ハンドラー・ウォルター先生概念。   作:ヤマ

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 貴方は、生徒を見ているようで、見ていない。



1-14

 

029

 

「ヘ、ヘルメット団……!? どういうことですカリン、応答を!」

「ビルの屋上に、どうして……?」

 

 何が起きているのか。

 通信機から聞こえた言葉を、俺は一瞬理解できなかった。

 否、理解できなかったのではない。幻聴だと思って──都合の良い夢だと思って、己の耳を疑ったのだ。

 だが、現実だ。

 事実は変わりようもなく、()()()()()()がここにある。

 

「そうだ──」

 

 俺は幻視する。

 かつての猟犬──渡鴉となった621の片鱗を、彼女に見出す。

 彼女にそうであって欲しいと願う未来への第一歩を、俺は今、目の当たりにしている。

 

「それで良い、ロイ……!」

 

 こうなってしまえば、俺の命令無視など些事である。

 今回の責任などいくらでも取ろう。

 彼女が自ら考え、友人を救うことを選んだ事実こそが、何よりも重要なのだ。

 621と同じように──ここが始まりとなるだろう。

 ならば、俺はあいつの選択を、その意志を。

 無駄にしてはならない。

 尊重しなければならない。

 

「モモイ、ミドリ! 今です!」

「あ、アリスちゃん!? どうしてここに!?」

 

 そして、本来であれば一人で保管庫へ向かっているはずのアリスが、俺たちの前に現れた。

 光の剣による援護は、遠距離からではなく、彼女がここにいるからこそできる芸当であることは勿論、分かってはいたが。

 合理的ではない、予定とは違う行動を取るアリスは、その行動に一切迷いを抱いていないように見えた。

 

「……生徒会の差押品保管所に向かう途中に、考えていました。『ファイナルファンタジア』、『ドラゴンテスト』、『トールズ・オブ・フェイト』、『竜騎伝統』、『英雄神話』、『アイズエターナル』……そして『テイルズ・サガ・クロニクル』」

 

 思いを馳せるように目を瞑り、アリスはゲーム名を羅列する。

 恐らく、あの夜にプレイしたゲームの数々なのだろう。それら全てが、彼女の心の中に刻まれたようだった。

 

「どんなゲームの中でも、主人公たちは……決して、仲間のことを諦めたりしませんでした。そして、仲間たちも、主人公のために戦い続けていました。離脱した仲間もそうです。きっとロイも、戦っています」

「…………」

 

 作戦前に、ロイがこの作戦に参加できないことを俺は彼女たちにあらかじめ伝えていた。角が立たないよう、あくまでも『別の仕事』による離脱だと説明していたが、アリスはそれでもロイを信じていたらしい。

 ロイならば、友人のために戦うはずだと。

 俺でさえ知らなかったロイの独断行動を、アリスは確信を持って言い切ったのだ。

 

「なので、アリスもそうします! 試練は、共に突破しなくては!」

 

 仲間のため。

 友人のため──か。

 およそ合理性は無い。だが、621が俺を裏切り、ザイレムを落とした理由も、きっとアリスと同じ理由なのだ。

 世界にとって正しいかどうかではなく、自分がそうしたいから動く。

 そして──俺もまた、そうなのだろう。

 友人の遺志を果たしたいがために、正しさを捨て、俺は使命を全うした。

 宇宙のための選択と言えば聞こえは良いが、実情として、俺は今を生きる人間よりも友人の遺志を優先しただけとも言える。

 友人のために、ありとあらゆるものを犠牲にした。

 私情、である。

 ならば本質的には、何も変わらないのかもしれない。

 

『…………』

 

 リオは、アリスの不可解な行動を見ても、沈黙を保ったままだ。

 本来の目的よりも仲間を優先し助けに来る姿は、リオにとってどう映っているのだろう。

 どのように──見えているのだろう。

 

「くっ、マズいですね……!」

「あはは、面白くなってきたね! けどまだ身体がビクンビクンしてて、まともに立てない!」

「アスナ先輩、それ本当に痛がってます……? それより、カリンの狙撃が止まっているということは、やはりあちらでも……」

「っ、後にして、逃げられる!」

 

