ハンドラー・ウォルター先生概念。 作:ヤマ
最後に人を動かすのは、感情だ。
003
「ゲーム開発部を利用するわ」
リオとヒマリの依頼を正式に受けた後、では実際にどうするのか、と作戦内容を詰めるべく俺が問うと、リオは無感情に言った。
冷静、と言うよりは冷徹な声で。
「あくまでも偶然を装うのよ。ミレニアム自治区とは言え、かつて連邦生徒会が管理していた土地に眠る『何か』を手に入れるために、セミナーが直接行動した、という話は外聞が悪いわ」
「……同意するのは業腹ですが、リオの言う通りでしょう」
本当に──本当に、同意することが心底嫌でしょうがないと分かる表情で、ヒマリも賛同した。
どれだけ嫌っているのだ、リオのことを。
しかし、そんな風にヒマリに言われても、リオはまるで動じることなく話を続ける──あるいは、ヒマリはリオのこういうところが苦手なのかもしれんと、少し思った。
「そうなった場合、ゲヘナやトリニティも余計な警戒を抱くでしょう──故に『あくまでもセミナーの指示を聞かなかった生徒が勝手に動いて』、『シャーレの先生を呼び出して廃墟に行き』、『偶然そこで何かを見つけて持ち帰り』、『仕方なくセミナーが回収した』という筋書きに収める必要がある」
「……障害が多いな」
俺は言う。
改めて聞くと、かなり不確定要素の多い作戦だ。
裏で手を引くことはできても、作戦の要である俺と共謀しようとも、何も知らない子どもを思い通りに誘導できるとは限らない。
彼女たちの言うゲーム開発部はどうやら幼い少女たちのようだが、だからこそ、制御するのは難しいだろう。
「俺が廃墟に向かうことはできるが、その呼び出しとやらはゲーム開発部が自主的にやらなければ疑われるぞ」
「ええ──
なんのことはない、とでも言うように、リオは作戦を語る。
やはり無感情に、無感動に。
「そもそも彼女たちは、あまり精力的に活動している部ではない。部員数すら足りていない。……ユウカはある程度見逃しているようだけれど」
「ゲーム開発部は活動実績がほとんどなく、開発されたゲームは今まででたった一本だけ。しかも致命的な出来の悪さで、その年の『クソゲーランキング』一位を獲得したほどです」
あれはあれで面白かったですけどね、とヒマリは言う。
どうやら彼女はプレイしたらしい。言い方からして、明らかに理解不能な観測対象を見た時の感想だったが。
リオは……まあ、やっていないだろうな。
「他にも問題行動は多々あるわ──むしろ何故今まで廃部にならなかったのか不思議なほどにね」
「…………」
後から知ったことだが、ユウカがかなりゲーム開発部の面倒を見ていたらしい。
……もともと、シャーレに来て財政を把握しようとするほどに面倒見の良い彼女である。それは当然のことと言えたが、場合によっては、駄目な男に引っかかりそうな典型的な性格のようにも思えた。
金の管理が得意な少女なので、尻に敷く方になれば良いのだが。
「これらの理由から、まずはゲーム開発部に廃部通告を言い渡すわ。『ミレニアムの予算削減のため』と言えば、正当性としては十分。本来ならばそれで部活は終わりなのだけれど……きっとユウカは、多少の猶予を持たせるはずよ」
「…………だろうな」
ユウカの普段の言動を思い出しつつ、首肯する。
流石にミレニアムの会計である以上、ケーキを渡せば許してくれるような甘さは無いだろうが、彼女ならば『ここまでに何かしらの成果を出せば今回は見逃してあげる』と言いそうな気がしてならない。
ある意味それも、優しさと言うよりは甘さだが。
「活動していない部活を生かし続ける意味は無い──何もしない部活に存在意義は無いわ。ミレニアムは『結果』が全て。そこまで追い込めば、彼女たちは廃部阻止のため、自主的に動くでしょう」
「彼女たちを追い込むのはかなり心苦しいですが……これもあの子たちのため、少し頑張ってもらいます」
