宇宙の海は、奴の海。広い銀河の果てまでも、悪を叩いて流れ猫。それは、紛れもなく奴……宇宙海賊コブニャさ!
「コブニャ、次の獲物は惑星デコポンのゴールドチュールだニャ。気をつけて行くニャよ」
ニャートル号のメインコントロールルームにて、真剣な表情で語るニャーマロイド・レディ。とびきりの美形なサイボーグ猫人である。彼女の尻尾は長く、ゆらゆら揺れる様はとてもセクシーだ。
その後ろにいるのは、宇宙海賊・コブニャである。体は金色と赤と白という三つの毛色から構成されており、左腕にニャイコガンを持つ不死身の男として知られている。だが、猫の本能もなくなっていない。ゆらゆら揺れる尻尾を前に我慢できず、その肉球を伸ばしちょちょいとジャレついてしまった。
その途端、レディが鬼の形相で振り返る。
「フシャー! 尻尾さわるのはセクハラニャ! 何回言えばわかるニャ!」
直後、レディの強烈な猫パンチをくらう。コブニャは、派手に吹っ飛んでいった。
ぷんすか怒りながら出ていくレディ。コブニャは仕方なく、毛づくろいをしてごまかした。
「レディは、やっぱり気が強いのニャ。でも、そこが魅力ニャ」
その翌日、惑星デコポンに降り立ったコブニャは、夜の住宅街を進んで行った。
「ここが、惑星デコポンかニャ。それにしても、ずいぶんと文明の遅れてる世界だニャ」
周りの風景を見回し、コブニャはため息を吐いた。木製の電柱が建ち並ぶ道路、土管の並べられた空き地、どこからともなく聞こえてくる、ラッパのような音色……彼がいつも立ち寄るような星とは、まるで違っている。
「本当に、ゴールドチュールはあるのかニャ」
コブニャが呟いた時、いきなり声が聞こえてきた。
「宇宙海賊コブニャ! 逮捕だワン!」
振り向くと、ワイルドな雰囲気の犬人が立っている。毛は黒く、茶色い革のジャンパーを着ていた。二十メートルほど離れた位置に立ち、鋭い目でこちらを睨んでいる。
コブニャは首を傾げた。恐らく銀河パトロールだろうが、こんな奴に見覚えはない。
「お前なんか知らないのニャ。さっさと消えな、でなきゃホットドッグにして食ってやるのニャ。この犬っころめ」
その言葉に、犬人はニヤリと笑った。
「ならば、その目でしっかりと見ておけワン。今日こそ、お前の年貢の納め時だワン! ジョーチャック!」
次の瞬間、犬人の体が輝き始める。
「な、なんだニャ!?」
驚くコブニャの前で、犬人の全身が変貌を遂げた。銀色に輝くメタリック・スーツが、彼の体を包んでいく……。
一瞬で完全なメタリックボディになった犬人は、さっと構え見得を切り叫ぶ。
「宇宙刑事……ギャワン!」
「ギャワン? 聞いたことないニャ。どこのアホ犬かニャ?」
コブニャは軽口を叩きながら、さっと飛び退く。
同時に、左腕のニャイコガンを抜いた──
「銀河パトロール! 今、銀河の果てまでぶっ飛ばしてやるニャ! 隅々までパトロールしてこいニャ!」
言いながら、ニャイコガンを撃つ──
コブニャ最強の武器が、このニャイコガンである。彼の精神エネルギーをニャイコパワーに変え、エネルギー波として撃ち出す仕組みになっているのだ。
今も、凄まじいエネルギー波が、ギャワンめがけ放たれる。まともに喰らえば、強化メタリックスーツといえどひとたまりもないだろう。
だが、ギャワンもただ者ではなかった。放たれたエネルギー波を、咄嗟に抜いた剣で受け止めたのだ──
「ヒュー! 俺のニャイコガンを受け止めるとは、さすがだニャ!」
叫ぶコブニャ。その背中の毛は逆立っている。相手の恐ろしい強さを、はっきりと認識したのだ。
