狛枝(憑依)in犯罪都市米花 作:超高校級のNeet
人生とはままならないものだ。
上手く行ったかと思えば失敗する事もある。
ちょっとした手違いで道を踏み外し坂を転げ落ちてしまう事だってある。
成功ばかり、とは行かないものだ。
ボタンを一つかけ間違えただけで。
脇道に逸れただけで。
思いもよらない不幸に容易く見舞われてしまうものである。
そうーー例えば。
「それで、なんで狛枝さんはここにいたの?」
全然関係ない場所と思っていたら死神と出会ってしまったりとかね。
「…………ちょっと、この家の人とは縁があってね」
何故、この状況になったか。
数日前に遡るとしよう。
★ ★ ★
ファミコン爆発事件があった後日。
暇な僕は坂田夫妻の家に訪れていた。
先日の爆発事件について思う所はある。
そも、爆発する遊戯機体なんて欠陥製品どころの話では無いのだ。
即座に物品回収。リコールが行われるレベルだ。
僕はたまたま運が良かっただけで、爆発が起きるとなれば大怪我をしてもおかしくは無い。
そんなデスゲーム(直喩)が堂々と発売されている。
PTAがこの事を知ればそれ見た事か、としたり顔でゲーム機規制について声高に主張するに違いない。
だが僕は何も言うつもりは無かった。
それは何故か。
目立ちたくない、という気持ちも当然ある。
ただでさえ喫茶店での代理探偵行為で目立って居るのだ。
これ以上波風立てないよう大人しく過ごしたい。
それが僕の嘘偽りのない本音。
だがそれ以上に。大前提として。
ーーこの世界、殺人事件以外ギャグ要素盛りだくさんだよなぁ。
という事であった。
元々原作初期ではギャグ要素がふんだんに盛り込まれていた。
代表的なものだと蘭姉ちゃんの電柱破壊が有名だ。
人間辞めてるとしか言いようがないゴリラパワーをあの細腕に宿せるのだ。
物理的に不可能な事が起こりうるならば、市販のファミコンが爆発するくらいの事は有り得るのだろう。
いや普通は無いだろうけどね?
そう思うしかやっていられないのだ。
まあ、そんな四方山話は置いといて、だ。
軽く坂田家の全体像を見渡す。
二階建ての一軒家に庭園と犬小屋付き。
東京は色々と物価が高い。
それもこれだけ広々とした立地となれば、中々のお値段になるだろう。
まさに一国一城の主を体現した理想の家と言える。
ただ一つ欠点があるとすれば米花町の土地だということ。
殺人事件とこの土地は切っても切り離せない密接な関係がある。
いわば米花町そのものが事故物件みたいなものだ。
家賃一万円でも躊躇うレベルである。
いやほんと、米花町に在住の人達ってなんでこの町に住み続けているんだろう。
僕なら引越し先が見付からなくても即夜逃げするぞ?
