いちごの世界へ   作:うたわれな燕

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第十二話

西野side

 

 淳平君の腕を引きながら、東城さんの待つ教室に向かう。ちらっと後ろを見て見ると、困ったような顔をしながらもちゃんと付いてきてくれる淳平君がいる。あたしが見ているのに気付くと、何だよ、って目で見てくるのもいつもの事。ただ、今日はそれに笑顔が付いてる。それが、何より嬉しいな。

 

 あたしは、もう淳平君とこんなことが出来なくなると思ってた。昨日淳平君の前から走って行った時、追いかけて来てくれないの?引き留めてくれないの?って想いと、追いかけて来ないで、引き留めないで、って想いの二つがあった。でも、正直言うと追いかけて来て欲しかった。それは、あたしの我儘(わがまま)だけど、それでも東城さんじゃなくてあたしの所に来て欲しかったんだ。

 

 結局、淳平君は追いかけて来てくれなかったし、放課後も久しぶりに一人で帰る事になった。たった3週間だけ一緒にいただけなのに、なんでこんなに寂しいって思うんだろう。なんでこんなに涙が出て来るんだろう。そんな事を考えながら家に帰ったんだ。

 

 そして、家に帰ってからは更に酷かった。お母さんからお帰りって言われたけど、それを無視して自分の部屋に入ってそれから晩御飯の時間になっても部屋から出なかった。ベットに伏せるように倒れたまま時間が過ぎていって、明日淳平君に会いたくないなって思った時、机の上に置いていた携帯が鳴った。

 

 今は誰とも話したくない。そう思って、鳴り続ける携帯を無視してたんだけど、いつまで経っても鳴り止まなくて、それにイライラし出して結局出る事にしたの。

 

「もしもし?今誰とも話したくなくて後で掛け直すから……」

 

 自分でもこんな不機嫌な声が出るとは思わなかった。友達と喧嘩した時も、ここまで酷い声じゃなかったと思う。でも、もっとびっくりする事になったのは、電話をしてきた人が誰か分かってから。

 

『ごめんね。でも、西野さんと話したかったから……』

 

 え?この声って……。

 

「東城…さん?」

 

『うん、私だよ』

 

 携帯のディスプレイを見ないで電話に出たから気付けなかった。東城さんとの電話はこの3週間で何回もしたけど、まさか今日してくるとは思わなかった。だって……。

 

「……話って…何かな?」

 

『うん。今日の朝の事と真中君の事』

 

 予想はしていた。東城さんが今あたしと話したい事っていうのがそれだって事は。でも、なんで今日なの?今日は、もう誰とも話したくないのに……そんな事を考えていたら、東城さんが話し始めた。

 

 淳平君が言ってたように、今日の朝に男子に囲まれて大変だった事、その時に淳平君に助けられた事、噂は全部嘘だって事、そして、淳平君は悪くない事……昼休みに聞いた事を繰り返し聞かされているような気がしたのは、仕方ないと思う。でも、それだけじゃなかった。

 

 淳平君が悲しそうな顔をしていたと教えてくれたんだ。あたしだけが、悲しんでたわけじゃなかった。あたしだけが、嫌だって思ってたわけじゃなかった。淳平君も、あたしと同じように思ってくれてたんだ。そして、最後にそんな淳平君を見て東城さんが嫉妬したという事を教えてくれたんだ。

 

『私達はどっちも真中君の事が好きで…お互いがお互いに嫉妬して…何だか、おかしいよね?』

 

「うん……おかしいね?」

 

『フフ。でも、私は西野さんの事も大好きよ』

 

「……あたしも、東城さんの事大好きだよ」

 

 そして、あたし達はどちらからともなく笑いだして、どちらからともなく泣きだして、あたし達は電話をしながらまた仲良くなったんだ。変な話だけど、お陰で淳平君に対して思っていた嫌な気持ちはなくなっていて、淳平君に会いたいっていう気持ちに変わっていたんだ。

 

「あたし、今淳平君に会いたいかも」

 

『うん、そうだね。私も真中君に会いたいな』

 

 それから、またお互い笑いあって、少し話した後に電話を切ったんだ。気付けば夜の10時を過ぎていて、慌ててお風呂に向かった。その時にお母さんにごめんって言うのも忘れなかった。

 

 そして、今。淳平君の手を掴む事が出来ている。淳平君に笑顔を向ける事が出来ている。それが、何より嬉しくて、幸せなんだ。

 

▼ ▼ ▼ ▼

 