 アリスの援護射撃を受け、俺たちが撤退しようとしていることに気付いたユウカとC&Cたちは、それでも追い縋ろうと態勢を立て直している。

 ……未だにアスナが戦闘不能なのは救いだな。あの超直感とでも言うべき能力を前にしては、作戦が瓦解しかねない。

 彼女が動けない内に逃げの一手を打つことが、俺たちにとっての最善だろう。

 

()()()()()()()──悪いが、逃げさせてもらう」

 

 これ見よがしに俺はそう言って、制御を奪ったロボットをアカネたちへ向かわせようとしたが、しかし言うことを聞かず、銃の照準を別の標的へと向けた。

 そのまま、数十体の戦闘ロボットたちはそれぞれに互いを標的を変え、ほぼ同士討ちのような形で争い始める。

 まるでバグを引き起こされたかのような惨状だが、セミナーに制御を奪い返されたわけでもないようだ。

 これは……暴走か。

 

『これ以上は過干渉よ、先生』

 

 諌めるようなリオの通信だった。

 どうやら、彼女が俺の制御を奪い取ったらしい。

 年端もいかぬ少女に、ロイの行動に気を取られたとは言え、電子戦に敗れたという事実は、俺の未熟さを如実に表していた。

 ……不測の予測、か。

 これでは621に助言もできんな。

 

「今度は暴走……!? 何が起きて……先生!?」

「……ユウカ。今回の件について抗議をするのであれば甘んじて受け入れよう。それと……修理費や弾薬費は俺に回しておけ」

「そ、そういう問題じゃ──」

「残念だが時間だ。また会おう、ユウカ」

「ちょ、ちょっと待っ──きゃあっ!?」

 

 暴走したロボットは派手に暴れ回り、もはや敵味方の区別なく銃を乱射している。

 予定とは大きく変わってしまったが、この混乱に乗じて撤退することは容易だろう。

 俺とユウカが会話している間にアリスたちは見事に逃げおおせたようなので、俺の役割は既に果たされたと言える。

 そうして、派手な戦闘音を背に悠々とその場から去り、アリスたちが先に向かったであろう差押品保管庫へと俺は歩を進めた。

 もはや敵影は無い。

 故に障害も無い──はずだった。

 だが、その少女は。

 保管庫へと繋がる道の途中で、壁にもたれかかって俺を待っていたのだ。

 

「よぉ──あんたが“先生”か?」

「…………美甘(みかも)ネル」

「はっ、挨拶は必要ねぇみたいだな」

 

 今作戦に参加していないはずのC&C、最強のエージェントと呼ばれている赤毛の少女は、大胆不敵にそう笑った。

 

 030

 

「……随分と手こずったが……ここまでみたいだな」

「っ……」

 

 結論から言うと、あれから私は、本気を出したカリンさんに手も足も出なかった。

 ウタハさんは『雷の玉座』?という発明品、通称『雷ちゃん』を使ってかなり奮闘していたけれど、それでもC&Cを相手取るには少し厳しかったようで──いや、それよりもたぶん、支援の閃光弾を読まれたのが痛かったのだろう。

 相当痛い一撃を貰ったらしく、 ウタハさんは意識はあるものの動けないでいた。

 視覚に頼らない狙撃という、曲芸じみた真似をされてはお手上げである。

 サホは既に建物を特定されてしまって、カリンさんが私たちや『雷ちゃん』を盾にするように位置取っているため手が出せないし、もう一人のエンジニア部の人も同様、私たちが近過ぎて手が出せないみたいだ。

 ちなみに、私は私で普通にぶっ倒れている。

 結構人読みで避けはしたものの、ヘルメットを庇うのには限界があったし、盾が完全に破損したあたりから作戦は崩壊していた。

 まあ、あの盾使い捨てだしな。

 そもそも何で私は頭部を守るヘルメットを庇いながら戦っているんだろうと疑問に思い始めた時、避けきれなかったダメージでぶっ倒れたという経緯である。

 ……格好悪い。やっぱり無謀だったかな。

 

「取り敢えず、ヘルメットは取らせてもらうぞ」

 

 そう言って、完全勝利を収めたカリンさんは当然の権利のように私のヘルメットに手を掛けた。

 ヘルメットを銃弾で砕こうとしないあたり、なんか最初より優しくなってる気がする、なんて場違いな現実逃避をした私の素顔が晒されようとした──その瞬間。

 

