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ある晩のこと。アニ・レオンハートは夢を見た。一人の少女の一生の夢だった。
その少女は幼い頃に、異民族によって両親を殺された。
その少女は奴隷として、人生の殆どの時間を過ごした。
その少女はある出来心から、王の家畜の豚を逃がしてやった。
その少女は王の怒りを買い、追放され、矢を射かけられた。
その少女は、名をユミルといった。
始祖ユミル。彼女の夢を、アニ・レオンハートは壁内に潜入してから毎晩のように見るようになった。
夢は常に断片的で、かつ苦痛に満ち溢れていて、その全貌を一度に整理することなど不可能だった。
ただ、一つの例外…今や壁内人類から書記長閣下と呼ばれている男、ヨシフ・ヴェトーとの儚くも濃密な蜜月の夢を除いて。
アニは毎日のように夢を見るうちに、現実と夢の世界の区別がつかなくなっていくような気さえした。
そして今日もまた、アニは夢を見た。
少女の夢には二種類あり、一つはただ只管に苦痛に満ちた記憶であり、もう一つはこの上なく幸福な、安らぎを与えてくれる夢だった。
◇
「シーナ、ローゼ、マリア。これから私が言うことをよく覚えておきなさい」
「私は間もなく死ぬでしょう。そして、王は私の体を切り刻み、それを貴女達に食べさせるでしょう」
「食べさせられた貴女達には、私がもつありとあらゆる巨人の力が継承されることでしょう…」
「でもね、安心して欲しいの。貴女達は必ず自由を掴めるのだから」
そう言って、始祖ユミルは長女シーナの頭を撫でた。
「でもね、安心して欲しいの。貴女達の父親はあの王ではないのだから」
そう言って、始祖ユミルは次女ローゼの額に唇を落とした。
「でもね、安心して欲しいの。貴女達の子孫もまた、一滴として王の血を受け継ぐことはないのだから」
そう言って、始祖ユミルは三女マリアを抱きしめた。
「安心して巨人の力を連綿と継承なさい。そして、あの人の血を残し続けるのです。私が愛したあの人…私のお腹の中で眠る、愛しいコーバの血を」
「私は私を愛してくれた唯一の人を食べた」
「私は私が愛した唯一のヒトを食べた」
「けれど、それは決して捕食なんかじゃないの。未来へと、あの人が未来で幸福を掴むための仕方ない手段だったの」
「いずれ、然るべき未来でコーバは、あの人は目覚める。あの人はその時を、私の遺す道を通じて待ち続けているだけなのだから」
「私はあの人の血を、エルディアの血と偽って遺し続けるのよ」
「愛しい私の娘たち、貴女達には、あの人の、コーバの血が流れているの」
「だから、その血を絶やさないで。その血を遺し続けてちょうだい。いずれ彼が目覚めるその時まで…」
「マーレもエルディアも…心底どうでもいいの。私はあの人を、私なりに愛しぬくだけ。彼が、彼なりに私を愛しぬいてくれたように」
「彼は何時だって私を守ってくれた。庇ってくれた。隣に居てくれた。共に逃げてくれた」
「豚を逃がした罰を肩代わりしてくれた。追放され、矢を射かけられても身を挺して守ってくれた、忌々しい王からの凌辱を受けてさえ…貴方は私を見捨てなかった」
「だから喰った。私は貴方を食い殺し、素知らぬ顔でエルディアの王のために働いて見せた」
「全てはエルディア人を絶滅させるために!全ては貴方の血を遺し続けるために!遠き未来に、貴方が自由に生きられる世界を築くために!」
「だからお願い娘たち、お母さんのことを残さず食べて頂戴ね?」
◇
深夜の練兵場の片隅で、アニは地に這いつくばっていた。官舎から抜け出して、悪い夢見に苛まれて、止まらぬ嘔吐感に悩まされて、眼には涙を浮かべていた。
憐憫の涙。そして、感動の涙を。
「ふ、ふふふ…馬鹿らしい、くだらない…何がマーレの戦士だ…うぷ、おえぇッ…」
連日連夜、彼女の精神と肉体を、謎の少女の意志が蝕んでいた。
少女はアニに語り掛けるのだ。
「その身も心も、そのすべてをコーバに捧げよ」と。
「マーレでも、エルディアにでもなく、コーバ一人に絶対の忠誠を誓え」と。
「私がそうだったように、貴女も運命の奴隷なのだ」と。
そして「その鎖をコーバから断ち切って貰いなさい」と。
アニは困惑せずにはいられなかった。
だが、毎日のように見る夢に、時に安らぎさえ感じることがあったことも事実だった。
「コーバ」「コーバ」「コーバ」……。
彼女の頭の中は、一人の男のことで満たされていた。今にも溢れだしそうな何か。
このまま、身を任せてしまえればどれだけよかったか…。
いいや、だからこそ、アニは認めることが出来なかった。
それにしてもどうして自分ばかり…と、アニはそう思われて仕方がなかった。
男か女か、その違いなのだろうか?