 西野に腕を引かれて教室に入った俺は、教室にいる男子という男子に嫉妬の視線をこれでもかと貰う事になったが、それを悉く無視して自分の席に着き、テストが始まるまで心を落ち着かせる事にした。西野は東城と何か話があるようで、コソコソと内緒話を始めたが、それについては関与しない事にした。

 

 気にならないわけじゃなかったが、楽しそうに話している二人を見ていると邪魔はしない方がいいなと思ったからだ。あぁ、そうそう。言い忘れていたが小宮山もきちんといて、男子達と同じように俺に嫉妬の視線を向けてきたので無視していただけだ。

 

 俺は、外村や東城と同じくらいの点数とまで行かなくても、高得点を取りたい。そのために、今は余計な事に気を使わないようにして……。

 

「ねぇ、淳平君」

 

「真中君」

 

 ……はぁ…考えた瞬間話しかけてくるとは、もしかして狙ってるのか二人とも?西野と東城の席は俺の席の後ろ二つで、西野は身を乗り出すようにしている。俺は身体を横にしてから、右側に二人が来るようにして、顔だけを二人に向けた。

 

「…どうした?」

 

「へへ〜〜♪お・ね・が・い、していい?」

 

「私も…いい?」

 

 お願いって確かこの前の…って、凄い笑みだな二人とも…。特に西野。お前のその笑みは、俺には何か企んでいるように見えるんだが……。

 

「……はぁ…あぁ。俺が出来る範囲のだからな。無茶なお願いは絶対に聞かないからな」

 

「大丈夫大丈夫♪」

 

「うんうん」

 

 東城……お前性格変わり過ぎだろ。何が原因なんだ?俺か?俺のせいなのか?お前まで、俺の事をからかうようになったら俺は………だが、俺には昨日のアレがあるから西野のお願いは大抵の事は絶対叶えてやらなければならない。…頼むから、善意あるお願いを頼むぞ二人とも……。

 

「…はぁ……どんなお願いでありましょうか、お嬢様方?」

 

 片手で顔を覆いながら、口を開く。

 

「東城さん東城さん、お嬢様だってさ、あたし達!」

 

「あぅあぅ…は、恥ずかしいね、西野さん」

 

「…………はぁ…」

 

 余計な事言った……あぁ…俺も意識し出したら恥ずかしくなってきた……。

 

「フフ〜♪えっと、あたしのお願いは今度二人きりでデートがしたいかな」

 

「えとえと…私は……一緒に本屋さんに行きたいです」

 

 ………は?そんなのでいいのか?

 

「それでいいのか?別に、遠慮しなくていいんだぞ?まぁ、お前達がそれでいいって言うならいいけど……」

 

 俺のその言葉に、二人は「うん♪」と頷いて頬を染めて笑みを向けてくる。それに照れてしまい二人から顔を逸らして周りを見て見れば、男子達が俺に殺気を向けているのに気付いた。はぁ……高校に入ったら、大変そうだな…。

 

 そうこうしていると、試験官の先生が教室に入って来て受験生達を席に戻した後、テスト用紙を配り出した。さて、これからいろいろしなければならないかと思うが、まずは受験に集中だな。

 

▼ ▼ ▼ ▼

 

 キンコーン……。

 

「終わったぁ〜!!」

 

 ガタっと音を立てて椅子から立ち上がり、両手を上げてそんな事を言うのは…小宮山だ。この前の期末テストの時と同じような光景に、俺と東城は呆れ顔で、西野ははじめて見るのもあってこの教室にいる他校の生徒達と同じようにドン引きの顔で小宮山を見ている。

 

 試験官の先生でさえ一瞬フリーズし、直ぐに注意することが出来ていない。こいつって、社会に出たらどうなるんだろうな…。

 

 数秒後、気を取り直した試験官の先生が小宮山に注意をしてから、答案用紙の束を持って教室から出ていった。今度こそ、本当の終わりだぞ小宮山。まぁ、いくらお前でも二度同じ事なんて…。

 

「終わったぁ〜〜!!!」

 

 そして、さっきと同じように立ち上がる小宮山。こいつ…意外と大物なのかもしれない……。

 

「あとは合格発表を待つだけだな!あ〜疲れた」

 

「……お前、凄い奴だよホント…」

 

「ん?何か言ったか?」

 

「…何でもねぇよ」

 

 そっか。と言って俺との会話を打ち切って後ろにいる西野の所に向かう小宮山。後ろから、つかさちゃん!という小宮山の声とあ、あはははは……という西野の困った笑い声が聞こえる。西野、小宮山の相手は任せた。

 

「お疲れ様真中君。テストどうだった?」

 

