いちごの世界へ   作:うたわれな燕

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第十七話

 泉坂中学の卒業式から約二週間。今日は念願の泉坂高校の入学の日。

 

「うわぁ!!二人ともやっぱりサイコー!!セーラー服なんてダセーって思ったけど、二人が着るとマジ可愛いもん♪」

 

「あはは…あ、ありがとね……」

 

「あ、ありがと…」

 

 後ろの方でそんな会話がされているが、それらを完全無視して俺は歩を進める。というか、小宮山の奴がなぜここにいるかだが……。驚くなかれ。あのエロ蛸、卒業式後に俺に向けて呟いたのかどうか分からない言葉を有言実行しやがったのだ。

 

 何をしたのかというと、泉坂高校の職員室もしくは事務室に電話を掛け、あろう事か自分を入学させてくれと頼み込んだらしい。勿論、高校側はそんな事は認めらないと断ったそうだ。まぁ、普通の奴ならそこで引くだろう。というか、普通の奴は電話を掛けるなんて事をまずしないと思う。だが……小宮山力也という奴は、普通じゃなかった。

 

 断った高校側の人相手に、泣きながら何度も何度も頼み込み、高校側の人が電話を切っても直ぐに掛け直し、遂には泉坂高校の職員室へと出向き、そこで土下座までしたらしい。全て後ろにいる小宮山から電話で聞いた事なので事実だと思う。そして、その小宮山の姿勢に呆れたのか、感心したのか、はたまた面倒になったからなのかは分からないが、小宮山は見事泉坂高校への入学を勝ち取ったのだ。

 

 この話を聞いた瞬間、俺は自分の時が止まったような錯覚を覚えてしまった。後で聞いた話だが、大草にも同じような電話があったらしく、俺と全く同じようになったと言っていた。小宮山力也……漫画を読んでいた時も感じていたことだが、俺は改めてこいつが『変人』なんだと再認識する事になった。

 

「そういえば大草君はどうしたのかしら?」

 

「確かにいないね。ねぇ淳平君。大草君はどうしたの?」

 

「ん?あぁ、あいつはもうサッカー部の朝練があるらしくて、先に学校行ってるってさ」

 

「大草ももったいないよなぁ〜。二人のこ〜〜んな可愛い制服姿見れないなんて!」

 

 いやいや、高校にいけばいつでも見れるだろ。小宮山にそう心の中でツッコミを入れて、はぁ…と溜め息を一つ出して泉坂高校までの道を歩いて行く。道中、何度か東城と西野に話を振られて話しに加わったが、終始小宮山が頑張って二人に話しかけるという図が構成されたのだった。

 

▼ ▼ ▼ ▼

 

『新入生の皆さんは体育館に入場する前に、自分のクラスを確認してください。繰り返します。新入生の皆さんは……』

 

 そんな放送が流れているが、殆んどの奴らが校門前で配られたクラス表なるA4の紙に目を落としているので、この放送に意味があるのか俺には疑問だったりする。まぁ、そんな事は些細な事なので流す事にしよう。

 

「お、あったあった!俺3組だ」

 

「あたしは……5組」

(ほ…小宮山君とは違うんだ…)

 

「私は…あ、私も5組」

(小宮山君とは違うクラス…良かったぁ…)

 

「えっ本当!やったぁ!これから一年間よろしくね東城さん♪」

 

 西野のそれに、「うん。よろしくね」と柔らかい笑みを浮かべて返す東城。そんな二人を他所に、小宮山が「なんで俺は一緒じゃないんだぁ!」と項垂れていた。俺はそんな小宮山を横目で見つつ、自分がどこのクラスかを確めるべくクラス表に目を落とす。

 

 1組から5組まで目を通したが、そこには自分の名前はない。という事は、東城と西野の二人とは違うクラスという事。原作だと『真中淳平』は東城とは同じクラスだった気がするが……西野が泉坂にいる時点ですでに原作知識なんてアテにならないのかもしれないな。

 

 そんな事を考えながらクラス表を斜め読みしていると最後のクラスに自分の名前を見つけた。

 

「8組、か」

 

 原作では『真中淳平』と東城、そしてさつきと外村がいたクラスだが、俺以外にこのクラスなのは……。

 

