何度繰り返しても鹿目まどかを救えない魔法少女――暁美ほむら。
 精神年齢は気付けば二十歳を超え、既に社会人と言ってもいい彼女は未だ魔法少女を名乗り中学二年生である現状に転校早々発狂する。
 そんなほむらの奇行に、スカートの中を覗く変態マジシャンの烙印を押したまどかだったが、彼女が中二病を発症している可能性に行き着いたところから物語の歯車は大きく狂いだす。

「僕と契約して、中二病になってよ」

 これは暁美ほむらが体験したかもしれない、最も混沌と化した時間軸。

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第1話「こんなキャラじゃなかった、ような……」

 暁美ほむらには、今回のループが果たして何度目にあたるのか分からない。

 最初の頃はその時間軸で起きた出来事、選択した結果(みらい)を記憶しようとしたが、いつからかそれもしなくなっていた。

 そうなってしまうほどに、記憶しきれないほどに、失敗しては一ヶ月間のループを何度も繰り返していた。

 体感、少なくとも、百回は優に超えるほどに。

 

 ……ハッキリ言って、手詰まりだった。

 ほむらの超えるべき壁――ワルプルギスの夜。

 その存在を自分は倒すことができないと、とっくの昔に気付いていた。

 それでも……だとしても、諦めるわけにはいかなかった。

 

『キュゥべえに騙される前のバカな私を、助けてあげてくれないかな?』

 

 鹿目まどか。

 彼女との約束を果たすため。そして、彼女との出会いをやり直すために。

 

 ――そのために私は、またこの世界で無意味な一ヶ月を過ごすのだろうか?

 

 ほむらの精神は限界だった。

 一ヶ月という限られた期間で、まどかを魔法少女にすることなくワルプルギスの夜を倒す方法。

 その方法を模索してきたわけだが、ほむら一人で思いつく限りのことはやり尽くした。

 時には他の魔法少女と友好関係を築き、相談することもあった。

 どんな質問や悩みにも答えてくれる場所がある。そう言われた時は、多少なりとも期待したものだ。

 魔法少女の能力でそういうものがあるのかと思えば、紹介されたのは知恵を貸してくれるというインターネットサイト。

 それでも藁にもすがる思いで現状を書き込み『皆さんならどうしますか?』と質問してみれば、謎の大喜利大会が始まる始末。『命がけなので真剣に答えてください』とコメントしても、理解は得られなかった。

 因みにこのサイトを紹介してくれたのは巴マミである。

 どの時間軸でも学友のいないボッチな彼女を頼るべきではなかったと、ほむらはキーボードを叩きつけながら後悔した。

 

「ふぅ……」

 

 まだ病院のベッドから起き上がっただけだというのに、思わずため息が漏れてしまう。

 もういっそ、全てを投げ出してしまおうかと思うぐらいには疲れていた。

 

 まどか達が通う見滝原中学校に転校するまでの時間は、幾度となく繰り返したことによってやることは決まっている。

 まず最初に、まどかが魔法少女になる切っ掛けである黒猫の救出。そして自分の武器を揃え、手頃な魔女を狩ってグリーフシードのストックを作る時間。

 それらが終わると丁度、ほむら自身が見滝原中学校に転校する日になる。

 だからほむらにとっての本番は、転校したその日から。

 

 悩んだって、考えたって仕方がない。

 やるしかないんだと自分に言い聞かせ、ほむらはソウルジェムを手に取った。

 

 

 

〆〆〆〆〆

 

 

 

「鹿目まどかさん。貴女がこのクラスの保健係よね」

「え? えっと……あの……」

「連れてって貰える? 保健室」

 

 転校初日。

 休み時間に早速クラスメイトに囲まれ質問攻めにあったほむらは、気分が悪いと言って保健係であるまどかに声を掛け、廊下に出た。

 まどかと二人きりになるには、これが一番手っ取り早い。

 転校してきたばかりなのに、何故自分を保健係だと知っているのか。何故保健室までの道を知っているのか。

 そんなまどかの戸惑いをよそに、ほむらは廊下を突き進む。

 そして喧騒から離れ、周囲に生徒がいなくなったところで振り向き、改めてまどかと向かい合った。

 

「あ……暁美さん?」

「ほむらでいいわ」

「ほむら……ちゃん」

 

 おどおどしながらも、何とかコミュニケーションを図ろうとするまどか。

 そんな彼女が何かを発するよりも早く、ほむらは口を開く。

 

「まどか。私はまどかを助けるために、同じ一ヶ月を何度も繰り返してきたわ。それも、両手両足の指の数を合わせても足りないぐらい。そうね……どんなに少なく見積もっても、百回はループしたわ」

 

