白石、キラウシとの関わりもあります。
キラウシも結婚する描写があります。
みんなで幸せになろうとする内容です。
父性の喪失から、父性を獲得し、父になる男たちの話。
妻との復縁ifの加筆修正です。イチャイチャしてますが18禁要素は無く、朝チュンです(笑)
妻恋
あの長かった旅が終わって、敬愛するお方との別れ・・・
キラウシ、マンスールと共に傷を癒し暮らす日々だった。
永倉さんの伝手で、とある寺の年老いた住職と、その家族の世話になりながら生活をしていた。
ある初夏の朝に、夏太郎が訪ねてきて俺たちは"知らせ"を耳にした。
心のどこかで、この日が来るのは感じていたんだが、やっぱり納得が行かなくて・・・
夜の静間に、川の流れる音。
おどす風に雨音までもが寒々しい。
あの日の、みなで囲炉裏を囲んだぬくもりの刻へと還りたくなる。
俺の体は順調に回復していたが、キラウシは歩くのもままならなくて、身の回りの世話をしながら過ごしていた。
片腕を失ったマンスールは義手に慣れる稽古をしていて、骨のあるヤツだと感心するばかりだ。
俺はというと、スルメを齧っては酒をちびちびと舐めながら、ぼんやり物想いに耽っていた。
「お〜い、看守部長殿〜!」
「んぇ?」
久方ぶりにこの呼び方をされて、ちょっとばかり酔いが醒めた。
ドカドカと重たそうな足取りで廊下を歩いてくる男がいる。
「なんだぁ、白石じゃねえか!・・・って、それ、なんだ!?」
「へへーん!こいつは、"大当たり"のアンタにも持っていって貰うぜ!」
どっかりと床板に置かれた、十貫ばかりはあろう袋。その口を開き、俺に見せてきた。
覗き込めば、中には眩い輝きが・・・
「なんだこれぇ!?どしたのこんなに・・・お前、まさか、やりやがったな!?」
白石の顔を見上げれば、やつはニヤニヤしながら声をひそめて
「だってアンタの背中のそれ、アタリなんだろ?本人がわけ前持ってなくてどーすんだよ。これで奥さん迎えにいきな。」
あっけに取られて、へなへなと情けなく座り込んだ俺。
「あ、ぁあ!?バっカだなお前〜、黙っていい酒でも飲んでよ、女と豪遊してりゃよかったじゃねえかぁ・・・」
歳のせいだろうか、涙もろくなったよ・・・。
震える手で袋を掴み、
「こんなに・・・俺の人生何回ぶん暮らせるんだよ・・・」
白石が俺の肩をぽん、と叩いた。
すると、廊下に差し込む西陽の中に埃が舞って、金粉のように見えたのだった。
「それじゃぁ、看守部長!奥さんとうまくやれよ〜?そんでさ、鰻でも腹一杯食って元気つけて、あとは、…二ヒヒッ!ピュウ☆」
「うるッせぇ!このッ!」
ヤツのぼんず頭を軽く叩いてやると、ペチッといい音がした。
「くぁいッてェ〜!」白石は相変わらずヘラヘラしている。
俺は泣き笑いのぐしゃぐしゃな顔を、シャツの袖で荒っぽく拭った。
白石は目を僅かに涙で輝かせながら俺の両肩に手をかける。
「あばよ!達者でな、門倉さん!」
「・・・、おうよ!お前もな!もう、塀の中に戻るんじゃないぞぉ!」
茜色の太陽に照らされて、花札のぼんずそっくりの男は、坂の向こうへと暮れて行くのだった。
帰りの足取りは軽く、鼻歌も楽しげに。
「・・・お勤め、ご苦労様でした」
茜色の彼方へと、遠ざかる背中へ呟いて、敬礼をした。
俺は、勝手にやつのことを囚われの身から解き放ってやったのだ。
白石とは、それっきりだったな。
どこかの国で女たち、自分の子孫らに囲まれて、鼻の下を伸ばし暮らしているに違いない。
何年かの月日が流れ、キラウシが歩けるまでに回復した。
北方から来た医者に頼み込んで、良い治療が受けられたためだ。
俺にゃ北方の言葉なんつうものはサッパリだから、マンスールが通訳をしてくれたのが何よりの救いでな。
医者の腕は確かなんだが、代金をぼったくられそうになって、マンスールは何を話したのか知らないが・・・医者が震え上がっていたっけな。
俺もあいつを怒らせるのはよそうっと。
キラウシも、もう歩けないかと思っていたのにな・・・
俺は、ヤツの肩を支えて歩く練習に付き合った。
色んな話をしたなぁ・・・
歩きながら、あの頃を振り返っていた。
友の腕の温もりと、しわくちゃに笑う顔。
いつもの煙草をいぶした、お前の匂い。
なんともくすぐってぇような、妙な気分だった。
その後、キラウシのコタンへ行ったんだが、
さすがに金塊そのまんまじゃ難だろうと思い紙幣と貨幣、米や馬に変えて土産にしたのだった。
キラウシの母ちゃんは息子の無事の帰還と、思いもよらぬ土産に涙を流しながら礼を言っていた。
白石からのお裾分けだから、
俺のおかげじゃないんだけどもね。
蝗害の被害で貧しかったコタンが助かると、親父さんにも感謝された。
キラウシの兄弟たち、甥っ子や姪っ子もキラウシを心待ちにしていた。人気者だねぇ。
俺も、久しぶりに家族に会ったみたいな気分で、こそばゆかったな。
家族・・・といえば
いつかキラウシと約束していた、俺の出ていった妻、娘や孫の顔をこっそり見に行くという旅もした。
家族の話をしたからかな?
