星、宙より落ち来たる   作:明暗キレイ

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 唐突に、静謐に、始まりは告げる。

 進めよ、止めよ、道行くままに。

 誤まることなく、ずれもなく。

 (つくし)へ至り、先を見よ。

 誠の願いを、持つのなら。



#6 初動、開始

 

 

 

 夕暮れが過ぎた夜中、それぞれの家の窓から暖かい明りが漏れ出ているころ。No.1ヒーロー(オールマイト)も御多分に漏れず、部屋の中と一緒に照らされながらソファに背中を預けてテレビを見ていた。しかしただ一つ、途轍もない違和感をキッチンの方向から感じながらであったせいで未だに身体は力んだ(マッスル状態)ままで、垂れ流しになっているテレビの内容は何一つ入っては来なかったが。

 横目でキッチンの方を見ると、動くことのないなずのコンロにフライパンと鍋が乗って、湯気と煙が混ざり合うようにして登りながら換気扇に吸い込まれていく。その隣では足りない高さを身を浮かせることで補い、子気味好く俎板の上で包丁を躍らせている割烹着姿の少女があった。

 

 鼻歌のように口元で小さく呟きながら野菜や肉を切っては鍋やフライパンに入れ、置いていないはずの調味料を振り入れては手に持たないままフライパンを返したり、中を浮くお玉で鍋をかき混ぜたりしていく様は、まるで一昔前の魔法使いが料理をするようで…年相応の健気さを纏うようでもあった。

 鍋の中のものを小さく掬った小皿に口を付けて小さく頷く顔に、年甲斐もなく可憐さを覚えていたところで彼女と目が合う。眉を落とした小さい微笑みを見せられて、慌てるようにテレビの方を向き直す。

 

(決して気恥ずかしいわけではないが…!なぜこんなに羞恥を感じているのだ私は…!)

 

 外から見ればまるで思春期男子のような初心な反応を見せる姿を特になじる事もなく、少女は浮いている皿や椀を手に取って盛り付けては円卓に向かってふよふよと飛ばさていく。炊飯器もひとりでに開いて、浮いているしゃもじによって軽く混ぜたかと思えば中の米を茶碗によそわれてテーブルへと跳んでいく。皿や椀を追いかけるようにどこからかやってきたお箸と箸置きも飛んでいってテーブルの縁にことりと箸置きの上に箸が置かれる。そうして机の上にはごく普通の一汁二菜と御飯にお茶の入ったグラス、それが二組、向かい合うようにして置かれる。

 満足したように一度手を叩いた少女、ルカが口を開く。

 

「支度が済んだぞ。()むとしようではないか」

 そう言って脱いだ割烹着を背凭れにかけるルカの言葉を聞いてなお、彼女を見るばかりでピクリともしないオールマイトを怪訝な目に変えたルカが続ける。

「…なんぞ腹は空かぬのか?」

「いや…!そんなことは」

「ならば此方(こなた)に来い。膳は(ぬく)いままに食む方が良い」

 

 そう言われて「では、遠慮なく…」と言いながらも殊更に重く感じる腰を上げたオールマイトは、ルカと向き合うようにしてテーブルに着く。改めて目の前に広がる料理のそれぞれができたてを主張するように湯気が立ち、程よい脂によってキラキラと光を返している様が宝石に照らされているかのようにさえ覚える。『食べたい』と無意識の欲求によって()()()()()()()()()()()()()()()、オールマイトは口元を僅かに濡らしてしまっていた。そのまま手を合わせて言う。

 

「いただきます」

 

 そう唱えて箸を取り、持った茶碗の中で煌めく米を摘まむように挟んで口に入れる。立ったお米の程よい硬さが嚙みたくなるような心地にさせ、知らないうちに噛んでいくせいで米自体の甘みが次第に滲み出てきて、舌をより楽しませられる。もっと感じていたくてもう一度…もう一度と米を口に入れていき、その都度に同じ甘みであるはずなのにほんのり異なるような印象さえ受けるせいで、もっと味わいたいと箸を止めることができなくなっていく。

