万事は仕掛けによって成されていく。
掛けた時の長さは成功と比例していく。
垂れた釣り糸に、得物が掛かるのを待つように。
しかし努々忘れるな。
深く長い仕掛けほど、餌のみを取れるという事を。
雄英高校の数ある会議室の一つにて、ヒーロー教師たちが眉間に僅かな皴のある顔を突き合わせて、外から漏れ聞こえる声をかき消すように少し大きな声で言葉を交わしていた。
「
「認識していたとしても防げていたとは……この計画的かつ立て続きの展開を誰が予想できるでしょうか…?」
根津校長の言葉を受けて己の言葉を紡ぐミッドナイトを指さしながらプレゼントマイクが喉を震わせる。
「少なからず、無意識に気が緩んでいたってことだろ。それを
「……」
「毅然とした態度を取り続ける事は、生徒の拉致という最大の失態によって封じられたも同然です…。【ヒーロー】に対する信頼は奪い墜とされたのですから」
スナイプの言葉にその通りだね、と返しながら根津は記事を見せて続ける。
「各局は雄英への非難にかかりっきりだね。体育祭で見せた爆豪君の態度をあげつらいながらね。
待ってましたとと言わんばかりにマイクが立ち上がって言う。
「【信頼】っつうことのこの際言わせて貰うが…いるよな、内通者」
黙り込む室内をマイクの低い声が妙に響く。言葉の残響をそのままにマイクは口を止めない。
「合宿所の場所はプッシ―キャッツと教師陣しか知らなかった…急に入ってきたあいつら三人を省けばな。生徒の可能性もないとは言わねぇが…あの場所で一番信用のおけない人間であることには間違いねぇだろう…!?」
「あいつらだけでも白黒はっきりさせるべきだ…そうは思わねぇか校長?」
そう最後に言って己の首を根津の方へと固定させる。しかし瞳を瞑って腕を組み、思案の表情をする根津の口元は動かなかった。何度となく答えを促すマイクの言葉に割って入ったのは隣に座るスナイプだった。
「そう凄むお前はハッキリ【白】だと証明できるのか?この場にいる全員が【白】だと断言できるのか?」
その言葉に返す刀を持ち合わせなかったマイクは、歯がゆさを口の中で暴れさせるしかなかった。
「互いが疑心暗鬼になるのは敵の思うツボだ」
封をするように唇を噛み締め続けるが、我慢は続かなかった。
「だが!お前だってあいつらは俺たち以上に【黒】寄りだって思ってねぇわけじゃねぇだろ!?」
数秒間沈黙を維持したスナイプはゆっくりと言う。
「…内通者探しは焦ってやるべきじゃない…それだけは確かだ」
そう言うと再び沈黙が訪れた瞬間に会議室のドアが三度鳴る。教師陣全員が互いの顔を見合わせるが、全員が小さく横に振るばかりであった。根津が代表する形でノックに応える。
「どちらさまかな?」
『…公安のものだ』
「「「「「!!!」」」」」
良くも悪くも耳馴染みのある組織の名前が聞こえてきたことに目を見開かせる。弾かれるように首を振って根津と目を合わせると、小さく頷きを返されたオールマイトはゆっくりとその引き戸を開ける。
入ってきた人間に対して、根津とオールマイトのみが一度瞬きをする。そのまま革靴を鳴らしながら室内を進み、プレゼントマイクが椅子に座ると黒服の男が口を開く。
「
「分かった。」
根津がそう答えると小さく咳を一つ溢して話す。
「先日の敵襲撃事件の犯人、及びその首謀とみられる組織の潜伏先を特定いたしました」
「本当かね!?」
飛び起きるように立ち上がって言うオールマイトを見ながら男は続ける。
「えぇ、ある組織の協力と被害に遭った一人の雄英生徒による英断のおかげです」
そう言って男は少し胸を整えて続ける。
「発見までの概略としては、警察による捜査によって不審な人物に関する情報が散見されていました。事件性等の報告がなかったため目撃情報のみが保管されていましたが…今回の敵犯罪の実行犯、その一人との特徴が合致したとのこと」
(塚内君…!)
