星、宙より落ち来たる   作:明暗キレイ

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 巫女であれ。

 天秤たれ。

 等しく愛し、等しく罰せ。

 国に、民に、(ともがら)に。

 敵なき世のために在れ。



#3 急動と静止、そして

 

 

 

 会場内は依然として張り詰めた弦のような緊張と僅かな恐怖の音色を奏でていた。『平和の象徴』たるオールマイトも、ましてやプロヒーローたちでさえも床に設置されていたセキュリティ用の捕縛装置から射出したテープによって身動きを取れなくなっていた。

 首をゆっくりと動かして周りを見た時にいたデヴィッドに目配せをするが、彼は小さく横に振るのみとなっていたのを見て、オールマイトは歯を軋ませる。

 

(どうにかして解決したいが…会場内だけじゃない、島中の人々に害が及んでしまう。迂闊には動けない…!)

(待っていくれトシ。何とか解決策を見出して見せる!)

「おとなしくしてくれて結構。ただ一人、ここまで来てもらわなければならない人間がいる」

 首謀者だろう男は壇上で呼びかけるようにして話し、その人間を指す。空中を浮く光の面に座ってグラスを傾ける少女、ルカであった。

「聞いていたよ。お前が『星の巫女』だそうだな?ここまで来てもらおうか」

「……()が従うとして、汝に如何なる益が?」

「何もない。ただ損を減らすためだ。良くも悪くも噂に堪えない『水晶経國』。…その全権代理人ともあれば警戒もする。もう一度言おう、大人しくこちらの言うことに従ってステージに上がってこい」

 銃口を向けられながら命令されるルカは小さくため息を吐いて光を消して地に降りようとすると、

「おっと、忘れていた…。ここに来ること以外、何もするなよ?」

 

 返す言葉も言うことなく人々が譲るようにして駅上がって行く一本道を、コツコツとヒールを鳴らしながらゆっくり進んでいく。そのままステージに上がって仮面の男と相対する。すると男が耳に手を当てる。

「!」

 捕縛装置から飛び出たテープが風を切りながら少女の手足と体を縛り上げていく。何一つとして顔色を変えることなく、まるで全てを受け入れるようにする様を見ながら男は言う。

「それでいい、必要な処置だ。大人しく受け入れてくれるようでなによりだ」

 そう言って男は縛られたルカが静かに床に座るのを見終わってからステージを降りて会場内を歩き出す。

「大人しくしてくれている限り、お前たちに危害は加えない。時間が来れば解放する準備もある」

 そうして男はデヴィッドとその助手の二人を部下にどこかへ連れ出させて、巡回を再開した。陰鬱な雰囲気の中、ステージに横たわっていたオールマイトは一人考えていた。

 

(…この数のヴィランを倒し切って監視設備の復旧をする…。やれるのか…?いや、やらねばならない…!私は「(…其方は、人を信じているか?)」…ルカ、少女?)

 そうして自らの死角に跪くルカの唐突な小声に一瞬困惑をしながらも、オールマイトは言葉を返す。

「(…あぁ、当然だとも。私たちヒーローには背中を預ける友が必ずいなくては、人々を守ることも、救うこともできないのだから)」

 そう言うとルカは少し間を開けて言う。

「(であれば、なぜ()()()()()()()()()()()()())」

 冷や水を掛けられたように背が少し跳ねる。

「(…なにを、言っているのかな?)」

「(分からいでか。そも、直人(ただびと)たる其方はすでに全盛は過ぎておろうに…譲るべき道を未だ進み続け、老骨に鞭打つが如き所業を自ら許容し、其方を慕う他も留め置こうともせぬ。それほどまでに自らが動かねばならぬ理由はどこにある?)」

 

 至極当然かのように、ルカは彼の在り様を疑う。それは善意による気遣いでもなければ悪意による糾弾でもないことは、言葉の抑揚から明らかだった。彼女はただ純粋にオールマイトの在り方を不思議に思うが故に訊いているのだと気付く。

 …旧知の仲にある友人たちからはそれとなく指摘されていた。脳に一度でも過ぎらなかった訳でもなかった。それこそ最近になってようやく身に宿る受け継がれた『個性』(ONE FOR ALL)を継ぐべき人を探していた、本当にその程度の意思で考えていた。

 

 …理由であり原因は、自分の心だ。

 本音はいつも二つあった。枕詞は『衰えは実感している。』だ。

問題はその後だ。

『衰えは実感している。

 だからこそ早急に、正し継ぐべき心を持った少年少女を探し、巨悪を打ち破れるほどに強くたくましい次代の『平和の象徴』へと育て上げる必要がある。だからこそ今の場所を退いて後継者を育成する立場に変わるべきだ』

