いちごの世界へ   作:うたわれな燕

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第十三話

「へぇ~幼稚園から中学まで女子校だったんだぁ。なら、高校も女子校なの?」

 

「は、はい。で、でも、一応女子校だけじゃなくて、共学の高校も受験したんです」

 

「共学の高校ってどこの?」

 

「え、えと、泉坂高校っていう高校なんですけど……」

 

「えぇ〜!!あたし達もついさっきそこで受験してきたんだよ!凄い偶然だねぇ」

 

「そ、そうなんですか!?わわ……で、でも、あたし男の子と話せないから、やっぱり女子校に行くかも…です」

 

 そんな感じで話しているのは、東城と西野、それからさっき俺が助ける事になった『向井こずえ』の三人だ。

 

 そもそも、どうしてこんな状況になってしまったのかと言うと……緊張が解けたからか安心したからかそれは分からないが、兎に角腰が抜けてしまった向井が動けるようになるまで俺達は待つ事になった。

 

 待っている間に女子三人が仲良くなってしまい、向井が動けるようなったらなったで、コンビニの近くにあったマ○ドナルドで話をしようという事になって、俺は西野に手を引かれて連れて行かれて……。今に至っている。

 

 というか、なぜ俺はお前とこんな所で会わないとならないんだ?お前とは確か、高校最後の年に会う筈じゃなかったか?なぜ、中学の……それも、高校受験のその日に会わなければならないんだ?しかも、都合良くナンパされてるとか…。

 

 男が苦手なら友達と帰るなりなんなりすれば良かったろうに……。

 

 それに、容姿が原作と違うから名前を言われるまで分からなかったぞ?原作でのこいつの容姿は小柄なのに胸があって、髪が飛び跳ねているような感じだったと俺は記憶している。

 

 だが、今目の前にいるこいつは原作同様に小柄だが、胸は西野と同じくらいで、髪がさつきばりに長い。あの髪形になるのは女子校に入ってからなのか、三年になってからなのか分からないが、今のこいつは長髪だ。俺が分からなくても不思議はない。

 

 と、いろいろと不意打ちのように感じられるんだが、どうすればいいんだ?話を聞く限り、こいつも泉坂高校を受験したという。だが、男性恐怖症のせいで女子校に通う事になるかもしれないとの事。

 

 正直俺としては、こいつと会うのが今になろうが高校最後の年になろうが一緒だ。原作では、何気に好きなキャラだったが、今の俺には東城と西野、それからさつきの三人で精一杯だ。なのに、こいつもそれに加わったら……無理だ。俺の許容量をオーバーする。

 

 よって、俺は向井と距離を置くようにして、さっきから三人の話に加わっていないんだが……。今も俺抜きで話している三人だけど、向井はたまに俺の方をちらちらと見てくる。それに、普通ならば反応するのかもしれないが、俺は気付いていない振りを続ける。

 

 こればっかりは、俺の許容量の関係だからすまない。だから、そんな潤んだ目を向けてないでくれ。頼む…。

 

「ま、まま、真中さん!」

 

 ……どうやら、俺の祈りは通じなかったらしい。あっちの方から行動を起こされたら……仕方ない、な。

 

「…どうかしたか?」

 

「えと、その……ま、真中さんも…泉坂高校に行くん…ですか?」

 

「まぁ……ね。一応、本命だから」

 

 向井は俺の言葉を聞くと、考え込むようにして顔を俯かせた。さっきまでは挙動不審というか、どもっているというか、そんな感じでいたのだが、今はもう自分の妄想の世界に入ったのか、体の震えはなくなった。

 

 だが、確かに言われてみると、泉坂高校じゃなければならない理由はないと思う。東城を幸せにするだけなら、泉坂高校には行かずに違う公立の高校に行けばいいだけなんだから。俺はただ漠然と泉坂高校に行こうと思っていた……目的、か。

 

 東城の今の時点での性格改変。

 

 俺と付き合っていないためなのか、分からないが桜海に行かない西野。

 

 さつきや向井といったキャラとの早い段階での出会い。

 

 ……原作との差異がここまでになったのは、俺が『真中淳平』じゃないから…だと思う。…いや、そうだ。そうに違いない。

 

 人が違えば、物語が変わるのは当たり前。人と同じ事など出来る筈がないのだからそれは当然だったんだ。

 

 なら俺は、原作とは違う『俺』という『真中淳平』が織り成す高校生活を送る事で、東城達と絡んでいこう。そして、原作と違う高校生活を送る事によって、東城を幸せにしよう。それが…俺が泉坂高校に行く目的だ!

