ハンドラー・ウォルター先生概念。 作:ヤマ
038
それから一週間、俺は変わらずミレニアムに滞在し、仕事を続けた。
ロイがゲーム開発部で仕事をしている以上、俺がミレニアムから離れるわけにもいかないという理由もあったが、それ以外にも何かと所用があり、結局ミレニアムプライスに直接関わりがなくとも忙しく過ごすこととなった。
依頼の後始末に始まり、ウタハとの脚の調整、G.Bibleに潜むKeyの調査など、やることは山積みである。
とは言え、一週間の間に進展があったとは正直言い難い。
進展どころか──いや。
それは、俺の問題か。
ともあれ、そうやって忙しく過ごしている中で、モモイたちは最後まで俺を頼ることなく、ミレニアムプライスにゲームを提出したという経緯である。
「……あいつらは……無事に、制作しきったようだな」
ユウカの話を聞く限り、限りなく締切に近かった(残り三十秒を切っていたらしい。肝の冷える話だ)ようだが、無事に受け付けられたようだ。
「三日ほど前に、先んじて『テイルズ・サガ・クロニクル2』がネットにアップロードされているようですね。評判も悪くないみたいですよ」
ヒマリはモモイたちのゲームの評判を検索しているらしく、その評価を見て上機嫌そうに微笑む。
内訳としては、低評価が五割、高評価が四割、保留が一割とのこと。
「……それは悪くないと言っていいのか」
「一作目は九割以上が低評価でしたので」
「…………」
……まあ、彼女たちは前作より成長しているということだろう。
いや、むしろ前作で強固なまでに印象付いてしまった『TSC』の評価を覆すほどの出来である、と捉えるべきなのかもしれない。
前評判だけで評価を決定する人間がいることを考えれば、奮闘しているとさえ言える。
「……報酬の話をしても良いかしら、ウォルター先生」
話の方向性が変わりつつあるのを察してか、軌道修正するようにリオが切り出した。
ミレニアムプライスの話は後から、ということだろう。重要な話ではあっても、本命ではない。
俺たちがこうして集まったのは、俺の仕事の報酬を──今回の依頼報酬を
受け取るため、ではなく。
「今回、大幅な予定変更が何度もあったけれど……その都度、臨機応変に対応してくれたこと、感謝するわ。ミレニアムとしては、シャーレに大きな借りを作ってしまったとも言える」
「構わん。それが俺の仕事だ……と言っても、お前は納得しないのだろう」
「……そうね。だから、それを帳消し──とまで言わなくとも、それに近い形になるような報酬を要求してくれるかしら。あまり大きな借りを……特に形にならない借りを残しておくのは、私の立場では望ましくない」
リオの言う通り、それなりの権力を持つ人間の『借り』というものは弱点になり得る。
三大学園の長であるリオが別勢力に大きな借りがあるという情報を他学園に知られては、政治的な問題が発生しかねない。
ましてや超法規的機関であるシャーレへの借りなど、立場上一刻も早く消しておきたい弱みだろう。
……既にティーパーティーに大きな借りがある俺の言えたことではないが。
「……そうだな。ならば一つ、俺も決めていたことがある。ミレニアムには、戦闘シミュレーターのようなものはあるか」
「……『ダイブ装置』のことかしら。それなら、あるにはあるけれど……」
「借りることは可能か」
「内容によるわ」
「リオ……貴女は本当に……」
借りを返したいと言いつつ、それでも全て肯定することなく即答したリオに、ヒマリは肩を落として息を吐いた。
やれやれと言わんばかりの態度である。そんな態度を示したヒマリが気に障ったのか、少し眉を顰めてから、それでも努めて冷静にリオは言葉を返す。
「安全性は保証されていたとしても、あれは扱いようによっては他人の精神に影響を与えることもある。他人の精神に深く踏み込んでしまうと、
そう言ってから、どう使うつもりなのか、という視線を俺に投げるリオ。
正しい警戒心だ。
同時に、柔軟性を獲得したとしても、生徒会長としての線引きや合理性を失っていないリオの姿は、俺を安心させた。
彼女がこの調子で成長するのであれば──きっと俺のような人間になることはないだろうと。
