星、宙より落ち来たる   作:明暗キレイ

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 始まりを告げる音は誰も知らない。

 しかし、終わりの音は誰もが等しく知っている。

 生命ならば須らく、等しく同じ音を奏でるために。

 しかし、自らの手で高らかに告げる者はいない。

 始まりの後ろは、常に終わりであるが故に。



#9 決戦というには、あまりにも

 

 

 

 かつて脳無工場があった場所には瓦礫一つまでもが周囲に吹き飛ばされ、大小さまざまな破片が突き刺さる周辺建物の施された化粧は剝がれて崩れ、名だたるヒーローたちが倒れ込んでいるような惨状の中ただ一人の男だけが零れる笑いを小さく響かせていた。

 

「痛快だねぇ…これは…!」

 面白い映画を久々に見たような高揚感を隠し切れない紳士のようでありながら子供特有の無邪気さを上乗せしたようであるはずなのに、それら全てを塗り潰す恐怖が聞く者全員の体を固めさせていた。

 その空間に突如水溜りがいくつか浮き上がるとそこから人間が、ヴィラン連合のメンバーがどんどんと落ちていき、最後に爆豪勝己が落ちる。それぞれが転送中の状況を呟きながらスーツにマスク姿の男を見ていた。

「…せんせぇ」

 そう溢した死柄木に、男は答える。

「失敗は、つらいかい?」

 答えは返ってこなかったが、意に返すことなく続ける。

「でも決して、めげちゃいけないよ?またやり直せばいい。成功するまでチャンスを与えよう、アドバイスを送ろう、支えよう。君が成長するまで、何度でも…ずっと」

「仲間も取り返してあげたし、この子(爆豪勝己)も君が必要だと自分の結論で判断したから助けた」

「いくらでも試せ。そのために僕が……」

 

 語り掛けるように、叱るように、教えるように言葉を紡ぎながら死柄木に近づいて、伸ばそうと開いた手は…全く違う空の方に向け、漆黒にして極太の光線を放つ。夜空を黒く切り裂くように進みながら、ある一点から何条にも裂け始める。避ける場所は加速度的に己の手に近づいて、光線に隠れて巨躯から拳が放たれる。

 

「すべて!返してもらうぞ!!ALL FOR ONE!!!」

「また僕を殺すか!オールマイト!!」

 

 身動きの取れない暴風が二人の間から巻き起こり、爆発のように広がって周囲にある瓦礫を、地面を、人間を吹き飛ばす。土煙が晴れて、二人は互いに意識を向けていた。

「少し遅かったね。バーからここまで5km弱、爆破させてから30秒以内に到着とは…衰えたんじゃないか、オールマイト」

「…貴様こそ、その工業地帯のようなマスクまで被って…。体に無理させてるんじゃあないか…!」

 一方は嘲笑を、一方は青筋を立てながら一歩前に踏み込む。

「爆豪少年を取り返す…!貴様諸共、ヴィラン連合をまとめて刑務所にぶち込んでやる!!!」

「大変だねぇ…お互いに!!」

 再び拳を振りかぶって駆けるオールマイトにAFOは片掌をかざし、()()()()()を放つ。

「ぬぅ…!はぁあ!!」

 僅かに避けながら、それでも迫る速度を変えることなく拳を突き込むが、もう一方のゴムのように膨らんだ腕から放出された暴風がその威力を相殺する。

()()()()()()

「ぅぐ…!?ぐああぁぁぁ!!!」

 

 AFOが小さく呟いた瞬間、放出されている暴風がまるで固形のような超高密度の空気で叩き込まれたかのように段違いの速度で押し出され、オールマイトは再び吹き飛ばされる。その姿を横目にAFOは己指を黒い鉤爪に変え、触手のように伸ばして黒霧に突き刺す。

 