 気付けばほむらは、今まで募らせてきた思いをストレートにぶつけようとしていた。

 こんなことを今のまどかに言っても意味がないし、理解できるはずもない。僅かに残っていた理性がそう引き留めてくるも、ほむらは止まらない。

 私を褒めてほしいと言わんばかりに、なおも続ける。

 

「一ヶ月を百回よ? 百回。百ヶ月ってことは八年以上、私はあなたを想い続けてきたわけ。分かる? この気持ち?」

 

 何度ループしても上手くいかない。きっとこの時間軸だってそうだ。

 だから新たな可能性を探るためとほむらは自分に言い聞かせ、勢いに身を任せた。

 全て吐き出し(もうふっきれ)てしまえと。

 

「貴女は十三歳の中学二年生かもしれないけど、私の精神年齢はもうとっくに二十歳を超えた社会人……。何が魔法少女よふざけないでよ! アルバイトの経験だって無いわよ! 私が少女じゃないとしたら、魔法少女じゃなくて……その……なんて言えばいいのよ! 男だったら魔法青年とかになりそうだけど、女の私はどうすればいいの!? 少女の次は何? 青年の対義語って何? ねぇ、答えてよまどか!」

「えっと……」

「因みに青年は女性にも適用するけど、そんな答えは求めてないわ」

 

 真顔で締め括ったほむらに、困惑するまどか。

 ループだとか魔法少女だとか……。ハッキリ言って、話の半分も理解できなかった。

 だから、正直に思ったことを口にする。

 

「意味分かんないよ、ほむらちゃん」

「そう、貴女には分からないでしょうね」

「えぇ……」

 

 まどかは思った。じゃあ聞くなよと。

 

「でも、私の気持ちは分かったでしょう?」

「いや、全然分かんないよ……」

「まどかは本当に鈍感ね」

 

 ……えっ。これって私が悪いの?

 まどかがそう考えている間も、ほむらは止まらない。

 ソウルジェムを手に取り、突如として魔法少女に変身したのだ。

 そんな魔法少女の姿となったほむらに、まどかは目を見開く。

 

 ――着替えはやっ!

 

 一瞬本当に魔法少女なのではと思うまどかだが、冷静になれと心の中で呟く。

 今のはそう……早着替えマジックだ。以前、テレビでやっていたのを見たことがある。

 普通に考えればそれしかない。魔法少女などというファンタジーが現実にあると思う方がバカだ。

 何故ほむらがいきなり早着替えマジックを披露したのかは定かではないが、彼女が興奮状態であることに間違いはないだろう。

 そんな結論に至ったまどかは、ほむらを落ち着かせようと声を掛ける。

 

「ほむらちゃん、一回落ち着いて……」

「落ち着いて? 残念だけどまどか、これでもまだ私は冷静で理性を保っている方よ。この際ぶっちゃけるけど、私の能力は時間停止。やろうと思えば、まどかの純潔を奪うことができるわ。今までの時間軸でも当然、やろうと思えばやれた。でも、私は一度だってそれをやることはなかった。この理由(いみ)が分かる?」

 

 ほむらの言動に、まどかは益々混乱する。

 もしかしたらこれは、ほむらが転校生として馴染むために精一杯考えてきたキャラなのだろうか? マジックを披露したのも、自分に興味を持ってもらうための秘策なのかもしれない。

 そう思ったまどかは、ほむらが魔法少女であると自称するのを頭ごなしに否定せず、話に乗ってあげることにした。

 いつでも純潔を奪えたのにやらなかった……。その理由は一つしかない。

 

「ほむらちゃんがヘタレだってこと?」

 

 瞬時に時間停止を発動したほむらは、勢いよく両手両膝をつき吐いた。

 ワルプルギスの夜にだって、こんなダメージを喰らわされたことはない。

 危機が迫ったら即座に時間停止。長年の経験により培われた反射神経がこんなところで役立つとは。

 

「……ヘタレ? この私が、ヘタレ?」

 

 自分はヘタレではないと言い聞かせるほむら。

 今までまどかに手を出さなかったのは、彼女を想っていたからこそ……。

 だが、確かに客観視してみれば、ヘタレと言われても反論できない。

 ならば、ヘタレではないとまどかに証明すればいい。

 

 床を掃除し、立ち上がったほむらは時間停止を解除すると同時に不敵な笑みを浮かべる。

 

「ふふ……。やった、やってやったわ!」

「え? まっ、まさかほむらちゃん!」

 

 慌てて自分の状態を確認するまどか。

 何故ならほむらは、目の前で瞬時に服を着替える凄腕マジシャン。今までの行動全てがミスディレクションで、いつの間にか制服のポケットにトランプの一枚でも差し込まれたのかもしれないという考えに至ったからだ。

 そんなまどかの様子に、ほむらは勝ち誇ったように宣言する。

 