オールマイトの脳内に彼の顔が浮かぶ。考案の男の口元は尚も動く。
「また詳細な潜伏先に関しては、複数の生徒が遭遇した新型脳無と目される敵の身体の一部に『個性』で作成した発信機を埋め込んだという報告と共にその電波信号を基に捜索したところ、先の敵たちの潜伏先を酷似しました」
そう言うと教師たちの脳内に一人の女子生徒の顔が浮かぶ。
(八百万少女か…!やってくれるじゃないか!)
男は続ける。
「それらのことから、近日中に敵掃討・生徒救出のための大規模行動を実施する予定ですので皆様も準備のほど、よろしくお願いします」
その言葉を最後に公安の男は会議室を後にしようとするが、
「一つ、訊きたいことがあるのだけど、いいかな?」
「答えられる範囲であれば」
「構わないよ。…訊きたいのは捜査に協力したという組織、それはどこなのかな?」
そう言うと滑らかだった口元は少し固まる。しかしそれもほんの僅かなことですぐに口を開く。
「それは今回の合宿に急遽警備として合流した三名が所属する組織です。日本国内の敵組織の潜伏場所の捜索及び特定に関して、我々公安委員会と連携協定を結んだのです」
男の発した言葉で弾かれるように前のめりになったのがマイクだった。
「じゃなにか!?あいつらはヒーローですらなかってのか!?」
「ヒーローではあります。公安が発行したヒーロー免許を携帯している以上、彼らもヒーローの一員です」
淡々と答える口はかえって逆撫でする様な苛立ちを与えるものであった。
「ならあいつら三人の正体は知ってるんだろ?」
「はい」
「ならそれを聞かせろよ」
「できない」
「…は?」
一瞬、気の抜けたような声が漏れる。
「答える権限を私は…我々公安委員会は有さない」
我慢ならないと追撃しようと口を開けるマイクに根津が声を上げる。
「そこまでにしよう、マイク」
「だが校長!!うやむやにされたままじゃあ埒が明かねぇ!!せめてあいつらだけでもはっきりさせるべきだ!!!」
「答えられないものを聞き出すのはこちらにも不利益を被りかねないというのが常だ。実際、そうなんだろう?」
そう言うと男は何一つと言葉を口にすることはなかった。沈黙は然りと取ると言って根津が続ける。
「公安と繋がっていると彼は言った、ならその言葉を信じよう。日本の治安維持組織…それも公安ともなれば繋がっている相手にも一応の信用はできると思う。今はそれで置いておこう、マイク」
「それに、聞き出すことに時間を費やせるほど僕たちも暇じゃない。僕たちも救出掃討作戦にむけて準備をしないといけないからね」
目を配ると教師それぞれが首を縦に振る。
「では、よしなに」
その言葉を最後に公安の男が出て行った後の会議室は静けさが変に漂っていた。ぱんと一度、大きく手を叩いた根津が開口を取った。
「作戦の準備もだけど、雄英高校の方でも色々と準備が必要になった。首尾はどうなっているのかな?」
そう言うと張った糸が緩むように、それぞれの教師が受け持っている処の報告を上げていく。
今は、雄英高校の教員なのだから。
合宿所近くの病院にて、A組の生徒たちは一つの個室に入っていた。全員から情けない姿を見られている恥ずかしさやら変な圧迫感のせいか、少し苦笑いを溢す八百万百であった。
「百ちゃん、具合はどうかしら?」
「えぇ、もう痛みはありませんわ。先日にはお医者様からも今日限りで通院に切り替えられそう、とお言葉を頂きましたわ」
「そっかぁ~…良かったぁ!!」
力の抜けた体をベッドに支えてもらっている芦戸の後ろから男女それぞれが声をかける。お見舞いの果物を見せて少し驚かれたり、それなりの和やかな雰囲気が室内を包んでくれていた。そうしていると八百万がぽつりと溢す。
「…今の雄英がどうなっているか、みなさんはご存じですか…?」
その言葉を聞いてお互いが顔を見合わせる。少し眉を曲げて難しい顔に変えながら、何も言うことはなかった。代表するように飯田が唇を切る。
「…今も休校状態のまま、正式な発表はまだしていない」