「『個性強制発動』。弔、君は仲間と一緒に逃げなさい」

「せんせぇは…」

 その続きは瓦礫の崩落音にかき消される。原因であるオールマイトは再びAFOに向かっていく。迎え撃つように宙に浮いてその拳を肘で受け止める。

「逃がさん!!!」

「ぼくは彼の足止めをしている。その間に仲間とともに爆豪君を連れていきなさい!」

 そう言って拳を受け止めていた腕を振り払って、同じように鉤爪に変えて伸ばし、オールマイトの動きを妨げ始める。

「…そうそうオールマイト、足止めついでに僕の()()()()にも付き合ってほしいね!」

 そう言って爪を元に戻すと、一瞬の無の次の瞬間に、 両掌から脚ほどの長さの()()()()を出して、まるで機関銃のように水晶を放ち始める。

「それは…!」

 無意識に漏れる言葉を捨てながら迫ってくる水晶を回避するも、水晶はそのまま飛んでいくことなくオールマイトを追尾し始める。

「…ッく…!!これでは爆豪少年のところまで…!」

 避けるように立ち回っていたオールマイトは回避行動を小さく、回数を減らして(あた)るまで追尾し続けようとする水晶を粉々に叩き割っていく。しかし避けて割っていく間にAFOの手から放たれ、彼を追尾する水晶はどんどんと増していく。

「彼らの元にはいかせないよ」

「ならば貴様を先に倒すまで!!」

 

 両腕を顔の真正面で交差させ、突進を始める。踏み込んだ一歩目だけで最高速に達し、凶弾足り得る水晶群は彼の周囲に巻き起こる風圧によって砕かれていく。二歩目を踏むころには仇敵(AFO)の真正面で拳を突き込む直前だった。

 一閃。

 衝撃は敵の顎ではなく手の中に、すかさずもう一方を突き込むが同じ結果に至る。されどもそれらの衝撃は地面を二段に陥没させ、暴風となって周囲を揺らしていく。

 

「力をセーブしているのか…あの少年(爆豪勝己)がいるからか。にしては少し力が乗りすぎているようだね!」

 両手指が変化を始める寸前に掴む両腕を弾きながら距離を取って様子を窺うオールマイトを嘲を含ませながら言葉を続ける。

「味方に、ルールに、イメージに雁字搦めにされたままでいいのかい!」

「それでも!やり遂げるのがヒーローさ!!」

 

 叫びながら返すオールマイトは身を左右に振って攪乱させながら接近しては拳を突き込む。しかし明確なダメージになることなく大地を揺らすだけになる。爆豪に加勢しようとするオールマイトをAFOが阻止し、ヴィラン連合を援けようと仕掛けるAFOをオールマイトが吹っ飛ばすという鼬ごっこにも似た様相へと陥り始める。

 視界の端で未だに敵に包囲されている爆豪の状況を思いながらも変わらない…変えられない状況と自分に歯噛みを止められないオールマイトを、AFOはくつくつとした笑い声を隠そうとせずに見ていた。

 瞬間、強烈な熱風と衝撃が二人と敵の肌を駆け抜ける。更地にいる全員が弾かれるように見上げた夜空には4人の男の子がいた。

 

 飯田、切島、爆豪、緑谷が、夜の大空を彼方へと向かって飛び去っていく。

 

あいつらは……!!!

 死柄木を含めたヴィラン連合全員が、飛んでいく彼らを睨むことしかできなかった。それはAFOが下弦の弧を描いていた口を元に戻すほどであった。

「たった一手、それも数秒すらない一瞬で形勢が逆転。…名目上は不利になった訳か」

 誰に聞かせるでもない呟き溢すと再度己の指を黒い爪に変えてオールマイトへと突き伸ばす。半身をずらして凶刃の爪の軌道から逃れるが、その爪は黒霧に突き刺さる。

「『個性強制発動』」

 その瞬間、死柄木たちヴィラン連合の足元に黒霧の『ワープゲート』が展開される。思考の電流が迸ったオールマイトはすぐさま振り返ってヴィラン連合の元へと拳を突き出そうとする。

「せんs」

 そう言って連合メンバーたちは黒い穴に落ちるように転送された。一手遅れて影のない空間を衝撃と暴風が抜け去っていく。逃がした。そう認識せざるを得ない状況に舌を打ちかけるがAFOの方へと向き直って小さく、しかしはっきりと宣言する。

「…貴様だけはここで倒す」

「僕も同じ気持ちだよ」

 

