惑星ルビコン3に降り立った男と傭兵の、最初の一歩目のお話。

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 AC6のプレイ動画や他の皆様の作品を見ているうちに、身の程知らずにも自分も話を作りたいと思って書いてしまいました。
 ゲーム未プレイ、かつ文章作成未熟の身のため至らない所ばかりだと思いますが、お暇潰しにでもなれば幸いです。

※Chapter1ミッション「密航」のネタバレがありますので御注意下さい。

※621が原作よりも強化されています。
 そういった要素が苦手な方は御注意下さい。


621

「621、か」

 

 〔ハンドラー〕の異名を持つ男性、ウォルターは新しく己の猟犬となった傭兵の名前を呟いた。

 目の前のモニターに映されているのは、べリウス南部の汚染市街を駆ける1機の汎用人型兵器―アーマードコア(AC)。

 機械の巨人とも呼ぶべき体躯が、廃墟と化した街を疾走していく。

 その進路上にはMTを中心とした兵器が展開していたが、それらはまるで障害にならなかった。

 ブーストを駆使した高速移動の前に照準を定めることすらままならず、右腕部に握られたアサルトライフルから放たれた銃弾によって装甲を撃ち抜かれ、或いは、肩部に装備されたミサイルの攻撃によって焼き払われる。

 後に残るのは粉々に破壊された残骸だけ。まるで無人の野を行くような快進撃。

 特筆すべきは、その機体構成。

 カメラをそのまま擬人化したかのような単眼を覗かせる頭部パーツ──HC-2000 FINDER EYEを始めとした部品の数々はルビコン3で活動する企業によって製造・販売されているものでは無い。

 全身を構成しているのは、非合法集団RaDによって製造された探査・観測用パーツ。

 戦闘力に秀でているとは言い難い。

 動力となっているブースターやジェネレーター等の内装は劣悪な性能の旧式モデルで、作業用MTと見間違えるような出力しか出せぬ粗悪品。

 こうして組み上げられているこのACは、非戦闘用と呼んでも差し支えない貧弱な機体だ。

 ──そんなフレームで、ここまでの蹂躙劇を見せる。

 それは、操縦者の能力値の高さを無言のままに物語っていた。

 

《C4-621、目標地点に到達》

 

 COMからのアナウンスを受け、ウォルターは状況を再確認する。

 己の猟犬が駆るAC──機体名【LOADER4】は周囲の敵影をあらかた掃討し、垂直カタパルトを使用して高所に移動。

 高層建築物の残骸に見下ろされる開けた広場のような場所に着地していた。

 そこに横たわっているのは、ACの残骸。

 

「あれだ。あの残骸にアクセスしろ」

 

 もはや動くことの無い躯。目的物があるのは、その内部。

 ウォルターの指示通りに猟犬──強化人間621は乗機をACの残骸に近付け、登録されているパイロット情報を抜き取り始めた。

 

「(これで4機目。条件に合致するライセンスであって欲しいが……)」

 

 今回のターゲットは傭兵ライセンス。

 未だ密航者でしかない621がルビコン3で仕事を行うためには、身分証明が必要だ。

 その偽装のために、ACの残骸から機体に登録されている傭兵ライセンスを拝借するというのが今回のミッション。

 ここに来るまでの間に既に3機のACの残骸を見つけ、情報の取得を試みたが、いずれも望むようなライセンスでは無かった。

 

「(これ以上、手間を掛けるのは避けたいところだな)」

 

 思い起こされるのは、先程の市街地での戦闘時に見かけた大型武装ヘリ。

 おそらくは管理機関である惑星封鎖機構に所属しているであろう機体だ。

 ACをも上回る巨躯と、その全身を覆う重武装と重装甲。攻防兼ね備えた空飛ぶ要塞。

 幸いなことにその時にはこちらに気付くことなく飛び去って行ったが、おそらく巡回行動の途中だったのだろう。未だにこの付近に留まっている可能性が強く、いつまた出くわしても不思議ではない。

 非戦闘用ACと呼んでも差し支えない【LOADER4】では、真正面から矛を交えるには分が悪い。

 そもそも、活動の初手から管理者と対立することは余り宜しくない。

 思考を巡らせたウォルターは、再びACと通信を繋いだ。

 

「621。このライセンスが条件に合っていたら、すぐに現領域から離脱しろ」

 