「格上との戦闘シミュレーションを行いたい。可能な限り、肉体に負荷がかからないような方法でだ」
「それは……七瀬ロイたちに訓練をさせる、ということで良いのかしら」
「ああ」
「……直接、模擬訓練をするのでは駄目なの?」
「駄目だ」
俺は言う。強く。
これは意識的ではなかったが、恐らく俺の意志が反映された結果なのだろう。
拒絶するような語気の強さになってしまい、二人は驚いたようにして、しばし沈黙した。
痛いほどの静寂が数秒続いた後、リオがやや躊躇いがちに訊く。
「…………何故?」
「手加減のない環境を用意しなければならない」
もはや、俺は手段を選んではいられなかった。
何としても──今からでも、準備を始めなくてはならないのだから。
「……ウォルター先生、何か……あったんですか?」
「……気にするな。何も無い」
「…………?」
ヒマリは、不審そうに俺を見た。
二週間程度とは言え、それなりに関わってきた彼女たちには俺の嘘を気取られたかもしれないが……構わない。
嘘を悟られようと、中身を知られなければ問題ない。
「……何を、するつもり?」
「ロイたちを、俺から離れさせる」
より正確に言えば、離れさせたいと言うべきだろうが……結果は同じだ。
これが俺の仕事であり、俺の使命である限り、今後どうなろうとも──彼女たちへの裏切りになろうとも、俺の結論が変わることはないだろう。
「本気のC&Cを、ロイたちと戦わせてくれ」
それが俺の求める、最大の報酬だ。
039
そして、俺の要求は通った。
ロイを含む四人とC&Cが戦うことにどんな意味があるのか、恐らく二人は想像できていないようだったが……それで良い。
察されても困る。
なんにせよ、これで今回の仕事の貸し借りを帳消しにできるとなれば、リオとしては受け入れざるを得ないだろう。
対価として安いということもない──むしろミレニアム最高の戦闘集団を訓練だけに使うとなれば、贅沢の極みである。
ダイブ装置とやらの使用許可を得ることには少し抵抗を示したが、それも貸し借りの範疇として押し切った。
我ながら大人げない交渉だったと自覚している。
その自覚もあってか、話がまとまった頃には俺の頭も冷えてきて、今は平静さを想像以上に失っていたことを猛省しているのだが……交渉の結果に後悔は無い。
俺が選んだことだ。
『ミレニアムプライスはこれまで、生徒たちの才能と能力で作られた作品に対し、「実用性」を軸に据えて授賞を行ってきました。これはより良い未来を求め、実現していくという趣旨に基づいています。しかし今回の作品の中には、新しい角度から「実用性」を感じさせてくれたものがありました。とある「ゲーム」が実際に、懐かしい過去をありありと思い出させ、未来への可能性を感じさせてくれたのです』
部屋の中で流している映像では、ディスプレイの中でミレニアムプライスの審査員が賞についての思いを語っている。
俺たちの協議が長引いたことで、ミレニアムプライスの結果発表は既に佳境だった。
あれだけ時間をかけ準備をしていた、今回の仕事の大イベントであるミレニアムプライスが、俺の知らぬところで終わろうとしている。
まるで、別世界の話のように。
『よって私たちはこの度、異例の選択をすることにしました。今回は「特別賞」を設けます。その受賞作品は……ゲーム開発部の「テイルズ・サガ・クロニクル2」です』
結論を言えば。
モモイたちは、一位から七位の間では受賞できず、賞を取り逃がしたかと思われたが……その後発表された、
「……リオ。これは貴女の仕業ですか?」
「……ええ」
不機嫌そうなヒマリの問いに、リオは躊躇いがちに肯定する。
ゲーム開発部への報酬をどうするか。
これは以前、俺がリオに課した課題である。
あいつらを巻き込み利用したことへの迷惑料として──そして依頼達成の報酬として何が相応しいか考えろ、と俺が言ったのだ。
その結果ヒマリは、リオが最終的に直接的な報酬を用意したのだと推測し、責めるような口調で訊いているらしい。
だが、その推測は間違っていた。
「……確かに、私は特別賞を用意したわ。彼女たちへの……ゲーム開発部への報酬として」
「それでは以前と何も──!」
「でも、
そう。
『特別賞』は以前リオが話したような、実績作りのために受賞させるよう仕向けたものではなかった。