そんな益体もない事を考えながらインターホンを鳴らすと坂田夫妻は快く出迎えてくれた。
「やあ、狛枝さん。良く来てくれたね」
「もう明美さんの体調は大丈夫なんですか?」
「ええ。おかげさまで」
どうぞお入りください、と。
リビングルームに案内された僕は一言断りを入れて、ソファーに腰掛けた。
「飲み物とって来ますね」
勇次さんはそう言い離れて行った。
その間暇になった僕はどこと無く視線を彷徨わせ、内装を見やると、古傷等が無く比較的新築だということが分かった。
それに反して家具は古めかしい物。
アンティーク調の物で統一されている。
勇次さんの趣味か。
はたまた実家にあるものを家財道具として持ち込んだのかは知らないが、大金がかかっていそうなのは容易く伺えた。
しかもテーブルの上にはレコードプレイヤーで何かの洋楽を流している。
僕の貧困な語彙では上手く表せないけど端的に言うなら凄くお金持ちっぽい。
このソファーもよく見たら革張りだし。
ちょっと上品な感じがして落ち着かないな。
「お待たせしました」
どうぞ、と差し出されたお茶を受け取り口に含む。
猛暑日だと言うこともあり、身体は予想以上に水分を欲していた。
一息に半分程飲み干した僕はテープルにコップを置く。
「えーと……レッチリ、お嫌いでしたか?」
「あ、いえ。レコードが珍しかったもので」
居心地悪そうにしていたのを見抜かれたのか、かけていた音楽の性か、と聞かれたので否定する。
実際、レコードは触れた事すら無かったので嘘は言ってない。
名探偵コナン連載開始当時ですらレコード全盛期は終わりを迎えている。
レコード屋の規模も段々と縮小し、現代に至っては一部の好事家が嗜む程度にしか普及していない。
まぁ今ならギリギリ古臭いが使えないことも無い、的な認識かも知れないけど。
……しかし、レッチリかぁ。
正式名称はレッド・ホット・チリ・ペッパーズ。
言わずと知れたアメリカ出身の超有名ロックバンド。
僕は音楽にさして興味はないがそれでも有名所だと分かる超絶すんごい人達の歌なのだが。
名探偵コナン世界は現実と似通っている部分が非常に多い。
松本警視正に刀傷を付けた犯人がビートルズの歌を口ずさんでいた事から分かるように、元の現実世界で有名な人達は変わらずこの世界にも居たことになっている。
だから、と言っては何だが。
彼らの周囲で事件が起きた、という話は原作でも、この世界に来てからも聞いたことがない。
原作でも現実の人物を死亡させた話は知らない。
実在の人物を殺すのは創作物として問題があるのだろう。
故に彼らはこの世界にとっての安全地帯になりうる。
もし彼らが米花町に訪れる事があれば、土下座でも何でもして潜り込む事を考えていたりする。
ーーまあ米花町から脱出が出来ないから、各地を移動する人達とは一緒になれないんだけどね!
僕は軽く絶望して自嘲した。
「今どきCDが流行っているのに、とお思いでしょう」
「いえ、まあ、はい」
やはり今の時代でもレコードは古臭い、という印象らしい。
けれど、そうですね、と面と向かって言うのも失礼だろう。生返事で返すしかない。
「こいつは俺の青春なんですよ」
そう言って勇次さんは訥々と自分の昔話をしだした。
ロック好きの祖父から幼い頃からレコードを聞かされてバンドを組んだ事。
幼馴染三人でいつかテレビに出ようと約束したものの鳴かず飛ばずで解散。
辛いことは続き、追い打ちをかけるようにバンド活動を応援してくれていた祖父の死去。
それで荒れに荒れていた勇次さんを献身的に支えてくれたのが明美さんだったのだ。
元から好きだーとアプローチをかけられていたのだがバンド活動に専念したいと断っていたそうだ。
しかし諦めずにいた明美さんに絆されて結婚まで行ってしまったとの事。
「ーーだから、本当に、ありがとうございました。明美を失っていたら、今度こそ俺はダメになっていたでしょう」
「いえ、そんな。僕は当然の事をしたまでですよ」
深々と頭を下げる勇次さん。
感謝の意がたっぷり込められた深謝は痛い程に伝わって来た。
大事な奥さんを超高校級の幸運で巻き添えにしてしまった僕はちくりと痛む胸を抑えて返答する。
自白するつもりは元からないが、この人には尚更言えなくなっちゃったじゃないか.
自己の破滅に繋がるのでまずないけど。
万が一、億が一、もし仮に告白するとしてなんて言うんだ?
『僕ぅ、運が良いんすけどぉ、運良くなった分の負債を返す必要があるんすよねえ。
あんたの奥さん、暇潰しにやったコイン当てゲームの帳尻合わせに死なせかけちゃいました。てへぺろ☆』
うん、僕が勇次さんの立場なら即座にぶっ飛ばしている。
ボコボコのタコ殴りにして顔面複雑骨折させてるレベルだ。絶対に言えない。
「狛枝さん」
「はい」
急な呼び掛けに背筋を伸ばして反応する。
決して証拠がないためバレる筈もないが、後ろめたさを誤魔化すように必要以上の声量で応えた。
「あなたも、何か抱えていることがあるんじゃないですか」
ドキリ、と心臓が高鳴る音がした。
僕何か変な挙動でもした……?
