受験日まであと三日に迫った俺達。桜海の受験日はとうに終わっているが、西野は原作と違って受けていないらしい。まぁ、原作では真中と距離を置くため?東城と勝負するため?とかなんとか理由があったと思うけど、この世界ではそんなものは…ないとは言い難いが、現に桜海を受けなかったのだからそうとしか考えられない。
まぁ、俺と同じ高校を受けるという単純な理由なのかもしれないが……。あの廊下での告白を拒否してから今日まで、西野の気持ちは変わっていないのか、それとも変わっているのかそれは確認していないから何とも言えない。
だが……西野の俺に対する態度を見ていたら、それも分かるというもの。西野は俺の事を変わらずに想っていてくれているのだ、と。たまに、クラスの女子や男子に西野と本当に付き合ってないの?と聞かれることもある。それに、返す言葉は決まって『そんな訳あるか』といったモノ。
西野の想いは正直嬉しい。だが、俺は誓ったんだ。『東城を幸せにする』と。だから、俺が西野のその想いに応える事は……はぁ…まぁ、俺の西野に対する考えは置いておくとして、今は目の前の東城と西野の事に関して考えようと思う。
なぜ、そんな事を考えるのか。それは原作の二人の関係よりも、この世界の二人の関係の方が良いからである。そんな事、別にいいじゃないかと思う奴もいるかもしれないが、俺にとっては違う。なぜなら、二人の関係は『俺』というファクターがあって初めて、生まれた物だからだ。
原作では俺と言うか、『真中淳平』と既に付き合っていた西野だが、『真中淳平』は自分よりも好きな人がいると分かるし、それが東城だと知る。逆に『真中淳平』に想いを馳せる東城だが、『真中淳平』は西野と付き合っているし、それを実現させたのが自分の『運動しながらの告白』という発言のせいだと思っている。
そんな二人が心から仲良くなるのは無理があったのかもしれない。
まぁ、原作ではそんな感じで高校が別々になってしまってそれから徐々に仲良くなっていく?みたいな描写があった。しかし、この世界の二人はそんな事はない。西野は心から東城の事を友達だと思っているし、東城もそれは同じだ。それは、この前のプリクラなどが証明してくれる。
だから、俺は原作の二人よりもこの世界の二人の方が好きになってきている。まぁ、心情的に余裕があるからかもしれないが……そういった訳で、『俺』つまりは『真中淳平』の行動一つで結果がこうも変わるという事が分かったためだ。実際、原作とは違う行動をしている。だが、こんなにも変わるモノなのかと実感を味わっている所だ。
「ちょっと、聞いてる淳平君!」
「なんだがボーっとしていたみたいだけど……大丈夫?」
西野と東城が俺の目の前に来て、片や不満げに、片や心配げに、俺の顔を下から窺って来る。その二人に、少し考え事をしていたと言って歩を進める。言っていなかったが、今俺は恒例の二人を家まで送っている最中だったりする。もちろん、図書室で勉強会をしてきた帰り道だ。
「ま、淳平君がそう言うなら良いんだけどさぁ〜。でも、女の子の話を聞かないで何を考えていたのか……教えなさい」
「ん?受験を三日後に控えているのに、こんなにも緊張感のない俺達に少しだけ思う所があってな」
本当の事を教えられる訳がない。二人の事を考えていたなんて事を言った日には、どうなる事か……考えたくはない。
「あ、あははは……確かに、緊張感ないよね私達。で、でも、勉強会のお陰だからじゃないかな?ほら、みんな過去問解けるようになってきてるし」
「小宮山君以外はね……」
「あぅ…」
東城、お前が気にする事はないぞ。あれは小宮山という名のタコが悪いんだ。決してお前の教え方が悪い訳じゃない。だから、そこまで気にするな。
「東城、気にするなって。お前の教え方は先生より上手いんだ。現に西野も数学の問題解けるようになってるし。俺も、東城のお陰で助かってる」
「う、うん。ありがとう、真中君」
「だよねぇ。東城さんの教え方上手いのに、どうして小宮山君は分からないのかな?」
それはあいつが、只のエロダコだからかもしれない。なんて事を西野も東城も、薄々感じて来てるみたいだが、口には流石に出さないようだ。