 案の定、と言わんばかりに気付かない間に箸が軽い音を茶碗の底から鳴らし始める。そうすると真正面から柔らかい声が掛かる。

 

「代わりはいるか?」

「……お願いします」

 

 そう答えながら差し出す茶碗を下弦の弧を小さく浮かべながら受け取って、いつの間にか手に取っていたしゃもじでよそう。先ほどよりも僅かに山なりに盛られた茶碗を返されたオールマイトは小さくお礼を口にしながら受け取って再び箸を動かす。今度は御飯だけでなく皿に乗る肉の野菜炒め、小鉢の中にあるひじきの和え物、三種の茸入りのお味噌汁、それぞれに口を付けて味を楽しんでいく。止まることを忘れた箸使いをするオールマイトを眺めながらルカも自らの前に並ぶ料理に手を付ける。

 お互いに語る口を封じて料理を口に送り、その美味にただ舌鼓を打つことに勤めて十と数分。机の上に並んでいたはずのお皿やお椀はシンクの中へと飛んでいって洗い桶を満たす水に(ひた)され、机の上には湯気の立つ急須が置かれてオールマイトの大きな手の中にて湯呑みが小さな湯気を上げていた。

 飲み込んだ口からほっと息をついたオールマイトがハッとした表情をルカに向けながら言う。

 

「ルカ少女!」

「なんだ突然」

「突然なのはこっちの台詞なんだが!?…まぁその事よりもなぜ君がこんなところに!?というかどうやってここを知ったんだ!?」

「『なぜ』への答えならば()()()使()()()()()()()()()?」

「なにを!?」

「其方の持つすべてを」

「具体性ィ!」

 そう言って抱えた頭を振り回すオールマイトを見ながらからからと笑うルカはそのまま続ける。

「兎にも角にも、終いが着くまでは住まわせてもらう。よいな?」

「そうは言うが…年頃の女性を独り身の男の家に住まわせるのは…」

(わたし)は疾うの昔に還暦を迎えたが?」

 

「………え゛」

 

 (から)に近いケチャップやマヨネーズを絞り出した時のような声を漏らしながらルカの方を向く。本人は意に返さない様子で湯呑みを啜っていた。テーブルに置いてしばらく味の余韻に浸っていたルカの口から言葉が出てくる。

 

「そも、我が国の健康寿命は101だ。齢60なぞまだまだ若造よ」

 付け加えるように言われるが、オールマイトの耳は馬になっていた。

「……ほんとに?」

「そう言っておろう」

「…失礼だが、その見た目で?」

「見目なぞ些事だ、気にすることはない。()()()()()()()()()()()()()

「いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや…今なんと?」

「気を抜けと言ったのだ。いつまで力んでいるつもりか?寛容たる(わたし)でもそろそろ不愉快に感じている」

「きみがなにをいってるのかわからなかったからねー!もういちどあらためてきかせてくれるとうれしいなー!」

「疾く其方の『個性』を解けと言っているのだ。(かい)せ痴れ者が」

「…本当に、何を言っているのかな?私の『個性』は見た目に影響しないのだが」

「白を切るか。秘め事ゆえか、はたまた生来のものか。まぁよい、()()()()()()()()()()()()()()()

「なにを…!?」

 

 唐突に腰が抜けるように力が抜ける感覚が全身をめぐると、体がガクンと落ちて座っていた椅子がわずかに揺れる。自らの両手はさっきまでの力強い筋肉の姿はなく、骨の周りに皮が付いただけのようにみすぼらしく変わる。顔や体をぺタペタと触っていくと、来ている服の余裕度合いや筋肉のなさが徐々に明らかになっていくごとに、今の自分が普段の気の抜けた姿(トゥルーフォーム)だという確信だけが積み重なっていく。そうして窪んだ奥の目を鋭くして言う。

 

「なぜこんなことをした…!」

「其方の家だろう?()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そも、其方の躰のことなど見知った時から解っておったわ」