「…………」
ゲーム開発部に対し、リオは特別何の感情も抱いていないように見えるが、逆にヒマリは妙に保護者じみているのが少し気になった。
多少なりとも関わりがあるのだろうか。
まだゲーム開発部に実際に会ったわけではないが、ヒマリの言動や彼女たちの扱われ方を聞く限り、どうやらゲーム開発部の少女たちはかなり精神年齢の幼い子どもたちのようだ。
……いや、違うか。
むしろ、適切な精神年齢と言うべきなのか。
リオやヒマリ、ホシノやヒナのような、今まで出会ってきた子どもが異常に大人びているだけであって、本来は生意気な子どもであるはずの年齢である。
十代の子どもなど、責任という言葉を表面上でしか知らないような、そんな子どもであるべきで──そしてミレニアムには、そんな子どもがいるというだけの話だろう。
喜びこそすれ、悲観するようなことではない。
「そして最後に、私が彼女たちに『G.Bibleが廃墟にあるらしい』という情報を流します」
「……『G.Bible』?」
「ええ。何でも伝説のゲームクリエイターがつくったプログラムで、最高のゲームを作る秘訣が書かれているそうですよ?」
これが廃墟にあると知れば、ゲーム開発部は喜び勇んで廃墟に行くだろう、とヒマリは言うが、しかし……いくら切羽詰まっているからと言って、そう簡単に動く少女たちなのだろうか。
いや、そもそも。
「……そんな都合の良いものが実在するのか?」
「さあ、どうでしょう。廃墟に誘導するための噂なのでそこまでは……」
「…………」
実在するかどうかも分からない謎のプログラムを、ゲーム開発部は廃墟まで探しに行くのだろうか。
そして、そのために俺に頼るのだろうか?
「……正直に言わせてもらえば、随分と無理のある作戦だ。あまりにもゲーム開発部の行動が読めなさ過ぎる。彼女たちが勝手に廃墟に行ってしまう可能性は、どうしても否定し切れない」
「いえ、それに関しては問題ないわ」
俺の疑念を払拭するかのように、リオは断言した。
あり得ない、とまで言い放ちそうな口調で。
「……何故そこまで言い切れる」
「廃墟には多くのロボットが残っているのよ。連邦生徒会が残した兵力というわけではなく、元々廃墟はオートマタが巡回しているような場所なの。連邦生徒会が撤退した今、ゲーム開発部が単独で潜入できる場所ではなくなっている」
「……だから、俺に頼ると?」
それこそ怪しいものだがな。
子ども故の無謀さと言うのは計り知れない──仮に戦力を冷静に判断できるのであれば、そもそもミレニアム内で助力を求めるのではないだろうか?
「それもないわ。彼女たちは友達が少ないもの」
「リオと同じですね」
「…………」
やや配慮に欠けるリオの言葉に、ヒマリの容赦無い返しが飛んできた。
まるで『私は違いますが……』と声が聞こえてくるようでさえあった。
そんなヒマリの挑発じみた言葉を、リオは相変わらず無表情で受け流す──かと思われたのだが、意外にも少し、いや、かなりの間沈黙してから。
「…………今は関係の無い話よ」
と、やや気まずそうに呟いた。
……否定はしないらしい。そしてその反応を見る限り、リオは友人が少ないことを多少は気にしているようにも見えた。
冷徹な印象の彼女だが、感情が無いわけではないらしい──当たり前か。
比較してしまえば、むしろリオは感情豊かとさえ言えるだろう──他人から見れば変化のない表情に見えても、感情の死んだ表情を見続けてきた俺にとって、リオの表情は手に取るように分かるのだから。
「…………」
ともあれ。
まあ、リオと性格の似ている俺も友人が多いタイプではないので、予想通りと言えば予想通りである。
そして今の話に関係ないというのもまた事実のため、俺はその部分については掘り下げず、話を戻すことにした。