『──了解』

 

 返されたのは、声変わりの兆候を見せ始めたばかりの少年の声。

 未だに幼さを色濃く残す声音の持ち主が、単機で周辺を掃討する戦闘力を持つACの操縦者であるなど、余人には想像もできないだろう。

 送られてきたライセンス情報の解析を進めながら、彼と邂逅したときのことをウォルターは思い起こしていた。

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「……どういうことだ」

 

 血と鉄の入り混じった匂いを発し、澱んだ空気を醸し出す研究室か、医務室のような部屋。

 もう幾度となく訪れた場所で、ウォルターは感情を押し殺した声を発する。

 その目の前にいるのは、彼の新たな猟犬となるべき存在──強化人間C4-621。

 まるでミイラのように全身を覆っている拘束具を剥がして〔起動〕させたその姿を前にして、思わず口から漏れ出た言葉。

 

 気の小さい者であれば竦み上がってしまう固い声。

 それを受けても、この部屋の主である老医師は自然体のままだった

 

「今回は〈当たり〉だよ、ウォルター」

 

「当たり、だと?」

 

 むしろどこか楽しそうな様子すら窺わせる物言いに不快感を漏らすウォルターに構わず、老医師は続ける。

 

「コレは私が手掛けたモノではない。別の場所で保存され、横流しされてきた品物だ」

 

 目の前にいる存在を、完全に1個の商品として扱う口調。

 

 彼ら2人の前にいたのは、1人の少年。

 歳の頃で言えば10代半ばか、その少し手前か。

 先程まで肉体を縛っていたミイラのような拘束具が外されたことによって露わになったその姿。

 そこに、かって同じ年代であった頃の自分の姿をウォルターは一瞬重ねたが、すぐにそれを打ち消す。

 

 その頃の自分と、目の前のこの少年。両者は余りにかけ離れているからだ。

 

「(確かにあの頃から俺は一般常識からは離れたものを背負わされてはいたが……ここまで傷付いてはいなかった)」

 

 幽鬼。

 少年を言葉で表すのならば、その一言。

 彼の体躯に、この年頃ならば持ち合わせる筈の輝きは皆無だった。

 艶を失った、老人のような白髪。

 全身の随所に巻かれているのは、血色が染み込んでくすんだ包帯。

 幾多も貼られたガーゼや絆創膏等によって繕われている顔立ち。

 そして、意思という光が欠け落ちた瞳。

 

 それが、これからウォルターの猟犬となる少年──強化人間C4-621だった。

 

「頭をコーラル漬けにされているのは勿論、全身至る所に薬とメスが入れられて能力の強化を図っている。そういう意味では、文字通りの強化人間だな」

 

「……まだ年端もいっていないようだが?」

 

 ウォルターの発した確認は、目の前の少年を慮ったものではない。

 未成熟な状態で運用に問題は無いのか、という調教者としての冷徹な問いだ。

 老医師のような人種に倫理観を説いたところで無駄であろうし。

 そもそも他ならぬ自分が、先だって全滅した〔ハウンズ〕も含め幾多の強化人間を使い潰してきた身ではないか。

 そんな自身が少年の身を案ずる資格などない。

 ……それでもなお湧き上がってくる罪悪感を押さえることはできなかった。

 こんな年端も行かない少年を、戦場という死地に送り続けていいのか。

 その果てに、正気の沙汰ではない己の目的の片棒を担がせるのか。

 ……だが。ここで自分がこの子を引き取らなかったら、その先に待つ未来もまた地獄だろう。

 この老医師がまともな取り扱いをするとは期待できないし、さらに境遇の悪い環境に送られてしまうことも十分にあり得る。

 下手を打てば[処分]されてしまう可能性すら否定できない。

 それを避けるには、自分がここで引き取るのが確実だ。

 だが、それは引き返すことのできない奈落に少年を突き落とすことを意味する。

 

 そんな堂々巡りの葛藤など推し量ることもなく老医師の説明は続いた。

 どこか喜色すら漂わせて、少年の方へ視線を向ける。

 

「闘争の為に産み出されたのがコレだ。AC操縦から白兵戦、情報戦に至るまで戦闘全般に対応できる能力がある。それが、コレの〔機能〕だよ」

 

 まるで出来の良い道具を論評するかのような口振り。

 目の前の少年に尊厳を認めている様子は欠片も無い。

 