リオはあくまでも、『特別賞』を設けたに過ぎない。
それだけだ。
そして、そのたった一つ増えた特別賞の枠をゲーム開発部が受賞した──というだけの話である。
『レトロ風という時代を超えたコンセプト、常識に縛られず次々と想像を超えていく展開、一見してそれらとマッチしそうにない不可思議な世界観、と、最初は困惑の連続でしたが……新しい世界を旅して、ひとつひとつ新たな絆を結びながら、魔王を倒しに行く……そういったRPGの根本的な楽しさが、しっかり込められた作品だと思います』
特別賞に選んだのは、ここにいる俺たちではなく、ゲームをプレイした人間だ。
不正も忖度も一切無く。
公平な審査の下、ゲーム開発部は、リオの用意したたった一つの枠を自らの力で掴み取ったのだ。
『プレイしながら、かつて初めてゲームに夢中になった頃の思い出を、鮮明に思い出しました。そういった点を評価して、この作品に……今回、ミレニアムプライス「特別賞」を授与します』
審査員が言い終わるとともに、映像の中では大きな拍手が鳴り響いた。
きっと今頃、ゲーム開発部の部室でも祝杯を上げていることだろう。
「私が報酬として準備したのは、特別賞という賞だけよ。……それを取ったのは、彼女たちの努力。私は何もしていない」
本当にこれが報酬として成り立つとは思えないけれど、と不安そうにリオは付け加える。
彼女の中では、これがゲーム開発部の報酬として相応しいかどうか納得がいっていないようだが、それで良い。
考えて、人の感情を予測して、自分なりに答えを出したことが重要なのだ。
理解するのは、これからでも良い。
「よくやった、リオ」
「…………」
我ながら、無理難題を課した自覚はあった──それこそ、俺と似たような思考回路である以上、すぐに満足のいく結果を出せるとは思っていなかったのだが……彼女は
「……そうですね。リオにしては、良い判断だと思います」
そしてヒマリも。
先ほど、状況を把握する前に非難してしまった気まずさからか、目を逸らしながらではあったが──リオの行動を、成長を認めた。
屈折した褒め方ではあるが、以前の険悪さを思えば、ヒマリもまた成長していると言えるだろう。
「……………………そう」
俺たちの言葉を聞いて、リオはやはり、反応としては僅かな返事にするに止まった。
だが、それでも確かに。
その呟き中に、確かな喜びが含まれていたのもまた、事実だった。
僅かに──リオは微笑む。
「……ウォルター先生」
そして、小声ながらも、はっきりと。
「……ありがとう。感謝するわ」
と、言った。
「っ!? 今ありがとうって言いましたよね!?」
「いいえ」
「絶対に言いました! あのリオがちゃんとお礼を言うなんて……信じられません……!」
リオの成長に感激した様子を見せるヒマリ。
悪気はないのだろうが……今のヒマリの台詞は、悪く捉えられても仕方がない言葉選びである。
「…………」
「どうして黙るんですかリオ、こういう時くらいもっと素直に──」
「……ヒマリ、今のはお前が悪い」
「な、なんでですか!」
ともあれ、やはり初めて出会った時よりは、お互いを刺すような、憎むような険悪さが消えている。
これからも喧嘩をしないのは難しいだろうが……まあ、この程度であれば、こういった友人関係があっても良いのだろう。
ミレニアムプライスも無事終わり、ひとまずこれで──俺の仕事が終わったと、ようやく言える。
廃墟の探索から始まり、リオとヒマリの関係改善、AL-1S──アリスの危険度の確認、ゲーム開発部の廃部回避と、概ねミレニアムを訪れた理由の多くは解決した。
謎も多く残っているが、それは──これからの話だろう。
「……なんか、凄い疲れた……」
「お前は今回十分以上に働いた。シャーレに戻ったら必ず休養を取れ、いいな」
「うん……流石に休む……」
そして現在。
今から語る話は、俺たちがシャーレに戻る際、電車の中でロイから聞いた後日談となる。
あの後。
つまりゲーム開発部が特別賞を受賞した後、授賞式が終わるよりも前に、ユウカがゲーム開発部の部室に走って来たのだという。
すぐさま言いに行く必要はないというのに、直接祝うあたり人柄が出ている。
