いちごの世界へ   作:うたわれな燕

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第十九話

 これもまた…原作にはない俺専用のイベントなんだろうな…。

 

「こらぁ!待ちやがれッ!!」

 

「待てと言われて、素直に待つ馬鹿がどこにいるってのよッ!」

 

 背中にたくさんの罵声を張り付けながら、複数の人が追い掛けて来ているだろう足音が聞こえてくる。それらから少しでも遠ざかるべく、足を動かし続ける。

 

「はぁッはぁッはぁ……。しつっこいわねッ!真中!そこッ右に曲がるわよ!」

 

「はぁッはぁッ。了解ッ」

 

 喋るのが億劫なので一言だけで返し、俺は並んで横を走るポニテの言葉に従い右へ曲がると、その後はまたひたすら走る事に集中する。

 

 原作の真中より体力はあると思っていたが、実際はもう限界間近だ。だが、背中に掛かる罵声が消えてくれないので、足を止める事は出来ない。

 

 疲労が蓄積していく足を叱咤し続ける中、俺は再び胸中で呟いてしまう。

 

 こんなイベント、俺は頼んでない…。

 

▼ ▼ ▼ ▼

 

 体育の授業を終えていつも通りの昼食時間。だが、今日はいつもとは少し違っていた。それは何故かと言うと…。

 

「でね、あたしってば今のところ女子の50m走で一番早いらしいの。って、聞いてる真中?」

 

「あぁ、聞いてるよ」

 

 …さつきの様子がおかしい。何がおかしいかと言うと、俺も断言出来ないのだが…。敢えて言うなら、いつも以上に絡んでくる気がするということか。

 

 現に今も、いつもなら昼食時間はいなくなるのに今日に限っては俺の机に自分の机をくっつけ、尚且つ西野のように身を乗り出しながら俺に話しかけてくる。

 

 はて…?いつ俺はこいつにフラグを建てたのか…。

 

「す、凄いんだね、北大路さんって。私、運動するの苦手だから羨ましいわ」

 

「アハハ、そうでもないよ東城さん。この人みたいに体力は馬鹿みたいにあるけど、勉強できる頭がないっていうのは可哀想なんだよ。ねぇ〜北大路さん♪」

 

「ア、アハハハ…でも、容姿『だけ』の人に言われたくないかなぁ~。あ!その容姿もある『部分』はあたしと東城さんには勝てないんだっけ?ごめんなさいねぇ〜西野さん♪」

 

「「…………」」

 

「あぅあぅ…ま、真中君。二人が…二人が…」

 

 俺の制服の袖口を摘んで、泣きそうな顔を向けてくる東城。そんな東城や俺、それから小宮山の三人を無視して睨み合いを続ける西野とさつきの二人。

 

 弁当を食べ始めて直ぐに、この二人はこんな感じで皮肉を言い合っていた。それと言うのも、いつもならここにいない筈のさつきが、自分以上に俺に絡んでいる事に西野がイラッとした事から始まったのが原因のようだ。

 

 さつきが今日はこっちで俺達と一緒に食べると言い出して、はじめの内こそ西野もさつきと笑顔を交えて仲良さそうに話をしていた。

 

 それを見て安心したのも有り、俺は自分の弁当を食べるのに集中できていたんだが…いつの間にかこのような雰囲気へと、この場は変わっていた。

 

 さつきの話を聞くためにさつきの方を見れば西野が…。

 

 西野の話を聞くために西野の方を見ればさつきが…。

 

 と、いうように徐々に俺を挟んで激しい睨み合いが開始され始めたのだ。俺にはどうしようもなかったとだけ言っておきたい。

 

 東城に至っては、その睨み合いに参加する事がまず出来なかったようで、今は俺の左隣で成り行きを見守っているといった具合だ。

 

 小宮山に視線を移せば、この場に漂っている空気が分からないのだろう。さっきから西野とさつき両名へと頻りに話し掛けている。

 

 だが、案の定小宮山の話を無視して二人は互いを睨み続けている。「アハハハ」という愛想笑いとも言うべき笑い声を時折交えながら…。

 

 教室の空気も段々と侵されて行っているのか、また一人、また一人と教室から出て行っている。……高校の昼休みは中学の時よりも長いのだが、この時ばかりはそれが却って仇となった。