「えぇ!?淳平君、あたし達と一緒のクラスじゃないの!!」

 

「真中君…一緒じゃないんだ……」

 

 他に誰が一緒になるのかを見ていた俺の耳に、西野のそんな大声と東城の控え目な声が届いたために、俺はクラス表に落としていた目を二人に向けた。

 

「まぁ、これもしょうがないだろ。東城と西野以外みんなキレイにバラバラだし」

 

 と、俺がそこまで言ったところで、さっきまでとは違う放送が流れた。ちなみに大草は1組だ。

 

『それから次の2名は入学式の前に一度、事務室前に集合してください。北大路さつき。小宮山力也。以上2名は一度、事務室前に集合してください』

 

「げ……」

 

 放送を聞いた小宮山はカエルが潰れたような声を出すと、「何の用だよ!!」と今の放送に悪態を吐きながら、事務室に向かって走って行った。俺と東城、西野の三人はそんな小宮山の背中を見送った後、「…とりあえず、体育館に行くか」「「うん」」といった会話をしてから体育館に向かう事にした。

 

 ちなみに体育館に向かう道中で、西野が俺と違うクラスだということにブゥたれて、それを何とか東城と二人で慰める事になって大変だったと言っておく。更に付け加えておくと、東城も若干だがブゥたれていたのか、最初の方は西野と一緒になって俺を困らせていたというのも言っておく。性格ってこんなにも変わるものなのだろうか。

 

▼ ▼ ▼ ▼

 

さつきside

 

 あぁもう!!ムカつくムカつくムカつく〜〜〜!!!何なのよッあのタコ男!!人の胸ばっか見てきやがってッ〜〜〜!!事務のババァがいなかったら絶対ぶん殴ってたわね。

 

 入学式が終わって、あたしは自分のクラスに向かって廊下を歩いている。てか、マジであいつキモかったぁ……。あいつも補欠合格って事だけど、あの顔だもん。絶対あたしより頭悪いと思う。ま、まぁ、あの男とは同じクラスじゃないみたいだし、それだけでも良しとしておこっと。

 

 そ・れ・に〜階段から一番近いクラスだったんだもんね♪これでちょっと寝坊して来ても大丈夫。そんな事を考えながら、早速教室の中に入って自分の席を探したら……。やっり〜♪一番後ろの席だ。あたしってばやっぱりついてる〜♪

 

 一人でそんな風に浮かれていたら、そこかしこで話し声がするのに気付いた。話し声のする方に顔を向けてみると、もう友達になったのか隣同士で話をしている子達や、グループを作っている子達がいた。たぶん中学の時からの友達なんだろうねぇ。

 

 椅子にもたれかかって、頭の後ろに手をやりながらそんな事を考えていると、いつか聞いた事がある声が横から聞こえた。そしてそれは、あたしに向かっての言葉だった。

 

「何やってんだお前?」

 

「……あんた…」

 

「もしかして覚えてないか?まぁ、一ヶ月も前の事だし仕方ないよな」

 

 忘れるわけないじゃない。あんたみたいな変な奴、後にも先にもあんただけよ。そう言いたいのに、あたしの口は思うように動いてくれないし、体も金縛りにあったみたいに動かない。そんなあたしを無視して、そいつはあたしの後ろを通ってあたしの左隣の席に鞄を置いて、椅子に座った。

 

「まぁ、でも俺の勘は間違ってなかったな。こうしてお前とまた会えたし」

 

 勘……そう。あんたは確かそう言ってた。でも、本当にこんな…こんな事って……顔が、体が、あの時みたいに熱くなっていくのを感じる。『可愛い』と言われた時にも感じた熱さが。

 

「あの時は名前、教えてなかったよな?俺は『真中淳平』。名字でも下の名前でもお前の好きなように呼んでくれ。これから三年間よろしくな、『ポニテ』」

 

「ッッッ!!ポ、ポニテって言うなって言ってるでしょ!!あたしの名前は北大路さつき!今度ポニテって言ったらぶん殴るわよッ!!!」

 

 気付いたら椅子から立ち上がって、あたしは目の前の男に向かって指を突き付けていた。そして、目の前の……『真中淳平』はそんなあたしに苦笑を浮かべて「分かったよ、『さつき』」と言ってきた。

 

「わ、分かればいいのよ!」

 