その際に、ゲームを「ガラクタ」呼ばわりしてしまったことを謝罪し、そしてロイが破壊してしまったはずの『プライステーション』を新品同然の状態でモモイたちに返却したのだとか。
どうやらユウカは、ロイが破壊してしまったプライステーションをあの場で廃棄することなく、密かに修理していたらしい。
基盤が破損していた物の修理など、一から作り直すに等しいはずだが……それを隠しながら直しきってしまうあたり、やはりユウカは優秀であり、それでいてお人好しのようだ。
そうして、ゲーム開発部とユウカの拗れは無くなり、ロイは安心した気持ちでミレニアムを離れることが──できなかった。
……そう、できなかった。
何故なら、別れ際までアリスがかなり抵抗していたからである。
どこかで致命的なすれ違いがあったらしく、アリスはロイのことを『ゲーム開発部』とまでは思わなくとも、ミレニアムの生徒であると思っていたらしい。
ミレニアムに残れるのであれば、ロイにいつでも会えると思っていた、らしい。
学生証の騒動の時や、鏡争奪作戦不参加の時点で察しているかと思っていたのだが……全員が全員そう思っていたらしく、誰もアリスに明言しなかったことが原因のようだ。
想像以上の懐かれ具合だが、この一週間、ロイが料理や掃除のみならず、風呂や洗濯など当人の日常的な世話まで焼いたらしいことを思えば、それは当然と言える。
ユウカに負けず劣らずの面倒見の良さだ。
これも誰かの影響だろうか。
最終的に、ロイがミレニアムに再び訪れる予定(訓練)があると知り、アリスの機嫌は今は収まっているようだが……近いうちにしっかりと説明する必要があるだろう。
「…………」
電車に揺られ、隣でうたた寝をするロイを見ながら思う。
アリスは感情を得た。
モモイたちは廃部を免れた。
ロイとリオは成長した。
ヒマリを始めとした全体的な関係性も以前より改善されたとなれば、ミレニアムにおける仕事は、大団円を迎えたと言っても良いだろう。
俺を除いて。
0--
『Optimus Mirror System の起動を確認』
『…………』
『会話ログを再生します』
037
ミレニアムプライスが開催される前、モモイたちがゲーム開発を行っている最中のこと。
俺はウタハに呼び出された。
この期間中、ウタハに呼び出されることは何度もあり、その度、脚の調整を行っていたため呼び出し自体に特別疑問を抱くことはなかった。
そしていつも通り、俺は彼女が指定した集合場所の部屋に到着する。
だが、普段とは違い、そこは彼女が立ち寄るような作業部屋ではなかった──それこそリオが用意するような、明らかに人を寄せ付けない設備が揃っている部屋である。
若干の違和感を覚えつつ、俺は念の為、知らされた場所と相違ないことを確認してから、部屋の扉を開けた。
「……ウォルター先生。来てくれたね」
入室した俺の気配を感じ取って、ウタハは作業机に散らばっている紙からすぐに顔をあげて、俺へと視線を向けた。
珍しい反応だ──どうやら、俺を待っていたらしい。
当然と言えば当然だが、しかし、いつもなら何らかの作業らしい作業をしている彼女が、今日に限って何もしていないのは気になった。
机に散らばっているのが紙の資料だけ、という状況も、技術屋であるウタハらしくない──いや、これは偏見か。
「……随分と仰々しい部屋だ」
「その自覚はあったけれど……内容が内容だ。念には念を入れさせてもらったよ」
「脚の話……ではないようだな」
「無関係ではないけれどね」
「…………」
ウタハはどこか緊張しているように、俺の言葉に答えた。
今まで俺相手に緊張した姿や素振りを見せてこなかった彼女が、わざわざ人気の無い場所に呼び寄せて話さなければならない話となれば……およそ厄介ごとである可能性は高いだろう。
しかも、精神が比較的安定している彼女がそうせざるを得ない状況となれば尚更だ。
「……本題に入ろうか。初めて出会った時、血液検査をしたことを覚えているかな」
「ああ。何か異常があったのか」
「いや、
「…………?」
「貴方の血は、紛れもなく血の働きをしている」
「…………」
妙な言い回しだ。
それではまるで、血の働きがおかしいことであるかのような表現である。
なのに──異常が無い?
