星、宙より落ち来たる   作:明暗キレイ

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 星は、止まらない。

 天球に沿う様に、廻り続ける。

 たとえ見る者が止まろうとも、止まらない。

 星が、鼓動を止めるまでは。

 見えざる糸が、消えるまでは。




終始の節目:神野区
#4 擦り合わせと要請


 

 ドキドキとワクワク、ハチャメチャに彩られた『I・アイランド見学』から数日が過ぎた。色々な決心や覚悟、新たな出会いを果たした緑谷はいよいよ始まる夏合宿を前に、ある場所に訪れていた。

 

「でかい…門の奥が雑木林しか見えないよ…!!!」

「さすがというべきだな…!八百万君のご実家の力をヒシヒシと感じる!」

 隣にいる飯田も同様の感想を述べると、場所を用意してくれた八百万はインターホン越しの声も明らかに上浮いた声で答える。

『それほどではありませんことよ…//…コホン…どうぞ中にお入りください』

 そう言って門が奥へと開いていくのを見て改めて思った。これがブルジョワなのだとほぼ確信に近かった。

 開いた門を通って道なりに進んだ先に八百万が立ってこちらに軽く手を振っていた。「お待ちしておりましたわ!」と一言添えて、二人を家の中ではない別の場所へと足を進ませた。

 

「八百万さん?どこに行くんですか?」

「敷地内にある湖の側にある離れの方にご案内をと思いましたの」

「「(湖…!離れ…!)」」

 そう言って歩いて二、三分ほど歩いた先の開けた場所にあったのは、連なる山々を背景に対岸が見えないほど広々として澄み渡るような美しさのある湖、その横に一軒家が二つほど入りそうな普通に豪邸とも呼ばざるを得ないほどの大きさの離れが、ダークブラウンを基調とした重厚感のある建築様式故のクラシカルな雰囲気を漂わせていた。

 「「(あれが、離れ…!)」」

 夏の暑さのせいではない手と背が汗まみれになる緑谷と、飯田でさえも進む足がだんだんとカクつきはじめる様子を見せるなか、八百万ただ一人だけが自分の部屋に入るような軽い感じに離れの玄関を開けて中に入るように呼び掛ける。

 進んだ先にあった見たこともないぐらいに磨かれた円卓があり、金の意匠が場の美しさを引き立たせるような椅子に座るよう八百万から言われる。

 

「「(…さすがに、緊張してしまう…!!!)」」

 ビクビクを表に前回にしている緑谷と完全に真顔のままフリーズする飯田の二人の顔を見ることなく八百万はその場を離れていく。

「…すわろうか」

「……そうしようか」

 そう言ってお互いに頷きながらゆっくりと椅子に座る。己の尻から伝えられるクッションのあまりの柔らかさについ呟く

「「…ふっかふかだ……」」

「お待たせしましたわ!お紅茶とお菓子ですわ、お菓子はお好きなものをお取りください!」

 そう言ってワゴンの上には言葉で表せないくらいとっても美しいカップと色も形もとりどりのケーキが乗ったタワースタンドとともに八百万は現れた。

「「(ブルジョワが止まらない!!)」」

 

 二人は恐る恐るというように軽く紅茶を口にして、その芳醇な香りと味に蕩かされるように顔がゆるくなっていく。その様子をにこやかに見つめながら言う。

「お口にあって何よりですわ!」

 

 そうして緑谷、飯田はしばらくの間、八百万主導のブルジョワお茶会を過ごしていたなかで、飛んでいた意識が復活したのは飯田が先だった。

「…ハ!ところで八百万君、手筈はどうなっているのかな?」

「問題なく、今すぐお繋ぎいたしますわ」

 そう言って彼女の手の中に隠れていたリモコンのボタンを押すと、開いていたカーテンが閉まると同時に壁に取り付けてあった巨大モニターが起動する。そうして何らかのプログラムが立ち上がっている相賀に緑谷が意識を取り戻す。しばらくすると金髪に青い瞳が眼鏡越しに映る、最近会った懐かしい顔が映り込む。

