いちごの世界へ   作:うたわれな燕

5 / 21
第五話

 4時間目終了の鐘が鳴ると、購買へとダッシュする者、弁当を取り出して広げる者とに分かれる。

 

 たまに、彼女が作ってきた弁当を受け取っている男子もいるが……それは彼女のいない男子から呪詛のような視線を貰っているから、一概に良いなとは思えない。

 

 そして俺も例に洩れず、『真中淳平』の母親が作った弁当を食べる弁当派。

 

 昨日購買に向かったのは、ただ単純に『真中淳平』の母親が朝忙しかったからだったりする。だから、今日はこうして弁当があるわけだが…。

 

「どうして4組に来ているんだ、西野?」

 

「えぇ〜どうして?いいじゃん、一緒に食べようよ。ほら、東城さんもこっちに来て一緒にお弁当食べよ!」

 

 そう。俺が自分の席に着いて弁当を食べようとしたその時…。

 

「こんにちはぁ!!淳平君、お弁当一緒に食べよう!」

 

 と、教室の前側のドアを開いて西野つかさが俺の席に向かって来たのだ。

 

 それに伴って俺に突き刺さる視線の痛い事痛い事……。お前には少し自分の人気振りを考えてもらいたい。それから、東城だが…。

 

「えぇ!?わ、私は…」

 

 …一緒に食べたかったら俺の事を窺ってないで、西野みたいに来れば良いのにな。まぁ、西野の場合それを少し抑えてくれればいいんだが…。

 

「東城、俺からも頼む。こっちに来て一緒に食べないか?西野と二人だけだと…コイツらに俺が何をされるか……」

 

 ゴゴゴ…と黒いオーラを放っている男子生徒達。その中には、購買へと走って行った大草と小宮山の姿もある。

 

 確か原作だと小宮山の奴は廊下で告白まがいのモノをして西野にフラれ、大草は西野が好きだった筈だが、いつの間にか原作に出なくなっていったからよく分からない。

 

 だが今の二人は告白もしていなければ、いなくなってもいない訳で……。顔があまりにも凄い事になっている二人を正しく説明出来る言葉は俺にはない。

 

「東城、西野……悪いがコイツら二人も入れてくれるか?この二人とはいつも一緒に食べてるからさ」

 

 俺がそう言うやいなや「お、俺、小宮山力也って言います!つかさちゃん、髪切ったんだぁ!?その髪型もすっごく似合うなぁ〜!!」と小宮山が空いている席にドカっと座り、西野の隣に机を寄せて話し始めた。

 

 大草はその小宮山の様子に苦笑を浮かべると、その小宮山の隣で買ってきたパンを食べ始めた。

 

 東城はそんな三人に怯んだのか、静かに少しずつ口の中に弁当のおかずを入れて行く。

 

 ちなみに言っておくと、俺の両隣はそれぞれ東城と西野だ。西野は言わずもがな、自分で勝手に空いている机を俺の机にくっつけて弁当を開いた。

 

 東城はおずおずと席に座って俺にもう一度確認を取ってから、机をくっつけて今に至るというわけだ。

 

「そ、そう?ありがとう……あ、そうそう。ねぇ、淳平君。昨日言ってた勉強会なんだけど、今日からやらない?放課後に一緒にやれば帰りも一緒に帰れるし。東城さんもそれでいいよね?」

 

「えっと…真中く「勉強会!?真中、当然俺達も一緒だよな?」「それは当然だろう。何たって、俺達は『真中』の友達なんだから」…あぅ……」

 

 東城が怯えてるからその不細工の顔を引っ込めろ、このタコ介。それから大草…。

 

 お前はさり気無く言ってくるんじゃねぇよ。西野を狙っている周りの奴らの視線も怖いが、コイツらの迫ってくる感じも怖いな……。

 

「…俺は構わないぞ。どっちにしろ、俺はお前らの事を誘うつもりだったしな。俺一人だと、『コイツら』に何されるか分からないからな」

 

「淳平君がそう言うなら…」

 

「う、うん。私も真中君が良いって言うならそれで…」

 

 東城と西野からもOKが貰えたから、これからはこいつらと放課後に勉強する事になる訳なんだが……。

 

 原作と違うのは朝と放課後の違いだけか?ま、朝早くに勉強なんて俺は勘弁したいから、これはこれで良しとしよう。

 

 そして、昼食を食べ終わった西野は「次の時間2組は体育だから、先に行くね」と言って席を立ち、黒板側のドアに向かった。

 

 俺はドアに向かう西野の背に、「じゃあ放課後にな」と声を掛ける。西野も俺のそれに「了解♪」と簡単な敬礼の真似をして、4組の教室から出て行った。

 

 西野が教室を出て行くのに伴い、小宮山と大草から説明を求める視線が来ているのに気付いたが、それを無視して東城に昨日借りた『ノート』を鞄から取り出して、東城に話を振る。

 

「東城、『コレ』面白かったぞ」

 

「ッ!?…そ、そんな事……文章も幼稚だし、ありがちな話だし…勉強の合間に思いついた事をただ適当に書き殴っただけで……」

 