 もう一つは、

『衰えは実感している。

 しかし『OFA』に纏わる因縁に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。であれば最後まで私が【平和の象徴】で在り続けた方が良いはずだ』

 

 …正直無駄な思考であることには変わりなかった。『個性』の性質や因縁を考えれば()()()()()()()()()()()()()()()()。だが自身の代で巨悪(AFO)を倒すという命題は果たされた。あとはゆったりと平和の象徴として存在しつつ、長い目で次代を選定し、受け継がせればいいと、()()()()()()()

 

 (緑谷出久)という、継がせたいと思える少年に出会うまでは。

 巨悪(AFO)が、次代を育てているという事を知るまでは。

 

 ゆっくりと、オールマイトは口を開く。

 

「(立場が変われば人も変わる。私だってそうだ。だからこそ私は教師として育てる側に立った。だが【平和の象徴】としての私は、まだ降りるわけにはいかない。それだけだよ)」

 耳に届いたルカは合点がいったように目をわずかに広げて言う。

「(其方は未だ過渡期であったか。()の知と齟齬があった故、尋ねた。暇つぶしの雑談に応えてくれたことに感謝する)」

「(それは何より…。話は変わるんだがルカ少女、ヴィランたちを制圧してお客様を開放したいんだが…手助けを願えないだろうか?)」

 少しの期待と共にそう言うとルカは、

「(人を頼りながら、結びは己の力で為したいと。ある種の強迫観念だな。逆に感心してしまうぞ)」

「(そこを何とかお願いしたい…!)」

 こちらに向く素振りもなく返される。

「(それこそ人を頼るべきだな。上を見てよく考えることだ)」

 けんもほろろに断られながら、ルカの言葉に従って上を見ると、ガラス越しに見える上の階から小さな光と共に愛弟子の姿が見える。

(…緑谷少年…!?どうしてここに…)

 オールマイトがこちらに気付いたことに気付いた緑谷は横と話をしたかと思えば、口元に手を当てて二、三度と握り開きを繰り返して耳に当てた。一瞬の逡巡がありながらも前にいる少女の諫言が決定打となり、オールマイトは床に向かって話し始める。

 

「(聞こえるか…?(ヴィラン)がタワーを占拠。警備システムを掌握。この島の人々全員が人質に取られた…!ヒーローたちも全員囚われている…!教師としては君たちには一刻も早く避難してほしい。が…()()()()()()()()()()。こちらも気を窺って敵を取り押さえるつもりだ…!)」

 

言い切ったオールマイトは、開こうとしていた手足を元に戻していると、少女が口を開く。

「(それが、其方なりの信頼か?)」

「(…生徒を危険に晒すような真似をするバカな教師だよ、私は)」

(頭に手を抑えたいくらいバカなことを言ってしまったよ…まったく)

 

 子供たちの身の安全を願いながらオールマイトは巡回する敵たちを観察し始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オールマイトから耳郎へ、耳郎からその場にいた全員に共有された危険な状況を知り、各々が口を開かず重苦しい雰囲気がその場を漂っていたところに、峰田が言う。

「どうするったって…オールマイトは避難しろって言ったんだろ?ならそうしようぜ?オイラ達には荷が重すぎるよ…!」

「正確には『避難してほしい』だよ。そして『判断は君たちに任せる』って続けた。…アタシは、なんとかして助けたいって思ってる」

「でもどうすんだよ…!プロヒーローすら捕まってるんだ、俺たちが敵うと思ってんのかよ…!?」

「そうかもしれないけど…!このままで良いワケがないじゃん…!!」

「俺だってそう思ってるけどさ…無茶して迷惑かけるよりかはマシだろ…!」

「…意気地なし!」

「お前…!」

峰田と上鳴と耳郎が言葉の応酬を続けていくうちに互いの焦りと諦めが次第に怒りへ変わっていく。睨み合う二人が短絡(ショート)する寸前に間に誰かが入って行く。

「やめて…!」

「「…麗日」」

「いま争ってもなんもならんやろ?」

 そう言うと(ひたい)に昇った血が次第に引いて行き、それぞれが距離を取って佇む。そうして雰囲気が落ち着き始めた頃合いに飯田が切り出す。

「俺は雄英生として、学級委員長を務めるものとして、ここから避難することを提案する」

「…私も賛同いたしますわ。ヒーロー科と言えど所詮は学生です。ヒーローとして動く資格はありませんわ」

 飯田の言葉に頷きながら言う八百万。視線をメリッサに移して緑谷は言う。

「メリッサさんは、ここから脱出して逃げることってできると思いますか?」

 顎を指で小さく挟んでゆっくりと答える。

「…難しいと思うわ。セントラルタワーはタルタロスと同じレベルの防災設計で建てられてるから…」

 