視姦(しかん)したわ! まどか、今あなたが穿()いている下着(パンツ)はイチゴ柄よ!」

 

 なお、膝をついて立ち上がろうとした時に偶然見えただけである。

 これでヘタレではない証明ができたと安堵するほむら。

 しかし謎に誇らし気なほむらとは対照的に、堂々と視姦したと宣言した彼女にまどかは失望する。

 そしてまどかは、ほむらに対し酷く冷静に言い放った。

 

「ほむらちゃん……。残念だけど、それは視姦じゃないよ」

「えっ……なっ……ど、どういうことよ!」

「確かに私は今日、イチゴ柄の下着を穿いているよ? でも視姦って言うのはね、相手が見られてるって自覚がないとダメなの」

「――ッ!!」

「つまりほむらちゃんがやったそれは、視姦じゃなくて窃視(せっし)……ただの覗きだよ」

 

 攻撃力は一切ないが、組み合わせ次第でどんな相手に対しても不意打ちができる最強の魔法が正面から破られた。

 その事実に、ほむらは誰の目から見ても明らかに動揺する。

 まどかの自分に対する評価が、転校早々スカートの中を覗いた変態マジシャンになったことに気付かぬほどに。

 だが、ほむらは認めない。ここで覗き魔(ヘタレ)だと認める訳にはいかない。

 奥歯を噛み締め、両手を力強く握り、グッと堪える。

 ここまで虚勢を張ったのだ。自分がヘタレだと認めないほむらはだが、再度笑みを浮かべると姿勢を楽にする。

 

「ふふ……」

「……今度はどうしたの?」

 

 ほむらの雰囲気が突然変わった。

 その様子にまどかは目を細め、スカートの裾を押さえながらより一層警戒の色を強める。

 そんなまどかに、ほむらはビシリと彼女の胸を指差し言い放つ。

 

「まどかの胸を、時間停止中に揉んだわ!」

 

 嘘である。ほむらによる渾身の嘘。

 時間停止中は何をされているか分からないことを利用した完璧な虚言。

 だがそもそも、ほむらが魔法少女だと信じていないまどかにとって、それは嘘以外の何物でもない。

 どうしたものかと考えたその瞬間、まどかは天啓を得た。

 

 ――母である鹿目詢子から聞いたことがある。

 中学生になると、中二病という病にかかる者がいると。意味不明な言動や行動が多いと中二病である可能性が高いと。

 きっとほむらも中二病なのだ。だから病院にも入院し、こんな時期に転校してきた。

 そしてまどかは、当時母に聞いた内容を思い出す。

 

『ママ。もし中二病になったら、どうしたら治るの?』

『そうだね……。一番早い治療法は、自分自身(げんじつ)と向き合うことかな』

 

 ――そっか。そういうことだったんだね、ほむらちゃん。

 

 ほむらが中二病であれば、今までの不可解な行動も全て辻褄が合う。

 謎が解け、パズルの最後のピースがはまった時のような快感を覚えるまどか。まるで心が晴れ渡るようだった。

 そしてこのままじゃ埒が明かないと、ほむらを見て決心する。

 今のほむらは人の胸を揉んだこともないのに、揉んだことがあるという幻想に取りつかれてしまっているのだ。

 そう考えたまどかは一歩踏み出し、ほむらに語り掛ける。

 

「じゃあ、揉んでよ」

「……え?」

 

 向かい合っていた二人にさほど距離はない。

 まどかは更に一歩踏み出すとほむらの手を取り、自身の胸に押し当てた。

 

 

 

「……鹿目さんと暁美さん、どこに行ったのかしら。保健室にも来てないようだったし、何もなければいいのだけど」

 

 まどかとほむらの担任である早乙女和子は二人を探して廊下を歩いていた。

 様子を確認しに保健室に行けば入室記録に名前がなく、もうすぐ休み時間も終わり授業が始まるため、心配して探していたのだ。

 

「すれ違ってる可能性もあるし、一旦教室に戻って――」

「――だわ!」

「あら? この声は……暁美さん?」

 

 教室に引き返そうとしたその時、曲がり角の先から聞こえた声に和子は反応する。

 もしかして、何かトラブルでもあったのだろうか。

 そう思った和子は様子を確認するため、そっと顔を覗かせた。

 そして、見てしまったのだ。まどかがほむらの手を取り、自身の胸に押し当てる瞬間を――。

 

「なっ、何をやっているのまどか!?」

「(鹿目さん!? 本当に何をやっているの!?)」

 

 その衝撃の光景に、和子は思わず口を手で覆い顔を引っ込める。

 

 どこか気弱で自信なさげなまどかを、和子は何かと気にかけていた。

 そんな風では男子にモテないと、余計なお節介かもしれないが彼女のためを思って熱弁することもあったが、反応は著しくなかった。なかったのだが――。

 