 

「メリッサさん!お久しぶりです!」「久しぶりだな!「お久しゅうございますわ!」

『久しぶり緑谷君!飯田君も、八百万さんも!そんなに立ってないけど元気そうでなにより!』

「こちらこそメリッサ君!忙しい中で時間を作ってくれて感謝する!」

『そんなことないよ!こっちも今は夏休みだから!』

「それは安心しましたわ!ところでこちらからの贈り物は届いたのでしょうか?」

『うん!これだよね!マグカップとコーヒー豆のセット!たまにだけどパパと一緒に飲んでてね、もうすっごく美味しくて!パパも飲むたびに美味しいって言ってるよ!贈ってくれてありがとう!』

「それは何よりでしたわ!」

 それからは互いの近況やこれからの予定などと言った軽い話題を、紅茶とお菓子を摘まみながら軽く話していく。笑いあり悪ふざけもたまにありな、のびのびとして弾んだ会話を繰り広げていった。そうして雑談がひと段落すると飯田が軽く咳を挟んで言う。

 

「…さて、本題に入るとしようか」

 そう言うと全員が先程までのにこやかな顔をしまって、真剣な顔つきへと変える。反応した八百万が引き継ぐように言葉を続ける。

「そうですわね、本題に入りましょうか」

水晶経國(クリスタル・ストラ)についてのこと、だよね」

「そうだね…まずどこだったかな?」

 そう言うと八百万がリモコンを操作して画面に地球のマップを表示させて、ある大陸へと移動させながら言う。

「水晶経國。

 場所はアメリカ大陸の真下にある大陸…300年ほど前の時代では南アメリカ大陸と呼ばれ、現在では水晶大陸と呼ばれる大陸全土を領土といている国ですわ。

 総人口は不明。社会構造・経済機構・政治体制の一切が不明。国際連合には非加盟ですが、大使館は各国に配置されているようですわ。

ちなみに今映っている地図は衛星写真によるものですけれど、いざ拡大しようとすると…」

 と言いながら大陸の地図を拡大していくと、途端にモザイクが掛かったように景色が見えなくなり、大雑把な色合いだけが表示される。

「このように詳しい風景が一切見えなくなりますわ。これらの状況もあって『最も謎に満ちた国』としてある意味有名になっている…。この程度はみなさんもご存じの所だと思いますが…」

「うん、僕も同じくらいだと思う」

「俺も同様だ。追加するなら、この国のトップに立つ人を【星の巫女】と呼んでいる…という事くらいか」

『…そうだね。わたしもその程度しか知らないわ』

 

 そう。僕たちはルカちゃんに会って…彼女が【星の巫女】であると知ってしまった。あの時は突然すぎて何が何だか分からなかったし、僕自身があまり知らなさ過ぎたせいで飯田君に頭を掴まれるように下げられたこと、それを変に思った僕が改めて彼女を知るためにこの会を催してもらうようにみんなにお願いした…という経緯(いきさつ)で、僕たちはここにいる。

 

「運か不運か、俺たちはルカ君…水晶経國の【星の巫女】に出会ってしまった。非公式とはいえ、本人から守秘義務を命じられたこの四人で、改めて彼女と彼女の住む水晶経國の事を知り、情報の整理をするべきだという結論に入った。……そもそもだが、いつごろ建国したんだろうか?」

こっち(I・アイランド)のアーカイブを調べてみたけど、一番古い記録でも1800年代くらいに一度アメリカが接触したみたい。ということは、もうその頃にはそれなりの政治や社会のシステムは出来上がっていたんじゃないかな?』