 メリッサの言葉が再び重苦しい雰囲気に引き戻す。すると轟が不意に口を開いて、

 

「…耳郎、オールマイトは俺たちに判断を任せるって言ったんだよな?」

「…あぁ、そうだよ」

「なら、敵を倒さねぇで状況を良くする方法があるんじゃないのか?」

 そう言うと全員が轟を見つめる。

「…どうやるんだよそんなの」

「分からねぇ…。ただ黙って何もしないでいるのは、違うと思っただけだ」

 一瞬、各々の逡巡が静寂を呼ぶ。と、緑谷が唐突に言う。

「助けたい…!」

 宣言するように言う緑谷を全員が見つめる。

「助けたいんだ…!敵を倒さずにオールマイトたちを助け出すために、何かいい方法がないかをずっと考えているけど出てこない。みんなも、一緒に考えてほしいんだ!」

「なんでそこまでして助け「だって」…なんだよ?」

 峰田の言葉を遮るように緑谷は続ける 

「オールマイトが、僕たちを頼ってくれたと思ったから。普段のオールマイトなら『判断に任せる』なんて言わないと思う。そうだとしたら、オールマイトはどこかで僕たちを頼りにしたいって思ってくれてるんだと思う」

 言葉一つ一つの根拠は思い込みかもしれない。妄想に近い産物かもしれない。それでも、助けずにはいられないからヒーローを目指してるんだ。

 一度言葉を切って、全員を見ながら言う。

「頼ってくれるなら、僕は応えたい…!僕たちにできる最善の方法で…皆の、オールマイトの助けになりたいんだ!」

 

 そう言った緑谷の静かに燃える瞳が何かを揺するようで、どこか清々しかった。それが麗日さんに、飯田君に、轟君に、皆に伝播していく様子がとても心強くなっていくような気がしてくる。

 正直に言えば、できるかどうかも分からない。確証も根拠も何もなく、すべてが推定でしかなくても、この人たちとならやり遂げられそうな気しかしなかったから。

 心の向くままに、メリッサは言う。

「I・アイランドの警備システムはこのタワーの最上階にあるわ。敵がシステムを掌握しているのなら、認証プロテクトやパスワードは解除されているはず。ヴィランの監視を抜けて最上階に行き、私たちの手でシステムの再変更をすることができれば…みんなを助けることができるかもしれない…!」

 顔色と言葉に活気が戻り始める。それぞれが戦闘を回避し、警備の潜り方を話し始める。それぞれの得意分野を活かし、弱点を補うように最上階までのチャートが組まれていく。その光景がなんとも眩しくて、

「…最上階にたどり着いたら警備システムを元に戻すのは誰がする?」

「私がするわ!」

「メリッサさん…!」

「私ならシステムの再変更に時間をかけないと思う!…最上階にたどり着くまでは皆に任せっきりになるけれど、それでも…私もみんなを助けたいから…!」

 そう言うと、全員がメリッサの方を向いて、緑谷が言う。

「行きましょう!一緒に、皆を助けに!」

「…えぇ!」

 

 これが多分、人生初のヒーロー活動になる。そんな確信が、自然と沸き起こった。

 

 

 

 

 

 再びオールマイトの見上げる硝子の天井の向こうに緑谷が映る。その力強く決心に満ちた瞳を見ていると次第に心配と罪悪感、期待と納得感が心を満たしていくようであった。

(ここで動かないヒーローはヒーローじゃないよな…!教師としてのふがいなさは、必ず挽回して見せるとも…!)

 体から薄い蒸気が漏れだしていく。寒く、そして温かく感じていくことが、なぜか誇らしく感じていた。

(信じて待っているぞ…!有精卵ども…!)