 そう言って二人だけの戦争が幕を開ける。粉塵を蹴り散らしながら接近して本気の一撃を突きだす。迫りくる拳にAFOは片手を開いて、

「『衝撃反転』」

 そう言うと同時に拳と掌が衝突し、オールマイトの半身が仰け反る。がら空きになったその腹に向けてもう片方の掌で生成した“磁力を帯びた六角水晶”を弾くように放つ。ほぼ零距離、回避も迎撃もできない態勢()()()『ぎゅうん』

 「!?」

 急速的に力が貯まっていくようだった己の右脚を全力で踏み込む。二つの衝撃が大地をもう一度揺らす。かつてオールマイトが立っていた場所から少し後ろの方に直径10㎝ほどの穴が深淵の如き暗さを作り出していた。しかしその周囲に赤色はなく、はるか後方に降り立ったオールマイトの腹には切れ込み一つないままであった。

(…なんだ、今の感覚は……来る!!)

 振り返る暇もなくAFOの猛攻は続く。両手から灼熱を帯びた光線をまき散らし、己に向けて放ったはずの水晶弾に当たると、まるでミラーボールかのように一条だった光線を大量の各サンビームへと変え、オールマイトへと迫る。大振りだった動きを止めて小さく、しかし大胆に回避しながらAFOの懐にたどり着いて拳を突き込む。『ぎゅううん』

「!はぁあああ!!!」

「ぐ…!」

 脚の時よりも多く力が貯まるような感覚が右腕に訪れ、放った拳はAFOが翳そうとする掌よりも速く腹に着弾する。AFOは決して小さくない呻き声をオールマイトの耳へ届かせながら体は衝撃を殺そうと後ろへ押されていく。

 再び離れた両者の間を巻き上げた砂埃が分けるように立ち込める。そうして晴れた砂ぼこりの先にいるAFOは笑っていた。

 

「さすがの僕も、君のことを侮りすぎたようだ…」

「貴様のそれは一生治るとは思わんがな…!」

「それはそうだとも、僕はそれくらい強いからね。だから…少し楽しもうかな」

 構えを解くことなくオールマイトに訝しい眼で睨まれながら、そう言って笑いを納めたAFOはおもむろに言葉を紡ぐ。

 

「『炉心起動』」

 

 その言葉の瞬間、身の毛がよだつような直感が全身に迸ったオールマイトはAFOに向かって全力の突貫を開始した。()()()()()()()()()()()()()()()と、一刻も早く止めなければならないという絶対的な危険だけが脳内を支配される中、渾身の一撃を右腕に籠めて敵の顎に照準を合わせ、

「DETROIT!!SMA「『炉心接続』×『空気を押し出す』+『筋骨発条化』+『瞬発力×4』+『膂力増強×3』」

 爆破と一閃が鍔競り合う。その一か所を除いたほぼ全方向に熱を帯びた衝撃が瞬く間に世界を染め上げる。瞬間的で断続的、そう形容せざるを得ないほどの衝撃が拳に伝わる。

(なんて力だ!!!)

 食い縛る歯が砕けそうなほどに全力を込めてもなお踏ん張る脚が後ろへとずれていく。腰を、姿勢を低く落とし、拳を最後まで振り貫くためにオールマイトが持つ全ての反射が応え始める。

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!

 

 互いの起こした衝撃は消滅する。地面は一層抉り取られ、周囲は砂埃が舞い、建物にへばり付く様にある溶岩に照らされ、まるで星々の明滅のように瞬く。オールマイトの背後のみが、まるで切り抜かれたように熱や衝撃の被害を受けていなかった。

 拳の感触を確かめるように掌を開閉するオールマイトをまじかにして、AFOは嗤う。

 

「これは…()()()()()()()()だ…!」

「なにを…言っている…AFO!!」

「いやなに、無理して手に入れただけはあるなぁ…て思っただけだよ」

「やはり貴様…水晶経國(クリスタル=ストラ)の人たちを…!」

 そう言うとマスク越しに曇った嗤いが消える。

「なんだ、知っていたのなら話が早い。君の思っている通り、()()()()僕は彼らに出会ったんだよ。無知なところだったから気になって()()()()()。何度僕の腕が欠けただろうと数えるのも億劫なくらいだよ」