大草と俺は、そんな馬鹿な小宮山に『毎回』教えようとしている東城に、尊敬の眼差しを向けている。
「ま、あいつの事を気にしていても仕方ないだろ。俺達は俺達で確実に合格出来るように勉強するだけだって」
俺のその言葉に、苦笑を浮かべながら二人は頷く。
そしてそんな時、だんだんと春に近づいていくのが分かる冷たいような、温かいような風が俺達の横を通り過ぎていき、俺より少しだけ前にいた二人のスカートがその急に吹いた風によって捲れあがり、スカートによって隠されていたソレがあらわになった。
「きゃッ……もう、いきなり吹くんだもんびっくりしたなぁ」
「う、うん。本当にびっくりした……」
二人は気付いていないのか、俺に顔を向けずに風に対する愚痴を言い合う。ちなみに言っておくと、西野は青と白のボーダーで、東城は……いちご柄だったと言っておこう。風、良い働きをしたな。
「と〜こ〜ろ〜で、淳平君」
「…………」
と、思っていたらやはり違ったようで俺に詰め寄ってくる西野。東城は頬を染めたまま鞄を持った両手で口元を隠すようにして俺を見ている。
「見たんでしょ?その…あたし達の……」
西野、お前も恥ずかしいならそんな無理をしないで、東城みたいに黙っていればいいだろうに。態々俺に確認しにくる女はお前だ……いや、さつきもしてくるか…。
「まぁ、見てないって言うと嘘になるから言うけど……見たぞ」
その俺の言葉で更に頬を染める東城。詰め寄って来ていた西野は俺のその言葉に頬を染めて俯いてしまう。どこぞの、ラブコメのように殴られるのか?と冷静に考えてしまう俺はなんなんだろうか……実年齢、22歳。今更中学生のパンツごときに照れないという事か?
そして、それから数十秒西野と東城は固まっていたが、立ち直った?のか分からないが二人で顔を寄せ合って話し始めた。??俺の予想では、絶対に西野は殴り掛って来ると思っていたんだが…外れたか?
それなら、それでいいんだ。一発くらいなら、甘んじて殴られる気ではいたが、やはり殴られたくはないからな。そんな風に、自己完結していたところに声が掛った。それも、俺がびっくりするくらいの声量で。
「淳平君!」「真中君!」
「っ!!な、何だよ?」
「あたし達の…その……ぱ……を見たんだから、君にはあたし達の命令を一つだけ、聞く義務が発生しました!!」
「そ、そうです!発生なんです!」
命令?義務?いや、あれは俺が故意にやったんじゃないぞ?風が勝手に……そんな事を口にしようとするが、二人が詰め寄ってくるために口を開く事が出来ない。更には、二人で勝手に話を進めていく始末。しかも、頬には朱が散っていてただでさえ可愛い二人が…。
「ただであたしの……見たんだから、ぜっっったいに聞いてもらうからね!」
「そうです!聞いてもらいます!」
はぁ……東城なんて、同じような言葉を繰り返してるし…。まぁ、無理難題なモノじゃなければ、聞いてやるか。俺が二人のパンツを見た事は事実だしな。
「…分かったよ。命令じゃなくてお願い、それから俺に出来る範囲で、最後に一人一つだけ、って事なら聞いてやる」
後日、俺は自分の言ったこの一言を悔やむ事になるのだが、それはあとの話。今は、目の前でやったぁ!!と互いの手を掴んでいる二人に溜め息を吐くだけだ。
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西野side
「フフ〜♪お願い何にしようかなぁ〜♪」
ベットに座りながらクッションをぎゅ〜と抱きしめて、さっきまで一緒だったあの男の子の事を考える。『真中淳平君』あたしが危ない時に助けてくれた男の子。そして、他の男の子とはちょっと違う男の子。
彼の事は前から知ってたけど、今みたいに話すようになったのは、あたしを乱暴な男の子から助けてくれた時からで、あたし『から』話しかけるようになった初めての男の子でもあるんだ。
漫画とか小説の主人公みたいな助け方じゃなかったけど、あたしの胸はキュンってなって、それで初めて自分から告白したんだけど、あえなく玉砕。
なんでって聞いても、「なんででもだ」って言うし……。はぁ…初めて付き合いたいって思ったんだけどなぁ…。でもでも、あたしは諦めないんだ!だって、あたしの勘が「淳平君を逃すな!」って言ってるし!