一方、受け止めたギャワンの耳も若干ではあるが下がっていた。ギャワン最強の武器であるレーザーブレードでなければ、本当に天国まで吹っ飛ばされていただろう。
お互いに相手の手強さを理解し、睨み合う両者……と、その時だった。レーザーブレードに変化が生じる。ニャイコエネルギーのせいだろうか、刀身が異様な光を放っているのだ。触れただけで、惑星をも切り裂けそうである。
両者とも、唖然となって刀身を見つめる……だが、変化は一分も持たなかった。やがて、刀身は元の色に戻る。
だが、本当に驚くべきはこれからだった。
「ニャクー空間に引きずり込め!」
どこからともなく、声が聞こえてきた。直後、時空の歪みが生じた。同時に、とてつもない違和感に襲われる──
それは、ほんの一瞬の出来事であった。だが、その一瞬で恐ろしい変化が生じていた。
「な、何だニャ!?」
叫んだのはコブニャだ。しかし、それも当然だろう。彼らの周囲の風景は、完全に変わっていたのだ。
木造の家や電柱といった人工物は消え失せ、代わりにゴツゴツした岩や砂地になっている。空は暗く、星ひとつ浮かんでいない。その上、異様な空気が漂っている。
「ここは、ニャクー空間だワン。宇宙マフィア・ニャクーの仕業だワン」
そう、ニャクーのボスであるドン・ホニャーは、特殊なマシーンで時空を操作し、一種の異空間を作り出すことが出来るのだ。
答えたギャワンに、コブニャは苦笑してみせた。
「ニャクー? 名前だけは聞いたことあるニャ。あんたに恨みを持つロクデナシかニャ?」
「そうだワン。俺のせいで巻き込んじまったワン。すまないワン」
「謝ってる場合じゃないニャ。どうやったら、こっから出られるのニャ?」
「ここを支配するダブルモンスターを倒せば、ニャクー空間は崩壊するワン。そうなれば、出られるワン」
「そうかニャ。では、そのモンスターとやらを倒すまでは、一時停戦といこうニャ」
「停戦だワン」
言い合った時だった。突然、上空より降り立った者がいた──
「俺は、宇宙海賊バンカー最強の男・ブラッディキングだ! 今回はニャクーに雇われちまってなあ、お前らふたりを片付けてやるぜ!」
勝ち誇った顔で言ったのは、巨大なサイボーグであった。頭は恐竜のようであるが、体はゴリラに似ている。さらに、鎧のごとき装甲に覆われていた。体は大きく、コブニャの倍以上はあるだろう。
だが、コブニャは怯まない。それどころか、鼻で笑った。
「なんとまあ、デカいだけで芸のなさそうな奴だニャ。お前みたいなのが最強とは、バンカーってとこはよっぽど人材不足なのニャ」
途端に、ブラッディキングの顔が怒りで歪む。
「ふざけやがって……お前からぶっ殺してやる!」
吠えた直後、巨大な腕を振り回す。しかし、コブニャはあっさりと躱してのけた。と同時に、ニャイコガンを撃つ──
「お、おい、マジかニャ?」
コブニャは愕然となっていた。だが、それも仕方ないだろう。ブラッディキングの装甲には、傷ひとつ付いていないのだ。
ニャイコガンから放たれるニャイコパワーは、凄まじいものだ。タンクの装甲ですら、簡単にぶち抜く威力があった。なのに、ブラッディキングは平然としている。
「ハハハハ! 宇宙海賊コブニャのニャイコガンも、この程度か!」
「う、嘘だろ……俺のニャイコガンが、傷ひとつつけられないのかニャ!?」
驚愕の表情を浮かべるコブニャ。その一瞬の隙を突き、ブラッディキングはぶんと腕を振った。
何の変哲もない、ただ腕を振っただけの攻撃……しかし、その一撃でコブニャは吹っ飛んでいった。地面に体を打ち付け、思わず呻き声を漏らす。