「はい、そこまで」

「──ッ!?」

 

 ひた、と。

 カリンさんの背後から抱きつくようにして、肩に顎を乗せて耳元で囁くように彼女を止めたのは、なんとメニさんだった。

 ここに至るまで誰にも一切の気配を感じさせずに、まるで突然現れたかのような登場に、その場の人間は少なからず硬直した。

 

「なっ……相場メニ……!?」

「お久しぶりです、カリンさん。実はその子、私のクライアントなんですよね──返してください」

 

 カリンさんの背後から抱きつくようにしているメニさんは、息のかかる距離で、人を食ったような笑みで、至極当然のように要求する。

 相当な実力者であるはずのカリンさんをものともしていない。

 一切──臆していない。

 

「返してだと? まさか、私に勝つつもりなのか?」

「いえ、とてもじゃありませんが、C&Cに勝てるなんて露ほども思ってませんって。ですが、お賃金分は働かないと罰が当たっちゃうじゃないですか」

「…………」

 

 突如始まった目の前での会話を聞く限り、どうやら二人は知り合いのようだ。

 仲が良いようには見えないけれど、一体どういった関係なのだろう──いや、どちらかと言うと、特別な知り合いと言うよりは、メニさんがミレニアムに関係があるような口調だ。

 

「……まだこんなことをしているのか、メニ」

()()? おかしなことを言いますね。私はずっとこうですよ。今までも()()で、これからも()()で──未来永劫このままです」

 

 薄ら笑いを浮かべたまま。

 金髪を揺らして、金色の両目を輝かせて、メニさんは淡々と言う。

 その飄々とした態度が癪に触ったのか、カリンさんはずっともたれかかっていたメニさんを乱暴に振り払った。

 

「チッ……いつまでそうしてるつもりだ、離れろ!」

「おっと」

 

 急な攻撃にも慌てず、それでいながら蛇のようにするりと回避したメニさんは、カリンさんの手を私のヘルメットから離させて、更には私たちの間に立つように位置取った。

 どうやら──助かった、ようだ。

 

「……守銭奴のお前が、どういう風の吹き回しだ」

「嫌だなあ、私だって『友達を助けるために協力してください』って言われたら、手伝いたくなりますよ」

 

 ね。と、ここで初めて、メニさんは地面に倒れていたままの私を見た。

 ……いや、ガッツリ金取られたけど。

 そんな美談で済ませられる金額じゃなかったけど。

 助けられたとは言え、無償で働いてます、みたいな感じでいられるのはちょっと癪だった。文句を言える立場じゃないにしても。

 

「連邦生徒会に属する人間が、こんなことをして良いのか?」

「何がですか? 私はプライベートで偶然ミレニアムのビルの屋上に来て、偶然ヘルメット団の子と知り合いで、なんか任務を邪魔しちゃったみたいだから、彼女を然るべきところに送り届けてあげようとしているだけなのになー」

「……相変わらず苦手だ、お前は」

 

 一切悪びれない堂々とした態度で白々しく言うメニさんに、まともに議論しても無駄だと悟ったらしいカリンさんは、構えていたスナイパーライフルを下げた。

 そうさせるだけの実績が、メニさんにはあるらしい。

 呆気ない幕切れである。

 

「あれ。私と戦わないんですか?」

「戦闘を好まないお前が出てきたなら、どうせ根回しは済んでいるんだろう。ここでやり合う方が悪手だ」

「ご明察」

 

 あはは、とメニさんは笑う。

 

「調べた感じ、ミレニアムタワーの方もそろそろ落ち着くんじゃないですかね。あっちはあっちで、色々と思惑が重なっているような気配がしますし、裏事情もありそうですが……お金の匂いはしないので、私はこれで失礼させてもらいます」

 

 そう言って、彼女は私の手を取って立ち上がらせた。

 外れかけたヘルメットを手で押さえながら。

 

「おい、ウタハはどうするんだ」

「もちろんカリンさんが保健室まで運んでください。私の仕事じゃないので」

「お前な……」

 

 戦闘の空気でなくなった二人は、和やかに会話をしている。

 先程まで緊迫していた状況が嘘のようだ。

 

「…………」

 

 拍子抜けするくらい呆気なく、簡単に終わってしまった戦いの結果を見て、私は虚しさのような、言語化できない曖昧な感情を覚えると共に、自身の弱さを痛感した。

 ホシノ先輩やヒナさんのような超常的な力を持っていない二人でも、これだけの強さを持っているのだ。

 これからもウォルターについていくのなら、きっと行く先々で強者と出会うだろうし、戦うことになるだろう。

 

「じゃ、帰りましょうか」

 

 ならば、私がこれから先、ウォルターの側にいるためには。

 私がこの人たちに追いつくためには、一体どうすれば良い?