「つまり、ゲーム開発部は廃部を撤回するべく廃墟に向かおうとするが、友人が少ないため頼る相手がおらず、最終的にシャーレを頼るだろう──という解釈で良いか」
「……ええ、その通りよ」
「…………」
今の下りに全く触れずに話を戻したことに、リオは少し安心した様子を見せ(と言ってもほんの僅かだが)、反対にヒマリはつまらなさそうに俺を見た。
ありありと不満が見える。
恐らくヒマリは、リオの友人の少なさについて俺が言及することを期待したのだろうが……生憎俺はそんな気の利いた男ではないし、優しくもない。
何より──友人が
少なからず
俺がそれ以上求めることは、ない。
「……ヒマリ」
「はい?」
「お前がリオの友人なら、仲良くしてやれ」
「は、はい? 私はこんな下水道に流れる水のような性格の女と仲良くするつもりなんてありませんが……」
「…………」
酷い言いようだった。
しかしそれでも、友人ではない、とまでは言わない辺り、ヒマリも相当拗らせているな。
まあ、互いに互いを憎み合っているような関係でないだけ健全である──と、思ったところで、
「……そうね。仲良くする必要なんてないわ」
という、リオからまさかの同意が入った。
本来ならばヒマリへ反論するところだと思うのだが、リオの価値観で言えば、今回の作戦を実行するにあたって仲の良さは不要である、ということらしい。
……合理的、か。
理解はできるが、この娘はどうも極端だ。
「……リオ、先生がいる手前黙っていましたが……その考え方、相変わらずのようですね。そこは表面上だけでも繕うところでしょう?」
「ここで取り繕うのは無意味よ。それに先に拒否したのは貴女でしょう、ヒマリ」
「あれは清楚系病弱美少女の軽い冗談です。そもそも、今回の作戦についても私はまだ納得していません。無関係なゲーム開発部を利用するなんて、本当に性格が悪いですね?」
「……前に説明したはずよ。ゲーム開発部が『何か』を持ち帰ることができたら、それをミレニアムへの貢献として認め、実績とする。この作戦が成功すれば、彼女たちの廃部はしばらく免れる──それで貴女も納得したでしょう」
「それはセミナーの事情であって、この件に巻き込むのは──」
「一度合意した話を蒸し返すのは非合理的よ、ヒマリ」
「…………」
黙殺するようなリオの一言に、ヒマリはじっと俺に視線を移した。
まるで『リオはこういう女なんです』とでも言いたげな表情だ──その表情から察するに、今の言い合いはリオの『合理性』を引き出させ、俺に聞かせるための会話だったのかもしれない。
そんな主張をされたところで、俺にできることなど無いのだが。
俺から言わせれば、両者二人とも言動に問題がある──リオは極度の合理的思考により人間の感情を軽視し過ぎており、ヒマリは個人的感情でリオを攻撃し過ぎだ。
まあ、歩み寄りが必要なのは、どちらかと言えばリオの方ではあるのだが……かと言って、すぐに直せるようなものでもないだろう。
なんにせよ、今は二人の仲を取り持たねば更に話が拗れる気がしたので、俺は仕方なく助け舟を出した。
「……リオ、ヒマリ。言いたいことは多々あるが、取り敢えず……依頼人の前で言い争うのはやめておけ」
「……そうね。謝罪するわ、先生」
「……はい、すみませんでした」
俺の苦言に、思いの外素直に謝罪する二人だったが、しかしそれは俺に対してだけであって、お互いには謝らなかった。
両者譲れない一線があるらしい。
……どうやら俺は、依頼とは別に、彼女たちの確執をどうにかして解消しなければならないようだ。
無論二人に頼まれたわけではないが、しかし、顔を合わせる度にこうも険悪なようでは、俺の作戦行動や進捗に影響が及びかねない。
そして、何より。
何よりも。
友人の仲が悪いというのは、少し──寂しいものが、ある。
老人の戯言だが。
「それと──為政者ならば一つ覚えておけ、リオ」
「……? 何かしら」