 

 その様子を()ていたルカは、変ることなく前を見続けていた。しかし見える世界は会場ではなく、そのはるか上にあった。

(事は変わりなく、流れるままに進んでいるか。非常用の(きざはし)を利用して最上階を目指しているのか。原始的ではあるが、確実ではある。一人、遅れるようにして追随して…履物を放るか。あの黄金女(メリッサ)、優先順位を変えたか。)

 まるで教室の窓から運動場を見るような気持ちで、ルカは緑谷達の様子を()続けていた。彼らが汗をかき、状況が目まぐるしく変わって焦りながらも決意に満ちた顔はどこか新鮮にも見えた。

 片方では何やら拳を突き合わせて何やら忙しなく動くのを視て少し止めようかともした。が、一対一の状況でも優勢に動いていた。

(いや。彼奴(きゃつ)ら、存外上手くやる。貸さぬ方が却って良いやもしれぬな)

 起動する前に一面に薄く敷いた仕掛けを解くと、そう時間が経たないうちに決着がつき、男二人とも半身を氷漬けにされる。しかし直後に変なヤツが集団でどこかを目指すようでいて機械的な挙動で動いているのを見つける。

(…無粋だの)

 思い立ったが吉、さっき解いた仕掛けを()()()()()()()()()()()()する。

 

 

 

 夜の帳が降りる夜景の中から淡い翡翠色の光が塔の外観全体をほんのり薄く照らす。それが満月と重なったことで月へと繋がる架け橋を思わせた。

 外にいる混迷のさなかにいた観光客が気づき始めて少しずつざわめき始める。

「なにあれ…!きれい!」

「いきなり色々あってなんかかわかんねぇけど、サプライズだったりするのか!?」

「○スタに掲げちゃお~!イェーイ!」

 事情を全く知らない観光客に突如訪れた、心の安らぎの時であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 警備ロボットに道を塞がれていた緑谷達は事前の作戦に則って上鳴を投入して一網打尽にしようとしていたが、ロボが防御態勢に入ったことで機能停止に陥らせることができないでいた。反動で脳みそが文字通りバカになった上鳴は敵地のど真ん中でボケェっとしていた。

「上鳴君!!!」

 一人がそう叫ぶ。しかしいつまでたっても警備ロボットは動くことはなかった。それどころか一台たりとも捕縛もしなければ移動を始めようとすらしていなかった。

「…やっぱり、効果があったのか?」

「分からない、けど今のうちに上鳴君を回収して先に進もう!」

『うん!』

 

 そう言って上鳴を担いだ飯田が最後尾で後方で止まっているロボたちに注意を向けながら一団は上へと向かっていく。サーバー室に到着した一団だが、道の先には夥しい数の警備ロボたちがその場に立ち尽くしたままになっていた。

「ここのロボットも止まってる…。何かエラーでもあったんだろうか…?」

「デク君!考えるのは後にしよ!」

「うん!でも、この道は進めない。他の道を探そう!」

 そう言う緑谷に飯田が声をかける。

「緑谷君、ここからは二手に分かれて向かおう!」

「どうして!?」

「最終目的地は一緒だ!分かれて向かう方が向こうの戦力と監視の目を分散できる!俺は上鳴君を背負いながら耳郎君、八百万君、峰田君と共に別ルートから向かおうと思う!緑谷君はメリッサ君と麗日君と一緒に向かってくれ!」

 一瞬の思考を持って緑谷は結論を出す。

「…分かった!行こう!麗日さん!メリッサさん!」

「「分かった!」」

 

『また最上階で!』

 

 互いにそう言い残しながら一団は二組に分かれて向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 瞳は全てを映し続ける。彼らの共闘の様子や創意工夫の瞬間、敵の襲来に応戦する様、パーティー会場にいる人々の沈んだ顔、()()たちの苛立ちを隠さない様子、外の人々が塔を撮る様子、そして父の思惑を知る娘の驚愕の顔を…その全てを視ているルカは、小さくほほ笑む。

(…仲良きことは美しき哉。しかし、愛想も懸想も想いを注がねばいずれ尽きる。此度は裏返るのか、それとも(ただ)すのか。余興ついでに知りたいものだ。識らねばならぬゆえに)

 注視するのは、最上階でデヴィッドによって語られる真相。デヴィッド・シールドが開発した『個性増幅装置』という、機械的に『個性』の出力を増幅させる機械は、I・アイランド管理側の意向によって没収・研究自体の凍結の憂き目にあったこと、そして…なんとしてでも研究を継続するために発案、実行したことが、今回の事のあらましであると、(デヴィッド)は、(メリッサ)に伝えた。驚愕と失望に彩られるメリッサと緑谷を前に、別の人間が現れる。

 敵の首謀者、名をウォルフラム。偽物の演技をした『本物の敵』である。彼と取引したのだろうデヴィッドの助手がその装置を渡し、裏切りを暴露する。急変する事態に追いつけないデヴィッドはただ首を俯かせる。しかし、メリッサは本来の役割を全うするために管制室へ向かい、緑谷はその後ろを守り切った。