「適当に書いてあれなら、東城には凄い才能があるんだと思う。俺はあの小説を読んで凄く興奮したんだ。何て言うんだろうな…そう。まるで、映像が頭の中に流れてくる感覚って言ったらいいのか…とにかく、俺は面白いと思った」

 

 そうなんだ。真中淳平があんなに興奮して語っていたのが俺にも分かる。思い出しただけで凄く身体が震えるんだから。

 

「……ありがとう、そう言ってくれたの真中君がはじめて」

(見せたのも真中君が初めてなんだけどね)

 

「そうか?まぁ、この続きが書けたら教えてくれよ。すっかり、ハマっちまったからさ」

 

「うん!」

 

 それから、残りの時間を東城と楽しく会話をして昼休みは終わった。あ、それから小宮山と大草は西野がいなくなった瞬間にこの場から離れて行ったから、この数分は東城と二人だけだったとだけ言っておく。

 

▼ ▼ ▼ ▼

 

 そして、放課後。俺は担任の連絡を軽くメモってから、鞄を背に掛けて東城の方に顔を向けると、鞄を手に持って俺の方に顔を向けている東城と目が合った。それに、どちらからともなく笑ってから教室を一緒に出た。

 

 勉強会。西野が提案したそれは、図書室でやる事になった。そこに俺と東城は二人で向かっている。

 

 なぜ大草と小宮山がいないのかと言うと、大草は部活の後輩と話してから行くと予め俺に話していたし、小宮山はHRが終わった瞬間に教室を飛び出して行ったからだ。

 

 おそらく、先に図書室に行って西野といろいろ話すつもりなんだろう。

 

 その小宮山の目的の西野だが、俺と東城が廊下の角にある階段に差し掛かるといった所で、飛び出してきた。

 

 そのせいで東城は尻もちを付き、俺はというと「はぁ…」と手を顔に当てる事になった。

 

 なぜこんな事をしたのか、その理由を尋ねると「びっくりするかと思って♪」と悪びれもせずにそう言ってきた。

 

 それに怒る気も起こらず、東城にだけ謝るように言ってから、俺達は図書室に連れだって向かった。

 

 小宮山が一人図書室で待っているかと思うと少しだけ可哀想に感じるが、それもあいつが先走ったせいだと思いなおす事にして歩を進めていく。

 

 図書室のドアを開くと、勉強をしている者、本を読んでいる者と、どこにでもある図書室の光景が目に入ってきた。

 

 だが、その中の一つの場所だけ異様なオーラを放っている事に気付き、そこに目をやってみると案の定というか…。そこにいたのは一人寂しく待っていた小宮山だった。

 

「あ、あははは…小宮山君が先に来て、場所を取っていてくれたんだね……」

 

「そ、そうみたいだね……でも何でだろ…。あたし、あそこに行きたくないんだけど……」

 

 東城と西野が引き攣った笑みを浮かべているが、あれはしょうがないと思う。俺も出来るならあそこじゃなくて違う場所で勉強したいからな。

 

 ……でも、行かないという選択肢がないのも確かだ。

 

「はぁ…行こうぜ、二人とも。ここでこうしてても仕方ないし……」

 

「う、うん」

 

「そうね……」

 

 三人で苦笑を浮かべて、小宮山がいるそこに近づいていくと、小宮山の奴が俺達にというか、西野に気付きバッと顔を上げて、茹でタコのように顔を真っ赤にして席を立った。

 

「つ、つかさちゃん、真中達と来たんだぁ!なんだぁ、それなら俺も真中達と一緒に来ればよかったぁなんて!!あ、隣どうぞ」

 

 俺と東城には目もくれず、小宮山は一気にそこまで言った後、自分の隣の椅子を引いて西野が座れるようにした。

 

 そんな小宮山に俺はこいつ凄ぇ…という視線を、東城は単純にびっくりしている視線を向けた。そして、当事者の西野はと言うと……。

 

「あ、ありがとうね。で、でもあたし、東城さんに勉強教えてもらいたいから、ごめんね。さ、東城さん、淳平君座ろ!」

 

 可愛く手を胸の前で合わせ、少し身体を傾けて謝った。これは、可愛い者がすればどんな男でも許さずを得ない……そんな男が一度で良いから可愛い女の子にして欲しい仕種の一つだ。

 

 それを突然された小宮山は、さらに顔を赤くさせたかと思うと、椅子を元に戻して「そ、そうだよね。ごめんごめん気にしないで、つかさちゃん」と言って自分の座っていた椅子に座ると、幸せ……という顔を浮かべた。

 

 こいつ……絶対、将来女に騙されるタイプだ…。俺は小宮山に今度女には気を付ける事を伝えなければ、と考えながら席に着く。

 

 東城も俺に続くように俺の隣に座り、西野は小宮山に言ったように東城の隣に座る。さて、小宮山がまだアッチに行ってるようだが、勉強会を始めるか。

 

 それから、大草が来るまで小宮山はアッチの世界から戻って来なかったが、俺達は1回目の勉強会を恙無く(つつがなく)終わらせる事になった。

 

 勉強会は終始、大草が西野に話しかける。小宮山はそんな大草に対抗して西野に話しかける。東城は俺と西野に分からない所を教えた後、自分の勉強をする。西野は男二人のソレに最後まで笑みを崩さず対応し、俺は東城と同じように一人勉強をしていた。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。