「(まさか、鹿目さんは元から男になんて興味がなかったってこと?)」

 

 転校初日の女子と二人きりになり、躊躇いもなく自身の胸を揉ませようとするその姿。そこにはいつも気弱に見える彼女は存在しない。自信に満ち溢れた姿がそこにはあった。

 

 その時、和子はかつてないほど冷静だった。

 今まで幾度となく男と付き合うもろくに続くことなく、昨日も交際三ヶ月目にして別れたばかり。

 もう自分と波長の合う男など存在しないのではないかと思っていたが、同性まで視野に入れたらどうだろうか。

 女性特有の悩みにも互いに理解し合えるし、人口を考えても選択肢の幅が倍に広がる。

 同性愛がありかなしか。

 

「(あり……。いえ、ありありのありだわ! ありがとう、鹿目さん。私、次こそ上手くいく気がする!)」

 

 

 

 そんな担任である和子の勘違いが加速しているとはつゆ知らず、ほむらはかつてないほどの窮地に立たされていた。

 ほむらの時間停止は最強と言ってもいい。しかし弱点もあり、それは接触している対象は停止しないということ。

 

 改めてほむらの現状を整理すると、まどかに手首を掴まれ手は彼女の胸をいつでも揉める状態にある。

 つまり今この瞬間時間停止を発動させても、図らずもまどかに条件を満たされてしまっているため、ほむらは逃げることができないのだ。

 いや、正確にはまどかの手を振り払えば逃げることはできる。

 しかしそんな逃げの一手を打てば、いよいよヘタレだと認定されてしまうだろう。

 

「(というか、本当に揉んでもいい? 揉んでもいいのまどか!?)」

 

 少しでも指先に力を入れたならまどかの胸を揉める。しかもまどか公認。未だかつてないこの状況。これほどの好条件で、そもそも逃げる必要などあるのだろうか?

 いや、断じてない!

 

「揉んでよ! ほむらちゃん!」

「(まどかの胸が揉みたい。いや、揉もう!)」

 

 辛うじて残っていた理性もなくなり、欲望を全て解放しようとした刹那――。

 

 ――♪――♪――♪――♪

 

 鳴り響いたチャイム音に、ほむらは冷や水を浴びせられたかのように現実に引き戻される。

 

 精神年齢が変わろうと、今まで幾度となく行ってきた学校生活によって染みついた学生としての本能が、ほむらの目を覚まさせたのだ。

 即ち、授業が始まるから着席しなければならないと。

 

「……ほむらちゃん?」

「はぁ……。私としたことが、バカなことを。……ごめんなさい、まどか。どうやら私は、少し冷静じゃなかったみたい」

 

 人が変わったように落ち着きを取り戻したほむらに、まどかはおずおずと頷く。

 気付けばほむらの姿は、元の学生服に戻っていた。

 

「でも、これだけは信じてほしいの。私はまどかのことを誰よりも大切に思ってるし、傷つけるつもりはないって」

「ほむらちゃん……」

 

 やはり、伝わらないのだろう。

 未だ懐疑的に見てくるまどかに、ほむらは肩を落とした。

 

「私の胸を揉みながら言われても、全然説得力がないよ……」

 

 

 

〆〆〆〆〆

 

 

 

 ほむらと今一度話がしたい。

 そう思ったまどかは休み時間の度に話しかけようとするも、ほむらはいつの間にかいなくなっていて露骨に避けられていた。

 結局学校の帰りになっても捕まることはなく、今日は諦めていつも通り親友である美樹さやかと下校することにした。

 

「さやかちゃん。中二病って知ってる?」

 

 少しでもほむらについて知りたい。

 そんな思いから自然と出たまどかの問いに、さやかは頷く。

 

「知ってるよ? かなり痛いやつだね。人によっては大人になっても治らないとか」

「やっぱり、そうだよね……」

 

 ほむらが転校してくる前、病院に入院していたことからある程度予想はしていたが、やはり重い病気なのだろうとまどかは(うつむ)く。

 そこでふと、今現在も病院に入院しているさやかの思い人――上条恭介の姿が浮かんだ。

 

「もしかして、上条くんが入院してるのって……」

「え? 恭介が? いやーどうだろ。左腕に包帯巻いてたりするけど、恭介は違うと思うけどな……。でも、急にどうしたの? 中二病のことなんか聞いて」

 

 さやかにとって当然の疑問。

 まどかは一瞬言うべきか悩んだが、もし本当にほむらが中二病であった場合も考え、手遅れになるぐらいならと、さやかに伝えることにした。

 

「実はね……。今日転校してきたほむらちゃんが、中二病かもしれないの」

 

 そのあまりに重苦しいまどかの空気に、さやかは違和感を覚え――気付く。

 