出会った頃はしょっちゅう悪態をついていたあいつが急に俺に対して優しくなったのは・・・
尻覗き野郎の俺にだって、大切なひとはいる。
それを実感したら、あいつの中の何かが変わったみたいだった。
夏太郎から聞いたんだが、俺が札幌で死にかけた時なんて、キラウシが珍しくベソかいてたんだとよ。
驚いたもんだよ。
俺が死んだら、泣くやつがまだいるって事を改めて思い知らされたから・・・
酒を飲みながら話していた時のことだった。
酔ってしまった俺は、あまりの心寂しさに、ぽろっと弱音が出てしまう。
妻と娘の写真をヤツに見せてしまったんだ。
どこら辺が似ているだとか、似ていないとかで笑われるかと思ったが、意外に真剣な顔で俺の話に聞き入っていたよ。
いつか、
「死んだ親父も喜ぶ」
とは言ったが、愛している妻と娘の事だってより強く想っていた。
あの時は思わず、少し涙ぐんでしまった。
親父のことを、あのお方に重ねていたから・・・
キラウシ、マンスールと三人で俺の妻子に会いに行った時のこと。
物陰からコソコソ見ているとキラウシのやつね、俺の娘を見た途端、目ぇ丸くして
「ピリカ・・・」って呟いたんだよ。
尻の穴覗くニシパにこんなピリカな娘がいるのか!?
って、ずっと盛り上がっていたっけなぁ。
写真では、まだ子供だったし。
今頃孫でも生まれてるかな、なんて話してはいたが
娘はずっと一人者だった。
後で聞けば人を好きになる感情がわからなかった・・・とか。
俺のせいで寂しい思いをさせてしまった。
若い頃の俺に似たのかな・・・。
ツイてなくて、諦めてる感じのところ。
その割に、妻には唯一惚れちまったんだけどね。
どうしてかって?
〜んなうまく言えないよ。
そういうもんじゃないかな、ワケなんてない。
いつの間にか心が盗まれていた・・・そんな感じだろうか。
落ちてしまった、みたいな。
えぇっと・・・複雑なんだけど、俺の娘とキラウシがどうやら良くなっちゃったみたいで・・・
困ったもんだねぇ。
いつか、本当に孫ができてジジイになっちゃうのかと思ったら、あれれ・・・目から変な水が・・・
へへ、なんだよもう、、、ばかたれェ・・・!
こんなに幸せがまとまって来ちまったら、まァた不幸の神様が大忙しになっちまうじゃねえか。
くっさい肥溜めに落ちるのはもう勘弁だぜ・・・!!
二人の関係を知らされたとき、
「ダメぇ!!ぜったいダメぇッ!!だめだめだめッ!!」って、唾飛ばして叫んだ。
勢いのままに婚前交渉は認めないぞ!と言いそうになって口をつぐんだ。
その、ウコチ・・・、うこッチャ何とかってやつ。
(※ウコチャヌプコロ=雌雄の交尾・性交渉)
でも、二人が結ばれて本当は嬉しかったんだ。
・・・あ!!
という事は、俺とキラウシがかけ合わさったみたいな孫が生まれるのか!?