 

 頼む時間よ、どうか早く過ぎてくれ……。そう願う俺の気持ちとは裏腹に、昼休み終了の鐘が鳴るまでの時間は、体感時間でいうと前の世界と合わせてもトップ3に入る程の長い時間となったと思う。

 

 ただ小宮山という一人の男は、時折東城に話を振りながらも終始笑顔で二人へと話し掛け続けていた。…空気を読めない奴が始めて羨ましいと思った瞬間だった。

 

 そして、拷問のような昼休みを過ごした後、5時間目、6時間目と何事もなく授業を受け終わり、下校の時間となった。

 

 やっと今日という日が終わったと椅子に体を倒してダレているところに、西野が前のドアをバーンと開けて入って来た。ちらっと顔を窺って見ると、まだ機嫌が悪いと分かる顔を浮かべている。

 

 そんな西野に続いて東城も苦笑を浮かべながら静かに入って来る。いつも思うが、二人を足して2で割った普通の入り方は出来ないのだろうか。

 

「淳平くーん!早く帰ろー!」

 

「…分かったから、そんなに大きな声出すなって」

 

「真中君…疲れてるみたいだけど大丈夫?西野さんが帰りにカラオケに行きたいって言っているんだけど…」

 

「そうだよ淳平君!つかさちゃんは『今』カラオケの気分なのッ!だから、早く行こうよー!」

 

 椅子に倒していた体を元に戻してみると、俺の机の上に両手を着いて俺を見ていただろう西野と目が合った。

 

 すると、何を思ったのか。西野は目を閉じて俺の顔へと自分の顔を近づけ始めたのだ。

 

 教室の中にいた殆どの奴が「あぁー!!!」と五月蝿くする中、俺は冷静に右手をデコピンを放つ際の構えにし、近付いてくる西野の額へと狙いを定め、弓のように撓っているかのような中指を一気に解き放った。

 

 ベチッ

 

「いだッ!?」

 

「馬ぁ鹿。阿保な事やってないで帰るぞ」

 

「ぅぅ…はぁ〜い」

 

「に、西野さん、ぬ、抜け駆けは無しなんだよッ」

 

 机の横に掛けていた鞄を持って後ろのドアの方へと向かう傍ら、ふとさつきの方に顔を向けてみると、今度はさつきと目が合った。

 

 だが、直ぐにさつきの奴は机の方へと顔を逸らしてしまう。それを疑問に思いながら、さつきに「また明日な〜さつき」と言って今度こそドアへと向かって足を進める。

 

 背中に「ま、真中もまた明日!」とさつきの声が返って来たので、後ろ手で手を振って教室から出ていく。直ぐ後ろの方で、東城がさつきに何か一言言っているのを何となく聞き流しながら、これからの予定について考える。

 

 西野がカラオケだけで帰るとは思えない。はぁ…また出費が嵩むな。そう思いながら、階段を降りて行く。

 

▼ ▼ ▼ ▼

 

「んー歌った歌った♪」

 

「西野さん歌上手だもんねぇ。ま、真中君もその、かっこよかったよ」

 

「ありがとな、東城」

 

 学校から帰る途中、西野の提案通りカラオケを2時間程やって今は近くのファミレスでドリンクバーを頼んで休憩しているところだ。

 

 しかし、何度も思うが西野の奴…歌上手すぎ。東城も上手いと思うが、こればっかりは西野に脱帽だ。

 

 歌の選曲も今のアイドルが歌うような物から、ちょっと昔の有名な曲、そして演歌までといった感じでボキャブラリーに非常に富んでいる。

 

 更に点数も全て95点オーバーと…。東城はそんな西野に羨望の眼差しを向けながら、自分の飲み物である『オレンジジュース』を一口飲む。

 

 東城がかっこよかったと言った俺の歌だが、80点から85点の間をウロウロするといった感じで普通の点数だ。

 

 東城は最初こそ恥ずかしがっていたが、最近は普通に歌えるようになってきている。まぁ、俺と西野以外の奴がいたら、また違ってくるんだろうけど…。

 

「淳平君はもう少し、抑揚をつけないとね〜♪じゃないと90点の壁は超えられないよ」

 