 全てのシステムは、元に戻った。厳重警戒、通信、警備ロボットの全てが通常へと移行した。そうしてヒーローたちの拘束も解け、反撃を開始する。

 ルカは全てを視聴(みき)きして、その僅かに上げた口角を戻さない。

「やり遂げてくれたか…!」

そう呟くオールマイトに一言。

「信頼の味は、如何なるか?」

「最高だね…!全く!!」

 答えと共に大きなサムズアップをして、オールマイトは瞬時に外へと駈け出していく。

 見送るように背を見つめるルカも、目覚める。

「同じだよ。(わたし)も」

 そう言って大きく深呼吸を一つして、

 

()()()()()()()。戯れに使うた玩具は、片付けねばな?」

 

 言葉を残して、少女は消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 軍用ヘリに投げるように入れられるデヴィッドは、ぼやけた視界の中で何かを叫ぶ少年をのみ見つめていた。

(緑谷…君?)

「僕は!!みんなを助ける!!」

 襲い掛かる鉄塊を拳で薙ぎ払いながら、ただ一点を目指して駆けていく。

「みんなを・・・!博士を助けるんだ!!!」

 敵が何かを離すたびに、全ての方向からの攻撃を砕き、潰し、飛び越えながら叫び続ける。

 

「ヒーローは!困ってる人を助けるんだ!」

「だからいつも命懸けだ!!」

「命を懸けて、困ってる人を助けるんだ!!」

 

 飛び立っているヘリの中からでも聞こえるその声は、今までに聞いてきた誰よりも真っすぐで、嘘も隠し事もないような純粋さがあって。

 まるで、私が憧れて、生涯をかけて支えたいと思えた(オールマイト)のようで。

 そう言うと、塔の横から文字通り跳びあがってきた男がいた。

 全ての闇を払うかのような絶対的な(希望)が、その声に乗っていた!

 

「私が来た!!!」

 

 そうして彼は、ヘリを貫きながら私を抱えながら救い出してくれた。自らの背を預けている腕も、身体を覆う力強さのなにもかもが、何一つとして変わっていなかった。

 

 あぁ、オールマイト。

 

 いつまで経っても、君は変わっていないんだな。

 

 

 ヘリの爆発を背景にオールマイトはゆっくりとデヴィッドを地面に下ろし、様子を確認する。

「…相変わらずの破天荒さだな」

「HAHAHA!!それが私らしさでもあるからね!」

 そう答えられている間にメリッサが近づいてきた。

「もう…大丈夫だ」

 そう言って返せば安心したように顔を綻ばしてくれた。そしてもう一度オールマイトの方へと向き直して何か言おうとする。

 

ガコオオォォォン!!!

 

 しかし、私の目の前にあったのは巨大な鉄塊だった。

「「オールマイト!?」」

 緑谷とメリッサがそう叫ぶ先には、殴り倒されて少し蹲っているオールマイト。下手人は言わずもがな、敵グループの首魁のウォルフラムだった。その頭部にはデヴィッドの開発した『個性増幅装置』が接続されていた。

 ウォルフラムは『個性』の効果範囲をさらに広めていき、塔最上部のほとんどを手中に収める。そして鉄塊を引きはがし、繋ぎ合わせ、おどろおどろしい姿へと変化していく。

 まるでそれは、塔に憑いた巨大な幽霊のようであった。

「さぁ…!装置の商品価値を上げるために…オールマイトを倒すデモンストレーションといこうか!!!!」

 

 謳うように言うウォルフラムは、宣言通りにオールマイトに目掛けて夥しい数の鉄の触手で襲いかかる。

 しかし、

 

「なぜ…なぜ動かない!!!!これほどの出力を発揮しておきながら!!なぜだ!!」

(わたし)が止めた」

 全員の後ろから、ヒールが床を叩く音と共にそういう声が聞こえる。後ろを向くと、まるで散歩をしてくるかのようにこちらへ近づいてくる少女がいた。

「ルカちゃん!?」

「どうしてここに!?」

「理由なぞあやつ(ウォルフラム)を片付ける。ただそれのみよ」

「片づけるって…どうやってそんなこと!?」

 そう言うと、彼女はメリッサ、緑谷より前に出て、

 

「ただ、観よ」

 

 ただ一言、翡翠色に煌めく瞳が二人を見て、前に向き直す。対するウォルフラムは自らの底から湧き上がる力に踊らされるように言葉を連ねる。

 

「やれるもんならやってみろよ!!『巫女』さんよぉ!!」

 

「良かろう。では、解け

 