こりゃまた妙だな・・・
幸せを願うのは、
いつも誰かのためだけだった。
親父の無念に、せめてもの慰めにならないものか、
妻子も、不幸で落ちぶれている俺なんかと居たら不幸になるだろうな・・・だとか。
でも、やっと今ごろ気づいたんだ。
俺は、まず自分の幸せを望んで生きていなかったことに。
どれだけ長い事、自分の人生を生きていなかったんだろうか。
もう、俺の人生は残り少ないかもしれない。
だからこそ今からでもいい。
やり直したい・・・
そして、願わくばあのお方の物語を形にして残したい。
噂に聞く亜米利加という国に行けば、それが叶うかもしれないんだとか。
そこで、俺と男三羽烏は映画を作るために海を渡ることを決意した。
もちろん、増えた家族も一緒に。
歳を重ねたが、あの頃よりも今の方が生きている実感がある。
若く、そして蒼く。
空と海に挟まれた景色が続く。
甲板に出れば、青鈍色(あおにびいろ)の髪が潮風に弄ばれる。
波の音、船の軋む音にも聞き飽いた頃に船が辿りついた。
アメリカのサンフランシスコという場所へ到着した。停泊しているバカでかい船には、紅白の縞模様に星の描いた四角が隅に貼られた旗がはためく。
当たり前だが、出会う人出会う人がみな西洋人だ。
髪が黒ではなく金色、赤毛、栗毛、鹿毛など様々だ。
馬のたてがみのように風になびく色素の薄い髪と陽の光に透けるような肌。
男たちは女を敬うようにして手を取り、転ばぬよう思いやる。背広姿にハットを被りまさに紳士である。
女たちは堂々としていて、なよなよとしなだれかかるそぶりもしない。話す声も低く大きな声で話している。丈の短いドレス姿に長い脚を覗かせ、目のやり場にも困ってしまうな。
うっとりと鼻の下を伸ばしていたら、妻に叱られてしまった。頭をボリボリ掻いて照れ隠しをして空を見上げる。
この、青い空を見ると思い出すな、あの嬢ちゃんみたいな、空と海みたいに青い瞳・・・。
この国にもいるんだな・・・
それだけじゃなく、金色、緑色の色とりどりな瞳たちが物珍しそうに俺ら一行を見る。
日本人は目が合えば、恥ずかしそうにはにかむが、西洋人は堂々と微笑んでくるので俺は気恥ずかしくなってしまうのだった。
慣れない土地での物珍しい景色や人々。方々をお上りさんの如くキョロキョロと見やりながらも、やっとの思いで宿屋に着いた。
足の裏がジンジン痛む。
あぁ、早く休みたい。
そこは俺たちの国では見たこともない大きさの宿屋だった。
そして、見たこともない料理がズラリとある。
とうきびをトロトロにすり潰した汁物、芋を焼いたものはまだ想像がつく。しかし小麦粉を焼いた饅頭とも煎餅ともつかぬものが珍しい。
野菜と肉を、藁で編んだ笠に似たそれで挟んである。
俺たちは物珍しさに目を見張って生唾を飲み込んだ。
「カドクラ〜!この肉ヒンナだぞ〜!」
金属のさすまたに似たもので、ブスリと刺された分厚い肉。
芯がまだ赤くて血が滴るようだ。
「これ、まだ生だろ?食えるのか!?腹壊すぞ〜。」
キラウシは生の脳みそに塩をかけて食ったり、元々生肉を食べていたから平気だろうけど、俺は不安になって給仕係に聞いた。
英語は中学校時代に少しだけやっていて、ここへ来る前にも予習はしてきた。
「牛の肉は大丈夫だそうだ。でも卵は生で食うなと言ってるぞ。ヤバいみたい。」
「カドクラならうっかり食べてしまいそうだな〜」
キラウシが笑い、マンスールもウンウンと頷いている。
宣言するなよ!!