「楽しく歌えれば点数はどうでもいいっての。それに、目の前に99点とか普通に出す奴がいたら、頑張ろうって気も普通なくなるだろ。なぁ、東城?」

 

「え!?で、でも、真中君の歌私好きだよ?」

 

「いやいや、東城さん。それじゃ淳平君の答えになってないって」

 

「あ、えっと、その、あぅ…」

 

 と、東城をイジって俺と西野が楽しんでいると、窓の向こうに俺達と同じ高校の制服を着たポニテ女が、ガラの悪い男達に絡まれているところを発見した。

 

 その周りを見てみるが、それに気付く奴はいても見て見ぬ振りをして通り過ぎている。

 

 ファミレスの中の奴らも、気付いてはいても自分から進んで助けに行こうとはしていない。

 

 俺はもう一度、窓の向こうにいるポニテ女を見てみる。やっぱり、あいつだよなぁ。はぁ…何だっていつもいつもこうして、俺の前で問題が起こるんだ?…だけど、助けに行かない訳にはいかないよな。

 

「悪い二人共。今日は送って行けそうにない。ドリンクバー代は置いていくから、もう少し経ってからここを出ろよ。じゃ、また明日」

 

「ちょ、淳平君!?」

 

「ま、真中君?」

 

 二人の声を背に俺は鞄を手に持って、レジにいる店員に「連れが自分のも払いますので」と言ってドアを開けて店から出る。

 

 店員の「ありがとうございました」という声がドアの向こうから聞こえたような気がしたが、それも今はどうでもいい。

 

 今も尚言い争っているポニテ女とガラの悪い男達。道路を挟んで向こう側にいるために、右と左を見て車が来ない事を確認してそこに向かって足を進めていった。

 

 そういえば向井の時も確かこんな感じだったな…。あいつから貰ったメモどこにやったんだったか…。

 

 まぁ、携帯を持っていない俺にはメール出来ないけどな。いきなり電話もなんだし、向井には悪いがまたどこかで会った時に謝ろう。

 

「なぁ、良いじゃん?俺達とこれから楽しいところ行こうって」

 

「そうそう。女の子一人が嫌って言うなら、友達も呼んでさ」

 

「何なら、俺の女友達も呼ぶからさ。ね?行こうよ」

 

「五月蝿いわねッ!行かないって言ってるでしょッ!!もう良いから、どっか行きなさいよッ」

 

 近付く度に、ナンパ野郎特有の誘いと聞き覚えのある声が聞こえてくる。全く、あいつも断るのが下手だな。

 

 あんな言い方じゃ、どんどん悪い方に行ってしまう事に気付いて…いないからあんな言い方なんだよな。

 

 俺の目に数時間前に教室で見たあいつの姿が入ってくる。声こそ頑張って虚勢を張っているが、脚がガクガクと小さく震えている事が分かる。

 

 はぁ…高校の男子だけじゃなくて街の不良達にも目を付けられる事になるんだな俺は…。

 

「あのーすみません。そいつ、俺の彼女なんで連れて行っていいですか?」

 

 ナンパ野郎達の近くに着き口を開く。嘘100%の言葉だが、一番効率的な言い方だと思う。まぁ、それもバレなければだけど。

 

「ん?何だ彼氏いんのかよ。シラケるわぁ」

 

「いやいや、こんなモヤシ君彼氏でも関係ねぇって。ボコって捨てればいいことだし」

 

「うわッお前って悪いねぇ。でも、俺も賛成。俺らシラケさせた罰は受けてもらわねぇとな」

 

 ナンパ野郎達の三人の内二人がリンチを推奨。これは逃げるしかないな。

 

「誰よッあたしは誰とも付き合ってなんか…」

 

 ナンパ野郎達の向こうにいるポニテ女、『北大路さつき』が一瞬声を荒らげるが、俺が顔を見せると口を噤んで吃驚した時の顔を浮かべた。

 

「おい、聞いたかよ。こいつ彼氏でもねぇみてぇだぞ?」

 

「あぁ、まさかこんなご時世に正義の見方君がいるとは思わなかった」

 

