いちごの世界へ   作:うたわれな燕

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第七話

 東城と西野、そんな美少女二人との放課後デート??をした帰り道。俺は一人の『女』と出会う事になった。まぁ、その『出会い』は最悪なモノだったわけなんだが……。

 

「だぁかぁらぁ〜さっきから謝ってるじゃない!」

 

「…………」

 

 痛む後頭部を摩りながら、目の前で威張った態度で謝罪をしてくる女に目をやる。長い茶髪を後ろで一つに括り、15年でそこまで育つかと思う程育ちに育った二つの果実を持ち、キリッとつり上がった目をしているものの整った顔立ち、更にはさっきまで一緒にいた東城達の制服とは違う制服を着用……そして、ここまで態度がデカい女を俺はこの『世界』で一人しか知らない。

 

「もう、悪かったってば!ちょっとムカついた事があって、そこにあった小石蹴ったら、あんたの頭に当たっちゃったんだから仕方ないじゃない!」

 

 腕を組み頬を少しだけ染めて、謝罪と言うよりも愚痴を言いだすこの女…お前に会うのはもう少し先じゃなかったか?なんでお前の事を考えた矢先に会わないとならないんだよ……。

 

「……」

 

「あぁ〜もう!!あんたもしつこいわね!あたしがこんなに謝ってるのに、なんで何も話さないのよ!」

 

 いや、お前がやった事についてはどうでもいいんだ。そりゃあ、まだ痛いけど…そんな事より、俺は目の前のお前にびっくりしてるんだから。

 

「はぁ…分かったわよ。そこの自販機のジュース奢るから、それで勘弁しなさい」

 

 そう言って、俺達の直ぐ傍にあった自販機に近づいていくその女の後を俺は目で追って行く。

 

 信じられない…なぜ…そんな気持ちを持ったまま俺はその女に目をやり続ける。

 

「ん〜〜〜と…ねぇあんた、何が欲しい?」

 

「……コーヒーで…」

 

「コーヒーね、分かったわ。…良くこんな苦いモノ飲めるわね……」

 

 コーヒーを悪く言うのは止めろ。コーヒーは目を覚ますのに一番効くし、何より俺の精神安定剤なんだから。

 

 その女は自販機のコーヒーが並んでいる部分で一瞬悩んだかと思うと、「これで良いわよね…」と言って砂糖の入ったコーヒーのボタンを押した。出来ればブラックが良かった……。

 

 ガコンッと音を立てて落ちてきたそれを手に取ってから、「投げるから取ってよ〜」と言って俺にコーヒーの缶を放り投げてくる女。

 

 それを危なげなく受け取り、女の方にまた目を向ける。女は今度は自分のモノを買うらしく、「う〜ん……ど・れ・に・し・よ・う・か・な……」と指を動かしている。…こいつってこんな可愛い事する奴だっけ??

 

「…い・う・と・お・り!良し、これに決めた♪」

 

 そしてボタンを押して出てきたのは、とてもメジャーな炭酸飲料だった。(中身の色は茶っぽい黒だ)それのプルタブを開けて口を付けて飲んで行く女は、プハァ〜!と言って一端口からその缶を離す。

 

 可愛いと思ったら、やっぱり男っぽいな。でも……俺はそっちの方が好きだ。こいつはこうでなくちゃならないと思う。

 

「ん?あんたも飲みなさいよ。このあたしが誰かに奢るなんてめったにないんだから。有り難く飲みなさい」

 

「……あぁ、ありがとな」

 

「…ふ、フンッ」

 

 礼を言われるとは思っていなかったらしく、女は頬を染めてその事を誤魔化すように再び缶に口に付けて飲んで行く。

 

 それに、笑みを浮かべてから手に持っているコーヒーの缶のプルタブを開けて、一口だけ飲んだ。うん、甘い…。

 

「でも、これでさっきのはチャラだからね。これ以上なんか言っても何もしないから」

 

「いや、俺は何も言ってないんだが…」

 

「…あんたって、何かムカつくわね」

 

「そんなことを言われたのは、はじめてだな」

 

 俺のその言葉に、イライラし出す女だったが、はぁ…と大きな溜め息を吐くと肩を竦めて、苦笑をその顔に浮かべた。

 

「あんたみたいな男、あたし初めて会ったわよ。って、まだ自己紹介してなかったわよね。あたしは…「ちょっと待った」……何よ?」

 

 女が自分の名前を言う前に俺はそれを遮った。ここで互いの名前を教え合うのもいいとは思う。

 

 だが、こんな所で自己紹介をするよりは、今度…また、俺とこいつが会った時にする方が面白いと思った。だから、まだ自己紹介はしないでおきたい。それが例え俺の我儘だとしても。

 

 ……まぁ、原作『通り』なら泉坂高校で再び会う事になるとは思う。だが、原作とは『違って』この女が泉坂高校を受験しないとも言い切れない。まぁ、こんな所で会う事になったんだ。運命を信じる事にする。

 

「ここはこのまま別れないか?俺はお前とまた会う気がするんだ。名前はその時にでも教えてもらうよ」

 

「……まさかあんた、あたしを口説いてんの?」

 

「いや、お前は可愛いとは思うけど、まだ互いの名前も知らないんだ。それなのに口説くも何もないだろう?」

 

「それなら……何でよ」

(か、可愛いとか、普通その当人が目の前にいるのにそんな事言う!?)