 そう言ってとても楽しそうに己の左腕を軽く振りながら続ける。

「当然彼らの『(からだ)』と『個性』を手に入れることができたんだけどね…僕が使うとなると全く発動しない。『個性強制発動』にすら応じないんだから手の施しようがなかった。はずなんだけどね」

 そう言うとおもむろに軽く開いた右掌に光球が現れた瞬間、

 

『ぎゅうううううううん』

 

 目に映る光に呼応するように何かが回転し…増幅するような音が、オールマイトに耳鳴りのように聞こえ始める。

「なんだ…それは…!?」

「彼らの名称でいえば『炉心』と言うみたいだね。内容は『純粋エネルギーを発生、増幅させる』というシンプルかつ強力な『個性』だよ。不思議なことに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。この『個性』が生み出すエネルギーは途轍もなくてね…!!そしてこれが使えてしまってからは…」

 光球を握りつぶしながら横に振り散らすと、知里尻になったはずの光の粒子が大量の六角水晶へと変わっていく。

「手に入れた他の『個性』も使えるようになったんだよ…ね!!!」

 六角水晶を機関銃の如く撃ち出していく。来ると覚悟しながらオールマイトが視認を完了したのは回避の構えが終わる前だった。

「くっ!!!!?」

 横に向した足を前に踏み縛って拳を構え直し、迫りくる何百もの弾丸を何十もの残像が残る豪速連撃で迎え撃つ。

「その体でどこまで耐えられるかな!!オールマイト!!!!」

(どこまでも!AFO!!貴様を倒すまでは!!!)

 心で叫びながらオールマイトの連撃はますます速度を、威力を上げていく。拳と直に触れた衝撃で砕いていたものが次第にその風圧のみで砕かれていることに両者とも気付いていなかった。そして気付いたのは拳を打ち出していた本人が先であった。

(これは…!好機!!)

 最後の左を打ち抜いた瞬間、大きく足を踏みしめて右の拳に力を籠める。

『ぎゅううん』

「TEXAS!!!SMAASH!!!」

 振り貫いた衝撃は全ての凶弾を欠片と変え、笑みを浮かべていたAFOの右手をも弾く。衝撃波が生み出した道を真っすぐに、オールマイトはAFOの懐へと至る。

『ぎゅううん』と言う耳鳴りは、もはやオールマイトの耳にすら届いていなかった。

 そして、

 

「DETROIT!!!!SMAAAAAASH!!!!!」

 

 衝突による衝撃は轟音と化して周囲に響き渡る。神鳴りとも、鐘の音とも異なるそれは街一体に響き渡るほどであった。残響すら消えた今、オールマイトは目の前の景色を見る。

 自らの拳は仇敵の顔面に突き刺さり、腕を伝って黒い線が静かに、ゆっくりと走っていく。それを横目に顔から拳を離し、離れながら固く閉じた掌を開けて、

 

 

 

「『炉心接続×2』、『再生起動』」

 

 

 

 聞こえないはずの声が、静かに響く。脚が止まる。まさか…そんなはずが…ありえない。だが(AFO)に限って言うのならば…()()()()()()()()()()()()()()

 震える首を何とか振り向けた先には、潰れてあらゆる血髄を垂れ流していたはずの頭蓋は、元の目も鼻もない面になって。まるで何事もなかったように両足で立ってこちらを向いていた。

 

「…随分と、懐かしい痛みだったよ。オールマイト」

「ALL FOR ONE…!!!!!」

 睨みつけながらすぐに臨戦態勢へと変えるオールマイトを余所に服に着いた誇りを両手で払いながら言葉を紡ぐ。

「これも()()から頂いた『個性』でね。エネルギーさえあれば元通りに『再生』してくれる。全く便利な『個性』だよ。さて…仕切り直しと行こうじゃないか、オールマイト」

「今度こそ…貴様を倒す…!」

 