「年齢について問題は無い。ある程度の能力を持ちつつ、成長力にも富んでいるのがこの年代だ。それは、機能以外は死んでいるコレも例外ではない」

 

 10代半ばの年頃であれば持ち合わせる吸収力は、道具としても有用なのだと老医師は嗤う。

 

「より長く使えただけ、能力が上昇するのさ……作った連中がそこまで考えていたかは定かではないがね」

 

 一息吐くと、今までの自説を統括するように少年を評する。

 

「第4世代強化人間という旧型の枠組みの中で僅かでも有用なモノを生み出そうと足掻いた結果が、コレさ」

 

 愚者達の欲求が、1人の少年をコーラルと投薬と傷跡だらけの強化人間に変えた。

 

「……度し難いな」

 

 他人のことを言えた身でないことを承知しながらも思わず眉をひそめるウォルターの様子をどう捉えたか、老医師は会話を続ける。

 

「ああ、反抗などという機能はコレには備わっていないから安心するといい。そもそも頭がコーラルに侵されているし、なにより保存前に調整がされていたようだ」

 

「……調整?」

 

 不穏な言葉に、もう一度少年の様子を観察して……すぐに異常に気が付く。

 肉体の至る所に生じている傷。その中には施術によるものではないものが散見される。

 明らかに他者によって人為的に付けられた傷が、あちらこちらに。

 

「おそらく、施術されたのは今の年頃よりさらに幼い頃だったのだろう。その後、保存されるまでに幾らかの時間を割いて、[教育]が行われたと推測できる」

 

 その[教育]が唾棄すべき所業であったことは、少年の全身に刻まれた傷跡が雄弁に物語っている。

 

「保存前に従順さを刷り込ませておこうと徹底的に躾けられたようだ。おかげで道具として使うには極めて有用に」

 

「もういい」

 

 愉悦の色が濃くなってきた老医師の語りを、押し殺した声でウォルターは遮る。

 これ以上話を聞いていて、冷静さを保てる自信はなかった。

 老医師を視界から外すと、起動された当初から身じろぎもせずにその場に佇んでいた少年──強化人間C4-621に向かって歩を進め、その前に立つ。

 

「621」

 

 呼び掛けると、即座にこちらに向き直って眼差しを向けてくる。

 既にウォルターを主として認識し、その呼び掛けに迅速に対応する道具としての動作。

 そうして向けられた眼は、どこまでも澄んでいて。

 ──そこには、何も浮かんでいなかった。

 人であれば宿している筈の感情が、何も。

 まるで鏡のように、ただ対面した存在を映しているだけ。

 機械のようなその佇まいは、見る者によっては嫌悪感や忌避感を抱くだろう。

 

 ──しかし。

 

「621。仕事の時間だ」

 

 起動の際に掛けた言葉を、再度、ウォルターは繰り返す。

 優しさも慈しみも感じさせない声かけ。

 だが、その言葉はこの少年を1人の存在として認めている証。

 

「コーラルを手にすれば、お前のような……背負わされた者でも、人生を買い戻すことが可能な筈だ」

 

「了解、しました」

 

 平坦な口調で彼から返された返答。

 道具として主人に返事を返したというだけで、掛けられた言葉の意味は何も解っていないだろう。

 けれど。いつか、己自身の力で自らの道を歩んでほしい。

 自己満足に過ぎないと解っていても。

 少年に地獄を歩ませる張本人である己が、そんなことを思う資格など無いと解っていても。

 そう願わずにはいられなかった。

 

 その為には、最初の1歩目が肝心だ。

 準備を整えようと、少年──621を連れて出ようとしたところで。

 

「──あの」

 

 その彼から声を掛けられる。

 このタイミングで話しかけられることは想定していなかったが、ウォルターは動じることなく呼び掛けに答えた。

 

「どうした」

 

「なんと御呼びすれば、良いですか?」

 

 それは友好を深めるための問いではないだろう。

 道具として、持ち主の識別をするために発せられた質問。

 コミュニケーションとは呼べない、ただの業務動作。

 そんな621の行動を咎めるつもりは無い。

 彼は、そうやって他者と接することしか知らないのだから。

 

「好きに呼べ」

 

 ウォルターの対応に、621は思考する間を置いて。

 

「──では……ごすずん、と」

 