「東城もお疲れ。う〜ん…まぁボチボチかな」

 

「ボチボチ、かぁ。なら、大丈夫だね!」

 

 後ろの東城と話すために椅子から立ち上がって机に腰を掛けた。西野の方を見て見ると、助けてというような目を俺と東城に向けているのに気付いた。それに、東城と顔を見合わせてどちらからともなく苦笑を浮かべて、西野を助ける事にした。

 

「ほら、小宮山。そういうのは、帰りながらでも出来るだろ?」

 

「ん?確かにそうだな!なら、つかさちゃん一緒に帰ろうね♪」

 

「あ、あはははは……そ、そうだね…」

 

 西野すまん。これが限界だった。俺はジェスチャーで西野に謝り、東城もごめんねと小さな声で言っていた。これは、小宮山と別れた後大変だなぁ……

 

▼ ▼ ▼ ▼

 

 そして案の定、泉坂高校からの帰り道で小宮山が惜しむようにして別れたあと、西野は俺に愚痴り出し、東城と二人で慰める事になった。小宮山は面白い奴なんだが、如何せんあの顔、あの口で、迫られたら…女の子じゃなくても気持ち悪いと思ってしまう。

 

 小宮山、お前の事を愛してくれる奴(少しの間だが端本ちなみ)がいる。それまで、どうか…どうか、西野をそっとしておいてやってくれ。

 

「はぁ…あたし、本当に今度小宮山君に、顔が怖い人好みじゃないって言おうかな……」

 

「西野さん、いつも大変そうだもんね…」

 

「俺は良いと思うぞ。小宮山もはっきり言って欲しいと思うしな」

 

「二人がそう言うなら……」

 

 西野のその言葉に頷きで応えて、空に顔を向ける。朝に見た空と同じ空なのに、今見ている空は気持ちいいと思える。昔の人が言っていたが、気の持ち用とはよく言ったものだと思う。

 

「あ、ねぇねぇ。入試の問題答え合わせしていかない?」

 

「私はいいよ。ちょっと英語が心配だったから」

 

「俺もいいぞ。数学の問題、過去問と違ってて少し心配だからな」

 

「あ!それあたしも思った!それにあたしの苦手なところばっかり出るんだもん!ひどいよねぇ〜」

 

 西野のその話に俺も東城も、笑いながら歩を進めていく。一日一緒に帰らなかっただけなのに、こんなにも懐かしく感じるものなのか。俺は今この瞬間が好きなんだとはっきり自覚した。この瞬間を守るためなら、俺はどんな事でもしようと思う。東城を幸せにするのもそうだが、この瞬間を守りたいと思う気持ちも本物なのだから…。

 

 もう二月(ふたつき)もすれば、桜の花びらが綺麗に舞う季節になる。この肌寒い風も、柔らかな温かいモノとなり、俺達は今の制服じゃなく泉坂高校の制服へと変わる。そんな未来は、少し先の話だ。今は、この二人とこうやっている時間を楽しむ事にする。

 

「ホント、信じられないよあの問題!この前のテストより難しい問題ってどうなのよ!」

 

「でも、あの問題って前の問題の応用だったような……」

 

「東城さんは頭が良いからそんな事が言えるんだよ!!淳平君も数学苦手だから分かるでしょ?」

 

「まぁ、難しかったけど、何とか俺は解いたぞ。放課後の勉強会のお陰だな」

 

「淳平君の裏切り者〜〜〜!!!」

 

 本当に楽しい時間だ。西野が怒って、東城が困ったように笑って、俺が宥める(なだめる)。こんな時間が続けばいいのに……ま、そんな事を考えると決まって何か起こるんだけどな。

 

「ねぇ…あの女の子……」

 

「うん…何だか、困ってるみたい……」

 

 二人が揃って、コンビニの方に顔を向けているのに気付き、俺もコンビニの方に顔を向けて見ると、一人の女の子が二人のチャライ男にナンパされている姿があった。

 

「ねぇ、淳平君助けてあげようよ。何か、他人事とは思えなくて……」

 

「私からもお願い。あの子きっと助けて欲しいって思ってるよ」

 

 二人に言われなくても、あの状況を見れば助けるだろ普通。まぁ、あの女の子が本当に助けて欲しいのか分からないけど、あの困った顔を見れば一目瞭然だろ。

 

 鞄を東城に預けて、その女の子を助けるためにコンビニに向かう。でも、どうやって助けよう?自慢じゃないが腕っ節なんて一般人と同じくらいだし、あの二人のチャライ男に話し合いが通じるとは到底思えない。なら……この『周り』を見方に使うしかないな。