「…邪推になるが、ルカ君も我々との意思疎通をそつなくこなしていたことからも、日本やアメリカと最低でも同じレベルの国家水準はあるとみて良いんじゃないか?」

『そうかもしれないね。…まぁ、今もずっと昔の二ホンみたいに鎖国?してることには変わりないから。あまり判らないけどね』

「…つまり、水晶経國はまともに外国との接点がないまま今までやってきていた、ということだな?」

「飯田さんの言う通りだと思いますわ。…ですけど、聞いてほしいことがありますわ」

 八百万が小さく手を挙げながら続ける。

「お父様のご親戚やご友人の方々からそれとなく聞いて回ってみたのですが…どうやら第二次世界大戦の折に日本とアメリカの両国と何かしら関わりがあったようですわ」

 傍にいた緑谷と飯田が目を見開きながら言う。

「それって…」「…不思議だな」

「えぇ私も同感です。ここから先は口伝なのですけれど…()()()()()()()()()()()、だそうですわ」

「そうなってくると」『話は変わってくるね』

 

 緑谷とメリッサは八百万の言葉からある程度の意味を察した。

 というのも、そもそも講和は両国と接点があり且つどちらにも肩入れしていない所謂『第三国』が仲裁することで成立しやすいとされている。そのためにもっとも重要なのが『力のある国』が提案することである。そうでなければ戦いを有利に運んでいる国が応えることも、ましてや耳に届くことなどあろうはずがない。

 つまりは…水晶経國は1900年代中盤の時点で既に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という事になる。

 メリッサが半身を少し傾けながら言う。

 

『もし200年前からその力関係がずっと変わらないのなら…パパの生まれ故郷のアメリカは、ずっと南を警戒していたってことになるけど…『個性黎明期』を除けば軍事予算を殊更上げていたみたいな話もなければ、予算編成を大幅に変えた時期なんてこともないし…』

「反対に日本だとどうだったのだろうか?俺たちの授業でも教科書の上でこの国の名前が出てくる回数は数える程度もない…強いて地理の時に登場するくらいか」

「そうですわね、私もお父様やお母様にお話を伺った時に口にした程度ですし…お父様たちもそこまで詳しくは存じていなかったようですわ」

「僕なんてそんな国があったことすら知らなかったよ…」

 そうして呟いた時に少し変なことに引っかかる。

「そういえば、どうして【星の巫女】のことは公表したんだろう?」

「他国の大統領や首相と同じようなものじゃないのか?いわゆる国家の代表として公表する必要があったのかもしれない」

『それか、教えても問題がないから…とかかな』

「そう…なのかな?」

 

 いまいちピンとこない緑谷は少し顔を傾けて考えに浸る。しかし下手な考え故に休むようにして主題はここで終了し、思考はちょっとした駄弁りへと話題の方へと変えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は東京、千代田区。

 日本の指針を決定する者…内閣総理大臣という肩書を持って、今日も引き締めた顔をして執務をこなしていた。そこへノックが鳴る。

「入りなさい」

「失礼します。総理、取り急ぎご連絡がございます」

 そう言って部屋に入って執務机を挟んで真正面に立つ男の顔は少し強張っていた。

「君ほどの人間が、どうしたというんだ?」

「…【星の国】の大使より、預かり物です」

「…!」

 そう言って手渡された小さめの封筒から取り出して三つ折りの紙を広げる。文章をなぞっていた目が次第に揺れ出していく。

「首相…如何なさいましたか?」

「【巫女】の名代が、私の元へいらっしゃるそうだ」

「…なんと、真ですか?」

「一度でも、君に二言を言ったことがあるか?」

「…承知いたしました。ではいつ?」

()()。直接おいでになるそうだ」

「……本当ですか?」

「不安なら君も見ると良い」

 そう言って手渡された紙を同じように読むと、話した言葉と相違ない内容が書き込まれていた。そして続きを読んでいくと、一つ際立った文字列に目が入る。

「オールマイトを護衛として同席するようにと、書かれていますが…」

「…あぁ、対応してくれるか?」

「えぇ、ご指示ならばもちろん恙なく済ませましょう。…しかしこう主題もなければ目的も曖昧な書き方をされますと、私としては些か不安を感じてしまいます」

「……同感だ、しかし我々は応えなければならない。我が国との間に()()()()()()()な」

 そう言って小さく息を吐いて、続ける。

「国内が『個性』の登場によって荒れようとも、全ての国家が我が国を唆すことも容喙することもなかったのは、ひとえにかの国との協約…このひとつのみが故であるのは君も知っていよう?」