「っぷ。喧嘩もやった事がなさそうなモヤシ君が、正義の見方。マジウケる!」

 

 ナンパ野郎達の声が五月蝿いが、この際全て聞き流す。今はこいつらの向こうにいるさつきにどうにかして近づかないと…。

 

 さつきを見れば、どういうつもりよ!って感じの顔を浮かべていた。それに呆れながらも目線でさつきからしたら左側に合図を送る。

 

 見る限り三人のナンパ野郎達の内、右の奴だけヒョロイ感じがする。後二人は、喧嘩っぱやい感じを言動から察する事が出来る。

 

 右の奴をさつきが突き飛ばして、それに気を取られるだろう二人の足に俺が足払いを掛けて、コケた隙に俺もさつきと一緒の方向に逃げる。

 

 …うん。これしかないな。

 

 向井の時に使った、周りの人を使うやり方はここでは意味なさそうだし…。

 

「正義の見方って訳でもないですよ。ただ、知り合いが絡まれてるのに気付いたので助けようと思っただけです」

 

 ナンパ野郎達の気を俺に集中させて、さつきにタイミングを図らせる。

 

 そして、俺の言葉に釣られてまた何か口々に言い出したナンパ野郎達の内、ヒョロイ奴がさつきから少し離れて俺に近付いた瞬間、さつきが自分の鞄を下から掬い上げ、ヒョロイ奴の後頭部に鞄の角を炸裂させた。

 

「ぐぇッ!」

 

 ヒョロイ奴の口から蛙の潰れたような声が出ると同時に、そいつは前のめりに倒れる。

 

 その瞬間さつきは空いた隙間を利用して、ナンパ野郎達の包囲から抜け出して走り抜けていく。

 

 仲間が行き成りそんな声を出したので、俺に罵詈雑言を吐いていた二人のナンパ野郎達が仲間のヒョロイ奴に顔を向けた瞬間、俺はしゃがんで足払いを掛ける。

 

 アキレス腱を狙って掛けたが、面白いようにそれが成功する。「うわッ」「なッ」と口から声を洩らして尻餅を付く二人のナンパ野郎達。

 

 俺は直ぐに立ち上がって、さつきの逃げた方に向かって駆けていく。走るのに鞄が邪魔だが仕方ない。放り出して、俺の身元を知られるより我慢して走るしかない。

 

 後ろから罵声が掛かるが、それを無視して駆けて行く。

 

 ポニテをフリフリ走るさつきを追い掛けて行くと、俺を待っていたのかさつきが足を止めていた。あの馬鹿!と胸中で毒付き、口を開く。

 

「何止まってんだ!逃げろよ、馬鹿ッ!」

 

「う、五月蝿い!あたしの勝手でしょッ」

 

 俺がさつきに近付いていくとさつきは再び走り出し、いつの間にか俺とさつきは並走するような形になっていた。

 

 口を開けば馬鹿だの阿保だのといった暴言を吐きかねない心境の俺だったが、さつきが小さくも辛うじて俺の耳に聞こえるくらいの声を出したのに気付いたので、もっときちんと話すように促す。

 

「…して、…けたのよ…」

 

「はぁッ?聞こえねぇよッ。もっとデカい声で言えってッ」

 

 全力疾走に限りなく近い速度で走りながら口を開くことは、本来なら褒められる事ではない。だが如何せん背中に掛かる罵詈雑言や、俺達の走る足音のせいで殆どさつきの声が聞き取れない。

 

「……あんたって本当に変って言ったのよッ」

 

「…その変な奴に助けられた馬鹿な奴は誰だよ」

 

「……あたしです」

 

 そう言ってバツが悪いのか走っているせいか分からないが、頬をほんの少しだけ赤くするさつき。

 

 それを横目に見ながら、俺はそれ以上口を開く事はせずに走る事に集中することにした。そして走り続けて数分後、冒頭に至る。

 

「はぁッはぁッ…次を左に曲がったら、建物の影に隠れましょッ」

 

「はぁッ…異議なしッ」

 

 もう足の方が限界だったので、さつきの提案は渡りに船だった。この世界に来て約二ヶ月の俺よりも、この世界のこの街で育ったさつきの土地勘にここは賭けようと思う。

 

 もし万が一にも捕まるような事があったら、その時はその時でまた何か考えて切り抜ける事にする。リンチなんて誰が受けるものかッ!