 両者の間に緊張の糸が張り詰められる。一挙手一投足の全てを見て仕掛けの瞬間を見極める。

 今か…今か…今か…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「時間だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 たった二人による戦争へ分け入るように、天から声が降る。吸い込まれるように見上げると、(しろがね)の髪と真白の羽織を靡かせる女がいた。神々しく見えるはずのそれは、そこかしこで燃える災害の炎に照らされ陰影が動き続けることで…まるで彼女自身が焔と化したようにすら思わされた。

 

「待ちわびたぞこの時を…。ALL FOR ONE、ただ唯一なる巨悪よ。()()()()()()()()()()

 オールマイトも、AFOも、はるか遠くに位置しているヒーローやリポーター、カメラマンを含めた被災者や野次馬の連中でさえ…身に着くどの部分も動かすことはなく、ただそれを見つめていた。

 

「…何の用かな、【星の巫女】。その名代さん?」

()を呼ぶな。応えるな。抗うな。ただ座して待て。『神』に代わって汝を断罪する」

「『神』ね…。今時にしては敬虔な子「口を、利くな」…があぁ!!!

 煌々と光り続ける(まなこ)がAFOを睨みつけると二つの脚で立っていた彼が瞬間にめり込むようにして地面に手をつく。何度踏ん張って立ち上がろうとしても()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。自分の体で押しつぶされた肺から漏れ出るように呻いているなか、【巫女】はただ荘厳に言葉を連ねていく。

 

「ALL FOR ONE、汝の罪を羅列する。心して聴け。そして受け入れよ。

 

 一に、我が国民を傷つけた事。

 二に、我が国民の躯を徒に弄んだ事。

 三に、我が国民の命を己が野望のために利用した事。

 四に、悪で在らんとし、悪へと唆し、悪を束ね、悪そのものとなった事。

 

 全てが罪にして悪である。故に巫女の【裁定】により汝に死を…汝に与する全ての悪に断罪を、名代たる吾が【執行】する」

 

 一方的で、弾圧的な処刑の宣告。同じ口が、今度はオールマイトに向けて言う。

「オールマイト、『誓約』には従ってもらう」

「しかし…!!!「否は、聞かぬ」

 そう言ってオールマイトの踏む地面から円柱状の光の結界を組むと、

「加わることを許さず、観ることを許す……許せ」

 そう言ってオールマイトを見る少女の瞳は、僅かに一度だけ揺れた。

 そうして視線を切って先ほどまでの冷徹な目へと戻った少女は敵をのみ見据える。今も地面にめり込ませる力に抗おうと、AFOは静かに絶叫しながら内にある効果があろう全ての『個性』を総動員してその脚を立ち上がらせる。

 体中のナニカが折れて千切れ、逆再生するかのように完治する音が耳元で響いてなお、AFOの口元は笑みを携えたままだった。

 

「やれるものなら、ね…!」

「抗うか、罪人(悪童)が」

 

 瞬間AFOの胸中が輝き、鈍重だった巨体が消え去る。軌跡を描くこともなく少女の背へ回り肥大化させた拳を突き出しながら、

「{『筋骨発条化』+『瞬発力×4』+『膂力増強×3』+『増殖』+『肥大化』+『鋲』+『エアウォーク』+『槍骨』}×()()()()()()×()2()()

()()()()()×()3()0()()

()()()()()×()6()0()()+()()()()()()×()6()0()×()()()()+()()()()×()4()()

 

 立て続けに両腕を身の丈以上の剛腕へと変異させ、数十を超える残像の拳を残しながら少女の周囲に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。拳と水晶に衝撃で大地が鳴動するが、少女は傷も汚れもなく()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

()()()()を使っているね?なら()()()()()×()2()()×(){『筋骨発条化』+『瞬発力×4』+『膂力増強×3』+『増殖』+『肥大化』+『鋲』+『エアウォーク』+『槍骨』+『凝縮』}、()()()()()×()3()0()()()()()()()×()3()()

 

 地上に、空中に、左に右に高速移動しながら立て続けに水晶を精密に乱射し、メキメキと音を鳴らしながらAFOは巨腕を元の大きさへ変えて残像の個数を倍加させる。しかし刻み込まれたような青筋の陰影を()()()強く浮かべる少女の立ち位置に変わりはなく、両拳を握り締めてなお反撃すらしないことでAFOが周囲を跳ねて回っているようにすら見えてしまうようであった。