 ──想定外すぎる返しに、ウォルターは思わず持っていた杖を取り落としそうになる。

 

「……どう呼ぼうとも構わんが……特殊な呼称だな」

 

 表面上は今までと変わらぬ冷静さを保っていたが、その実、想定外の返しに少なからぬ困惑を覚えていた。

 

「(その呼び名は何処から出てきた……?)」

 

 そんな焦燥を覚えるウォルターを他所に、再び621は口を開く。

 

「──失礼しました、言語化能力に誤差があったようです。御主人と呼ばせて頂きます」

 

 そう言った彼の顔は、先程までと何も変わらぬ無表情。

 ふざけたわけではないらしい。

 そもそも、そんな思考を持ち合わせているとは思えない。

 

 一体これはどういうことなのかと老医師を見れば、先程までの狂気はどこへやら、明後日の方角へ視線を逸らしていた。

 

「……おい」

 

「完全無欠のモノなど無いということだ」

 

 惚けるような返答に舌打ちするが……或いは、老医師にもこの問題は解明できていないのかもしれない。

 

「(これは……意外なところで梃子摺る羽目になるかもしれん)」

 

 思いもよらぬ苦労が圧し掛かってくることを予測し、ウォルターは胸中で溜息を吐いた。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 新たな猟犬との些か奇妙な出会いの回想を終え、現在へと意識を戻す。

 浮かべるのは、ここまでの道中で621が見せたポテンシャルの高さだ。

 

「(〈当たり〉と呼ばれるだけのことはあるようだな)」

 

 不完全なアセンブルのACで作戦領域を突破する戦闘力。

 要所要所の局面でもウォルターが指示する必要もなく、的確に機体機能を活かして切り抜けてみせた。

 これだけの能力があれば、このルビコンでの傭兵活動に支障をきたすことはあるまい。

 目的への最初の一手が打てるであろうことを予期したウォルターの思考は、次の瞬間に遮られる。

 

「……そう易々とは見逃してくれんか……!」

 

 急速に接近する敵性反応。

 プロペラが発する爆発的なローター音を宙に響かせ、宙を舞う鋼鉄の巨体が姿を現した。

 惑星封鎖機構大型武装ヘリ。

 先程はやり過ごすことができたが、やはり付近に留まっていたようだ。

 発見した闖入者を見逃すつもりは無いのだろう。

【LOADER4】に銃口を向ける動作からは明確な敵意が感じ取れる。

 

「(戦闘は避けられないな)」

 

 やり過ごせれば問題は無かった相手だが、こうなった以上は取るべき手段は1つしかない。

 ウォルターは瞬時に戦略を組み直すと、621に指示を下す。

 

「構わん、迎撃しろ。今ならお前が特定されることはない」

 

『了解』

 

 敵襲を受けても何ら揺らがずに返答を返した621は、主人の命令に応えるべく瞬時に戦闘行動に移行した。

 

 先手を取るべく動いたのは大型武装ヘリ。

 装備武装による銃撃と爆撃を見舞うべく体勢を整える。

 だがそれは、あまりにも遅すぎる対応だった。

 照準を定めるべく機首を向けたその先には、先程まで視認していたはずのACの姿が無い。

 一体どこに行ったのか、再度、目標設定の為に索敵に移ろうとして──

 

 衝撃と、振動。空に浮かぶ巨体が、大きく揺さぶられる。

 各種計器類がけたたましくアラート音を鳴らし、機関部を含めた各部から火花が噴き出す。

 状況を確認するまでもなく、機体耐久が大幅に低下したことは明白だった。

 損傷を負わせた原因を探るべくモニターを回せば、そこに映っていたのは地に降下していくACの姿。

 その左腕にあるのは光の刃。振動による斬撃で標的を切り裂く武装──パルスブレード。

 

 ──大型武装ヘリが照準を定める前に素早く懐に潜り込み、ブーストを使用して急上昇。

 そうしてブレードによる斬撃を行った──

 

 画像や情報を解析して現状況に至る原因を特定した大型武装ヘリは、すぐさま対処すべく次の行動準備に移る。

 ACは強力な兵器ではあるが、空中戦に於いては活動が限定される。

 機体を滞空させるために少なくないエネルギーを消耗し続けなければならないからだ。

 いつまでも浮いて居られるわけもなく、やがては地に降りなければならない。

 今まさに【LOADER4】が落下していっているように、だ。

 