 

「淳平君が、泉坂に行くっていうから頑張って勉強したんだよ、あたしは」

 

「ふふ。西野さん頑張ってたよね」

 

「ああ!東城さんだって淳平君が泉坂受験するから桜海受けなかった癖に、良く言うよね〜」

 

「そ、それは!ち、違うんだよ真中君!わ、私は本当に泉坂を受けたかったからなんだよ!本当だよ!」

 

「へぇ〜。淳平君は関係ないんだ〜。ふ〜ん」

 

「あぅ…ほ、本当は真中君がいるからです……」

 

 えっと……東城。お前今、何気に凄い事言ってるんだけど気付いてるのか?というか、俺が聞いていい話だったのか?

 

 ……何だか、東城を幸せにするっていう誓い、直ぐに達成出来そうな気が………。

 

 それに東城。西野に口で勝つのは多分お前には無理だと思う。顔から首まで真っ赤になっている東城を西野はクスクスと笑いながら見ている。この二人の厚意は、素直に嬉しい。

 

 西野からの厚意を少し前までなら、無視するか、気付いていない振りをするかだった俺だが、今では素直に嬉しいとそう感じる事が出来る。

 

 これは俺の中で西野が東城と同じくらい大切な存在になっているということだと思う。はぁ……我ながら、優柔不断だと思うが、今はこの状態を維持したい。

 

 最後にどんな結果になったとしても、東城を幸せにする事だけは絶対に守る。だから、それまで……それまでは、この状態を……。

 

 その後、向井が妄想の世界から帰って来るまで俺達は談笑し、向井が帰って来てからも談笑を少しだけしてからマク○ナルドを出て向井とその前で別れる事になったのだが、その時に予期せぬ出来事が起こった。

 

 ○クドナルドを出るころには、びっくりする事に向井は俺と普通に話せるようになっていて、「今日は本当にありがとうございました」と言ったあと、おずおずとメモ帳台の紙を渡して来た。

 

 …原作で真中と普通に話せるようになったのも結構経ってからなのに、なぜこんなに早く俺と話せるようになってるんだ?それにこの紙……俺の予想通りなら、この後『大変』な事になるような気がする。

 

「こ、これ、あたしの携帯の番号とメアドです。よ、よかったら、またお話してください」

 

 はい、予想通り。尚且つ、許容量オーバー。というか、展開早いと思う俺は変なのか?これが普通の早さなのか?そこら辺教えて欲しいんだが…。

 

 受け取った時から変わらない姿勢でいると、向井は頬を染めて「そ、それじゃ!」と言ってクルッと踵を返して走り去ってしまった。残されたのは、頭の中で疑問符が渦を巻いている俺と、それまでの一部始終を見て『笑み』を浮かべている美少女の二人。西野と仲直りしたばっかりでこれは…ないよなぁ……。

 

▼ ▼ ▼ ▼

 

 向井を二人のチャライ男達から助けた日の翌日。昨日は公欠扱いとなっていたが、今日は普通に学校があるために登校しなければならない。中学も気を利かせて受験した次の日くらい休みにすればいいのに、と思わなくもないがこれも少しだけ早い社会の洗礼と割り切るしかないんだろうな。

 

 昨日はあの後、当初の予定通りに入試問題の答え合わせをファミレスでやった。だが、その答え合わせの時間は……これまた予想した通り『大変』だったと言っておきたい。

 

 ファミレスに入るまでは左右から二の腕を抓られ続け、ファミレスに入って席に座ったと思ったらネチネチと小言を延々と聞かされ続け、答え会わせをやっと始めるといった時に『お願い』が楽しみだと笑顔で言われ……何とも濃い時間を過ごす事になってしまった。