 一言。ルカが軽く口を割った瞬間に、屋上だった地面が瞬く間に翡翠色に輝き出す。光はどんどんと塔全体を包むようにして行き渡る。すると次第に地面から光の柱のように粒子が空へと舞い始める。きらきらと、星々に見紛うばかりの幻想的な風景が、状況に対するアンバランスさに拍車をかけていく。

「虚仮威し何かか!?」

 そう叫びながらウォルフラムは『個性』を使おうとする。しかし、彼自身が生み出したはずの鋼鉄の幽霊は、主人の命令に何一つとして従うことはなかった。

「なぜだ…!?なぜ動かない!?!?!?」

「ここはもう既に、(わたし)空間(場所)だ。汝が何を考え、何を行い、何ができて何ができないのか。その全てが分かる。故に汝の『個性()』のみを封じた。ただそれだけのこと」

ルカの話す事の何一つとして理解できていないが、ウォルフラムはただ実感として、増幅されているはずの『個性』がまったくと言っていいほど効果を発揮していないことだけは把握できていた。

悪態をつくように唾を吐いて、

「化物が…!でもなぁ!!」

「生身ならお前をぶっ倒すことはできるよなぁ!!!」

 そう叫びながら鋼鉄の幽霊から飛び出たウォルフラムは落下速度をそのままにルカに殴りかかる

「「危ない!」」

そう言って応戦しようと緑谷とオールマイトが飛びこむようにウォルフラムに近付くが本の数コンマ秒、敵の方が速くルカに到達してしまう。

「死ねええええぇぇぇl!!!!」

 悲鳴が響く中でそう叫びながら少女の顔面目掛けて拳を振りかぶる。

 

 

「遅いわ、戯け」

 

 

 瞬間のことだった。あまりに唐突に訪れた決着であった。

 …結果だけをいえば、(ウォルフラム)は振りかぶる姿勢も拳もそのままに、体全体が顔に引っ張られるようにして光る地面に叩き潰されていた。

 しかしその過程では、いつの間にか握っていた拳を振り抜き、敵の頬へと打ち抜くように繰り出し、その後のめり込ませるようにして地面へと拳の進路を変えた。敵の顔が接地したと同時に、その衝撃は瞬く間に塔へと伝搬を始めた。

 顔越しに押し付けた拳の周りに亀裂は発生せず、ただ塔の真上から真下までに一直線に続く縦穴が完成する。

 穴が完成すると、縦に及んだ衝撃を何とか横に逸らそうと世界の統一法則(物理法則)が作用を始める。

 縦方向の衝撃はそれぞれの床が一瞬かぎり耐久したことで横方向の風圧へと変化し、その穴を巨大化させると同時に周囲の強化ガラスを全て粉砕し、屋上以外のセントラルタワーの各階層では、全方位からガラスの雨が放射状に降り注いだ。

 

 ここまでの現象を、デヴィッドも、メリッサも、緑谷も、オールマイトでさえも視認することはできなかった。彼らが目にできたのは、少女が行った行動の結果…すなわち敵が地面に埋まり、少女が拳を振り抜き終わった今の状況のみであった。

 

「終わったな」

 

軽く手を叩きながら、さも片付けが終わったようにそう言うルカは、地面を照らしていた光の粒子を完全に停止したウォルフラムと囚われていたデヴィッドを包んで中に浮遊させる。

 デヴィッドを地に下ろし、ウォルフラムのみを連れてこの場を去ろうと足を進める。

 

「少し待って欲しい!」

 去る足を止めたオールマイトの方を向いて、ルカは答える。

「なにか?」

「…ありがとう!君の助力に、ここから感謝を!」

 そう言って、いつもと変わらない笑顔をルカに向けると、帰すように小さくルカも微笑んでいう。

「受け取ろう。この顛末と処遇は、後日此方から伝える」

 そう言ってもう一度振り向こうとすると、

「…待ってくれ」

「…まだなにか?」

 呼び止めたのは意識の戻ったデヴィッドであった。

「なぜ、私を連れて行かない?」

 そう言うと少し黙ってからそろりと答えた。

「…それもまた後日改めて説明しよう。()()()()()()()()も含めて、な」

 

 

 

 そう言って、少女は斃れた悪と共に光に包まれるようにして連れ去った。

 屋上の残された四人は、それぞれが思い思いの言葉を紡いだ。助けられたことと命が救われたことへの安堵を。光を失うことへの恐怖とその未練が消えたこと。親と子の消えない絆を確かめる言葉を。何よりも、『新しい光』が芽吹き始めているということを、それぞれが、それぞれの言いようで表現した。

 