 それほど質が良いACとも思えない。出力も乏しいはず。

 今の空中攻撃で、おそらくエネルギーが枯渇したのだろう。

 ならば、着地して此方から距離を取ろうとしても大してスピードは出まい。

 そこに射撃を加えればいい。

 

 その判断が、大型武装ヘリの命運を絶つことになった。

 

 着地するやいなや、身を翻した【LOADER4】は大型武装ヘリの真下に潜り込んだ。

 距離を取る離脱ではなく、相手の懐に喰らい付く接近。

 大量の銃器を備える大型武装ヘリを前にしても全く怯む様子を見せない。

 その軌道に対し、大型武装ヘリは藻掻くようにして旋回を行おうとする。

 機体直下に対しては銃器や爆撃の発射口を向けられず、反撃を行えないからだ。

 そんな意図を読み切っている621は【LOADER4】のブーストを巧みに操り、機体の真下から離れない。

 己の手足の如くACを操る卓越した操作技術を前にして、大型武装ヘリが逃れる術など有りはしなかった。

 次の瞬間、エネルギーが再充填されたジェネレーターが唸りを上げる。

 膨れ上がった炎を背部から吹き出し、残像すら残さぬ勢いで【LOADER4】が宙を疾走する。

 アサルトブースト。収束したエネルギーを一気に放出して爆発的な推進力を得る高速移動。

 目にも止まらぬ超スピードで一気に大型武装ヘリの底面に肉薄し、再度、ブレードを振るう。

 その刃を受けた大型武装ヘリは耐久力を大きく削られ、その身を硬直させた。

【LOADER4】の連続攻撃によって生じた衝撃によって、機体の平衡能力が麻痺したのだ。

 コントロールを失い、動きを止める大型武装ヘリ。

 

 無論、それは一時的なものに過ぎないが、戦闘の場に於いては致命的な隙。

 それを見逃す621ではなく──この瞬間に、戦闘の帰趨は決した。

 

 

 …

 ……

「惑星封鎖機構SG、大型武装ヘリの撃墜を確認した」

 

 状況報告を行いながら、ウォルターはモニターを確認する。

 そこには、静かに佇んでいる【LOADER4】の姿。

 機体各所から排熱による蒸気が立ち昇り、各種兵装の発射口からは硝煙が漂っている。

 先程までの戦闘の余韻を漂わせるその機体には──目立った損傷が、一切無い。

 

 その眼前に散らばって炎上しているのは、先程まで大型武装ヘリだったモノの、残骸。

 湧き起る炎に照らされて立つ【LOADER4】は、まるで悪魔を思わせる。

 

「621、今日の仕事は終わりだ」

 

 任務達成を伝えつつ、ウォルターは呟く。

 

「……初陣で、これか」

 

 強化人間C4-621。

 火力・機動力ともに上回る相手を一蹴した戦いぶりは尋常ではない。

 しかも、実戦はこれが初めてのはずだ。

 そんな状況で、ここまで一方的に相手を叩き伏せる技量は末恐ろしさを感じさせる。

 

「《レイヴン》──これがお前のルビコンでの名義だ」

 

 4機目のACの残骸から手に入れたライセンスは、幸いにも条件に合致するものだった。

 その識別名は、傭兵達の間では特別な意味を持つ称号。

 

 ──ただ、それよりも。ウォルターの胸中は別の思いで燻っていた。

 

 手駒が強力なのは喜ばしいことだ。

 自分が果たすべき目的の達成が、それだけ近付くのだから。

 

 ……1人の少年に血塗られた道を歩ませることと引き換えに。

 

 621。

 愚者達によって心身を穢されたこの少年を叩き起こし、戦場へ送り込んだ。

 その罪悪感は、未だに鎮火してはくれない。

 

「(修羅の道に引き摺り込んだ張本人が、今更、何を言っているやら)」

 

 身勝手な我が身を自嘲するが、心中に巣食う自責の念は強くなるばかり。

 そんな感情のしこりが、無意識のうちにウォルターの口を動かしていた。

 

「よくやった、621。戻って休め」

 