 

▼ ▼ ▼ ▼

 

「…行った?」

 

「…たぶんな」

 

 あれから俺達は再び曲がり角を利用してナンパ野郎達の視界から一時的に消えると、直ぐ近くにあった建物と建物の間にある狭いスペースへと身を隠した。

 

 狭いといったが本当に狭い。人がやっと一人通れるくらいの広さしかない。それも体を横にしてやっと入れる広さだ。

 

 そんな狭いスペースの中で奥がさつき、手前が俺といった感じで隠れている。

 

 そして、息を潜めること数分。俺達の後ろを追ってきていたナンパ野郎達の声が聞こえなくなったところで、ようやく人心地付くことが出来た。

 

「はぁ…疲れた」

 

 口からそんな言葉が漏れるほど、俺は疲れていた。体育の時間で散々走った後なのに、また走る事になったからだということは、さつきも何となく理解したのだろう。

 

 苦笑しながら、壁に体を預けている。流石に体力馬鹿のさつきも今回ばかりは疲れたんだな。

 

 それから、しばらく互いに口を開かずにいるところに、さつきが口を開いた。

 

「ねぇ……」

 

「ん~?」

 

「どうして…助けてくれたの?」

 

「…知らない仲じゃないしな。別に理由なんてねぇよ」

 

 それは本当の事だ。絡まれている女がさつきだと分かった瞬間、俺は助けない事は考えなかった。

 

 それがなぜなのか分からないが…西野の時、向井の時、東城の時、そして今回…。

 

 俺はめんどくさいと思いながらも、原作キャラであるこいつらを助けるべく行動を起こしている。

 

 自分の事なのだがそれを不思議に思っている俺がいる。前の世界なら絶対に関わろうとしない出来事に、積極的とは言わないが自分から関わろうとする。

 

 それについての考察は徐々に形になってきてはいるが、決断を下すにはまだ早いとも思っている。

 

「この前の廊下の時もそうだけど…ありがとね、真中」

 

「なんだよ急に…まぁ、今回は俺がいて良かったけどよ。今回みたいに俺がいるとは限らねぇんだ。もう少し上手く追っ払う方法覚えた方がいいぞ」

 

 さつきの顔に恥ずかしそうな、照れたような、そんなハニカんだ笑みが浮かぶ。それを直視出来るほど俺はさつきの笑顔に耐性がないため、視線を逸らして口を開いた。

 

 いや、東城や西野の笑顔を見てれば慣れるだろ?って思うかもしれないが、これが全然慣れない。

 

 おそらくだが、俺は一生慣れる事はないだろう。と、そんな事を考えているとさつきがニヒヒと笑っているのに気付く。ッ!こいつ、確信犯だったか…。

 

「真中ってばなぁに照れてるんだか。東城さんや西野さんっていう美少女二人を侍らしてるくせに、女の子の笑顔に弱いなんて。案外可愛い奴だったんだね、真中って!」

 

「…ほっとけッ」

 

「アハハハ♪ごめんごめん。でも、本当にありがとね。あんたってやっぱ他の男子と何か違うよ。今まであたしが見てきた男の中で一番変で、一番馬鹿で…」

 

 …変はまぁいいとしよう。だが、一番馬鹿って何だ?小宮山よりも、外村よりも馬鹿だって言うのか?…本気でそう思われているとしたら、やり切れないぞ俺は。

 

「そして、一番格好イイ男だと思う!」

 

「……」

 

 ふ、不意打ちだろ、それは。そんな事言われ慣れてないからか、俺の体はカッと一瞬で暑くなる。おそらく顔も真っ赤になっていることだろう。

 

 なぜこんな狭くて暗い、おまけに汚いところでこんな話をしているんだろうか俺達は。

 

 俺は居た堪れなくなりスペースから抜け出して、深く息を吸って吐いた。これで、少しばかりは気も紛れるだろうと思っていると、さつきもスペースから出てくると、開口一番…。

 

「あたし、西野さんや東城さんに負けないよ!あたしを本気にさせたんだから…責任取ってよね♪」

 

「……」

 