 そういってまた湯飲みを啜るるかを困惑するような目に変えたオールマイトが言う。

「最初…から?」

「そうだ」

 オールマイトは眉を曲げる。

「……いつから?」

「パーティーの時であろうが。ボケたのか?」

 曲げた眉から汗が滴る。

「どうやって…?」

「そういう『眼』があるからの」

 汗は床に落ちる。ノックアウトであった。

「Oh my …!」

「余談だが其方の胃が無いことなども知っておるぞ」

 

 額をテーブルに擦り付けて左右に細かく振るオールマイトは、向かってきた追撃を見事に食らってダランと両手を垂れ下げたのであった。それから数分間、トゥルーフォームを晒すオールマイトはいつの間にか新しく淹れられていたお茶を啜りながら葛藤が済んで散らかりきった心中を整えていた。ちらちらと目の前の少女を傍目で見るが、彼女は何一つ変わらない小さな微笑みを携えていたままだった。そのうちに大きくため息をついたオールマイトはそっと湯吞みを置いて話しかける。

 

「元の本題に戻るとして、ル…」

 どもる口元を察したのか挟むようにルカが言う。

「好きに呼ぶがいい」

「では、ルカ少女。事が済むまでというのは…やはりAFOを?」

 顔色を窺うように小さく発した言葉に、ゆっくりと答えを述べる。

「あぁ。其方も思うことがあるのだろうが此度のみは譲れぬ。許せ」

「…君の言う通り、私が決着をつけなければならないとは思っていると今でも思っているし、譲る気はないとも思っている」

「…(わたし)の言葉を反故にすると?」

 わずかに鋭くなる目を真正面に見つめ返しながら芯のある声で答える。

「いや、そのつもりはないとも。ただ、【条件】を付けさせてもらえないか?」

「【条件】とな…奴を殺すな、とでもいうつもりか?」

「そこまでの要求をするつもりはないよ。もし戦うことになったら私も共闘させてほしい」

「共闘…妥協点ではあるか」

 こちらをわずかに睨む目を納めてルカは湯呑みを傾ける。

「ありがとう」

「なに。僅かばかりとは言え居候の身になるのだ。立場の貴賤なく、貰い受けた恩に報いねばな」

「あぁ~…そうだった…」

 …この年になって年上(見た目は完全に子供)の女性と同居することになるのか…。オールマイトの脇腹が別の理由でキリキリと音を立て始めたような感覚が伝わる。

「食の支度と掃き出しならばしてやるぞ」

 額に手を添えるオールマイトをからからと笑いながら言うルカの言葉に一層落とす首の高さが低くなる。

 

 

 

 そうしてその後の風呂場で何かしらのハプニングもなければ寝るときの寝る場所に関する問題ももちろん発生することもなく夜が過ぎる。

 翌朝。無機質なアラーム音で目覚めて気付けに水で顔を洗い、軽く服を着替えてリビングに行くと、テーブルにはすでにハムエッグの乗った焼き立ての食パンと生野菜サラダの小鉢、空のガラスコップが一つと、よくある一人分の朝食が並べられていた。炊事場には銀髪を軽くまとめたルカ少女がまな板を軽く鳴らしていた。

 

「水物と野菜の味付けは好きにせよ」

「あぁ…ありがとう」

 

 そう言われて冷蔵庫から牛乳パックを取ってコップに注いで戻し、席についてからは柚子ドレッシングを軽くかける。そうして両手を合わせて「いただきます」と唱えて、温かいパンとハムエッグを噛みしめていく。仄かに香る胡椒の風味を感じながらテレビをつけると、見知ったキャスターがお決まりのトーンでニュースを読み上げていく。それなりに聞きながらも食事の手を進めていって、並んでいた食器の中身をなくしてお決まりの台詞(ごちそうさま)を唱えたのち、洗面台やクローゼット、玄関前で身支度を済ませていると、

 