「(さてはまどか。中二病を重い病気か何かと勘違いしてるな?)」

 

 長い付き合いだからこそ分かるまどかの考え。ここでまどかに真実を伝えるのは簡単だが、さやかのいたずら心が悪さを企てる。

 しばらく泳がせてみて、まどかの反応を楽しんでやろうと。

 

「え? でもあの転校生って、病院から退院したばかりじゃないの?」

「うん。そうなんだけど、今日の言動が明らかに普通じゃなかったというか……」

「もしかして、中二病が再発したんじゃ!?」

 

 丁度、その時だった。

 

 ――助けて。

 

「……え?」

 

 声……なのだろうか。耳からというより脳内に直接響いたその声に、まどかはさやかとの会話を中断し、辺りを見渡す。

 だが、そこにはいつもと変わらぬ街並みが広がっているだけだった。

 

「まどか、どうかした?」

「さやかちゃんは、聞こえなかったの?」

 

 そう言われてさやかも辺りを見渡すが、聞こえてくるのは街の喧騒ぐらいだ。

 

 ――助けて、まどか!

 

「え……? え?」

 

 間違いなく、今度こそ明確に聞こえた。

 

「(まどかのやつ、さては私をからかってるな?)」

 

 声がどこから聞こえるのか集中するまどかに対し、さやかは親友が自分のことをおちょくっているのだと受け取った。

 つまり、中二病を知らない雰囲気を出しているのもブラフ。

 どうやらまんまと騙されていたらしいと勝手に納得した。

 

「(この私を騙すなんて……やるじゃん、まどか。なら私は、それでも敢えて気付かないふりをして、全力でふざけてあげようじゃないの!)」

 

 ――助けて!

 

「ほら。助けてって、また」

 

 まどかの言葉に、さやかは何かに気付いたように、はっとしてみせる。

 

「まどか。まさかあんた、中二病が感染(うつ)ったんじゃ!?」

 

 ――助けて……。

 

 消え入りそうな声がどこから聞こえるか、まどかは必死に探す。

 

「まずい。まずいよ、まどか」

 

 ――助け……

 

「もしかして私達、濃厚接触者ってこと!?」

「静かにして、さやかちゃん」

 

 さやかの相手もしたいが、今はそれどころではない。

 声に導かれるままに、まどかは駆けだした。

 

「まっ、待ってよまどか! 中二病って精神科? それとも心療内科!?」

 

 

 

〆〆〆〆〆

 

 

 

 声に導かれるまま辿り着いたのは、改装中の店内。

 そこにいたのは見たこともない生物だった。

 

「助けに来てくれたんだね」

 

 猫とも兎とも取れるその白い生物がそう発すると同時に、周囲が霧で覆われたかのように白くなっていく。

 一先ず外に出ようとまどかがソレを抱きかかえ、ここに来るまでに使った非常口を探すも何故か見つからない。

 

「あれ? 非常口は? どこよここ」

「変だよ、ここ。どんどん道が変わってく」

 

 気付けば景色が切り替わり、そこには異形がいた。

 オレンジ色の蝶から生えた、折れてしまいそうなほど細身な体と腕。頭の部分は綿状になっており、さながら蝶に寄生した冬虫夏草を思わせる何か。

 そんな地球上に間違いなく存在しないであろう、等身大の化け物に取り囲まれて――。

 

「危なかったわね。でも、もう大丈夫」

 

 同じ学校の制服を着た少女――巴マミに助けられた。

 

「ちょっと一仕事、片付けちゃっていいかしら」

 

 そこからは、マミの独壇場だった。

 マミの服装はいつの間にか変わっており、人間とは思えない跳躍力を発揮すると、空中で右腕を一振り。

 すると数百にも及ぶマスケット銃が同時展開され、まどかとさやかを囲んでいた異形に撃ち込まれたのだ。

 

 そんなこの世のものとは思えない蹂躙劇(じゅうりんげき)を見ながら、さやかは確信する。

 突然のまどかの奇行。そして辿り着いた先にいた言葉を発する見たこともない白い生物。更には今置かれているこの状況。

 

「(間違いない。ここは、異能バトルの世界!)」

 

 自分達が今まで過ごしていたのは、一見平和に見える表の世界。

 しかし裏では、異能力者による壮絶なバトルが繰り広げられていたのだ。

 

「この時期に中二病の転校生……おかしいと思ったよ」

 

 何かを確信し、右目を手で覆いクツクツと笑うさやか。

 その隣では、まどかが戦闘の行方を固唾を呑んで見守っていた。

 

 

 

 戦闘はあっさりと終了し、景色が元に戻った。

 脅威が去り悠々と歩いてくるマミに対し、さやかは興奮気味に詰め寄る。

 