 

「汝はつくづく吾を苛立たせる…斯様な振舞い、よくも吾の前でやるものよ」

「褒めてくれているのかい?」

「貶しているとも。心の底から不愉快を添えて…な」

「だったら余計にその鉄仮面だと面白くないなぁ!『炉心直列接続』×{『発条化』+『膂力増強』+『押し出し』+『鋲突』+『ダークボール』+『光塵』}!!」

「仮面を被っていたのはそちらであろうに」

 

 瞬時に距離を置いて叫ぶAFOの掌から青黒い光球が軌跡を描いて少女に迫り、

 

ドゴオオオオォォォォオオオン!!

 

 衝撃と爆風、黒い光が二人と周囲を包み込む。

 光が消え、衝撃が止まり…砂埃が晴れた所にいる二人は―――一人は肩を上下させながら、もう一人はただ睨みつけるように―――ただお互いを向いていた。そうして再びAFOの猛攻が再開すると、唐突にAFOの口が開く。

 

「これだけやっても傷すらついていないなんてね…!『個性』の上に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!おまけに顔色すら変えられない!」

 興奮とも感動ともとれるような弾んだ言葉を落ち着かせて続ける。

「となったら、いよいよ君…本当に『怪物』みたいじゃないか

 静かに、少女は睨む目を強める。そんなことを気にも留めずにAFOの口は楽しげに続ける。

「だってそうだろう?

 『解析』を起動してどんな『個性』を組み合わせても立てる歯なのかが解らない。

 君自身が一体どんな人間なのか、そもそも本当に人間なのかも分からない。

 僕がどんなに手段を選んだとしても君を殺し切れるような気すらしない。

 ほら。怪物と変わらないよ、君は!」

 

 純粋な子供のような声色でAFOは言葉を連ねて、街を照らすほどの極光を放つ。ただ一人に聞かせるような言い方でありながら、万人に訴えかけるように徹底した意志を滲ませて話しているようにも感じた。直撃しているはずの少女は袖の埃すら付かず、なお微動だにせずに言う。

 

「巨悪よ、去ね」

「嫌だと言ったら?」

「変わらぬ。汝と汝に与する全ての悪を消し去るのみ」

「そうか、残念…!?」

 

 AFOは続けるはずの言葉を、己の体に絡みつく銀糸によって止められた。瞬間的に『個性』で己を肥大化させながら『解析』を起動する。藻掻きながら得た情報は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という…まるで理解のできない構造物だった。しかし既に知っていた物質であり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()まるで扱えない代物だった。

 それを苦も無ければ自在に生み出し、捜査している目の前の少女が、却って恐ろしく思えてしまっていた。『解析』を起動しながらも脱出、打開の切り札を切ろうとしたその時だった。

 

「ない…まさか!?」

 

 AFO『個性:ALL FOR ONE』の真骨頂であるはずの()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。落ち着いていた身振りが『個性因子』の消滅に…最終手段すら撃てなくなっていく状況に伴って、どんどんと乱雑に錯乱するように暴れ始める。起動していたはずの『解析』もその出力がどんどんと落ちていく。『水晶』は出せず、『浮遊』による揚力が無くなり、『炉心』が消える。そうして最後に、己の力そのものであった『ALL FOR ONE』も…ついに感じ取ることができなくなった。

 それをただ見守っていた少女は枯れ木のように細く、老骨の如き様相となったAFOの身体を見ながら言う。

 

「憐れで愚かな巨悪で()()()()。汝と、汝の悪の終わりを始める」

 そう宣った少女(ルカ)は天を見上げ、唯一点の星に向かって続ける。

『神に変わりし我らの星よ。

 貴方が下せし【裁定】に従い、今ここに【執行】の様を納め奉る』

 

 

 その言葉とともに縛られるAFOの周りを球状に光の粒子が包み込む。空へと浮かんでいく己の身を攀じる事すら()めた男は、己の額に手を翳す少女を仮面越しに見つめていた。

 踊るようにして巻き上がる光が二人を中心に円転し、少女は厳かに諳んじる。

 