 やっぱりこいつ……変な奴だ。

 

▼ ▼ ▼ ▼

 

「それでは、高校生活最初の出席を取る。安部、伊藤、小野寺……」

 

 黒川先生が出席を取っていく声を聞き流しながら、右側からの視線に耐えているわけだが……。北大路さつき。原作では、『真中淳平』を巡る恋戦に真っ先に乗った女。そして、男女の友情がきちんと存在することを証明してみせた女でもある。そして俺が二番目に好きなキャラだった女。

 

「北大路」

 

「はい」

 

 と、黒川先生の出席を取る声に返事をするさつきだが、顔は俺に向けたままだ。

 

「佐藤、鈴木……」

 

 そんな女が、今俺を睨んでいる。いや、睨んでいるという言葉は正しくないな。『見られている』という言葉が今の状態には相応しいのかもしれない。さつきとの再会は想像したモノと大差ないモノになったわけだが、例外が一つだけある。それが、今も尚俺に浴びせられているこの視線だ。

 

「藤崎、藤田、真中」

 

「はい」

 

 黒川先生の出席を取る声に遅れずに答え、さつきからのあまりにもしつこい視線にとうとう俺は屈してしまった。

 

「……何か用か?」

 

 出席を取り終わった黒川先生がこれから高校生活を送る事になる俺達に向けて注意する事や、行事の事など話しているのを邪魔しないように小声でさつきに話しかける。

 

「べ、別に用なんてないわよ……」

 

 俺に話しかけられるとは思っていなかったのか、さつきはそれまで俺に向けていた視線を切り、小声でそう返してきた。……用がないのに俺は見られていたのか?…謎だ。

 

 黒川先生の話に意識を向けると、委員会や部活の話になっていた。やはり、映画関係の部活はないようだ。原作の真中もこうしてちゃんと話を聞いていれば、早い段階で気付くことが出来たのにな。まぁ、俺には関係ないか。俺は映画にそこまで興味はないし、部活もどこか普通の所に入ろうと思う。

 

「よし!今日はこれで終わりだ。明日からは授業も始まるので、時間割をきちんと見てくるように。それでは解散!!」

 

 起立して、礼。日直も、委員長も決めていないというのに、自然と俺達はその動作をしていた。これが所謂(いわゆる)カリスマというものなのだろう。僅か十数分で男子の過半数を虜にした黒川先生は教壇から降りると、流し眼を俺達男子に向けてすると颯爽と教室から出て行った。

 

 黒川先生が出て行ってたっぷり数十秒後に生徒達は動きだした。男子は言わずもがな、既に黒川先生の色香に惑わされているし、女子も女子であの色香はどうやったら出せるのだろう、といった話で盛り上がっている。

 

 それを尻目に、俺は帰る支度をすると静かに席を立って鞄を持ち、教室から出るためにドアに向かった。正直に言おう……黒川先生の流し眼は、クラッと来てしまうくらい色っぽかった。だが、そんな想いも束の間、隣からの視線と突然頭の中に出てきた西野と東城のあの『笑み』によって現実へと戻される事になり、俺は早々と教室から出なくてはならなくなったのだ。

 

 あのまま教室に居続けたら、話した事もない男子連中の輪に加わる事になっていたと思う。いや、絶対そうなっていただろう。廊下を進みながら、そんな事を考える。すると、後ろの方からタタタッという駆ける足音が聞こえたので、誰だ?という軽い気持ちで振り返ってみると……北大路さつきが俺の後ろで仁王立ちしている姿が目に入って来た。

 

「……何か用か?」

 

 この質問も二回目だな。立ち止まって首だけをさつきの方に向けたまま、さつきの答えを待つ。

 

「変!!」

 

 ……は?

 

「あー……何だって?」

 

「変よ!あんたって絶対に変!なんで?どうして?普通の男ならあんな流し眼されたら一発でバカになる筈でしょ!なのに、あんたはバカにならないし、もう帰ろうとしてるし、何なのよあんたは!!」

 

 まだ多くの生徒が教室や廊下に残っているだろうに……俺から言わせると、お前の方が変だっての。何でこんなところでそんな大声を出す?ほら、後ろの方の教室のドアを開けて何人もの奴らがこっちを見てるぞ?