 原作と多少違いはあったが、結局はさつきからも好意を寄せられる事になった。…背中を刺される確立の上がった音がどこかでしたような錯覚を覚えつつ、俺は曖昧な笑顔を浮かべてこの場を収める事になった。

 

▼ ▼ ▼ ▼

 

 ナンパ野郎達から逃げ切る事に成功した俺とさつき。その後俺は半ば強制的にさつきを家まで送る事になり、疲れていた足に鞭打って自分の家とは真逆の方へ向かう事になった。

 

 その道中、さつきから色々と西野に負けない位の誘惑をされる事になり、精神的にも疲れる事になったのは言うまでもない。

 

 そして、明けた今日。高校への道を歩きながら、今日という一日をどう乗り切るか考えている。教室に入ってさつきと会えば、俺への接し方が変わるだろう事は容易に想像出来る。

 

 それによって教室の奴らだけでなく、密かにさつきを狙っていた違うクラスの奴らや上級生らに目を付けられる事になるのも同じく容易に想像出来る。

 

 原作では、多数の男子が真中とさつきの仲を認めているような雰囲気だったが、この世界ではそんな雰囲気には絶対にならないと俺は思う。

 

 なぜなら俺は西野や東城といった、既に学校のアイドルと化している二人と常に一緒にいることで、不特定多数の男子達に睨まれているからだ。

 

 そんな俺が、さつきとまで仲が良くなったら…どうなるか分からないな。

 

 それに…心配事はそれだけじゃない。昨日はさつきを助ける為とはいえ、東城と西野を置いて途中で抜け出してしまったから…二人と顔を合わせるのが怖い。

 

 はぁぁぁ…と深い溜め息を一つ出し、どんよりとしたオーラを出しながら高校への道を歩いていく。

 

 そして、十数分程歩いてやっと校門へと着いた時、ポニテ女が校門のところに背を預けているのが目に入ってきた。教室に入るその時まで考える猶予くらいはあると思ったんだが…。

 

「あッ!おーい真中ぁ!」

 

「…何やってんだお前?」

 

 俺に気付いたさつきは大きな声で俺の名を呼び、尚且つ手を振っている。それに伴い、校門を通り抜けていく生徒達が俺とさつきに視線を送ってくる。勘弁してくれッ。

 

「何やってんだって、真中を待ってたに決まってんじゃん。ほら、早く教室行こッ」

 

「わ、分かったから引っ張るなよッ」

 

「いいからいいから」

 

「いや、全然良くねぇよ…」

 

 さつきに右手を取られて、引っ張られて行く。いきなりの事だったので、俺はされるがままだ。

 

 そんな俺達に校庭にいる生徒達から色々な感情の篭った視線が送られているのに気付くが、さつきはそれを意に介さずズンズン進んでいく。

 

 そして校舎の中へと入ってからも、さつきは俺の右手を放してはくれなかった。おそらく、このまま教室の中へと入るのだろう。

 

 西野である程度の耐性は付いた気になっていたが…強引さでいったら、さつきの右に出る奴はいないのかもしれない。

 

 そうこうしている内に、教室の前に着く。後ろ側のドアをさつきが開けると、教室の中にいた奴らは揃いも揃って、『とうとうさつきまで…』といった顔で俺達というか、俺を見てくる。

 

 こいつらが普段、どういう目で俺を見ていたか分かった気がする。

 

「さつきの奴…真中と一緒に登校するなんてはじめてじゃね?」

 

「あの野郎ッ東城さんや西野さんだけじゃ飽き足らず、さつきにまで手を出しやがってッ!!」

 

「真中君とうとうさつきまで落としたんだ。やるねぇ〜」

 

「本当。東城さんと西野さんだけでも男子達に睨まれてるのにねぇ〜」

 

 さつきに引っ張られながら自分の席へと向かう途中、小声でそんな会話がそこかしこでされているのに気付く。

 

 …こんなモテ期欲しくなかった。席に着いたところでやっと手を放してくれたさつきは、ニコニコと笑顔を振りまいている。

 

 俺は机に額を押し当てて、男子連中からの視線を完全にシャットアウトしつつ、これからの事について考える事にした。

 