「って、今は淳平君に聞いてもらうお願いを考えないといけないんだった」
東城さんは何をお願いするんだろう…。聞いてみようかな?でも、話合ってる時の東城さんの顔赤かったしなぁ……って、あたしも赤かったのかな?ううん、きっとそうだよね。
あたしだって、男の子にぱ…パンツを見られたら恥ずかしいもん、仕方ないんだよ!
でも、淳平君のあの反応の薄さ…。はぁ……女の子として自信失くすよ……そうだ!うん。お願いはこれにしよう!あの淳平君でも、これなら少しは反応する筈!!フフフ、待っているんだ淳平君!!
「つかさちゃ〜ん!ご飯ですよ〜!」
「っ!は、はぁい!今行くよお母さん!」
っと、その前に、美味しいご飯を食べなくちゃね♪
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東城side
お家に帰って来て部屋着に着替えても、顔の火照りがまだ取れていないのが自分でも分かった。だってだって!また真中君にパンツ見られたんだもん!!プシュ〜と頭から湯気が出ているような錯覚を覚えるけど、枕に当てている顔が熱いからあながち錯覚でもないかもしれない。
『真中淳平君』……同じクラスだけど話した事は今までなかったし、これからもないと思っていた男の子。でも、3週間前の屋上で初めて話をしたら、私と同じように本が好きで、面白い人だって分かった。それから、私の小説を読んで面白いって言ってくれて、私の事をその…可愛いって言ってくれたりもした。
学校のアイドルの西野さんに迫られても他の男の子みたいにならないし、こんな地味な私を西野さんと同じように扱ってくれる変わった男の子。そして、いつの間にか……好きになっていた男の子。
何で今まで話をしなかったんだろう?とか、何で西野さんみたいな可愛い人と私みたいな地味な子を一緒みたいに扱うの?とかいろいろ考えたけど、真中君と今こうやって話が出来る事の方が重要だって思って、そんな疑問はポイする事にしたのはちょっと前の事。
「…お願い、かぁ……」
真中君にぱ、パンツを見られたから、私と西野さんとで真中君に提案した事。私ははじめ頭の中が真っ白になっていたんだけど、西野さんがいたお陰で意識をどうにか保つ事が出来たんだ。それで、西野さんは命令って言ってたけど、真中君が命令じゃなくてお願いならって言った事で、お願いになったんだけど…。
お願い…直ぐに浮かぶのは、今度二人で小説の話がしたいって事。でも、それはお願いしなくても真中君の方からしてくれるから……うぅ…どうしよう。いざ、お願いを聞いてくれるって言われると何をお願いしていいか……西野さんはもう決めたのかな?真中君の事が好きなもう一人の女の子の事を考える。
私みたいに地味でもなく、明るくて元気な可愛い女の子。男の子なら誰だって好きになると思う。そんな彼女と私は同じ人を好きになった。そんな私達だけど、今まで話した事がなかったのが嘘みたいに仲良くなったんだ。
西野さんに聞いてみようかなぁ……でも、なんかそれは違う気がする。うん、私のお願いなんだもん。私が考えないと駄目だよね!
ガチャ…
「姉ちゃん、母さんがご飯だっ…何してんの?」
「しょ、正太郎!の、ノックしてっていつも言ってるでしょ!」
考え事をしていたら、急に私の部屋に弟の正太郎が入って来て、話しかけてくるからびっくり。何で、いつも急に来るのよ!
「ノックしたけど、返事がないから入ったんだっての。それより何してんの?枕なんて抱いてさ…。それに、顔も少し赤いし…。って、も、もしかして姉ちゃん、好きな人が出来たのか!?誰なのそいつ!俺、そいつブッ飛ばしてくるから!!」
「うるさいうるさいうるさぁああい!いいから、出てってよ!!」
そう言って、何とか正太郎を部屋から追い出したけど…はぁ……。
「好き……かぁ…」
ベットに背中を付けて、枕を両手で持ってそこに好きな人の顔を思い浮かべる。それだけで、胸が、顔が、頭が熱くなってくる。……真中君は今、何してるのかな…。