「…仰る通りです。今でも、あの光景を忘れることはありません…」

 思い浮かぶのは、目の前の方が首相に就任して最初の海外訪問に同席した時の数日間。生きておられる全ての元首相議員の皆様から口裏を合わせる様に『海外初訪問は星の国(水晶経國)にせよ』との言葉に従い、半日間の空の旅の後に到着した際に目の当たりにした全ての光景と衝撃を、忘れることなど出来ようか。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 片方の二の腕を軽く握り絞めながら話す。

「明日以降に予定していた議事、協議等は私の方で調整いたします。総理は本日の予定通りに勤しまれますよう、お願いいたします」

「うむ…頼んだぞ」

 そういう男…総理大臣の言葉に会釈で返した男はそのまま執務室を退出していった。扉が閉まるのを座って見届けた男は背凭れに体重を預けながら大きくため息をついて、

 

「何が起きるというのか…公安からは(ヴィラン)連合なるテロ組織が活動を活発化させていると聞く。…まさか、な」

 

 下手な推測も明日になれば判明するのだからと頭の隅へと放り捨てて、冷めたコーヒーを軽く一口いれて目の前の行動へと意識を切り替える。

 

 

 

 

 

 ところ変わって雄英高校にて、やせこけた姿(トゥルーフォーム)のオールマイトが自らの机に並ぶ事務仕事に時々唸りながらも止まることなくこなしているところに柔らかく高い声が掛かる。掛かった方向にはネズミなのか犬なのか熊なのかよく分からないが、ともかく愛嬌のある素敵な顔をした人(?)がいた。

 

「オールマイト、少しいいかな?」

「根津校長?どうかしましたか?」

「雄英教員との個人面談だよ、君の番が回ってきたってだけさ」

「…!なるほど、そうでしたか。しかし申し訳ない、あと三分ほど待ってくれると嬉しいのですが」

「了解した。じゃあ余裕をもって五分後に校長室に来てほしい。とっておきのコーヒーを淹れて待っているよ」

「HAHAHA、待たせないようにしますとも」

 

 そう言って一旦会話は終了し、根津校長は職員室を後にしてオールマイトは手元を若干早めて書類を捌いていく。そうして区切りがついたのが会話の終了から三分と少し経ってからだった。そうしてオールマイトは自分の席を立って少し力んだ姿(マッスルフォーム)になって教室を出て真っ直ぐに校長室へと向かう。

 校長室の前に着いて軽くノックをして扉越しの返答が聞こえたのを確認して扉を開けて最初に目に入ったのは、見慣れた鼠っぽい姿と見慣れない黒服の姿をした人間が一人。

 

「校長先生、お待たせしました…」

「あぁ、オールマイト。とりあえずかけてくれたまえ」

 

 声にならない生返事をして一番手前側のソファに腰をかけると、黒服の男と根津校長は対面するように座る。根津校長はそのまま手に持つお盆に乗せていたコーヒー入りのカップ三つをそれぞれの手元にコースターを挟んで置いていく。戸惑いを隠せないままオールマイトはカップを口元で軽く傾けて淡い苦みと酸味に舌を躍らせる。カップを戻したオールマイトが言う。

 