「あのっ! もしかして中二病だったりするの!? 私も異能が使えたり!?」

「(ちゅ、中二病? 異能? もしかして、魔法少女の力を勘違いしているのかしら?)」

 

 予想外のさやかの反応に、マミは戸惑う。

 マミは自身の必殺技に《最後の一撃(ティロ・フィナーレ)》と名付けるぐらいには(こじ)らせている。

 一瞬そのことを言われたかと思ったが今回は使用していないため、ただ単純に勘違いしているのだろうと結論付けた。

 

「そうね……。色々聞きたいこともあるでしょうし、まずは自己紹介をしましょうか。私は巴マミ。あなた達と同じ、見滝原中の三年生」

「僕の名前はキュゥべえ」

 

 幻聴でも何でもない。

 ハッキリと名乗ったキュゥべえに対し、まどかは思わず問いかける。

 

「あなたが、私を呼んだの?」

「そうだよ、鹿目まどか。それと美樹さやか」

「何で、私達の名前を?」

「僕、君達にお願いがあって来たんだ」

「お……お願い?」

「僕と契約して――」

「待ちなさい、キュゥべえ」

 

 キュゥべえが言い切る前に、マミが割り込む。

 

「何かあったかい?」

「少しだけ、話がしたいわ。申し訳ないけど、二人とも待ってもらってもいいかしら?」

「わ、私は大丈夫です」

「私も」

 

 二人の了承を得てから、マミとキュゥべえは離れた位置まで移動し、聞こえないよう念話(テレパシー)で話し出す。

 

『(急にどうしたんだい?)』

『(単刀直入に聞くわ。二人になんと言おうとしたの?)』

『(それはもちろん、魔法少女にならないかと言おうとしたに決まってるじゃないか)』

 

 それを聞いて、マミは「やっぱりね」とため息を吐く。

 

 マミは考えていたのだ。

 どうすれば、まどかとさやかの二人が魔法少女になってくれるかと。

 

 マミはこの見滝原市を縄張りとし、今までずっと一人で魔法少女活動をしてきた。

 クラスメイトと遊ぶ暇などなく、常日頃から巡回や魔女狩りの日々。当然友達だってできるはずもなく、中学三年生だというのにボッチ生活が続いていた。

 二人にはキュゥべえが見える。それ即ち、魔法少女の適正があるということだ。

 もしも二人が魔法少女になってくれるのであれば、晴れてボッチ生活を脱却することができる。

 

 つまり、今ここで選択肢を間違え、二人に魔法少女になりたくないと万が一にも言われたくない。

 

 そこで思い至ったのが、先程のさやかの言動。

 明らかにマミの力に関心を持っており、勘違いこそしているが魔法少女と彼女が想像しているであろう中二病の力はそこまで乖離していないはずだ。

 魔女の手下が相手であったが、戦闘も見たうえであの反応なら、キュゥべえと契約を結んでくれる可能性は高いだろう。

 だからこそ、二人に確実に契約させる(ボッチ生活を脱却する)ために、キュゥべえに提案する。

 

『(魔法少女の部分を、中二病に変えなさい)』

 

 ないと思う。ないと思うが……。もし仮に、万が一に「魔法少女ならなりたくないや」と言われた時のことを考えたら、今日という日をマミは一生後悔する自信がある。

 だから契約を確実なものとするために、二人を騙すようで悪いが、そうキュゥべえに提案したのだ。

 

『(中二病が何かは僕には分からない。でもマミが口を挟むということは、それなりの理由があるのかい?)』

『(ええ。中二病は魔法少女とほぼ同じものよ。二人は私のことを中二病の異能力者だと勘違いしている。だったら魔法少女より、中二病と言った方がより確実に契約もしてくれると思うの)』

 

 キュゥべえ――その正体を簡単に説明するなら、地球よりも遥かに発達した文明からやってきた地球外生命体だ。

 当然、少女と契約するのもある目的を達成するため。その契約を確実なものにできるのであれば、乗らない手はない。

 キュゥべえには感情がなく、人間の考えていることを読み取れないことも多々ある。

 ならば、同族であるマミが言うことの方が正しいだろうと判断した。

 

 かくして、念話を終了し二人の元に戻ったキュゥべえは言う。

 

「僕と契約して、中二病になってよ」

 

 

 

〆〆〆〆〆

 

 

 

「ほんと私、何してるのかしら……。今回もループ確定ね」

 

 今日何度目になるか分からないため息。

 部屋の中央に置かれた起動したパソコンの前で、ほむらは独りごちる。

 まどかの胸を無意識に揉んで、気まずくなって逃げるばかり。今日の学校終わりは、まどかとさやかがキュゥべえに契約を迫られる日であるというのに、それもすっぽかしてしまった。

 キュゥべえの妨害をしなければ、二人は今日のうちに契約してしまう。

 なのに今回はキュゥべえの好きにさせてしまったので、時間的にも手遅れだろう。

 

「しかもその間にやっていたことが、配信活動なんてね」

 

 まーた始まったよ

 同接結構減ったな

 そりゃ言ってること意味分からんし

 じゃあなんで見てるんだよ

 お前もな

 考察するのは楽しいぞ

 物語性は割としっかりしてる

 顔出しはよ

 センスないから配信やめた方がいいよ

 魔法少女って本当ですか?

