 

「……連邦捜査部シャーレの顧問、ウォルターだ」

「先生。なるほど」

 

 納得したように頷く白髪の少女だが、いくらなんでも警戒を解くのが早過ぎる。

 ここまであっさり信頼されてしまうと俺の精神が持たない気がした──疑われ続けた方が、はっきり言って楽だ。

 故にこそ、小柄な少女からの警戒が残っていることに安心できるような気さえする。

 

「……空輸で物資を持ってきた。こちらの判断で必要な物資を予想して持ってきたが……足りないものがあれば言え。時間はかかるだろうが、準備しよう」

「おー、太っ腹。確認していい〜?」

「構わない。むしろ、手伝ってくれると助かる。……悪いが、こんな足なんでな」

「ん、大丈夫。早速やろう」

 

 小柄な少女は俺を一旦味方として扱うようにしたようだ。支援を受けられるなら受け取っておいた方が得だと判断したのだろう。

 そして小柄な少女が動き出せば、残りの四人も積極的に動き出したのを見るに、やはりあの子がまとめ役なのかもしれない。

 

「凄い量……これだけあれば数ヶ月は持つかも……!」

「質も悪くないね。むしろいつもよりいい」

 

 ……この物資で数ヶ月持つなど、一体彼女たちはどれくらい切り詰めて戦闘を行なっていたのだろうか。

 今回の支援物資の内容は、学校を守る防衛戦になることを想定し、質よりも量を優先して持ってきたつもりだったが、それでも質が良いと感じるのは……やはり借金が関係しているのだろう。アビドスは物資にまで影響のある切り詰め方をしているようだった。

 

「良かった、これだけあれば、カタカタヘルメット団からも学校を守れま──」

 

 各々が物資を確認し、その内容に問題がなかった事を確認した眼鏡の少女が喜色に満ちた声を上げた、その瞬間である。

 空気を劈く炸裂音が鼓膜を叩く。

 聞き慣れた音──人の命を奪う音だ。

 

「じゅ、銃声!?」

「ひゃーっはははは!」

「攻撃、攻撃だ! ヘリから物資を奪え! 襲撃せよ! 学校を占拠するのだ!」

 

 校門の方角を見れば、妙なヘルメットを被った──見えづらいがヘイローが微かに見えるので、やはり生徒なのだろう。いや、この場合は不良と言うべきか、とにかく、味方とはとても思えない言動で校舎へと向かってくる。

 なるほど。あれが暴力組織か。

 

「武装集団が学校に接近しています! カタカタヘルメット団のようです!」

「あいつら……! 性懲りもなく!」

「ふぁあー……むにゃ。おちおち補給もできないじゃないかー、ヘルメット団めー」

「すぐに出るよ。先生のおかげで、弾薬と補給品は十分」

「はーい、みんなで出撃です☆」

 

 敵襲を察した四人は、それぞれ武器を──盾にショットガン、ガトリング、アサルトライフルを構え、迎撃に打って出ていく。

 防衛戦の心得はあるようで、一切の乱れなく戦場へ走って行った。

 

「私がオペレーターを担当します、先生はこちらでサポートを!」

 

 眼鏡の少女が庇うように前に立ってそう言うが、俺がここからできる支援は限られている。何より四人が既に配置についているため、指揮をして作戦を今から変えるのは逆効果だろう──ならば。

 

「……メニ」

『どうしましたか、先生?』

 

 連邦生徒会から派遣されたパイロットに通信を繋げる。流石に慣れているのか(慣れているのもどうかと思うが)、特に慌てた様子もなく、ヘリを稼働させている。

 

「追加の仕事だ。報酬は今回の額に倍出そう。どうだ」

『いいですよ。何します?』

「上空から四人の援護射撃を。集団後方ならミサイルを撃っても構わん。撃墜されないようにな」

『了解です。んじゃ、行ってきますね』

 

 返事と共に砂埃を巻き上げて離陸するヘリを横目に、俺はシッテムの箱を起動する。

 今回、俺は作戦の指揮は最小限に──少なくとも、最初のぶつかり合いに指示を出すことはしない。多少落ち着いてからの方がいいだろう。

 まず俺がやるべき事は妨害だ。

 

「アロナ、敵の通信網のハッキングを頼む。俺はそれまでに通信遮断と傍受の準備をしておく」

『了解です、ウォルター先生!』

 

 この一ヶ月での『仕事』をした結果、ハッキング系統はアロナに一任した方がいいと俺は結論付けていた。

 速いという表現では()()()()程に、アロナは既存AIのスペックを遥かに凌駕している。しかもハッキングの対象は、敵施設や設備に限らず行える無法振りだ。

 準備なく情報を残さずにハックを行うなど、カーラにも難しいだろう。

 その強みを活かさない理由はない。

 

「──仕事を、始めるぞ」

『おちゃのこさいさいです! うへへ、やっちゃいます!』

 

 ……最近、ハッキングの腕を嬉々として振るうアロナの将来を、俺は若干心配したのだった。
















 原作沿いですが、なぞるだけになっちゃいそうな描写は極力省くつもりでいます(限界はあると思いますが)。戦闘描写も、必須でない限り描写しないと思います。
 ご了承ください。
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