「持っていけ」

 そう言言いながら手渡されたのは風呂敷に包まれた箱っぽいものだった。まさかと思いながらも少し瞬きをしながら問う。

「これ、は?」

「ベントウ…というのだろう?家内の者が支度を済ませて玄関に立つ者に手渡す昼餐(ちゅうさん)と聞いたが?」

「すごく限定的なシチュエーションだね…」

 “日本の普通の家庭”に対する認識が少し…いやかなり古めかしいみたいだと心の中で呟いていると、反応が薄かったのか少し首を傾げたルカが、

「要らぬのか?」

「いや!ありがたくいただくとするよ」

 そう言って受け取った手製弁当を鞄に仕舞って玄関を開く。

「オールマイト」

「なにかな?」

「いってらっしゃい………でいいのだろう?」

 慣れないように言う彼女のにこやかな顔は、差し込んできた朝日を反射する白銀がとてもよく映えていて、

「合ってるよ。行ってきます!!」

 

 そう言ってすこし力んだ姿(マッスルフォーム)になって歩き出す。

 なぜか少しだけ進む脚は軽くて、踏みしめる足だけがほんのり重かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝から少し時が経って、合宿所から少し離れた訓練広場では雄英生徒たちの踏ん張る声と呻き声がA・B組の垣根を越えてあちこちで大合唱を繰り広げていた。爆発音、殴り合う音、グラウンドを駆けずり回る足音などの突発的な音がビートを刻み、ベースラインは鉄と硬物との鍔迫り合いと水の沸騰音がこなし、ギターサウンドは地面が解ける音や水が凍りつく音、乙女の尊厳破壊音(ゲ○音の滝)などが担当していた。もちろんメロディは生徒諸君の悲鳴である。

 

 ―――なんと暑苦しく目を逸らしたくなるような野外会場だろう―――

 

 それでも全員の心の中で『さらに向こうへ(Plus Ultra)』 と叫んでそれぞれに訪れた艱難辛苦を潜り抜けていく。そうして夕方、今日も今日とでグループに分かれて支度していた炊き出しが終わってカレーを皿によそっている時に、緑谷は頭の片隅でずっと気になっていた少年の事を思い出していた。

 

「…洸汰君、どこだろう…?」

 グループのメンバーに一言添えてから予備の器にカレーとご飯を入れて出水を探して歩き始めた。数分経ってもなかなか見当たらずにいた時、

「キョロキョロして、どうかしたの?」

「うわぁ!?」

 唐突に逆さになった男の顔面が迫ってきた緑谷は軽く本気で叫びながら飛び跳ねるように後ろに下がって言う。

「……だ、誰ですか?」

「あれ?クイから聞いてない?」

「えぇっと…周辺の警備するヒーローがいるってことは…」

「うん、俺もその一人、名前はデニ。よろしく」

「よ…よろしくお願いします」

 困惑しながら差し出された握手に応えているとデニが口を開く。

「もうそろそろ合宿所に戻らないといけない時間だと思うけど、どうしてそれを持ってウロウロしていたんだい?」

「えぇっと…その…男の子を探していまして…これくらいの子なんですけど…」

「あぁ出水くんの事かい?」

「知ってるんですか!?」

「もちろん、彼も警護対象だからね。あそこの山肌の所に洞穴があるんだけど、彼ならそこにいるよ」

「そうなんですね!ありがとうございます」

 

 そう言って緑谷は、デニが指で示してくれた方向にある小高い山の方へと足を進めようとする。しかし数歩進んだくらいで後ろから彼の声が届く。

 

「少し2つほど訪ねてもいいかな?」

「…なんですか?」

 振り向くとさっきまでの好青年の印象の強い笑顔を潜ませて、真剣さの籠る引き締まった顔つきに変わっていた。

「君は、あの子供の境遇を知っているのかい?」

「たまたま…マンダレイから、聞かせてもらいました。デニさんも聞いたんですか?」

「………まぁ、識っているよ。その上で訊きたいことがあってね」

「…なんですか?」

 緑谷が返してからほんの一瞬間が開いて、デニの口から言葉が出る。

「君がこれからしようとすることは、何のためにするんだ?」

「なんのためって言われても…」

 いきなり問われた質問に口どもっているとデニは少しかぶりを振りながら続ける。

「分かった、言葉を変えよう。君があの子供に会いに行くのは、彼が可哀そうだと思ったからか?」

「…!!!それ…は…」

 