 その睦まじい姿を、白み始めた空の上で、月と星々は見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。

 I・アイランドの優秀な技術者たちと最先端のテクノロジーによって管制塔の全面復旧、及び警備システムの全面改修は一般公開の開始を告げるセレモニーの二時間前に完了し、観光客の大半が抱えていた不安を完全に払拭し、驚愕と歓喜を与えることに成功した。

 ちなみに昨晩のヴィランによるテロ事件は公に発表されることなく、パーティー参加者のみが真相を知っているということから緘口(お口チャック)だけの処置で済んだ。そのため、海外政府の九分九厘がその事件があった事すら知らない状況になっている。

 そして真実を知っている方の雄英生は、I・アイランドの偉い人()とお約束を結んだ後に、残りの雄英生と合流してBBQパーティに勤しんでいた。

「おい!それはオイラが取ってたやつだぞ!返せよ!!!」

「それならちゃんと皿とるか串に刺しとけっての!」

「峰田また取られてやんの~!…おいそれ俺のだぞ!!」

「取られる方が悪いんだよ~」

「「ぐぬぬ…いつかギャフンと言わせてやる~!!」

 という、いうもの耳郎のからかいに振り回される峰田&上鳴という構図は変わらず、麗日は蛙吹と食べさせあっていたり、轟や八百万、口田といったメンバーはそれぞれのペースで口の中を幸せにしており、葉隠&芦戸の二人は他の男子と一緒に場を盛り上げながらお肉を頬張っていた。

「…そういえば、いつの間にか緑谷いなくね?」

「どこ行ったんやろ?」

「緑谷君はメリッサさんの所に行ったらしい。一緒にデヴィッド博士の所にお見舞いに行くそうだ」

「「緑谷のヤロウだけお見舞いデートかよう…!羨ましいなチクショー…!」

 二人そろって歯を食いしばりすぎて唇を噛み切りそうな勢いで血涙を流す。

「二人とも血涙流しとる…」

「そんな悔しがることが?」

 女子の視線はとても冷たかったがバカ騒ぎは止まらない。

 

 

 

 

 

 ところ変わってI・アイランド内にある病院の一室。二人の警官が扉の前を警護する部屋の向こうには5人が集まっていた。

 一人は部屋の主兼患者のデヴィッド。二人目はその娘のメリッサ。三人目は患者の親友のオールマイト。四人目はその生徒兼後継者の緑谷。そして五人目が、このメンバーを呼んだ本人である。

 それまでとは打って変わった、爽やかな表情でデヴィッドは話し始める。

 

「それで、昨日の今日で急に集めてほしいと言われたから呼んだが…どうやって連絡先を知ったんだ?」

()、『星の巫女』ぞ?」

 全員が何となく察したのでメリッサが切り出す。

「それで、私たちを呼んだ理由はなにかな?」

(わたし)からの用事は大きく分けて【報告】【謝罪】【釈明】の三つだ」

 そう言って手元に合ったソフトドリンクで喉を潤して、ルカは続ける。

「一つ目の【報告】だが…其方らの助力で捕縛した(ヴィラン)についてだが、先程裁判が終了して刑期が確定した」

「あいつは…ウォルフラムはどうなったんですか?」

 緑谷の発言から一瞬雰囲気がピリつくが片手で抑えるようなジェスチャーをして続ける。

「安心せい、執行猶予なしの懲役十年。ついでに出国の永久禁止と相成った」

 

 そう言って安心する反面、少し不服に感じた緑谷は口を開く。

 

「懲役…十年になるんですか?テロ行為とそれに付随する色々な罪があると思ったのでもっと長いか、もしくは…と考えていたんですけど」

()()にとっては異国故に当然の疑問だな、答えよう。もちろん(わたし)の國にも当然テロ等の国際犯罪に関する法整備はある。I・アイランドという『異国人が多く住み、常識や相対規模感も異国に寄っていたこと何よりも異国の観光客を巻き込んだこと』という、国際的観点に則ったが故にテロ判定となった。しかし、今回のテロの規模は、我が国におけるテロ行為の被害想定を下回っていた。よってそこまでの刑を積むことはできなんだ」

 あの規模のテロ行為が、国内の想定基準を下回っているという言葉に聞いていた全員が愕然としていた。

「…すまない、少し質問してもよいだろうか?」

「よい」

「ありがとう。今回起きたテロの規模は、そちらの国ではどの程度に収まるのだろうか…?」

 そう訊くとルカは大きく首を曲げて小さくうなりながら思い返すように考える。そうして何秒か経ってからゆっくりと話し始める。

「そも、わが國では()()()5()0()0()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。故に今回の被害規模は国内にある事故による災害と比較になるが…そうだな、()()()()1()1()()()()()()()()()()()だろうな」

 愕然を通り越してもはや嘘と信じたくなるほどの言葉だった。日本やアメリカの国内であれば、間違いなく新聞記事の一面、緊急ニュースとして割り込み放送、SNSのトレンドを埋め尽くすくらいにはインパクトと被害規模であるはずだ。

 それが、11歳頃の子供の癇癪と同程度…?