 

 配信には現在進行形で書かれるチャットと、ほむらの現状が記されたメモが映るのみで、顔出しもしないラジオスタイル。

 チャンネルが開設されたのは数日前で、それでも今日の瞬間最高同接は一万人を超えていた。

 その理由は今日がこの時間軸では初配信であり、魔法少女を匂わせる少々過激な宣伝をしたからだろう。

 実際、今回の配信では早々に自分が魔法少女であると明言しているし、現状も説明した。

 まぁ、ほとんどの人間には理解されず、そのせいで同接も激減しているのだが。

 

「で、誰かまどかを救う方法は思いついた?」

 

 そして、ほむらが何故配信を行っているのか。

 それは、まどかを救うために他ならない。

 ほむら一人では想像の限界がある。しかし不特定多数の意見を聞くことで解決の糸口があるかもしれないと、いつかの時間軸で気付いたからだ。

 それ以来、ほむらは配信活動を続けている。

 今回は諦めて、次に繋げるために。

 だが流れてくるコメントは、ほむら個人に向けられたものや的外れな回答ばかり。

 初日だからそこまで期待していないとはいえ、気が遠くなりそうだ。

 

「全然ダメね。あなた達みたいな凡人の意見はもう、別の時間軸で出尽くしたの。もっと奇想天外な確信を付いたものを出しなさい」

 

 理不尽すぎて草

 別の時空の俺らのせいで、今の俺らが怒られるのか……

 この流れも再三やってそう

 詰みでは?

 まだつまらん作り話するのかよ

 ループしてる証拠出してくれ

 

「あ、因みにさっきから目障りなアンチがいるけど、気にしなくていいから。コイツその内私の信者になるし、いつもモデレーターを任せてるから」

 

 草

 強い(確信)

 これが知識チートってやつですか?

 アンチが急に可愛く見えてきた

 絶対に屈しない

 顔真っ赤にしてそう

 俺も分からされたい

 

「今日は一先ず、こんなところかしらね……。ループの証拠とかは追々出していくわ。競馬とか宝くじを当てれば手っ取り早いけど、それだと数字は取れても暴食な奴らが集まるだけで、本来の目的が果たせないし……。私からしてみたら、期限は後一ヶ月もないわけだから。後これ、私のSNSアカウント」

 

 そろそろ頃合いだろうと、ほむらは締めの挨拶に入る。

 

「それじゃ、これで第424回、まどか救出会議を終了するわ」

 

 あっ……(察し)

 初配信とは

 1~423回どこ……ここ……?

 俺らがどれだけ無能集団か、ハッキリしたな

 

 

 

〆〆〆〆〆

 

 

 

【朗報】国会中継に突然現れた少女、本当に魔法少女だった

 

 

623:名無しの自称魔法少女

で、結局本当に魔法少女なの?

時間停止は存在するの?

 

624:名無しの自称魔法少女

魔法少女かは分からんが、時間停止は本当くさい

 

625:名無しの自称魔法少女

国会議事堂の潜入動画はさすがにね

 

626:名無しの自称魔法少女

停止した総理大臣の顔ドアップは不覚にも笑った

 

627:名無しの自称魔法少女

国会中継にも映ってたしな

 

628:名無しの自称魔法少女

空席に突然現れて、チャンネルのURL書かれたプラカードで顔隠してたやつね

 

629:名無しの自称魔法少女

大体のやつはそこから知っただろ

 

630:名無しの自称魔法少女

ネットニュースにもなってたし、宣伝効果としてはこれ以上なさそう

 

631:名無しの自称魔法少女

時間停止モノの一割は魔法少女が関わっていた……?

 

632:名無しの自称魔法少女

AV業界から逃げ出した説あって草

 

633:名無しの自称魔法少女

未成年をそんなところで働かせてたら大問題だけどな

 

634:名無しの自称魔法少女

知り合いのAV男優から聞いたけど、メーカーや事務所は電話対応に追われて大変らしいね

 

635:名無しの自称魔法少女

電話で何聞くんだよ

 

636:名無しの自称魔法少女

>>635

そりゃ魔法少女を雇っているかとか時間停止モノの真相でしょ

 

637:名無しの自称魔法少女

つまり30歳まで童貞だったら魔法使いになれる可能性が?