 口に出たのは、任務を達成した少年への慰撫の言葉。

 本来ならここでは無く、もう少し一区切りついた局面で言うつもりだった。

 この仕事は、ルビコンでの活動を始めるための最初の一歩に過ぎないのだ。

 ……しかし、傭兵ライセンスを手に入れるという目標を達成したことには違いない。

 ならば、今、声を掛けても構うまい。

 労いの言葉を掛けるタイミングが多少早まったところで減るものがあるわけでもないだろう。

 

 ……そんなウォルターの見立ては外れた。

 何気なく掛けた言葉は、予想外の事態をもたらす。

 

『──―』

 

 帰還のために歩みを進めていた【LOADER4】の動きが止まる。

 

「(……何だ?)」

 

 沈黙した機体に、ウォルターは訝し気な視線を向ける。

 目立った損害は無いように思えたが、それはあくまで外部から見ただけで、実のところは何かしらの不具合が発生していたのか?

 それとも初戦闘ということもあって、予期せぬ不調が発生したのか?

 

「どうした?」

 

『……』

 

 状況の確認のために繋いだ通信への返答はない。

 これは想定するよりも厄介な状況が生じたのか?

 思考を巡らせ始めたウォルターの耳に、ようやく機体からの返答が入ってくる。

 

『……申し訳ありません。対応が遅れました』

 

 反応があったことに一息吐くと、ウォルターは会話を続ける。

 

「気になることがあったか?もし何かあるようなら対応する」

 

『……』

 

 不調への対処準備があることを伝えると、またしても沈黙。

 何か言い難い問題を捉えているのかもしれない。

 そう考えたウォルターは返答を急かすようなことはせず、621が口を開くのを待つ。

 

『……いえ』

 

 再び間を置いて返された音声は、どこか歯切れが悪かった。

 

『労いの言葉を掛けて頂いた時の対応を、想定していなかったもので……』

 

 大層な言葉をかけたのではない。

 任務達成に際し、軽く労いの言葉を掛けただけ。

 ウォルターにとっては当然の行為。

 

 ……その〔当たり前〕が、621にとっては初めてのことだったのだ。

 

 誰かに認められたことが無い。

 この少年が、温もりの無い世界で生きてきたことを、改めて目の当たりにさせられる。

 

「──そうか」

 

 ウォルターが口にしたのは短い返答のみ。

 地獄としか形容できない中を生き抜いてきたのは、彼自身。

 そこに容易く言葉を掛けるなど、どうしてできようか。

 それに、この少年が其処に至るまでの土壌──強化人間という技術は、自分にも繋がりのある話である。

 そのことが、より一層ウォルターの口を重くさせた。

 

 そんな絡まってしまいそうな思考を中断させたのは、621から繋がれた通信。

 

『……ごすずん』

 

 その呼び掛けに、思わず力が抜ける。

 最初に出会った時も口にした、妙な呼び名。

 言語化能力に誤差があったと本人は言っていたが、もしかするとわざと言っているのでは……?

 そう訝しんだウォルターの思考は、621からの次の言葉を聞いた瞬間に霧散した。

 

『労わりの御言葉を頂いて……あ、あり……ありがとう、ございます』

 

 流暢とはお世辞にも言えない、たどたどしい言葉遣い。

 ありがとう──感謝の言葉。

 知識としては備えていても実際に使うのは初めてなのだろう。

 その口調は、不慣れさが全く隠せていない。

 

 ──けれど。

 その言葉は、ウォルターがとうの昔に心の奥底に追いやった感情という温もりを思い出させた。

 

「──礼など不要だ。本番はこれからなのだからな」

 

 勿論、それはほんの刹那。

 これから先の道程を進むにあたって自分には不要なものだと、すぐに奥に仕舞い込んだ。

 次の瞬間には常と変わらぬ調教師としての冷静な顔に戻り、言葉を発する。

 

「行くぞ、621。お前の価値を示して見せろ」

 

 ……だが。その口元がほんの微かに綻んでいることに、ウォルター本人は気付いていなかった。

 

 …

 ……

 これは、1人の男と、1人の少年の御話。

 後にこの惑星ルビコンで最も名を馳せた個人へと至る、ある独立傭兵の最初の一歩の話である。

 




 ここまで読んで頂いてありがとうございます!
 話を作るのがこれほど難しいとは思いませんでした……他の作者の方の凄さを実感します。
 もっと精進して頑張りたいと思います。
 繰り返しになりますが、拙作に目を通して頂いて本当にありがとうございました!

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