「これは、貴方の血だ」
俺の怪訝な顔を見てか、ウタハは慎重な動きで自身のポケットに手を入れて、血が詰まっているらしい小瓶を取り出した。
彼女の発言を信じるのであれば、あれが俺の血なのだろう。
採血してから何故瓶に移したかは気になるが……それだけだ。
血。
赤黒い血だ。
それ以上でも、それ以下でもなく。
「どこからどう見ても、普通の血だよ」
「…………」
ウタハは、これがいかに普通の血であるかを説くように言う。
話が見えてこない。
それはウタハ自身も重々自覚しているようで、実際、説明しあぐねているようにも見えた。
何から話せばいいのか、どう説明すればいいのか、判断しかねている。
そして。
「……実際に見てもらった方が早いだろうね」
そう言ってウタハは瓶の蓋を外し、止める間もなく、そのまま作業机に血を垂らした。
奇行とも言える行動だが……彼女がわざわざ実演するとなれば無意味ではないのだろうと推測し、その行く末を見守る。
一滴──二滴。
垂れるたびに、机に散らばっている資料が、血で汚れていく。
赤く、黒く、波紋上に広がっていき──消えた。
「…………!?」
「……現象としては、蒸発ではなかった。言うなれば、消滅──あるいは死滅かな」
「…………」
詩的な言い方をすれば──世界から消えている。
ウタハは、そう表現した。
「血液検査では異常が出ない。仮に病院で普通に健康診断を行ったとしても、この異常には気付けないだろう。実際、私が気付いたのも偶然だからね」
私が技術屋じゃなかったら気付けなかった、とウタハは言う。
大方、出血に反応する機構を脚に増設しようとしたのかもしれない。
……どうにも赤を見ると、ルビコンを想起してしまう。
否が応でも、脳裏に映る。
「先生に自覚はあったかい?」
「……いや。なんだ、これは」
「分からない。だけど、分かったことは幾つかある」
先程まで血痕が染み付いていたはずの資料をぺらぺらと捲りながら──決して湿っていない紙を撫でながら、ウタハは続ける。
同時に、何故かかつて言われた黒服の言葉が脳裏を過ぎる。
──
「一つ。それは、先生の身体の中にある時は変化しない」
──
「二つ。それは、先生の身体の外に出たと看做された時、または一般的な血液の利用法から外れていると看做された時、
──貴方の契約は、一体『誰』と契約したものなのでしょう。
「三つ。故にそれを私が──いや、他人が利用することはできない」
──ハンドラー・ウォルター。
「これらのことを踏まえて……ウォルター先生。私が確実に言えることは一つだけだ」
──凄い火。……先生、本当に人間?
──まるで火薬庫みたい。
「あなたの血肉は、およそ人間のそれじゃない」
ウタハはそう言い切って、俺の目の前に小瓶を置いた。
赤く。
赤く。
その血が輝き、光っているようにさえ──幻視した。
「…………」
どうやら。
死ななければならない理由が──できてしまったらしい。
あとがき、の前に作中の補足です。
今後作中で説明するかどうか分かりませんので、読む上で先に開示しても支障のない設定をここに置いておきます。
簡単に言うと『ウォルターはコーラルに生かされている』状態です。
ウォルターの中に存在するコーラルによってキヴォトスが汚染されることはありません。連邦生徒会長との契約です。
あくまでもこの設定はウォルターが『今生きている理由』であり、これによって企業がコーラル争奪戦をすることはありません。
ルビコンにおける戦争の火種によってキヴォトスが同じような末路を辿ることもありません。
あくまでも『かつて焼き払おうとした存在に自身が生かされている上で、ウォルターがどういった選択をするか』というものを書きたかっただけです。混乱を招いてしまった方は申し訳ない。
あとがき。
※ここからは普通のあとがきです。飛ばしても大丈夫です。
まずはレトロチック・ロマン編を読んでいただきありがとうございました。様々な感想、評価、誤字脱字修正への御礼を述べさせていただきます。
しかし、大変お待たせしてしまいましたね……文字数アビドスより少ないのに……。
昨年度中に終わらせたいという目標も未達成に終わり、不甲斐ない限りです。もうちょっとプロットをちゃんと作らなきゃいけないと猛省しております。
今編も原作での大幅カットや、イベント未発生、リオの解釈やウォルターの取りそうな選択による変更など、不自然な点がなければ良いのですが、いかがだったでしょうか。
ウォルターの解釈もまた、作品が進むにつれて精神性が変化しているせいで原作のウォルターと少しずつ変わりつつあるので、擦り合わせに難儀しております。
一人称ウォルター小説、書いてはいますが割と狂気の沙汰なので、いつか限界がきそうだと怯えつつ書いてます。
私の中の解釈が、皆様とズレていなければいいんですが……なんであれ、読者の皆様が楽しんでいただけたのなら幸いです。
エピローグなのにアビドスより明らかにスッキリしない終わり方なのは申し訳ない。最後に開示した設定は最初から考えていたもので、アビドス編から今までそれなりの描写をし続けてきたつもりですが、説得力がなかったらごめんなさい。
割とこの設定ありきで構成を考えてきたので、これが受け入れられなかったらどうしようと思いながら投稿しています。今までのメンタル不良は多分これ。
ちなみに、次書くのが確定している閑話は、ウタハとロイです。お楽しみに。
それでは、ここまで読んでいただいてありがとうございました。