 

638:名無しの自称魔法少女

それはない、ソースは俺

 

639:名無しの自称魔法少女

>>638

あっ……(察し)

 

640:名無しの自称魔法少女

>>638

なるほどね

 

641:名無しの自称魔法少女

いや、サンプルが一人だと信憑性に欠けないか?

 

642:名無しの自称魔法少女

仮に30で魔法使いになれたとして、そんなやつが魔法で童貞を捨てられるわけないだろ

 

643:名無しの自称魔法少女

>>642

辛辣すぎて草

 

644:名無しの自称魔法少女

>>642

魔法を使えるか聞いただけで、童貞を捨てるなんて一言も書いてないんだよなぁ……

 

645:名無しの自称魔法少女

一生童貞の代わりに魔法が使えるようになるなら一考の余地あり

 

646:名無しの自称魔法少女

そんな妄想どうでもいいよ

今は本当に魔法少女や時間停止が存在するかどうかだろ

 

647:名無しの自称魔法少女

今北産業

 

648:名無しの自称魔法少女

・ガチっぽい魔法少女配信者出現

・能力は時間停止と時間遡行

・【審議中】←今ここ

 

649:名無しの自称魔法少女

つまり全く進展してないと

 

650:名無しの自称魔法少女

情報が少なすぎる

 

651:名無しの自称魔法少女

情報量は多いだろ

動画全部見たか?

 

652:名無しの自称魔法少女

合成と言われた方がまだ信じられる

 

653:名無しの自称魔法少女

もう全部の動画100万再生突破したのか

 

654:名無しの自称魔法少女

華奢な少女が補助もなしに立ったまま機関銃ぶっ放したりしてるんだから、確かに情報量は多いだろうよ

 

655:名無しの自称魔法少女

体幹やばすぎ

 

656:名無しの自称魔法少女

本物だとして、どっからこんな武器調達したんだ?

 

657:名無しの自称魔法少女

配信でチラッと言ってたけど、自衛隊とか反社から盗んだみたいね

 

658:名無しの自称魔法少女

だから顔出せないってさ

別の時間軸で住所公開したら、物理的に消されそうになったらしいし

 

659:名無しの自称魔法少女

オフ会開いたら特殊部隊に包囲されてた話は草生えた

 

660:名無しの自称魔法少女

実銃を所持してる少女が出歩いてるとか、通報されて当然だろ

 

661:名無しの自称魔法少女

>>659

作り話だとしてもセンスあるよな

 

662:名無しの自称魔法少女

>>658

別の時間軸ってなんだよ

 

663:名無しの自称魔法少女

>>662

アーカイブ見てこい

 

664:名無しの自称魔法少女

まぁ仮に魔法が嘘だったとしても、動画もトークも面白いし余裕で推せる

 

665:名無しの自称魔法少女

それな

一歩間違えば迷惑系になりそうで怖くもあるけど

 

666:名無しの自称魔法少女

少なくとも国会議事堂に不法侵入してるんですがそれは……

 

667:名無しの自称魔法少女

>>657

銃の件は自衛隊から声明でるのかな?

 

668:名無しの自称魔法少女

お前ら頭めでた過ぎない?

あれが本当だとしたら、私は誰にも気付かれずに国の重鎮を殺せますって言ってるようなもんやぞ?

 

669:名無しの自称魔法少女

確かに

 

670:名無しの自称魔法少女

その気になれば、スパイも殺しもお手の物と

 

671:名無しの自称魔法少女

軍事施設に潜入!

核ミサイル発射!w

 

672:名無しの自称魔法少女

第三次世界大戦不可避

 

673:名無しの自称魔法少女

でも本人はそんな気ないんじゃない?

何かやることあるみたいだし

 

674:名無しの自称魔法少女

害はなさそうだからヨシ!

 

675:名無しの自称魔法少女

時間停止とか強すぎて危険だし、人として信用できないから〇すね?

 

676:名無しの自称魔法少女

勇者が魔王討伐後に裏切られて復讐するやつじゃん

 

677:名無しの自称魔法少女

下手に刺激しない方が良さそう

 

678:名無しの自称魔法少女

間違いなく今一番注目すべき存在ではある

 

 

 

 

 

 

【次回予告】

 

「どうしたの、さやかちゃん?」

「まどか、どうやら私達は招待されたみたい」

「招待されたって、どこに?」

「異能バトルの世界にだよ!」

 

第2話「それはとっても痛々しいなって」

 




【後書き】

 奇跡か魔法があったら続くけど、多分無理。
 評価もお気に入りもなくて滑ったら心折れる。
 お気に入りと評価と感想くれー(承認欲求モンスター)

 一度でも笑っていただけたなら幸いです。
 ほむほむが配信者の世界線、面白いと思うんですけどね。
 代わりに誰か書いてくれても、ええんやで。

 ではでは、またどこかで~。

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