いや、この人はエレベーター内で僕が落ち込んでいた時も即座に励ましてくれた。
元々そういう空気を読む力が強いのだろう。
それに実際僕は二次元のキャラクターになって漫画の世界に入り込んでしまった、という悩み事がある。
しかし其れは言えない。
令和となった現代。
ネット環境が広がり波及した漫画、アニメ、小説等、大手を振って○○の作品が好きなんだよね、と共通の話題にしたりする事が多いだろう。
けれど昔ではオタク、陰気な人が嗜むものとして侮蔑されていた印象が強い。
一般の人は漫画知識にまったく理解が無い、とまでは言わないが僕の状況は複雑だ。
現実でさえも頭のおかしい狂人認定されるだけだが、昔である今はスーパー頭のおかしい狂人と認定されるだろう。
うん、言うのは無理。
ここは有耶無耶にして終わらそう。
「いえ、別に……」
「狛枝さんって、高校生くらいの年齢でしょう?」
「こう見えて成人してるんですけどね」
「……深くまでは聞きません。ですが平日の真昼間から出歩く十代の若者、というだけで心配なんですよ」
特に狛枝さんはツッパリのようにも見受けられませんし。と語る彼の双眸は真っ直ぐ此方を見据えている。
なるほど。どうやら彼は真昼間からブラブラと町を出歩いている僕を心配していたようだ。
今の僕は身長も高いし顔面も整っているおかげか、今まで出会った人から全員成人していると見られている。
実際の中身はとっくに成人している大学生だ。
だが現在は【超高校級の幸運】狛枝凪斗の外見。
若干疑われた際は童顔ですんで、と通していたがこうも高校生だ、と確信を持たれたのは何気に初めてだ。
けれど勇次さんのは的外れな心配だ。
僕はお金も稼いでるし(パチンコで)
住んでる場所も確保出来てるし(ビジネスホテル)
普段は真昼間から出歩かない(引き篭り)
うん、どこからどう見ても問題大有りだったな。
勇次さんの懸念は正しい。
これが野球の試合だとすれば僕のコールド負け。
スリーアウトチェンジ。バッター交代だ。
誰か僕の立場とチェンジして欲しい。切実に。
「親御さんも心配しているでしょう。俺のように、死んでからではもう遅いんです。学校に思うところもあるでしょうが、一度きちんと話し合った方がいいですよ」
その言葉は悔恨に満ちていた。
勇次さんが言っているのは、先程語ってくれた祖父の事だろう。
推察するに、彼が言いたいのは何らかの原因で不登校になった僕が平日の昼間から遊び歩いている。
それはいけないことだから不平不満があるなら両親に相談して解決しろ、という事だ。
だが両親に相談出来るなら僕もしたい。
僕は無一文、裸一貫でこの世界にぶち込まれた。
親に連絡取りたくても取れないんだよなぁ……!
グッと気持ちを堪えて端的に言った。
「親は、……居ません」
勇次さんは目元を覆って、暫くしてこう言った。
「ーー良ければ、気に住むまでウチに泊まってみませんか?」
あっ、多分なんか誤解された。
0.2秒で失言を悟った。
これ親が死んだとか思われた?
言い方的にそうだよな……。
不味ったな。
ここはそうですね、家に帰って相談して見ます、と適当に誤魔化せば良かったのに。
何も考えず口に出てしまっていた。
だが、これはチャンスなんじゃ無いだろうか?