「クソ、なんてパワーだニャ……ハンデを付けろニャ」
「ハハハハ! 何が不死身のコブニャだ! お前の伝説も、今日で終わりだ!」
勝ち誇ったように叫びながら、ブラッディキングはなおも腕を振り上げる。
その時、声が響き渡る──
「レーザーブレード!」
ギャワンの声だ。見れば、ギャワンの剣に変化が生じていた。刀身が、青く輝いているのだ。
次の瞬間、ギャワンは剣を振り上げる──
「ギャワン! ダイナミック!」
掛け声と共に、剣を振り下ろした。
レーザーブレードから放たれる必殺の剣撃、それこそがギャワンダイナミックである。ギャワンは、この一撃で幾多の敵を葬ってきたのだ。威力は、銀河をも切り裂くと言われている。
しかし、その必殺の一撃が弾かれてしまったのだ。装甲には、傷ひとつ付いていない……。
「ハハハハ! そんなもん効くか! 俺の装甲は、このニャクー空間では硬度が三倍になるんだよ! パワーも三倍! お前らに勝ち目はナッシング!」
直後、ブラッディキングが腕を振るう。
たった一発のパンチで、ギャワンは吹っ飛ばされた。コブニャの横に倒れ込む。
「ハハハハ! コブニャ! ギャワン! 今日がお前らの最期の日だ! じっくりと苦しめて殺してやる!」
そう言うと、ブラッディキングはゆっくりと歩いてくる。もはや勝利を確信した顔つきだ。本当に、じっくりと苦しめて殺すつもりなのだろう。
その時、コブニャがにやりと笑った。
「こういうのは、あんまりやりたくないんだけど……仕方ないニャ。ギャワン、おいしいとこはお前にくれてやるニャ」
言ったかと思うと、コブニャは驚くべき行動に出た。ニャイコガンの銃口を、ギャワンに向けたのだ。
「な、何をする気だワン?」
「俺のニャイコパワーを、お前のレーザーブレードにプラスさせるんだニャ!」
直後、ニャイコガンが放たれた──
ギャワンは、レーザーブレードの刀身で受け止める。と、レーザーブレードがまたしても変化した。
ニャイコガンを受けたレーザーブレードが、先ほどと同じく白く光っているのだ。ニャイコエネルギーが刀身に留まり、凄まじいオーラを放っている……。
「そいつで、あのデカブツをぶった斬れニャ! 俺の命、お前に預けたニャ!」
「わかったワン! お前の命、預かったワン!」
言った直後、ギャワンはブラッディキングへと向き直る。
「くらえ! ニャイキック・斬!」
吠えると同時に、刃を振り下ろす──
「ハハハハ! バカめ! そんなもの効くとでも……」
ブラッディキングの言葉は、そこで止まった。
ニャイコガン、そしてギャワンダイナミックをも弾き飛ばした装甲……だが、その無敵の装甲に線状の傷が付いている。
と、見る見るうちに傷が大きくなっていった。ブラッディキングの装甲は、完全に割れてしまったのだ。
だが、そこで終わりではなかった。割れた装甲から、何かが飛び出す。
飛び出した何かは、宙を舞いギャワンへとぶつかる。途端に、ギャワンほ吹っ飛んでいった。
「この装甲をぶち破る者がいたとはな! だが、お前らももう終わりだ!」
そう言ったのは……真っ赤な体のトカゲ人であった。これこそが、ブラッディキングの本体である。
「クソ! まだ生きてるのかワン! レーザー・Zビーム!」
掛け声の直後、ギャワンの手から光線が放たれる。光線は、まっすぐ飛んでいった。
だが、ブラッディキングは簡単に躱す。と同時に、その体が飛んだ。
凄まじい跳躍力で宙を舞い降い、ギャワンへと飛んでいく。
ブラッディキングの飛び蹴りが、ギャワンに炸裂した。途端に、ギャワンのコンバットスーツから火花が散る。