「根津校長、これはいったい?」

「個人面談もあるんだけどね、本命はこっちなのさ」

 そう言って親指(?)で指される男は黒塗りの眼鏡をそのままにすっと話し始める。

「初めましてオールマイト、()()()()だと言えば伝わってくれるかな?」

 一瞬にして戸惑いが消え、ヒーローとしての僅かに険しさを露わにする。

「なるほど。それで用向きはなんだ?」

「……総理がお呼びだ。明日、官邸まで足労願おうか」

「なぜ?()()()()()()()()()()()()()()()ではいけないのか?」

「あぁ、そうだ」

 突っぱねるような物言いに一瞬眉が立つが、そのまま続ける。

「……その理由を君たちは知っているのか?」

「知らない、知れない、故に知ることはないだろう」

「……拒否権はあるのか?」

「それを判断する権限を持ち合わせていない」

 

 馬鹿にするでもなければ裏も真意も一つたりとも感じられない、まるで他人事のような物言いに少し苛立ちが心に募ってくる。しかし長年の経験が立派な手綱捌きを披露したことで心の平静のキャパシティを確保したうえで再度話しかける。

 

「…貴方の事情は理解した、もちろん要望は引き受けるとも。…だが私が行って何をしろというのか、それは知っているのか?」

「何もない。私はただ貴方を明日に官邸へ向かうように求めているに過ぎない」

 そうして口を閉ざしている間、オールマイトは沈黙の中で考えを巡らせる途中に男から声が出る。

「推測に過ぎないことを話す権限はないのだが…一つだけ伝えられるとするなら」

「…なら?」

「『星』が関連しているのだろう、と。ただそれだけだ」

 オールマイトはその一言だけで埋もれていた記憶から思い当たること即座に掘り当てることができた。たった一つだけだが特注のものが、少女の姿と共に思い起こされた。

(そう言うことか…!だとしてもあまりに行動が早い!)

 オールマイトが考えを巡らせている間にカップの底を灰色にした黒服の男はカップを置くと同時に立ち上がって扉の方へと向かいながら言う。

「では明日、よろしくお願いいたします」

 

 終始ひとつの感情も表に出さなかった男は扉の向こうに消え、中に残っていた校長とオールマイトはただの一言も声に出さないでいた。オールマイトは思考に気を使い、根津校長はそれを見守るように湯気の消えたコーヒーをちびちびと飲んでいた。

 根津は、全ての話を聞いて核心まであと一歩ところまで差し迫っていた。公安の男が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、その緊急性の高さを把握し、最後に口にした『星』の一言で僅かに見開くような仕草を隠さなかったオールマイトを視たことで事の重大さを認識した。

 『星』とは、昔から都市伝説や裏社会にこぼれ出るようにして伝搬したある国の隠語である。誰が言ったわけでもなく、何をきっかけに命名されたかは知らないその言葉は、『水晶経國(クリスタル・ストラ)』を指すのだとしか根津校長も知らない。彼(?)に限らず世界中の一般人はおろか、それなりの上流社会ですら隠語の意味しか知らないようなものであるのだ。ある程度知っているのも、最も力のある八つの国(G8)の首脳陣程度であろうか。

 対してそれを耳にしたオールマイトは瞬間にして悟るような顔をしていた。つまりは『水晶経國』が何を意図として来日するのか、なぜオールマイトを官邸に呼びつけられるような事態になったのか、その大枠を把握したからなのだろう。

 

 この時点で根津はちょっとした不安と好奇心を抱えていた。なぜならオールマイトは『水晶経國』に関して政府首脳以上の情報を個人で所有しているという事に他ならないから。そして何の縁かは知る由もないが…『水晶経國』の人間と直接的な繋がりを、オールマイトは持っているのだろうと推測してしまったからである。…もし正しければ、世界中の政治家が、暗部が、裏社会が、が欲してやまない情報を、現状たった一人だけが所有していることになるからである。

 

 不安だ。失うわけにはいかないから。衰えている現役最強ヒーローでは世界を相手どれるとは思えないから。そもそも、世界に殴りかかれるような男ではないから。

 知りたい。あの国を唯一知る者から直接、たっぷりと。何があるのか、どんな国なのか。『個性(ハイスペック)』によって作られる空想と、どれだけかけ離れているのか!