坂田家の居候になる。
根無し草の僕にとって渡りに船な提案だった。
いつまでもホテル暮らし、という訳にはいくまい。
この世界に根を降ろすならやはり安定した住居は欲しい。
警察に事情聴取を受ける際だって、ホテル暮らしじゃなく一軒家の方が心象はいいだろう。
例えそれが米花町内であっても一時の仮宿とみれば十分だ。
米花町から脱出出来ない以上致し方ない。
けれども坂田夫婦には負い目がある。
あんな身の上話を聞かされてこれ以上僕の幸運で振り回す訳にもいかない。
非常に、非常に勿体ないお話だけれど、この誘い断ることにしよう。
「いえ、僕はーー」
「あらあなた、それは良い考えね!」
僕がそう口に出しかけた際、明美さんが急に横槍を入れて止めてきた。
「ちょっと、そんな見ず知らずの他人を泊まらせて良いんですか?」
「君は明美を助けてくれたじゃないか」
「それにもうすぐ旅行に行くんでしょう。僕を泊まらせる訳には」
「だったら狛枝さんにお留守番して貰えばいいんじゃない? 泥棒しそうな方にも見えないし」
「もちろん俺も構わないよ」
ダメだこの夫婦……能天気過ぎる……。
さすがに悪いと拒否したが押しに強い彼らは暖簾に腕押し。強引にその場を閉めた。
そこからトントン拍子に僕が居候する事に決まり、晩ご飯までご馳走になった。
良いのか……? 本当に……?
更に何度も確認したが大丈夫。と押し切られてしまった。
僕自身も宿が欲しかった事もあり、諦めて折れた。
流石に着替えがないので一旦ホテルに戻りその日を終えた。
次の日から僕は坂田夫妻の家に住み込むことになった。
そして幾日が経過した後。
「じゃあ行ってくるわね」
「四日程で戻って来るから」
そう言って坂田夫婦は旅行へ出かけて行った。
彼らが出かけていった後、ふと思う。
これ、もしかしてデパートの一件は坂田家に居候出来るという“幸運”の為の“不幸”だったのでは……?
流石にトントン拍子に行き過ぎて困惑の方が勝っていたが、冷静に振り返ると坂田家の二人は些かお人好しが過ぎる。
狙って導かれたとしか思えないような遭遇だ。
いや、有難いんだけど……なんかこう、複雑な気持ちになるね。
まあ、起きてしまったものは有難く享受しよう。
さて。
坂田夫婦も居なくなった事だしゲームでもやるか。
あれから僕は故障した物は危険物は捨て、新しいスーパーファミコンを購入していた。
流石に二度目の爆発は無いだろう。
勿論坂田家の許可も取ってある。
彼らは心良くOKを出してくれた。
そしていざやるぞ、となった時。
家中の電気が消えた。
どうやらブレーカーが落ちたみたいだ。
とことんゲームをやる運に恵まれて無いな、僕。
しばらくの間ブレーカーを探したものの、ブレーカーの場所が何処にある分からず日も暮れてしまった。
仕方ない。コンビニでライトかライターを買って光源を確保しよう。
僕はなんとか手探りで玄関まで辿り着き、ドアを開けると庭にある犬小屋の方へ何かが投げ込まれたのが見えた。
玄関の方に視線を向けると、見知らぬ男が怪しげな行動をしていた。
「あの、困ります。人の庭先に変なものを投げ込まれたら」
「……チィっ」
注意するとその男は舌打ちして逃げようとすると、
少年探偵団のメンバーが呼び止めた。
ーーなんで君達ここにいるの??
「えっ、狛枝さん!?」
「おい、今はそんな事より中村だ!」
彼らは中村と目の前にいる男を呼び捨てまるで犯罪者のように相対する。
えっ、なになに殺人事件が起きたのか!?
でもその割には悲鳴が上がらなかったな。
……ん? 何だこれ?
門扉の所に中村が置いて逃げたであろうチリトリ。
その中に肉団子があった。
あっ、これなんか聞いた事あるぞ……。
確か散歩コースに犬が吠えてうるさいから毒肉団子を犬に食わせて殺そうってアニオリ話だ!
じゃあ坂田家にて起きる事件だったのか、これ。
そんなの分かるはず無いじゃないか。
僕が状況を秒で理解した後、中村という男が逆ギレしたのかコナン君達に向かって行ったのだがキック力増強シューズにより撃退された。
なんとくだらない事件だ。
たかが犬が吠えるくらいなんだってんだ。
倫理観ぶち壊れ過ぎでしょ。
そうして冒頭にいたる、という訳であった。