そんな戯言ついでに、俺はリオにお節介とも言える助言を送ることにした。
とは言え、大した助言ではない。
言ってしまえばこれは、俺に似た彼女が──俺と似たような選択を取りかねない彼女が、俺と同じ過ちを繰り返さぬように、という身勝手な願いでしかないのだから。
「人は、合理だけでは動かない」
俺はルビコンでの出来事を思い出しながら、言う。
宇宙のために惑星を焼く覚悟をもっていたとしても。
友人の遺志を全うするため、何もかも犠牲にしてきたのだとしても。
俺は結局、最後に621を撃たなかったのだ。
撃たないことを──自らの意志で、選んだ。
それはあまりに、非合理的な行動である。
「…………」
リオは、何も言わなかった。
返事も、同意も、反論も──何も。
004
そして現在、俺はロイを連れて、ゲーム開発部の依頼を(表向きは)受けるために、ミレニアムまで足を運んでいた。
ユウカから話をよく聞いていたミレニアムだが、実際に訪れるのは(表向きは)初めてである。
その街並みは、公的に最新鋭、最先端を謳っているだけあって、駅から少し歩いただけでもその発展具合は凄まじい。
移動手段の整備はもちろんのこと、道路の舗装、建造物の状態からしても、管理が隅々まで行き届いているのが分かる。
今まで訪れた学園のアビドス、ゲヘナ、百鬼夜行と比べてしまうのは筋違いだとは分かっているが──そしてそれを悪いと評するつもりはないが、しかし、他の学園とは一線を画す技術力を感じさせた。
「……なーんか、凄いとこに来ちゃったな」
そんなミレニアムの景観を見てか、ロイが呆然と呟く。
シャーレのあるD.U.地区もそれなりに整った場所だが、アビドスと行き来することの多いロイからすれば、ミレニアムという場所は別世界に感じてしまうのかもしれない。
地続きの世界であっても、環境が違えば世界が違うように見える。
それは世界の広さとも言えるだろう──そして、それこそが彼女の選択肢の広さでもあるのだ。
この経験が、彼女の『知ること』に繋がっていることを願いつつ、俺はひとまずユウカに到着した旨を伝え、彼女の指定する校舎の前で待つことにした。
ちなみに、既に裏ではアロナを介した暗号通信でリオたちには報告している。
「……校舎なのか、これ」
そうして到着した校舎の前で、再びロイが感嘆とした声で呟いた。
ロイの感想は無理もない。何せ、学園という便宜上『校舎』とは称しているものの、目の前にそびえ立つ建物はほとんどビルなのだから。
三大学園と言うよりは一企業の様相である。
ビルを観察すれば、高所にはいくつか清掃用ドローンが浮いており、窓の掃除をしている様子も確認できた──あのようなドローンが稼働している技術力があるならば、エンジニア部にも期待ができると言うものだ。
と。
「な、何してるのお姉ちゃん!?!」
唐突に、ビルの……三階あたりからだろうか、少女の大声が響いた。
それから更に、俺たちが眺めていたビルの窓から──正確に言えば、声が響いたであろう三階の窓から、何かが放り出されたのが見えた。
黒く、四角い物体である。
物理法則によって徐々に落下速度を上げているそれは、残念なことに、間違いなく俺のいる場所へと落下してきているらしい──予測できた以上、今すぐに回避行動を取るべき状況である。
俺がシッテムの箱を持っていないのなら。
『安心してください、ウォルター先生! 例えミサイルが落ちてこようとも、このスーパーアロナバリアは何物も通しません!』
えっへん、と落下物を観測したアロナは、嫌に具体的な例を出しつつ言った。
……例え大丈夫であろうとも、俺はミサイルが落ちてくるような現場にいるべきではないのだが……まあ、キヴォトスでは──と言うよりも“先生”という役職においては、その限りではないのだろう。
今後にやや不安を覚えつつ、俺は杖を盾のように構える。万が一アロナが防げなかった場合でも頭部を守るためだ。