 

 だが…それでもなお、根津校長は何も言わない。問いかけない。結局は本人が決めることであるから。知りすぎることも罪であると知るが故に。だからこそ何も言わずにこうしてゆっくりとコーヒーの苦みを楽しんでいる。

 そうしているとオールマイトがふと顔を上げて言う。

「なにも、言わないのですね」

「何か言ってほしいことでもあるのかい?」

「いや…!そんなことはないとも!HAHAHA」

 

 どこからどう見ても空元気の生返事だが…まぁそれでいいさ。そう思いながらある程度落ち着きを取り戻した段階でオールマイトとの個人面談を始めていく。

 

 

 

 

 

 

 翌日。

 首相官邸の会議室、その一つには三名の男がいた。

 一人は日本の内閣総理大臣、その右側には任命した外務大臣が、左側にはコスチュームを纏ったオールマイトが机の側で立ったまま来客を待っていた。

 オールマイトの姿を見た時に僅かに煌めかせていた目を元に戻した閣僚とヒーローがいる無音の空間に三度のノック音と共に扉が開かれる。導かれ様にして入ってきたのが、此度の来客にして場を催した者であった。

「…ようこそいらっしゃいました。【星の巫女】の名代様」

「こちらこそ、突然の来訪に対応してくれたことに感謝する」

 僅かに強張った総理の挨拶に泰然自若として受け答えする【星の巫女】の名代の姿に、オールマイトは仮面の表情(ポーカーフェイス)の裏側で僅かに震えていた。()()が来るのだろうと思っていたが、髪の色、肌の色、瞳の色のどれを取っても()()であるはずなのに、その体格の違いが結論を出し渋っていた。

 小学生前後の見た目であったはずが、目の前の()()は、最低でも受験を控える高校生程度の身の丈に暗色のインナーに白緑のジャケットを羽織って軽くスリットの入ったロングスカートを靡かせて、化粧っ気のないありのままの端正な容姿の首元にある翡翠のネックレスが煌めくように光を反射していた。可憐さなどというモノは欠片もなく、ある種の暴力的な艶やかさの中に混じる()()()()()()()()()()()のおかげで風貌の持ち主がルカ少女なのだと、確証のない確信がオールマイトの中にあった。

 嗜好を回しているオールマイトの横で女性と総理が握手を交わして導かれるようにして各々が席に着く。

 口火を切ったのは総理の方だった。

 

「それなりの雑談を挟んでから本題に入るべきなのですが、単刀直入に窺ってもよろしいかな?」

「あぁ、もちろん」

「感謝します。……如何なる理由で我が日本に以っていらっしゃったのか、教えていただきたい」

「答えよう。現在数にして二〇〇名近くの我が国民が、貴国内で消息を絶っている」

 その場にいた男たち全員が目を見開きながら驚愕の思いを口から溢して俄かに騒めいていくが、()()はそのまま続けて話していく。

「我が国の方針に従って国民たちの生存確認と早期送還、及び原因究明を行いたい。故、貴国内を我が国による捜査、拘束の権を認可してもらいたい。よいか?」

「それは!…それは、我が国でそのような事態が発生しているのであれば我々の問題となるはず。であれば、事態の原因究明と帰国の国民の保護、及び送還は我々が貴国に行うべき義務と、考えます」