だが、ブラッディキングの攻撃は止まる気配がない。今度は、マシンガンのような拳の連打だ。ギャワンは、為す術もなく攻撃をくらい続ける。このままでは、頑丈なコンバットスーツであっても持ちこたえられない。
その時だった。
「おい、トカゲ野郎。今度は俺が相手だ。フライにして食ってやるから覚悟するニャ。まずそうだけどニャ」
直後、ニャイコガンが火を吹く。しかし、ブラッディキングはあっさりと躱してのけた。
「ハハハハ! 俺のスピードは宇宙一! お前のニャイコガンなんざ、遅すぎて当たらねえよ! 音速を超えた戦いを見せてやるぜ!」
言ったかと思うと、ブラッディキングは走り出す。コブニャの周囲を、ぐるぐる回り出した。そのスピードは、本当に音速を超えている。肉眼では、とうてい捉えきれない。
だが、コブニャは平然としていた。
「わかってねえなあ、トカゲ野郎。俺のニャイコガンは、目だけで撃つんじゃないニャ。心で撃つんだニャ」
呟くと、コブニャは目をつぶる。その脳内では、ブラッディキングの動きが映像として再現されていた。
(見えるニャ。奴の動きが、完璧に追えるニャ……)
「そこだニャ!」
叫ぶと同時に、ニャイコガンが放たれた。
バタリと倒れるブラッディキング。その胸には、巨大な穴が空いている。
「ふう、こいつはちょっと手強かったニャ」
そんなことを呟いた時、周囲の風景にまたしても変化が生じた。時空が歪み、ねじれ、あらゆるものが回り始める──
気がつくと、元の惑星デコポンへと戻っていた。
「やれやれ、あちこち痛いニャ。おい、犬のお巡りさん。大丈夫かニャ?」
コブニャの言葉に、ギャワンは上体を起こした。
「誰が犬のお巡りさんだワン……どうにか大丈夫だワン」
「そうかニャ。俺はくたくただから、帰らせてもらうニャ」
そう言うと、コブニャはくるりを向きを変える。そのまま立ち去ろうとした時だった。
「宇宙海賊コブニャ! 俺は諦めないワン! 銀河の果てまで追いかけるワン! そして……いつか必ず、逮捕してやるワン!」
言うまでもなく、ギャワンの声だ。コブニャは苦笑した。
「そうかい、いつでも来いニャ。ま、お前じゃ無理だけどニャ」
ややあって、惑星デコポンに銀河パトロールの救援隊が到着した。
「ギャワン! 大丈夫かワン!?」
心配そうに声をかけたのは、ギャワンのパートナー・ミミーだ。ギャワンはコンバットスーツを解除し、言葉を返す。
「ああ、どうにか無事だワン」
「よかったワン……それにしても、宇宙海賊バンカーの最強戦士・ブラッディキングを倒すなんて凄いワン」
「いや、こいつは俺が倒したんじゃないワン」
「えっ? じゃあ、誰が?」
「すっとぼけた顔した泥棒猫だワン」
「ど、泥棒猫?」
「そうだワン。俺のハートを盗んでいきやがった……とんでもない大泥棒だワン」
答えた後、ギャワンはにやりと笑った。
「コブニャ、か……海賊やらせとくには、惜しい男だワン」
一方コブニャは、キャットル号にて傷の治療をしていた。
「ごめんなさいニャ。ゴールドチュールの情報は、ニャクーの流したデマ情報だったニャ。私のミスだニャ」
しおらしく謝るレディに、コブニャは笑いながら答える。
「いいってことニャ。女のミスは、アクセサリーみたいなもんだニャ」
「なんか嬉しそうだニャ、なにかいいことでもあったのかニャ?」
「いいや、さんざんだったニャ。アホなトカゲ野郎とやり合うは、銀河パトロールのしつこそうなホットドッグ野郎に目をつけられるは……」
そこで、コブニャはまたしても笑う。
「ギャワン、か。銀河パトロールやらせとくには、惜しい男だニャ」