 4人は想像するだけでも次第に恐怖を掻き立てられていった。把握ができない恐怖、理解ができない恐怖、そして…未知による恐怖。そうなってきてしまった4人は生返事だけでやり過ごそうと口から薄く「そうなんですね…」端的に返した。

「うむ。故に『出国の永久禁止』の措置を後付けながら施させてもらった」

「…『出国禁止』?入国禁止じゃなくて?」

「然り。そちらの反応を鑑みても()()()()()()()()()()()()()()事は解っていた故な」

 『…あ、それはそうだ』と全員が納得したように大きく頷く。

 

 その間にルカは紙コップを傾けて喉を潤して話を再開する。

 

「では二つ目の主題の【謝罪】だ。初めに言わねばならぬことがある」

 そう言って、ルカはデヴィッドの方を向いてその青い瞳を直視て言う。

「其方の研鑽、我が國の思惑で排斥したこと…國の名代として謝罪する。真に、すまなかった」

 そう言って深く半身を折る。唐突な謝罪の言葉に慌てて止めようと半身を動か追うとするデヴィッドの方に痛みが迸る。

「パパ!安静にしなきゃ!」

「分かってはいるよ。だが、いきなりすぎて正直こちらも混乱してるんだ。説明をしてくれるのかな?」

 そう言うと、頭を下げたままルカは答える。

「…謝罪を受け取った…ということか?」

「最後まで説明を聞くまでは…受け取るかどうかは、分からない。だからこそ僕たちに説明してくれると、私も判断がつく」

 国の元首の名代になんてことを言ってるんだ、と心の中で思いながらそう言った事で、ゆっくりと顔を上げたルカが言う。

「…そうか。であるならば、第三の主題である【釈明】を行うとしよう。」

 そう言って言葉を切り、一拍開けてからまた話しだす。

 

「初めに釈明することは、『個性増幅装置』の没収と研究の凍結の理由は、その危険性故ではない」

 ド頭に爆弾を投げつけられたような衝撃がデヴィッドに襲い掛かる。

「どういうことだ!?スポンサー…要は君たちからの圧力で…!私は…!」

「表向きの理由は全て虚偽のものだ。本当の理由は()()()()()()()()()()()()である」

「…ここまでの状況?どういうことだ、ルカ少女」

 オールマイトの引っかかった疑義に、静かに答える。

「I・アイランドという我が国の領土で事件が発生し、その解決を異国人…それも日本人によって解決された状況のことだ」

「なんで、そんなことを?」

 緑谷がそう言うと、ルカの翡翠のような瞳が時間を追うごとにまるで蛇のように得物を見つめるような、鋭く威圧的な目へと変わっていく。

 

「その《意図》は、日本という国に正面から入国するためである。

 その《狙い》は、ある者とその影響下にある()()()()()()()()である。

 その《由》は、その者がわが国民を害したからである」

 

 わずかに肩を震わせながらそう言う。その姿はいつも見てきていたような、誰かのために怒るような、哀しみを携えているような、そんな大きくて少し心配になる背中だった。その姿を見ていたデヴィッドは、持っていたはずの怒りや困惑が引いていくように感じでいく。上層部の利権や理不尽によるものではなかった。それだけで、何か救われたような感じがしたからだ。

 緑谷は、最後に引っ掛かっていた言葉を訊きだす。

「そのある者って、誰のこと?」

 そう言うと、大きく深呼吸を一つして。

 

「ALL FOR ONE」

 

「「「「…え?」」」」

 全員の耳に聞いた事のある名前が、少女の口から飛び出てきた。

 もう一度、決意に満ちた声で言う。

 

 

「ALL FOR ONEに与する全てを消滅させる。現在の我が國における至上命題である」

 

 

 

 





ここまで読了感謝です!

よければ感想やいいね、評価等遠慮なくよろしくです!
皆の言葉が、私を頑張らせてくれるのです!



立て続けに第3話を書いております私、
しかしヒロアカの大雑把なストーリーしか把握しておらなんだ…
なので頑張って追いつこうと頑張っていく所存です!


では、よろしく!

P.S. 奏章Ⅱのオルタの「マスターちゃん」がただかわゆい…
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