「その考え、実に正しく当然のことであろう…が、認められない」

「なぜです?我が国の警察組織では、信用に足らないと、そう言うことですか?」

 瞑目して答える()()に対して少し焦るようにして総理と外相がそれぞれ言葉を連ねる。強風の中に在る柳の様にただ座して黙って聞いていた()()の目が開き、口を開く。

「『請願』が、受理された」

 閣僚二人の口から音が消え、何かを悟ったような目で見つめる中で()()の言葉は続いていく。

「『裁定』は下され、『執行者』として()がここに座している。吾が為す『執行』を…まさか妨げるわけではあるまいな?」

 睨みつけるように両者を見つめる。二人は揃うように手を額に当ててしばらく考え込み、互いを見合わせた後に総理が苦虫を噛み潰すように口を開いて、

「……わか、りました。貴国の要望を呑みましょう。しかし、一つだけ許して欲しいことがあります」

「なにか?」

「我が国の警察機構の面子というものがあります。だから、貴国の捜査機関に我が国の警察機構を同行させることを許して欲しいのです」

 耳に入ったのだろう()()はふと天井を見上げるような仕草を見せると、何事もなかったかのように閣僚とヒーローを見ながら、

「分かった。そうするとしよう」

「……感謝します」

今日(こんにち)の日没にも我々の方では捜索を開始するが、貴国は用意が整い次第合流すると良い」

「…!それは、迅速な…」

「気にするな、些事だ。()に問いたいことはあるか?」

 そう言う()()の言葉につられるようにオールマイトが手を挙げた。

「では私から一ついいかな?」

「良い」

「では遠慮なく…なぜこの場に私が呼ばれたのか、それを訊いても良いだろうか?」

 そう言うと、虚を突かれたように僅かに目を見開いて、唐突だった。

「かかか!そうであった!其方にも言わねばならぬことが二つあった!」

「なんの、事だろうか?」

 少し戸惑うオールマイトに向かって言う。

「一つは、()()()()()()()()()()()()()

 その一言で確証を手に入れた。この女性は()()()()()()()と分かったことで、一層驚きが心を支配していたところに()()()()の言葉は続く。

「もう一つ。しばらく()()()使()()()()()()?」

「…どういうことかな?」

「なに、後で分かる。これにてこちらの用は終いだ。では」

 

 困惑をさらに加速させたオールマイトを放置して少女は光の粒となって消え去った。()()()()()()()()()()()()に残る男三人は、互いを見ながら頭を抱える姿を視て大小のため息を吐いて、誰からともなく呟く。

 

「…なんとか、するしかないのか……」

「……やるしかないのでしょうな……全く」

「hahaha…お勤めご苦労様です」

「それは君の方だぞ、オールマイト君」

「総理、どういうことですか?」

 気になる言葉を言った方を向くと、続けるようにして話し出す。

「名代とはいえ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だからね」

「総理…お話しが、良く見えないのですが」

「なに、オールマイトの偉大さを実感しただけだよ。君はそのままでいるがいいさ」

「???」

 

 終始一人の女に振り回されっぱなしだったオールマイトと閣僚二人は会議室を退出して廊下で分かれ、オールマイトは官邸を後にして自宅兼事務所のある方向へと()()()()()()()()()()に今更違和感を感じていた。

(…今更だが、なぜこんな()()()()()()()()()()()()()()()?そもそも、いつもなら『個性』が解けるような感覚が来る頃合いなのに全く来ない…どころか、()()()()()()()()()()()()…!?)

 空中を飛んでいる間に拳を握り込んだり、着地した後少し走って飛躍する時にをいつもより強めに踏み込んで見たりする。それを数度繰り返していくうちに気のせいではないことがだんだんと明らかになっていく。それのせいか本人の気付かない間に口角が上がっていく。

(これは…!本物だ!)