 

「…さつき、まずは声のボリュームを下げろって。じゃないと、めんどくさい事になると思うんだ」

 

 まだ入学してまもないのに、こんなアホな事で他の奴らに顔を覚えて貰いたくはない。それに、さつきだけがそうなるならいいが、さつきが話しかけているのは、どう見ても俺だ。だから、頼むさつき。その暴走中の頭を冷やしてくれ。

 

「それだけじゃないわ!何なのよあんた!あたしの事ポニテとか言って来るし……それにこの前なんか、か、かか、可愛いとか言って来るし……でも、さっきのホームルームじゃそんな事がなかったような顔でいるし……何なのよあんたは!!!」

 

 途中声を小さくしたが、最後は元の大声に戻して言い切るさつき。はぁ……これは完全に俺のミスだな。もうお決まりとなりつつある片手を顔に当てるポーズで反省していると、「こらぁ!!そこの二人!廊下で何をうるさくしている!」と数分前に聞いた事のある声が聞こえた。

 

 それは案の定、俺達の担任である黒川先生その人だった。

 

「全く……入学早々、こんなバカ騒ぎをしたのはお前達が初めてだぞ?それに、私のクラスみたいだしな。よし、お前達には美化委員としてこれからこの一年の廊下をワックス掛けしてもらおうか?心を綺麗にするという意味でも、お前達は美化委員決定だ」

 

 ……まさか、原作通りに美化委員になるとは…。それも、この廊下を今からワックス掛け?しかも、俺達二人で?……東城と西野には悪いが、先に帰ってもらうしかないな。

 

 黒川先生登場で俺の隣に来ていたさつきに目をやってみると、あきらかに『不満』『不機嫌』といった顔をしていた。いや、こうなったのはお前のせいなんだが……そこのところを間違ってもらっては俺が困る。

 

 それから、俺とさつきは一年の生徒がほとんどいなくなったのを確かめてから、ワックス掛けをすることになった。途中、東城と西野がやってきて「うわぁ、災難だったね淳平君」「私、手伝うよ?」とそれぞれ声を掛けて来てくれたのだが、後ろにいるさつきの物言わぬ視線が背中に突き刺さった事もあり「大丈夫だ。今日は二人で先に帰ってくれ」と言って、二人を先に帰らせることにした。

 

 それでも何度も俺を待つと言ってくれる二人をどうにか…どうにか、言いくるめて帰らせる事に成功した俺だが、その代わりに多大なる労力を使う事になったのは言うまでもない。

 

 モップなど掃除用具が入っているロッカーからモップをさつきの分も含めて二本取り出し、ワックスの入ったバケツを取りに行ったさつきを待っていると、ブスッとした顔を浮かべて階段を上って来るのが見えた。

 

「あーやだやだ!男って本当ああいう女に弱いんだよねー」

 

 こいつ……俺と二人の会話を隠れて聞いてたんだな。だがまぁ、それを隠そうとしないで、正直でもないがこんな風に言って来るのがさつきらしいと言えば、さつきらしい…か。

 

 と、そんな事を考えていると俺に何の合図もなく、さつきは手に持っているバケツに入ったワックスを前方に向けてぶちまけた。…一声くらい掛けろよ。

 

「もう生徒も少なくなったし、パパッとワックス掛けるわよ!廊下の右半分あんたね。それじゃ、よーい…ドン!!」

 

 俺の左手にあったモップを分捕り、自分の担当はこっちと言わんばかりに廊下の左の方『だけ』をモップ掛けしながら走りだすさつき。

 

 それに苦笑と溜め息を吐き出して、さつきを追うために俺もモップを両手に走り出した。

 

「あ、ちなみに負けた方は勝った方にジュース一本奢りね!!」

 

「ったく、分かったよ。でも、ズルはなしだからな」

 

 さつきの横を走りながら、それだけを告げてワックスを掛けていく。さつきは、フンッと鼻を鳴らしはしたが、その顔に笑みが浮かんだのを一瞬だけだが見る事が出来た。

 

▼ ▼ ▼ ▼

 

「やったぁ!!あたしの勝っち〜。へっへ〜だ♪」

 

「いやいや、お前のは塗り方が雑過ぎるんだよ。まぁ、仕方ない。ジュースくらい奢ってやるよ」

 