 ずしんと、胸が重くなったような感覚が緑谷を襲う。答えようにも頭の中ではいろんな言葉がと飛び出ては消えを繰り返し、そのせいで口がまごついて小さな呻き声のような息が出るにとどまっていた。

 

「答えられるかい?」

「ぇと……その……」

 戸惑うように首を四方八方に向けながら言葉を出そうとしてしているのを見ていたデニは何も言わずに待っていた。数拍の間を過ぎて、緑谷がゆっくりと絞り出すように言い始める。

「…多分、そうだと…思います。…けど!何とかしてあげたいって気持ちの方が強くて…でも、どうすればいいのか分からなくて…でも、話さないといけないと思ったから…!ぁの…その…答えになってないと思いますけど…そんな感じです」

 

 緑谷の言った言葉を小さく頷きながら咀嚼していたデニは、全てを聞き終わって一瞬の間を置いてから言う。

 

「そうか…言いたいことは分かったと思う。その上で言わせてもらうとするなら……君は()()()()()()()()()()()()()()?」

 ポンと言われた言葉が、一瞬理解できなかった。

「どの…立場?」

「あぁ。出水君は君の事をどの立場の人間だと思っていると思う?」

「僕の…立場?」

 印象に残った言葉をオウム返しのように言うのをそのままにデニは続ける。

「あぁ、彼は終始『立場』に振り回された子供だ。親の『ヒーロー』という立場しか見た事のない周囲。彼しか見た事のない両親の『親』という立場。『力を見せる』立場であるヒーロー。『力を見せられない』立場の周囲。『力を見せたい』立場の(ヴィラン)。人間はたくさんの『立場』に立って暮らしている。でも全員が一人一人の立つすべての『立場』を知っている訳じゃないからこそ、自分の知っている『立場』から見える景色からでしか話せない」

「それぞれの『立場』…見える景色」

 諳んじるように語るデニの言葉の一つ一つを噛み締める緑谷。デニは少し口元を緩めながら続ける。

「うん。君から見える出水君の『立場』はどうだ?」

「…両親を亡くした独りぼっちの『立場』だと、思います」

「俺もそう思う。でも両親が亡くなった時、『両親が亡くなったと聞いた』と言った後に周りはきっとこういっただろう…『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』とね」

「それ…は…」

 

 推測めいたデニの言った言葉は、正しく昨日マンダレイの口からきいた言葉であったから。脳内でぐちゃぐちゃになっていた情報が一気に整い始め、まるで一筋の道の余殃なものが出来上がっていく。緑谷ははっとした表情になってデニを見つめると、言葉を促すようにそっと掌を出していた。

 

「誰も…出水君の両親の『親の立場』のことは触れてないんだ…」

「あぁ、でも仕方ないことだ。誰も親の『立場』に立っているときの出水君の両親の姿を見たことがないんだから。知っているのは出水君たった一人だけなんだよ」

「誰も親を亡くしたと誰も言ってくれないんだから当然すれ違いも怒りもする。『ヒーロー』を憎みもすれば『個性』自体も恨むことだろう。…そのうえで、だ」

 そう切ると緑谷とデニは真正面から向き合うと、

 

「君は出水君と会う時、どの『立場』で向き合うんだい?」

 

 道筋は見えるのに、出口だけが真っ暗だった。

 

 

 

 

 

 

 「引き留めてごめんね」と言って警邏に戻ったデニを見送った緑谷は、そのまま洸汰君がいるだろう場所へと向かった。

 言ったとおり出水君は秘密基地のある洞穴の前で立って森を見ていた。自分の過去を知り合いの友達に見立てて話したくらいで、途切れ途切れで脈絡もない…それでも何かを伝えたくて、話を続けていたけれど、洸汰君の言葉に従ってカレーの入った器だけを置いて帰った。

 一瞬立ち止まったけれど、振り向かずにそのまま進んだ。

 僕自身がどの『立場』で向き合うか…何もはっきりしていなかったから。

 