 

 031

 

 メイドの服の上に、龍柄のスカジャン。

 身長はおよそ百五十未満(ホシノやヒナといい、学園最強を冠する者は身長が低い決まりでもあるのだろうか)という、ロイよりも小柄である少女。

 この道に構えているということは、下手をすればアリスたちと鉢合わせたはずだが……彼女たちから緊急の連絡は来ていない。

 ならばすれ違ったか──あるいは敢えて見逃したのか。

 どちらにせよ、捕まってはいないようだ。

 そんな探りを入れている俺の視線を受けてだろう、ネルは手をひらひらと振って、自身が無害であることをアピールした。

 

「ああ、別に戦いに来たわけじゃねえ。リオの指示ではあるけどな」

「…………」

『いえ、その……説明させてちょうだい、先生』

 

 リオの指示であると告白したネルを前にして、リオから焦り混じりの通信が入る。

 C&Cには作戦内容を伝えていないという報告だったが……それは虚偽だったのだろうか。

 ……いや、違うな。単純に別件の仕事を終えたネルに、リオから今の状況が伝えられたというだけだろう。

 そうでなければ、わざわざ俺を待ち構えたりはすまい。

 

「どうせリオのことだ。今回の件、あんたとも繋がってんだろ」

「……何故そう思う」

「そうじゃなきゃ、先生のことをあんなに話題に出さねえ」

『ネル!?』

 

 ……珍しく、と言うか、ほとんど初めてに近い、恥ずかしさのようなものを含んだリオの声だった。

 反対に、ヒマリが無言なのが少し気になるが……彼女の性格からして、この状況を楽しんでいてもおかしくはない。

 

「しっかし……リオから聞いてた通りだな」

「……何がだ」

「あいつと気が合いそうだ」

「…………」

 

 俺の何を見てそう思ったのだろう。

 顔を合わせたのはこれが初めてだというのに、確信すら抱いた様子でネルは言う。

 

「合理性や理由付けに拘って、それでいながら過ぎたことをうじうじと悩みそうなところとかな」

「…………」

 

 何を話した、リオ。

 初見でここまで俺のことを見抜いたとすれば、慧眼にも程がある。

 あるいは──それだけ美甘ネルは、リオと親しい仲である、ということなのかもしれないが。

 

「まあ、何をしてようとあたしには関係ないけどな──でも、あんまりリオを甘やかすなよ、先生」

「……かなり厳しいことを言っているつもりだが」

「じゃああんな上機嫌にならねえだろ。あんま効果出てねえぞ」

『そんなことは……』

 

 上機嫌。

 リオの表情の変化には慣れてきたつもりだが、そう評するだけの表情は未だ見たことがない。

 ネルだからこそ分かる表情なのか──それとも、俺には見せていない顔なのだろうか。

 何にせよ、そういった顔を見せられる友人がいるのは良いことだ。

 リオの交友関係はかなり不安だったが……ヒマリと違い、ネルは言葉の荒さとは裏腹に、声色はかなり優しい少女である。

 比較的良好な関係が築けていることが垣間見えるので、俺としては安心せざるを得ない。

 

『先生、やはりこれを機にリオへもっと厳しく接するべきです。代わりに私への態度も改めるべきかと──』

 

 取り敢えず、俺は通信機を耳から外し、アロナに頼んで一時的に通信を全て遮断した。

 これ以上ネルとの会話を裏に聞かせると収拾がつかん。

 

「あー……(わり)ぃ、そっちでリオも聞いてたのか?」

「構わん。俺が後で誤魔化しておこう」

「そりゃ助かる」

 

 通信を遮断したのは、ヒマリの対応が面倒になったというのもあるが……このまま裏の会話をいなしながらネルと対話をすることはできないと、俺は判断した。

 目の前にいる美甘ネルは、下手な誤魔化しや嘘が通用するような相手ではないだろう。

 当然、裏は突然通信を遮断されたことで騒ぎ始めているだろうが、こればかりは仕方があるまい。

 