本当に起きるかもしれんから。
念の為、万能薬の梅の黒焼きは山ほど日本から持ってきているから大丈夫だろう。
異国の灯りが眩しくて、カーテンを閉じ、
闇のなかで妻の温もりを手繰り寄せて、腕の中に招き入れた。
あぁ、なんて柔らかいんだもう・・・
「もう、ずっと一緒に居よう・・・」
あのお方への憧れで伸ばした、この髪。
洗い髪が、ざらついた俺の頬と柔らかな妻の頬の間に挟まって、少し冷たさを感じる。
ぼんやりとした蝋燭の灯りの中で、互いの間にできてしまった空白を埋めるように抱き合う。
互いの唇からは熱い吐息が漏れていて、俺は・・・それを重ねにゆく。
昔は、伝えるのが苦手だったな。
逃がすためにとはいえ、そう差し向けて妻が出て行った日もそう。
俺の不運に巻き込んでしまう事を恐れた。
いつだって
"そういう星の下にうまれた"と、投げやりになっていたんだ。
けれども、この無力感に苛立ちはするものの、受け身だったことは否定できない。
うまくいかない、かき混ぜられた運命に頭を抱えた。
しかし、月日は流れてもう嵐は去ったんだ・・・
だからもう自分で舵をとっていい時期だ。
暗がりに慣れつつあるこの目で、愛しい女の瞳に映る炎の光を見つめて
「雪子、あのなぁ・・・その・・・」
俺の言葉を待っているのか、静かに見つめ返す妻の肩から腕へと、手を何度も行き来させてさすった。
「愛してる」
自分でも、柄にもなく情緒的で静かに囁いたように思う。
橙色に染まる机の上に鈍く光る懐中時計。
その秒針がほんの一瞬・・・止まったようにも見えたのだった。
「利さん・・・、嬉しい・・・」
潤んだ瞳で俺のことを見つめ返してくる
俺が選んだひと、だ。
もう一度自分の意志で、愛することを選ぶ・・・
似たひとをもう探せない、探したくもないとさえ思っていた。
すでに冷めかけた浴槽に浮かぶ薔薇の花弁。
炎の色が水面にチラチラと踊りまわるようだ。
そして、妻の肌に纏われた移り香さえもひどく悩ましい。
海を渡った国で受ける刺激の全てが俺を若返らせていくようだ。
至近距離で見つめれば、いつになく真面目な顔をした俺に、少し戸惑いながら見つめ返してくる。
背中、二の腕を触れるか触れないか・・・優しく指先を滑らせていると目つきがとろん・・・っとしてきた。
頬を掠め耳元に接吻をして、髪の匂いを嗅ぐ。
ひくりと妻が少し肩をはねさせて、呼吸の音さえ大きくなってくる。
「はぁ・・・雪子・・・綺麗だ・・・」
耳元にコソコソと伝えると
「利さん、もう・・・っ」
上目遣いに頬を染めながら俺を見る。若い頃から俺にだけするこの甘えた仕草が意地らしくてたまらない。
こんな顔をする時は、妻もなにか"欲しい"合図なのもよーく知っているよ・・・
妻は昼間の活発そうな西洋風のブラウスと洋袴姿から、風呂の後に薄浅葱色の浴衣に着替えていた。
こっちも似合う。しっぽりしたい気分だね・・・
「この浴衣、まだ大切に持っていたんだねぇ。嬉しいよ。」
その昔、俺が妻に贈ったものだった。
白すぎず落ち着いた、睡蓮の花模様があしらわれている。
「利さん、もっと見て・・・」
「ん、うん・・・いい。その、すごくいい・・・似合ってる。」
照れくさくて、ぎこちなく答えてしまう。
薄暗い部屋に、徐々に目も慣れつつあった。
妻は日本を出発する前に結っていた長い髪を、すっかり肩あたりまで短く切っていた。
旅の間は俺とさして変わらぬ服装でいたので意識しなかったが、別人のような美しさに、今はすごく意識してしまう。
妻が動くたびに耳元に飾られた髪飾りが揺れて、艶っぽい。
「なに?利さん・・・さっきからここばかり見て・・・すけべなんだから。」
「うっ、わ、ぁ、見てない見てない!ここの睡蓮の花の柄を見てたんだもん!」
やべ、胸のところをついジッと見てしまっていた。
だって、日本を発ってから船の上ではしばらくお預けだったから・・・なんて。
柄も、色も見ていたし懐かしさにも浸っていたつもりだったけど・・・
目を逸らして頬を掻く。
「ねぇ、利さん。もっとこっちに来て。」
俺の手を握ってベッドの方へと妻が後退る。
「え?え?・・・なーに?」
今夜は大胆だね・・・とは思いつつも心の中は期待でいっぱいだ。
「利さん・・・」
俺の名を呼んで寄り添ったかと思うと、両腕を首に廻してきたので、俺は嬉しくなってしまう。
「んー?」
そろっと腰に腕を廻して、甘えてくる妻を抱き留めた。
*お読みいただきありがとうございます。
アメリカでオシャレに朝チュン!!