「かこつけてテレビが好き勝手言ってるような感じやね…。クラスメイトも、先生も、警備の人も、みんな大変やったのに…」
「そう…ですか」
八百万の言葉を最後に再び沈黙が訪れる。それぞれの小さな呼吸すら聞こえてくるような、静けさの中で一人、切島が声を出す。
「なぁ八百万」
「なんでしょうか…」
「前にお見舞いに来た後、スーツの男と話してたよな…『敵に発信機を付けた』って」
「なぜそれを…まさか切島さん!」
ハッとしながら切り島を見る、決意を宿しているようでもあったその瞳がまっすぐに向けられていた。
「救けに行きてぇんだ!だから頼む!受信機を「駄目だ!」…飯田」
瞬間、誰もが飯田に目をやる。両手を握りしめ、聞いたこともないような大きく絞れた声で切り島を見つめる飯田は、何か苦しそうでもあった。
「絶対に…!それだけはさせられない!間違えた者の責務としても、一人の友人としても、止めさせてもらう…絶対にだ!!」
「じゃあどうすればいいんだよ!!救けれなかった悔しさを!まだ届くっていうもどかしさを!俺はそのままになんか…どうやったってできねぇよ!!!」
「それでも!!俺たちは子供だ!守られる側だ!俺たちの行うすべてに俺たちが責任を取れるわけじゃない!今も落ちていく雄英の信頼を、生徒である俺たち自身が貶めるようなことをして良い訳がない!!」
次第に熱が高まり、二人が互いにその頭をぶつける様に体を近づける。一触即発の雰囲気が漂い始めた二人の間に一人が身体を割り込んで二人を離す。ハッとするように二人は一人に目を向ける。
「落ち着け、二人とも」
「「…障子」君」
「飯田、お前の言うことは正しい。だから切島、子供である俺たちが感情論で動いて良い問題ではもうなくなっている。反対に飯田、切島の持つ悔しさは俺や轟…何よりも緑谷が一番今も抱えているそれは、飯田自身も一度は抱えていた物のはずだ。分かってやってほしい」
冷静に、淡々と告げられたそれは熱に踊らされた頭にスッと入り込んでいく。言葉の咀嚼が終わるとそれぞれがばつが悪そうに目を逸らす二人に向けて、ぽつぽつと静かに、青山が、常闇が、そして蛙吹が、それぞれがそれぞれの言葉で落ち着きを与えようと口を開く。そのどれもがクラスメイトの心に積もって全員が何も言えなくなり、三度目の静寂が個室を埋める。
三度、扉からノック音が鳴って開く扉の向こうには白衣を着た女性とナースキャップを被る女性の二人が立っていた。
「お見舞いの途中にごめんなさい…これから八百万さんの診察時間なのだけど」
そう言うと一人、また一人と八百万に言葉をかけてから部屋を出て行く。そうして緑谷が出て行く瞬間、並ぶように切島が歩きながら、掠れたような小声で言う。
「(…八百万にはもう一度話をするつもりだが…やるなら速攻。決起は今晩。五時に病院前。来るかどうかは任せる)」
「(切島君…)」
「(一番悔しいお前だから話した)」
そう言うと目の前のグループに混って話し始める切島の背中を見ながら、緑谷は一人考えていた。
(…僕が、一番したいことは…)
そう思う前になぜか決まっていたような…そんな確信があった。
そうした個室にただ一人残った八百万は、女医の丁寧な診察や問診を受け終わって身なりを正していた。そうするとナースに先に戻るように言って自らの手で片付けていた女医から声が掛かる。
「さっきの子供たちって、もしかしなくてもクラスメイト?」
「…はい、いつも仲良くさせていただいてますわ」
「そうよね、ほとんど全員でしょ?」
「…えぇ」
やや答えづらくて少しためらいながら曖昧な肯定で返すと、開いていた目を少し細めながら女医は言う。
「…そっか。じゃあここからは
「なにやら…雰囲気が…!?」
そう返していると、女医の正体が合宿所に警備でいたスノだった。同じ顔をしているはずなのに今まで全く気づきもしなかったことによる驚愕が八百万の口元をまごつかせる。
「え…え…!?」
「驚かせちゃった…みたいね。ごめんなさい」
「い…いえ…。でもどのように…いえ、どうしてここに?」