銃弾を防ぐアロナの防壁を前に、それはやや過剰反応ではあったのだが……やはりと言うべきか、それさえも無用の心配だった。
アロナの防壁が全てを弾く──前に。
「────」
隣にいたロイが素早く拳銃を抜き、上空の物体に向かって発砲したのである。
慌てた様子もなく、躊躇いもなく。
その冷静な対応に少なからず俺が驚いている間に、放たれた弾丸は見事に飛来物に命中した。
めきゃ、と。
明らかに破損した音が聞こえ、四角の物体は衝撃により空中を回転すると、落下のベクトルを大幅に変えて俺たちより数メートル離れた場所に落下した。
物体が破損して宙に散った破片も俺に届かないよう盾で弾き切り、俺の怪我がないことを確認して一息ついたところで、ロイは。
「……あっ、やべ」
撃っちゃった、と。
ばつが悪そうな顔で俺を見た。
俺に叱られるかもしれないとさえ思っていそうな表情である。
「…………」
しかし俺は、ロイが『飛来物を正確に撃ち抜く』という技術を見せたことに驚きを隠せなかった。
成長が著しいとは感じていたが……まさかここまでとは。
「……腕を上げたな、ロイ」
「……え? あ、ああ、うん。ありがとう……?」
「射撃精度が以前よりも上がっている。誰かから師事を受けたのか?」
「いや、そうじゃない、けど……ああ、そっか」
褒められたことが不思議でしょうがないといった様子のロイだったが、銃の射撃が上達した心当たりはあったらしく、俺の疑問に答えた。
「ほら、ビナーを誘導した時。バギーの運転を任せて、飛んでくる瓦礫とかを盾で弾いて守ってたけど……そん時、ついでに銃撃って勢い殺してたりしてたから、かな? 多分だけど」
「…………なるほど。良い経験になったようだ」
俺は、あの作戦を思い出しながら言う。
ビナーへの攻撃役はホシノたちに任せ、ロイや元魑魅一座たちには前準備や後方支援を担当させていたのだが、それが功を奏したらしい。
忌むべき負の遺産ではあったが、彼女にこれだけの成長をもたらしてくれたことには感謝するべきだろう。
二度と現れてほしくないが。
「あああっー!!? 私のプライステーションがあああああ!!?」
と、俺がそんな風にロイの成長を噛み締めていると、落下して破損した物体のそばに、いつの間にか金髪の少女がいた。
猫耳のカチューシャを付けた、小さい子どもだ。
見るも無惨な姿になった物体を前に(破損して露出した基盤を見る限り、どうやら精密機械らしい)、世界の終わりの如く地に項垂れている。
「わ、私たちの財産リスト第一号が……」
そして同じように、その少女の後ろで愕然とした様子の
猫耳のカチューシャを付けた、金髪の少女。
よく見ると、二人は自身の瞳の色に合わせた桃色と緑色の服を着ているようだ──服の揃え方、そして似た容姿を見る限り、二人は姉妹なのだろう。
「こ、こんな酷いことをしたのは誰!?」
「あぁ?」
ばっ、とこちらを見た桃色の服を着た少女の言葉に、ロイは明確に怒りを含んだ声を返した。
少女からすれば、銃痕がはっきりと残っている精密機械を見た瞬間に、銃を構えたロイが下手人であることは簡単に推測できたのだろう。
逆にロイは、窓からそれなりの重量である物体を投げ、しかもそれが俺に当たりそうだった、という事実に少なからず怒りを覚えているらしい。
「──先生、お待たせしまし、た……?」
『──先生、清掃ドローンで貴方の姿を視認したわ』
一触即発とも言えるタイミングで、ユウカと──そしてシッテムの箱を介した俺にだけ聞こえる通信で、リオが声をかけてきた。
ビルのエントランスから出てきたユウカと、先程まで窓の清掃をしていたはずのドローンが俺を見ている。
「えっと……どういう状況ですか?」
『……現状の説明をしてもらえるかしら』
「……俺に訊くな」
状況としては最悪である。