 

「まぁ、俺の勘…かな。俺の勘がお前とはまた会うって言ってるから」

 

「………そ、そうなんだ…」

 

 女は自分の後ろ髪を弄りながら頬を染める。それに笑みを向けていると、今度は怒り出した。

 

「わ、笑うなぁ!!あ、あんたが変な事言うから……もういい!帰る!!!」

 

「じゃあな、『ポニテ』」

 

「っ!!『ポニテ』って言うなぁ!!!!」

 

 ポニテを振り振りしながら走って行くそいつの背にそう声を掛けると、振り向いてガアァ〜っという感じで怒鳴って、今度こそ俺の前から走り去って行った。

 

 その際に頬だけでなく耳まで真っ赤になっていたのに気付いたが、それに笑みを浮かべるだけで言葉にはしなかった。

 

「またな……『さつき』」

 

 そう一言呟いて、俺も自分の家へと帰るために『さつき』が走り去った方とは逆方向に足を向ける。

 

▼ ▼ ▼ ▼

 

 そして、その翌日。

 

 テスト二日目を終えてから、いつも通り図書室で勉強会をしていた時だった。西野がそんな事を言ってきたのは……昨日、今日、明日のテストの三日間、勉強会は休みにした筈だった。

 

 だから昨日は東城と西野の二人と出掛ける事になったんだが…それはまぁ今は置いておく。

 

「ねぇ、淳平君。淳平君ってどこの高校受けるの?」

 

「泉坂高校。まぁ、滑り止めでもう一校受けるけど、あくまで本命は泉坂だ」

 

「えぇ〜!?何で?どうして?だって、泉坂って偏差値高いんだよ?」

(そうだよ!芯愛高校を第一志望にしてる私にはちょっと難しいんだから!!)

 

 ……こいつ、それは俺が馬鹿だと言っている事と同義だと分かって言っているのか。

 

 いや、こいつの場合そんな事分かってねぇんだろうな。思った事を即実行って奴だし…。

 

「知ってるよ、そんな事…。だからこうして放課後の勉強会を続けてるだろ?というか、西野も自分で言ってたろ。『受験もあるし』って」

 

「う……そ、それはそうだけど…」

 

 西野が言葉に詰まっているようだが、俺はそれに肩を竦めてから自分の勉強に戻る。

 

 えぇ何何…右の図のように、2つの関数y=2分の1x二乗…①、y=ax二乗…②のグラフがある。2点A、Bは①のグラフ上の点であり……スラスラ…良し、これで当ってる筈だ。

 

 苦手な数学を重点的に勉強したお陰なのか分からないが、中学時代に解けなかった問題も今では少し考えるだけで解けるようになった。

 

 これは俺の力だけでなく、絶対に東城の教え方が良いからだって事は忘れてはならない。東城は先生にもなれるな…。

 

「じゃ、じゃあ東城さんはどこの高校を受けるの?」

 

「え!?わ、私は…」

 

 俺が一人数学と格闘している際に西野と東城がそんな話しをしているのに気付いた。

 

 なぜなら、東城が俺の方に視線をチラチラとやっているからで、それに気付かない程俺も鈍感じゃないからだ。

 

「私は……私も泉坂かな」

(真中君に小説読んで貰いたいもん…)

 

「そうなんだぁ……数学さえ頑張ればあたしも………うん!決めた!!あたしも泉坂受けるよ!」

 

 !!!…図書室でそんな大声出すなよ馬鹿。しかもこんな至近距離で……お陰で耳キーンだっての…向かいに座っている大草と小宮山もびっくりしてるし…。

 

「西野さん、ここ図書室だから…」

 

「あ……ごめん」

 

 東城が西野にそう言うと、西野は頬を染めてチロっと舌を出した。西野は恥ずかしいのを誤魔化す時によくこんな仕草を見せる。

 

 小宮山は言わずもがなこの顔に撃沈し、大草は柄にもなく鼻頭を掻いてそれを誤魔化している。まぁ、周りの男連中もそんな二人に洩れず同じように誤魔化しているのが目に入ってくる。

 

「てか、東城も泉坂だったんだな。俺はてっきり桜海を受けるもんだと思ってたよ」

 

「えっと…桜海も受けるんだけど、本命は泉坂なの」

 

 大草のその言葉に東城はそう応える。西野は小宮山からの執拗なちょっかい??を受け流していて東城の話を聞く余裕はないみたいだ。

 

 でも、西野は泉坂じゃなく桜海に行く筈……って、原作と全く一緒って訳じゃねぇんだし、西野が桜海に行かない可能性も考えておかないと…。

 

「つかさちゃんが泉坂受けるなら俺も受ける!!そんでもって、つかさちゃんと…ゲへへへ……」

 

 小宮山のその気持ち悪い笑みにこの場にいる全員が引き、各々勉強を再開しようとしたところで、またタコ介が性懲りもなく口を開いた。

 

「そういや真中、お前昨日違う中学の女子と一緒にいたけど、何してたんだ?」

 

「淳平君!!」

 

「真中君!!」

 

 はぁ…恨むぞ小宮山……。

 

 それからが大変だった。もはや勉強会どころではなくなり、俺に詰め寄ってくる東城と西野、そんな二人を見て怒りを露わにする周りの奴ら。

 

 そうなったらもう図書室にいれなくなるのは自明の理。俺達は図書室から文字通り『放り出されて』しまった。

 

 だが、放り出されても東城と西野からの詰問は終わる事はなく、二人を送っている最中にもその質問攻めに耐えねばならなかったとだけ言っておく。

 

 あぁ、勿論さつきの事はボカしておいた。今はまだ中学なんだ。さつきは高校からって事でいいと思うから。


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