「…本当だったら様子見だけで正体はバラすつもりはなかったんだけど…君のクラスメイトが、
やんちゃ、と言ったその声音の優しくてほんのりと沈んだような印象が、言葉の意味合いを変えて八百万に伝わっていく。合わせていた目を小さく下へとむける。ヒーローに彼らの行おうとすることがバレてしまったことに対してどう言葉を取り繕う…いや、どう言い訳するべきか、その事ばかりが八百万の頭を埋めていた。
しかし、声は前から聞こえてきた。
「止める気はないよ」
「…なぜ、ですか?」
「私には、その権限はもう失われているから」
「…まさか、ヒーロー免許を…?」
相当と少し困ったような、申し訳ないような顔に乗る優しい瞳で返される。それだけで八百万はその視線を外したくなって、また顔を俯かせる。先ほどと変わらない、優しさの籠った声音が届く。
「悔しいね」
「…はい」
「私はもう何もできないけれど、あなただからできることをしてほしいな」
「私が…できること」
繰り返すように同じ言葉をつぶやいたのを聞いてか、「よし!」と言って立ち上がったスノはそのまま扉の方へと進んでいき、
「お大事にね!」
その言葉を最後に扉の向こうへと消えていく。自分以外誰一人としていなくなった個室の中で、八百万はずっと扉の方を見て言う。
「…ありがとうございます」
その眼には、煌めくものが宿っていた。
(ごめんなさい)
横浜市神野区。その周辺区には東西から集った選りすぐりのヒーローたちが火蓋を切るその時を待ち侘びていた。それはオールマイトであっても…いやだからこそ、その想いは
「もし」
オールマイトの背中からだった。先日までほぼ毎日聞いていた声に思わず振り向く。
「ルカ少女…どうして……!」
「解っていよう、其方ならば」
返ってきた言葉にしっかりと思い当たりを見つけたオールマイトは、しかし何も言わず前を向き直すにとどまった。そのままルカは続ける。
「我が國の【至上命題】そして其方が先に申した【条件】。忘れた…などとは言うまいな」
「…」
「答えぬ…いや、|解っているが故…か」
「…」
オールマイトは何も言うこともなく、この徒な時が過ぎ去るのを待っているようであった。その背中を少し細めた瞳で見つめる。希うように、諭すように、ルカは己の口で言葉を紡ぐ。
「聞き分けては、くれまいよな」
「…こればかりは無理だ、ルカ少女。君の立場がどうであっても、君との約束を反故にしてでも…これだけは…
絞り出すような声。先日の夜の時と同じようで少し静けさのある…そんな声音で返される。
「それは、
「いや…これは、脈々と受け継がれた私の『
拳に変えた右手を見つめながらつぶやくように答える。大きく一つ深呼吸をしてルカが言う。
「貫きたくば願え…そして捧げよ」
そう言うとオールマイトはゆっくりとルカと顔を、瞳を合わせる。真っすぐに、燃えるような煌きがあった。
「明日までに、決着をつけて見せる」
「
「あぁ」
「では、何を捧ぐ」
「…吊り合うものなら、なんでもいいさ」
ほんの一瞬、朴訥とした笑顔でそう返されて思わずルカは目を見開く。伝わるように少し笑みをこぼしながら言う。
「その誓言、違えるでないぞ」
「…もちろんだとも」
そう言った瞬間、
「残り3分。準備は良いかオールマイト」
「あぁ…いこうか!!」
気迫の乗った笑顔で返し、英雄は歩みを進める。
たった一人の男と話すために瞬きすらも永遠に変えた少女は、地上を彩る
[ここ迄の任務、ご苦労であった]
[…恐悦至極にございます]
デニが代表するように己の下げた首に乗る口で答える。出て行く音に響く物はなく、それでも少女には届いていた。小さく頷くとおもむろに振り返りながら言う。
[…時に、スノ]
[…如何様にございましょうか…]
ほんのりと、常人であれば気付きようのないほどに小さく、お辞儀をするスノの半身は震えた。しかし少女には視えていたがゆえに、僅かに曲がったように見える表情のない顔から言葉が放たれる。
[かの学徒達、その一人に接触しただろう?