同郷のライナーとベルトルトには、自身が体験している苦痛と法悦による心身の摩耗は見られなかった。
アニの予想が真に近いかは置いておくとして、彼女は最早限界だった。
脂汗がしたたり落ち、月下に今一度嗚咽がこだました。
◇
アニが官舎に戻ろうと立ち上がった時だった。背後から声が掛けられた。
「どうやらお困りのようだが…なぁ、少しあたしの力を借りてみるってのはどうだい?」
限界のアニの前に現れたのは、そばかすが個性的な親衛隊幼年部の同期、確かユミルといったはずだ。
ユミルの登場に、覚束ない足腰に喝を入れて、その誇りともいえる格闘技の構えをとったアニだったが、ユミルには身構える様子もなく、飄々と、寧ろアニが落ち着くのを待つ余裕さえ見せた。
此処で争っても仕方がないことくらい、アニにも理解できた。この場で突然にライナーとベルトルトが乱入しさえすれば、また違ったかもしれないが…。それは期待できそうになかった。
ユミルは、アニが落ち着いたのを見計らって、声を掛けた。
「アンタ、『夢』に苦しんでるんだろう?」
「なんで知ってる…って聞いても答えてくれないか」
「いいや、そこは答えてあげるさ…信用を、まずはね」
「…それで、どうして『夢』のことを?」
アニが怪訝そうに尋ねると、ユミルは月を仰ぎながら言った。
「アンタと同じだからだよ…あたしはただ、一足先に自由にしてもらっただけでね」
同じ、という言葉にアニは反応を見せなかったが、内心では焦燥に駆られていた。普段なら祈らないライナーとベルトルトの乱入で、この場をうやむやにしてしまいたいと願う程度には。
ユミルは、アニのそんな内心を知ってか知らずか、いかに自分たちが同じなのかについて語り始めた。
「あたしとアンタは…正確にはアンタたちは一緒さ。まず壁の外から来たっていう点で同じさね」
「次に、あたしもアンタも女で、その体に巨人の力を宿してる…ここが、一番重要っちゃ重要だね」
「さて、そんな共通点に恵まれたあたしらだが、一つだけあたしとアンタで違うことがある…さて、何だと思う?」
ユミルの言葉に、アニは首を傾げた。今にも、また胃袋の中身を空にする勢いで吐きそうだった。何かが、何か致命的なことが、今や目の前で聳えていることに、アニは嫌々ながらも理解しなければならなかった。
「私には、分からないね」
「本当に?」
「本当さ。是非とも…」
そこでアニは一歩立ち止まった。此処が運命の分かれ道であると、彼女の直感が囁いていたからだ。
だが、夢の苦痛以上に、夢の快楽への興味が勝った。
アニは言った。
「是非とも、ご教示願いたいね…」
「ふふ、ご教示ね、後からになって悔いのない選択肢を採ればと、嘆くのは遅いからね…アンタが賢明であたしも嬉しいよ」
アニの返答に、ユミルは満足げだった。
そして、明後日の方向に向けて声を掛けた。
「ヒストリア!もう大丈夫だぜ!同志コーバの下へ、連れていってやれよ」
そして、去り際、アニの耳元でこうささやいた。
「あたしは運命から解放された。第三の道ってやつを、与えられてね」
「…アニ・レオンハート…あとはアンタ次第だぜ」
官舎へ向かうユミルの背中を見送ってから、アニは黒革の外套に身を包んだ、仕事着姿のヒストリアと向き合った。
◇
ユミルから入れ替わる形で現れたのは、直属の上官に当たる、ヒストリア・レイス親衛隊幼年部総長その人だった。
黒尽くめのお堅い制服姿で、彼女は現れるなり、水の入った水筒をアニに手渡した。
「この水で、まずは口を漱ぎ、喉を潤してください。話はそれからです」
「私も、そして同志コーバも、貴女の意志を尊重するつもりです…よく考えて、悔いなき選択を…」
そして、ひと心地ついたアニに向けて、手を差し伸べた。