 

 二人がしたお願いとは、西野はストレートに言ったが東城も言いたい事は同じで、所謂(いわゆる)デート。日取りについてや、その日に何をする、どこに行くなど、俺の予定なんて関係ないとばかりに、話を進めていく二人を苦笑しながら俺は見ていた。

 

 そして決まったのは明日の土曜に西野とのデート、次の日曜に東城とのデートという事。内容については、「内緒だよ♪」「内緒です」と揃って人差し指を立てて言われてしまい、聞く事は出来なかった。

 

 知らないで行くのは別にいい。だが、内緒と言われると……知りたくなってしまうのが人の心理で、少しだけ聞き耳を立ててしまうのも仕方なかった。

 

 聞こえた単語は、『10時』『お店』『教える』……おそらく、10時とは待ち合わせの時間で、お店というのはどこかの店に行くという事、そして……『教える』。この単語については見当がつかない。まぁ、明日と明後日になれば自ずと分かるのだからいいとしよう。まずは、今日という日を何事もなく終わらせる事だな。

 

「真中、ちょっと待てよ〜」

 

「ん?」

 

 考え事をしながら歩いていると、聞き覚えのある声が後ろから聞こえてきたので振り向いてみる。すると、手を振っている小宮山とそれを見て呆れている大草がいた。確かに、この年で手を振る男がいたら呆れもするな……大草は片手を少しだけあげて、よっと言ってきたので、俺も同じようにして返した。

 

「おっす真中!いやぁ〜昨日は疲れたよなぁ〜」

 

「おっす小宮山。確かに疲れたなぁ。まぁ、今日からは勉強会もねぇしゆっくり出来るぞ」

 

「お?何だ何だ?真中も自信なさげなのか?」

 

「いや、入試問題はマーク式だったし、解答欄も全部埋めれたから、大丈夫だと思うぞ。てか、『も』って何だよ」

 

 大草が誰の事を言っているかなんて分かってはいるが、一応聞いておかないとな。というか、大草が何かを我慢しながら俺の横に来たんだが、どうしたんだ?

 

「え…解答欄って一個余るんじゃねぇの?」

 

「……は?…」

 

 ま、まさか、原作と同じミスをするとは思っていなかった…。原作では東城の素顔を見たから呆けてしまったのだと思っていたんだけど、こいつの場合…素の状態で『コレ』だったんだな。

 

「アハハハッ。な?こいつすげぇよな。絶対に分かるミスなのに、試験中気付かずに5教科全部そうしたんだってよ。ここ来るまで、笑うの我慢してたんだけど、やっぱ無理だわ!アハハハハハッ」

 

 大草が、左腕を俺の方に置いて右手で自分の顔を押さえて笑い声を上げて笑い続ける。大草、確かに目の前のタコ顔は絶対にありえないミスをしたかもしれないが、いくらなんでもそんなに笑うのは………ククッ…。

 

「お、大草、そんなに笑うなって。ククッほ、ほら、小宮山が怒るって。ククッ…」

 

 だ、駄目だ。大草が笑うせいだろうが、小宮山の顔が赤くなって本物のタコみたいで……ククッ…。

 

「わ、笑うんじゃねぇええええ!!例えミスっていたとしても、解答欄のズレる一つ前までが合っていたら大丈夫だろうがっ!!」

 

「い、いや小宮山。ククッそのズレる前までの答えが全部合ってたらって、お前そこまで頭良くないだろうに。アハハハッ」

 

 大草、いくらなんでも言い過ぎだ。確かにこいつは馬鹿だが、そこまで言ったらこいつだって怒るぞ。現に今も茹でタコになって……いやいや、怒髪天を突くって感じに怒ってるし。……だが、あの顔は…ククッ……。

 

 それから学校へと行くまで時間、小宮山をネタにして笑う俺と大草、俺達に怒る小宮山という図が構成される事になり、他の生徒達から奇異の視線を向けられて後で後悔する事になるのだが、それはまた別の話…。

 


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