 そうして帰るまでの数分の間、駆けては跳び、空を軽く蹴ったりパンチを繰り返す様は、まるで子供がはしゃぐような無邪気さであった。

 

 

 

 もちろん、地上を歩くファン達にそのあられもない姿を撮られ、SNSに()げられていることに気付くことはなく、自宅に帰ったオールマイトは軽く汗を流してラフな格好へと着替えて暇な時間を過ごしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 某所。それは暗く、しかし一つの蛍光灯が一人の男を照らしていた。男はスーツ姿でありながらソファからピクリとも動くこともなく、顔のあるべき場所には髑髏を模したような金属製のマスクで覆われていた。

 そこに一人の老人が白衣の裾をたなびかせながら近づいてくるのを察したマスクの男は話始める。

 

「成果はどうかな?」

「あの『個性』の研究なら順調じゃよ。臨床試験のイレギュラーも想定の範囲内、結果は予想以上。いやはや、研究しがいのあるものよ」

「それは何より。なら()()()()()()()()()?」

 マスクの男に問われると白衣の老人は頭皮をさすりながら悔しそうな笑顔で答える。

「進展のしの字もないわい。増産は不可、実験も不可、できる事は直接の移植だけじゃわい」

「そうなのかい?にしては嬉しそうだけど」

「当然じゃ!もしこれを完全に解明できれば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

「それはそうかもしれないね」

「それだけではない!全く『未知の遺伝子構造』と『未知の因子』!何よりも現生人類には存在しない『未知の器官』!これらを解明すればいずれ「詳しくは分かってから話してくれると嬉しいかな」…うぅむ、致し方ない」

 

 探求心、冒険心、好奇心の全てが煮詰まったような瞳で語る老人を落ち着かせるように言って浮かれた気持ちを落ち着かせる。そうして一呼吸おいて言葉を紡ぐ。

 

「ちなみにその素体を脳無に改造はできないのかい?」

「あ~…無理じゃな」

「…どうして?」

「どいつもこいつも素体にしようと調整を加え、『個性』を移したとしても()()()()()()()。よしんば一瞬受け付けても()()()()()()()じゃ。…なんじゃあの体は?どこで手に入れたんじゃ?」

「そう、だろうね。なにせ()()()()()()()()()()()()()()()()()()だからね」

 そう言いながら左手を握り開きを繰り返すさまを見ながら老人は驚きをそのまま口に出す。

「なんと!かのALL FOR ONEにそこまで言わしめるとは!!よほどの逸材じゃな!…にしては数が多いように思うのだが」

「それは当然さ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「…戯言か?」

「本心さ。なんなら見せてあげてもいいよ?」

 訝しむような物言いにおどけながらも声音は真面目な答えを聞いて老人は軽く首を振りながら、

「暇な時にな。そもそもここには一息入れに来ただけじゃ、このあたりで失礼するぞい」

 

 そう言って老人はその場を後にする。再び一人になった男はそばにあったブランデーグラスを持って中身をグイッと口に入れる。その深みを口に転がしながら徐々に呑み込んで腹を温める。ロックアイスのみとなったグラスを元の場所に置いて一息つく。そうして思い返すのは200人の化物(人間)たちとの戦い。あの時の驚愕を、恐怖を、そして期待と夢がどんどんと膨らんでいく。

 

「頼んだよ氏子君。君の研究が、僕をより高く、押し上げてくれるのだから」

 

 巨悪はこの将来(さき)を想い、くつくつとほくそ笑む。

 

 

 

 

 







 ここまでの読了に感謝いたします!

 新社会人になり遅筆さがより一層促進してしまいましたが、アイデアと構想が止まらないので何とかこのまま突っ走りたい所存の私です。


 皆様のおかげで日間ランキング16位(2024/3時点)にまで上がることができたことに大変感謝いたします!(遅)

 高評価とお気に入り登録を外されないように、ここすき!な場所を増やしていけるように精進してまいります!

 …ちなみに高評価をしてくれた方やお気に入りに登録して頂いた方、感想を送っていただいた方の名前を列挙しても良いものなのでしょうか?自分はほんのり不思議に思っています。


 なので良ければ高評価とお気に入りの登録、感想を遠慮なくどしどしと送ってくださいましね!


 P.S.FGO…まほよとのコラボ始まりましたね。ワクワクでございます。

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