「いいよ、一人で立てるさ」
「それは結構…私の後についてきてください…ご案内します」
「少し歩くのが早いかもしれませんが悪しからず、同志コーバを待たせておりますので」
アニは手を取る事こそなかったが、軽く会釈すると、従容としてヒストリアの後を追った。
◇
「おぉ、よく来たね、同志アニ…アニ・レオンハート君」
アニがヒストリアに導かれた先で出会ったのは、壁内人類の絶対的頂点、書記長閣下ことヨシフ・ヴェトーだった。
「あぁ、安心したまえ。ライナー君もベルトルト君も元気にしているよ」
「さて、早速だが、君には三つの選択肢がある。一つはエルディア人として自由になる事。二つ目はマーレに縛られたまま生きること、そして三つめは、私にその鎖を断ち切らせ、自らの運命を選び取る道…の三つの選択肢が」
「アニ、賢明な君に判断は任せよう。ただし、一度切り。見逃すのは一度きりだということを覚えておくといい」
ヨシフの言葉に、アニは眼を瞑り、熟慮しているようだった。
長いような短い時間が過ぎて、アニは口を開いた。
「正直、アンタが何者なのか、どうだっていい…でも、この呪いみたいな人生から救ってくれるって言うなら、もしも、そのことが真実なら、私は喜んでこの身を、心を、アンタに捧げたっていい」
「さぁ、私は自分の運命を選んだ。次はアンタの番だ」
そう言うや、アニは隠し持っていたリング状の刃物で指を切り、血を滴らせた。
何時でも巨人化できるぞ、という脅しだった。彼女なりのけじめであり、覚悟を示したのだ。
コーバの執務室の毛足の長い絨毯が赤黒く染まっていく中、コーバは泰然自若として、寧ろ心底愛おしいものを見つめるような微笑を浮かべた。
そして、ゆっくりとアニの傍まで向かうと、彼女の手を取り、それから自然な動作で己の懐へと招き入れた。
コーバはその全身を愛情で満たして、アニを抱いた。そして、アニの奥深くで声なき声を上げ続ける、最愛の人との言葉なき対話を重ねた。
アニは突然に抱きしめられたというのに、それを拒むことのできなかった自分自身に驚きを覚え、と同時に先ほどのユミルや、ヒストリアが男に向ける熱烈な感情を、その一端を理解した。
◇
コーバがアニを抱きしめてから数分後、二人はゆっくりと体を離した。
コーバの手が完全にアニの下から離れる頃、アニは驚愕と感動に打ち震えていた。
直感的に理解できてしまったのだ。自分を苛んできた悲劇的運命に終止符が打たれたことを。短すぎる寿命の呪縛から、赦されて、解放されたことを。
アニは理解せずにはいられなかった。
そして、これまで何故自分が夢に苛まれ、時に癒しと救いを与えられてきたのかさえも理解してしまった。
最早、アニはマーレの戦士ではなかった。
それは、服従と崇拝の証だった。
ひざを折り、祈るような心地で、アニは静かに目の前のコーバへと懺悔を始めた。
「同志コーバ…私には秘密があります。いいえ、今日この時まで秘密がありました。私は壁外から、貴方たちを殺しつくすために送り込まれた尖兵の一員だったのです。ですが、それも今日で終わりにします…巨人の力を身に宿す、その真の目的がはっきりとしたからです。」
「…遠くない未来、死ぬ運命だった私を救ってくれたことに対して、私は私の心と体を捧げます」
「同志コーバ…どうか、私を貴方のお傍に」
「私は貴方の隣で、この残酷な世界が崩れていく様を見ていたい」
◇
古今、秘密の共有程に結束を強める手段は存在しないだろう。
今晩、また一つコーバは秘密を共有した。相手はアニ・レオンハート。
親衛隊幼年部所属で、行く行くはコーバの
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