 

 

 

 

第一(primero)より各位へ、人数は?〕

第七(septimo)より各位へ、9人。『個性』は?〕

第三(tercera)より各位へ、把握済み。共有する〕

〔第七より各位へ、()()()()()()()()()?〕

〔第三より各位へ、4人〕

〔第一より各位へ。各位、作戦通りに〕

〔〔了解〕〕

 

 宵闇を跳び駆ける三人は静かに動く。

 全ては、計画(使命)のために。

 

 

 

 

 

 

 翌日になり、いつもの如く『個性』の強化訓練をこなしてクタクタ生徒たちの心を休ませるべく、合宿の間の息抜きとして肝試しを行うこととなった生徒諸君の反応は、

『肝をためすぞおおおぉぉぉ!!!』

 文字通りの狂喜乱舞を起こした。残念ながらそこには補習組の姿はなかったが。そうしてくじ引きをして二人一組を作って順々にルートへと送っていくと、ピクシーボブの鼻腔に妙な臭いが入りこむ。

 

「…焦げた匂い?」

 そうしてざわざわとし始めた周囲が見上げる空には、いくつもの黒煙が立ち昇っていた。

「山火事…!?」

「いや、そんなわけ…!?」

 そうすると唐突にピクシーボブの体が浮き何かに引きつけられるように後ろに飛んでいく。

「ピクシーボブ!?」

 

 生徒たちと仲間が遠ざかっていくの見ているしかなかったボブはなんとか後ろに振り向こうと体をねじる。動揺した視界にはぼんやりと()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 左側にいたヤツのナニカに衝突しそうになった瞬間、流星のような煌めきが走って、

 

「「あがあああぁぁぁ!?!?!?」」 

 

 警邏していたはずのデニがボブと二人の敵との間に挟まっていたのだ。片腕でボブを抱えると同時にデニは体に回転軸を与えて、目にも止まらない推進力をそのままに、二人の左脇腹目掛けて鉛直半円状に薙ぐように蹴りを入れる。唐突に現れたデニに敵の二人は視認はすれども反応できず、何もできないまま蹴りを食らう。

 地面に押し付けられながら蹴り込まれた左脇腹が、まるでマシュマロの真ん中を指でつまんで潰したように凹み、訪れる激痛に絶叫し悶えることしかできなくなった二人の敵―――スピナーとマグネ―――はその場に倒れ伏した。

 生徒たちと残りのプッシーキャッツのメンバーはその光景を見ていることしかできなかったが、二人が蹲っているのを見て即座に捕縛にかかった。手際は見事なもので、ものの4秒で二人を完全に縛り上げていた。

 小さく息を吐くデニに向かって縛り終わったマンダレイが叫ぶ。

 

「どういう状況!?」

(ヴィラン)の襲撃だ!」

『敵!?』

「万全を期してたんじゃないのかよ!?」

 代表するように峰田が叫ぶが、冷静を保っていたプッシ―キャッツのメンバーが詳細を訊き始める。

「人数は!?」

「こいつら含めて9人!この森の中で生徒を襲ってきてる!」

『なんだって!?』

 

 数秒の応酬が終わってマンダレイは『テレパス』に敵の襲撃を、周囲にいる生徒に戦闘行為の禁止、避難、回避を優先するよう厳命していた。

 しかし緑谷の目はただ一つの方向を向いていて、弾かれるように飛び出していく。

 

「緑谷!?」

「洸汰君の所に行ってきます!!!」

 

 振り向くことなく後ろからの声に返した緑谷は森の中を突っ切っていった。

 

 

 





 ここまでの読了に感謝いたします!

 噓つきは直火焼きと蒸し焼きになるのが運命(Fate)らしいですね…日焼けで許してくれるでしょうか…?

 夏はトンチキイベントで確定した模様ですね…
 カレーとスペース、どうなるのやら…

 ヒロアカも遂にピリオドが打たれたのは、少し寂しいですね…

 高評価、ここすき、お気に入り、感想などは遠慮なく送ってください!間違いなく全部見ていますので!

 

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