「……こうして俺に接触してきた理由は何だ。俺に訊きたいことがあるのか?」

「いや、別に。ただ、折角だし噂の先生とやらの顔を見ておこうと思っただけだ」

 

 しかし、俺の問いかけに、ネルは平然とした様子を保ったまま答えた。

 隠し事をしているようには──見えない。

 どうも裏表のある性格ではないようだ。

 さっぱりとした態度で、ネルは続ける。

 

「頭は固ぇし、融通は利かねぇし、全部一人で何とかすれば良いと思ってる奴が、初めて学園外の奴を頼ろうって兆しが見えた。あのリオにそう思わせる奴がどんな奴なのか、あたしも興味があった。動機としてはそれだけだ」

「…………」

「実際、会って良かったよ。……リオの考え方についていける奴なら、そりゃあ懐くってもんだ」

 

 懐く。

 ……リオが、俺に?

 ネルの言葉を疑うわけではないが、あまりのイメージのし辛さに、どうにも彼女の姿と結びつかない。

 懐かれている……のだろうか。

 実感は、無い。

 

「あんたのお陰で、リオも少しは頼ることを覚えそうだからな。だから──ありがとな、先生」

「……俺の功績ではないだろう。そう思うのなら、あいつの努力だ」

「…………」

 

 決して謙遜ではなく。

 それはリオが歩み寄ろうとした努力の結果なのだとネルに伝えると、機嫌が良さそうな表情から一転、彼女は呆れたように溜息を吐いた。

 

「……あんた、リオと血が繋がってたりするか?」

「……俺は父親ではない」

「いや、そういう意味じゃねえんだけど……マジでリオみてぇな返しするな」

 

 調子狂うぜ、とネルは言う。

 反射のように思わず否定してしまったが、どうやらその返し方はリオと酷似していたらしい。

 勿論、冗談の類いだとは──分かってはいるが。

 過去を割り切れない、割り切るつもりもない俺の精神では、余裕のある返しはできなかった。

 何にせよ、俺の真意とは違う受け取り方をしたらしいネルは、この返答によって、彼女の中で俺はリオと同じで冗談の通じない堅物という印象が固まってしまったようだった。

 

「ったく……んなとこまで似てなくて良いだろ」

「……それほどまで、リオと似ているか」

「ちょっと話しただけでもな。変に不器用なとことか──頑なに自分の手柄を認めようとしないところとか」

「…………」

 

 ただ、それ以上にネルは俺とリオに共通点を見出していた。

 ならばネルから見て、俺はどう見えているのだろう。

 間違い続けた、リオが辿り着いてしまうかもしれない最悪の未来を象徴するかのような俺の姿は、彼女にとってどう映っているのだろう。

 

「まあ、なんだ……とにかく、リオはあんたのことを信用し始めてる。親近感みたいなもんを覚えてるだけかもしれねぇけど、そうなったのは先生と関わったからなのは間違いねぇよ」

「……そうか」

 

 しかし、俺の懸念とは反対に、再び俺に感謝するようなことを言うネルだった。

 こういった評価を、果たして第三者から鵜呑みにして良いものか判断に困ったが……俺はそれ以上否定せず、大人しく受け入れておくことにした。

 何せたった今、そう注意されたばかりである。

 リオに助言する機会が増えるのであれば、まずは俺の意識を変えていなかなければなるまい。

 子供は、大人の姿を見て学ぶものなのだから。

 俺が、ナガイ教授を見て育ったように。

 

「だが……お前のような友人がいるのなら、あいつの意識改革は時間の問題だっただろう。リオは合理主義者だが、友人の忠告を完全に無視できるほど非情でもない」

「うーん……まあ、そうなんだけどな。なんつーか……一筋縄じゃいかねぇこともあんだよ、あたしたちの立場では」

 

 そう言って、ネルは俺を真っ直ぐに見た。

 初対面の俺に、何故か期待や信頼のようなものまで含まれた視線だった。

 

「……たぶん、先生じゃなきゃ、理解できねぇことがある。だから、これからもリオのこと見てやってくれよ。めんどくせぇ奴だけど、悪い奴じゃないからさ」

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