 教室の奴らだけじゃなく、校庭で俺達を見ていた奴らが何人もいた。おそらく今日一日の内にこの事は学校中に広まるだろう。

 

 勿論、東城と西野の耳にも入る事になる。…昨日の昼休み以上の空気になる事は必至か。

 

「お〜す、真中。やるねぇ、あの北大路まで落とすなんてよ。今度あいつのスリーサイズ教えてくれ」

 

 これからの事について色々と考えているところに、呑気な声で馬鹿な発言をして俺の思考を遮ってきたのは外村ヒロシ。

 

「………外村、俺は今お前に構っている暇はねぇ。頼むからそっとしておいてくれ」

 

 顔を上げずに、外村の声がした方へ左手で追い払うように払いながら口を開く。だが、そんな事でめげないのは小宮山も外村も一緒。再度俺に声を掛けてくる。

 

「悪い悪い。でも、スリーサイズは後でこっそり教えてくれよ。んで話変わるけど、お前ってもう部活決めてたりする?」

 

「……まだ決めてねぇけど、それが?」

 

「いや〜お前や西野達と同じ中学の奴に小宮山っているじゃん?昨日の放課後俺ってばあいつと仲良くなったんだよね」

 

 これはまさか…いや、そんな…まさか……。

 

「で、色々話してたら部活を俺達で作ろうって事になったわけ。名付けて『映像研究部』!体育の時間に話したけど、例の俺のやってるホームページ『ボクの見つけた美少女♪』なんだけど、昨日のアクセス数が一昨日の約3倍!これは本格的にやっていって将来の糧にしたいかなぁって思ったわけよ。んでもって、そのホームページでも人気の女の子三人と仲が良いお前が必要なわけッ!お前が入ってくれれば、西野も東城もそんでもって北大路も入る筈だしなッ!そうすれば俺のホームページのアクセス数もウナギ昇り…ゲヘヘ♪」

 

「…悪い、外村。俺は興味ねぇからパ「何何?真中部活入るの?」…」

 

 外村に入らないと言おうとしたところでさつきの奴に遮られてしまった。それも興味津々といった感じで。

 

 頼むからもう少しだけ女子同士で話しててくれよ。なんで、そうタイミングが良いんだよお前はッ。

 

「そうなんだよ!俺が作る部活なんだけど、北大路もどう?」

 

「う〜ん…あたし高校で部活入る気なかったんだけど」

 

「止めといた方がい「淳平君ッ!どういう事!」「真中君!?」…」

 

 はぁ…俺は最後まで言えないのか?次に俺の言葉を遮ったのは、西野と東城の声だった。声のした方に顔を向けてみると、前側のドアを開けて仁王立ちしている西野と、その西野の後ろに隠れるようにしながら、眉を逆八の字にしている東城がいた。

 

 そして、ズンズンとこちらに近付いてくると、俺の横にいるさつきに睨みを利かして、西野は低い声を出してくる。

 

 東城に至っては、東城『さん』となって俺を見ている。…やっぱり、こうなったか。

 

 と、俺を他所に口論を始める西野とさつき。東城は変わらず俺を見続けているし、外村はチャンスだとばかりに自分をアピールしている。

 

 …これで小宮山までいたら、もっと凄い事になるんだろうな。だが、今は…。

 

「おい、そろそ「何をやっているかぁッお前達!また真中と北大路か。それから五組の西野つかさと東城綾だな。お前達もうHRが始まる時間だッ。痴話喧嘩なら昼休みにやれッ」…」

 

 最後は黒川先生までに遮られるか…今日はおとなしくしておこう。

 




えぇと…まずは挨拶から。こんばんわ。うたわれな燕です。
こちらの更新を停止してから早五ヶ月…。本当に申し訳ありません。
ハーメルン様の方に顔を出す事自体本当にしばらく振りの事で、以前よりもたくさんの作品が出て来ていて、びっくりしました。
特に進撃の巨人の二次創作…。新しいですねww

ナルトの方はまだにじファン時まで上げていませんが、こちらはもう追い付きましたので、これからは最新話を書いて行く予定です。更新速度は本当に遅いとは思いますが、お暇な時にでも思い出して覗いてみていただければ幸いです。

それでは、次回は最新話にて!

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