瞬間淡い光が少女を中心に、4人を包むように球状に広がる。三人の鼓動が徐々に早まり、スノただ一人だけが額から汗を滴らせていく。
[…申し訳、ありません]
応える口もほんの少しだけ途切れ、息遣いも共に乱れ、荒れていく。
[“時”の歯車を廻す螺子は
信者に説法するような穏やかな雰囲気のなか、子を躾けるような声音に乗せて、部下へ叱責するような言葉遣いでスノに語り掛け、問い掛けていく。
[何一つ…ございません]
[如何なる所以か?]
[
[その意志は、恐れや情けによるものか?]
[断じて]
そう言うとスノは礼を解いて少女を見上げるように己の体を下げる。その様子を視界の端で捉えていた両側の二人の鼓動は一層速まっていく。
[…そうか]
揺らぐことのない瞳を宿すスノと目を合わせていた少女は瞑目し、数瞬と逡巡をしていたようであった。しかし再び開くと少し首を横へ曲げ、青年の方へと眼差しを向ける。
[デニ、汝も同様か?]
[仰る通りでございます]
間髪すらも入れないほどの速さで答えたデニもまた、僅かに荒い息を整えつつ姿勢を元に戻し、己を下げて少女を見上げる。そうしてもう一方側で礼を続けるクイの方を向く。
[クイ、二人の行いについて
そう問われたクイは大きく呼吸を一つ置いて、
[【名代】様の、ひいては【巫女】様の深謀遠慮を踏み躙るが如き所業を見過ごしてしまったことを、行った二人と共にお詫びいたします]
そう言葉を切る。訪れた沈黙を少女の[続けよ]の言葉が通り、ゆっくりとクイの口が動く。
[その上で…二人の
言葉を紡ぎながら、二人と同じように背を正しつつ見上げるようにして己の位置を下げたクイは、まっすぐに少女の瞳を見つめて…言葉の締めと共に再び首を下げた。大きく吸い、ため息にも似た深呼吸を一つ吐き捨てた少女は言う。
[…デニとスイは全任務終了後半年間の
[…………引き続き、任務を遂行するように]
[奮励、努力いたします!]