 

▼ ▼ ▼ ▼

 

???side

 

 あぅあぅ……お、男の人がち、ちち、近くにいるよぉ!!!受験の帰りにちょっとだけコンビニに寄って帰ろうって思っただけなのに、なんでこうなっちゃったんだろ……。

 

 こんな時あたしに彼氏がいたら、カッコよく助けてくれるんだろうなぁ……。彼が、目の前の男の人達をやっつけて、それからあたしの事を抱き締めてくれて、それから、それから…………。

 

「ねぇねぇ、どこか遊びに行こうよ」

 

「そうそう。俺達楽しいとこ知ってるんだよね」

 

「…あ、ご、ごめ…」

 

 言葉にしようとしても声が出ない。ほんと、どうして男の人苦手なのかなあたしって……。頭の中じゃ平気なのに…なんでこうなのぉ!!!って感じにあたしが困っていたら、男の人達の後ろの方から声がしたの。

 

「ちょっとあんた達、その子困ってるんだからその変にしておいた方がいいんじゃないですか?」

 

「あぁ?今俺ら忙しいからガキは帰ってくれない?」

 

「そそ。この子も行く気になってんだからさぁ」

 

 嘘です!うそうそ!!あたし、そんな気なんてこれっぽちもないです!!そう声を出して言いたいけど、男の人がいると口が開かない。助けて欲しいのに…助けてって、言えない……。

 

「行く気になってる、ねぇ………ねぇ、君。この人達の言ってる事ってホント?」

 

 そう言って、あたしの顔を見るために男の人達の外側から顔を見せてくれる男の子。顔は好みのタイプじゃないけど、優しい声を持っている男の子。その男の子に向かって助けてって言えればいいのに、口は相変わらず開かない。でも、首を動かす事くらいは出来るよね、あたし!

 

 ブンブン…と、本当は勢いよく振りたいけど、あたしの身体はかなしばりにあったように、小さくしか動かなかった。あたしでも、絶対に気付いてくれないと思うくらいの小さな動き。でも、その男の子は……。

 

「そっか。やっぱり困ってたんだ。ほら、本人もこう言ってるし、止めておいた方がいいですよ。それに、人も増えて来ましたし、あんた達もこれ以上は…困るでしょ?」

 

「っく!おい、行くぞ」

 

「お前、覚えてろよガキ」

 

 男の人達は男の子にそう言って、あたしの前から消えていった。そしたら、あたしの身体はペタンとコンビニの前に座りこんじゃった。腰が抜けたんだって分かる。それを恥ずかしがっていたら、目の前の男の子が手をあたしの前に出して来てくれて、大丈夫って聞いてくれて……。

 

 え?このシチュエーションって、ある意味ロマンチックだったりする!?あぁ、どうしよどうしよ!ま、まずは、自己紹介から?つ、次はお友達?それで友達になった後はつ、つつ、付き合う事になって、その後は、彼のお部屋に行って……。

 

「え、えっと……ホントに大丈夫か?」

 

 っ!!は、話掛けられてる…助けてもらったんだし、ちゃんとお礼言った方がいいよね……で、でも声出せるかなぁ…。

 

「だ…大丈夫です……あ、あり…」

 

 だ、駄目…やっぱり声出ないよ!そう思いながら、あたしが顔を両手で覆っていたら、男の子が優しく声を掛けてくれた。

 

「ゆっくりで良いよ。体に力が戻るまで、どこにも行かないからさ」

 

 そう言ってから男の子は後ろを振り向いて、二人の女の子を呼んだ。二人の女の子の一人は金髪の可愛い子で、もう一人はメガネを取ったら可愛いのにって思う子だった。

 

「大丈夫だった?」

 

「は、はい」

 

 金髪の可愛い女の子は、近くで見るとテレビで見るどのアイドルより可愛くて……自分と比較してしまって悲しくなった。

 

「真中君のお陰だね」

 

「まなか…さんって……」

 

「あぁ、俺の事。俺は真中淳平。で、こっちが東城綾、そっちが西野つかさだ」

 

 メガネの女の子が言うまなかって人が誰か分からなくて首を傾げちゃったけど、あたしを助けてくれた男の子が自分の名前だって言ってくれて、他にも二人の女の子の名前を教えてくれた。その後二人も、よろしくって言ってくれたから、今度はあたしの番だよね。男の子が近くにいるけど、なんだか言えるような気がする……。

 

「あ、あたし、『向井こずえ』です。助けてくれてありがとうございました。真中さん!」

 

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