 廊下の端から端までのワックス掛けは思ったより時間をかけずに終わらせることが出来た。まぁ、しっかりと丁寧にやっていたらこの倍の時間は絶対に掛っていた筈だが……。

 

 あらかじめ置いておいた水の入ったバケツに、ワックス掛けに使ったモップを入れて体を伸ばしていると、それまで自分が勝った事に嬉しがっていたさつきが「そういえば…」と思いだしたように口を開いた。

 

「あたし達、教室に荷物置いて来たわよね?」

 

「……あぁ。そう言えばそうだな」

 

 そうして、自分達の今いる場所を確認したさつきが、「ここ一組で……あたし達八組よね?」と聞いてきたので、それに首を縦に振って応える。そして、原作の真中のように仕方ない、と言って俺は廊下を歩きだす。

 

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」

 

「良いからお前はそこで待ってろよ。荷物はお前の分も俺が取って来るから」

 

「な、何よ、それ!!あたしも行くわよ。あんたに借りなんてつくりたくないし!」

 

 さつきはそう言うと、ワックスの掛った廊下に足を一歩踏み出した瞬間、ツルッと滑って盛大に尻餅をついてしまった。

 

「いったぁ〜い!!何なのよもう!」

 

 そう言って自分のお尻を摩るさつきだが、如何せん俺とさつきの立っている場所が問題だった。何が問題なのか。それは……。

 

「あぁ……さつき、一応言っておくがこれは不可抗力だからな。それだけは分かってほしい」

 

 俺のその言葉の意味が分からないのか、さつきは頭をコテっと傾げてくる。それに、溜め息一つ出してさつきに背を向けてから口を開く。

 

「……パンツ。見えてるぞ」

 

「…ッッッ!!」

 

 俺の言葉で自分の今の姿が分かったのか、前に放りだすようにしていた足をババっと引っ込めて、真っ赤になった顔で俺を睨んできているだろうさつきを背中越しにではあるが感じた。

 

「あ、ああ、あんた……「まぁ、不可抗力でも見てしまったのは本当の事だし、その怒りは荷物を取って来てからって事で頼む。今大声出されたら、今度は何をさせられるか分からないからな」……わかったわよ」

 

 さつきが無言で頷いたのを首だけ振り向いて確認し、俺は二人分の荷物を取りに廊下を進む。途中、何度も転んでしまったのはカッコ悪いが事実であり、その度に後ろの方からケラケラという笑い声が聞こえて、俺の方が恥ずかしい想いをする事になった。これで痛み分けとなってくれればいいが…無理だろうな。はぁ…。

 

 ちなみに、さつきのパンツの色はピンクという可愛らしいものだった。意外と可愛いモノ好き?なのかもしれないな。

 

▼ ▼ ▼ ▼

 

 そして現在、俺はさつきと肩を並べて下校しているところで、さっきから横でケラケラと笑われている最中でもある。

 

「あははは!…け、けど、ぷぷ……ほ、本当に派手に転んだよねーあんた。計21回って…ぷぷ、あははは!お、おかし過ぎるッ」

 

「…言い加減笑うの止めろよな。体中からワックスの匂いがして、さっきから気持ち悪いんだってのこっちは」

 

 俺のその言葉に「ごめんごめん」と言って顔の前にジュースを持ったまま手を合わせて笑っているさつき。こいつ……と、片手を顔にあてて溜め息をまた一つ。

 

「あ〜こんなに笑ったの久々〜!!だから、さっきあたしのパンツ見たの許してあげるよ」

 

 そう言ってニカッと西野に負けないそんな笑みを、俺の前に回ってしてくるさつき。それを見られただけで、恥ずかしい想いをしたのも悪くはなかったなと思えてくるから不思議だ。

 

「それから……」

 

 右手を俺に向かって差し出してくるさつき。俺はその手を見てからさつきの顔を見る。そこには、頬に朱を散らせながらも笑みを浮かべているさつきの顔がある。

 

「さっきは言えなかったけど、これから三年間よろしくね!」

 

「…あぁ、よろしくな」

 

 俺の右手とさつきの右手が合わさる。この年になってする握手は照れ臭いのもあったが、それ以上に・・・・これからの高校生活が面白くなるという期待でいっぱいになった。

 


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