届いた言葉に三人は気迫のこもった言葉でそう返して深々と礼をする。三人が元の姿勢に戻すとクイが指を弾く。すると三人はゆっくりと、次第に加速しながら大地へと吸い込まれていく。数秒もすれば極小な三条の流星が作った雲の軌跡を見送るのみとなっていた。
駄目押しと言わんばかりにもう一度大きくため息を吐いて、
「【天秤】が正しく吊り合うように、そう仰っていたが……【今代】様、これでよいのか…?」
その言葉は、
警察機動隊と精鋭のヒーローたちによる一斉突撃から5分が過ぎた頃には、ヴィラン連合のアジトにいた敵たちは瞬く間にその体を捕縛されていた。
「これで終わりだ…ヴィラン連合。そして…死柄木弔!」
オールマイトの猛々しい言葉は、連合のメンバーたちの背に圧を乗せられたかのように身動きが取れなかった。ただ一人、死柄木だけがその眼を血に染めるように、ヒーローたちを睨んでいた。
「お前らが…ヒーローが…てめぇらが大好きな正義やら平和やらのせいで歪んでるこの社会を、お前たちをぶっ壊すために…!!!ここからなんだよ…俺たちは!!!!」
「『よく言ったね、弔』」
全員が、一つの方向を向いた。気絶しているはずの
「『失敗してもいい、得られた学びを活かすんだよ』」
「おいエッジショット!どうなってる!?」
「気絶しているはずだ…!なぜ声帯が動いている!?」
そう言ってエッジショットは再び極細の糸と化して黒霧の中を探る。しかし、男の声は止まらなかった。
「『だから、いま助けよう』」
「やらせるとでもッ!?」
そう言って踏み込んだオールマイトは、黒霧の靄の中にある極小の光を垣間見る。
(あれはまずい!!!)
「カムイ、お師匠!失礼します!!!!」
二歩目の足の向きを変えてシンリンカムイとグラントリノを抱え、ビルから飛び出そうとしていた。
「エッジショット!今すぐ
「「オールマイト!?」」「俊典!!なにを!!」
唐突な行動に戸惑うグラントリノ達を意に返さず、とにかくビルの外へと駆け出さんと両足に全力を懸ける。
「『ついでに殺してやるよ、オールマイト』」
ビルから飛び出た瞬間、
空に響き渡る轟音とともに、地上に星が咲く。
ビルの外で様子を窺っていた塚内やエンデヴァー達は唐突に訪れた轟音と爆風、そして目を灼くような極光から何とか避けようと目を瞑り、姿勢を低くする。
瞼の向こうの光が徐々に薄まってから開けようとしても瞼の裏に張り付く残光のせいでよく見えず、何度か瞬きを繰り返してようやく元に戻った眼で改めて周囲を見返そうとして、絶句した。
周囲のビルは何一つとして変わっていないにも関わらず…そこにあったはずのものが、潜伏しているはずのバーのあるビル一棟が跡形もなく消えていたから。煙がまるでビルの面影を残すように空へ登っていた…それだけの光景が、あまりにも唐突で、あまりにも荒唐無稽だったから。
「なに、が……」
「ボォッとするな!!来るぞ!!!」
そう叫ぶエンデヴァーは予兆なく、降りかかりながら襲い掛かる大量の脳無たちを殴り、焼き払っていく。一、二度と首を振ってから塚内は無線を繋ぎながら状況を確認する事には、固まっていた機動隊たちも己の装備を脳無に向けて対処を始める。
何度繋いでも応答のない無線機から手を離しながら言う。
「ジーニストからの応答がない!おそらく脳無工場の方が失敗した!」
「グダグダにもほどがあるぞぉ!!」
そう言いながらも脳無を対処する手を止めないエンデヴァーの背中側から地面を殴りつける音が聞こえる。
「エンデヴァー!無事か!!」
「そう思えるなら耄碌したとしか思えんなオールマイト!!行くならさっさと行け!!」
そう言って脳無に殴りかかるエンデヴァーに少し笑みをこぼして、その顔を引き締める。
「あぁ…任せたよ……!」
そう言ってオールマイトは工場の方角へと跳んでいく。入れ替わるようにしてシンリンカムイが降り立つと
「シンリンカムイ!エッジショットは!?」
「五体満足だが意識がない!!」
塚内に問われたシンリンカムイはそう言って、伸ばしていたもう片方の腕の上に乗っているエッジショットを見せる。
「分かった!回収班を回す!空いた穴を埋めてくれ!」
「了解!」
返答に笑みを浮かべながら通信機を操作して数人の機動隊がエッジショットの護送する姿を見送って、再び機動隊の指揮を始める。
混沌は、始まったばかり。
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