 

 

 

()が殺す。()が生かす。

()が赦し、(巫女)が罰する。

 

我が()に踏み入るものは一人もいない。

我が(経國)を逃れ得るものは一人もいない。

 

 

 大地に同心円状に幾何学模様が輝きながら描き出され、空中で円転する膨大な量の光の粒子たちはそれぞれに衝突し、融合し、その姿を大きく変容させていく。光球へ至った粒子たちは円環を滑るように遅く、速く…在るがままに回っていく。

 ―――まるで、太陽を廻る惑星のように。

 

 

請願せよ。

祈る者、欲する者を私は招く。

()を求め、(巫女)に委ね、()を仰げ。

 

礼賛を。

(うた)を忘れず、供物(くもつ)を忘れず、()を忘れず、

()は広く、あらゆる処に()はいる。

 

偽ることなかれ。

願いには代償を、正義には調停を、罪禍(ざいか)には刑戮(けいりく)を。

(たばか)る者には諫言(かんげん)を、(あざむ)く者には報復を。

 

 

 大地に描かれた模様の上を沿うようにして、翡翠色に彩られた水晶が柔らかい光を帯びながら作られていく。円環の最も外側の上空に四方、二人の側の四方にも巨大な水晶の柱が作られ…外は右に、内は左に廻り始める。

 ―――まるで、照門と照星のように。

 

 

天秤は(巫女)の手に、貴方の祈りを(さら)に乗せて言祝(ことほ)ごう。

 

誠の願いは、清廉なる者にこそ果たされる。

 

裁定をここに、()に代わりて(巫女)が遂げる。

 

 

 少女の瞳は翡翠に煌めき、その(かんばせ)に心を映すこともなかった。怒りも、恐れも、蔑みも、憐みも、一挙手一投足に至るすべての動きに一厘たりとて顕れもしない…ある種の『無の境地』があった。悪の残骸(AFO)はそれ見てなお、童のような好奇心の赴くままに考え、口にする。

「機械のようだね。君は」

 

 

 

 

 

今こそ、正しき秤の元へ(キリエ・エレイソン)

 

 

 

 

 

 瞬間、天よりもさらに上…暗く鮮やかな宙から一条の光芒が大地へ…二人へと突き刺さる。衝撃もなければ轟音もなく、ましてや熱風もない…しかしあまりの光の眩しさによって大地は昼天のように照らされる。

 目を刺すような眩しさを放つ極光も徐々に細くなっていき、空は再び紫紺の暗闇へと戻る。地上を彩っていた模様や浮かんでいた水晶、廻っていた光球、縛っていた銀糸も消えて…宙にいた人間は一人、少女だけが地に立って前を見ていた。

 亡骸もなければ灰もなく、先ほどまでの存在は夢だったのかと勘違いしそうになる…が、周囲にある瓦礫の山、穴が開き、傾いて所々が溶けているビル群だけが、消えた男の存在を証明してくれていた。

 

「【悪】は消し去る。全て」

 

 虚空を見つめる少女は、最後に言い残して消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 周囲には誰もいない。しかし撮影用のカメラは幾星霜に一度の天運によってその機能を失っていなかった。故に世界が知ってしまった

 テレビ、ネット、高層ビルのビジョンの目の前にいる人間、その一部はその映像に、その音声に、その言葉に煽られてしまった。しかしそれも一瞬のことであった。

 悪を文字通り滅ぼす存在。

 殺人、処刑を躊躇なく行う冷酷さと苛烈さ。

 理外の埒外としか言えない理不尽さ。

 たった一人の少女によって成された全てに、その映像を見たすべての(ヴィラン)は驚愕と呆然と恐怖に襲われていた。

 

あいつだけは殺す…!絶対に…!

 

 ただ、一人を除いては。

 

 

 





 ここまでの読了感謝いたします!

 ぜひぜひ感想や高評価など遠慮なくお送りください!

 FGOはついに夏イベ…という名のインタールードが開かれましたね…
 運営頑張りすぎじゃない…?大丈夫かしら?今すごく大変なのに()


 しばらく書き溜め期に入りますので続きをお待ちいただきたく思います!
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